03

 

 

 

 

 

(お父様、先立つ不幸をお許し下さい――――)

真っ暗な闇の意識の中、醜い獣の断末魔が響き渡る。

いつまで経っても股内から一打ちが来ないので、怖々と目を開くと。

「?」

目を開けると、そこにはオークの死骸が三体転がっていた。

確か自分は一体しか仕留めていない。

なのにどうしてと疑問が生まれ、少年は辺りを見回した。

「怪我はないか?」

男の淡々とした口調が耳に届き、少年は漆黒の瞳を瞬かせ声のする方向へと視線を向けた。

若い金髪の青年が、背を向けるようにして立っていた。

「あなたは…」

少年はそう問いながら体を覆う物を探した。

だが目ぼしい物は見つからず、あるのはオークの死骸で血を吸い込んだ衣だけだった。

仕方なく少年は護身用の得物を持って岩場の影に隠れた。

「あなたが僕を助けたの?」

「ああ。通りすがりに声を聞いて、駆けつけた」

「…そう」

意識を失っていたものの数分の間にオークを倒した旅の男に少年は興味深々の視線を向ける。

この者は相当な使い手に違いないと。

自ら招いた失態に少年は溜息を洩らしながら、「ありがとう」とディーノに礼を述べた。

「僕の名は雲雀恭弥。この並盛谷の館に住んでいる」

「館…? では、きみは―――」

「僕は並盛谷の領主の――娘だよ…」

 娘と告げる時の声の暗さにディーノはあえて追求はしなかった。

 自分がそうであるように、人にはそれぞれ事情があるものだから。

「あなたはどこの国の者? その格好はただの旅人ではないね。騎士?」

その格好を繁々と眺めながら質問をする雲雀にディーノは自分がキャバッローネの者であることは伏せ、師の使いで並盛谷を訪れたと説明する。

「リボーンといえば、ボンゴレ国で有名な赤ん坊…。あなた、ボンゴレの守護者なの? 僕、一度でいいから本物の守護者に会ってみたいと思っていたんだ」

貞操の危機に晒されたばかりだということも忘れ、雲雀は子供のように瞳を輝かせた。

並盛谷を含めた広大な領土を統治するボンゴレ。

国王を守護する騎士は通称、「守護者」と呼ばれ、天候になぞられた称号を持つという。

この地上で最も誇り高く、屈強な騎士として人々から尊敬を集めていた。

「あなたはどの称号を持っているの? 嵐、雨、それとも…」

「ああ、俺の称号は<跳ね馬>だ。騎士としては、ちょっと変わっているが、正真正銘、リボーンに育てられた騎士だぜ」

「その称号を僕に見せて。騎士なら、武器に刻まれているのでしょう?」

「おい…」

一糸纏わぬ恰好も忘れ、目の前に姿を現した時には流石のディーノも困惑した。

未熟な胸は確かに女性特有の丸みがあり、淡い黒の茂みからは小さな性器が見え隠れする。

この者に人としての恥じらいはないのだろうか。

「風邪をひくぜ」

今度こそ至近距離から裸を見て、ディーノは咄嗟に着ていた外套を外して雲雀に押し付けた。

雲雀は漸く自分の姿を思い出して「ワォ」と、頬を薔薇色に染めた。

「…ありがとう」

淡雪の頬を染めながら、男の汗の匂いがする外套を受け取ると肩からかけるのだった。

 

 

 

 

 

並盛谷への道案内は領主の娘である雲雀がかってでた。

館に到着すると、既に綱吉の馬が表に繋がれており、ディーノは「獄寺の奴」と低く呟く。

ほんの少しの休憩が、この男勝りの令嬢のおかげで大幅に到着が遅れてしまったのだ。

「まさか、ディーノさんよりも先に並盛谷へ着くなんてね」

「ツナ、獄寺たちと一緒じゃないのか?」

 館の前に立つ、木に背を凭れさせながら、綱吉はにっこりと微笑んでみせた。

「一応、骸は反対してくれたんだけどね」

兄弟子の隣に立つ見麗しい少年を見つけ、人の悪い笑みを浮かべた。

「そちらの美しいご令嬢は? どこで出会ったんですか? これで、キャバッローネの世継ぎ問題も解消?」

 とんでもない。

 彼は良性器具だ。

 冗談にとれない綱吉の物言いにディーノは大層迷惑そうな色を浮かべ、首を横に振るう。

「この子は並盛谷の領主の娘。途中、オークに襲撃されていたところを俺が助けた」

「ふーん」

 ディーノの外套を体に巻きつけている雲雀の身形を見て、据え膳を喰おうとしていたのはオークたちではなく、ディーノだったのではないかと茶化した。

「恭さんっ」

 館の中から飛び出してきたのは、恰幅の良い上背のある男だった。

けろりとしている雲雀の元へ駆けつけた。

「ただいま、哲」

「どうされたのですか、その恰好は?」

帰りが遅い雲雀を心配していた使用人の草壁は、見慣れぬ外套を身に纏った恰好をしげしげと見回し、そして捲れば素っ裸だった恰好に激しく動揺した。

「ああ、これは僕が水浴びをしていたところをオークたちに襲われて。そこにいる金髪の騎士に助けて貰ったんだ。あ、でも、一匹は僕が仕留めよ?」

「き、恭さんっ!!」

「やれやれ、とんだじゃじゃ馬みたいですね。兄上?」

「…その言い方は止せっていってんだろ。ツナ」

 色々と勘違いされてややこしくなるからと、ディーノは注意する。

草壁の金切り声が遥か谷全体に響き渡り、雲雀は当分の間、外出禁止となったのは言うまでもない。