「やめて、撃たないで…」

そんなことを言ってもあのころの俺は止められなかった。











































「…ロイはあのころの夢、見る?」

一瞬だけ視線を向けるがすぐにまた机に目を落とす。

今日も書類は溜まりに溜まっている。

「見ないわけがない」

「そうだよな」

は窓際に立ち、外を見つめた。

、お前はいつもどこを見ている?」

「…いろいろ。この目に映るもの、映らないもの全てだよ」

!」

ロイは急に立ち上がり、頭を思いきり叩く。

「痛って…。何すんだよ!」

「言っただろう。お前は『東方司令部でロイ・マスタングの下僕、』だと」

「…下僕?何か変わってないか?」

「知らん」

その強い眼差しがいつも俺を止めてくれる。

「ありがとうを言いきれないな」

「感謝は行動をもって判断しよう」

罪の色をした瞳に映る彼は俺にとって大切な人。


絶対に守らなきゃいけない。







大切な人だ。


















































「状況は!」

「ロイ、下がってろ!」

午後いちに駆け込んできたファルマン准尉から工場に銃を持った奴が立てこもっていると聞いたは飛び出していった。

立てこもるのが流行なのか?何か組織的なものなのか?

何にせよ、最近犯罪が増えている。今度こそ本気で対策を考えないと。




思ったよりロイの到着が早かった。

到着する前にケリを付けてやろうと考えていたのに。

作戦ミスだ。

「人数は十人だと思われます」

「…十人か」

怪我は免れることが出来ないだろう。

「要求は彼らの首領を解放することです」

「最近多いな…」

工場の中にあるものが危険物でなければこんなにも緊迫した空気が流れることはなかった。

「弾薬工場ですか」

ホークアイ中尉も状況の悪さに眉間のしわが寄る。

「どうしたものか…」

「…俺が行く」

どうせ怪我をするならば俺一人でいい。

は左右の銃を確認し、続いてポケットの弾を確認する。

「許可できない、危険だ」

パン、という音がして車のフロントガラスに穴が空いた。

「…相手は待ってくれないみたいだな」

続けざまに銃弾が撃ち込まれ、哀れ軍の車は修理行きだ。

はどうやらこれがお気に入りだったらしく、複雑な表情をしていた。

「俺が弾薬や設備の前に壁を作る。それから合図するから一気に拳銃で」

「中佐!」

「やめろ!危険すぎる」

「でも、俺が何とかしないとこの状況は変わらないよ」

わざと赤の色に金色を見せるとほとんどの軍人が道を開けた。

「裏から回る」

!」

誰の制止も聞かない。



彼らを守れるのは現時点では俺だけだ。


























































十人、ね。

十一人いる気配がするんだけどな。




















まぁ、いいや。























「はっ!」

裏口にいた男の後頭部を思いきり殴る。

そして間一髪入れず手を合わせ、出来るだけ厚い光の壁を順に作っていく。

急がないと。

出会した奴を手当たり次第に殴り、先に進む。

この先の中央と軍が一番近くにいる搬入口が一番危険だ。

「このっ!」

撃たれる前に撃て。

これが戦場での鉄則だからな。

拳銃のみを打ち落とし、同じように思いきり手刀を喰らわせる。



おかしい。



これだけの騒ぎに敵の応援が来ない。




搬入口まで五人を倒したが…。




そう思った瞬間、弾丸が発射される音がして右肩が熱くなった。

「十一人目か…」

並の人間だと思ったがどうやらそれは違ったらしい。

まさか気配を消すとは。

ちょっと考えが甘かったようだ。

残念ながら貫通はしていない。

破裂しなかっただけよかったけれど。

「一人で来るとは、計算外だったな」

「そうか?」

これは本当に急がないとまずいことになる。

どうなるかわからないが、一気に壁を作るしかなさそうだ。

「一人じゃ、ないんだけどね!」

手を合わせ、フルパワーで辺りの弾薬や機材を包み込む。

「撃て!」

後ろからも発砲してくる奴が…、五人か。

は弾を避けつつ、壁に包まれた機材の上に飛び乗る。

そして窓を目がけて光のナイフを投げた。

「どこを狙って…」

がちょうど機材の陰に隠れた時、男たちの悲鳴が響き渡った。

「息苦しいなぁ…、ちょっと出血多量気味?」

座り込んだの右腕は朱く染まり、早くも血溜まりを作り始めていた。

「俺って注意力散漫だよな…」






!」






ロイの声がしたので左腕を挙げて振って見せた。

物陰だから手だけしか見えてないだろう。

機材を飛び越えてきたロイは息を呑んだまま固まってしまった。

「ロイ?」

「この…、バカが!!」

ぼぐっといい音で頭を殴られてしまった。

怪我人なのに酷い扱いだ。

「怒るのは後にしてよ。ちょっと目の前がチカチカするんだけど?」

「貫通はしていないようだな。急いで病院へ…」

中佐!」

ホークアイ中尉までも固まってしまった。

それからこちらに近づいてきてを睨みつける。

「あー、中尉。別に大丈夫だから。心配しないで」

「ど、どこが大丈夫なんですか!!」

二人に挟まれて怒られているが、早く病院に連れて行って欲しいのが現実だ。

「あの、さ」

「なんですか?」

少し涙目の彼女にこう言うのもアレですが…。















「視界が真っ暗になる前に病院へヨロシク」




































































「弾が破裂しなかったからよかったものの…」

医者にあと少し遅かったら出血多量で死んでいたと聞きいた大佐と中尉は冷や汗を流していた。

殴ったり怒ったりしている場合ではなかった。





「だけど、毎回あの人の行動力には感心するな」

「確かに…。ですが一歩間違えは中佐、お亡くなりになるところでしたよ!」

ハボック少尉とフュリー曹長は遅れての病室へ向かった。

もう大佐と中尉は着いているはずだ。

「失礼します」

「あ、いらっしゃい」

髪の毛の先が少しだけ焦げているのは気のせいだろうか?

視線に気づいたは左手で毛先を触る。

「ロイに燃やされちゃったよ」

「当然だ」

「怪我人に優しくないんだからなぁ」

は何とかそれを修復しようとするがやはり元に戻らない。

「でも、大丈夫そうでよかったです」

「ありがとう。それから、俺、今日ここを出るつもりだし」

「今日ッスか!?普通一週間じゃ…?」

「寝てばかりじゃつまらないでしょ?」

あっさり言うがそんなに簡単な怪我ではない。

「動かさなければ大丈夫だって言ってたからね」

なんだか恐ろしいオーラがホークアイ中尉の後ろから出ていますが?

ハボック少尉とフュリー曹長はあまりの恐怖で言えなかった。

「じゃ、じゃあ俺達はこれで…」

「ああ、お仕事ご苦労様」

「それでは…」

後ろに鬼の影を見てしまった。

「私もそろそろ失礼するよ。あとはホークアイ中尉にたーっぷり怒られるといい」

「…へい」

そう言ってロイまで出ていってしまった。

もう取りつく島はない。









「さて中佐。私の言いたいことはわかっていますね?」



「…はい」






上司と部下の立場がすっかり逆だ。

「心配しました」

「…はい」

「あまり、心配をかけないでください」

後ろを向いてしまった。

きっと彼女は堪えてるんだ。

「中尉…」

ベッドから立ち上がるが、痛みに少しだけ顔が歪んでしまう。

「ごめんなさい、中尉」

「もう無茶はやめてください」

少しだけ低い位置から睨みつける。

「…俺は、君を泣かせてばかりいるね」

自由な腕で涙を拭ってやるが追いつかない。

「本当にごめん」

人を泣かせるのは本当に胸が痛むものだ。

「ごめんなさい」




























でも誰かを抱きしめることはまだ抵抗がある。

そして俺にはそんな資格はない。