……そうだね


………それが正しいなら








































ソファーではすっかりおやすみのが静かな寝息を立てていた。

「中佐、お昼寝タイムですか…」

恨めしそうに見るのはハボック少尉。まだ今日のデスクワークが終了していないようだ。

ロイは先ほど通信室でリザの監視の元に執務を。スカーの一件等で軍部はにわかに忙しくなっていた。

はこのところほとんど睡眠もとらずに仕事に追われていた。

リザがこの事態を許したのはそのせいだ。自分も外回りに出かけなければならない。

ハボックはこっそりとドアを開け、が眠っているのを再度確認して部屋から出ていった。

足音が遠ざかって行くことを確認した上、は真紅の瞳をドアとは正反対に位置する窓の外に向けた。

あぁ、またあの感じだ…。





誰だ…?

誰が狙ってる…?

もう誰も失うわけにはいかないのに。





ゆっくりソファーから立ち上がり、帰り支度をする。

今日の仕事は終了。

とりあえず執務室に顔だけ出すことにした。

「おは〜」

勢いよく通信室のドアを開け、今まで寝ていましたとアピールする。

「良い身分だな、中佐…」

「うん、まあね〜」

出そろいつつある資料に目を通し、自分に直接関係する情報はないかと探すがどうやらまだ出ていないようだ。

まぁ、出るような情報ではないのはわかっているが。

「さきほどヒューズから電話があった」

「お、何だって?」

言い渋るロイの反応に、またかとは苦笑した。

「家族自慢?」

「…その通りだ」

この疲労した感じはまた別のことを言われたに違いない。

「あぁ、嫁をもらえって言われたでしょ?」

大当たり。

ロイの額に怒りのマーク。

本当にわかりやすい。

「さて、と」

は背伸びをしながら骨を鳴らす。

「俺は明日は外回りだから今日はこれで退散」

極上スマイルをロイたちに向けて手を振る。

「お先に失礼〜」

「帰る気か!?」

「俺は今日の分は終わってるよ?」

悔しそうな顔をするロイに苦笑しては再度手を振った。

「また明日〜」

ドアが閉まり、荒れるロイと苦労人の部下たちが残された。
























世界は小さいモノだと思う。





その世界に住む人間は脆く、






儚い。












自分の大切なも











そして、自分も。






































その日も天気が良かった。

翌日が雨になるとは知らずに…。




















外回りではあっても顔だけは出すのは忘れない。

「おはよう」

朝、外回りの時間にあわせて少し遅めに執務室に入った。

「おはようございます」

「重役出勤め…」

リザは相変わらずさわやかな挨拶。

ロイは最近に突っかかってくる。

いじめすぎたようだ。

「んじゃ、俺行くから」

いってきます、と手を振りドアを静かに閉めた。




近づいてくる。



だんだん足音を大きくしながら。




近づいてくる。































気づいたのはすでに日が落ち始める頃だった。

頭の中に猛スピードで映像が流れる。

「マース!」

いきなり声を上げたに部下たちが顔を上げる。

しかしすでに姿はない。






ここからセントラルまで…。




間に合うのか?

心臓の音がうるさい。

手が、震えている?

これは…、何?





















































息が上がる。

電話ボックスに駆け込んだヒューズは東方司令部に電話を繋いだ。

「早くしろ!軍がやべぇ!!」

「受話器を置いていただけますか中佐」

背後から掛けられた声に心臓が跳ね上がった。

振り向けば見知った顔。

「さあ、受話器を」

「ロス少尉…」

しかし、決定的な違いがあった。

あるはずのものがない。

「…じゃねぇな。誰だ、あんた」
























「よせー!!!!!」

その声は銃声にかき消された。

「あん?あぁ、光の獅子君」

何だ?

「あんた、東方司令部にいたんじゃないの?」

電話ボックスでは何が起こっている?

「わざわざ挨拶に来てくれたのかい?」

目に入ってくる映像は

あの時よりも朱い…。

「なぜだ…」

対峙するのはヒューズの妻の姿をした別のもの。

生臭い。

自分が今何を考えているのか全く理解できない。

「あぁそうだ、君は《あいつ》じゃないもんね」

何のことだ…?

「あんたには見えてるんでしょ?俺の本当の姿」

誰だ?

「俺、自分の姿なんてすっかり忘れちゃったからね〜」

誰なんだ?

「おっと」

はその対峙していたモノに向かってナイフを投げる。

「へぇ、これが光の錬成。すごいね」

「なぜ殺したー!!!」

対峙したモノは笑う。

「なぜ?」

そしてゆっくりに近づき、その瞳をぶつける。

「あんたの目、もう朱に近づいてる。血の色だね」

「おまえも殺してやる!!」

血が沸騰する。

「殺す!!!」

「本物の獅子みたいだね。とっても綺麗だ」

消えたと思った瞬間目の前に現れる。

「おっと、誰か来たみたいだ」

そう言って攻撃を避けながら姿を変える。

「またね、光の獅子。早く…」








こっちに来いよ








「待て!!」

感情がコントロールできない。

こっちに、来い?

何を言っているんだ?

そんな事はどうでもいい。

そんな事は…。






「マー…ス?」







あぁ、朱いよ…。








『ヒューズ?ヒューズ!、いるのか!?』








受話器からは彼の声がする。










「ロイ…」








は受話器を拾い上げることなどできなかった。










「俺は…」










『どうした!?ヒューズは…!?』











「         」










何も考えられない。







俺は…。


あぁ、眠いよ…。






















何だか眠いんだ。

眠くて眠くて。


































































運ばれていく、長方形の箱。

黒い服を着た人たちが並び、軍人も式典用の制服で整列している。

何度も見た光景。

ロイも、リザさんもいる。

「…ママ」

彼の愛する娘が妻の服の裾を引っ張る。

「どうしてパパ埋めちゃうの?」

彼は死んだんだよ。

あいつらが殺した。

そう、《あいつら》が。



































二人は隣にいるに視線をやる。

しかし、いつもと変わらぬ様子だ。

「大丈夫か?」

「何が?」

何もなかったかのように笑顔を向けられるが、違和感が拭いきれない。

「あぁ、マースが死んだから?」

目は笑っていない。

が怖いと本気で思ったことはなかった。

今感じるのはただひたすら恐怖。

「大丈夫だよ、彼は苦しまずに逝った。よかったじゃない」

その言葉に側にいたホークアイ中尉は言葉を失った。

どうして?

「どうしたの、中尉?」

あなたは誰?

「あ、俺呼び出し食らってたんだった」

地面からの足が離れる。

大きな翼は空を捕まえていた。

「じゃあまた後でね、二人とも」

優雅に空を駆ける翼。

本当に白だったか?

自分だけだろうか。





朱い…、朱い…。







































「久しぶりだな」

「えぇ」

軍の最高権力者は豪快に笑った。

「全く、大総統も人が悪い」

「何がだね?」

「いえ、何でもないですよ」

片目にはウロボロスの文様が隠れている。

何を言おうとしたのか大総統にはわかっていたようだ。

「さて、君はどうする気だね?」

少しだけ考えるフリをする。

どうせ大総統はすべてお見通しだ。

「大総統のお許しがいただけるなら…」

「彼の元で引き続き働くと?」

笑顔で答える。

大総統はに笑顔で返す。

「よかろう、行きたまえ」

「ありがとうございます」

ではまた、とはドアに手を掛ける。

「《私》は完璧主義なんですよ」

「わかっている」

その返事に再びは微笑んだ。

並の軍人ならば震え上がるその笑顔。

ドアが完全に閉まってからは真紅の瞳を隠す。

さて、帰らないとね。

今頃はロイが現場検証をしているところだろう。

明日の列車で恐らく東方司令部に戻ることだろう。

「あ、そっか…。彼は中央に異動だったな」

ならばまたすぐに会うことだろう。

別に挨拶しなくてもよかった。

「とりあえず宿に戻るかね〜♪」

長いこと《彼》の中で聞いていたのだから、真似ることくらい造作もない。

闇が辺りをすっぽりと包み込んでいた。

夜は良い。

何かが起こりそうな気がする。





血が、騒ぐよね。




























あとがきという名のいいわけ↓

と、いうわけでどういうわけだか最終章突入です。

とりあえず今日はここまでのUPです。

本気でケンカするネタを考えていたのですが、先に終わらせてからの方がいいかと…。

全5話でお送りします。

おつきあいくださいます。