第二十三回 多羅尾伴内 七つの顔の男だぜ


第二十三回は片岡千恵蔵主演『多羅尾伴内 七つの顔の男だぜ』(昭和35年・東映)です。
では恒例によりまして、粗筋からお読みください。



貿易会社社長令嬢・馬場きみ子(中原ひとみ)が何者かに誘拐された。
報告を受けた蒲田警察署は大沢警部(山形勲)らを中心に捜査を開始する。
そこへ現れたのは大沢とは旧知の間柄の探偵、多羅尾伴内(片岡千恵蔵)であった。

多羅尾は持前の変装でドライブクラブを経営している宮下(東野英冶郎)や
盛り場のボス・星村(進藤英太郎)らに近づき、事件の真相を探る。



片岡千恵蔵屈指の現代劇、多羅尾伴内シリーズです。
解説の前にこのシリーズが作られた背景をちょっとだけ説明いたします。

太平洋戦争が終わりまして、日本はアメリカらに占領されました。
その中心となったのがGHQ(連合国軍総司令部)だったと言うのは皆さんご存知かと思います。
そして、思想統制のために、新聞だとかのメディアが色々検閲を受けるようになったわけです。
映画もまた同じくで、こと時代劇に関してはとんでもない通達が出されました。
すなわち、「チャンバラ禁止令」です。
どうもGHQのお歴々には、カタナが戦中の軍国主義を喚起させるように思えたらしく、
また、時代劇には仇討ちの話も多かったので、占領に悪影響を及ぼすとされたようです。

そういうことで、旧来のチャンバラ時代劇スターは仕事がなくなってしまいました。
なにしろカタナが使えないのですから。
そういう状況で、片岡千恵蔵を眠らせておくのはもったいないという意図の下作られたのが
二丁拳銃の探偵、「多羅尾伴内」だったのです。

さて、作品に戻りましょう。
確かに現代劇なんですが、上のような経緯で作られた作品ですのでどうも時代劇くさいのですね。
まず、出ている役者さんが山形勲や進藤英太郎、阿部九州男など、
時代劇からうつって来た人ばかり。
そのまま、水戸黄門でも出来そうな顔ぶれです。

粗筋の中にも書いていますが、多羅尾伴内作品の魅力に「変装」があります。
せっかくですので、「七つの〜」の決め台詞を引用して紹介しましょう。
今回の変装です。

 「或る時は多羅尾伴内。
  或る時は片目の運転手。
  或る時は香港丸の船員。
  また或る時は手品好きのキザな紳士。
  或る時は中国の大富豪。
  また或る時は背虫の男。
  
  
(変装を剥ぎ取る)

  しかしてその実態は、
  正義と真実の人、藤村大造だッ!!!」


悪の親玉が、「貴様、何者だッ!」と叫ぶと、こうやって自己紹介するんですよ。
わざわざ相手の目の前で。
敵はその間、神妙に聞いています。もちろん発砲なんかしません。
どうです、時代劇そのまんまでしょう。

あとは、持前の二丁拳銃を駆使しての銃撃戦に突入するのですが、
これがどうもサマにならないのですよ。腰の入れ方が刀の構えみたいなのです。

とりあえず、こういうお話です。
色々書きましたけれど、面白い作品ですから、機会があったらどうぞご覧ください。


最後に、これは余談ですが、決め台詞で「藤村大造だッ」のところが
近頃どうも、「杉村タイゾーだッ」に聞こえてしまいます。
いけませんな。


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