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 翌日、キャバッローネ国から迎えの馬車が並盛谷へ到着した。

 ディーノを気遣い、馬車の車内の座席一面には柔らかなクッションと毛布の膝掛けが用意されている。

 秋晴れの青空の下、並盛谷では一つの別れと旅立ちが待っていた。

 少年の衣服に身を包んだ雲雀は、涙する使用人たちに今までの感謝の言葉を口にする。

「これから、キャバッローネの風紀を取り締まってくるよ」

「恭弥様…」

 ドレスを選ばなかったのは雲雀の意思だ。

 ディーノはそれを尊重し、有りのままの雲雀を愛すると心に決めていた。

 お付の草壁も雲雀に同行し、彼を支えることを改めて主人に誓う。

「世界で一番、誰よりも幸せにおなり」

「はい、お父様」

 目頭を熱くさせる父に雲雀は最後だとばかりにその大きな懐へと抱きついた。

 一通りの別れの挨拶を告げると、雲雀は自分が生まれて育った家や町、谷に囲まれた大自然を悔いの残らぬように見渡した。

 

 

 

 ありがとう、お父様、みんな、それ並盛谷。

 お母様、聞いて下さい。

 僕もいつに好きな人ができました。

 その人は七つも年上だけど、僕のことを心から必要としてくれている。

 これから僕は、世界で一番幸せになれるよう、ディーノと歩んで行きます。

 

「恭弥、名残惜しいとは思うが、そろそろ出発の刻だ」

「はい」

 

 だから、お母様。

 どうか僕だけでなく、ディーノのことも天国から見守っていて下さい――――

 

 

 

 

 

 ゆっくりと走りだした馬車。

 道を先導するのは、馬に乗った綱吉だ。

 沿道に集まった並盛谷全ての人々は、おてんば姫様の嫁入りだと、篭一杯の花弁を振り撒き、心から祝福をしてくれた。

「おめでとうございます。恭弥さま」

「どうか、ディーノ様と末永く幸せに」

 馬車の窓から手を振る花嫁にディーノは、ふと、足元に立て掛けられた鉄の棒を見つけた。

「それは、なんだ?」

 疑念に思ったディーノが質問すると、花嫁はこう勇ましく答えた。

 これは護身用だと。

 一瞬、何を言ったのか解せなかったディーノは「もう必要ではないのでは?」と聞き返すと、花嫁は涼やかな顔でこう続けた。

「折角、キャバッローネへ行くのだもの。騎士になる夢を叶えなくちゃ。その為の鍛錬は欠かせないでしょう?」

「・・・・・・・」

「そのうち、赤ん坊にも会わせてくれるんだろう?」

 近く、キャバッローネに行く。

 雲雀に会わせろ。

 先日、届いたリボーンからの手紙に書いてあったのは事実。

「赤ん坊が僕に何の用なのか…。わくわくするね」

 まさか雲の守護者としての才能の片鱗を見出されたとまでは反応が恐ろしくて言えなかった。

 今、ボンゴレ国は要となる守護者を失って国としての基盤が危うくなっている。

 綱吉を次期十代目とさせるには五人の守護者の存在が必要不可欠なのだ。

(獄寺たちがそう簡単にやられるわけがねぇ…)

 何らかの事情があって、帰れないのだ。

きっと彼らは、この同じ空の下で生きている。

 綱吉だってそう信じているはずだ。

 いつか必ず運命が再び彼らを呼び寄せてくれる筈だと。

「僕は強くなりたい。だって、僕も愛する人を守りたいもの」

「あのな、恭弥……」

 谷でディーノが囁いてくれた言葉を雲雀はしっかりと聞き覚えていたのだ。

 釈然としないディーノに雲雀は、今も昔も変わらない悠然とした微笑で黙らせる。

「僕に何か意見でも?」

「いや。なんでもねーよ。それよりも、国に着いたら俺の部下たちをあんまり苛めないでくれよ。あと、ロマーリオの言うことには良く耳を傾けて――――」

「一々、僕に命令しないでくれる? まだ、僕はあなたの妻になったわけじゃないからね」

 とんでもない一言が降り注いで、ディーノは思わず身を乗り出し雲雀に詰め寄った。

「恭弥、てめぇ。どういうつもりで、キャバッローネに行く気なんだよ?」

「さっきから言っているでしょう。あなたの国の風紀を取り締まりに行くと」

「へ…?」

 輿入れなんて勘違いしないでよねと、照れ隠しに言う雲雀の言葉を本気にするディーノは愕然としていた。

「ちょ、待てよ。俺はさっき恭弥の親父さんに挨拶までしたんだぞ? 一生をかけて恭弥を大事にしますって」

「当たり前のこと、今更言わないでくれる? あなたって本当に馬鹿だね」

 ツンと横を向く雲雀は天使ではなく、小悪魔だった。

 あまりにもツンツンし過ぎて可愛くてならない。

「なんだよー。中出しさせてくれたのが、恭弥の返事だとばかり…」

「あ、あなた、未成年にそんなことして、普通だったら牢獄行きなんだからねっ」

「ん?」

「あなたが牢獄に閉じ込められたら、キャバッローネ国の人が困るんでしょう? だから、僕は最大限の譲歩をしてあげて、婚約者になってあげたんだよ?」

 それならば、性犯罪者として扱われないと、雲雀は耳の端を赤くさせながら告げた。

「きょーや!」

「もう。本当にあなたは後先考えずに行動するから困るんだ」

 仕方ない大人だねと、上から目線で物言う雲雀はやはりディーノの天使だ。

「だったら、これからもさせてくれるんだな?」

「ちょ…」

 恭弥は俺の婚約者だもんなと、上機嫌に言い張るディーノにつける薬はなく。

 代わりに立て掛けていた得物を握り締め、小さな肩を戦慄かせる雲雀がいたとか、いないとか。

 一夜の恋が運命を変え、千夜の愛が奇跡を起こす。

 この分だと、キャバッローネ国でも雲雀恭弥の武勇伝は広く国民に語り継がれることだろう。

 

 

 

 

 

〔第一部完〕