「ロイのヘタクソ〜」

「うるさい!」





大佐はあまり射撃は得意ではありません。














2,戦闘訓練



















「君、大佐だろ?真ん中に当てるくらい造作もないだろうに」

壁に寄りかかり腕を組んであきれ顔なのは

「私はいいんだ!錬金術で…」

「雨の日は無能のくせになぁ」

にこにことした笑顔とは裏腹に言っていることはロイを打ちのめすのには充分だった。

その間もリザ・ホークアイ中尉はひたすら的に向かって発砲していた。

「それに比べて彼女は…」

まさに『有能』だね、ととどめの一言。

耳栓を外したリザに向かって拍手をしながら近づく。

「さすが、あっちで落ち込んでる無能とは大違いだね」

「あの…、是非中佐の射撃の腕を見せていただきたいのですが」

遠慮気味に言うリザに極上の笑顔を向ける。

が笑うとリザは俯いてしまった。

「俺なんかでよかったら」

抱えていた銃で隣のブースから一発。

続けざまに二発、三発と打ち込む。

恨めしそうな顔をしてロイは双眼鏡で的を覗く。

「一発だけ…か?」

「大佐、よく見てください」




ロイはもう一度注意深く覗いてみる。




「三発とも同じ位置か!?」

してやったりとロイの方を見る。







「でもやっぱり!」








はホルダーから二丁の拳銃を引き抜く。

「俺はこっちだ!」










何発もの銃の音がした。

次に静かになったときにはは満足そうに双眼鏡を構えていた。

「ま、こんなものかな」

「うわ、すっげ…!」

思わずジャン・ハボック少尉が思わず声を上げた。

「天才の名前は伊達ではない、ということか」

ロイは複雑な表情だ。

しかし、も浮かない顔。

「う〜ん。俺ももう少し精進した方がいいかもなぁ」

「え?」

「だって一発、少しずれてる」

リザはもう一度双眼鏡を構えて確かめる。

「ずれていると言っても…」

たった数ミリのはずだ。






「でもね」







はリザに微笑んで言った。

「いざという時に犯人の手元を数ミリでもずれてしまった場合、人質がいれば大きな被害が出てしまう」

の瞳は透き通る赤だった。

初めてこんなに近くで彼を見る。

でも、どこか悲しげな瞳。

怖くない。




「だから、常に正確に、ね」







「はい」

この人は何か大きなものを抱えている。

強くて、綺麗で、でも脆く…。
















「さて、次は体術の方だっけ?」

はいつもの笑顔に戻ってさっさと場所を移してしまった。

少尉と中尉もその後を追う。

「大佐!急いでください。もう三人が待ってるはずです」

が来てから扱いが酷くなったな…。

ロイは哀愁を漂わせながらその場を去った。





































練兵場に着くとすでに誰かが待っていた。

「おや?君たちは…?」

「中佐は足も速いんですね」

リザが後ろから遅れてやってきた。

「まぁ、ロイよりは速いと思うよ」

ロイはオジサンだから、とは相変わらずの笑顔。

「この方が新しく当方司令部にいらっしゃったという…」

中佐。国家錬金術師で二つ名は『歪』。趣味はワインのコルク集め。特技は…」

「君がファルマン准尉か…。記憶力がすごくいいって聞いたよ」

俺はそんなに良くないから助けてくれると嬉しいなぁ、とは笑う。

そしてファルマン准尉と後ろの二人に敬礼した。

「よろしく」

「よろしくおねがいします」

三人の声が見事に重なる。

緊張した面持ちの三人にはまたも極上の笑顔を向ける。

「えーと、君がブレダ少尉で、君はフュリー曹長で合ってるかな?」

「はい」

「本物の…」

天才。

中央で天才と言われたらこの人を指す。

「中佐に体術を教えてもらえるなんて!」

曹長は感動しっぱなしだ。

「ロイが着いたところで、さぁ始めよう」

は大きく背伸びをした。























どういうわけだかふてくされてしまったロイを無視して二人は組み手を始めた。

「ここをこうすると、こうなる」

「はい。いてて」

「だから…、こうしてみて」

「よっ、と」

の身体が宙に浮いて天を見上げる形になった。

今日も空が青い。

「うわわ、大丈夫ですか?」

「受け身とってるから大丈夫に決まってるだろ?」

ウィンクしてみせるの笑顔にフュリー曹長まで見とれてしまった。

よこらしょ、とかけ声をかけて立ち上がる。

「もう一回やってみようか」

でも、と曹長はをうかがった。

「やってみないと身にはつかないよ?」

「はい!」

この瞳を見て畏怖を感じない者はいなかったのだが。
















「よくやるなぁ」

ロイはすっかりやさぐれてしまったようだ。

「次は大佐の番ですからね」

「…少々本気になってみるかな」

リザはいきなりやる気になった上司をちらっと見る。

上着を脱ぎその辺投げ捨てる。

何かよからぬ事でも考えているのだろうか。

少しばかり嫌な予感がする。














「えいっ!」

「OK!見事!」

は起き上がりながら拍手。

「さすが軍人!飲み込みが早いねぇ」

「軍人は関係ないですよ」

あそこだけ和やかムードになっている。

!!」

いきなり飛びかかってきたロイを難なく避ける。

「本気で行くぞ」

「うわ!」

フュリー曹長は早く逃げねば、と全速力で走る。

「早く逃げた方がいいぞ〜。それからもう少し離れてくれ」

ロイの攻撃を避けながら手を振る。

「余裕だな」

「そうでもないけど、ね!」

、初めての攻撃。

「く…、現役だな」

「ロイこそ、年寄りなんだからしっかり体を鍛えておけよ!」

ロイの髪がパラパラと落ちていく。

「…抜け毛か?」

「お前が風で斬ったんだろう!」

確かに抜け毛ではなさそうだ。

落ちた毛は全て短い。

心からほっとした様子のはオーバーにアクションしてみせる。

「よかった〜。てっきりもうハゲに…」

「私はまだ29だ!」

「俺の方が若いぞ。何たってまだ24だからな!」

「5つしか違わないだろう!」

「5つも違えば、肉体の衰えは変わってくるんだよ!」

高レベルな争いの中で何とも低レベルな会話だ。

だが。













「勝負あったな」











ロイの手がの鳩尾を捕らえていた。

「甘いなぁ」

は砂埃で見にくかった左の腕をロイの首に当てる。

「でも、さすがロイだね」

天才の名は伊達ではない。

ゆっくりと元に体勢に戻る二人。

見つめ合ったまま動かない。

「何か、あったのか?」

は目を閉じて、そして再びロイを瞳に映す。

「いや、何もないよ」

ただ…、とは笑う。










「君、太ったでしょ?」

















「やかましい!」

「わっ!」

再び戦闘開始だ。

「本当のことを、言ったまで、だろ!」

「やっかましい!」

「この…!オヤジ!」

「お、オヤジとは何だ!仮にも上官だぞ!」

「知らん」





















「仲いいッスねぇ」

「本当ね」

瓦礫の飛び交う中、二人はこの惨状をどう処理すべきか頭を悩ませていた。






あぁ、練兵場が壊れないといいけど。

…思ってる先から壊れてるわね。