05.06 蛇の全力疾走
 蛇の全力疾走を想像できるだろうか。通常見かけるクネクネ走りではない。それは、地上の力学を
駆使したすさまじい走りなのである。
 
 空梅雨のさる日曜日、自分の体力づくりと犬の散歩を兼ねて、枝打ちや間伐などの山作業に出かけ、
斜面を下りる途中で、久しぶりに蛇に出会った。どこにでもいるシマヘビであった。この区域には、
以前、黒っぽいヤマカガシもいたが最近はとんと見かけなくなっていた。
 このシマヘビ君は、突然の侵入者に驚きガサガサとでてきて、枯れ枝に身を乗っけて全身をさらし、
逃げたもんかどうか思案しているように思える。体長は1メートルぐらいで、あまり大きくはなくまだ若い
蛇である。棒で突っついてみたがまだ動こうとしない。
 我が迷犬モカすけはどこにいるかと見回すと、ちょうどソフトボール大の石を下り坂で投げてやった
ので、枯れた倒木や除伐した枯れ枝などの障害物をものともせずに鹿のごときジャンプでもって20
メートル下に追っかけ降りたところである。
 すぐにモカすけを呼び寄せ、蛇にご対面をさせた。はじめはなかなか気づかないが、これまで出会った
ことのないヘンな存在を感じ、蛇を見つめた。その一瞬である。
 
 満を持していたように、蛇は、20メートル下の草むらに向かって、山の斜面を一気に駆け下りたので
ある。この間は大きな木々が立ち並んでいるため、地表が露出しておりその様子ははっきりと見て
取れた。ちょうど乗り手のいないスキー板が雪の斜面で放たれた様を想像して欲しい。身を縮め一本の
真っ直ぐな平べったい棒に変形して、まさにアッというまであった。身を縮めたためか今までの茶色っぽい
色ではなく、真っ黒に見えた。
 
 遅れをとった犬も負けじとすぐさま追っかけた。この日もあるかと投げられた石ころに向かって斜面を
駆け下りる修練は十二分に積んでいる。両者が下の草むらまで本当にアッという間に駆け下った。
先をとった蛇君は草むらでうまく穴にでも入り込んだようである。犬だけがうろうろと探し回っていた。
 
 同じ情景は前にもお目にかかっていた。この時は2メートルぐらいの高さの木を切ろうと作業をして
いたら、突然頭の上から何かが落ちてきて、黒っぽい固まりが一気に駆け下ったことがある。驚くと同時に
何かのちっちゃな動物だと思っていた。まさか蛇とは思ったこともなかったが、駆け下る様は今日の光景と
全く同じであった。
 身の危険を感じた蛇が、地上の力学をうまく活用して全力疾走をする様の一部始終を目の当たりにして、
自然の知恵の素晴らしさに感動してしまった。
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