小高い丘の上にある旅館に到着したのは日もとっぷりと暮れた頃だった。

「恭弥、着いたぜ」

 男の膝の上に頭を置いたまま熟睡していた雲雀は「ふぁ」と愛らしく欠伸をした。

「ここどこ?」

 車の天井と端正な男ばかりを眺めていた雲雀は身を起こすのも億劫だった。

「絶好の修行場所だぜ。山も海も川も竹林もある」

「ふぅん」

 そう笑顔で言われれば、起きないわけにもいかなかった。

 ディーノに支えられながら身を起こすと、シンと静まり返った一軒の宿屋があった。

「ワォ」

 目の前に広がるのは広大な日本庭園だった。

 石畳の回廊の傍らに設えた枯山水の主庭。フロントとロビーに隣り合うかたちで面した中庭。

 二つの庭をはじめとして大小様々な庭が建物を囲み寄り添っていた。

 出迎えた女将は恭しくディーノたちに頭を下げて挨拶をする。

ロマーリオがフロントでチェックインの手続きをする間、手もちぶたさなふたりを連れて客室へと案内した。

「足元に段差がございますので、ご注意ください」

 客室はすべてで二十五部屋しかない規模だったが、どの部屋にも拘りがあった。

 すべての客室から庭の景観を愛でることができるのが自慢なのだと女将は語る。

これからディーノたちが滞在する客室は旅館内のなかでも、最も伝統と格式がある特別室で従業員たちの間では貴賓室と呼ばれていた。

「和室だ…」

久しぶりに嗅いだ井草の匂い。

二間あるどの部屋を見ても和室ばかりで、雲雀は機嫌を良くしている。

そんな様子にディーノは安堵した。

「お食事とお風呂、どちらを先になさいますか?」

 どちらが先でも良かったディーノは傍らにいる雲雀に尋ねた。

「お風呂にする。汗掻いたから」

 迷わずに選ぶ雲雀の言葉を女将に伝え、ふたりは離れにある貴賓室専用の室内風呂へと案内された。

 ここは貸し切りであり、誰も邪魔しないことをさり気なく告げられ、ディーノは複雑そうに去っていく女将の背を見送った。

「あなたは入らないの?」

「ああ。入るぜ」

 一歩なかに入ると月夜の明かりがさす、開放感溢れる総檜風呂造りがあった。

「ワォ。檜なんだ…」

 感嘆して間もなく、雲雀は身に付けていた衣服を脱ぎ始め、傍にあった脱衣籠に畳んで置いて行く。

 一糸身にまとわぬ姿になった雲雀は後ろでモタモタと脱いでいるディーノを放って自分はさっさと湯船に向かった。

 少し熱いと感じる湯に浸かっていると、あとからやってきたディーノがやれやれと大きく息をつきながら湯船に浸かる。

「じじくさい」

「ん? なにか言ったか、恭弥?」

「別に…」

 折角、いい気分で温泉を満喫していたのにと頭の隅で呟き、その傍でディーノは札に記された温泉の効能を読み上げていった。

「腰痛、リュウマチ、婦人病……って、風邪には効果はねぇのかよ?」

「湯冷めをしないことが一番なんじゃない」

 風邪を引く原因は大抵そんなものだと淡々と述べる雲雀は、この温泉湯を気に入って満喫していた。

「目の前に竹林があるなんて、風流だね」

 夜風の風が心地よいと目を閉じる雲雀。少し離れた場所で浸かっていたディーノはそろそろと身を寄せた。

「恭弥」

「こんなところでやだ…っ」

 お湯が汚れると、触れてくる男の手を払い除け、雲雀は離れようと移動をする。

 それでもディーノは諦めきれず、這うように雲雀を追って捕まえた。

「触るだけだって」

「嘘、近づくな」

 細腰を腕の中に引き込みながら、嫌がるその身をどうしようかと手を焼く。

「離せ!」

「恭弥、少しだけだからっ」

 暫くの間、パシャパシャと水飛沫が散り、押収が繰り返された。

そして、終いに根負けした雲雀が男を受け入れる。

「あ…」

ほっそりとした手や足の指を口に含まれながら、雲雀は忙しなく肢体を震わせ敢え無く達した。

「ほんとに触るだけだったろ。気持ちよかったか?」

「死んで…」

 白濁にまみれた体をディーノは綺麗に洗い流し、湯あたりした雲雀に浴衣を着させてから、夕飯の支度が整いつつある貴賓室に戻った。

「おー、いいタイミングじゃねぇか」

 湯上りでしっとりと濡れた金髪をタオルで拭いながらディーノは次々と運ばれてくる料理に目を細めた。

 忙しく料理を運ぶ女中たちは皆、ディーノの粋な着流し姿とその美貌に目を奪われていった。

「ふん」

そんな熱い視線を感じながら、雲雀は面白くなさそうに窓際の一人掛けの椅子に腰かける。

夕飯のセッティングが完了するまでの間、部屋の片隅でディーノが突っ立っていると気がついた女将が上座の座席にふかふかの座布団を敷いて「どうぞ」と勧めた。

「ディーノ様は確か日本酒がお好きでしたよね?」

 湯上りに丁度いい、冷えたものがありますと女将が微笑みかけてくる。

 誘われるがままディーノは上座の座席に座り、お猪口を持った。

「喉がカラカラだったんだ。気がきくな」

「恐れ入ります」

お猪口に酒を注ぐ拍子に袖と袖が触れて、女将はすみませんと頬を赤らめた。

大人の艶のある綺麗な女。

どう見たってディーノに関心がある素振り満々だったので、雲雀は堪らずに椅子から立ち上がり、大股でふたりの間に立ち憚った。

「寄こして。僕がする」

「恭弥?」

 雲雀は女将の手から朝鮮唐津焼の徳利を奪い取った。

その行動はディーノほか、女中、黒服たちを驚かせ、むきになった勢いが祟ってディーノの浴衣に思い切り日本酒を引っかけてしまった。

「つめて…っ。なにすんだ恭弥!」

「あなたが、そいつらの前でチャラチャラといい顔なんかするからだよっ」

「なに我儘言ってんだよ。可愛くねぇぞ」

「可愛くなくて結構!」

 自分はそんな部類ではないと声を張り上げ、盛大に頬を膨らませた。

 警護役の黒服たちは貴賓室の隣の部屋から様子を窺い、肩を揺らして笑っている。

 彼らはとっくの昔に雲雀が女将に対して嫉妬心をむき出しにしたことに気づいているのだ。

「おい、恭弥、どこに行くんだ?」

「もうこれ以上、ここにいたくない」

 踵を返し、部屋から出て行こうとする雲雀をディーノは慌てて呼び止める。

 振り返った雲雀の眼尻の下はほんのりと赤く照らされていた。

 急に怒り出したかと思えば今度は癇癪を起こし、男は恋人に翻弄されぱなしだった。

「行くなよ。もう好きなだけ我儘言ってくれていい。だから機嫌直してくれよ?」

 あくせくと機嫌取りをする主の姿を見守りながら、黒服たちはだらしないなとせせら笑う。

「ボスも大変だな」

「全くだ」

 なんとか雲雀を宥め、食事の席に座らせることに成功したディーノは彼が嫌がる女将や女中たちを全員下がらせた。

 その代わりに世話役として働くのは黒服たちだった。

 主菜で出されたずわい蟹のほうらく焼き。

雲雀はこれを甚く気に入った。

ディーノの方は食事よりも日本酒を楽しみ、最後に出された餡かけのワラビ餅は甘すぎるからと言って雲雀にあげた。

実は甘党だということを下隠している恋人は綺麗にワラビ餅を平らげていた。

 

 

 

 

 

食事が終えれば、寛ぎの時間が訪れる。

「ここの旅館には図書室があるんだぜ。行ってみるか?」

 ディーノが行くといえば、一般客に開放している図書室も貸し切りとなる。

 どれだけの滞在費をこの旅館に落としているのかは、ディーノに接する旅館従業員の態度を見れば一目瞭然だった。

 ほかにすることもない雲雀を連れて、ディーノは二階にある図書室へと向かった。

 図書室といっても学校にあるような堅苦しい空間ではなかった。

 柔らかなベージュ色のカーペットの上に一人掛けのソファやテーブル、応接セットのほかに大きな壺に活けられた活花が広々とした空間を和やかにさせていた。

 夜ということもあり障子戸はすべて仕舞っていた。ずっと奥に進むと、山の景観が眺められるベランダがあった。

 今夜は月が出ている。ここがいいと言って雲雀はベランダ方向に向かって備え付けられていた一人掛けのソファに腰かけた。

「いい眺めだな」

 どれか本を選ぶわけでもなくふたりは暫くの間、この静かな空間を満喫した。

 それから、どちらともなく立ち上がってベランダから冬の星空を眺めた。

 空を眺めていると話題は自然と星のこととなった。

 星座についての雑談をディーノは幾らでも雲雀が飽きるまで話してくれた。

 彼は雲雀くらいの歳にはマフィアのボスの座に就任しており、様々な文献を読んで勉強を積み重ねていた。

「寒くねぇか?」

 羽織りを着ているといっても、冬の寒空の下なので治りかけの風邪がぶり返さないかと心配をする。

 腕時計を見る男の素振りに雲雀は唇をへの字にさせた。

「もうこんな時間か。恭弥といるとあっという間に時間が過ぎちまうな」

 ハハと笑うディーノに「まだ九時になったばかりだよ」とベランダの手摺の上で小さな握り拳をつくった。

 もっとあなたの話しが聞きたいのに。できることなら、幾らでも星の話しをしてやりたかった。

「早めに休んで、旅の疲れをとらないとな」

 星の話は床のなかでもできるし、それに明日からは修行も控えている。

腰に腕をまわされると、雲雀は渋々と従った。

 長い廊下を歩いて貴賓室に戻ると、奥の寝室の間には二組の布団が隙間なく敷かれていた。

 チェックインの際、鋭く勘付かれたようだとディーノは苦笑いを浮かべながら、立ち尽くしている雲雀の手を引いた。

「おいで恭弥。話しの続きが聞きたいだろう?」

だから一緒に寝よう。

恥をかかせぬよう、素早く雲雀を布団へ引き込んだ。

 ひんやりと冷たいシーツの感触にディーノは思わず身を竦ませた。

「今日は疲れただろう?」

「別に…」

「それにしても、恭弥がいなくなったときは心臓が止まるかと思ったぜ。俺はてっきり誘拐されたかと」

「あれは、あなたが余所見していたせいだろ」

 向き合いながら会話を交わし、最後は自分が悪いと責められてディーノは謝るしかなかった。

「恭弥は可愛いくて魅力的だから、その…、色々と心配した…」

 過去にそういう事例や末路を見聞きしていたからこそ、ディーノは心底恐怖したのだ。

「変な想像しないで。それに…僕は誘拐されるような間抜けじゃない」

 そういうことしたいと思うのはあなただけだと、消え入るように子供は呟き捨てた。

「そうだったな。わりぃ、わりぃ」

「ねぇ、それよりも、さっきの話しの続きをして」

 約束をしっかりと覚えている雲雀に「いいぜ」と頷いた。

 特に雲雀は星にまつわる神話に興味を示した。

 興味ある話で警戒心を溶かし、さり気なさを装い体に触れた。

 こうして、雲雀の心と体を本番に向けて準備させていった。

「星の話しの続きはまた明日な」

 眠たそうに頷く雲雀に次はこっちと、パジャマとは勝手が違う浴衣を脱がせにかかる。

「さっき、お風呂場でした…」

「触っただけな」

浴衣の構造がよくわかっていないディーノは腰を固く結んでいる帯をどうすることもできないまま、浴衣を肌蹴させていった。

「や…眠い…」

 シュルシュルと浴衣が擦れ合う音。

 やや乱暴に暴かれながら、浴衣の裾を捲りあげて後ろの穴を探り当てられた。

「あ…」

「優しくする」

「今日…なんども…。もう、やだ…」

「ごめん。でも、足りねぇんだ」

「人じゃ…なくなるみたいでやだ。ケダモノみたい……」

 弱々しく本音が告げられた。

まだ、たった十五の子供なのにマフィアのボスに愛されたのが運の尽きだった。

「抱かせてくれ」

「それ…ばっかり…」

 どちらともなく腰がゆらゆらと揺れる。

「愛してる。一緒に獣になろう?」

 十分に慣らされ、熱い猛りを挿入された。

「あぁっ。も…こんなに――」

「恭弥がこうしたんだぜ?」

 息を荒くさせながら男は囁いた。

 薄い膜越しにディーノの熱さを感じながら、小刻みに腰を突き動かされ何度も声をあげた。

「あっ、ヤあー」

 ここは他の客間からも離れた特別室。秘め事も誰に気兼ねする必要もなかった。

 一度吐き出すとディーノはまた一つ、ゴムの封を切って嵌め直し、雲雀のなかに己を埋めた。

「ふぁ…っ」

 次は一度目よりも長かった。

気が遠くなるなか揺さぶられ、雲雀は激しい抽挿に耐えた。

 同じ男なだけに、ディーノが気持ち良く感じているのが手に取るようにわかった。

「ハ…、締めつけてくるな。恭弥のなか…」

 内壁を貫くソレが硬く大きく膨れ、脈打った。

「あ…、ああ…っ」

 ドクンと脈打ち熱い迸りは雲雀のなかを犯すことはなく放たれた。

 そしてディーノは行き遅れた雲雀を開放させるため、乳首を弄り倒した。

「恭弥は胸を触られるのが好きなんだな」

「ちが…あ――」

「気持ちいいか、恭弥?」

「…っ、いい…」

 絶頂をそれぞれに迎えると、ディーノは枕元に置いてあった置き時計を見た。

 雲雀の体力を考慮すると、ここが引き際だ。

 だが、まだまだ現役な腰は疼き、雲雀の乳首は硬く尖っている。

「もう一回いいか?」

 腰をずるりと引き抜き、三度目になるゴムを被せた。

ねっとりと勃った乳首を舐められながら雲雀はビクンビクンと肢体を痙攣させる。

「も…ヘン……」

感覚が侭ならなくなる。

泣く先端を慰めるように撫で、ディーノは行為に没頭していく。

「あっ、あ…っ」

未熟な心と身体はキュウキュウに締め付けられ相当堪えていた。

だが、男はこの欲望を止めることができなかった。

肢体にどちらが吐き出したものかわからないほど夥しい量の精液がこびりつき、行為の生々しさを物語った。

「ありがとう恭弥…」

 先ほどまでの獰猛さはどこへやら、ディーノは恋人の額にキスをし汗ばむ身体を労わるように撫でてやった。

「もう…気は済んだの?」

「ああ」

 この通りと、すっきりとした表情で答える男に雲雀は疲労感に満ちた顔つきで見返した。

「寝る…」

「ん。おやすみ」

 風呂に入るのも、浴衣を着替えるのも面倒だった。

雲雀は男が満ち足りた様子でいるのを確認してから、沈むように眠りについた。

 

 

 





 新たな修行場所は、雲雀たんが落ち着くように群れのない秘境の地ということで。イメージ的には京都あたりが良し。
 ディーノさん役得ですな。羨ましい限りです。