ほしのはなし(1998.9著)

  いつの頃からか星を見るのが好きになった。写真を撮るのが好きで、風景写真のひとつとして、星の日周運動を撮ったのが多分その始まりだと思う。星も月や太陽と同じで時間とともに動いている。これを一眼レフカメラでシャッターを開けっぱなしにして撮ると、東の空では右上がり、南の空では横に、西の空では右下がり、そして北の空では北極星を中心に(正確には少しずれているが)円を描くように星の動きが線となって写真上に現われる。星には様々な色があり、この自然が作り出した芸術に魅入られて、星と風景を組み合わせて、いろんなシュチエーションで撮った。
6年前の夏には南半球のニュージーランド、クイーンズタウンという小さな町のホテルで、寒いのに部屋の窓を全開、小さな三脚すら持っていかなかったことを後悔しながら、部屋にある備品の聖書や電話帳を窓辺で重ね、そこへカメラを傾けて据え、レンズが空を向くように、南十字星がファインダー内に入るように動かしながら位置を決め、撮影した。苦労した甲斐もあり、なんとか南十字星とわかる写真となった。(右上の写真:南十字星を撮そうと試みた。ホテルの部屋の窓枠が写っている)ニュージーランドでみあげた星空の美しさ、南十字星を見つけたときの感動はずっと心に残っている。
そうやって何年か星景写真を撮っていたが、そのうちふと、流星が撮ってみたくなり、どうしたら流星を一枚の写真におさめることができるか、天体のことがわかりやすく書いてある本を捜して読んだり、天体に詳しい人に話を聞いたりして、ほんの少しの知識を得た。それによると、流星を見たり撮ったりするのにいちばんてっとり早いのは、毎年同じ日に決まった位置から出現する「流星群」だ。もっとも派手に現われるのは8月12日ごろのペルセウス座流星群。本来ならこれはペルセウス座を中心に放射状に流星が現われるのだが、あんまりにも派手なので「どっちの方向を見ればいいの」なんて考えなくても8月12日の星空を見上げてさえいれば、必ず流星を見ることができる。ただし、雨の日・曇りの日そして満月の夜は残念ながら見えない。5年くらい前に、まだ夕方のピンクがかった北の空の天辺に近い位置からずーっと輝きながら目の高さくらいまで流れていった超特大ものは今でも忘れられない。まさかあんなに明るい時間から凄いのがみられるなんて思ってもみないから、もちろんカメラの準備もしていなかった。しかしたとえカメラの準備をしていたとしても、ちょうどレンズを向けた方向、そしてちょうどファインダーの中を通り過ぎていくことは、ほんとうに運がいいか悪いかにかかっている。撮影段階で、今回はバッチリと期待していても、写真が出来上がってみるとほんのうっすら筋が写っているくらいで、プリントのキズと見間違えそうなくらいの情けない出来のことが多い。(左上の写真:しし座流星群)
 それに比べて、彗星ならある時期ずっと夜空にいてくれるから、今日雨でも明日があるさと、余裕を持って撮影に臨める。幸運なことにここ2年くらいの間に大きな彗星が2度もやってきた。百武彗星(右上)とヘール・ボップ彗星(左)である。ちゃんと彗星を見たことがそれまでなかったので、テレビニュースや新聞でだんだん近付いてきた、おおきくなってきたなどという報告を見聞きすると、どんなものだろうかとワクワクしていた。ある夜、寝付けなくて真夜中に2階の窓を開け星空を見上げると、他とは明らかに違う、星の回りに薄い雲がぼんやりとかかったような星を見つけた。「もしかしてこれが、百武彗星?」と感動が走った。翌日から、高感度フィルム・三脚・レリーズなどをそろえて、時間と天候の許すかぎり彗星の写真を撮った。我が家は田舎にあるのでけっこう星空はよく見えるのだが、近ごろは「防犯灯」という名の光害のせいで、見えにくくなっているのも確かだ。真夜中に外を歩く人はこの田舎ではいないので、真夜中には「防犯灯」を消してほしい。しかし、この百武彗星とヘール・ボップ彗星はそんな光害にも負けず、大都会でも燦然と輝いていたらしい。彗星を写真に撮ると、実際肉眼で見るのとは、少し印象が違う。写真の方が肉眼で見るのより、彗星の尾が先まではっきりわかる。百武彗星はすうっと細い尾が長く伸びているが、ヘール・ボップ彗星は青白いガスの尾と赤い塵の尾が二股に太く伸びている。
 さて、今年のペルセウス座流星群はどうだろう。流星群を見るとき、気になるのは、天気と月明かり。月は21日なので半月よりやや大きいのが夜遅くに昇ってくる。だから観測や撮影は暗くなってから、月がでるまでの数時間が勝負だ。8月11日、12日は夕食後、虫除けスプレーをかけて庭の芝生に寝っころがり、星を1〜2時間見ていたが「流れ星の日だということを空が忘れているんじゃないの?」って疑いたくなるくらい、流れない。ちょっと目立つのが2〜3個くらいしか見られなかった。文句を言っても、空には空の、星には星の事情があるだろうから、また次の流星群(「しし座流星群」11月17日ごろ・「りゅう座流星群」1月4日ごろ)に期待したい。