、今日はどうだった?』

嬉しそうに駆けてくる彼女は確かにそこにいた。










22. 安息の地




























「目が覚めた?」

「ん、か…」

「他に誰がいるのよ?」

寝ぼけている自分の額を軽く叩いては一階に下りていった。

顔を洗っていつものように食卓につく。

「どうかしたの?」

「夢、見てた」

父さんと母さんの夢だった。

「いつもの場面だったよ」

…」

皿を机に置いての頭を抱きしめた。

「大丈夫、私がいるよ」

「うん…」

彼女がいなければ今の俺はいなかった。

いつものやりとりらしく、お互いは顔を見合わせて笑う。

「今日は、のためにたくさん魚を釣ってくるからな」

「楽しみにしてるわ」

その笑顔に何度癒されたことか。




でも俺はその笑顔を守りきれなかった。










































「目が、覚めたみたいね」

「ん…、?」

声が詰まってしまった。

白い天上が目に入ってここが病院であったことを思い出す。





がいるはずはないんだ。





顔を覗き込んでいたのはリザだった。

まだ完全に目が覚めていないは天井を見つめるだけだった。

少しして近くにあるスケッチブックを手に取った。

『お久しぶりです』

「そうね」

やっぱり怒っているらしかった。

今回ばかりはどんな怒られ方をしても仕方がない。

一度は約束を破ることまで考えていたのだから。

『みんなさんお怪我はありませんでしたか?』

「ええ、あなたのお陰でみんな怪我はないわ」

はスケッチブックを畳んでゆっくりと起きあがった。

「中佐!?」

「大丈夫、だよ」

上手く声が出せなくて咳き込んでしまった。

真っ白なシーツの一点が朱く染まる。

「中佐!」

「また、やって、しまったな」

看護婦さんに怒られてしまう。

「何のためにスケッチブックがあると…」

「俺、はロイを、どうしても、守らないと」

「では!」

リザはもう既に頬に涙がこぼれていた。

「私との約束は…、無茶をしないという約束は!」

「守った。ちゃんと、帰ってきただ、ろう?」

こんなにボロボロになってまで帰ってきて欲しくなかったのに。

リザは軍服の端を力一杯握りしめていた。

「やっぱり会いたかった、から、リザさんに」

そう言うとは大きく息を吸い込んで目を閉じた。

そのままベッドに沈み込む。



ちょっと喋りすぎたらしい。

彼女の呼ぶ声が聞こえていたけれど眠すぎて目が開かなかった。














































「全く、どういう神経をしているんだ」

次に目が覚めるといきなりロイに叩かれた。

「ど…」

すぐに口を塞がれてスケッチブックを差し出される。

『どういうことだ?』

「ホークアイ中尉と話がしたいのはわかるが、自殺行為だ!」

それはわかってはいたが…。

『中尉、ごめん。驚かせちゃったね』

ロイのように眉間に皺を寄せたホークアイ中尉がスケッチブックを見つめている。

「すっかりお怒りだぞ」

『俺の痛覚は半分死んでるからそんなに問題ないと思うけど』

「そうだったな」

あまりに怪我をし過ぎてもうあまり痛いと感じない。

本当なら脇腹と首の怪我の痛みで意識を保っていられないはずだ。

『でも全く痛くない訳じゃない。正直に言うと痛い』

「だろうな。それで、『死の匂い』がしたから地下へ行ったのか?」

『その通り。間に合ってよかったよ』

はスケッチブックを次のページに切り替えた。

「大佐!どうして彼に無茶をしないように言わないのですか!」

ロイはをちらっと見て呆れたように笑う。

「こいつは、昔からこうだからな」

「中佐に無茶をしないように命令してください!」

珍しく感情的なホークアイ中尉。

ロイはその様子を見て諦めたように笑った。

「可愛い部下のためだな…。今度から一人で行動するなよ」

『そういうわけにはいかない』

ホークアイ中尉が何かをメモしてロイに渡す。

ロイはそれを読んで片方の眉を上げて笑った。

「さすが中尉、仕事が早い」

さらに何かを書いてからその紙をに渡す。

、誓約書だ」

それを受け取り目を通す。

思わず吹き出してしまった。




中佐 以後、勝手に一人で行動することを固く禁ずる”




下にはロイのサインが入っている。

「罰則は何にしますか、大佐?」

「そうだな。ニューオプティンに左遷、はどうだ?」

『ハクロ将軍は絶対に嫌だ』

至極真面目な表情になって顔をしかめる。

「それが嫌ならばこれを守ることだ」

自分がハクロ将軍をものすごく嫌っていることを知っているロイはしてやったりの顔だ。

『わかったよ』

スケッチブックをさらにめくる。

『ただし一人じゃないときはいろいろするからな』

「いいだろう」

いろいろの内容は気になる、

しかしロイはその内容がわかっているようだ。

『君には敵わないよ』

「最近は中尉もなかなかのものだと思うが?」

確かに。

は久しぶりにホークアイ中尉に微笑んだ。














































「中佐、まだ入院していると…!」

『いや、書類が気になって』

二ヶ月ほど入院する予定だった中佐は一ヶ月もしない内に戻ってきた。

「ダメです!戻ってください」

『誓約書、守ってるからいいでしょう?』

意気揚々と机につくと書類に手を付ける。

「中佐!早く病院に…」

「リザ」

あの極上スマイルでリザはすっかり固まってしまった。

「書類が、溜まってるのは、俺の性に合わないんだ」

まだ上手く声を出すことが出来ない。

包帯が巻かれた傷の部分を少し触ってみる。

…やっぱり痛いものは痛い。

「いいだろ?終わったら病院に戻るから」

「私はまだあなたを許したわけではありません」

の軍服の端を掴んで睨みつける。

「どうして私を信じてくれないのですか?」

「リザさん…」


「私だって!あなたを失うことが怖いことなのに!」

耳鳴りがする。

彼女が言っていた。

俺がいなくなることが一番怖いから。

だから健康第一、怪我なんてもってのほかだと軍人になる前に言われた。

「リザ、俺の話、聞いてくれるか?」

驚いた顔でを見上げたが、呆れたように笑った。

「ちゃんと喋れるようになったら聞くわ」

手のかかる子供みたいだと笑われた。

「午後に…」



口を押さえられて先ほど落としてしまったスケッチブックを差し出す。

「早く怪我を治してくれないと困るでしょう?」

慌ててスケッチブックをめくった。

『午後にはちゃんと病院に戻ります』

「そうね。そうしてくれないと私の仕事が増えるわ」

『リザさんはロイのお守りで大変だな』

「あ!」

油断しているときに大きな声を出されてしまうとさすがに驚く。

「大変、今日は中央から視察に来る方が…」

『いってらっしゃい』

そう書いてから手を振る。

「なるべく午後に病院へ行けるようにするわ」

黙って頷くとホークアイ中尉は一度振り返って走っていった。

「まだ、俺にも生きてる価値が、あるみたいだな」

オフィスのドアノブを開けると、それに押されたハボック少尉とブレダ少尉が倒れていた。

『何してるんだ?』

「いや、何って…」

「なぁ…」

盗み聞きをしていたことは間違いないなさそうだ。

「あれ?」

机の上の書類が思ったより少ない。

以前積まれていたものより遙かに少なかった。

「あぁ、大佐がなるべく中佐に書類を回さなくてすむように自分で処理してたみたいッスよ」

「ロイが…」

普段はそんなこと気にもかけないくせに。

どちらかというと自分の方には少なくして他人に押し付けるくせに。

どこかくすぐったい気持ちだ。

「変なヤツ」

「そうだ、それから」

でかいハボック少尉の手がいきなり口を塞ぐ。

どうして鼻まで一緒に塞ぐ必要があるのかはわからないが。

「スケッチブックで会話するようにホークアイ中尉から言われてますんで」

とりあえず机の上に置いたスケッチブックを差し出される。

完全包囲網だ。

自然と笑みが零れる。

くすぐったいような、何か変な感じ。
















本当に、





やってくれる。