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並盛から持ってきた物といえば、トランクに入るばかりの僅かな私物と並盛中の制服だけだった。 必要なものは現地で調達するからと言うディーノに、敢えて思い入れのない物は持って行かないことにしたのだ。 昨日は旧制服を着ていたので、今日はベストとネクタイがセットになった制服を着ることにした。 立鏡の前で身なりを確認すると、最後にカッターシャツの襟を立てて一つ頷く。 風紀委員の魂である腕章は忘れていない。 身支度を整えると、雲雀は食堂へと向かった。 「おはよう」 「おはようございます。恭弥様」 清々しい朝。 礼儀正しい雲雀の挨拶に、その場にいた使用人や黒服たちは彼に合わせて日本語で挨拶を返す。 屋敷で働く使用人たちは料理人以外皆、自宅から通い奉公をしていた。 その昔は使用人たちも全員、黒服の部下たち同様、住み込みで働いていたのだが、それでは屋敷を維持する経費がかかり過ぎると、ディーノの代になって廃止した。 傾きかけた家を元に戻すため、主は徹底して無駄を見直し、必要ならば省いて改善を試みたのだ。 そのお陰で今いる使用人たちは暇(いとま)を与えられるどころか、給金の引き下げられることなく今に至る。 給仕たちは一見冷たそうに見える雲雀が実は礼儀正しく、主人の言うことをよく聞き分けている様子に第一印象を変えた。 そんな給仕たちの反応を横目に、ディーノは「おはよう」と爽やかに恋人を迎えた。 そして、朝食は始まった。 濃いエスプレッソの香りが雲雀の方にまで届き、緑茶を啜っていた雲雀は顰め面をする。 ディーノの方のテーブルを見れば、小さなティーカップの他には皿が一枚しかない。 その皿の上にはビスコッティが数枚あるだけ。 これ以上はイタリア男の胃が受け付けないらしい。 相変わらず、情けない話だと雲雀は鼻で息をついてみせた。 一方の雲雀の前には和食が一式運ばれてきた。 ご飯と味噌汁、焼き魚にお浸しと漬物、デザートにオレンジと苺が添えてある。 これは雲雀のための特別食だった。 「へぇ。イタリアでも和食が出るんだ」 「恭弥のために和食がつくれる料理人を雇ったんだぜ」 朝はきっちりと食べる恋人を眺め、ディーノはエスプレッソを啜りながら食後に車庫へ案内してやると告げた。 彼は昨晩の約束をきちんと覚えていてくれたようだ。 ディーノはイタリアの誇りとやらを三台所有していた。 あとから聞く話しでは、あのなかに家一軒相当の価値の車もあるという。 「バカじゃない?」 車なんて一台あれば十分だと思う雲雀には、大人の贅沢がまだ理解できる年頃ではなかった。 何かと制約の多いディーノにとって車は唯一の息抜きなのだ。 それを十分理解している周囲の者たちは、若い頃からファミリーのために青春時代をすべて捧げて来たディーノの娯楽に文句を垂らすことはなかった。 「おっと、もうこんな時間か。恭弥、そろそろニコロ先生がくる時間だ」 「ニコロ先生?」 「ああ、まだ話していなかったか。お前が九月から学校に通うまでの間、イタリア語を学ぶ先生だ。一般人だから、トンファーなんて振り翳すんじゃねぇぞ?」 午前中はイタリア語を学ぶ。 午後からはどう過ごそうと雲雀の自由。 それはイタリアへ渡る際、ディーノと取り交わした約束だった。 ディーノが選んだ教師は初老の、教師を退職したばかりの男だった。 問題児を長年数多く教えてきた老人教師は並盛最強の不良である雲雀にも臆することもなく、流暢な日本語で授業を始めた。 ニコロもそうだが、雲雀の周囲で働く者は皆、日本語がある程度話せる者たちで集められていた。 真面目に雲雀が授業を受けている様子を確認してから、ディーノは静かにドアを閉め退席をした。 あの子は元々頭がいい。 本気になれば何だって卒なくこなすだろう。 一ヶ月後の任命式の席では、イタリア語にもある程度対応できるはずだと確信し、ディーノは期待に胸を膨らませていた。 一日目の授業が無事に終わる頃、ディーノは執務室を抜け出して勉強部屋である図書室へと向かった。 キャバッローネ邸にはちょっとした図書館があり、十代の頃はよくそこへ閉じ籠って調べものに精を出していた記憶がよみがえる。 図書館の扉の前には見張りの部下が一人立っており、ディーノは中の様子を訊ねてみた。 「それがボス、授業が始まった途端、水を打ったかのように静まり返っちまって…」 「へぇ」 「それで、心配になって何度も様子を見に行ったんだが…」 仔猫のように恭弥の奴は大人しくなっちまったと、この世の終わりのように言うものだからディーノは笑わずにはいられなかった。 この分だと、雲雀は大人しく授業を受けているようだ。 図書館の扉はすぐに開かれた。 ニコニコと穏やかな笑みを湛えている初老の教師にディーノは頭を下げ、後ろに立つ恋人を見やった。 雲雀は少々、草臥れた様子で立っていた。 右手にはニコロから渡されたイタリア語のテキストがある。 ディーノはニコロを玄関ホールまで見送ることにした。 「うちの恭弥はどうでしたか?」 雲雀の勉強ぶりを尋ねてきたディーノに老人は口を開いた。 「実に優秀なお子さんです。一度、教えたことはすぐに覚えてしまって、こちらが予定していた時間が余ったくらいです」 「そうですか…」 「ですから、余った時間でイタリアのことについて話しをしました。イタリアに来て間もないからでしょうか。彼はイタリアの文化や歴史、習慣についても深く関心があるようですね。とても教え甲斐のある生徒さんですよ」 穏やかにニコロは告げて帰って行った。 まるで自分が褒められているような気分になり、ディーノはご機嫌なまま食堂へと向かった。 勿論、昼食をとるためだ。 ラディッキオと海老のパスタを口に運びながら、雲雀は午前中に学んだことをディーノに話した。 ディーノがどうしても知りたいというのだから、話してやらないわけにもいかない。 「俺に時間があれば、何だって教えてやれるのにな」 「別にいい。あなたでなくたって、本を読んだり、インターネットで調べれば幾らだって学ぶ術はあるからね」 「…なんか今の、寂しい発言だな」 ラディッキオの苦味と海老のクリームソースが絶妙に絡み合って、食も会話もよく進んだ。 雲雀が来るまで、こんなに賑やかな食事をディーノはとったことがない。 それまではいつも、ひとりで食事をしていたからだ。 当主は当主らしく振る舞わなくては、下の者たちに示しがつかないことをディーノは両親から学んでいた。 それはディーノが両親を亡くしてひとりぼっちになってからも続いていたことだった。 雲雀がイタリアに、このキャバッローネ邸に来てくれて良かった。 婚約者を連れて帰るという急な第一報に一時城内は動揺していたものだが、雲雀がこの城に来て忽ち、主は良く笑うようになった。 背後で控えていた黒服や給仕たちは一様に喜んだ。 午後から雲雀は巨大迷路のような城内を隈なく歩き回った。 散歩がてら自分の部屋を決めるためだ。 キャバッローネ邸には数多くの客室や空き部屋が点在していた。 ディーノはその中から、どれでも好きな部屋を一つ選んでいいと言ってくれたのだ。 大盤振る舞いはいいが、それはある種のいじめにも等しかった。 「一体、何部屋あるのさ。この城には…」 雲雀はほとほと疲れ果て、小休憩をとりつつ、部屋の一つ一つを見てまわる。 とても根気のいる作業だった。 どの部屋も申し分のなく綺麗で掃除の行き届いた部屋だったが、ピンと来なかった。 一層のこと、ディーノ部屋でいいではないかと考えが過ぎったが、それでは彼に笑われてしまうと思い直し、雲雀は気力を振り絞って部屋探しに精をだした。 日が西に傾き始める頃、城中を歩き回って疲れ果てた雲雀は一階の南側にある一室に辿り着いた。 重層な木製の扉を開けると、部屋中の家具が白い布で覆われている。 その布は埃よけだということは一目でわかった。 「ふぅん…」 長い間、誰もこの部屋を使った形跡がないにも関わらず、どこか温かみのある空間だった。 コツコツと靴音を立てながら雲雀は歩みを進めた。 部屋の横には中庭が望めるテラスがあり、青い芝と手入れの行き届いた植木とバラ園が見える。 「なかなか、いい眺めだね」 庭の中腹には白乳色の東屋があり、鉄製のベンチとテーブルが備え付けられていた。 一目見て雲雀はこの部屋からの庭の眺めと、部屋を取り巻く温かな空間を気に入った。 そろそろ夕飯の時間だ。 雲雀はディーノにこの部屋のことを報告するため、彼の居る執務室へと向かった。 執務室にはディーノのほかに数名の部下と、財務担当のリコという小柄なスーツを着た青年がいた。 目つきの鋭さは雲雀と同等、仕事熱心なリコは漸く主が腰を据えて仕事にとりかかってくれていたことを誰よりも喜んでいた。 ふと見ると、ディーノの執務机の上には気の毒なくらいの書類の山がある。 「ディーノ、見つけたよ」 リコはノックもなく執務室に入室してきた雲雀に良い印象を抱かなかった。 そして「ここは子供が立ち入っていい場所ではない」と口早にイタリア語で告げた。 だが、雲雀はリコの言った言葉の半分も理解することができない。 「なんて言ったの、彼?」 訳してとディーノに視線を投げかけたが、投げかけられた方のディーノは有りの侭に訳せる筈もなく表情を引き攣らせた。 「やっぱり、あまりいいことじゃないんだね」 そんな気はしていたと雲雀はフンと周囲を見渡した。 言葉は通じなくても、こちらに対して敵意むき出しでいるリコの様子から、雲雀はきつくガンを飛ばす。 「この僕に喧嘩を売っているんだね?」 「あー、いや、それは違うぞ。誤解だ恭弥!」 まあまあと、火花を散らせるふたりを言葉で宥めながら、ディーノはいそいそとアームチェアから立ち上がる。 「リコ、今日はこんなもんでいいだろう? 急ぎの仕事は片づけたし」 「ですが、明日期限のものもまだ残っています」 「それはまた明日すればいい」 大らかに言う主にリコ「仕方ないですね」と呟いて一歩、身を引いて頷いた。 「恭弥、話は外で聞いてやる。な?」 これ以上、リコの機嫌を損ねさせてはならないと気を使いながら雲雀の肩を抱き、執務室から出て行った。 「ふぅ。恭弥、あんまリコの奴を煽るなよ。俺だって、おいそれとは逆らえないんだからな」 「…あの人、あなたの部下なんでしょ? どうして、気を使わなくちゃならないの?」 不思議そうに訊ねてくる子供にディーノはこれまでの所業の積み重ねがそうなったのだとは口が裂けても言えなかった。 「どうしてもだ。それと、仕事部屋に入って来るときはノックをするように。大事な仕事の相談中だったら、皆驚くだろう?」 「……」 ウンともスンとも言わずに雲雀は押し黙った。 先ほどの一連の行為は師であるディーノに恥をかかせたのも同然だった。 この日、雲雀は学んだ。 ディーノが仕事中のときは安易に執務室へ立ち入ってはならないと。 夕飯前、雲雀はディーノを一階の南部屋へと案内した。 案内されたディーノは通された部屋に思わず破顔して、恋人のお眼鏡の高さに感服した。 「ここは、お袋の部屋だ」 古びた壁紙を手で触ってディーノは告げた。 その一言に雲雀は過敏に反応し、ドア付近に立つ彼を見る。 「懐かしいな。この椅子、まだあったんだ…」 ディーノはギシギシと軋むロッキングチェアを手で揺すり、目許を綻ばせた。 「小さい頃、よくこの椅子に乗ってカウボーイの真似ごとをしたんだ。悪乗りしすぎて、頭から落ちて泣いて、お袋に慰められて…」 淡々と語るディーノの幼い記憶。 雲雀は黙りこくって、それを聞いていた。 「恭弥が気に入ったのなら、明日にでも早速、改装するか。家具もこんな古いものじゃなくて、新しいものを買おう。壁紙もそうだな、恭弥の好きな色柄を選ぶといい」 にこやかに告げる男に雲雀はじっと見つめるばかりだった。 夕餉のときの雲雀はそれは静かなものだった。 元々、物静かな子だったが、ディーノが話し掛けても浮かない返事ばかりする子ではない。 そんな雲雀の様子に誰もが目を瞠り、だが敢えて知らぬ振りを努める。 夕食を終え、風呂に入り、身支度を綺麗に整えてディーノの部屋へと向かう。 雲雀にとって、唯一落ち着ける場所が夫婦部屋のあるディーノの部屋だった。 部屋に入るなり靴を脱いで素足になると、雲雀はディーノが寛いで座っているカウチソファの傍に敷かれたホワイトタイガーの敷物の上で胡坐をかいた。 「恭弥はいつになく長風呂だったな」 日本人の風呂好きはディーノも知るところだったが、今日は雲雀が風呂を出てくるまで読み掛けていた小説を完読してしまった。 まさか、湯船の中で考え事をしていたなんて、柄にもないことを言える筈もなく雲雀は「別に」とだんまりを決め込んだ。 ツンケンとした恋人の態度にディーノは触れてはならない話題だったかと反省し、ソファから立ち上がると子機を取って内線へと繋げた。 「恭弥、お代わりは?」 「もう充分」 訊ねられたのは、ホットミルクのお代わりだった。 単なる子供騙しだと思っていたが、昨晩は本当によく眠れた。 一方のディーノはワインを口にしている。 芳醇な高貴なる香りがする赤のワインは血の色にも似ている。 今は寝付きの一杯というやつで、必要なんだと言う大人の言い訳を聞きながら「ふぅん」と目を細めて頷く。 暖かな暖炉の火が燃える中、ミルクを飲み終えた雲雀は座り心地のよいカウチソファの上でディーノの肩に凭れかかった。 ふたりが恋人同士として過ごせる時間は、一日うちでも限られていた。 キャバッローネ邸に来て二日目になるが、ディーノは一日の大半をマフィアのボスとして東奔西走している。 ボスだからって一日中、椅子に踏ん反り返っている役職ではないのだ。 ディーノとは日曜日に決行するドライブの計画を立てた。 ガイドブックを引っ張り出して、彼是と提案するディーノに雲雀は生返事を繰り返すばかりだった。 「もう、眠いのか?」 時計の針はまだ十時をまわっていないが、恋人がまだ十五歳であることを考慮すれば、ベッドに潜ってもおかしくない時刻だった。 ディーノは猫のように大人しくしている恋人の顔を覗き込んだ。 あまり元気がない。 いつものペルシャ猫みたいに澄ました様子や、挑戦的な悪戯猫目の光はどこへいったのか。 ほんの少しばかり、ディーノは不安になってきた。 もしかしたら、ここの生活は雲雀にとって馴染めないものなのかと。 「そうだな。今日は屋敷中を歩き回ったし。早めに休むか」 「…子供扱いしないで」 「してねぇよ。俺とふたりきりのときはいつも大人扱いしているだろう?」 特にベッドの上ではと、意地悪く言う男に雲雀は下品だと顔を顰めた。 ベッドに入ると雲雀の肩の上から温かな毛布をかけてやった。 その毛布は一枚でも十分温かく、軽い素材だった。 「しないの?」 「……今日はもう、黙って目を閉じな」 照明を小さく絞る。 「枕の下…、硬い」 「え?」 いつの間に。 気がつけば、雲雀の細い腕がディーノの使用する枕の下へと伸びていた。 「お前、勝手に…っ」 何してんだと、呆れながら頭を掻いた。 ベッドのマットの下には護身用の拳銃が隠されている。 ディーノは敢えてこの手の話は避けていたのだが、猫の好奇心を殺すことはできなかった。 「あなたは僕が噛み殺すんだ。あなたの命を狙う馬鹿な輩は僕が土に還してやる」 「お前は何も気にしなくていい。今は一日も早く立派な雲の守護者になることだけを考えてろ」 「ずるいよ、あなた。そういうところが、僕を子供扱いしてるって言ってるんだ!」 聞き分けのない様子にディーノは舌を巻いた。 「わかってくれ、恭弥。俺はお前を危険な目に遭わせたくないんだ」 「…それは僕がボンゴレからの預かりものだから?」 「違う。お前が俺の大事な恋人だからだ。俺はお前にもしものことがあったら、生きてはいけねぇ」 真摯なディーノの言葉に雲雀は漸く聞く耳を持ち始めた。 「だからって僕はずっとあなたに守られているつもりはないから」 「ああ」 「僕が誰からも認められる守護者になった暁には、あなたの愚痴や悩みごとを聞いてあげてもいい」 「恭弥…」 頼りにしているよとディーノは呟いて、天使の輪をつくっている艶やかな黒髪を撫でた。 常にディーノのいる所には黒服が控えている。 食事をするときも、仕事をしているときも、入浴中だって、彼を警護する黒服を見ないときはなかった。 ここは彼の愛する母国であるが、日本にいるときにも増して油断ならない地であることも確かだった。 「やっぱり、いらない」 「なんだ?」 今度は何のことだと、ディーノは俯いている黒い旋毛を見つめた。 「あの部屋」 「部屋って…、ああ、お袋の部屋のことか?」 なにをやぶからぼうにと訊ねると雲雀は「どうしても」と語調を少し強めた。 「いくら俺の部屋が広いからと言っても、ふたりで使うとなれば手狭だぞ? それにプライベートな空間は恋人間でも必要だ」 その言い分は理に適っていたので、上手く言い返すことができなかった。 だんまりを決め込んでいる雲雀に、何か不都合があるのだなと悟ったディーノは大人の笑みを湛えて瞳を覗き込んだ。 「もしかしてお前、お袋に遠慮しているのか? いいんだぜ。恭弥が使ってくれても」 その方が天国にいるお袋も喜ぶ。 そう言われても雲雀の表情が和らぐことはなかった。 「ほんとのこと言うと、恭弥があの部屋を選んでくれて嬉しかったんだぜ? お袋、花や緑が好きでさ。病気がちだったから、いつでも部屋から庭が臨めるようにって親父が改築させたんだ」 穏やかに昔話をするディーノ。 そんな大事な思い出の場所を自分が変えてしまっていいのかと、まだ雲雀の迷いはとれなかった。 「それに、あの部屋、居心地がどこか並盛中の応接室に似てねぇか?」 「応接室に?」 「ああ」 物静かなで日当たりのよい温かな空間。 だから恭弥は気に入ってくれたのだろうと、ディーノは確信を持って訊ねる。 「部屋の改装が終わったら、あの黄色い鳥を家に呼ぼうぜ。ツナに頼んでやっから」 「鳥…」 イタリアへ渡る際、ボンゴレ邸の庭に放してきた黄色い相棒。 どんな時でも彼と一緒に雲雀は孤独な時代を過ごしてきた。 ヒバードのことを思い出して、雲雀はほんの少し並盛が恋しくなった。 「あいつは頭がいい。恭弥のこと、覚えている。今でも恭弥の迎えを待っている」 「…そうかな」 「そうだって。ずっと、あいつとは一緒だったんだろう?」 「うん」 だから、早く迎えに行こう。 そう笑顔で告げられ、漸く雲雀は頷きディーノの胸にしがみついた。 不思議だった。 彼の紡ぐ言葉はまるで魔法で、いつだって自分に安らぎを与えてくれる。 胸の内で熱く鮮やかに燃える炎。 その炎の名を口にするには気恥ずかしくて雲雀はディーノに感謝をしつつ、頷くだけに留まった。 「これですべて問題解決だな。さあ、おやすみ恭弥」 眠る前の額への口接けは忘れない。 男の体に馴染んだフレグランスの香りを嗅ぎながら、雲雀は目を閉じた。 「おやすみなさい。ディーノ…」 それは儀式のように紡がれて、その後、パタリと眠りにつく。 眠りにつく恋人を見守り、ディーノもやれやれと疲れた様子で瞼を閉じる。 子供だとは思っていたがどうして、雲雀は雲雀で色々と悩み葛藤しているのだなと、この日、学んだ。 どうやら自分もまだまだ学ぶべきことがあるなと、人生の奥深さを感じるのだった。
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