「終わった、な」

ロイにもたれかかるは安堵の笑みを漏らした。















09. 負け戦





























「やっと帰れるぜ」

ヒューズが荷物を片付け始めていた。

「全くだ」

こんな小さな暴動の鎮圧では昇格は恐らく無理だろう。

無駄足だったとは言わない。

こいつにも出会えた、とロイはの顔が浮かび笑う。

「準備できたか?」

が入り口から覗く。

「まだに決まってるだろ。そんなに軽装で来たわけじゃねぇからな」

「?俺はもう済んだぞ?」

見れば手に持つものはトランク一つ。

「まだなら待っていよう」

偉そうに腕組みをして仁王立ち。

「手伝え」

へーい、と面倒くさそうに返事をして寝台を畳む。

これだけをみると本当にただの少年だ。

ヒューズ曰く『クソ生意気な口をききやがる』らしいがそれが普通の少年だろう。

部屋の掃除は一時間かけて全て終わらせた。

俺は十分で終わったのに、とぼやいていたが却下されていた。




























































「じゃあな。また会えるといいな」

は二人を前に微笑む。

汽車を使っての移動。

駅は軍人であふれかえっていた。

「そうだな」

「身体に気をつけろよ」

「それは二人のことだよ。俺、若いもん」

何だと、とじゃれていると発車の笛が聞こえた。

「またな」






ゆっくりと汽車が出ていった。

































































































































もイシュヴァールに行くらしいぜ」

資料を手渡されたロイは名簿にの名前があることを確認した。

「どうせ国家錬金術師の招集だろう。同じ隊になる」

「よろしく言っといてくれよ」

「わかっている」

翌日にはロイもイシュヴァールに向かう。

そしてヒューズもそのすぐ後に行くことになっていた。

は無事家族に会えたのだろうか?

少しは身長が伸びているだろうか?










































』に会いたかった。

しかしはいなかった。




















































『光の獅子』はいつまでも光の獅子だった。

血の色に輝く瞳で周りのものを寄せ付けない。








?」

ロイが声をかける。

振り向いたその顔に優しさの欠片はない。

瞳は月明かりと同じ色だった。

優しい月明かりではなく、不気味で刺すような光。

「久しぶり」

狂った笑顔。

身体に震えが走るような感覚。

「人は脆くてね」

はロイに歩み寄る。

「楽しいよ。人殺しってのは人の脆さを教えてくれる」

獅子は、獲物を転がして遊んでいるようだった。

「ロイも気をつけて」

正気の沙汰ではない。

ロイはすっかり変わってしまった友人の去っていく背中をただ見つめることしかできなかった。

正に、歪、だと。







































「邪魔だ!」

錬成した光の刀を振りかざして敵陣に突っ込んでいった。

少佐、あそこに隠れている者を消せ」

距離はかなり離れているのだが…。

グラン大佐が光の翼のに言う。

「了解」

危険な色に輝く瞳は狂気に満ちていた。

パン、と胸の前で手を合わせると右手を前に突き出す。

「綺麗な朱、見せてよ」

少し離れた場所で悲鳴が聞こえた。

「あははは、脆すぎ!」






弱い奴は生き残れないんだよ。







「さすが『光の獅子』だ」

その声に答える。






この町に完全な死を落とす獅子だ。




























































手を合わせて錬金術を使えないよう、動き回ることがないように鎖で繋がれた獅子。

夜の獅子は繋がれていた。

これではまるで囚人じゃないか。

「どうしてこんな事を…!」

「夜中に暴れるのでな」

「なぜ…!?」



眠っているのは確かだが、死んでいるのではないかと不安になる。

姿の見えないを探していたら最後に行き着いたのがここ。

暗く、牢獄に見える。




「彼の住んでいた街の住人は全滅だ」




「全…滅?」

彼の、の家族も、なのか?

「平和な街だったらしくたった三人の強盗に皆殺しにされた。」




体が動かない。

目を開いたままロイは立ち尽くしていた。




「軍が着いたときにはその三人は誰が誰だか、いや、どれが何か分からない状態だったな」

「全く、生き残りは…?」

「皆殺しだ」

彼の家族も殺された。

「こいつは狂っている、しかし昼間は役に立つ」

一瞬だけ視線をに向ける。

「明日に備えて休養も必要だ」

グラン大佐はそう言って後ろの部下とともにその部屋から出ていった。

















































…?」

ゆっくりとあの真紅の瞳が現れる。

「誰、だ?」

「ロイだ、ロイ・マスタング」

はロイを見上げた。

…」

自分の発したその名前に目を見開き、叫ぶ。

!!!が!!」

、落ち着け!」

「どうして!…!!」








彼はあの日のままで時間が止まっていた。

彼にとって最悪の現実。








!」

驚いた顔で見上げるとロイがいた。

「ロイ…?」






痛い。

あまりにも痛ましい姿に目を覆いたくなる。






が、死…」

再び意識を手放したの目からは一筋の光が落ちていった。

…」

まだ幼いこの少年にこんな過酷な運命を辿らせる。































































翌日の夜、は再び暴れた。

繋がれた手首には血が滲む。

自分を罵倒し、笑う。



「ロイ、死んだよ」



が、死んだよ」

!」

「…あの戦いでは勝ったけど」










俺は負けたんだ。



自嘲を続けるをまともに見ることはできなかった。





















神様なんていない。

でも。












どうか彼に救いを。