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07 オーク狩りは三日三晩、夜通しの大作業で行われた。 根城である洞窟に森の周辺のオークたちを追い詰め、そして最後に油を撒いて、丸焼きとしたのだ。 参謀核である躯の計画は被害を最小限にとどめ大成功をおさめた。 当初、目論んでいた通り、ウルグ・ハイの残党はオークの洞窟の中に潜んでいた。 任務完了の印となるウルグ・ハイの親玉の頭を刎ねたディーノはそれを国王の元へと届けるよう、使者を送った。 これで並盛谷のオークは全て壊滅し、これからは安心して道を行き来することが出来る。 青の騎士たちの活躍を人々は忘れぬよう、オークの住みかとして恐れられていた森を「守護者の森」と改め親しむことにした。 並盛谷の館を旅立つ日、雲雀は漸く外へ姿を見せた。 普段は泥だらけのドレスを身に纏っていたが、今日ばかりは領主の娘として恥かしくない正装姿だった。 萌える草花をびっしりと刺繍した豪奢なドレスは腰が細く、黒髪は綺麗に梳かされ、短く結われた髪にはリボンが添えられていた。 胸元には馬のペンダント。 折角、ディーノがくれたものだからと、別れの日ぐらい身につけているところを見せてやるつもりだった。 ボンゴレの守護者たちを一目見ようと、並盛谷中の民も集まり、羨望の眼差しを送っていた。 短い間の滞在だったが、世話になったことを綱吉が代表して述べた。 「このご恩は末代まで一生忘れません。ボンゴレの綱吉殿下、それにキャバッローネのディーノ王」 恭しく頭を下げながら父の言葉を聞いていた雲雀は我が耳を疑った。 (あの人…王? キャバッローネの王様?) 初めて知らされた真実に呆然とし、そして胸元のペンダントをもう一度に目を落とした。 確かにキャバッローネ国の王家の紋様は飛翔の馬。 その彫がディーノの持つ鞭にも刻まれているのは、雲雀も記憶に新しい。 (僕はなんてことを……) 幾ら身分を知らなかったとはいえ、随分と非礼なことを彼にしてしまった。 (そんな大事な物を僕が受け取る資格はない) 出発の時が訪れ、守護者とディーノは馬に乗り、ゆっくりと外門へと通じる石畳の道を闊歩し始める。 ペンダントはやはり返すべきだと、雲雀は決意を固め、長い裾のドレスを捲って後を追い駆けた。 「ディーノ、待ってっ」 懸命に呼んではみるが人々の歓声で雲雀の声は届かない。 普段の恰好ならば猿のように素早く移動できるのに、正装したばかりに体が自由に動かない。 (追いつけない……) 重いドレスを引き摺り、息を切らす自分が情けなくて仕方なかった。 「そうだ、僕も馬に乗れば」 正装着であることも形振り構わず、雲雀は馬小屋へと駆けた。 「恭弥様、お止め下さい。こんな姿を旦那様に見られたら、後で大目玉ですよ?」 「構わないよ。どうせ僕はお嫁にも行けないアバズレ女なんだから」 使用人たちの制止の声も聞かずに、ドレスを膝上まで捲り上げて黄色い鬣の白馬に乗った。 「はいよっ」 思い切り鞍を蹴り、馬は勢いよく小屋を後にした。 並盛谷の町をぐるりと囲った白煉瓦造りの長い道を下り、雲雀は関所である吊り橋の手前まで追いついた。 「恭弥様、なんとはしたないお姿を。これより先は行かせるわけには参りません」 関所で門兵たちに止められ、雲雀の追跡もここまでとなった。 馬から無理矢理下ろされ、雲雀は遥か先の吊り橋を渡っている一行を見つけだす。 「ディーノ!」 一歩踏み外せば、小高い崖から転落しかねないと言うのにも構わず、身を乗り出して叫んだ。 「ねぇ、兄上のこと呼んでいる人がいるみたいだけど?」 吊り橋を中程まで渡りきった綱吉が両目を凝らして、対岸側に立っている雲雀の姿を見つけ呟く。 「あれは、ヒバリさんだよ」 最後の言葉に、黒馬に跨っていたディーノは思わず手綱を引き、馬を止めた。 「どうした?」 不思議そうにしている獄寺にディーノは「先に行ってくれ」と告げる。 「見送りに態々来てくれたのな。それにしては、随分、向こう側の門兵たちが騒がしいけど」 視力の良い山本がこっそりとディーノに告げ、彼は言葉を無くす。 そして、じっと対岸に立つ雲雀を見つめていた。 この目が山本程、良いものなら、最後に一目雲雀の姿を瞼に焼き付けることが叶ったのに。 「我慢せず会ってきたらどうです? どうせ、これが今生の別れとなるのですからね」 骸もそれとなくディーノを促した。 しかし、ディーノは決して元来た道を戻ることなく、その場に立ち尽くし、ただ一度だけ雲雀に向かって手を上げた。 「ディーノ…っ」 高々に上げられた左手を見て、雲雀も堪らずに両手を振り返す。 「…行くな。行かないでっ」 いつしか頬に涙の筋が流れ、届かないとわかっていながらも秘めたる思いを口にする。 行かないで、と。 ディーノは無言のまま雲雀の輪郭を見つめ、次の瞬間には勢いよく馬鞍を蹴りあげて、吊り橋を駆け抜けて行った。 「今時、流行らないくらいキャバッローネは石頭ですね」 「極限、全くだ」 骸と笹川の遣り取りを聞きながら、綱吉は溜息をつき、どうしようもない兄弟子だなと思うのだった。 |