破れ太鼓


第五回は阪東妻三郎主演「破れ太鼓」(昭和24年・松竹)です。
現代劇の中では、蔵松は最高傑作だと思っております。
では、まずは粗筋から。



主人公津田軍平(阪東)は裸一貫から努力して財を成し、今では田園調布の豪邸に住む土建屋の社長である。
軍平は家でも会社でも威張り散らし、家族はその暴君ぶりに辟易していた。
しかし会社は左前で金策がつかず、長女を資産家の息子に嫁にやって融通してもらおうと考えていた。
しかし、娘はその結婚を嫌がり、勝手に婚約を破棄してしまう。
怒った軍平は手を上げてしまい、長女は家を出る。



阪妻の松竹移籍第一作目の作品です。監督は名匠、木下恵介。
さて、この作品の題名でもある「破れ太鼓」ですが、これは作中にでてくる歌の名前で、頑固親父を諷したものです。
作中でこれを作り、演奏し歌うのは木下忠司。
この名前を聞いてピンときた方は、東映物をよく御覧になっておられるのではないでしょうか。
そうです、「水戸黄門」など東映時代劇の音楽の多くはこの木下忠司氏が作曲されているのです。
しかも、忠司氏は本作監督である木下恵介氏の実弟であります。

本作でも兄弟の連携はすばらしく、画面と音楽が非常にあっているのです。
「破れ太鼓」という曲は普通に聞くと明るく賑やかな曲なのですが、
同じ曲でもその時々に応じてなにやら物悲しく聞こえたり切なく聞こえたりするのです。

また、本作は阪妻には珍しい現代喜劇です。『小説阪東妻三郎』(高橋治 著)によると、
映画封切後自分でも未知の領域のジャンルだった為か自分で映画館に見に行くことが出来ず、
息子の高廣(田村高廣)に自分の代わりに行かせたということです。

阪妻独特の表情の豊かさと、頑固親父の空回りが織り成す笑いは絶妙のものです。
ぜひ機会がありましたら御覧になられるとよいかと存じます。

蔵松鑑賞記へ戻る