第二十一回 忠臣蔵 天の巻・地の巻


ほぼ一ヶ月ぶりの観賞記更新でございます。
第21回目はマキノ正博監督「忠臣蔵 天の巻・地の巻」(昭和13年・日活)です。
では粗筋からどうぞ。



勅旨供応役に任ぜられた浅野内匠頭(片岡千恵蔵)は渡した袖の下の少なさのために
高家筆頭の吉良上野介(山本嘉一)に執拗な嫌がらせを受けていた。
勅旨の宿泊する寺院の畳替えや料理のことなど何とか住ました内匠頭だったが、
勅旨登城のその当日、最大の失敗をしてしまう。
将軍拝謁の時間に遅れてしまったのだ。吉良の教えた時刻が間違っていたためである。

憤った内匠頭は廊下で吉良に詰め寄る。
しかし吉良は相手にせず、腹を立てる内匠頭を嘲笑し、その場を後にする。
とうとう堪忍できなくなった内匠頭は刃傷に及んでしまう。
内匠頭は即日切腹、浅野家は断絶と決まった。

その知らせを聞いた浅野家城代家老、大石内蔵助(阪東妻三郎)は
藩士を城に集め今後の策を議する。
殉死追腹、いや城を枕に討死せん、などと諸説紛々足るものであったが、
大石の胸のうちには「仇討」の二文字が浮き上がっていた。



オーソドックスな忠臣蔵です。
この作品は日活30周年、そしてマキノ省三監督没10周年を記念して作られた映画です。
そのため、出演する俳優陣は当時日活で活躍していた人の中でも
マキノ門下の人々が多く出演しています。

作品としては、素晴らしいものです。
十九回に紹介した「実録忠臣蔵」をサイレント忠臣蔵の最高傑作とするなら
この作品はトーキーでの最高傑作といっていいでしょう。
では場面ごとに見ていきましょう。

まずは定番名場面「吉良のいじめ」です。
忠臣蔵の発端は吉良上野介の浅野に対するいじめに発端を発するのですが、
この作品のいじめようは他の作品と比べても酷いものです。
畳替えや衣服の件などはまあいいとしても、
酷いのは勅旨登城の時刻を遅く浅野に伝えるのです。

それでもって、詰め寄る浅野を見て周りの同役に
「おお、おお御覧なされ。このように顔だけはお役目大事と言っておられるが
 腹の中ではあのように軽んじておるのじゃ。恐ろしい恐ろしいのぉ」
などと白々しくいうのです。
本当にどの吉良よりも憎たらしい爺さんとしてかかれています。

次はそれに続く「刃傷・松の廊下」です。
これは去っていく吉良とその同輩5人くらいを抜き身を持って浅野が追っていくのですが、
これがスピード感があってまことによろしい。
吉良らの隊形が吉良を先頭にして魚鱗の形になっているので
追い抜いていく浅野を見て驚く同輩の姿が効果的であります。

よくこの場面ではコマ送りやスローを使う場合があるのですが、
この作品では一切そういうものを使っておりません。
それだけに前述したスピード感も出て、迫力も立派に出ていました。

今度はこれも名場面「立花左近の勧進帳」です。
立花左近は片岡千恵蔵が演じました。二役ですね。
旅籠の座敷で向かい合う阪妻の大石と千恵蔵の左近、二大スターの対決です。
途中音声が長唄だか謡だかに切り替わって、それがちょっと長いようにも感じましたが、
見ごたえのあるシーンでした。

最後に、立花が折れていいます。
「そうか、おぬしこそまことの立花左近じゃ。」
普通の作品ならここで終わりですが、この作品ではまだ続きます。
「それがしは立花左近を騙っておった。
それがしの実の名は播州浅野家家老大石内蔵助にござる」
言っちゃうんですよ、立花のほうが我は大石なりと。
それでまだ話を終えず、そのまま、
この道中は吉良を打つ為江戸に上るためのもの云々と
まるで見透かしているのです。

そして部屋を立つ時にもう一言。
「これはもう要らぬものにござる。焼き捨てるなりしてくだされい。」
と、立花左近の身分証明書を置いていきます。
この一連の勧進帳シーンは、本当は作品最大の見せ場だったのかもしれません。
それだけの映像でした。

実のところ、作品自体を見たのが先月の中ごろで、
もう一月半以上たってからレビューを書いております。
そのため、今回のレビューはちょっとうろ覚えの部分もあると思います。
いろいろと書いたメモがあったのですが、下宿先へおいたまま帰省してしまったようで
記憶をたどって書いてしまいました。
何か不備がありましたらどうぞご容赦ください。


蔵松観賞記に戻る