「今日は平和だねぇ」
なんて言っている傍から爆発が起こった。
04. 上司部下
「俺達、いつから消防まで…」
「いいから!早くしろ!」
中佐と俺、ジャン・ハボックは手が空いていたために近くの火事現場にいた。
後から大佐と中尉も来るらしいが、大佐は役には立たないだろう。
無能だ、無能。
火はすでにかなりの大きさになっていた。
「とにかく水だ!消火栓、フルに使え!」
いつも穏やかな中佐が声を張り上げて指示を出す。
「そこ、もっと消火栓を捻れ!」
「はい!」
かっこいい。
こういう上司になりたいもんだ。
こんな時に考えることではないがその姿に見とれてしまう。
「待って!」
振り向くと女の子がいた。
涙を浮かべて中佐を見つめている。
「どうかしたのか?」
「猫が!中にまだいるの!」
中佐が小さく声を上げる。
「猫は諦めなさい!」
さらに後ろから中年の女性がその女の子を制止する。
「やだ!」
大きな瞳からは止めどなく涙があふれていた。
「、ハボック少尉!」
結構早いお越しだ。
大佐と中佐、それからブレダ少尉が到着した。
「状況は…」
大佐をすっかり無視して中佐は上着を脱ぎ始めた。
「まだ、中に猫がいる」
「は…?」
大佐は口を開けたまま何と言うべきか迷っているようだった。
「猫だ!!バケツをよこせ!」
中佐はバケツの中の水を思いきり被る。
「どけー!!」
「!危険だ!」
消防隊をはね除けて、中佐は燃え上がる炎の中に突っ込んでいった。
「中佐ー!」
声の限りに叫んでも彼は既に炎の中だった。
悲鳴、と彼の名を叫ぶ声。
そして恐れていた事態が現実のものとなった。
「崩れるぞ!」
誰かの声がして、そして次の瞬間。
家は崩れ落ちた。
「中…、佐?」
目の前で起きたこと。
何だ?
自分は何を見ている?
一体、何が起きたんだ?
中佐は…、まさか
死…?
「俺を、呼んだ?」
崩れ落ちた家の、さらに上。
中佐はこちらに微笑んでいた。
「俺は『歪』の錬金術師だ」
白く輝く翼。
「光の錬成なんて得意中の得意だからね」
不敵に笑うその瞳は真紅。
中佐が地面に降り立つとその翼は跡形もなく消えた。
「はい。無事で良かったね」
女の子に向けられた笑顔。
ところどころ火傷を負っているようだったが元気そうだ。
「ありがとう!」
「泣いちゃダメだろ。その子が無事だったんだから」
いつもの薄い紫色の瞳がやさしく微笑んでいた。
「中佐!怪我は…」
頬に赤い道が一筋できていた。
手の所々に火傷の跡がある。
「ん?ああ、大丈夫だよ」
中尉が中佐の手をとって怪我の状態を看る。
「早く冷やさないと」
「でも、まだ一仕事残ってるからね」
ちょっとまってて、と中佐は消火栓に近づく。
「消防隊の皆さん。水を頂きますねー」
パン、と胸の前で手を合わせる。
鋼の大将もこんな錬成をしていた。
「水との相性も悪くないんだよ」
全ての水をかき集めたような球体が家だった物の上に出来てくる。
「ちょっと皆さん離れててね」
幾分か下がった俺達を確認すると、
「じゃ、いくよ」
と大きく手を挙げて、振り下ろす。
支えを失ったようなその球体は一気に落下した。
いくらか疲労した様子の中佐は壁に寄りかかってけがの治療中。
「まだ水も使えたのか」
「当たり前。俺は基本的に何でも使えるからね」
どこぞの無能とは大違い、と中佐は大笑いしていた。
「中佐、動かないでください」
「おっと、ごめんな。ついロイの無能さに…」
また笑い始めてしまった。
爆笑状態だ。
「…使えるようになったのか」
「まぁ、ね」
大佐から目を離して目を閉じる。
中尉は中佐の手を裏表しながら水をかけ続けていた。
「医務室で看てもらった方がいいですね。頬の傷もありますし」
「これくらい大丈夫だって」
「ダメです!」
ふっと微笑むとオーバーにアクションをとってみる。
「中尉に言われたんじゃ、仕方ないね。ハボック少尉!」
「ッス」
「悪いけど、後のこと頼んでいいかな?その代わり、次は俺が後始末するから」
ごめんな、と本当に申し訳なさそうな顔をするから。
「いいッスよ。早く手当をしてもらってください」
「本当に、ごめんな」
部下なんだから命令すればいいのに。
威厳があるのに、…変な感じだ。
かっこいい。
何て言うか…。
理想の上司って、俺にとっては彼のことを言うのかもしれない。