「会議ねぇ」
わざわざ中央にまで出向かなきゃいけないなんて面倒くさい。
ま、エリシアちゃんに会えるんだからそれはそれでいいんだけどね。
17.畏怖
「明後日、中央である会議に参加しなければならないのだが」
「それで、俺にもついてこい、って?」
「そうだ」
ロイを見つめていたは少しばかり考えていたが、すぐに笑って言った。
「そうだね、そういうことならついていくよ」
長年付き合っているのだからアイコンタクトは完璧だ。
中央に行くからにはイヤミな連中を少しでも遠ざける必要がある。
「俺が後ろから睨みをきかせておけば大丈夫だろうし」
「悪いな」
「かまわないよ。それにマースにも会えるんだ」
は振り返って部屋にいるメンバーを見回す。
「…えーと、俺をあわせて合計7人で出張か」
ピクニック気分だね、と手でバスケットの形を作る。
「汽車でいくのかな?」
「いや、今回は車だ」
「じゃあ、後部座席に六人乗りでも広々のあの車で充分だな」
は自分の机の引き出しを開け、隣にあったバスケットに何やら様々なものを詰め始めた。
すっかり気分はピクニックだ。
「この荷物だけを載せていってくれたらいいから。俺はセントラルまで飛んで行くから」
「本気か!?」
急に大きな声を出すから驚いた顔をして顔を上げる。
すっかりプレーリードッグみたいになっている。
「何か…、問題でも?」
「大丈夫なのか?」
「へ?何が?」
飛ぶこと自体に抵抗があるようには見えない。
「いや、がそう言うのならば…」
「俺が上からしっかり見張ってやるから大丈夫。旅の安全はお任せあれ」
恭しく礼をしてみせる姿に一瞬リザが顔を赤らめた気がするが気のせいだろうか?
「で、出発は?」
「明日朝一番だ」
「了解。じゃあ今日はよく寝ないとね」
は定時になるとさっさと帰っていった。
明日のために何か食べ物を作ると張りきっていた。
「おはようございます」
「あ、おはよう」
どうやら結局ロイが一番最後らしい。
フュリー曹長はカバンをトランクに入れると安心したように笑った。
「やはり最後が大佐でしたね」
「予想通りだな〜」
「待たせたな」
遅れたくせに偉そうなのがこの大佐。
「夕方には着く予定なんですから、早くしてください」
ホークアイ中尉はロイからカバンを受け取るとトランクに詰めた。
「書類の忘れ物はありませんね?」
「大丈夫だ。出る前に二回確認した」
「はい、これ」
は小さめのバスケットをロイに手渡す。
「みんなのお昼ご飯。途中休憩をするらしいから作ってきたんだよ」
それぞれに同じ小さめのバスケットを渡していく。
「足りなかったらまだあるから。中尉に渡してある」
「お預かりしています」
「じゃあ、ロイも来たことだし。出発しようかね」
車に全員が乗り込んだのを確認して運転手のハボックに声をかける。
「これ、君の分ね」
タバコは危ないから飴で勘弁。
車が走り出したのを確認して、左右の銃をいつもの通り確認。
そしてパン、と音をたてて手を合わせ、両手を背中にまわした。
「風が気持ちいいねぇ〜」
今日は晴れた日になりそうだ。
は上昇しすぎたため少しずつ高度を下げていた。
車が段々大きく見え始める。
あ〜、フュリー曹長が手を振ってる。
多分笑ってるんだろうけど、残念ながら手を振っている気配しかない。
併走でもしてみるかな。
…走るんじゃなくって、飛んでるんだけど。
「やあ、曹長。今日はよく晴れそうだよ」
「本当ですか?中佐、気持ちよさそうですね〜」
幸い今日は向かい風でもないし、追い風でもない。
こういう日が一番飛びやすかったな。
懐かしい気分だ。
「リタイアするときは言え。怪我は完全に治ったわけではないだろう」
「別にマラソンしてるわけじゃないんだから、大丈夫」
そう笑うとは再び高度を上げた。
「便利ッスね」
「確かにそうだな。しかしあの状態では危険だと思うのだが…」
「危険?」
ロイは呆れたように笑う。
「等価交換だ。光の錬成は未だかつて誰も成功していない、以外はな」
「どうしてですか?」
「光の錬成は構造が複雑な故、彼以外に理解していない。そして対価が大きい」
上空ではがジグザグに飛んでみたり、一瞬消えたかのように見えてすぐ別の場所に移動したりと遊んでいる。
翌日の新聞がの見出しは決定だ。
「身体の一機能、彼の場合は自分の光、つまり視力を対価に入れてあれを持続させているんだ」
「じゃあ、今中佐は…!!」
ついにはドリルのように回転を始めた。
上空は暇らしい。
それでも周りの気配を全て読んでいるのだからさすがと言ったところか。
「あんなとこをしているが恐らく真っ黒な世界だろうな」
「そんな…」
車の中の会話なんて全く届いてはいないはよほど未確認飛行物体飛びが気に入ったようだ。
まだこれから距離は長いというのに、この次点で飽きていたら持たないのではないだろうか?
その様子に唖然としているハボック少尉。
よそ見は禁止、とブレダ少尉にツッコミを入れられている。
少しヒューズ中佐に似ている気がする。
「まぁ、大丈夫だと本人が言っているのだから大丈夫だろう」
それでも心配そうなホークアイ中尉を見てロイは発火布を装着する。
「あの辺りか?」
そう言って発火布を擦ると、の進行方向で爆発が起こった。
「ぎゃー!」
「た、大佐…」
明日の新聞の見出しは二つが並ぶだろう。
「何するんだー!」
また降りてきて車の横を飛ぶ。
「いや、本当に大丈夫なのかを確かめただけだ」
気にするな、と言うが攻撃されて気にしないわけにはいかない。
「いきなり危ないだろう!」
「だから確かめただけだと言っているだろう」
「俺じゃなかったら吹っ飛んでどこまでも飛んでいくところだったぞ!」
どうやら笑ってこちらを見ているらしい。
「全く…。もうするなよ」
さっさと上空に戻っていった。
「…大丈夫そうだろう?」
確かに、と車の中では満場一致だ。
「あ〜!よく飛んだ」
「お疲れさまです」
昼の休憩は畑地帯の広がる場所だった。
少しだけ広さがあり、馬車同士、もしくは車同士が避けるところだろう。
少し大きめの木が生えていてはそれを見上げた。
「気持ちいいなぁ」
「中佐、昼飯にしましょうや」
「そうだな」
一同はお手製の弁当を広げた。
ホークアイ中尉に渡してあった分も全てなくなった。
さすが育ち盛りの軍人だ。
ただしロイは喰ったら太るんだけど。
食事が終わり、休憩にはいるとハボック少尉の声が木の上にいたに届いた。
「何、ハボック少尉。飛んでみたいの?」
急に振ってきた声に驚いたように顔を上げた。
「え、ああ。飛べたら便利だろうなって思っただけッスよ」
は悪い笑顔になって木から降りてきた。
「いいよ。じゃ、飛んでみるか」
「え…」
遠慮する間もなくは手を合わせ、自分の背中に翼を作る。
「さあ、行ってみようか」
手を掴むと一気に上昇した。
「うわぁぁぁ!」
「ハボック〜!」
ブレダ少尉の声ももはや届かない。
何事か、と昼寝中のロイが顔を上げるがどうやら以前にもこういうことがあったらしく、再び昼寝を始めてしまった。
しばらくして戻ってきたが、すっかり風圧に髪型が変えられている。
「さて、ファルマン准尉はどう?」
「いえ…、私は結構です」
「じゃあブレダ少尉」
「だだだだダメです!」
残念そうに振り向いた視線の先にはフュリー曹長。
「…曹長v」
「ぎゃぁぁぁ!」
「大丈夫?」
車の中でぐったりしている二人を笑っている。
悪魔だ…、と併走中のを疑いの目で見ていた。
運転はブレダ少尉に代わっている。
「ま、最初は俺も慣れなかったからいろんなところに突っ込んでたよ」
じゃ、またねとはは上空に戻っていった。
「…私も以前アレをされた」
地獄を思い出すロイの顔は真剣だった。
コンコン、と車の窓を叩く。
もうすぐセントラルだ。
「俺さ…、ちょっと行くところあるから。中央で合流、でもいいかな?」
「かまわないが」
「ありがとう」
は背中の翼を高速移動仕様に変えて飛び立った。
あっという間に姿が見えなくなる。
「恐らく彼女のところだろう」
「彼女?」
「さんのところだ」
最近のホークアイ中尉は面白いほどにの話題に食いついてくる。
よほどお気に入りらしいな、とロイは微笑んだ。
「これはこれは、マスタング大佐」
着いていきなりこれだ。
いい加減飽きないのかと不思議になる。
「お久しぶりです、将軍」
「東部でなかなかよい働きをしているそうじゃないか」
「いえ…」
散々イヤミを言われても言い返せないのが階級社会だ。
ならばついつい『その腹は何だー!冗談は顔だけにしとけー!』と言いたくなっているだろう。
「全く、女性の軍人を連れていいものだな」
「へえ、将軍はそんなことないんですかね」
柱に寄りかかったが笑う。
「中佐…」
「将軍のところの部下、女性問題がありましたよね?」
凶悪な笑顔は背筋を凍らせるのには充分だった。
「俺の上司なんですよ、マスタング大佐」
何も言えないまでに恐怖の表情を作っている。
「それから彼女は俺の部下で、たーい切な人なんで。」
不敵に笑う瞳は赤に金。
夕日が当たってより不気味さが増す。
「やめてもらえますか?」
「くっ…」
将軍とその一味は背を向けて去ってしまった。
それでもなお、はその背中から目を離さない。
「ごめん、遅くなった…」
は下を向いてしまった。
「いや、助かった」
ロイの大きな手がの頭に乗せられる。
「…俺、もうそんなに小さくないって」
それでもこの手は安心する。
「この作戦、名付けて『夜間の猫の目は光が当たると不気味に光るぞー作戦』でどう?」
「長い、却下」
「うぇ〜?ダメ?」
ホークアイ中尉とはまた違った次元でのネーミングセンスの無さ。
軍法会議所に着くまでは真紅の瞳で周りを圧倒した。
みんな呆気にとられるか畏怖の目でこちらを見ている。
こういうときには役に立つ。
「マースさーん、マースさーん。さんが到着ですよ〜」
軍法会議所でいつも彼がいるところに着くと、は大声で叫んだ。
「おっ、来たか!」
二階からドタバタと音がする。
「この間ぶり!元気そうでなにより!」
「お前もな!よっ、無事着いたみたいだな」
「まぁな」
「ヒューズ中佐!」
「おっと」
どうやらまだ仕事が終わっていないらしい。
「今日は軍の施設か?」
「そのつもりだ」
「、明日家に来るだろう?俺は明日休暇を取ってあるから待ってるぞ」
「中佐!」
ここでもホークアイ中尉のような人物がいるようだ。
そうしないと軍法会議所が上手く機能しないだろう。
「じゃあ明日は自由行動ということで」
会議のあるロイ以外はフリーだ。
行きと帰りだけ迎えに行けばいい。
「というわけでお先に失礼!」
はいそいそと自分の部屋に帰っていった。
は急いで着替え、リザの部屋に向かう。
服装を整え、ノックをして相手を待つ。
「はい?」
「です」
ドアが開けられるとが笑って立っていた。
「外回りでもしてみない?」
「外回り?」
「おいしいデザートの店があるんで、どう?」
断るわけ、ないでしょう?
リザは俯いて微笑む。
「着替えますので、ちょっと待っていてください」
ドアが閉められ、はその前で窓の外を見ていた。
今日は月も出てるし、明るいから足下の注意しなくて済みそうだ。
すこししてからドアが開く。
「すみません。スーツしか持ってきていないので…」
「問題ないよ。俺なんて相変わらず黒だし」
さて、とが窓を開ける。
「折角だから飛んでいきましょう」
「えっ…」
「大丈夫。昼間はふざけてやってただけ。ちゃんと、ね?」
が手を差し出す。
本当に大丈夫なのか疑いどころだがリザはその手をとった。
「ね、大丈夫でしょう」
「だ、大丈夫ですが…」
俗に言うところのお姫様だっこは…。
確かに昼間のハボック少尉やフュリー曹長とは全く違うが。
「重たい…のでは?」
「重い?何が?」
「私、が…」
「全然。俺が奢るから今から行く店でもっと食べた方がいいよ」
路地裏に降りてがリザの手を引く。
「こっちこっち」
『悩殺!万国ビックリスマイル』とはまた違った笑顔。
どうやら今日は眠れそうにない。