「うーん、これは写真に撮るべきだろうなぁ」
机の上に見事な山を作る書類には立ちくらみがしてきた。
「あ、おはようござい…」
「静かに!」
部屋に入るなり小声のホークアイ中尉に怒られてしまった。
「中佐が本気で書類を片付けていらっしゃいます」
机を見ると見事な山が連なっていた。
これはいくら中佐でも今日中に終わらせるのは不可能だろう。
ん?
中佐って言った?
「両利きをフルに活用中ッスか」
「だから静かに机について、静かに…」
「おはよぐフッ」
さすが中尉だ。
何を投げても命中率は100%だ。
哀れ、大佐はお亡くなりに…。
「そんなことはしないわよ」
相変わらずの小声で大佐に詰め寄る。
「中尉がお仕事を『集中して』なさっていますので、お静かに」
声も出なくなってしまうほど恐ろしい形相で見つめられてしまった。
そしてこの後挨拶に来たブレダ少尉、ファルマン准尉、フュリー曹長も同じ運命を辿った。
もしかすると俺、ラッキー?
午後のお茶の時間。
ようやくフェリックが顔を上げる。
「お、終わ…」
「お疲れさまでした」
ほとんどミイラ状態だった。
中尉が休憩を勧めても、食事を勧めても全く反応を示さなかったからな。
「どうぞ」
ふわっと紅茶の香りが香った。
「ありがとう」
無理してその笑顔を作っているのは一目瞭然だった。
ドアが開く音がして大佐が…、
「、ひゅー…」
あ、大佐が吹っ飛んだ。
「よっ、おひさ!」
口から紅茶を吹き出しそうになる中佐。
「マース…」
咳き込みながら彼の頭をぐりぐりとなで回す。
せっかくの紅茶が、と中佐は必死で紅茶を守っていた。
「相変わらず美人だな」
「美人言うな!俺は男だ」
「じゃあ可愛い…、のはエリシアちゃんでしゅー」
だめだ、この中佐…。
親バカ細菌に侵されている。
写真を中佐の目の前にひらつかせる。
「可愛いだろ〜」
「…うん、可愛い」
「おろ?」
ヒューズ中佐は写真を守るようにして後ずさった。
「お前、ロリ、ロリロリ…」
「違う!ただ、エリシアちゃんのこと、大切にしてあげて欲しいだけ」
「心配すんなよ」
いきなり真面目顔のヒューズ中佐。
「当然のことだろ?」
いつもこんな顔のヒューズ中佐なら部下になってもいいとは思う。
でも、
「だってエリシアちゃんのパパだも〜ん」
長続きしないんだ。
「わかってるよ…」
もはや言い返す気力もないと言わんばかりに大きなため息をついていた。
「ヒューズ、人を吹っ飛ばしておいて…」
「おぉ!生きてたか」
片手を挙げ、元気よく挨拶。
ここのところ虐げられキャラだな、大佐。
「ありがとう、マース」
「何がだ?」
「…いや、ありがとう」
三人で並んでカウンターに座り、軽く酒をあおっていた。
「あまり飲み過ぎるなよ」
以前ロイと飲み比べをしたのはいいが、自らの足で帰れなくなったという前科持ちだった。
「わかってるよ」
多分ね、と早くもほろ酔い気分だ。
「俺って幸せ者だよね〜。だってロイとかマースとかリザさんとかたくさんの人が俺の傍にいるもん」
「ヒューズ、強いのを飲ませすぎだ」
「…普通だろう?」
顔を緩ませて自分の顔が映るグラスを見つめている。
「ロイ、いつもありがと。マース、遠くから来てくれてありがと〜」
「また今日も宅配便だな」
たかがコップ二杯程度でここまで酔えてしまうのだから何とも安上がりだ。
宅配途中、マースの背中の上で何かを言っているようだった。
その声に二人は顔を合わせて微笑んでいた。
自らの机の前にたどり着くなり椅子に座り込む。
「う〜、今日はまた違う意味で頭が痛い」
「…お前にしては飲み過ぎだったな」
「でもたーったコップ二杯、アルコール度数…いくらだっけ?」
今日の朝早くにヒューズ中佐は帰ってしまったようだ。
でもまさか中佐が下戸なんて…。
「経済的だな」
「あまり大きな声を出さないでくれ…」
「中佐、これを」
ホークアイ中尉がトレーにオレンジジュースを乗せてやってきた。
「ありがとう」
俺は二日酔いになったことがないからどんなものかはよくわからないけど。
どうやら頭が痛いらしい。
「このままでは仕事になりませんから」
「う〜ん、今日もロイから回ってきた山が出来てるね」
「大佐が仕事をため込んで大切にしていらっしゃいますので」
「『無能』だもんね〜」
「何を言う!昨日お前を送ってやったのは誰だと思っている!?」
『記憶にございません』のポーズ。
この二人、仲がいいのか悪いのかよくわからない。
「昨日私に礼を言ったのは誰だ!」
またも『記憶にございません』のポーズ。
「酔ってたんだから責任はないよ〜」
心なしか大佐が嬉しそうな顔をしていた。
確かに。
中佐の笑顔がすっかり『悩殺!万国ビックリスマイル』を披露していた。