忙しいのはいつものことだ。
しかし今日の忙しさときたら一体どういうことなんだ?
大型犬-5-
南部と東部の境界あたりでまたも何か不穏な動きがあったらしい。
今度は違った意味で嫌な予感がする。
は地図を前に腕を組み、難しい顔をしていた。
「、聞いているか?」
「大丈夫、ちゃんと聞いてるよ。で、一番最近のテロ行為でどこの誰がやったか確証が持てたわけでしょ?」
「あぁ。ちょうど東部と南部の境界当たりが本拠地らしい」
地図を指さすロイの手に視線を移す。
「南方司令部と東方司令部共同でここを叩くことになった」
「うーん、何か嫌な予感がするな〜」
「また何かありそうなんですか?」
「あるようなないような、ないようであるような…」
「どっちかに絞ってくださいよー」
ハボック少尉が地図の置かれた机に顎を乗せてやる気のない声を出している。
そんな奴には最近ブームのデコパチ。
とにかく中指を反対の手で反らし、それを額に放つ。
実はかなり痛いらしいがには全く関係のないことだ。
予想通り、奇声を上げて立ち上がったことにフェリックが声をあげて笑う。
「痛いじゃないですか!」
「あー、悪い悪い」
「!ハボック!遊んでいないで準備をしろ!」
二人は並んで不真面目な返事をした。ロイに追い立てられて部屋から走り出る。
「ほーら、少尉のせいで怒られた」
「中佐が悪いんでしょう!?」
音程のずれた鼻歌は健在だ。どこ吹く風といった様子で私物が置かれた棚を漁る。
「今回はこれで行くかね〜」
「お、新型ですか?」
「ふっふー、当たり」
左右のホルダーにはこの前新しく頼んでおいた銃。
準備はできた。後は列車に乗って集団移動するだけだ。
「やっほ〜い」
「!落ちるぞ!」
列車の箱乗りをしている軍人。
そもそもこれから暴動の拠点になりうる場所の鎮圧に向かうというのに呑気にピクニック気分だ。
もちろん最初は大人しく風景の観賞をしていた。
しかしさすがにそれもこの長い道のりでは飽きてしまったのだ。
それもあるが、少しでも周辺の重たい雰囲気を壊したかったというのもある。
ロイもそれが気を紛らわせるためにやっていることがわかっているので止めはしない。
「ロイ、まだー?」
「あと10分だ」
ここに来てあの嫌な予感が再び襲った。
誰に危険が及ぶわけでもなく、ただいつもと違う漠然とした嫌な予感。
駅まで少し考え事をしようとは席に戻る。
「どうした」
急にまじめな顔になって大人しくシートに沈み込むにロイが訝しげな顔をしている。
「うーん、何だろ?何だかいろいろ納得いかなくて…」
何だったか。
何かを忘れているような気がする。
駅に着いた瞬間、その嫌な予感の正体を知った。
「中佐ぁ〜」
嬉しそうに駆けてくる細身で長身の某大型犬。
タスク・レッドフォードだった。
「こ、これか!」
突進してくる(から見た場合)巨体がどんどん迫ってくる。
身を低くしてそれを避ける体勢にはいるがさすがにここのところ訓練を欠かさないタスクは簡単に騙されなかった。
「捕まえましたー!」
駅のホームにはの悲鳴が響き渡った。
「!」
「中佐!?」
ロイや部下たちが探すがその姿は見あたらない。
「やめろ!抱きつくなー!」
すぐ傍から聞き慣れた声がする。
「?」
「だーかーらー、暑いっての!」
「痛いですよ中佐ぁ〜」
涙目の青年から(比較すると)小さな影が飛び出した。
「タスク!遊びに来たんじゃないんだ、ちゃんと仕事をしろ!」
列車での事情を知る者たちは皆何かを言いたそうだった。服装を正しつつ上の方にあるそれなりに整った顔を睨む。
「だって中佐、最近忙しいからって南部に来てくれないじゃないですか」
「本当に忙しいんだ、仕方ないだろう」
「」
ロイが手招きをしてこちらに来るようにと合図する。
「あれがマスタング大佐ですか…」
「あ、おい!タスク!」
呼ばれた本人ではなく先ほどまでを抱きつぶす寸前まで戯れていたタスクが歩みを進めた。
「はじめまして、マスタング大佐。タスク・レッドフォード少尉です」
子供のような人なつっこい笑顔で手を差し出す。
敬礼じゃないあたりがタスクらしい。ロイじゃなければどうなっていたことか。
ハボックよりも高い位置に顔があるタスクに同様、ロイも見上げる形となる。
「ロイ・マスタング大佐だ。から話は聞いている」
「本当ですか?嬉しいなぁ、中佐が俺のこと話題に出してくれるなんて」
「タスク!」
ローキックがタスクの腿にヒットしてその長身が揺らいだ。
「愛が痛いですよ〜」
「何が愛だ!俺はこっち、君は向こうで作戦会議」
「は〜い、じゃ、また後でお会いしましょうね」
頭を抱えて座り込んでしまったの肩にロイが手を置いた。
「…予想以上だ」
「返す言葉もありません」
哀愁を漂わせる。普段見せないその様子に部下たちも開いた口が塞がらない状態だった。
「これならハボック少尉の方がまだいい…」
「まだって…、俺はべたべたくっつくのは性に合いませんからねぇ」
「さっさと仕事を終わらせて帰ろうな」
「中佐〜」
また来た。
は何か悟ったような顔でタスクを迎えた。
「どうした、タスク?」
「俺、こっちに混ざってもいいですか?あっちの上司がそれでもいいって言ってくれましたから」
…脅迫したのでなければいいが。
自分にも言える事だがどうもタスクも上の人間をコケにしているような気がする。
は遠い目で早く東部に帰りたいと心から願っているようだった。
「私はかまわない。、お前がいいなら彼もこちらに参加させるが?」
そんなに目を潤ませてこちらを見下ろさないで欲しい。
既に見下ろされていることに対しては諦めているのだが。
「わかった。ただし条件がある」
南部に国家錬金術師として派遣されてきたときと同じ顔にタスクは背筋を伸ばした。
こうしていれば利口な犬にも見えるものを…。
「まず、これが最大の条件だ。ロイを守ることを一番に考えて行動しろ」
「わかりました」
「それから、このホークアイ中尉とハボック少尉の戦い方は参考になる。手本にして今後の修練に生かせ」
「…はい」
も上に立ち部下たちを正確に導く者である、とハボックはこの姿を見て思う。
そういう資質も兼ね備えた人間、それが・なのだと。
「あのな…、どうしてそんなに敵意剥き出しなんだ?」
「だって《俺の》上司なのに〜」
「…いつからお前の上司に限定されたんだよ」
タスクから鋭い視線を向けられてハボックは思わずガンを飛ばしそうになる。
「犬VS犬…」
「何か言いましたか?」
適当にごまかしてタスクを激励しておく。俄然やる気を出したタスクはまたも奇声を上げていた。
「大佐」
小声で話しかけるリザにロイが耳を近づける。
「あれでは中佐が…」
「大丈夫だ」
いたずら好きの子供が笑うようにロイが目を細める。
「おもしろいことになりそうだ」
「…大佐、遊んでいませんか?」
「いやいや、新しく私の部下になる者の実力をみたいと思っているだけだよ」
とぼけた顔をして笑うロイは間違いなくこの事態を楽しんでいた。
「ロイ、話は終わった。作戦会議といこうか」
「あぁ」
さて、どちらの犬が賢いだろうか。
任務のことは半分以下程度しか気にかけず、二人が一体どんな愉快なことをしてくれるのか。
ロイは歪みそうな口元を何とか押さえた。
軍営の施設で地図を広げた東方司令部の諸々+1。
ここから目的地までの距離があまりないこともあり、静かに作戦会議が進められる。
「はっきり言うが軍のサーベルの強度はあって無いも同然。俺が扉をこいつで切り開ける」
「だがそんな時間があるとは考えられない。全てのドアを時間差がないように切り開けることができるか?」
は待ってましたと言わんばかりにタスクを見上げる。
「タスクがいる」
まさか自分が指名されるとは思っていなかったタスクは肩を跳ねさせた。
「できるな?」
「…はい!」
一瞬とまどったような表情を見せたが、と目があった瞬間決意は固まった。
「よかろう。レッドフォード少尉、頼んだぞ」
「了解です」
緊張した面持ちで敬礼をしてみせる。
「ロイ、この作戦会議が終わったらちょっと時間をくれないかな?」
「かまわんが、何をするつもりだ?」
「タスクに少々アドバイスを」
久しぶりのウィンクにロイはあきれ顔だ。
また何か危険なことを考えているのではなければいいが。
しかしタスクを巻き込んでそのようなことはないだろう。
「ならば後は後衛の配置だけだ。もう行ってもかまわない」
「そう?じゃあ行こうか、タスク」
「はい!」
尾を振りながら飼い主に付いていく犬そのものだった。
ロイがホークアイ中尉に視線をやるとブラックハヤテ号を見ているような目でタスクを見ていた。
視線に気づいたリザは姿勢を正す。
「いて」
どうやら入り口につっかえてしまったようだ。
それを見てがタスクにひじ鉄を入れる。
潰れるような声を出してひじ鉄が見事にはいった箇所を押さえていた。
「それは俺に対してのイヤミか?」
「違いますよ〜、別に中佐は小さくないじゃないですか」
「うっさい!黙ってついてこい」
「は〜い」
すっかり飼い主の表情になっている。
ロイはこれからさらに起こるであろう愉快な出来事を想像して微笑んでいた。
あとがきという名のいいわけ
犬は主人公氏大好きです。もうレベル的には愛になりますが決してそっち系ではないと主張。
よく犬って飼い主が好きすぎて飛びかかって。飼い主は後頭部強打もしくは未遂なんてよくありますからね。
そしてハボ氏にターゲット・ロックオン(笑)次回更新ではケンカ、しちゃいます。
二夜連続更新ということで、また明日お会いしましょう。
呼んでくださって本当にありがとうございました。
感想お待ちしていますv