二つの忠臣蔵


少し前までは師走も中盤になると、忠臣蔵がよく放映されたものです。
皆さん御存知の忠臣蔵ですが、大きな流れを見ると、
【史実型】と【仮名手本忠臣蔵型】の二種類のものがあるのです。

今回は、この二つの違いについてご説明申し上げます。

ポイント1:吉良上野介、いじめの動機
忠臣蔵において、その発端は『吉良上野介の浅野へのいじめ』であります。
この動機が、型の違いによって大きく変わってくるのです。

【史実型】
まず史実型ではどうか。
この場合は、浅野家からの袖の下、今でいうところの賄賂が少なかったことが
いじめの原因とされています。

ちなみに袖の下の内容は作品によってさまざまですが、
なかでも、かつお節一本とか白布一反というのが多いですね。

【仮名手本忠臣蔵型】
これはですね、江戸時代に「竹田出雲」という人が浄瑠璃用に書いた作品で、
おもに浄瑠璃や歌舞伎などで使われます。
もちろん映画やテレビ時代劇でも使われることはあります。

それで、こっち側の動機ですが、横恋慕です。
吉良上野介が浅野内匠頭の正室・あぐりの方に手を出そうとするわけですね。
この場合、吉良は好色な助平爺いとして描かれます。

あぐりの方としては、内匠頭もいますし、そんな爺さんは嫌ですから、
言い寄ってきても当然、振ります。
しかし、吉良としてはそれが面白くない。男の面目もつぶれてしもうた。
こうなってくると、今度は亭主のほうが憎らしくなってきます。
さぁ、いじめて、いじめて、いじめぬいてやろう。
と、こういうことになっています。


ポイント2:殿中にござるは誰?
松の廊下の場面、吉良に斬りつけた浅野内匠頭。
えらいこっちゃと、「殿中にござる、殿中にござる」と言いながら
浅野を止めるこの男、これがポイントの二つ目です。

【史実型】
梶川与惣兵衛と言う旗本が止めに入ります。
実際にいた人物で、当時は江戸城留守居役と言う役目についていたそうです。
ちなみに録は700石。

松の廊下事件の貴重な資料となっている
『梶川与惣兵衛日記』というのを書き残している人物でもあります。

【仮名手本忠臣蔵型】
加古川本蔵という人物で、創作された人です。
設定では桃井若狭守の家老ということになっています。
とはいっても、作品によって、脇坂淡路守の家来になったりと、
創作された人物だけに、仕える先は変わることも多いです。


ポイント3:勘平・おかるの有無
歌舞伎では感動のシーン、萱野勘平・おかるの悲恋の場面です。
歌舞伎で言えば、6段目ですね。
場面についてかいつまんで書きますと、

ある夜、猪撃ちに出かけていた勘平は誤って人を撃ってしまう。
折も折、彼は討入のための資金に困っており、死体の懐から50両を盗んでしまった。
一夜明けて、恋仲のおかるの家に行くと、彼女は祇園へ売られていくところであった。
おかるの父が勘平のため、おかるを50両で売ったというのだ。
しかし父は帰ってこない。

ふと気づいた勘平、もしや昨日撃ったのはおかるの父であったのか。
金額も同じ50両。
おかるが連れて行かれた後、
おかるの母は勘平のもっている財布が血に染まっているのを見咎める。
さては夫を撃ったのはこの勘平が金欲しさにやったことなのか。

自分が殺してしまったと思い込んだ勘平、
申し訳なさのあまり遂に切腹して果ててしまった。
しかし、後日よくよく死体を改めてみると、傷は鉄砲ではなく刀傷であった。
おかるの父は強盗にやられ、勘平はその強盗を撃っていたのだった。

と、こんなストーリーです。

【史実型】
これが史実版だと、ばっさり無いことが多いです。
あったとしてもあまり大きくは取り上げられず、数あるエピソードの一つ
と言う程度にしか扱われません。

【仮名手本忠臣蔵型】
大きいですよ。
元々歌舞伎なんかでは人気の場面ですから、
見せ場の中の見せ場として描かれます。



番外:第三の忠臣蔵
ここまで、【史実型】と【仮名手本忠臣蔵型】の二つの型について説明してきました。
しかし、最近ではこの二つに収まりきらない、第三の忠臣蔵がでてまいりました。

名づけて、【吉良被害者型】です。
これまで、「吉良は浅野をいじめる悪い奴」として描かれてきましたが、
この型では、吉良は単なる被害者である、という筋書きになります。

吉良としてはいじめたつもりは毛頭無く、
お坊ちゃんの浅野が吉良の指導を、勝手に自分をいじめていると勘違いして、
我慢できずに刃傷へ、今の言葉でいうとキレたと言うことですね。

大石らというと、目的は主君の仇討ちというよりも、
幕府に対する反抗と言う意味で吉良の命を狙っていくと言う形。

結局、吉良としても自分が悪いわけでもないのに反幕府の道具として首を取られるという、
なんともやりきれない感じで流れていきます。
吉良さんとしては死に損だったというわけです。

大河ドラマの『元禄繚乱』に少しこの要素が入っていました。


二つの忠臣蔵、いかがでしたでしょうか。
この情報が皆さんが時代劇を見る上で、少しでもお役に立てれば幸いでございます。


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