隣で犬が尾を振っている。

大丈夫。それほど"痛み"は強くない。

隠せる。


















大型犬-6-














































の後方には銃を構えた部下たちが待機していた。

真紅の瞳が鋭い光を持つ。

戦場でしか見せないの表情には身が引き締まる思いだった。

この顔のは恐らく何よりも強いのではないかとは思う。

「行くぞ」

「はい」

の声にが小声で返す。ロイの方を振り返ったが頷いた。

「GO!」

が飛び出すのは同時だった。その後方から銃を構えた軍人たちが続く。

走りながら抜かれたサーベルは光を反射した。同時に一枚目の扉が切り開かれる。

!」

「了解!」




『左腕がまだ弱い。だから右で何とかフォローしろ』

「何とかって…、どうすればいいんですか〜」

『いっそのこと一本にすればいいんだ。両手で持てばそれなりの威力はある』












確かにタイムロスはあるがこちらの方が確実のようだ。

自分よりも小さく、細く見えるその体からあの強力な一太刀が放たれるとは予想も出来ない。

順調にドアを切り開けていく。しかし最後の最後で想像もしていなかった音が耳に入る。

「金属製!?」

、どいてろ!!」

真後ろから二本のサーベルを振りかざしたが叫ぶ。

の特訓で散々仕込まれたこの連携。

必ずフォローにはいると約束したが二本のサーベルを振り下ろした。

真っ二つに切られたその金属製のドアが重量感のある音をたてて地面に倒れる。

「行け!」

部下たちを素早く進入させて自分は裏手に回る。

しかしすぐに素早く後退したの頬には一筋の赤い線。

「中佐!」

思わず駆け寄りそうになったは背筋の凍るような視線を向けた。

!今やらなきゃいけないことはそうじゃないだろ!!」

唇をかみしめて今すぐ駆け寄りたい衝動を抑えているようだった。

はロイの元に走る。の言ったとおり自分がやらなければならないことは心得ていた。

「無駄だ!」

弾丸は目標物を貫く前にたたき落とされる。のサーベルは確実に凶弾を捉えた。

「弾道が丸見えですよ!」

つい先ほどまで情けない顔をしていた男とは思えない勇敢な顔をした犬だった。

ロイは発火布を擦り、何の予告もなく焔を錬成する。近場での悲鳴が聞こえたのは気のせいだっただろうか?

「………うわー!!!」

本当に埋まってしまったことに気づいたが奇声を上げた。

「大丈夫よ。いつものことだから」

自分も最初は驚いたものだとリザはさりげなくフォローを入れておく。

いくら仲が良くてもいきなりあれはないだろう、との元へ走り寄った。

「中佐ー!中佐!!」

「だー!!毎度毎度!一体何回埋めれば気が済むんだ!!!」

瓦礫の一部が派手な音をたてて吹っ飛んだ。

中からシールドを消し去ったばかりのが美しいと賞賛される顔にあるまじき崩れた顔で怒っていた。

「ああもう!」

振り向きざまにに拳銃を投げ渡す。の銃口が向けられる先がにはわかった。











『俺のモーションには癖がある、と中尉が言っていた』

『中尉…、というとリザ・ホークアイ中尉ですか…』

『あのな…』

『ま、いいです。それで俺はどうしたらいいんですか?』

『俺にはその癖がどこなのかわかるようなわからないような…、つまり自分で探してみろ』

『…要するに自分ではまだよくわからないって事ですか』

『うっさーい!』














その癖はすぐにわかった。意識の向け方で空気の流れが変わるのだ。

それをつかむのには少々時間がかかったが彼の気配は気まぐれの猫のようなものだった。

気まぐれさも慣れてしまえばある程度パターン化することができる。

「よし!よくやった!」

「はい!でも中佐の怪我が…」

は尾を振る犬のようにすぐさまの元に駆け寄る。しかしすぐに泣き出しそうな顔で頬の傷にハンカチをあてた。

「ありがとう。でも痛くないし放っておいても大丈夫だ」

「そんな!変な感染症になったらどうするんですか!」

「心配してくれることに関しては感謝するよ」

の腕を数回叩く。頭を撫でたかったが…、身長が足りない。

「ロイ、そっちは終わったか?」

「当然だ」

す、とロイが身を退くと部下たちが隠れていた者たちを連行していた。

「って、埋めたことに対してなんか言うことあるだろー!」

「あぁ、悪かったな」

「それは謝罪とは取れないよ」

もう毎回のことなので諦めもつくというものだ。

中佐ー!」

駆け寄るのは元祖大型犬のハボック少尉。

「今回も大丈夫だったみたいですね…、怪我してるじゃないですか」

「まあね。でもどうして見方に攻撃されなきゃいけないのか…」

なぁ、

振り向いたは驚きのあまり口元が引きつった。

?」

「ず…」

「ず?」

「ずるいですよ!俺だって名前で呼びたいですよ!」

だだをこねる子供の勢いで迫ってくるものだから思わず二歩、三歩と後ずさりしてしまった。

「俺の名前を呼んでくれるのは嬉しいですがどうしてこの駄犬には中佐の名前を呼ばせてるんですか!」

「駄犬…って言ってくれるじゃねぇか」

「ストップ!ケンカするな!」

背の高い二人に挟まれ潰されてしまうかと思ってしまった。は両サイドから迫ってくる壁を必死で押さえた。

「駄犬以外の何者でもないでしょう?」

「じゃあお前は駄犬じゃねぇってのか?」

「当たり前じゃないですか。同じ階級でも年齢はあなたの方が上だからこうやって敬語は使っていますがすぐにでもやめたいぐらいですよ!」

いつだったか。どこかの遺跡で左右の壁が迫ってくる仕掛けがあった。

懐かしいが、あの後遺跡を壊してしまったのはやり過ぎたと今は反省している。

あれからどうなったのか、今度見に行くべきだろうか?

「じゃあすぐやめればいいじゃねぇか!」

「はい。でも中佐がこういうことは大切だから感心すると褒めてくださったのでやめるわけにはいきません」

「だー!中佐中佐ってお前ホモか!」

「低俗な言葉は知りません。俺は中佐を尊敬しているんです」

相変わらず頭上では言葉の応酬が繰り広げられている。

たまに聞き捨てならない言葉が聞こえてくるが今はそれどころではない。

今にも圧殺されそうだった。

「大体な、途中から出てきたヤツが先輩に勝てるわけねぇんだよ!」

「それはわかりませんよ?俺の方が賢いですからね」

暑い。

でかい男二人に押しつぶされたら無念なんてものじゃない。

「ケンカすんなって、言ってるだろう!」

暑苦しいったらありゃしない。

そんな気持ちではなった殺気だったのだが、彼らにはどうも別の意味として伝わったようだ。

「すんません」

「すいませんすいませんすいませんすいません捨てないでくださいすいませんすいません」

結論からすればあまり年を取ってから大型犬を飼うものではない、といったところか。

「あのな、俺にとっては二人とも大切な部下なんだからつまんないことでケンカするんじゃない!」

「すんません…」

「すいません…」

すっかり大人しくなった二人を前に何だか少しかわいそうな気分になってきてしまった。

いやいや、しつけはきっちりしておかないと後が怖い。

「二人ともいい大人なんだからこれくらいのことでケンカしなくてもいいだろうに」

「だって俺だけ中佐って呼ばなきゃいけないなんて…」

体格はいいくせにその上にある顔はすぐに目を潤ませるような子供だ。正直扱いに困る。

「あーもう、別に好きな呼び方してもいいからケンカするな」

「本当ですか!?じゃあとりあえず…中佐!」

「へいへい」

「うわーい!中佐、中佐!」

「…用もないのに呼んだら怒る」

はしゃいでいるを余所に、疲れた様子でハボックがタバコを取りだしていた。

ロイから発火布を奪って、タバコに火をつける。

「おっと、ありがとうございます」

「弟分と思ってかわいがってくれ」

「…はー、中佐のご命令でもかなり厳しいッスね」

奇声を上げて辺りの軍人たちを恐怖に陥れているを横目にハボックは呟いた。

「ま、俺は俺が一番賢い犬だと思ってますんで」

「ハボック…」

これはどっちもどっちだというやつではないだろうか?

「いや、おもしろいものを見せてくれて感謝している」

嫌な笑顔で第一声がイヤミとはさすがだ。

「加勢してくれよ…」

「見る専門だからな」

「そうだろうな」

言ってみただけだ、とはまだ奇声を上げているに視線をやった。

今度は南部の同僚達に自慢しに行ったようだ。さすがに子供の社会ではないのでイジメにあいはしないだろうが。

!」

どこかへ駆け寄ろうとしたが火の出る勢いでターンを決めて方向転換をした。

「何ですか?中佐!」

「俺達はもう帰るから…ってそんな顔するなよ」

今にもどこからか飛び降りそうな顔をしている。

「大丈夫だよ。もうじき喚ぶから」

「本当ですね!?約束ですよ!」

「ロイに言ってよ。俺はあいつについていくんだし」

またも言い終わらないうちにはロイの方に方向転換をした。

思わずロイがのけ反る。

「マスタング大佐!頑張ってくださいね!!!」

「あ…、あぁ。善処する」

「それまでは俺、びっくりするくらい退屈でつまらない仕事ばかりの南部の仕事を仕方なくこなしていますから」

さわやかな笑顔で言うことではない。外見と中身が一致しないようなするような…。

「じゃ、駅まで見送りよろしく、

「もちろんです!って、この銃お返ししますね」

「あぁ、それは用に作ってもらったやつ。大切にしろよ?」

いきなりボロボロと大粒の涙を流しはじめた。隣にいたロイですら驚いているようだった。

「ぢゅうざ〜」

「それが使いこなせるようになったら銃の扱いに関しては合格だな」

「ありがとうございます!俺、頑張ります!」











駅まで向かう道すがら、はずっと笑顔での後をついて歩いた。

駅に着いたとたん周りの人間がびっくりするほどの泣きっぷりを披露したわけだが。

列車に乗り込んだは窓際で必死にを宥める。

、落ちつけって!」

「だってー!やっぱり俺だって…」



真紅の瞳が澄んだアイスブルーの瞳を見つめた。

「君には潜在能力がある。それを自分で引き出さなければ俺は君を喚ぶ気はない」

「…はい」

「日頃の修練を欠かすな。オフには稽古をつけに来てやるから」

「わかりました…」

炭水車が汽笛を鳴らしてゆっくりと走り出す。

中佐!!」

〜、一週間後にまた来るから覚悟しろよ〜」

「はい!!」

子供のような笑顔で大きく手を振るが次第に小さくなっていった。

も見えなくなるまで手を振り続ける。

「珍しい、というべきかな?」

窓から身を乗り出していたにロイが言った。

「…俺のことを本心から好いてくれる人間を突っぱねられなくてさ」

「私も有能な部下が増えて嬉しいよ。まだ予定だがね」

「…っ」

今頃来るとは思わなかった。

一瞬だけの"痛み"でも表情が歪むのを止められない。何かを言おうとしたロイにが先制で口を開く。

「油断した〜。最近気が緩んでるのかな?あぁ、もう何ともないから三人ともそんな顔しないでよ」

「…帰りくらいは大人しく座っていたまえ」

「了解しました、マスタング大佐」

すぐにシートに沈み込んで目を閉じる。狸寝入りは得意な方だ。

ロイもこの意味を心得ているようで自らもシートへ深く座り込んで窓の外を見つめているようだった。

良くないことが起こる予感がする。

そんな漠然とした不安にここのところ毎日襲われている。

しかし、が下につけばロイを押し上げる力は強くなるだろう。

早く自分を楽させて欲しいものだ、とは浅い眠りについた。




































「中佐、南方司令部からお電話です」

「…、か?」

「はい」

これは本格的にロイを早く中央に戻さないと南方からの電話は二日に一回のペースが一日数回になりかねない。

「ロイ…」

「…善処しよう」

さすがに少々身の危険を感じたロイがまじめな顔をして頷いた。




























あとがきという名のいいわけ

この度も読んでくださってありがとうございました。

犬が二人そろうとうるさ…、明るくていいと思いますが。

さすがに次回連載とさらにその次の連載がびっくりするくらい暗いので今のうちにやっておきました。

ここまで読んでくださってありがとうございました。