「よお、久しぶり、エド」

「元気そうだな」

「ボチボチかな」

豆(二代目)がアルと一緒にやってきた。




































はすでに傍観者を決め込んでいた。

「将軍もアホって言ってしまえばそれまでだな」

「ま、それで大佐には借しが出来たことだし」

「ははぁ、なるほどね」

「借りは早めに返してもらわないと」

デスクについたままで手を振る。

「ま、小さいって馬鹿にされないようにね」

「誰がミジンコだー!」

本当に、昔の俺によく似てるなぁ。

「アル、こんな兄貴じゃ苦労するな」

「はい」

「否定しろ!」

「とりあえず、いってらっしゃいな」

ドアが閉まるのを確認しては再び書類に向かった。

ふう、やっと無能大差から回ってきた書類を処理できる。




































机を叩く音が広範囲に響いた。

「タッカーを紹介したのか?!」

「彼らが望んだのでね」

「よりによってあんな…」

はこの先を言うことは出来なかった。

実証されていないことを言うわけにはいかない。

は黙って部屋から出ていった。

















「まだ傷は深い、か」

ロイは椅子に腰掛け直し、窓の外を眺めた。







































エドはの机に居座っていた。

『綴命の錬金術師』であるショウ・タッカー邸はアルに任せてきたと言った。

「なあ、聞きたいことがあるんだけど」

「何かな?俺に答えられることだったら答えるけど」

は二年前にタッカーさんの合成獣を見たのか?」

エドから目を離し、目を細める。

「見た。だがエド、それから先は知らない方がいい」

「死にたいって言って、餌も食べずに死んだんだろ?他にも…」

「確かに、死にたい気持ちもよくわかるよ」

その場にいた者が顔を上げる。

その中の一人、ホークアイ中尉は他の者よりよりいっそう不安げな表情をしていた。

「エド」

真剣な眼差しに言葉が出ない。

「知らないことがいいこともあるんだ」

「でも!」

の瞳に金色を見て、エドはその部屋から出ていった。

「ごめんな、エド」

俺の予感はよく当たるから。


あぁ、嫌な予感がする。

タッカーが変な気を起こさなければいいのだが。























































「おいおいマスタング大佐さんよ、俺ぁ生きてるタッカー氏を引き取りにきたんだが…」

ビニールシートの下には何かが隠されていた。

「死体連れて帰って裁判にかけろってのか?」

ショウ・タッカーと、その娘と犬だったものが朱く染まっていた。

「たくよー、俺たちゃ検死するためにわざわざ中央から出向いて来たんじゃねえっつーの」

「こっちの落ち度はわかっているよ、ヒューズ中佐。とにかく見てくれ」

ヒューズ中佐の愚痴に思わず額を押さえてしまう。

「ふん…、自分の娘を実験に使うような奴だ。神罰がくだったんだろうよ」

ビニールシートを持ち上げる瞬間は顔を逸らした。

「大丈夫か?」

「あぁ…」

顔色があまり優れない。

完全に傷が癒えたわけではないのだ。

「うええ…、案の定だ。外の憲兵も同じ死に方を?」

「ああ、そうだ。まるで内側から破壊されたようにバラバラだよ」

ヒューズ中佐は立ち上がり、血をふき取る。

「どうだ、アームストロング少佐」

大柄な軍人は頷く。

「ええ、間違いありませんな」















「“奴”です」




「『傷の男』?」

腕を組んだロイは聞き慣れない言葉の意味を尋ねた。

「ああ。素性がわからんから、俺達はそう呼んでいる」

「素性どころか、目的も凶器も不明にして神出鬼没。ただ、額に大きな傷があるらしいという事くらいしか情報が無いのです」

少佐は額を指さす。

「今年に入ってから国家錬金術師ばかり、中央で5人。国内だと10人はやられてるな」

「ああ。こっちにも、そのうわさは流れてきている」

数日前に見た資料に書いてあったな、とロイはその情報を思い出していた。

「ここだけの話、つい5日前にグランのじじいもやられてるんだ」

「『鉄血の錬金術師』グラン准将がか!?軍隊格闘の達人だぞ!?」

「信じられんかもしれんが、それくらいやばい奴がこの街をうろついてるって事だ」

真剣な表情につられてロイの眉間にも皺が寄る。

「悪い事は言わん。お前とは護衛を増やして、しばらくおとなしくしててくれ。これは親友としての頼みでもある」

「…は、どこに行った?」

近くにいたホークアイ中尉が答える。

「先ほど屋外に行かれました。外の空気を吸ってくるそうです」

そうか、と再びヒューズの方を向く。

心配性だ、と自分を笑う。

「ま、ここらで有名どころと言ったら、タッカーとお前さんくらいだろ?タッカーがあんなになった以上、2人が気をつけてさえいれば…」

「まずいな…」

ヒューズの言葉を遮る。

のよく言う嫌な予感だ。

「宿にエルリック兄弟がいるか確認しろ。至急だ!」

「あ、大佐。私が司令部を出る時に会いました。そのまま大通りの方へ歩いて行ったのまでは見ています」

最悪だ。

この辺りをまだ傷の男がうろついているとしたら…。

「大佐!中佐が見あたりません。外を確認したのですが…」

「何?!」

は勘が鋭い。

まさか…。




「車を出せ!手の空いている者は全員大通り方面だ!!」
















































「エド、アルー!!」

が見たものは無惨に右腕を破壊され、今にもスカーに殺されそうになっているエドの姿だった。

「なるほど分解、か」

、逃げろ!」

その言葉にその男が反応した。

か?」

「…そうだ。」

男の気配が変わったのがわかった。

「『光の獅子』か…。お前は念入りに殺す!」

『光の獅子』

思い出したくもないその言葉。

「そう簡単に殺されるわけにはいかない。エドとアルも殺させない!」

パン、と音を立てて光を集め、かぎ爪を作る。

「光の獅子よ、死んでもらおう」

飛びかかる傷の男をかわして、かぎ爪を振るう。

それは傷の男の頬をかすめ、一筋の線を作った。

「ほう…。だが!」

傷の男がエドの方に飛びかかっていった。

「やめ…!」

しまった、と思ったときには既に遅かった。

傷の男の手がの喉を捕らえる。

「あ、くっ…」

壁に押し付けられて身動きがとれない。

「やめろー!!」

エドの声が微かに聞こえる。

「終わりだな」

意識が遠のいていく。







ドン!















「そこまでだ」

マスタング大佐の放った拳銃が空を向いていた。

「!中佐…!」

ホークアイ中尉は傷の男に拳銃を向けるが、そこには表情のうかがえないもいる。

傷の男は力の限りを投げ飛ばした。

「大佐!こいつは…」

「その男は一連の国家錬金術師殺しの容疑者…だったが、この状況を見て確実になったな」

動かないにホークアイ中尉は気が気ではない。

投げ飛ばされたままの状態で倒れている。

「タッカー邸の殺害事件も貴様の犯行だな?」

はっとしてたエドが、スカーを睨みつける。

こいつが…!!

「…錬金術師とは、元来あるべき姿の物を異形の物へと変成する者。それすなわち、万物の創造主たる神への冒涜」

右手を強く握り、それを見つめている。

「我は神の代行者として、裁きをくだす者なり!」

「それがわからない。世の中に錬金術師は数多いるが国家資格を持つものばかり狙うというのはどういう事だ?」

ロイも後ろに倒れたままのに目をやる。

「…どうあっても邪魔をすると言うのならば、貴様も排除するのみだ」

よくもを…。

ロイの瞳には焔があった。

「…おもしろい!」

「マスタング大佐!」

銃を受け取ったホークアイ中尉が制止しようとする。

「おまえ達は手を出すな」

そう言って発火布を装着する。

「マスタング…、国家錬金術師の?」

「いかにも。『焔の錬金術師』ロイ・マスタングだ!」

危うく無能の錬金術師は敵に向かって突っ込んでいくところだった。

リザがロイの足をはらう。

そして発砲すると同時にカカカッと音がしてスカーの足下に光のナイフが刺さる。

「光…、獅子か」

が立ち上がる。

気配が全く違う。

!!」

ロイは声の限りの名を呼んだ。

「手、出すんじゃねぇよ。俺の大切な奴に、手を出すんじゃねぇ!」

獅子が吠えていた。

赤い瞳には金の光。

曇りの天候で暗くなったせいでさらに目立つ。

額を切ったらしく、血が流れてそれが血の涙のように見えた。

「『光の獅子』をご要望か?いいだろう」

笑うその顔は約13年前の獅子。

体中の毛が逆立つような感覚。














「死ね」












大きく広げられた翼からナイフが飛ぶ。

「くっ…」

スカーは何とか避けるが少々の切り傷は免れることが出来ない。

「へぇ…。やっぱり地上戦にしようか」

は地上に降り立つと翼を消し、先ほどとは違うかぎ爪を作る。

「今度こそ、死ね」

その笑顔に辺りの者は凍り付いた。

完全な死をイメージさせる。

「遅いよ」

は完全にスカーを捕らえていた。

しかし、















「待たれよ」















のかぎ爪は止められていた。

「アームストロング、少佐か」

!!」

ロイの声に我に返る。



このかぎ爪は、この惨状は一体…。

「中佐、下がっていてください」

ハボック少尉が飛び出し、の腕を掴んだ。

そのままロイのところへ引っ張る。

!」

「俺は、また…、殺…?」

「黙っていろ」

自分の黒いコートをにかける。

「ふぅーむ。我輩の一撃をかわすとは。やりおるやりおる」

アームストロングが錬成陣の書かれた手甲をはめ、破壊をしていた。

「国家に仇なす不届き者よ。この場の全員滅ぼす…と言ったな。笑止!!ならばまず!!この我輩を倒してみせよ!!」

後ろでは先ほど支えを破壊してしまったため、壁が崩れ落ちていた。

「この“豪腕の錬金術師”…アレックス・ルイ・アームストロングをな!!」