「休暇?何ソレ?」
確か俺は今日から二日間休暇だったはずなのに。
じゃあどうしてこんな弾が飛び交う中で新品の銃を構えているんだろう?
「休暇、仕方がないから許可してやったんだぞ」
感謝しろ、とロイは嫌々書類を手渡した。
「感謝してるよ」
嬉々としてそれを受け取る。
「どうしても行きたくてさ」
「どこへ行かれるのですか?」
ホークアイ中尉はそう言った後に、聞いてはいけなかったかと小さく声をあげた。
「ああ、今回は別に大した用事じゃなくて…」
こちらを伺うような瞳に、叱られまいかと怯えている犬の顔が浮かんだ。
こういう犬は頭を撫でてやりたくなる。
「ギリギリ東部になるんだけど、頼んでいた銃を取りに行かなくてはならないんだ」
それを聞いた注意の顔ははっきりとわかるほどに安堵の表情。
「その銃だけは送ってもらうわけにはいかないからね」
「また特注品か?」
ロイが呆れた様子でこちらを見上げている。
彼が座っているときは正直なところ優越感。
「まぁね。今の銃じゃあちょっと性能が…ね」
二丁の拳銃はそれぞれ型が違う。
それはいつもと変わらずホルスターに収まっていた。
「ではその拳銃はどうされるんですか?」
「あぁ、使わなくなっちゃうね」
中尉は何かを考え込んでいるようだったが、急に顔を上げる。
「お使いにならないのでしたら私に譲ってください」
「…コレを、中尉が?」
「はい」
は難しい顔になってホルスターから二丁の拳銃を抜く。
「そうだな、中尉、ちょっと手を見せてもらっていいかな?」
「手、ですか?」
差し出された手をまじまじと見つめる。
昨日の今日でリザは自分が妙な顔をしていないか心配だった。
「右のやつじゃないと多分合わないだろうな」
そう言って再び中尉の手に目を落とす。
「ちょっとだけ削った方がいいな…」
あぁ、中尉の手じゃないからね、と慌てて言うところが可愛い。
「一時間くらいくれたら調節できるよ。書類はちゃんと終わらせるから心配しないで」
そう言うと勢いよく部屋から出ていった。
「よかったな、中尉。彼の銃は非常に高性能だぞ」
「あ、はい…」
呆気にとられてしまった。
すぐに行動しなければ気が済まないタイプなのだろうか?
ものすごい音をたてて走ってくる人物がいると思ったらそれは彼だった。
「こんな感じだけど、どうかな?」
が差し出したのは少しばかりグリップ部分が改造されてるようだった。
手になじむその拳銃をとりあえず傍にいたハボック少尉に向けてみる。
「ちょ…、中尉!」
慌てて手を挙げているところを見ると、以前にも何かやったに違いない。
手を『挙げなれて』いる。
「冗談よ」
「ちょうどいいところにいるからだよ〜」
ハボック少尉っておいしいねぇ、とは笑い始めた。
笑い始めるとちょっとじゃ止まらないタイプだ。
「大丈夫そうだね」
そう言うもののまだ笑いが治まらない様子だ。
「ですが、今私にこれを渡してしまったら…」
の右の腰を見ると見慣れない拳銃が収まっていた。
「予備があるから大丈夫。大切にしてね?」
「はい」
「さて、書類の処理にかかろうかな」
ちらっとロイの机にある山を見て、笑う。
「それは私に対するイヤミかね?」
「さぁね」
休暇許可の紙を嬉しそうに眺めていた。
「おじさん、俺だけど」
「よお、よく来たな」
目がぎらりと光る。
子供が見たら正直なところ泣かれてしまうタイプだ。
「ちょっと待ってろ」
にやっと笑うその顔は自分の銃に自信がある証拠。
相変わらずこの店はいい銃を置いている。
主人の一つ一つ手作りな上、微調整までしてくれるのだ。
まだ昼間だからだろうか、店には誰もいなかった。
「おう、これだ」
「うわ、すげー…」
一目で見てわかる。
彼の最高傑作だ。
それらを手にとり、壁に向かって構えてみる。
「ぴったりだ…、さすが!」
思わず笑みが漏れてしまう。
「あったり前だ」
「これくらいでどうかな?」
机の上に帯のついた札束をいくつか置く。
ここの店は買い手が料金を決める制度だ。
仕事に見合った料金を支払う。
「充分だ」
笑うと子供が泣くからやめた方がいい、と言いたいが生憎この店に子供は来ない。
この店は自分が本当に求めている銃が手に入る店。
錬金術で作るのではなく、全てが手作りだから高いのは仕方がない。
「ありがとう、また頼むよ」
「そうしてくれ」
そう言うとさっさと店の置くに引っ込んでしまった。
注文が多いのだろう、店の置くから早速何かを削る音が聞こえてきた。
「汽車にするか、もしくは…」
飛ぶか、だ。
しかし、しばらく汽車は来ない。
「…飛ぶか」
パン、という音を立てて手を合わせ、いつものように手を背中にやる。
長距離並スピード仕様の長さまで光を引っ張り、形を作った。
左右の銃が抜け落ちないかをしっかり確認して助走をつけ、飛び立った。
久しぶりに上空の空気を感じる。
電柱にぶつからないようにしないと。
ブラインドをおろしたように光が入ってこない目は役には立たない。
頼れるのは己の感覚のみ。
飛んでるときに太陽の眩しさを体験してみたい。
背中が暑いくらいだからきっとこの目が光を映していれば眩しくて思わず目を閉じてしまうかな。
そうだ、昨日のパンがまだあったな。
いや、そんなことよりお土産でも買って帰った方がいいだろうか?
あ〜、こんな事考えている場合じゃない。
嫌な予感がするなぁ。
ほーら、やっぱり。
銃声がするじゃないか。
「銃を降ろせ!」
「人質は無事なのか!?」
捜査権でいる軍人の傍で冷静に会話をする中尉。
「大佐、立てこもりの犯人は五人です」
この前もこんなことがあったな。
「なるほど。それで、要求は?」
「一億センズと、中佐です」
それを聞き思わず苦い顔をする。
「彼は休暇だ、と言っても無駄だろうな」
「一応言ってみますか?」
「…無駄だと思うが」
ホークアイ中尉はスピーカー担当の軍人に彼は休暇でいないことを伝えろと命じた。
『あ〜あ〜』
『中佐はー!今ー!休暇でどこにいらっしゃるかー!わからないー!』
『うるせぇ!連れてこい!』
「やはりな」
「そうですね」
無駄とわかっているなら言わせるなよ、とその軍人は思ったが口には出せない。
あのホークアイ中尉がいるからだ。
の目的地と当方司令部とのちょうど中間にこの現場があるが、ここを通るとは考えにくい。
「…ハボック少尉、変装でもするか?」
「俺じゃあ身長が…」
元祖・豆から170p越まで大きくなったとはいえ、ハボック少尉には全く及ばない。
そんなことを考えているうちに中から銃声が聞こえた。
一気にその場に緊張が走る。
「まず一人目ぇ、二人目ぇ。で、犯人は君たち以外で何人?」
「知らねぇよ」
「…選択肢その@ー、このまま俺にボコられるー。そのAー、人数を教えるー。そのBー、…鼻に銃弾を詰めるー」
その笑顔に背筋が凍り付く二人。
「に、A番…。あと三人だ」
「ありがと。じゃあおやすみ」
「結局ボコるんじゃねぇか!」
ぎゃー、という悲鳴を上げる間もなく新しい銃で二人を殴る。
「…帰ったら綺麗に磨かないと」
ゆっくり、気配を感じつつ階段を下りた。
いるいる、あー、人質が…三人。さっきの銃声で混乱気味だな。
さっさとどうにかするか…。とりあえず、三人の周りに壁を作っておこう。
それから…。
「動くな!!」
一斉に三人が銃口を向けるが遅すぎる。
二人の拳銃だけを撃ち飛ばす。しばらく手は痺れて動かないだろう。
残りの男が発砲するが、人質の光の壁に当たって跳ね返ってしまった。
「うわ!」
跳ね返った銃弾を避け、先ほどと同じように銃のグリップ部分で殴る。
こうなったらヤケだ!と言わんばかりに二人が突っ込んできたため、はナイフを錬成して壁に留めてやった。
「よかった。ぴちぴちな服を着てたらちょっとだけ流血沙汰になってたところだよ」
全身タイツだと赤信号。
先ほど倒してしまった恐らくリーダーであろう男は鼻血ブーだからしっかり流血沙汰だ。
おろされていたブラインドを開け、勢いよくドアを開く。
「うわ!ちょっと待って!」
一斉に銃を構えるものだから思わず手を挙げてしまう。
たてこもりや強盗なんてするもんじゃない。
よもや自分がこんな体験ができるとは思いもよらなかった。
「中佐!」
「!どうして…?」
「新しい銃の性能が試せてよかったよ」
私服のは全身黒だった。
薄目のコートに足の長さがよくわかるズボン、そして上も黒のシャツ。
これでは犯人と間違えられても仕方がない。
「中に五人。うち二人は壁に留めてあるし、二階にもいるから」
そう言って手を振る。まだ夕方までは時間がある。
さっさと退散のアクションを取るがロイに服の裾を掴まれる。
「待て。お前が帰ってどうする?」
「俺は休暇中…」
「この事件に関しての書類を早めに作ってもらわないとな」
「軍服、洗濯に出しててまだ乾いてないよ〜」
「犯人を倒したのはお前だろう?」
そう言われても休暇中なのに…。
折角今日はこの銃を磨こうと思ってたのに。
パンだってまだ残ってるし。
「諦めろ」
「嫌だ」
「…上司の命令だが?」
ニヤニヤと笑っているロイははっきり言って性格が悪そうだ。
「…職権乱用男」
「何か言ったかな?」
「わかりました、マスタング大佐」
普段呼ばれなれていないロイは背中に何か寒いものを感じた。
普段と違う服装で座るは新鮮だ。
明らかに不満そうな顔で報告書に記入していく。
「大体、俺の休暇って今日までのハズなのに。無能のくせに部下をこき使うことばかり有能なロイのバーカ、オヤジ」
「中佐、聞こえてますが?」
「…俺の休暇が」
そんなの様子を見てホークアイ中尉が立ち上がり、紅茶を作ってきてくれた。
「中尉」
目を輝かせてこちらを見ている。
しっぽが是非欲しいところだ。
「どうぞ」
「ありがとう!」
カップを受け取り、香りを楽しんでいる。
黒い服を着ている彼はいつもと全く違うイメージだった。
「あぁ、これ、喪服の色だから」
視線に気づいたが笑う。
「他の色の私服なんて持ってないからね」
軍に入ってからはずっとこの色を着ている。
「、もう…!」
「わかってる、ありがとう。でもこれだけはね」
目を細めて窓の外を見ているだけなのに不安になる。
あなたは一体どこを見ているのだろうか?
私の手の届かないところ?
「中尉、心配しないで。俺はどこにもいかないから」
見透かされてしまった。
「本当にありがとう」
その笑顔は反則だと、以前にも…。
「、出来たか?」
邪魔が…、いえ、大佐はドアを壊すおつもりでしょうか?
「できたよ。はい」
「大佐、今日の分の書類はどうなりましたか?」
「…あと少し」
やっぱりロイは無能だね、と肩を叩き、笑う。
ここへ来た頃の彼の笑顔だった。
やはりあなたにはその笑顔が一番似合っています。