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明かされる真相 弟分ができた。 そいつの名は沢田綱吉。 ジャポーネに住む現役の中学生だ。 新天地でカテキョーに励んでいるという師の手紙が届いたのは、俺がイタリアへ帰国して間もなくのことだった。 一度、遊びに来い。 次期、ボンゴレの名を継ぐ少年にと、最後はそんな文言で手紙は締めくくられていた。 「一体、どういう神経をしていやがるんだ…」 相変わらず、考えていることが読めねぇ。 淡々とした文面を見つめ俺は溜息をついた。 「元弟子相手に何をしたのか、覚えちゃいねーのかよ…」 あの日、リボーンは本気で俺の額を撃ち抜いた。 勿論、本気で殺そうとしたのではない。 俺が銃の引き金を引く前にリボーンは早打ちで二発の弾を放った。 一発は構えていた俺の銃を実弾が狙い、もう一発は特殊弾が額を撃ち抜いた。 「あれが、特殊弾だったとはな…。反則だぜリボーン」 仮死状態になった俺はそのまま気を失った。 仕事は仕事とあくまでもプライベートとは完全に切り離している彼の思考はわかりやすく、あいつらしいと思った。 執務室の机の上に積み重ねられた報告書や資料の山を眺めながら、どうしたものかと首を巡らせる。 どうやら仕事に行き詰ったみたいだ。 これ以上、頭がまわらねぇと思ったとき執務室の扉が鳴り、濃厚なエスプレッソの香りが部屋中に漂った。 「ボス、一息入れたらどうだ?」 まるで見計らったかのように絶妙なタイミングでロマーリオがお茶を運んで来てくれた。 「おお、すまねぇな」 机の数少ない空きスペースに小さなティーカップを置き、俺は暫くの間、その香りに癒される。 一口啜り、「あったけぇ」心の芯から温まった。 北イタリアにも雪が降る。 俺が日本を発つ前に見た雪はどこまでも白く――恭弥の肌のように繊細で綺麗だった。 (いけねぇ…) ちょっと油断をすれば、この始末。 過去の亡霊を振り払うかのように俺は傍らにあった手紙を手に取った。 「なぁ、ロマーリオ。今の仕事が落ち着いたら、日本へ行こうと思っている」 「ボス?」 俺を呼ぶ声には明らかに動揺の色が含まれていた。 この場合、日本という言葉が禁句だったのか。 そういう意味ではないのだと、大袈裟に両手を広げて俺は誤解を解く。 「ちげーよ。リボーンから手紙が届いたんだ」 「リボーンさんから?」 つい数週間の出来事を思い出し、ロマーリオはその名を苦々しく呟いた。 仮にも相手は主を棺に脚一本入れさせたヒットマンだ。 たとえ命に別状がなかったとはいえ、恨まない方が部下として問題だった。 「あいつ、日本でカテキョーを始めたんだって」 「ほう、そいつは初耳だな」 嘗てこのキャバッローネ邸で起こった日々を思い出し、ロマーリオは教え子となる者に対して心底同情をした。 「で、その世界一幸運であり、不運な教え子はどこの何者なんだ?」 世界最強のヒットマンであるリボーンが家庭教師を務めるくらいだ。 その相手は只者ではないのだろうと俺に尋ねてきた。 「聞いて驚くなよ。そいつはまだ中学生なんだが、次期ボンゴレの名を継ぐべき男だ」 「へぇ。日本に継承者がいたなんて知らなかったぜ。俺はてっきり九代目のせがれのザンザスかと…」 ボンゴレ、九代目直轄の暗殺部隊、ヴァリアーのトップである男の面を思い出す部下に「それが色々とあってな」と俺は苦々しい表情を浮かべた。 「代々ボンゴレは血縁者のみをボスの座に座らせてきただろう」 それは周知の事実であり、絶対に外せないボスとしての条件でもあった。 「だが、ザンザスは九代目の血を引いてはいなかった。ボンゴレリングがザンザスを継承者として受け入れなかったのさ」 「なんと」 そこで次に白羽の矢が立ったのが初代ボンゴレのボスの血を引く子孫、沢田綱吉。 彼はボンゴレ門外部門に所属している沢田家光の一人息子でもあった。 「だからボンゴレはリボーンさんを日本へ寄こして、その中坊を次期ボンゴレ継承者として育てるつもりなのか」 「そういうことだ」 キャバッローネ然り、一流の彼が教育する子供は裏社会に精通する大物相手なのだなと改めて実感した。 「リボーンが師となるということはつまり、俺の可愛い弟分にもなる。一度、挨拶も兼ねて並盛という町を訪れたい」 「並盛か。どこにでもありそうな平凡極まりない名前だな。まぁ、いいんじゃねぇか。リコさえ説得できれば意義を唱える奴なんていねぇだろう?」 ロマーリオの最もな意見に俺は思わず顔を歪ませた。 リコとはキャバッローネの財務担当で俺の良き補佐役だ。 仕事熱心なのはいいが融通がきかず、よく頭に血をのぼらせていた。 「そこはボスとしての手腕でリコの奴を説き伏せてみせるぜ」 「そうかい」 俺もいい大人だぜと、余裕を浮かばせ笑みをつくる。 そして、一気にエスプレッソを呑みほした。 「そうと決まれば、仕事を早く片してジャポーネへ飛ぶぞ。ロマーリオ、飛行機の手配をしてくれ」 「その息だぜ。ボス」 まだ見ぬ弟分に思いを馳せ、俄然やる気が出てきた。 無造作に積んである書類の束を睨み、天文学的数値を追って行った。 * * * 『いらない』 赤子の言葉に少年は素っ気なくそっぽを向いた。 大方、予想はしていた反応だったが、実際そう言われればどうしたものかと赤子は思案を巡らせる。 『これはツナの意向でもあるんだぞ』 それでも逆らうつもりかと、有無を言わせぬ視線で少年を見つめると、それ以上の反論は起こらなかった。 暫くの間、何か思うことがあったのか口を噤んでいたが、すぐに利発な少年は「それで」と言葉を紡ぎだす。 『どんな人なの。僕の――センセイになる人って?』 先生と口にする口調はまだ幼く、年端に似合ったものだった。 頭の切り替えの早さは褒めてやるべきだ。 だが、肝心の本題に移る少年の気まぐれな好奇心旺盛さには毎回手を焼かれていた。 『ああ。一応、候補は考えてある』 『へぇ』 そいつの名前を早く言いなよ。 沢田綱吉が決めたという家庭教師の名を。 雲雀はやたらと名前に拘る。 それは、自分に名前がなかったからもしれない。 いますぐ品定めしに行きたがっているギラギラとした眼差しに、やれやれと赤子――リボーンは肩を竦めた。 『俺が教えたところで、おめぇ、そいつに喧嘩売る気満々だろ?』 『ちょっとした退屈しのぎになるかもね』 フンと鼻で笑う少年にリボーンは、そうじゃねぇだろうと返した。 『本音を言えよ』 『…僕に指南するなんて、何様のつもり?』 十年早いんだよと、あからさまな怒気を含んだ目でリボーンを睨み射抜く。 (相変わらず、獰猛な――獣みてぇな目をしていやがるな) 孤高で気位が高く、誰にもかしづかない。 『それでこそ、雲の守護者だ。いいだろう。会わせてやる。いずれ、おめぇの全部を預けるカテキョーだからな。まずは相手を知って、心を決めろ』 返事はそれからでいいと言い放たれ、少年――雲雀は「望むところだよ」と不敵に微笑んだ。 漸く第二部が始動しました。 |