「お兄ちゃんてば!」

懐かしい声に目が覚めた。


















夢、それとも、これは現実?--1--


















これが夢であることは早い段階で気付いていた。

「何?」

返事をしつつ鏡に目をやる。

自分でも忘れてしまいそうなほど昔に失った正常な目の色。

これだけ時間が経過していればむしろこっちの方が違和感がある。

「ねぇ、今日は遊んでくれるんでしょ?」

この頃の自分はひたすら錬金術の勉強をしていた。

今から考えると後悔の記憶でしかない。

ここでいい返事をしてやろうとしてもそれを阻まれるのはいつものこと。

何が何でも悪夢にしたいようだ。

いや、これは事実の記憶を再生しているにすぎない。

夢だったらどんなに良いことか。

「だーめ、俺は錬金術の勉強をするの」

ほら、やっぱり。

妹は口を尖らせてブツブツ文句を言っているようだった。

いつものように場面が揺らぐ。




最低な日々の始まりだ。




流行り病で死んだ妹に涙も出なかった。

考えてみれば既にあの頃から何かが異常だった。

いや、自分という存在は発生したときから異常だったに違いない。

歪み、だったのだ。

どういうわけだか両親の顔は思い出せない。

顔だけ見えない二人は必死で禁忌の術を実行しようとした。

見たくない、どんなにそう思っても回避はできない。

「父さん、母さん?」

派手な錬成反応には驚いたがあのころの自分は好奇心の塊だった。

ドアを開けた瞬間何かが一気に腕を引っ張る。

「あ…」

声になり損ねた未完成な言葉が漏れた。

【いらっしゃい、待っていたよ】

『待って、た?』

【そうそう】

『誰だよ、何だここは!』

【おぉ、よくぞ聞いてくれました】

背筋も凍る恐怖だった。

目の前に現われたドアに引きずり込まれる。

急激に流れ込んでくる情報に頭が割れそうな痛みが襲った。

【対価はおまえの両親。それと…】

目に未だかつてない痛みが襲う。

いっそのこと殺してほしいくらいだった。

もしもここで死ぬことが出来たならこんなに苦しい思いをしなくてもよかっただろうに。

"痛み"なんて受けたことがなかったあのころの自分は耐えられずに気を失ってしまった。

しかしその回避の行動すら許されない。

雷に打たれたような衝撃で叩き起こされる。

【罪人の証だ。おまえの存在自体が今は罪に値する】

『なん、で…』

【おまえはこの世界を歪ませる。破滅を導くだけの最悪な存在だ】

『だったら殺せよ…。どうせ俺には何もない』

【言っただろう?罪の証、それを抱えて生きて、苦しめ】

『だったら自分で死んでやる』

【それは不可能さ。またここに来て強制的に生かされるだけだ】

『…殺されるのも、ダメか?』

【無駄なことだね】

もう言葉なんて出てこなかった。

真っ白な空間に横たわったまま真っ白になって何も考えられない頭で何かを考えようとしていた。

【唯一のおまえの生きる価値は"痛み"を受けることができること】

『"痛み?"』

【行けよ】









気付いたら妹になり損ねた物体と、むせ返るような血の匂いが自分のまわりを取り囲んでいた。

「ぐ…」

あまりの衝撃に意識が飛びかける。

体を傷つけられるより、そんなもの比較にならない"痛み"が体を走った。

そして、それと同時に襲ってくる両親と妹の声。

苦しさに耐えかねて目の前にある物体に燭台から火を点ける。

これさえなくなればこの"痛み"と苦しみから解放される。

何度も空気を調節して完全に燃やし尽くす。

こうしないといけない。

もしもしなければいつか大変なことになる。

どこからやってきたのか全くわからないこの焦り。

完全に灰となったその物体をさらに錬金術で分子単位に分解する。

自分の息が荒いことに気付き、苦笑する。

は何も持たずに家から出た。

手にしているのは先ほどの燭台。

自分にとって不必要なこの物体を消滅させるのに錬成陣など必要なかった。

手を合わせ、家の周辺の空気濃度を一気に上昇させる。

そしては燭台を投げ込んだ。

雨だろうが関係ないほどの威力、そして耳をつんざく爆発音が辺りに響き渡る。

もうここにいたくない。

自分が恐ろしくなるほど冷酷な目をしていたことはこの夢を見るようになってから知った。











---続---















後書きという名の言い訳

久しぶりの更新が続き物です。

すんません(泣)

そろそろ前期試験の準備を始めなければならないというのに。

とりあえず次回は土曜日あたりに更新かと…。

短い文章ですがよろしくおねがいします。