「は〜、そう言えば今日が給料日だったな」

どうでもよい、といった様子で椅子に怠そうに腰掛けていた。























05. 給料日















「給料日って、嬉しくないのですか?」

「ん?いや、嬉しかった」

椅子にもたれかかって、すでにやる気なんてないといった様子だ。

「『かった』とは?」

の隣でホークアイ中尉が会議に使うプリントをピンで留めていた。

「だって俺は軍属約十年だからなぁ」

「十年…ですか?!」

「うん。国家錬金術師の資格を取る前にもちょっとだけね」

油断しているところにドアをノックする音。

「う〜い」

「中佐、酔っぱらいみたいですからやめてください」

苦笑する中尉。

「あの〜」

「あ!君が鋼の?!」

はさっきまでとはうって変わった様子で、椅子から飛び退いた。

「はじめまして、俺は

だって?!じゃあ、あんたが歪の…」

「うん。うわ、やっぱりいい目してるね。それから、弟君!いいカラダしてるね〜」

なんてね、とは笑う。

鎧をコンコンと叩く。


















「さすがは、『天才』」


















鋼の錬金術師は警戒の色を示す。

緊張した空気が流れたが、すぐには吹き出した。

「君は、エドワード・エルリックで、後ろの君がアルフォンス・エルリックでいいかな?」

「何で知ってんだよ。大佐か…!」

は全く緊張感のない笑顔だ。

「見る人が見ればわかるってば」

「『天才』の名前は伊達じゃないってことか」

どうやら喧嘩を売るのが好きらしい。

「に、兄さん」




















バン、と良い音を立ててドアが開く。

真正面にいたエドは吹っ飛ばされてしまった。

「おや、アルフォンス・エルリック、久しぶりだな」

「あ、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「まぁまぁだな」

わざとだな。

は相変わらずのロイの行動に笑いを必死でこらえていた。






「こんにちは、アルフォンス君」

「あ、こんにちは」







和みムードはとてもいいことなのだ。







吹っ飛ばされた本人以外は。







「だー!!痛てぇっての!」

「ん?」

ロイは姿が見あたらないといった動きをする。

「おや、鋼のはどこかな?姿が見あたらないが」

「ここだ!ここ!」

「んん?」

「くっ…」

「くっそー!お前まだそんなコトしてやがるのか!!」

言おうとしたことを先に言われてしまった。

は机を叩く。

「お前はあの時もそうだったよな!俺が小さいからって…!」

子供のように感情を剥き出しにしてロイに突っかかる。

「…そうだったかな?」

「そうだ!顔を合わせるたび『はどこかな?』なんて言いやがって!」

ガクガクとロイを揺さぶる。

「今じゃあ『喰えば伸びる!二十四歳』だ!お前なんて『喰えば太る!二十九歳』じゃないか!」

「なっ…!」

「本当か?」

ロイが反論しようとしたが、先にエドが口を挟んだ。

「本当だよ。俺が軍に入ったとき…、確か150も無かった。それからここまで約十年だ」

「い、今何p…?」

「えーと、175p以上はあるかな」

思いきりガッツポーズをする。

「俺にも望みが!!」

「もちろん。大きくなって『おや、ロイはどこかな?』をやってくれ!」

俺はまだ足りないからな、とエドと握手をする。

だが、数pしか違わない。

『喰えば伸びる!』ならばもう少しで届きそうだ。

妙な同盟『ロイを上から見下ろすために喰うぞ同盟』が出来上がった。

横に伸びないことを祈る。

「エドワード君!」

「エドで良いよ」

「俺はでよろしく〜」

そうだ、とが手を叩く。

「今日は給料日だからどこかに食いに行こう。そしてロイを見下ろせる身長になろう!俺が奢るよ」

「い、いいのか?」

「もちろん。でも弟君が…、えと、アルフォンス君が食べられないからな…」

申し訳なさそうな顔をする。

「アルでいいですよ。それに慣れてますから」

「でもな…。だったら、元に戻ったらたっくさんご馳走するよ」

、どこまで知って…」

エドが妙に心配そうな顔になる。

「禁忌を犯した→等価交換→機械鎧、魂の錬成→賢者の石→元の身体へ、ってところかな?」

「でも賢者の石は…!」

ロイの方をちらっと見て視線を戻す。

「前に賢者の石についてロイに尋ねられてね。それで今思いついたんだよ」

あんまりいい思い出はないから、ロイは特に話するのもいやだっただろうね。

俺は敵じゃないよ。

はあの赤い瞳を優しい笑顔にした。

それでもなお表情を変えないエド。

仕方ないな、とはパン、という音を立てて手を合わせた。

光が凝縮されてチェスの駒が作られていく。

「…あんた、見たのか?」

「うん。見たよ。見ちゃいけないものを見た」

は目を閉じる。

「詳しくは、…もうじき話せると思うよ」

「いや、いいよ。話さなくていい」

「…ありがとう」

笑顔に照れる。

こんな笑顔をされてしまっては…。


















「じゃあ、行こうか二人とも」

「中佐!」

「有給で。必ず戻ってくるよ」

ごめんな、と手を振る。

ドアの向こう側ではため息と笑い声が聞こえていた。

















変な奴で、危険人物かもしれないけど。

俺は好き。

何だか懐かしい匂いがするから…。