「んじゃ、いってらっしゃい」
会議室の前で自分とは全く関係がないことを全面に出した笑顔では手を振った。
18. 大切なもの
「さて、エリシアちゃんにお土産でも買っていってあげますかね。中尉も一緒に行きましょう」
ロイを会議室に送り出した二人は無駄に長い廊下を歩いていた。
「私もですか?」
「いや、予定があるんだったら無理にとは言わないけど…」
「いえ、予定はありませんが…。私が行ってもよいものかと」
最近中尉が犬のように見えて仕方がない。
こちらを窺っている顔なんて特にそうだ。
「むしろ喜ぶと思うけどなぁ」
「そうですか?」
「マースの親バカが近くで見られるよ」
動物園にでも行くようだ。
ついその笑顔につられてしまう。
「わかりました」
そう返事をするとまた大佐が言うところの『悩殺!万国ビックリスマイル』で笑った。
それから一度軍の宿泊所に戻り、服を着替えて再び出かけた。
そして今ヒューズ中佐宅の前に立ってる。
「ぴーんぽーん」
「中佐…」
どうやらドアベルを鳴らすときについ口に出ちゃうタイプらしい。
「マース。俺とリザさんでーす」
「おう!今行く」
遠くから声がして、そして小さな足音と大きな足音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん!」
「エリシアちゃ〜ん!」
足下で感動の再会をしている二人。
子供好きだとは知らなかった。
「お邪魔します」
「おう!エリシアも喜ぶってもんよ」
しっかりマイホームパパの顔になっている中佐の後ろから奥さんが出てくる。
「いらっしゃいませ」
「初めまして。リザ・ホークアイです」
「グレイシアよ。よろしく」
は相変わらずエリシアと頬を合わせたり額を合わせたりしていた。
「リザさん、エリシアちゃんだよ」
「こんにちわ」
ヒューズ中佐が可愛いと言って自慢するだけはある。
「こんにちは、エリシアちゃんはいくつ?」
「ふたちゅ」
「「やーん、かわい〜!」」
ダメだこの二人。
完全にやられている。
「お邪魔します、グレイシアさん。あ、これお土産です」
「ありがとう。すっかり大きくなっちゃって」
の頭をぽんと叩いて笑う。
「まだまだですよ」
「さ、中に入って。」
言われるままに家の中にはいるといい匂いがした。
「もしかしてグレイシアさん、アレ作ってる?」
「当たり。もう少しで出来るわ」
エリシアを抱き上げたは目を輝かせていた。
「リザさん、グレイシアさんの焼くパイってすっごく美味しいんだよ」
この家に来た途端、妙に子供みたいになっている気がする。
オフィスでは見ることの出来ない笑顔に何故か心臓の音が大きくなった。
「おいしいのー」
「「か〜わい〜!!」」
とマースの声が重なる。
「いいな〜、エリシアちゃんみたいな子供が欲しいよ」
「だろだろう〜!かわいいでしゅねー」
男連中がメロメロになっている間、二人はキッチンに移動。
いい加減慣れてしまったグレイシアはリザがどう反応してよいものか困っているのを引っ張っていった。
「ごめんなさいね、お手伝い頼んじゃって」
「いえ…。あの、このパイの作り方を教えていただけませんか?」
一瞬でグレイシアは見抜いていた。
「君でしょ?彼はいい子よ、旦那さんにもってこいだわ」
顔の表面温度が上昇してしまう。
「あ、その…」
「彼のことは…、そうね、五年くらい前からいつも遊びに来てたから態度でわかるわよ」
両想いね、とグレイシアは微笑む。
「あんな無邪気な笑顔、私とマースとマスタングさん以外に見せたこと無いでしょうね」
「はい…」
「ちょっと不安定なところがあるみたいだけど、大丈夫。あなたが支えてあげるといいわ」
ヒューズ中佐には申し訳ないが、彼にはもったいない気がする。
「それで?もうお付き合いしてるのかしら?」
「な〜に話してるのかな?」
「なあなあ中尉、エリシアちゃんかわいいだろ〜?」
騒がしい男たちがキッチンにまで押し寄せてきた。
先ほどの話を聞かれてはいまいかとリザの顔の表面温度は上昇している。
「ほらあなた、あっちでエリシアの面倒を見ていてちょうだい。準備が出来たら呼ぶわ」
「…グレイシア」
急に真顔になったマースはエリシアをに預け、グレイシアの元へ歩み寄る。
「やきもちを焼くな。愛してる」
周りのことはお構いなしに頬にキスをしまくっている。
正直、どこに目をやればよいのか困る。
「マース、君ねぇ…」
「中佐…」
二人して額に手を当て、ため息をつくしかなかった。
「お前らも俺達みたいな夫婦になれよ」
「「なっ…!」」
ボン、と音がしそうな程、二人は赤くなった。
「ククク…、若いねぇ」
「あなた、若い人たちを困らせてないで。あっちで遊んできて」
「ほいほ〜い」
「マース…!」
「いいからいいから」
よくねぇ!と言いたいところだがこれ以上リザに妙なところは見せられない。
振り返らずにリビングへ行き、エリシアと戯れていた。
照れ隠しだった。
「それでは、いただきま〜す」
「どうぞ」
エリシアと同じポーズでフォークを持ち、同じ動きでパイを食べている。
「美味しいねぇ」
「おいしー」
その様子にまたもメロメロな男二人。
「やっぱり週一度はセントラルに来ようかなぁ。そしたらグレイシアさんのパイが食べられるし」
「あら」
グレイシアはリザをちらっと見て笑った。
「今度からはリザさんが作ってくれるらしいわよ」
「え…、本当!?」
ね、と顔を傾けて笑う。
「…はい」
「よかったな、。」
「楽しみにしてるよ!」
そんなに目を輝かせるのは反則です。
「はい…」
このまま大佐を迎えに行かなかったら、ずっと一緒にいられるのに。
…それは、さすがに問題があるだろうけれど。
はいい加減パイで汚した手を洗った後、エリシアを膝に乗せて話をしていた。
子供同士話が合うのかもしれない。
「そうだ、エリシアちゃんにあげるものがあるんだ」
エリシアに立つように言ったはパン、と音をたてて手を合わせた。
光が集まり、小さくてガラス細工のような犬を作った。
続けて大きさの違うものを二つ作る。
静かにそれは光り輝いていた。
「これ、あげるよ」
「うわ〜、きれーい」
エリシアは見たことのない光り輝くガラス細工を凝視した。
「!」
「俺、どうしてもこれがあげたかったんだ」
驚いた表情のマースにはいつもの笑顔で言う。
「はいこれ、マースとグレイシアさんに」
はそれぞれに光り輝く犬の細工を手渡す。
「落として割れてもすぐに元に戻るから」
リザさんは後で、と小声で言う。
今日は反則技だらけだ、とリザは赤くなっていた。
「じゃあ、また来るよ」
「おう、今度会ったらどこまで進んだか教えろよ」
バカヤロー、と住宅密集地で叫ぶのはどうかと思うが。
「お邪魔しました」
「また来てちょうだいね」
「はい…」
この夫婦はくせ者だ。
そうでなければヒューズ中佐と釣り合うはずがない。
「じゃあね、エリシアちゃん」
「すぐまた来てね」
「もちろん」
手を振り、ヒューズ宅から離れていく。
マーケット通りを過ぎた辺りでは立ち止まった。
ポケットからピアスを取り出す。
「あんまりデザインとか詳しくないから…、これでもいいかな?」
リザの前に手を差し出すと、それを手の中に落とす。
「あんまり光りすぎだと目立つから…」
「これを…、私に?」
「そう。頑張って青く見えるようにしてみたんだけど」
彼がいつも錬成するものは目を引くように輝くものばかりだった。
「結構光らないようにするのって難しいんだね。これ以上リザさんが目立っちゃうと俺が困るから」
照れたように笑うは肩をすくめて見せた。
「ありがとう、」
「俺に、リザさんを好きになる資格があるかはわからないけど。でも」
うるさい心臓の音をどうにかしたかった。
そうしないと彼の声が聞こえなくなってしまいそうだから。
「俺はリザさんが大切だよ」
そう言ったはものすごい勢いで顔をあさっての方向へ向けた。
もはや自分が何を言って良いものかわからない状態。
「、私はあなたを守るわ」
「俺を?」
「そうよ」
ギギギ、と音がしそうなほど不自然に首をこちらに向けた。
「だってあなたはいつも鉄砲玉。危険すぎるもの」
ほのかに染まったリザの瞳には焔があった。
罪の瞳には絶対に宿らない、焔。
「そっか。ありがとう」
でも、とは続ける。
「とりあえずロイを早く迎えに行かないと。時間…」
銀時計を開けて引きつった笑いをしている。
「あと十五分ですね」
「ああ、あと十五分だ」
お互い先ほどの雰囲気はどこかへ飛んでいってしまったようだ。
ここから走って五分というところか。
そして着替えて会議室に…。
「リザさん、やっぱり飛んだ方が速い!」
はリザの手をとり物陰に隠れる。
「ちょっと風圧がキツイと思うけど許してな」
「でも…」
「いくよ!」
とリザの足下の地面はあっという間に遠くなった
そしてあわてて宿舎へ。
「いやぁ、セーフだね」
はまだ静かな会議室の前に立っていた。
ホークアイ中尉もその隣で大きく深呼吸している。
会議室の中にいる上司を待つ部下たちが既に待機してた。
程なくしてドアが開かれる。
「おつかれ、ロイ」
「おつかれさまです」
不自然なの笑みに疲れた表情のホークアイ中尉。
ロイは不思議そうに首を傾げた。
「何かあったのか?」
「いや、特に何も」
いやだなぁ、とロイの肩を叩く。
「とにかく、今日はみんなで食べに行こうよ。俺の奢りで」
「…何か隠してないか?」
「今のところ隠し事はないかもね」
一瞬驚いた顔になったが呆れた表情での頭に手を乗せる。
「困ったヤツだ」
「わかってたくせに」
ロイに嫉妬しても仕方がないのはわかっているのだが。
リザはロイが一番のライバルのような気がしてならなかった。