第四回 剣客商売


テレビ見聞話第四回は各方面で人気のある『剣客商売』です。
蔵松敷兵ヱも初めて見た池波ものはこの作品でした。
とりあえず、シリーズ別に分けてみていきましょう。

加藤剛 版
まずは大岡越前でおなじみの加藤剛が主役を張ったシリーズです。
このシリーズは私が中学生の頃、大体平成11年ごろCSファミリー劇場で放送されていたのを見ました。
オリジナルは昭和48年当たりに放送されました。

加藤剛が主役といっても、秋山小兵衛役ではありません。
小兵衛の倅、大治郎役です。小兵衛を演じたのは山形勲でした。
ついでですので、三冬役は音無美紀子でございました。

このシリーズで印象に残っているのは、おはるが小兵衛の耳かきをしているシーンです。
大治郎が鐘ヶ淵へ訪ねていくと、縁側でやっているんですな。
小兵衛は「お前の母御は耳くそ掘りの名人じゃ」なんて言ったりしています。

これを見たのは藤田まこと版を堪能した後でしたので、ちょっと違和感は覚えましたね。
山形勲と言うともっとお硬いイメージがありますし。
ちなみにこれで大治郎を演じた加藤剛は、自分の息子に大治郎と名づけたそうです。


中村又五郎 版
これはシリーズというより、何作かスペシャルで作られたものです。大治郎は上と同じ加藤剛。
この中村又五郎という人は歌舞伎の人ですが、何を隠そう秋山小兵衛のモデルになった人物です。
確かに小兵衛の飄々としたイメージや背の小ささなんかもぴったりでした。
全体としてはまずまず。ちょっとしたスペシャル版でした。


藤田まこと 版
このシリーズが現行のというか、最も新しいシリーズです。
蔵松が最初に見たのもこのシリーズですし、一番好きなのもこれです。
ですからちょっと上の二つよりは大目に書きます。

このシリーズについては便宜上、前期と後期に分けて書きます。
大治郎や三冬のキャストが変わったもので、そこで評価も変わります為です。

【前期】
藤田版前期は大治郎役は渡部篤郎、三冬役は大路恵美が演じました。
この前期、キャスティングも何も非常によく出来ていたと思います。
藤田まことに関しては、ちょっと背が高いのが残念ですが
元々喜劇の人ですし飄々とした小兵衛の役は良くあっています。

そして、いいのが渡部篤郎です。
朴訥で真面目一辺倒。お世辞も知らなければ女心などもっての他
という大冶郎の性格に、彼の見てくれや演技が非常に良くあっていました。
体格もそれなりに良く、声の感じも丁度いい。ベストだと思いましたな。

また、三冬の大路恵美もこれまたいい。
剣術小町・佐々木三冬の凛とした感じを実に上手く表現しておりますし、
若衆髷の袴姿も良く似合っていました。

このシリーズと並行して原作も読んでいたのですが、
読めば読むほど渡部・大路の抜擢がいかに良かったかということを痛感したのを覚えております。

【後期】
後期では大治郎を山口馬木也、三冬を寺島しのぶが演じています。
はっきりいいまして、迫力がなくなりました。

なんといっても大治郎が明るすぎます。
あれほど笑顔でいられるなら道場も門人さん一杯になります。
真面目で融通が利かないような、そういう大治郎の魅力が非常に薄くなったように感じました。

また三冬が大治郎と所帯を持った後に、島田髪になったのには落胆しました。
原作では水木結びで後ろにたらすことになっていたのですよ。
上にまとまっているより後ろに流したほうが、剣術小町たる三冬らしいのではないでしょうか。
私の好みで言ってもそうですし。

おはるについても触れておきましょう。
これは前後期通じて小林綾子が演じましたが、好演です。
勝因はその顔付きと声の質でしょう。
おはるの特徴である田舎言葉もそれほど違和感なく話していました。


総括
剣客商売という作品は『水戸黄門』等と違ってリアリティのある作品であります。
小兵衛も大治郎も皆すべて、欲望もなにもある一人の人間として描かれているのです。
原作では小兵衛は93歳まで生きることになっていますが、
剣客商売という作品も長く長く続けていってほしいものであります。


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