雲雀の心と秋の空

 

 

 

 秋も終盤を迎える頃、差し迫った文化祭に向け並盛学園は慌しく、賑やかな雰囲気に包まれていた。

 並盛中の行事を取り締まるのも風紀委員の仕事の一環。

 校内を見回る風紀委員に生徒たちがここぞとばかりに要望や陳情を挙げていた。

 普段は生徒たちに恐れられている風紀委員も、学校行事に関することには親身になって聞き入れてくれる。

 彼らの首領である風紀委員長は並盛一帯を牛耳り、その名を聞けば泣く子も黙る。

 そこらの教師や大人たちよりも強大な権力とコネクションを持っているのだ。

副委員長の草壁は生徒たちの要望や意見を後日、上司である雲雀恭弥へ報告することを怠らない。

 風紀委員の行動方針は並盛の風紀を守ることと、その繁栄。

 こと、母校の並盛中に並々ならぬ着心をしめす雲雀は、世に並盛中の名を広く知らしめる為ならば、時に信じられない行動を起こすことさえあった。

 そんな彼の強さと、器の大きさに魅せられたのは草壁ひとりだけではなく、風紀委員に属している者達全員がそうであった。

「副委員長!」

「草壁さん!」

 銜え葉っぱの厳つい学ラン男を見つけた数人の風紀委員たちが草壁のもとへと駆けつけた。

「どうした?」

 何か問題でも起きたかと、落ち着いた眼差しを向けると、彼らは一斉に声を揃えて「それが…」と言葉を連ねた。

「以前、並盛周辺を荒らしていた一派が最近になってまた姿を現しているという噂を耳に入れたのですが…」

「ああ、その話か」

 事の発端は二月前。当時、風紀委員に敵対する総勢百名の不良たちを雲雀が一掃をした。

 この事件は一つの伝説となり、彼を名実共に最強の風紀委員長へと仕立て上げる武勇伝として語り継がれていた。

(委員長に完膚なきまでに噛み殺され、連中は二度と並盛の風紀を乱さないと誓ったはずだが…)

「今朝、奴らを見たという生徒がおりまして」

「なに?」

 通学途中、靴を踏まれたと因縁をつけられ、クリーニング代として有り金を巻き上げられた話を一人の風紀委員が語る。

 その被害を受けた生徒ととは勿論、並盛中の生徒である。

(これは即、委員長に報告だな)

 今後の風紀委員の活動に支障がでると判断した草壁は、厳しい表情で校舎の屋上を見据えるのであった。

 

 

 

 ボンゴレ雲の守護者の証である指輪の刻印をどれだけの時間、飽くことなく眺めていたのだろうか。

 首にかけた鎖がチャリと音を立て、雲雀は空に指輪を透かしながら本日何度目かの溜息をついた。

 本来ならば、屋上で午睡を楽しむ時間であるはずだったのに、許された時間の大半をこうして指輪と睨み合うことで過ぎていってしまった。

 秋のからりと晴れ渡った空を一羽の黄色い小鳥が翼を羽ばたかせ、主と認めた者の頭上で円を描くように飛行する。

「ヒバリ、ヒバリ」

「今日は随分遠くまで遊びにいってきたようだね。どこかお気に入りの場所でも見つかったのかい?」

 そう言いながら、雲雀はコンクリートの上に横たわらせていた上半身を起こした。

 羽休めの枝を見つけた小鳥は主人が用意してくれた肘の上に着地して一様に落ち着く。

 そして、円らな黒い瞳を得意げに向け、くちばしに銜えた物を掌にのせた。

「何だい?」

 黄色い花弁が一枚。普段、表情の硬い雲雀からは想像もつかない優しい色合いが小鳥に注がれていた。

「ワオ。ひまわりの花だね。君と同じ毛色だから、興味を示したのかい?」

こんな季節に珍しい。

 その花弁はまるでライオンのたてがみ。

真夏の太陽のもと逞しい生命力を宿した花を思い浮かべると、自然とあの男のことを連想してしまう。

揺れる金髪、涼しげなはしばみの双眸。

 振るう鞭はしなやかで強靭、戦う姿は天高く飛翔する馬の如く。

(なんて、くだらないことを…)

 頬の火照りを感じて、雲雀は想像を打ち消した。

主人の気持ちを知ってか知らずか、小鳥は主人の名を繰り返し、円らな瞳を向けている。

「まだ並盛にひまわりが咲いていたなんてね…。今度、案内してもらおうか。それまでは、ふたりだけの秘密だよ」

「ヒミツ、ヒミツ」

 いいねと薄く笑うと、非常階段口から近づいてくる靴音に耳を立てた。

雲雀は生徒手帳の間に花びらを挟むと機敏に立ち上がる。

「委員長。お休み中のところ、申し訳ありません」

 分厚い錆びた鉄のドアが開き、見慣れた長身のリーゼントが雲雀に向かって一礼をする。

「僕の眠りを邪魔しにきたからには、それ相応の面白い話しなんだろうね?」

「はい。最近、並盛を荒らしまわっている輩についての情報を得ましたので、ご報告に参りました」

「ふうん。そう。ちょうど退屈をしていたところだから、今回は特別に許してあげるよ」

 と、独裁者の見せる寛大な眼差しを向けるのだった。