1,はじめまして
「あ〜、腰痛…」
空は彼の気も知らないで青く晴れ渡っていた。
セントラルからここ東部へ向かう列車の中ではずっと座りっぱなしだった。
地図が正しければ東方司令部には少し早めに到着しそうだ。
「…寄り道しろってことかな」
意気揚々と近くの店に入る。
「こんにちは」
「あぁ、いらっしゃい。新顔だね?」
一瞬驚いたような顔をした店主らしき人は人なつっこい笑顔で迎え入れてくれた。
「さっきここに来たところ。とりあえずダージリンください」
割と繁盛しているようで昼下がりのティータイムを楽しむ家族連れもいた。
皆一様に驚いた顔をしていた。
「じゃ、これからもよろしくってことで」
店主はカップだけではなくケーキまでテーブルの上に置いてくれた。
「お近づきの印だな。食べてくれ」
「本当に、いいの?」
もちろん、と店主はひらひらと手を振りながら奥へ入っていった。
東部に来て良かった。
現金なヤツだと自分でも思うがこんなにおいしそうなケーキを前にすればそんなことどうだっていい。
「あ〜、おいしい」
こんなに人を幸せにできる料理を作れる人はすごい。
本当に東部に来て良かった。
仕事の合間にちょくちょく来れられそうだ。
「動くな!!」
あ〜、本当においしい。
おや、誰かが場違いな声を張り上げているようだ。
「全員壁際に移動しろ!」
それにしてもこのダージリンはどこで仕入れたものだろうか。
「おい!おまえもだ!」
できれば職場にも置いておきたい。
「おめぇだよ、そこの派手な兄ちゃん!」
やっぱりどこで手に入れたのか聞いておこうか。
でも店側としたらここ限定っていうのが売りなんだろうし。
「おい!」
いきなりの振動に顔を上げる。
「はい?」
「『はい?』じゃねぇ!てめぇも壁際に立て!」
あぁ、これはもしや世に言う…。
「強盗?」
「立てこもりだ。我々の主張をさせてもらう」
「了〜解。こっちの壁でいい?」
軽い足取りで怯えた人々の中に入る。
「よし、東方司令部に電話をしろ」
1,2,3,4,5人。
妥当な人数といえば妥当だが。
それから数分後に外が騒がしくなってきた。
『あ〜あ〜、東方司令部のジャン・ハボックだ。要求は何だ?』
拡声器を通した声が聞こえてきた。
お〜、割と仕事が早いねぇ。
「大佐はどうした〜!!」
『大佐はサボ…じゃなくて忙しいんだよ!』
サボ…りだな。
正直なヤツだ。
「ロイ・マスタングを呼んでこい!!!」
それから数分後、ついに大御所の登場。
「あいつは暇のはずだけどなぁ」
『来たぞ。要求は何だ?』
これ以上大事になると寄り道のせいで約束の時間を過ぎてしまう。
「仕方ないな」
こんなおいしいダージリンを出してくれる店を大幅に壊すわけにはいかない。
「うわぁぁぁ!!」
いきなりガラスが割れ、5人の男たちは店外に吹き飛ばされた。
被害は最小限に限る。
「ごめんね〜、すぐにガラスを修復するから」
胸の前で手を合わせる。
破片が浮き上がり、窓は元に戻っていた。
「あんた、錬金術師かい?」
「まあね」
急に背後で気配がしてゆっくりと振り向く。
「あ〜ロイ、久しぶり」
「どこで道草を食っている?」
ごまかし笑いをするが眉間にしわを寄せたままこちらを睨みつけていた。
「着いたらすぐに連絡しろと言っただろう!」
「ごめん、それは忘れてた」
その後は、言うまでもない。
東方司令部に強制連行された。
「初めまして、・です。階級は中佐。」
よろしく、と彼は我々に敬礼をした。
制服に着替えたの雰囲気は先ほどとは全く違った。
東部に好き好んでやってくる奴なんて滅多に、
否、絶対にいない。
「よかったよ。この忙しい中で俺が東部に来られるなんてさ」
同姓から見ても整っている顔はいつ見ても悪い気分にはならない。
「不穏分子だから自分から東部に行ってくれるなんてラッキー、だってさ」
「私も左遷された身だからな」
二人はお互い顔を見合わせて軽く微笑んだ。
どうやら知り合いらしい。
ロイの部下はその珍しい様子をじっと見つめていた。
おっとごめんよ、とは二人に向き直る。
「あ、忘れてた。それから国家錬金術師で二つ名は『歪』」
「……」
「別に性格が歪んでるからじゃないからね」
周りまで幸せにしてしまうよう。
子供の頃なんてきっと天使に間違えられるほどかわいらしかったことだろう。
銀に近い金色の髪。
瞳は一度見たら目が離せない、真紅。
ロイはずっとしかめっ面をしていた。
「怖い?」
「!」
むっとした表情のロイには思わず吹き出した。
「ぶ、ぶさ…!何その顔!」
「笑うな!」
咳払いをした後、ロイ・マスタングは視線を変えた。
「ホークアイ中尉。彼は銃の腕が立つということは知っているかな?」
「はい」
中央では有名な話だ。
銃の腕、剣術、軍隊格闘、そして錬金術。
必ずどれかに偏ると言われている中で、彼のようにバランスの取れた軍人は珍しい。
・。
リザ・ホークアイ中尉は改めてその人物を見つめた。
「彼女は…」
「知ってるよ。リザ・ホークアイ中尉。ロイのサボりに毎日手を焼いているそうじゃない?」
「はい」
全くをもってその通りだ。
「少しは否定してくれ」
「事実ですから」
きっぱりと言ってのける中尉にロイ・マスタング大佐はハボック少尉に助けを求めた。
「事実ッスよ」
「あぁ、君がジャン・ハボック少尉?」
半ば哀れみの表情を浮かべる。
「ロイに肉体労働系ばかり押し付けられているというのは本当かい?」
「それも事実ッス」
「そうか…」
三人でそんなに切ない顔をしないでくれ。
ロイは咳払いをして席につく。
「とにかく、今日から彼も東方司令部勤務になる。仲良くやってくれたまえ」
「まるで幼稚園の先生だな〜」
その言葉にロイの額に浮かび上がるものがあった。
悪気がないからなお悪い。
「錬金術やらはともかく、軍隊格闘が得意なようにはあまり…」
久しぶりに青筋が浮かんだ大佐の気を紛らわさなくては、と少尉は話題を変えた。
「よく言われるよ」
でも、とは笑う。
「意外と実戦ではそれが役に立つんだよねぇ〜」
ひ弱な兄ちゃんだろ?
ウィンクしてみせるに思わず見とれてしまう。
「明日戦闘訓練がある予定になっているな」
ロイはカレンダーを見てにやりと笑う。
「どうかな、私と一戦…」
「俺と戦ったら、後かたづけは誰がするんだ?」
「それはハボック少尉の隊にでも」
は額に手を当ててため息。
「そんな部下の扱い方をしてよく今まで見放されなかったなぁ」
感心だ、とは中尉と少尉を交互に見つめた。
しかしロイを視界の端に捉えて笑った。
「…なんてね。こーんな扱いされてもついていきたくなっちゃうのがロイなんだよね〜」
そしては目を閉じた。
かく言う俺もそう。
「それで、明日の予定ではどうなってるのかな?」
「まずは練兵場で射撃。次に体術です」
「射撃かぁ。だったら君の腕を見ることが出来そうだね。折角だから色々と教えてもらわないと」
中尉は一瞬驚いた表情をした。
普段表情を変えることが希な中尉の表情の変化にハボックとロイは顔を見合わせた。
「むしろ私の方が…」
優しく微笑んだの表情に何も言い返すことが出来ない。
「本当に、東部に来て良かったよ」
さて、明日の戦闘訓練が楽しみだね。
ロイも、そしても何かしらたくらんでいる笑みを浮かべた。
プラウザバックでお戻りください