次郎長入門


来る2006年6月1日より、NHKにて次郎長ものを放送するそうです。
今回はそれを見る上で、次郎長初心者でも分かり易く観られる様に、説明をいたします。
最初に断っておきますが、ここでご説明するのはあくまで一般的な次郎長像です。
今度放送される作品とは設定その他が違うかも解りませんが、ご了承ください。

【時代背景】
次郎長が活躍した時代、それは幕末から明治にかけてです。
安政の大獄で吉田松陰が捕まったり、
京では薩長の維新志士や新撰組、鞍馬天狗らがやり合ってたりしていた時期でございます。

そういうときに、駿河、今の静岡県ですが、の清水港に住む
山本長五郎、通称・清水の次郎長というやくざ者が幅を利かせていたというわけです。
この清水は、例のちびまる子ちゃんの舞台である、あの清水です。
今頃のは知りませんが、昔のぶんでは台詞の端々に「次郎長」という単語が出ていました。


【重要人物】

次郎長一家

山本長五郎(清水次郎長)
 物語の主役(たぶん)です。
 清水一家の親分、トップに位置する人物です。
 やくざはやくざなりに一家の範囲を広げていきました。
 学問に関してはたいしたことはなかったようで、
 かなの読み書きがようやくできる程度だったそうです。

 晩年は、色々と清水港の開拓に精を出したようで、
 富士山のふもとの開墾や、英語教育なんかもやっていたようです。

 ちなみにこの次郎長が他界した明治26年は、
 かの「きんさん・ぎんさん」が生まれた年でもあります。
 
大政
 一般には、清水一家のナンバー2とされている人物です。
 時代劇や浪曲では、元々は武士で、「武家を嫌ってやくざになった」設定になっています。
 とは言うものの実際の大政は廻船問屋の長男だったそうで、
 田舎相撲からやくざの道へ踏み込んだようです。

 時代劇では設定上武家の出ですから、学問も一家の中では一通りできます。
 親分の代理から、小難しい手紙を書いたりと、重宝されています。

小政
 大きい大政に対して、小さいほうの政です。
 大政に比べると、あまり目立ちませんが居合いの達人らしいです。

森の石松
 清水一家子分衆のなかでは知名度も随一の人物です。
 一般的なイメージとしては、片目がやられていて、その上、吃りであるとされています。
 短気で喧嘩っ早く、また、大酒のみであります。
 例の、「スシを食いねえ」という言葉を最初に喋らされた人物です。

 ちなみに、ガッツ石松の「石松」の部分はこの森の石松からとられたものです。
 リングに上がる時の渡世人衣装も同じくです。

お蝶(初代)
 次郎長の妻です。
 次郎長の兄弟分である、江尻の大熊の妹であります。
 実兄もやくざ者ということで、そういう環境になれており、
 姐さんとして、立派に一家を切り盛りしていたようです。
 しかし、身体がそれほど強くない質だったようで、
 兇状旅のさなか、名古屋で病死してしまいます。
 
お蝶(二代目)
 次郎長の2番目(実際には3番目)の妻です。
 この人はまた、色々と説があるので詳しいことは解らないのですが、
 「お蝶」という名前は次郎長と結婚する際に、わざわざ改名したもののようです。
 多分、次郎長がさせたのでしょうから初代のお蝶さんは、よほどいいお嫁さんだったのでしょう。
 
 このあと、もう一人三代目お蝶もいるのですが、時代劇とはあまり関係ないので割愛いたします。

各地の親分衆
 
黒駒の勝蔵
 次郎長の最大のライバル。
 次郎長一家とは色々な喧嘩で刃を合わせます。
 子分に「大岩・小岩」という、大政・小政にあわせたようなのがおります。
 明治維新のときに例の「赤報隊」に入隊し官軍側で戦ったのですが、
 明治になってから、やくざ時代の行状で処刑されました。

都田の三兄弟
 時代劇や講談なんかでは、「都鳥三兄弟」というほうが多いかもしれません。
 まぁ、どっちでもいいです。吉兵衛・常吉・梅吉の三兄弟ですね。
 森の石松の命を奪った張本人です。

その他

山岡鉄舟
 簡単に言えば、明治新政府のお偉いさんです。
 政治屋さんですが、剣も相当に遣ったようで、
 次郎長と打ち解けたのもそういった面があったからかも知れません。
 次郎長晩年の色々な事業を影ながら助けたようです。

天田五郎
 次郎長の養子だった人。
 養子だったのですが、ある公家に就職が決まった時に養子縁組を解消しました。
 ちょうど次郎長が牢に入っていた時期と重なったので、
 公家への体裁その他を気にしたのでしょう。
 多くの次郎長物語の元になっている、『東海遊侠伝』を書き遺した人物でもあります。


【総括】
江戸幕末から明治にかけて生きた博徒、清水の次郎長。
なんといってもやくざですから、やはり血なまぐささからは抜けられません。
しかし、時代劇は描き方次第でどうにでも化けます。
長いこと、日本の時代劇界で多くの次郎長作品が作られたのも事実であります。
今度のNHKでどのような次郎長を描くのかは分かりませんが、
久方ぶりの次郎長物語、期待したいものでございます。

最後に、この情報が皆様のお役に立てれば幸いです。


【参考資料】
・黒鉄ヒロシ(2006) 『清水の次郎長〈上〉清水の次郎長〈下〉』  PHP文庫
・村上元三(1990)  『次郎長三国志』 春陽堂書店
・高橋敏(2003)   『清水次郎長と幕末維新―『東海遊侠伝』の世界―』 
                                           岩波書店
・日本の芸能シリーズ・浪曲6〜10 広沢虎造『次郎長外伝』 ダイソー


時代劇細見へ戻る