私は殺した。

命を救う医者だった。












10. 殲滅戦






















賢者の石と呼ばれるものにより、辺りは廃墟と化した。

もう街ではない。

それでもなお、は破壊を続ける。

笑っているその顔はどう見ても泣いているようにしか見えなかった。

毎晩繰り返される行動。

家族の名を呼んで自分を責める。




















、起きていたら聞いてくれ」

一暴れして大人しくなったに声をかける。

ロイは眉間に皺を寄せ、地面に片膝をついた。

「罪もない医者を殺した」

は顔を上げ、その人物を確認する。

「命令とは言え、俺は罪のない医者を殺してしまったよ」

「…殺した、のか?」

「あぁ」

はずっとロイを見つめていた。

「どうした?辛いのか?」

「イシュヴァール人の虐殺も…」

話しているうちに発火布に包まれた手でロイは顔を隠してしまった。

「君が悪いんじゃない…」

「だったら、、君も悪くない」

「俺は、最悪だ。家族も守ってやれなかった、虐殺もして、それを笑っている」

そして、そんな自分を止められない。















あの時の感情をそのまま。

自分は家族のいた場所、家族が生きていたあの時間に自分を置いてきてしまった。
















「感情のない狗だったらよかったのに」

















俺がもっと早く飛べれば。

汽車なんかと比べものにならないくらい速く、持久力もあったら。














「彼らを殺した後、…妙に自殺したい気分になったよ」











ロイは笑う。

「でもDr.に止められた」

「自殺?!馬鹿なまねはやめろ!」

「言っただろう、Dr.マルコーに止められたよ」

君は悪くない、ってね。

は安堵の表情をした後、叫ぶように言った。

「自殺なんてするな!お前は生きてなきゃいけない!」

「どうして?」

「…俺が、辛い。今度こそ本当に俺が俺じゃなくなる。お前に会えて、泣きたくなった」

ロイはの両手を捕まえている鎖の鍵をはずし始めた。

「私も同じだ。君の姿を見てると辛い」



そんな顔をしないでくれ。



「傷の舐め合いだと言われても構わない」




お前はこんなにも脆かったんだな。



ごめんな。









俺ばかりが辛いんじゃなかったんだ。








放たれた腕でロイを抱きしめる。

身長も手の長さも足りない。

でも。

「俺、もっと大きくなってロイの部下になるよ。そしたらもうこんな気持ちにはさせない!」

「泣くな」

「ロイだって、泣いてるくせに」

発火布は役に立たなくなっていた。

今敵襲にでもあったらロイは“無能”だね。

のことは、忘れられない。そして…」

罪は消えない。

彼女を助ける力が足りなかったのは事実だが、罪は罪だ。

それに、イシュヴァール人を虐殺した罪は一生背負っていかなければならない。

「見てられない。きっとお前は俺より酷い顔をしてる」

「酷い顔はお互い様だ」

「お前のそんな顔は初めで見るよ」

お互いの体温が伝わってくる。



生きてる。











「私が大総統になったら、君のような気持ちになる人がいない世界にしてみせる」














「…俺がサポートしてやるよ」










もっと力をつけて、お前より強くなって、守るから。










































「やぁ、マース」

「お前…」

必死で痛みに耐えていた顔。

「…ったく」

手を伸ばすと一瞬は身をすくめた。

頭に手を乗せて薄い金髪をかき混ぜる。

「手のかかる弟だな」

「弟?」

「なぁ?」

ロイの方を悪い笑顔で振り返る。

ロイもあきらめたようにため息を付いて頷いた。

「全くだな」

「ちょ…、痛いってば」

二人同時にの髪の毛をぐしゃぐしゃにする。

「禿げるってば!」

「知らんな」

「大丈夫だって」

必死でそれを避けようとするが身長の関係で逃げられなかった。

「何を根拠にしてるんだー!?」























































「それからは『天才』と呼ばれるまでに自分の力を引き出していった、ということだ」

部屋には沈黙が流れる。

「俺は後でいろんな奴に話を聞いた事を話したまでだが、相当酷い状態だったらしい」

「じゃあ、今日はそのさんの墓参り…」

「そうだ」

あんなに優しい笑い方をする人が…。

あれ程までに笑うことが出来るまでどれくらいの時間がかかったのだろうか。

それぞれの胸の内には複雑な思いが渦巻く。

「おいおい、今のは昔のとは別物だぜ?」

「その通りだ。彼は『光の獅子』ではなく『当方司令部でロイ=マスタングの部下・』だ」



























「ふひゃ」

「軍人さん、風邪かね?」

どうやらくしゃみらしい。

「ん〜、ま〜た上司が変な噂でもしてるのかも」

「大変だね〜、えーと、『無能』の錬金術師だっけな?」

「そうそう」

自分が教えておいて爆笑。













でもね…





その『無能』の錬金術師が俺の恩人なんだけどね。