あの時
あの時彼は何を殺したんだ?
のこされていたもの-3-
は口を覆って一歩後退した。
あの時ロイが殺したのは、一体何だった…?
混乱して思考をまとめようにもまとまらない。
「さん?」
「ふぃー、喉乾いた」
扉を開いたエドの目には真紅の瞳が何かに怯えたように見開かれたの姿が飛び込んできた。
「…?おい!!」
弾かれたようには真紅の瞳にエドを映した。すぐにそらされた目はドアへ向かう。
「あ…、な、何でもないよ。ちょっと散歩してくる」
は家を半ば飛び出した。少し、落ち着く必要がある。
また、どこか別の世界で起こったことのように頬に触れる風を感じていた。
過去の記憶を呼び戻そうにも霧に覆われたようにその部分だけ霞んで見えない。
足は自然と小高い丘に吸い寄せられるように動いた。
黒い、炭のようなものが遠くに見える。
次の一歩を踏み出したとき、背中に冷たいものを感じた。
これ以上近づいてはダメだ。本能がにそう告げるが足はどんどんそこに近づいていった。
嫌な汗が流れていくがそれを拭う余裕すらない。。
「な…何なんだよ…」
いきなりとてつもなく大きな"痛み"がに襲い掛かった。
しかし足はさらに前に進んだ。自分の意志とは無関係に歩み続ける。
「く…そ…」
くぐもった声を何とか出すくらいしかできない。締め付けらるれような"痛み"に息があがっていった。
歯を食いしばってそれに堪えるが次第に近くなる炭らしき物体に近づくにつれ、"痛み"はさらに強くなっていく。
『兄さん!!』
『アルー!!!』
その叫び声が聞こえたと同時に足から体を支える力が奪われた。
倒れ伏したは何とかこの場から逃げようとするが体は動かなかない。
「そっ…か、これが…」
ただ悪夢であればよかったと後に思うような過去の映像が再生されていた。
『返せよ!!たった一人の大切な弟なんだよ!!』
答えるのは昔会ったあいつだった。通行料と称して持っていかれた体の一部、そして人の形になり損ねた肉塊。
地面に倒れ伏したの体が一度だけ跳ね、意識はそのまま闇に飲み込まれていった。
「やっぱ探してくる。さすがに迷子って事はないだろうけど…」
「そうだね、さん、何だか様子がおかしかったし…」
「ああ」
席を立った二人はデンを連れて家を出た。迷う事無くデンは二人を導く。
「こっち、家の方向だね」
アルがそう言ったとき、デンが吠えた。
「な…!!」
家の残骸にほど近いところにはいた。駆け寄り、まず呼吸を確かめる。
「…兄さん」
「大丈夫だ、息はしてる」
二人は安堵の声を漏らしたが、苦しげに歪められた顔に真紅の瞳は閉じられたままだった。
「ど、どうしよう…」
「とにかくばっちゃん家に運ぶぞ!それから大佐に連絡しないと」
「うん!」
鎧の腕に抱えられた身体が振動で揺れる。ふいにエドはの首筋に手を置いた。
怖くなった。こうして見ていると、してはならない想像をしてしまう。
二人はロックベル家に走り帰り、乱暴に扉を開いた。
「ちょ…、一体どうしたの!?」
アルに抱えられてぐったりとして動かないにウインリィとピナコが椅子から立ち上がった。
「わかんねぇ、とにかくアルはをどこかに寝かせて…。俺は大佐に電話する」
穏やかだった風が、急に荒々しく吹き始めた。
「中尉…、なんだか書類が全く減る気配がないのだが?」
「中佐の分もやっていただいていますから」
帰ってきたら仕事を押しつけてやろう、とロイは眉間にしわを寄せた。
次の書類に手を出したのと電話が鳴りはじめたのは同時だった。
ロイの手は予定変更をして受話器に向かう。
『国家錬金術師エドワード・エルリック様よりお電話です』
「繋げ」
交換士が回線を繋ぎ変える音がした。
これが人の手を借りることなく行われれば随分と電話もスムーズに繋ぐことができるだろうに。
電話の相手が誰であるかを知ったロイはやる気なさげに手に持っていたペンを回した。
『大佐か!?』
切迫した声が聞こえてきて、そのペンは机の上に落ちた。
「どうした鋼の、何をそんなに…」
『がぶっ倒れた』
リザはロイの表情が変わるのを見逃さなかった。
「どういうことだね?」
『そりゃこっちが聞きたいくらいだね。苦しそうにして目を覚まさない』
何かあっただろうか、と考えを巡らせるまでもなかった。
ロイの顔に後悔の色が浮かんだ。あの場所にあるものの事をすっかり忘れていたのだ。
忘れてはいけない事であるにもかかわらず。
「鋼の、は…」
『なーんてね、やぁロイ』
いつもと変わらないの声が受話器から聞こえてきた。
「仕事ははかどってるかい?」
苦しそうな表情とは正反対に声だけはいつもの調子で受話器に吸い込まれる。
『大丈夫なのか?』
「もちろん。ちょっと油断しちゃっただけだよ」
受話器を奪われたエドは唖然とそれを見つめていた。何とか体を支えているのは電話の置かれたテーブル。
どんどん険しくなっていく表情とは反対に声はさらに調子をあげた。
「俺の有り難みがわかったろ?感謝してほしいね」
『そのような口がきければ問題はないな』
「もちろん。エドは初めてだったから驚いたんだよ」
心配したのか、とはロイをからかう口調で言い放った。当然返ってくるのは否定の言葉。
『鋼のはともかく、その家の人に迷惑を…』
「わ…かってるって!ホントいつまでたっても俺って子供扱いだよな」
ちょっとした口調の変化に気づいてしまうのがこの兄だ。いくら冗談から発生した兄弟関係だからと言って油断できない存在であるのは確か。
『どうかしたか?』
「エドが変な顔してるから笑いそうになっただけだよ」
それからは激励してすぐに受話器を置いた。それと同時に支え切れなくなった体が崩れる。
「な、何でこんな…」
「あいつにこれ以上無駄な心配かけたくないんだ。ただでさえ心配性なのにさ」
何かに堪えるように寄せられた眉とは異なり、瞳と口元はやさしい笑みを作っていた。
「さん!」
急にソファーからいなくなったを探しにアルフォンスが重たい音をたてて走りよってきた。
「大丈夫だよ」
「でもそうは見えませんよ!」
この家にも"痛み"が残っている。一度きっかけを作ってしまえばあとは流されるままに"痛み"を感じるしかない。
一息おいては机にほぼ全体重をかけて立ち上がった。
「さん!」
「アル…、悪いけど君の家があった場所とこの家と正反対になる場所に連れて行ってくれないかな」
離れた場所に行けば少しは落ち着くはずだ。
「頼む…」
「アル」
兄の声にようやくアルフォンスは動きだした。
あとがきという名のいいわけ
うーんイマイチ…なんて言ったら元も子もないか。
やっぱりさくっと終わらせて次の連載に行きたい気分です。
でっかい犬が出てくる話の方が個人的に好きなのですが。
と、いうか最近リザ氏と主人公氏の接点があまりないような気がしなくもない…。
次回更新は翌日ということで、よろしくお願いします(w