空は、いつも見る以上に青い。
この光景は一度失われたと思えないほど美しかった。
残されていたもの-2-
わんわん!
遠くで犬の鳴き声が聞こえる。
駅から降りてすぐに目に入ったのは目が痛くなるほどの緑。
太陽の光に照らされて光る葉。風に揺れる木々からは涼しげな音が聞こえた。
「何だか…、気持ちいいな」
「だろ?空気もきれいだしな」
「中佐、こっちです」
アルの指さす方向にはかなり細い道が続いていた。獣道に見える。
「アル、中佐じゃなくて。今は休暇中だからね」
しばらくすると家が見えてきた。その家の前には機械鎧をつけた犬がいた。
「デン、よう!」
「ひさしぶりー」
何だかその映像が随分遠くに見えるような感覚になる。ここは随分時間がゆっくり流れているような気さえした。
不安になって銀時計を開けてみる。もちろんいつもと同じように時は刻まれていた。
「あー!」
上から聞いたことのある声がした。
いきなり飛んできたスパナに一瞬何かを思いだしかける。…何だっただろうか?
それを何とか避けたエドが叫ぶ。
「危ねーじゃねぇか!」
「何よ!また機械鎧を壊したくせに!」
はようやく現実に引き戻された。慌てて仲裁に入る。
「ごめんなさい!これ、俺が壊しちゃったんだ!」
「あ、さん!」
身を乗り出したウインリィが目を丸くしていた。
「ごめん!本当にごめん!」
「おやおや、来た早々何だいこれは?」
ま…、えらく小さなご老人が一回のドアから現れた。エドが説明していた人だろう。
「はじめまして、俺が・です。お世話になります」
「あぁ、話は聞いてるよ。ピナコ・ロックベルだ。何でもあの頑丈な機械鎧を一発で壊したんだって?」
「…すいません。エドがあまりに強いものだからつい…」
豪快に笑い飛ばしたピナコがタバコを片手に家に三人を招き入れた。
ロックベル…。
やはりこの名前が頭の中をぐるぐる回る。頭の中で何か引っかかるが結論には達せない。
5人が椅子に座り、エドとが事の顛末を説明した。
はこれでもかと言うほど謝り、エドとアルはそれに対して必死でフォローしていた。
「本当なんだ。これを壊したのは俺でエドは全く悪くない」
「さんなら仕方ないですよ」
「えらく俺とは対応が違うな…」
不満げな声にウインリィはエドにだけ矛先を向ける。
「油断でもしたんでしょ!」
「そんなことできるわけねぇだろ!」
「あーあ、また始まった…」
幼なじみ。それは兄弟とは違うがどこか親友とも違う。
今となっては自分にそのような者がいたか否かすら記憶にないがとてもうらやましいような気がする。
同じ歳の家族はいたが。
「?」
「…仲良しだね」
「「どこが!?」」
エドとウインリィが見事に口をそろえて言った。
「ほらね」
優しく微笑むその笑顔に免疫のないウインリィは思わず顔を赤らめた。
この場所はどこか自分の世界とは違う、手の届かない場所のような気がした。
「さん、どうかしましたか?」
どうやら顔に出ていたようだ。アルがそれをいち早く察知する。
「いや…、何だかここって居心地がいいとこだなって思ってさ」
軍にいるときには見せないとてもおだやかな表情だった。
「外で昼寝でもするか?きっもちいいぜ?」
「いいねぇ」
「エドはその前にそれを直してから」
すっかり忘れていた。本来の目的はこれを直してもらうことだった。
「ちぇ、じゃあアル、をいつもの場所まで連れて行ってくれ」
「うん。じゃあ兄さんまた後でね」
アルの後ろを付いて歩くが振り返る。叱られはしまいかと怯える猫のような顔をしていた。
「本当にごめんなさい、エド、ウインリィちゃん、ピナコさん」
「だってあれは俺が無理に…」
「いいんですよ!油断したこいつが悪いんですから」
スパーンと豪快にエドの背中を叩いてウインリィが親指を立てた。
「田舎だがそれなりにいいとこだ。昼寝でも十分楽しめると思うよ」
「ありがとうございます」
話を聞くところによるとエドの機械鎧はすぐに直るそうだ。
角度よく打撃が入ったことが幸いしたそうだが、にとっては幸いなんてものじゃない。
壊してしまったことに変わりはないからだ。
「こっちですよ」
視界一面広がるのは若い緑。一瞬この世界とは違う世界に来たのかと思った。
芝生の上に寝転がったら司令部周辺では感じることが出来ない風が吹き抜けた。
本当に自分がこの世界にいるのかわからなくなる。
この世界から浮いて、一人だけ孤立しているような気がする。
「さん?」
「あ〜、ごめん。ちょっとどこか行ってた」
誤魔化すために芝生の上を二度三度転がって芝の匂いを全身に受けた。
「気に入ってもらえて嬉しいです」
「こんなところがまだ残ってたなんてな…」
「え?さん!」
そのまま転がっていたら坂になっていたらしく勢いよく転がり落ちてしまった。
ここで下まで転がってしまったらさすがにマズイので数回で踏みとどまる。
「セーフ」
「僕たちもそれやったことありますよ。兄さんがふざけて転がったら僕まで転がっちゃって」
「俺だけじゃなくてよかったよ…」
元の位置まで戻って再び昼寝を開始する。
エドには悪いが列車の中ではあまり眠れなかったのでここで失礼しようと思う。
「…!ー!」
太陽と見間違うような金の瞳がのぞき込んでいた。
「あ…?エド?」
「あんたは人前で寝ないヤツだと思ってたんだけど?」
ここは自分にとっては危険な場所かもしれない。まさか無防備にも本当に眠ってしまうとは…。
戦場にいた頃は考えられないようなことをしてしまった。
「いや…、疲れてたのかな?なんだかすっごく気持ちよくてさ」
「そっか。気に入ってもらえて嬉しいよ」
「と、いうかもしかしてもしかしなくてももう夕方?」
「おう!」
なんということだ。着いたのが昼過ぎだったとはいえ、軽く5時間は眠っていたことになる。
「エド、機械鎧は?」
「このとおり!今からアルと調整すんだけど」
「さんもやりますか?」
「いや、ちょっと水でももらってくるよ。すっかり枯渇しちゃって」
そう言いながらは階段を上った。背後からは金属音が断続的に聞こえてくる。
入り口の扉を開くとコルクボードに留められた写真が目に入った。
「うわ…、ちっさ…」
今よりもずっと小さいエドとウインリィ、そして…。
「アルはこんな顔してたんだ」
「あぁ、それですか?」
カップを持ったウインリィが机にそれを置いてからの横に並んだ。
「結構似てると思いませんか?」
「うん、そっくりだ」
写真の二人のように目を細めて微笑む。
「昔からアルのほうがしっかりしてた?」
「はい、そりゃもう!」
声を上げて笑うの目に一枚の写真が止まる。
「これ…?」
「あぁ、私の両親です。イシュヴァールで死んだと聞いてます」
ウインリィの表情が雲らせてしまったことに対して謝罪をしようとしたが、それよりも先に単語が頭を駆けめぐる。
イシュヴァール、ロックベル…?
封じ込めていたあの時の記憶が次第に蘇ってくる。
ロイが殺したのもロックベルという夫婦で医者をやっていた。
そして、血に塗れた写真には…。
視線を隣のウインリィに向ける。間違いない。あの写真はこの子だ…。
しかし何かがおかしい。の真紅に輝く瞳が大きく見開かれた。
違う!
彼は殺してなんかいなかったのだ。
写真に写る夫婦とロイが殺した夫婦とされる者たち。
決定的に違うことがあった。今思い返せば死体の確認のため、ロイについて行った時に感じた違和感はこれだったのかもしれない。
そう、あの死体は、そもそも人ではなかったのだ。
なぜ気付かなかったのだろうか?今思い返せばあの時にすぐわかったはずだ。
しかしあの時の状況では自分の正常な判断力が回復していたとは思えない。
ロイに、伝えるべきだろうか?
いや…、それよりもあれが人でないならば。
あの時
あの時彼は何を殺したんだ?
あとがきという名のいいわけ
と、いうわけでまたまた短連載第二弾です。
やってきましたリゼンブール♪
もしくはやって来ちゃいましたリゼンブール。
近くに土手にいい感じの芝生があるのですが今も近所の小学生とダンボールを敷いて滑っています。
身体は大人!頭脳は子供!その名も…、別ジャンルでした。
しかも逆だし(w
やー、でも自然はいいですね。今、外は暑くて暑くて腐りそうなので出ませんが。
実際世界から切り離されたような錯覚を覚えるほどきれいな緑を下にして昼寝をしたことがあります。
やはり自然は大切です。
長くなりましたがここまで読んでくださってありがとうございました。
感想お待ちしています。
ところで、拍手ですが、まだUPしていません。
本当にすみません!
近日UPしますのでお許しくださいませー!