またあのような地に赴くことになるとは

軍人なのだから当たり前といえば当たり前だが

しかし腹が立つ…















大型犬-2-






















トレインジャック事件の処理が終了し、ハクロ将軍の視察もさらりと流して一息ついていた。

通常の業務に戻った東方司令部に衝撃が走ることになる。

何かの策略だろうか。

ただひとりだけ、南方の小競り合いが続く地区に国家錬金術師として派遣されることになった。

辞令が来たのはその午後のことだった。











「大佐!またサボ…!」

「違う違う!断じて違う!」

何も文句も言わずに部屋に籠もっていたロイの様子を見にきたリザとは窓枠に脚をかけているロイを発見した。

青い顔をして必死で否定している。

「あーあ、これじゃ俺でも弁護できないよ…」

現行犯逮捕だった。ホークアイ中尉がロイの軍服の裾を引っ張る。

「中尉、君はロイの面倒をみてやってくれ」

「はい」

鋭い視線を送られたロイが気まずい顔でそれから逃れようとしている。

「デスクワークの苦手な大型犬は俺がなんとかするから」

「よろしくお願いします」

一応ロイを激励してから扉を閉めた。

微妙に音程の外れた鼻歌を歌いながら例の大型犬と優秀な部下たちが待つ部屋のドアを開ける。

すでに問題の大型犬は書類の処理に飽きてしまったようだ。

「ハボック少尉、サボりかい?」

「大佐と一緒にしないでくださいよ」

どこぞの大佐のように未処理の書類で山を作ってしまった。

上司に似るのか?

「しかたないなー、ちょっとだけなら手伝うよ?」

「甘やかしたらコイツ、次も期待しますよ?」

ハボックの同期、ブレダ少尉がコーヒーをすすりながら指を差す。

「そうだなぁ、今回だけって方向で」

今回だけでもこの書類の山さえ消すのを手伝ってくれるなら、と早々にに書類の束を渡した。

「中佐!」

ホークアイ中尉がドアを破らんばかりの勢いで駆け込んでくる。

「どうかしたの?」

全く警鐘は鳴らなかった。ロイに、みんなに危険が迫ったわけではなさそうだ。

一度強めた警戒を解く。

「急いで大佐のところに…」

ロイに危険が迫ったわけではないのになぜここまで動揺しているのだろうか。

言われたとおり、ロイの待つ執務室へ向かう。















「電話だ」

ロイの声がいつもと違うことに気付かないふりをして受話器を取った。

何を期待しているのかさっぱりわからない。いまさら自分に国家錬金術師として南部に行けという。

「命令、ですよね?」

それを肯定する声が受話器から聞こえて一度舌打ちをした。しかも明日すぐに向かえと?

「俺である必要はあるんですか?」

当然、聞きたくもない光の獅子の話を出され、さらには自分の機嫌が悪くなるのがわかった。

…現在の状況ならこの場にいなくてもみんなに危険はないだろう。

これで手柄が立てられればロイにとっていい追い風となるだろうが…。

「マスタング大佐と相談します」

それは必要ないと受話器の向こうで笑っている声がした。相談で決められるものならロイはを止めるだろう。

この命令は大総統直属の将軍が出したものだと説明された。

大総統の名を出せばなんだって通ってしまう世の中だから仕方がないといえば仕方がないのだが。

「うちの大佐には、もう話されたんですか?」

少しだけ視線をロイに向けると複雑な表情をしていた。概要は伝えてあるらしい。

「…拒否権は、ないでしょうね」

はその返事を待たなかった。

「わかりました。『国家錬金術師』、南部へ参ります」

満足そうな声、そしてロイのため息と、リザが息を呑む様子を感じた。完全に相手方が受話器を置くのを確認する。

はロイの机に置かれた本体に自らが持っていた受話器を乱暴に戻す。

「…ってわけだから」

「一体何を企んでいる…」

「俺がいないうちにまた誰か視察にでも来るんじゃないのか?いい加減ストレス解消したいんだろうよ」

不機嫌な顔を隠しきれないは二人に背を向けていた。気配を背中で感じ取る。

「それから、あわよくば俺が死んでくれたら…ってね」

「むしろそれが狙いなんじゃないか?」

「そんな…」

はようやく振り返る。

「大丈夫だよ、俺は死なない。あんなところで死ぬわけにはいかないよ」

今はやらなきゃいけないことがある、無駄死にはごめんだ。

「…大丈夫か?」

「軍人にあるまじき発言してもいいかな?」

黙ってロイが頷く。

こんな時に何を考えてるのか、と怒られてしまいそうだがその様子があまりにも猫に似ていた。

「殺さないよ、俺にとっては意味がないからね。それからできるだけ傷つけないようにする」

俺はもうあの時の獅子なんかじゃない。

「リザさん、留守の間無能と大型犬の世話をよろしくね」

「はい」

「じゃ、俺はみんなに説明してくるから」

ロイとリザを残しては部屋を足早に出る。少し落ち着く必要があった。

彼らのいる部屋までまたあの微妙に音程のずれた鼻歌を歌う。頭に手を持っていき、ついでに前髪をかき上げる。

この傷。

眉の傷だ。

窓に映る自分の顔に形として残された"痛み"がある。はなんだか騒がしい部屋の扉を開けた。

「…何してるんだ?」

「ハボックが逃げようとするんですよ!」

「ち、違います違います!断じて違います」

窓枠に足をかけた状態で否定されても信じられるわけがない。

…おや?先ほどもこういう場面に遭遇したような気がするが?

「ま、それはいいとして。俺、南部の鎮圧に行くことになったから。ちょっとの間留守を頼むね」

場の空気が一気に変わり、戦闘前の張りつめた空気に似たものが流れる。

「そんな…、死にに行くようなもんですよ!」

「死なないよ」

その一言に皆一斉に驚いた顔をしていた。

しかしどこかその言葉に偽りがないことを確信していたようでもある。

「まだ無能と大型犬の面倒も見なきゃいけないようだし」

ヤダヤダ、とはとぼけた顔で肩を竦めてみせた。

「そりゃ…すんませんねぇ」

「さ、俺は準備があるから帰るよ」

必要なものを鞄に手早く詰めてからは再び振り返る。

「留守を、頼んだぞ」

と同様に全員が敬礼をする。

「ってなわけでちょっといって来るね〜」

あの微妙に音程のずれた鼻歌が次第にその部屋から遠ざかっていった。











「お邪魔するよ〜」

連打に等しい速さでノックをする。

「帰るのか?」

「うん。いろいろ調達するものがあるし。許可くれるんでしょ?」

わざとらしく大きなため息をついて腕を組み直した。

「…帰ってこい」

「もちろん」

「絶対に、帰ってこい」

漆黒の切れ長の目が真紅の瞳とぶつかる。

ロイの方が先に緊張を解いた。

「…それならいい」

「言っただろ、帰ってくるって」

身軽さを生かしてロイの机を乗り越えてヘッドロック。

「俺が帰ってくるまでには書類の山がなくなってるといいけどな!」

「やかましい!上官に向かって技をかけるな!」

ロイの様子から判断して今回はあまり心配しなくても良さそうだ、とリザは微笑む。

しかし、戦場は何があるかわからない。それはロイもリザもよくわかっていた。

「じゃ、いってきます」

二人は敬礼で部屋から去っていくを送った。

「大丈夫、ですよね?」

「あぁ」

遠くなるの微妙な音程の鼻歌を聴きながらただ祈るしかできなかった。


















あとがきという名のいいわけ

一変に更新するなら二度に分けなくてもいいのでは、というクレームはちょっと…。

未だ出てこないハボ以外の大型犬。

全5回の予定です。

次回からタイトルが指す方の大型犬が出没します。

次回更新は全く記入されない日記でお知らせします。

ここまで読んでくださってありがとうございました。