これだから嫌になる。








バカな奴が多い中央は…。






















中央にて その1




























中央に一足遅く来た自分にもこの状況が好ましくないことはよくわかっていた。

出る杭は早く打っておけ。

階級社会の鉄則ってやつか?

それとも自分に自信がないからそう言うのか?

よくもまぁこれだけ毎日あることないこと噂話も続くものだ。

「今日のどうでもいい噂No.1は俺と君ができてるってやつだな…」

「どうしてそうなるんだ…?」

がくりと肩を落とすのが出る杭に該当するロイ・マスタング。

彼がこうやってまじめに机に向かっているのはその左に有能な部下がついているからで。

「あら中佐、本当ですか?」

楽しそうに聞くリザ・ホークアイ中尉はどうやら自分の反応を楽しんでいるからのようだ。

「…中尉、俺、立ち直れなくなるよ?」

「では新しい噂を流しておきましょうか?」

「いや…、何ら根拠のない事を流さないでください…」

今度はががくりと肩を落とす番だった。

中佐、準備できましたよ」

珍しくタバコをくわえていないハボック少尉が資料を片手に声をかける。

「ん、今行く。じゃ、ちょっと書庫まで行って来ますよ〜」

「いってらっしゃいませ」

ロイがちょっと恨めしそうな顔をしていたのは気のせいだろうか?




















二人で並んで廊下を歩く。

廊下で出会う軍人たちの視線は独り占め。

「少尉、俺の顔に何か付いてる?」

無駄だとわかっているのに声をかけてみる。

「へ?何もついてませんけど?」

だとすると自分が"光の獅子"であることを中央のほぼ全体が認識しているということだろうか。

しかしあの戦いの後に入ってきた者たちだっている。

どっかのアホが妙な噂を流しているに違いない。

「あー、ちょっと殺意が芽生えてきたぞー?」

「俺に!?」

慌てて飛び退いた少尉の顔に思わず吹き出してしまった。

「ち、違うよ。変な噂を流してる奴らに」

そんな話をしていると曲がり角で誰かにぶつかってしまった。

「っと、大丈夫?」

「ひっ…、す、すみませんでした!!!」

第一声がひっかかるが…?

それでも笑顔を崩さずに手をさしのべた。

「いやいや、謝らなきゃいけないのは俺の方だから…」

「すみません、すみませんでした!!」

立ち上がるとひたすら頭を下げてから敬礼をし、その場から去っていった。

「…今のは?」

「さあ…?」

は深く考えるのはやめた方が良いと経験が告げていたためそれに従う。

「どうでもいいや。さっさと書庫に行って仕事を終わらせような」

「ういーっす」

ハボック少尉もの態度で深追いはしない方がよいと理解したようだ。

恐れられていることは好都合ではあるがはっきり言って気分が悪い。

「人のこと化け物みたいにおどろきやがって…」

「まぁまぁ、いいじゃないですか」

へらへらと呑気に笑っているが少しでも自分が気にかけないように配慮してくれたのだろう。

それに感謝するが、どうも不真面目さだけしか伝わってこない。

とりあえず横っ腹に一撃入れておく。

「何っすか!」

「さ、さっさと仕事仕事」

「…了解」

少々不満そうな顔をしたが今度は気持ち悪い笑顔になって小さく声を上げて笑った。





































イライラする。

どうしてこんなに感情の制御ができないのか理由はわかっていた。

子供だな、とは自らを鼻で笑った。

折角誰もいないことを確認して中庭に来たというのに。

結局聞こえてくるのはゴシップネタばかり。

は立ち上がる。

その一挙一動に彼らは目を向け観察する。

「自分が殺されないか心配ってことか」

「不穏な言動は慎んだ方がいいんじゃないか?」

振り返るとマグカップを手にしたロイがいた。

「…わざわざここまで運んできたのか?」

「そうだが?」

カップを受け取ったがこの後の展開を考えると笑いがこみ上げてきた。

空のカップを持って部屋まで帰るのか?

どう考えても異様な光景だ。

は再びベンチに腰掛けた。

それに習いロイも隣へ移動する。

「寝不足か?」

「…覗きは犯罪じゃなかっただろうか?」

そうやってごまかしては見るがロイは視線をはずさない。

「………」

「ちょっと夢見が悪いだけだよ」

何か言わないと解放してもらえない。

は紅茶を一気のみするとカップを揺らした。

「早く、君には仕事が待ってるぞ?」

「…思い出したくない現実だな」

ロイも残りを一気に流し込む。

予想通り、マグカップを片手に部屋に帰る二人は異様だった。

あまりにそれが予想通りでの笑いはしばらく止まりそうもない。














「この書類、軍法会議所に持っていけばいいんだな?」

ロイにはその表情が意味しているものがよくわかっていた。

当然いつものようにちょっと抜けたような顔をしているが瞳だけは鋭い光を抱えていた。

「あぁ、頼めるか?」

「もちろん」

はさっさと背を向けて部屋から出ていく。

やはり軍法会議所にはあいつの"痛み"が強く残っているのだろう。

しかし手の空いている者はしかいなかった。

「大佐、中佐はどこに行かれたのですか?」

ほぼ入れ違いに入ってきたのはホークアイ中尉。

その手の書類を見て肩を落とすしかなかった。

今日は本当に帰れるのかと本気で心配になってきた。

「っと、中佐は軍法会議所だ」

危うく『』と口にしそうになった。

中央に移ってからはお互いの呼び方を改めたのだが、まだ慣れないために思わず出てしまうことがあった。

その様子に思わず微笑む中尉。

「慣れませんか?」

「そうだな。ずっと名前で呼んでいたんだ、違和感は拭えない」

書類を受け取りつつ困ったものだ、と肩をすくめてみせる。

「ところであと30分で軍議ですが…?」

「何!?なぜ早く言わない!」

「…1時間前も言いましたが?」

どうやら考え事をしていたために聞いていなかったようだ。

「それに予定表にも」

「…資料は?」

無言で机の上に置かれていた封筒を手渡す。

厚さは1センチ程度だ。

「急いで読んでくださいね」

もう集中して声は届いていないようだった。

こうして能力があるのだからいつも均等に使えばいいのに、とは言っていた。

あと25分。

に何も告げていなかったが大丈夫だろうか?









































無事に軍議が終了し、ロビーにはホークアイ中尉が待機していた。

高い天井付近にある窓からは光が漏れていた。

「お疲れさまです」

はまだ帰っていないか?」

「まだ見かけませんね…」

どこで道草を食っているのか。

子供ではないのだからさすがに迷子というわけではなさそうだが。

「マスタング大佐、飼い犬は一緒じゃないのかな?」

肩を見ると少将であることが確認できる。

「飼い犬、といいますと?」

「おっと、獅子だったかな」

名も知らない人間に犬扱いされるとはな…。

「何のことでしょう?」

相手をする気など更々ないのでしれっと答える。

どうやらそれが気に障ったようで顔をしかめていた。

「"光の獅子"と言ったか?」

「彼は書類を届けに行っています」

それでは、と踵を返して立ち去ろうとしたが制止の声がかかる。

「どうやって手なずけたのか知りたいものだな」

周りからも下卑た笑い声が聞こえてきた。

その言葉にホークアイ中尉の片眉が少々上がったような気がした。

珍しいことだ、普段は何を言われても表情を崩すことがないというのに。

「彼を使って点数稼ぎでもする気かな?」

「中央の方は紳士だと聞いていましたが?」

言葉に詰まり咳払いをする。

「所詮…」

「遅くなりました」

その言葉に場が凍る。わざわざ天井付近の窓から入ってくることもないだろうに。

しかし実は自分もこの展開が好きなのだ。先ほどまで優位であることを大いに主張していた者が一気に恐怖の表情に変わった。

は律儀に翼を広げた状態で降り立つ。

中佐、どこへ行っていた」

「少々道を間違えまして…」

先ほどの不機嫌さを引きずったままのようだ。

「どうも始めまして」

一気に殺気を全開にする。

さすがのホークアイ中尉も身を固くした。

「さあ戻りましょう、大佐」

「そうだな」

どうやらこのまま部屋まで帰るようだ。

目立つ。

目立ちすぎる。

ただでさえ目立つ外見をしているのにこれ以上目立っても困る…。

中佐、翼を消したまえ」

「りょーかい」

殺気はずっと全開にしたまま。

一度は振り返り、そして笑う。

その表情に膝の力が抜ける者までいた。

「大丈夫ですよ。いくら何でも上の人間を理由なく殺したりしませんから」

凶悪な光を放つ真紅の瞳だけが妙にはっきりと見えた。









廊下では鼻歌でも飛び出しそうなほどご機嫌な様子になっていた。

、その殺気をどうにかしたらどうだ?」

「大佐…」

思わず名前を出してしまったため自らの口を押さえた。

中佐、その殺気を消したまえ」

「あ、忘れてたよ」

「中佐」

おっと、とも自らの口を押さえた。

「すみません、忘れてました」

どっちもどっちだ、と二人は笑い出す。

「普段から誰かを殺す気なのか?」

「いえ、今日はちょっと水道の蛇口が壊れたみたいです」

後で修理業者でも呼んでおきます、とは笑う。

「それにしてもやっぱり気持ち悪いですねぇこれ、マスタング大佐」

それを聞きやはり背中に何か寒いものが走ったようでロイは身震いをした。

「全くだ…」

「ま、これでしばらくは快適に過ごせると思いますよ?」

また恐れられる原因を作ってしまったわけだがどうやら開き直ってしまったようだ。

「なんだか敬語を使ってると【忠誠を誓ってます】って感じですね」

「…私はおまえの飼い主じゃないぞ?」

「にゃ〜、…とか?」

似ていないことを承知でマネをしてみた。

「あら、中佐。犬ではないのですか?」

「だって、犬はブラックハヤテ号がいるでしょ」

「だが猫というのも違うような気がするが?」

は悪い笑顔をしてみせる。

「どんな猛獣でも寝てるときの顔はみんな猫の顔だよ」

だって獅子だって猫科だし。

「中佐」

「あー、またやっちゃった…。『ですよ』が正解」

こっちの方がストレスが溜まりそうだ。















中佐の歩く姿はとても力強く、そして優雅。

廊下を歩いていたを皆が注視した。

それは畏怖でもあり、美しいものに目を奪われる人間の習性でもあった。

階級が上の人間でさえ触らぬ獅子にたたりなしと大佐に向けるような言いがかりはつけてこない。

自分達から見れば今の彼は随分と抜けた顔をしているのだが。

それでもやはり勇気があるというか、知らないというのは恐ろしいことだというか…。

「やぁ、君が中佐?」

「はい、何かご用ですか?」

無謀にも突っかかっていく輩がいた。

「聞いたとおり、とてもきれいな目をしているね」

「そうですか?」

中佐はさらさら相手にする気はないらしい。

「君の噂はよく耳にするよ。みんなマスタング大佐がどうやって獅子を手なづけたか気になるみたいだね」

「そうですか」

さすがにその態度が気に障ったらしい。

にこやかだった顔が一気に不機嫌な色になった。

どういうわけだか大佐も中佐も誤解を招くような言い方をするのが得意だ。

「何人殺したらその若さで中佐になれるのかい?」

その言葉が終わった瞬間、周辺の軍人たちは身動き一つ出来なくなっていた。

あまりの恐怖に足が竦んだ。

正体不明のどす黒い影を背後に感じるような圧倒的な恐怖。

はそれとはまったく反対に極上の笑みで見つめていた。

「そうですね…、出世をお望みでしたらこんなところにいるより仕事をされたほうがいいのでは?」

そして敬礼をし、一旦背を向けてから再び振り返る。

「あ、俺の上司と部下に妙な真似をしたら…獅子が目を覚ましますから」

美しいと称賛された笑顔だった。

しかし瞳に宿る光は彼らにはあまりに強烈なものだったようだ。








そしてそんなことがあってもすぐに中佐は計画を実行する。

日差しがやわらかくなった頃、木の下で休憩中と書かれたプレートを立てて眠っている中佐がいた。

時間も書かれていたが、その時刻はずっと前に過ぎている。

「うぉーい、中佐。起きてくださいよー」

こうして寝ていれば獅子なんてもんじゃなくて完全に猫なのに。

静かな寝息を立てているところを見るとあれしきのことでは目を覚ましてはくれないようだ。

「見つけたようね」

ホークアイ中尉はその姿を見て苦笑した。

さっきまであんなに危険な目をした獅子だったのにあまりにギャップが激しすぎて笑ってしまう。

「気付いているかしら、最近は私たちが近づいても目を覚まさなくなったわ」

中佐が寝返りを打つ。

「…猫ですね」

「そうね、猫だわ」

丸くなって寝ている姿はあまりに無防備だった。

「あぁ、ここだったか」

反対側から大佐が垣根を越えてやってきた。

まだ掛け声をかけながら跨ぐわけではないのでセーフ。

「よく見つけたな」

「はぁ…、まぁ」

「ここにくるのは久しぶりだ」

大佐はとりあえず中佐を起こすことにしたようだ。

少し離れるようにと自分達に告げる。

大佐は何の躊躇もなく、むしろ楽しそうに発火布の手袋を磨った。

小規模とはいえ、爆発は爆発だ。

小気味よい爆発音がし、部下二人は開いた口が塞がらなくなっている。

「おはよう…」

「ふむ、鈍ってはいないようだな」

気が付けばロイの背後に不機嫌そうな顔をした中佐が立っていた。

そしてそのまま大佐にヘッドロックをかける。

「何をする!」

「それはこっちの台詞だ!警告の一つくらいあってもいいだろう!」

こうなったら美形も何もあったものではない。

「中佐、よろしいのですか?」

「ん?」

「お言葉は、そのままで?」

そうだった、と中佐は言葉を改めた。

「警告くらいはしやがってください」

「それのどこが敬語だ!」

どこ吹く風といった様子でヘッドロックをかけたまま口笛を吹く。

しかしそれも長くは続かなかった。

ヘッドロックを解除し、敬礼をする。

「何事だ?」

中佐の顔を見ると一瞬顔を引きつらせた。

「申し訳ありません。自分が休憩時間を過ぎても戻らなかったため部下が探しにきてくれました」

そして優秀な部下の表情で大佐の方を向いた。

「中央の敷地は広いものですから大佐にまでご足労をかけてしまいました」

「爆発音はどう説明するのかね?」

「マスタング大佐が目覚めがいいようにと気を利かせてくださっただけです」

むしろその気遣いのおかげで目覚めは最悪だったのだが。

部下二人と上司一人はあまりの変わりようにどうつっこめばいいのか検討も付かない。

「お騒がせして大変申し訳ありませんでした」

目覚めは悪いわ、上の人間に文句は言われるわで不機嫌この上ない。

「以後気を付けるように」

それだけ言うとさっさとその場から退散していった。

…?」

「何?」

さっきよりも不機嫌になってしまっている。

「邪魔しやがって…」

「中佐」

「…邪魔しくさりやがって」

中佐は去っていった後に思い切り地獄へ落ちろポーズ。全く敬語になっていない。

「お二人とも、仕事が溜まっていますので戻りましょう」

現実に引き戻された大佐と中佐は情けない顔をしていた。

「つらいですねぇ」

「…あぁ」

二人はお互いの肩を叩く。

戦ったわけじゃないのに健闘を称え合っていた。

二人は同時に歩み始めた。

ふと中佐が空を見上げる。

中佐の気配が薄くなった気がして、一瞬体が冷えるような感じがした。

今、目の前にあるべきものが一瞬にして消えてしまったかのような不安、そして恐怖。

自分だけかと思い、中尉の方に目をやるとどうやら自分と同じものを感じ取っていたようだった。

大佐が中佐の頭めがけて手刀を振り下ろす。

「いってー!」

大佐は無言で歩みを再開したが中佐は頭を両手で押さえていた。

この前の事件があって、もう中佐が得体の知れないことが理由でいなくなることはないだろうと思っていたけど。

…今度こんな風にヤバイと思ったら俺も手刀を入れさせてもらおう。



「何をしている、行くぞ!」




「ういーっす」




俺も部下の一人として守りますよ。





中佐。
























あとがきという名のいいわけ

中央にてその1。

中尉の出番が少なすぎるのが気になる…。

後半はハボさんメインになってしまいました。

リクエストの品よりも早くアップしてしまって申し訳ない限りです。

それから拍手、ありがとうございます!

お返事はちゃんとUPしていますのでご覧ください。