家族がこんなにいいものだなんて思っていなかった。
23. ありがとう。 2
「おっ、やってるね」
「池のおじさん!どう?イモの調子は」
完璧に使いこなせる錬金術。
つまり自分の背中に光を錬成して近くまで荷物を受け取りにいっていたは速くて済む翼で家に向かっていた。
「今年はまぁまぁだ。どちらかと言うといい方だがね」
「ウチにも売ってくれよ?」
「もちろんだとも。サービスするさ」
村の人たちともかなりうち解けた。
「ー!」
の声だ。
「呼んでるみたいだな」
「そうみたい。じゃ、また!」
「おう!」
手を振って大切な家族の元に飛んだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
綺麗な黒髪が風に揺れていた。
いつもこの瞬間だけは頬が緩む。
俺達は恋人じゃないし、ももちろんそれは分かっている。
家族は抱きしめても良いんだろうか?
それから四年後、『太陽』は本当に死んだ。
何ということはない、ただの寿命だということだった。
でも、何か引っかかる。
「死んだ、か」
人が死ぬのにはいつまで経っても慣れないものだ。
『THE SUN』
結局名前は分からなかった。
墓石に彫られた名前はの付けた名前。
「ちゃんと、天国に行けるよねぇ?」
泣きじゃくりながら俺の腕を放さないが言った。
「わからない。だって…」
神さまはきっといないんだから。
「、後は我々がする」
「大丈夫だよおじさん。俺、もう大丈夫だから」
村の人々がよそ者の俺を大切にしてくれた。
「いや、今日はもう帰った方がいいも待ってるだろう」
ここの村の人々は本当に俺を家族の一員だと思ってくれている。
「ありがとう」
池のおじさんや、他のたくさんの村の人たちが俺の頭を撫でるから。
「ごめんなさい、俺弱っちくて…」
涙が止まらないんだ。
「、話がある」
久しぶりにこんな顔のを見る。
「何?」
それにつられて自然との顔も強ばっていった。
「俺、軍に入って国家錬金術師になる」
「…うん、わかった」
絶対に反対されると思っていた。
「いいのか?」
やはりどこか戸惑っている様子で頷いた。
「が決めたことだから」
「国家錬金術師になったら、もっといい暮らしをにさせてあげられる。だから…」
「わかってる」
いきなり抱きしめられてどうしたらいいのか戸惑う。
「でも、絶対に帰ってきて。ぜーったいどこにも行っちゃダメだよ!」
「…俺の帰る家はここだけだ」
「うん」
愛しい君。
本当に大切な家族。
出発は一ヶ月後に迫っていた。
駅のホーム、親しかった村の人々が俺を見送りに来てくれた。
「いってきます」
「怪我するなよ」
「わかってます」
赤い屋根のおじさんがまだ身長の伸びきらない豆(!)の俺を撫でまわした。
「ホレ、イモだ。もってけ」
「ありがとう。ちゃんと国家錬金術師になれたら村の整備をするから」
「そりゃありがてぇな」
池のおじさんは大きめの袋にイモを入れて俺に渡してくれた。
たくさんの人からいろいろな物を貰って荷物は元の三倍になった。
「これ、お守り」
最後にが俺にビーズ細工の花を渡してくれた。
「不格好で悪いけど」
一瞬ここから旅立ちたくない気持ちが込み上げてきた。
だが、のためにももっといい暮らしをさせてやりたかった。
「ありがとう」
そして、汽車はセントラルへ向かって汽笛を鳴らす。
「筆記パス、面接パス。後は実技」
何をやらかしてやろうかと悪巧みの真っ最中だった。
子供ならではの悪い笑顔。
「さて、行きますかね」
重たい音をたてたドアがゆっくりと開いた。
「ここにある全ての物質を君たちに授ける」
そんなものは必要ない。
さっさと決めるか、もしくは全員が何かをやった後で自分が錬成するか。
インパクトが強いのは、…前者でいくか。
何も言わずに胸の前に手を合わせる。
できるだけ太陽の光を集められるように手をかざした。
歓声が上がる。
今日の気分は羊だ。
「これは見事。光を構造を換え、物質化した、ということだな?」
「はい」
大きな、本当に大きな羊の置物をフィールドいっぱいに作った。
「小さいのをご所望ですか?」
再び手を合わせて指パチをしてみせる。
本当はそんなことする意味は全くない。
大総統の手の上に先ほどの羊の小さいものを乗せた。
「ふむ、今年は決定だな」
「今年の試験は以上だ」
誰も文句を言えない。
それまで光の錬成は不可能だと言われていたのだから。
大総統の真ん前に座らされてしまってはさすがにでも緊張を隠せなかった。
「そんなに緊張する必要はない」
「はい!」
「国家錬金術師試験合格おめでとう」
「はい!ありがとうございます!」
この大総統ほどくせ者はいない。
笑顔の裏に何が隠れているか分からないため、気を抜くことは許されない。
「恐らくすぐに戦場に出てもらうことになるだろう」
「わかっています」
もう決心はついていた。
全てはのため、村の人たちのためだ。
見渡す限り朱い世界だった。
「脆いんだな、人って」
少し攻撃しただけで死んでしまう。
「さすが、少佐だ」
どんなに誉められても人殺しには変わりない。
『光の獅子』なんていうあだ名まで付いてしまった。俺は羊の方が好きだ。
どうして自分がこんなことをしても何も感じないのか不思議ではあった。しかしそれは彼女のため。
東のイシュヴァールでは戦闘が絶えないらしい。
いずれそこに行くことになるだろう。
この戦いが終わったら一時帰還が許されている。
あぁ、早くに会いたいんだ。
「!?」
「た、ただいま」
手紙も書かずに帰ってきてしまった。
さすがにまずかっただろうか?
「おかえり!おかえりなさい!」
少しだけしか伸びていない身長でも少しはに近づいた。
「これ、お土産」
セントラルの店で購入したクッキー。
それを抱きしめては涙を流していた。
「な、ちょっと!何で泣いてるんだよ!」
「嬉しいの。が無事に戻ってきてくれたから嬉しかったの!」
目を擦りながら泣いていることを必死で隠しているようだった。
「道路の整備、業者に頼んでおいたから」
「え…、本当に?」
冗談で言ったつもりだろうが、俺は至極真面目に聞き入れた。
だってと、村の人たちが喜ぶことをしたかったから。
「一週間しかいられないけど、またすぐに戻ってくるから」
「は嘘つかなかったよ。だって本当にすぐに戻ってきたもの」
信じてたから、とは笑った。
あっという間に一週間が過ぎ、この前のようにと村の人たちが駅に見送りに来てくれた。
道路の整備についてものすごく感謝されたけれど、これは俺からのお礼。
「いってきます」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
と軽いキスをして俺は再びセントラルへ向かった。
それがとの最後の約束だったんだ。
それからいくつかの戦場をまわった。
ありがたくない『光の獅子』という名前もすっかり定着して、『太陽』が俺のことを獅子と呼んでいたことを思いだした。
「ここがえーと、忘れた。何個目の戦場だったか?」
翼を広げて飛び出していくと、やはり目立つのか味方に向けられていた銃は全て俺を狙い始めた。
軍で磨いた攻撃用の錬金術を使うまでもないだろう。
軍支給の銃をを両方に携えて敵を挑発した。
今日の気分で軍刀も両側にある。
が一気に軍刀を抜けば、辺りはすっかり静かになっていた。
「…脆い」
人の頭だったところなんてもう見慣れていた。
「俺、まだ錬金術使ってないんだけどね」
笑わずにはいられなかった。
「怪我したくなかったらさっさとどこかに行ってくれ!」
できるだけ大きな声で叫んでみるが意味がないことはよく分かっている。
ここは戦場だ。
刃向かったものには死が訪れる。
「ちょっと長すぎたな」
いつものように翼を錬成するが引っ張りすぎてしまった。
飛べないわけではない。
諦めてそのままで駐屯地へ向かった。
駐屯地へ着いたらいきなり言われた。
「『光の獅子』だぞ」
邪魔な上官が後ろをついてきた。
「刀二本だけで敵陣に単身飛び込んでいった時はどうなることかと思ったが、誠に見事だった」
「ありがとうございます」
早く何処かに行ってくれ、とは心の中で叫んでいた。
酒臭いんだよ。
それに今日は軍刀が重すぎた。
次からは自分で錬成した方が早いだろう。
周りからは妙に注目されているし。
気分は最悪だ。
「俺に銃は利かねぇよ!」
いつものように敵と戦う。
あぁ、味方に手榴弾………黒髪!?
間に合え!
ギリギリのところで光のシールドが彼を覆う。
「大丈夫か?」
顔を上げた男はまだ若かった。
に似た綺麗な黒髪だ。
どことなく雰囲気まで似ている気がする。
いや、全然違うのは分かっているのだが。
「…名前は?」
今まで他人の名前を聞こうとは思わなかったのにな。
「ロイ、ロイ・マスタングだ」
彼はそう答えた。
「そっか。俺は・だ。気を付けろよ」
これ以上ここにいたら思わず彼に抱きつくところだった。
初対面の人間にいきなり抱きつかれたら困るだろうし。
似てるな。
呟くように言うとは再び空へ戻っていった。
「ここからの話はロイに聞いた?」
「ええ」
俺をじっと見つめている瞳。
全て受け入れようとしてくれている。
「村の様子は言うまでもない。街の郊外にある村はすべてが朱く染まっていた」
「ありがとう。もういいわ」
次第に辛い表情になっていくを止めた。
「俺はあまりに非力だ。君を守ってあげられる保証もできない」
「もういいから」
「今日もまた誰かの死が見えるんだ」
罪の瞳に映るのは実在するものだけではない。
片方の目を押さえてはため息をついた。
「俺はどうやったら君やロイや東方司令部のみんなを確実に守ることができるんだろうね」
「確実なことなどどこにもありません」
リザは真っ直ぐにの目を見つめていた。
「あなたはあなたらしくしていればいいんです」
ただし、とリザは続ける。
「私との約束を守ってくださらないのでしたら、わかっていますね?」
「…はい」
そう答えた後にリザは微笑んだ。
その笑顔を守りたいと心から思う。