「あー、えーと、そのー、すみません…」
俺はニューオプティン行き決定かもしれない。
24. 血まみれ
今日もまたバカが何かやらかしそうだ。
はロイの机の後ろで外を眺めていた。
ここは外がよく見渡せる。
「、邪魔をしに来たのか?」
書類の山に囲まれたロイが青筋を立てていた。
…さすがにこれだけあると笑えない。
「いやいや、『監視』と言ってくれたまえ」
「ホークアイ中尉はどうした?」
「彼女はロイの番ばかりしていて溜まってしまった書類を処理してる」
自分に非があるのだから仕方がない。
言い返せないロイを見て思わず吹き出す。
「ささ、早く処理して。今日は忙しくなりそうだから」
「何がだ?」
おっと口が滑った。
「君が終わった書類を片付けなきゃいけないから」
これもまた自分に非がある。
ロイは諦めて書類の処理にかかった。
そろそろ危ないと感じ始めたのはロイが書類にサインをするのを飽きてきた頃だった。
「さて、休憩にしますかね」
は背伸びをしてロイに声をかけた。
「中尉と違うところは休憩が早いところだな」
「紅茶、いれてくるよ」
ドアに手をかけるといつもの笑顔で一度振り返ってドアを閉めた。
一気に周りの空気を変える。
「行くか」
瞳の色が変わるともう止められない。
本能のままに危険を察知して飛び立つ。
「これでっ、最後かっ!?」
そんなに束になってかかってこなくてもどっちにしても倒すんだから意味がないのに。
久しぶりに動いたものだから息が上がってしかたがない。
ちょっとした返り血でえらいことになってるし、自分だって少しは(本当はかなり)怪我してしまった。
「痛てて、足が大変なことに」
…あぁ、これはちょっと。
左足は大惨事だ。これでは中尉に怒られても文句は言えない。
「俺が悪いんじゃないし〜」
そうは言っても足は引きずる形になるし、制服は…言うまでもない。
これで施設を歩けばたちまち大佐か中尉に連絡が行く。
しかも一度帰るにはどうしても館内を歩かなければならない。
「今回ばかりは本気で困ったな…」
ニューオプティンに左遷されたら本気で軍を辞めたくなるのは確実だ。
そうなるとロイを守るという約束を果たせなくなってしまう。
『私との約束は…、どこにもいかないという約束は!』
これくらいの怪我ならば許してもらえるだろうか。
どこにもいかない。
その約束は守っているが…、いや、単独で行動したことに間違いはない。
だめだ、どう考えても許してもらえそうにない。
諦めた俺は左足がこれ以上大変なことにならないように気を付けながら地下を後にした。
大体、軍がこんなところを作るからいけないんだ!
「きゃー!!」
受付のお姉さんが悲鳴を上げる。
そりゃそうだ、左足は(以下略)
「うわー!!」
通りがかったフュリー曹長までもが悲鳴を上げた。
まぁ確かに左(以下略)
「ぎゃー!」
そんな…、ハボック少尉まで…。
あぁ、そうか。
すーっかり忘れていたが、制服も少しだけ…。
俺も慣れたものだ。
少し前までは血を見ただけでおかしくなってたのに。
「どうした!」
ものすごい勢いで走ってきたロイに笑顔であいさつ。
「やぁ、ロイ」
俺の姿を見たロイは額に手をやって大きくため息をついた。
「君はよほどニューオプティンに行きたいようだね」
「今回は仕方ない。ロイを呼びに行く暇もホークアイ中尉を呼ぶ暇もなかったんだよ」
不可抗力だ、と説明するもロイはどうやら今から来るであろう恐怖の魔王のことが心配らしい。
「何事ですか?」
笑顔だ…。
厳しい顔をしていた彼女が笑顔になってこちらへ近づいてくる。
お、怒ってるー!!!
「中佐、どうなされたのですか?」
「いや、今回は許してくれ。ロイを呼びに行く暇も君を呼ぶ暇もなかったんだ」
長い沈黙。
俺は表情を変えずに彼女を見ていた。
しかし、内心では大汗をかいていた。
「あー、えーと、そのー、すみません…」
「それでは、病院に行きましょうか」
「…はい」
ちらっと俺の足を見てそこにいたハボック少尉に車椅子を取ってくるように命じた。
「あ、俺飛んで行きますんで…」
「駄目よ」
「いや、俺はあれに乗るくらいだったら逃げます」
あれと俺は相性が悪い。
乗る度に障害物に当たって吹っ飛ぶ。
…車椅子で疾走するから悪いのは分かっているが。
至極真面目な顔をするとホークアイ中尉までもがため息をついた。
「わかったわ」
ハボック少尉を止めてからホークアイ中尉は俺の手に何かを付けた。
「中尉、これは…」
「勝手に飛んで行かれては困りますので」
猫用の首輪に子犬用の鎖。
「あははは!中佐、似合ってるッスよー!」
ハボック少尉が豪快に笑う。
手首に付けられた首輪から伸びている鎖の端を中尉が持っている。
「よかったな、もうこれで逃げられん」
「中尉…」
「行きましょうか」
どうやら俺は本気で中尉を怒らせてしまったようだ。
「…と、言うわけです」
足の傷は麻酔をかけてあるので全く痛みを感じなかった。そもそも麻酔など必要ないのだが。
医者が足を治療している間に、はホークアイ中尉の痛い視線に晒されつつ状況説明をしていた。
「呼んでいる暇があったら爆発物をどうにかするべきでしょ?」
「そんなに爆発寸前だったのですか?」
「もちろん。束になってかかってくるから本当に寸前だったよ」
ウソをついているから本当に申し訳ない。
ホークアイ中尉は呆れてものが言えないと言った様子だった。
「そう言うならばしかたありませんね」
「時間があった場合は必ずお知らせしますので許してください!!」
パンと手を合わせて思いきり謝った。
「あー、別に攻撃しようと思ったわけじゃないんだけど…」
手を合わせた拍子に辺りの光が凝縮され、たくさんの光のビー玉が落ちてきて床に散らばる。
爆弾を愛しちゃってる先ほどの集団が持っていた小型爆弾がまだ頭から離れていなかったようだ。
「手を合わせるのも考えものだな」
「本当に厄介な方です、あなたは」
次第にクリアになっていく視界。
「でも無事で良かった」
「リザさん…」
俺はどうやらまだ吹っ切れてないらしいな。
どこまでも悪い奴だ、と自分を笑う。
「今度は本当に報告します。約束します」
「もうこんな姿で返ってくるのはやめてくださいね」
「はい」
見えなくてもいい。
罪の瞳に彼女を映すのはあまりに辛かった。
「うわ!」
「おっとごめん、ハボック少尉」
左足を地面に付けない方法。
なるほど、俺が常に宙に浮いていればいい。
と言うわけで、俺は傷が治るまでこうしておくことにした。
「また大佐が何かしたんですか?」
「いや、足が治るまでこうでもしておかないと中尉に怒られるから」
「またとは何だ、またとは」
ロイが恨めしそうな顔をしてこちらを見ていた。
「いやいや、さすがハボック少尉だ。よくわかっている」
「おはようございます」
ホークアイ中尉が入ってきていきなり俺に接近する。
「お、おはようございました」
「中佐、手を」
言われるままに手を出すと昨日の首輪と今度は鎖ではなく普通のリードだった。
「ちゅ、中尉…?」
「さぁ、仕事を始めましょう」
机が隣同士だから大丈夫…じゃない。
手首に何かがついてるとかなり邪魔だ。
「中尉、許してください」
きれいさっぱり無視だ。
「すみませんでした」
やはりまだ怒っているのだろうか?
「リザさ〜ん」
「中佐、お静かに」
「…はい」
外野から歓声に似た声が起こった。
「やっぱり敷かれてますね」
「そうみたいだな」
聞こえてるんだけどな〜。
「、この書類…、どうした?」
いつもと違い、どこか落ち着かない様子だった。
「あ〜、ロイ。いやいや、あのさ、ね?」
「何だ?」
俺はもう諦めようとしたが、やはり邪魔で仕事ができない。
「中尉、腰のベルトじゃ駄目?」
「すまんな。両手が仕えないとコイツは無能なんだ」
「君と一緒にしないでくれ!」
またも一触即発状態になりかけるのをハボック少尉が止める。
「ちょ、お二人とも、落ち着いて…」
そう言っている間にホークアイ中尉は俺の腰のベルトにそれを通した。
「これでよろしいですか?」
「…はい」
これなら悪い気はしない。
むしろ誰かとつながっているのだから実はどこか安心感があった。
…俺は変な趣味があるわけではないことを先に言っておく。
「中尉、本当にすみませんでした」
ピタッとペンが止まって少しだけ頬が緩んだのがわかった。
「大好きです」
「…中佐、ここはオフィスですが」
「うん、わかってる」
俺は本当に悪い奴だ。
人がこんなにも温かい感じたのは、一体いつ以来だっただろうか?