第三十八回  投げ唄左門二番手柄 釣天井の髑髏男


久々の更新でございます。最近毎回こういう始まりでなんともお恥ずかしい限りです。
さて、今回は黒川弥太郎主演「投げ唄左門二番手柄 釣天井の髑髏男」(昭和29年・大映)です。
長いタイトルですね。初めて二段組にしました。
ともかくもいつものようにあらすじからどうぞ。



深夜、漆黒の闇の中若い娘(入江たか子)が何者かに殺められた。
娘の体には大小さまざまな傷が付けられており、それがしの原因であった。
死体の検分をしたのは、目明し卯三郎(東良之助)と弥七(水原洋一)。
弥七はもと卯三郎の子分であったがその恩を忘れ、病気で体が利かなくなった卯三郎を見限り一人立ちをしている。
傷の原因について、2人の目明しの意見は異なっていた。
卯三郎は何者か人間による他殺。弥七はというと、かまいたちが原因であるとした。

さて、卯三郎と知り合いの植木屋・植亀(三上哲)の居候に立花左門(黒川弥太郎)という浪人がいる。
左門は謎のある人物であったが、こういう事件には明確な推理を示す者であった。
その左門は娘の傷の原因について卯三郎の意見に同意する。

ある日左門は雑踏の中に、ひときわ意味ありげにたたずむ一人の娘を見つける。
娘の名ははお千代(若杉曜子)。父親は大工の治兵衛(南部彰三)といい、それが仕事に出たまま帰ってこないという。
仕事は公儀作事方・甲良兵庫(葛木香一)よりもたらされたもので、治兵衛を含む16人を雇ったまま、
期限である3ヶ月を過ぎても彼らは帰って来ず、家族にも行き先も知らされないとのこと。

殺された娘はこのことを町奉行所へ訴える矢先であったのだ。
その日の晩、大工の家族たちが集っているところに、仕事に行った16人のうちの一人が血だらけにになって帰ってきた。
しかし、男はその家の門前で何者かに殺されてしまった。
駆けつけた左門は彼の懐から「江戸川渡し証の札」を見つける。
その渡し場の先にあるのは関宿。左門は大工たちはそこへ連れて行かれたのだと確信する。

投げ唄左門の推理はこれからどのような冴えを示すのか。
それはこの先の話である。



やはりネタバレはいかんだろう、ということでこういう終わり方にしました。
作品自体はちゃんと事件解決までありますのでご心配なく。
しかし、下の解説にはことによるとネタバレが含まれます。毎度のことですが。

さて、本作の主人公・立花左門を演じるのは黒川弥太郎。
蔵松敷兵ヱが思うにこれ以上の二枚目はそうないのではというほど整った顔立ちです。
いわゆる役者顔とでもいいましょうか、造りがね、いいんですよ。
あくまで私の基準ですから、そこは皆さんいいように考えていただければよろしゅうございますが。

では本編の内容に移りましょう。
あらすじでもお分かりになりますように、本作は捕物帳形式です。
探偵・立花左門の推理をわれわれ観客は見ていくわけですね。
事件自体は至極単純で、ミステリー性というのはそこまでではありません。
どちらかというと、怪奇性、カタカナで言うところのオカルトの方面が強いですかね。
題名に「髑髏」なんて付くくらいですし。

とはいうものの、べつにお化けが犯人だったとか、宇宙人がレーザー光線で攻撃するとかそうはいきません。
ちゃんと犯人は人間で、地球人で、髷を乗っけた日本人です。

釣天井という題名が示しますように、釣天井が出てきます。
こういえば治兵衛さんたちが、なにを作らされていたかお分かりになるでしょう。
そういうアブナイものを作らされていたわけですから、定石どおり地下牢に捕まえておきます。
さて、釣天井は時代劇においてどういうときに使われるか。
通でいらっしゃる皆さん方ならもうお分かりのことと存じます。

そうです、将軍暗殺です。
釣天井といえば将軍暗殺です。「伊東に行くならハトヤ」以上に明白です。電話番号はありませんが。
モチーフとなったのは、やはり本田正純の宇都宮城の釣天井事件でしょうね。
将軍・家光暗殺を企てたというあれです。
あの事件は実際どうだったんですかね。私も残念ながらその場にいなかったもので真相を知らないんですよ。

それはそれとして、大工ものの典型としてカラクリがあります。
釣天井なんて忙しいものを作りながらどこにそんなものを作る暇があるのか、などと思いますが、
こういう事件だと、抜け穴だとか逃げるための妙なカラクリなんかを作ってるんですよ。大工さんは。
この作品も例外ではなく、立派な抜け穴が作ってあります。
造りが立派過ぎて画面から見る分には一発でバレるじゃろうが、と思わせるほどの造りです。
周りとの切れ目もはっきり見えますし。
釣天井の間の壁(屏風?)の岩の絵が動いてそこにポッカリ抜け穴が、というあれです。

最後に、投げ唄左門について。
投げ唄です。左門さんが投げ歌を歌います。つまり黒川弥太郎が歌っています。
上手いかどうかは私は何もいいません。
ええ。

面白い作品ですよ。機会があったらご覧になられても損はしない作品だと思います。
では今回はこれで。

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