不器用な男たち
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最近彼について分かる事が増えてきた。 たとえば、足音だ。
あの不遜でイライラとしたような足音は、意外にも周りがうるさくても気がつく。
そしてたいてい、そんな足音をさせている彼は、脱浪薬の入ったゴブレットを持って、僕の部屋に来るのだ。
今日も。
遠くから聞こえてくる足音が彼のものだと分かり、僕は戸棚の陰に隠れた。
ちょっとしたイタズラ心だった。
明かりを消して、息を潜めて、彼が部屋に入ってくるのを待つ。
そして、入ってきた彼を後ろから驚かせてやろう。
きっと彼は目を白黒させて、喚き散らすんだ。
そんな彼の顔が見てみたくて。僕はじっと彼を待った。
苛立たしげな足音が廊下を蹴ってやってくる。
途中で何か声が聞こえたところをみると、また生徒の誰かをいびっていたんだろう。
困った奴だな。
そうこうするうちに足音は僕の部屋の前で止まった。
軽いノック音。
扉の向こうから声が届く。
「ルーピン、いるんだろう? 我輩だ」
そしてまたノック。
しかも今度はあからさまに叩く音に小さな怒りが混じっている。
いつも声をかけるけれど、今日は隠れているのだから、ここは彼が入ってくるのをじっと待つ。
もしかしたら、ちょっとした賭けの気分も味わっていたのかもしれない。
彼が……セブルスがあのまま戻って行ったら、彼にとって僕は所詮その程度。
待つ価値も、いるのかいないのか確かめる価値もない男。
だけどもし、彼が部屋に入ってきたら。
「ルーピン!」
拳で殴りつけるような音がヒステリックな声と共に届いた後、部屋も廊下も静かになった。
そのまま冷たい時が流れる。
僕は、息を止めて彼を待った。
入って来いと、祈りながら。
直後、部屋の扉が小さく開いた。
「ルーピン?」
廊下の光がここからはよく見えた。
廊下の細い光を背後に、セブルスが僕の部屋を覗き込んでいるのも。
僕は少し戸棚に頭を引っ込めて、彼の様子を伺う。
驚かすのは、彼が部屋の中央の机に来てからだ。
そこだと、僕の真正面あたりになって―――勿論セブルスの位置からは見えないが―――簡単に後ろを取れる。
自分の計画に心踊らす僕がいることも露知らず、セブルスは部屋の中を見回した。
「いないのか?」
片手に燭台、片手にゴブレットを持った彼は、ゆっくりと部屋に入ってきた。
彼の背後で扉が閉まる。
暗い部屋の中、彼の蝋燭の明かりが部屋の中央まで移動してくる。
小さな灯火に浮かび上がる、線の細いセブルスの顔。
そんな彼は、どこか困惑したような表情で部屋を見回すと、机の側にやってきた。
僕の目の前で―――彼は全然気付いていないけれど―――セブルスは燭台とゴブレットを机の上に置き、溜息を吐く。
「ルーピンの奴、どこへ行ったんだ」
憎憎しげに呟くセブルス。
でも、だったらゴブレットを置いてさっさと部屋から出て行けばいいのに、彼は明かりもつけず、机の側でじっとしていた。
何を考えているのか。
黒い双眸が長い睫の下臥せっている。
「あいつが薬を持ってこいと頼むから、授業後の休みを返上してきてやったというのに」
ぶつぶつと一人言を漏らす彼に、僕は笑いを堪えるのが必死だった。
「まったく。帰ってきたらしっかり文句を言ってやるぞ」
本当は、君のすぐ側にいるんだよ。
そう教えたくってうずうずしてきた。
もう、そろそろいいかな。驚かせてやろう。
僕は驚いたセブルスの顔を頭に浮かべながら、一歩足を踏み出した。
と、その瞬間、彼がくるりと振り返り、机の方を見た。
僕は慌てて戸棚の陰に姿を隠す。
気付かれたかな……? 
思ってセブルスを見つめたが、どうやらそうではないらしい。
セブルスは、僕の散らかった机の上を観察しているようだった。
また、文句をつける理由でも探しているんだろうか。 
さしずめ『あんなに散らかっていてよく平気なものだな。我輩なら一分とて我慢ならんが』だとか。
そんな独り言が漏れるだろうと耳を澄ましていて、僕は我が耳を疑った。
笑い声が……聞こえたのだ。
勿論この部屋には僕とセブルス以外にいない。
僕じゃなかったら、笑ったのは彼だろう。
廊下は静かだし、時刻も夜遅い。生徒のはずはない。
僕はゆっくりと戸棚から顔だけ出して、伺い見た。
セブルスの手には、一枚の写真があった。
あの、子供の菓子についてくる、魔法使いのカードの奴だ。なんでも生徒の一人が当たっただとかで、僕にくれたのだ。自分の写真なんてそんなに嬉しいものでもなかったから机の上に置きっぱなしにしていたのを、すっかり忘れていた。
セブルスは僕の写真を持ったまま、笑っている。
いつもの冷笑ではなく、目を細めて。
あんな彼の顔は見た事がなかった。
そんなに酷い顔でもしているんだろうか、写真の中の僕は。
僕は少し身を乗り出して、彼の手の中の写真を覗き込もうとした。
その瞬間。 彼が。セブルスがゆっくりと僕の写真に口付けた。
その、おおよそ普段の彼からは想像もつかない行動に驚き、声を上げたのは僕の方だった。
「あっ!」
出てしまった後口を覆っても遅い。
びくりと肩を震わせ、勢いよく、凄い形相でセブルスが振り返った。
「なッ……!!」
驚きでわなわなと震えている彼に、僕は諦めて姿を現した。明かりは小さな蝋燭だけ。暗い部屋に、それも自分のすぐ側から現れた僕に、彼は目を見張り、きつく睨みつけてくる。
「そんな……そんな所で何をしている?」
必死に自分を落ちつかせようとしているらしいが、声が震えている。
それに、蝋燭の光の所為かもしれないが、彼の顔はどこか赤かった。
見ると、写真を持つ手も震えている。
僕はセブルスに一歩歩み寄った。彼はそれにすかさず距離を取る。
ああ、もう、僕としたことが。
とんだ失敗だ。
せっかく彼が、写真とはいえ口付けてくれて、そこまでの好意を示してくれたというのに。また手の届かないところに行ってしまいそうだ。
僕は慎重に、けれどいつもの風を装って肩の力を抜き、また一歩セブルスに歩み寄る。
「ちょっと……驚かそうと思って」
笑んで言うと、
「悪趣味だ」
一刀両断に切り裂かれてしまった。
なんだか、成す術もないくらい拒絶されているのが、彼の強張った肩や、固まった表情から容易に窺い知れる。
ああ、こんな手は使いたくなかったけれど。
「その、写真」
僕はわざと彼が隠そうとしているものを指摘した。
なんだか火でも飲み込んだみたいに、一気に彼の顔が赤くなった。そして、手に持っていた写真を、床に投げつけた。
「こ、こんなもの、知らん!」
なんだか今にも写真を踏み躙りそうな剣幕のセブルスに、僕は努めて冷静に、囁くように言う。
「じゃあ、何をしていたの?」
「何もしておらん!」
怒鳴るように言うなり、セブルスはぷいっとそっぽを向いてしまう。
その瞬間。
一瞬彼が僕から視線を離したその瞬間を使って、僕は一気に彼の腕を引き寄せた。
「っ!?」
「往生際が悪いよ」
見かけよりずっと細いその身体を力の限り抱きしめて、僕は言う。
「キス、してただろう?」
可哀想なくらい赤くなるセブルス。
僕の腕の中で彼はうつむき、まるで少女のように震えている。
本当に、これがあのセブルスだろうか。高飛車で、憎まれ口しか叩かない、あの冷たい男だろうか。
「我輩は……何も……」
「嘘、吐かないで」
「嘘なんぞ吐いておらん! いいからっ、はなせっ!!」
細い腕で必死に突っ張るセブルス。
僕の腕から逃げようとしている彼は、まさか僕の顔が近づいていっているのに気付く余裕もない。
「セブルス……」
思わず名前で呼ぶと、彼が怪訝そうな顔で見上げてきた。
僕は。
彼の罵声も嫌がる声も全て飲み込むように、その瞬間彼の口を覆った。
「んっ!!?」
暴れる腕を一まとめにして、もう片手で腰を引き寄せる。密着した肌から、ロープ越しに彼の体温が伝わる。
僕達は、そのまま、暗闇の中床に倒れこんだ。
大きな音がして、机の上の羊皮紙が何枚か僕達の上に落ちてくる。だけど、僕はその衝動を抑えられず、噛み付くようなキスを続けた。
「んぁっ……やめッ……ンンんっ」
その頬を唾液が伝うのを舐め取り、喉元にもキツク跡をつける。仰け反った彼の口元から出た声に、僕はまた熱くされる。
「何を…するんだ、ルーピン!!」
「今日はまだ、君の薬を飲んでいないから。僕の中の血がたぎってるんだ」
どうでもいいような言い訳を取って付けながら、セブルスのローブをめくり上げる。
「だったら、さっさと薬を飲っ!!? ッ、ちょ……どこさわっ……うぅ」
その柔らかな肌に手を這わせながら、僕はセブルスのローブを剥ぎ、服を脱がせた。嫌だと喚く口はキスで押さえ、暴れる身体は快楽で解きほぐす。
その声が、かすかに艶を帯びてくるまで。
「やめろっ……我輩にっ、触るなッ……」
「セブルス。ほら、言いなよ。本当は何をしていたのか」
分かってて聞くのは卑怯だろうか。
でも、彼は自分の口からは何一つ真実を言ってくれないから。
こうでもしないと本音を吐き出せない、不器用な男だから。
僕はセブルスの自身に指を絡め、時折胸の突起を舐めながら、愛撫に酔わせていく。
「ッぁあ……くぅ…」
細い足が部屋の床を蹴る。
それすらも足で押さえつけ、身動きが取れないようにする。
「我慢してても、楽にはなれないよ?」
「やめろっ……はなせッ……はなしてくれッ……」
目尻に浮かんだ涙を舐め取る。 そして、白濁と露をこぼす彼自身にも、舌を這わす。
「ああっ!」
「たまらないだろう、セブルス。ほら、はやく言って、楽になりなよ」
彼は首を振って嫌だと訴える。
唇を強く噛んで、頬を染めて、それでも乱れる彼は、いつもの姿からは想像できなかった。そしてきっと、僕もまた、いつもの僕とは違っていたのかもしれない。
こんな。彼に酷い事をしてしまう僕なんて。
「我輩はっ……あぁっ、何もッ……」
セブルスの拳が僕の肩を、背を叩き、それでも最後には、耐え忍ぶようにローブを握り締めてきた。
「我慢ならないだろう? 何をやってたか僕に教えてくれたら、気持ちよくイかせてあげるよ?」
「そんなッ……」
僕はセブルスの自身の根元をきつく押さえたまま、肩をすくめて見せる。
「このままじゃあ、いくにイけないよ。ほら。なんだったら、実際にやってくれても、いいけど?」
僕は言って、微笑んだ。
彼は双眸を潤ませ、きつく睨みつける。
我慢できるはずがない。
それは彼自身もわかっていることだろう。
だから、その目の奥で、彼は今悩んでいるのだ。
不器用なセブルス。
こうまでしなきゃ、素直に口を開けない、頑なな人。
「………ッ、嫌なっ、男だ!」
セブルスは口を戦慄かせて、吐き出した。
そして、僕のローブをさらに強く握り締めて、震えている。
けれど、セブルス。僕だって、そうなんだよ。
僕だって。
「僕は、不器用な男だよ」
こうまでしなきゃ、君にキスさえできないし、触れる事だって躊躇ってしまう、不器用な男なんだ。
一線超えたいと願っていても、僕はいつだって君を見ていることしかできない。
「ほら、セブルス。言うか……やって見せて」
「ッ………」
セブルスが諦めたように力を抜く。
細い髪が揺れて、苦痛と悦楽の混じった顔が恐る恐る近づいてくる。
僕はその瞬間を待って、彼の自身を擦り上げた。 嬌声は君とのキスに飲み込まれる。
「んーーーッ、ンッ……ンぁあっ!!」
溜まっていた濃い体液が僕のローブを濡らす。
恐らく、彼にとっては強烈な快感。
その最後の一滴までも吐き出され、彼の震えが徐々におさまるまで、僕は彼を抱きしめていた。
不器用な僕は、こんな時くらいしか、君に触れられないから。
横目でセブルスを見ると、彼は凄みのある目で僕を見た。まるで、射殺さんばかりの勢いがある。
「まだ怒ってるの?」
尋ねると顔を赤くしたまま、怒鳴りだした。
「怒っているに決まっている! 当分、脱浪薬は自分で作って反省するんだな!!」
そして怒声を響かせたまま、部屋のドアを壊れそうなくらい酷く絞めて出て行った。
後に残された僕は、おかしくって、ちょっと困ってしまって、笑いが込みあがってくる。
まったく、彼は忘れている。
僕は薬を煎じるのが苦手なのに。
「ああ、困ったな」
不器用な狼は、不器用な男の元に、また次の夜も、不器用な方法で愛を請いに行かなければならないらしい。




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リクエスト☆リーマス×セブルスでした。
なんだかジェームズ色の強いイタズラッ子狼でスイマセン。
そして無理矢理Hに持っていってスイマセン(平謝り)