03

 

 

 

 きっかけが必要だったのかも知れない。部屋に無理矢理、連れ戻されたあとは、なし崩しに抱きしめられた。

「ちょ…。いやだ。ディーノ…っ」

 名前を呼んでくれるのは、雲雀に良い意味で狼煙が上がった合図だった。

「愛してる」

「!」

 耳元で囁かれ、途端に押しやる手の力が抜けた。

 それみよがしに、ディーノは雲雀の体をソファの上に横たえ、 あとは簡単だった。

 羽織っていた学ランを剥ぎ取り、白いカッターシャツの上から手を添わせる。

「不埒なこと…しないでっ」

「フラチって、どういう?」

 フッ、と大人の余裕でディーノは微笑んだ。

 語学が堪能なくせに、こういう時だけ知らない振りをする彼は卑怯以外の何者でもない。

 恋愛=求め合い、という展開になることを最も恐れていたのは雲雀自身だった。

 何せ、恋愛経験がディーノの比べ圧倒的に少なく、今こうして経験を積み重ねている最中、どうしていいのか全くわからない。

「怖くねぇから。なぁ、恭弥?」

 すると、ブルリと雲雀の体が震えた。

「怖くない。優しくするから」

「触れる…な」

 警戒心を露にした総毛立つ猫のようだった。

「ここ、もう硬くなってる…」

「や…っ」

 制服越しに触れられた胸の尖り。

指の腹で感触を確かめられ、雲雀は頬を薔薇色に染めた。

(触れると、すぐに大人しくなるな…)

 それは、愛されている証なのか、はたまた、諦めの境地なのか。

 肌が白い分、その様は面白いほど分かり易かった。

「服、脱がすぜ?」

 器用な指先で制服の釦を一つ一つ外し、露になった尖りに吸いついた。

「ひゃ…」

 悲鳴のような声を立てた。

「恭弥の乳首、可愛い…。ずっと、こうしていたい」

 チュウと音をたて、ディーノは薄い胸板に頬をすり寄せる。

「僕は…あなたと淫らなことなんか…したくない…。ふ…っ」

 道徳概念が強い雲雀の理性は鉄壁とでも称するべきか。

 声を上擦らせ、懸命に声を堪えようとする様が愛しくてならない。

「声、聞かせて。ここには俺と恭弥のふたりきりだ」

 ドアの外に部下がいるが、そこまでは考慮してはいられない。

 あちこちと触れられ、上気した体を持て余す雲雀はいい様にされてたまるかと意地を張る。

「やだ」

 屈服なんてしない。

 負けん気の強さは、生まれ持ったものなのでどうすることもできないのだ。

「やっぱり、恭弥は手強いな…」

 足元にあったクッションが床の上に落ち、衣服が擦れる音が耳につく。

 性行為に対して、いまだ抵抗感を拭いきれない雲雀を悠長に待っていられるほど、ディーノは紳士ではいられなかった。

(求めることが早すぎるのは、自覚している…)

 しかし、そろそろ次のステップに入ってもいい頃合ではとディーノは前々から計っていた。

(っても、やっぱ十五のガキに強要することじゃねぇよな…)

 いずれ雲雀も大人になれば、この行為を楽しむ余裕がでてくるのだろうか。

 そんなことを考えながら、ディーノの手は雲雀のベルトを抜きとり、ズボンのホックを外して、ジッパーを下げた。

「恭弥のココ、硬くなってる。気持ちよくさせてやっから、腰、浮かせてみな?」

 布越しに触れたのは、先ほどの愛撫で興奮してきた雲雀の愛らしい象徴だった。

「やだ…」

「やだって、お前な…。そうしたら、いつまで経っても辛いままだぜ? いいのか?」

 幼子を諭すような口調と、優しい眼差しが雲雀の体を熱くさせる。

 一方の雲雀はこのまま男として辛い状態で放りだされることも、だからといってディーノの好きなように触られることも我慢ならないといった形相で睨み上げる。

「どうして…あなたと、しなくちゃならないの?」

 苦渋に滲ませる漆黒の瞳。理由なんて考えれば、全ては大人のエゴのようなものだった。

 子供の純粋な問い掛けにディーノは自嘲し、その黒髪を手で梳いてやった。

「恭弥のことが好きだからじゃ、駄目か?」

「そんなの、あなたの勝手だ」

 嫌いだよ、あなたなんか。

 押し問答をしている間も、ディーノの節張った手はすべらかな雲雀の胸部から腹部までを往来する。

 ピクピクと腹筋を震わせながら、雲雀はその悪戯に耐えていた。

「恭弥…」

「やだ。触らないで…っ」

 敏感に反応をかえす尖りに触れられ、睫毛が震えた。

 チュウと吸われ、舌先で丹念に舐められる。

 吸われて、こねられ、摘ままれ、あらゆる手法で雲雀を追い詰めていった。

「は…ぁん」

「俺は恭弥のことが好きだから、触れたくて仕様がないんだよ。ごめんな。大人の勝手な欲求に巻き込んじまって。でも、本当に好きなんだよ…」

 より硬くなった股間を撫でられ、理性と愉楽の狭間で意思が揺れる。

「噛み殺す…」

腰を浮かせた雲雀から下着ごとズボンを脱がせると、次にその愛らしい存在に手をかけた。

「やぁ…」

 手中でキュッと縮こまるソレを撫でながら、「怖くない、怖くない」と言い聞かせる。

 なかなか等間隔に会えないことにディーノ自身も不自由さを感じていた。

 日本に滞在する間、雲雀のもとを訪れ、「好きだ」「愛してる」だと愛を囁く。

漸くその言葉を疑いなく受け入れてくれたところで、長い離別。

 そんなことの繰り返しだから、いつも再会した日の雲雀はどこか他人行儀で、ディーノが距離を詰めて繰ることに敏感になるのだ。

「あぁ…」

 意図を持って上下に扱かれる。

「もう…やめて。風紀が…乱れる…」

「恭弥を乱したくて、こうしてるんだよ」

 どうにかなってしまいそうだった。

 それまで抑え込んでいた情熱が溢れ出してしまいそうで、雲雀は縋る思いで彼の首にしがみつく。

「ココ、ひとりでしないのか?」

「そんな…不埒なこと…するわけ……」

 酷く従順で敏感。

快楽に震える陰茎に少し力を込ただけで、先端から白濁が滲んだ。

「ああっ」

「幾ら淡白だからって、寂しかっただろう?」

 そう問われ、途端に雲雀は無口になった。

 どうやら雲雀は嘘がつけない体質のようだ。

 真っ直ぐに生きてきたためか、上手く誤魔化すことも知らず、窮した瞳を生理的な涙で潤ませる。

(少し、意地悪し過ぎたか…)

 ごめんと軽く唇にキスをして、ディーノは吐精まで導いてやった。

 導かれる間、雲雀は然したる抵抗はみせず、愛らしく喘ぎ続けた。

「次はベッドな?」

 他人の手によって導かれた射精感に恍惚としている雲雀の頬を優しく撫でた。

しかし、ディーノの問い掛けに意識はなくただ朦朧とするばかり。

(まだ慣れてないからか、頭が追いつかないんだろうな…)

 その方が寧ろ都合がよい。全力で暴れられると、流石のディーノも手を焼き生傷が絶えないのだ。

 ソファの上でぐったりとなっている雲雀を軽々と抱き上げると、ディーノは隣の寝室までその身を運ぶ。

 寝室の空調は少し肌寒いくらいだったが、これから熱く交わるふたりにはちょうど良いくらいだ。

 広々としたベッドの上に横たわらされると、ディーノは上着を脱ぎ、覆い被さってきた。

「恭弥式のキス。してくんねぇ?」

 触れ合う瞬間、ディーノの襟元から漂う香りに雲雀の意識は浮上した。

「なに言って――」

 聡明で意思の強そうな瞳とかち合い、自然と頬が照る。

 ゆっくりと近づいてくる程よい厚みの唇。

 鼻と鼻が擦れ合う寸前でディーノは止まり、雲雀を見下ろす。

「恭弥とキスしてぇ」

「……」

 息苦しくも甘い時間だった。

 耐え切れなくなった雲雀は少しだけ顔を傾けて、彼の唇に触れるだけのキスをおくる。

 蜂蜜のように甘く蕩ける瞬間。

 雲雀の方から仕掛けてくるのは今回が初めてだった。

 性の解放によって感情が流されてしまった為か、それとも、これは彼が隠し続けてきた本心なのか。

 直接問いただしてみたいものの、この甘ったるい雰囲気に水を差すような真似はしたくなかったので、ディーノは堪えた。

 そして、今度はディーノから雲雀にキスをする。

「ん…」

 最初は小鳥が啄ばむようなキス。次第に深くなってゆき、雲雀は息継ぎのタイミングがわからなくて苦しげにしていたけれど。

「恭弥。俺、すげー幸せ…」

 やっと、お前とキスできた。

 鼻と鼻先を擦り合わせるほど接近し、ディーノは間近で微笑んだ。

 雲雀の心を信じよう。

 愛する人と今、心が同じにある。

 至福の表情で囁くディーノに雲雀の胸も切なく軋んだ。

「あ…」

 指で慣らされている間中、ずっと彼のことを考える。

 この先に何が待ち受けているのか。

 垣間見せられた快感からは最早、逃げる術はない。

「ディー、ノ…」

 駄々をこねる子供のように下半身を押し付けた。

 熱くて、辛くて、寂しい。

 再び熱を取り戻した若い性をどうにかしてほしくて、雲雀は雛鳥のように擦り寄る。

「待ってろ。すぐに悦くしてやるから…」

 ベッドサイドの引き出しからローションを取り出して、ひくつく雲雀の出入り口を丹念に解きほぐす。

「っあ…。なに、それ…。や…っ」

「我慢しろ。これやっとかねぇと、上手く挿入らねぇんだ」

「ん…ぁ」

 クチュクチュと水音をたてながら、指が一本、二本と挿入を果たしてくる。

「あっ、あっ、あ…っ」

 節が動くたび、雲雀は愉楽を追って戦慄いた。

 すでに先端は痛いくらいに張り詰めている。

 ピクピクと震えながら、先端から蜜をトロトロに溢し、ゆらゆらと寂しげに揺れる。

 雲雀のプライドが自慰を許さなかったのは言うまでもなく、ディーノの導きだけが唯一、救える手段だった。

「ディーノ…っ」

「ああ、そんなに泣くなよ。俺だって、すぐに恭弥のなかへ入りたいんだぜ…」

 解きほぐす指先に細心の注意を払いながら、ディーノは空いた方の手で、張りつめた弓形のものに添わす。

「あぁっ」

 前後を同時に苛まれ、雲雀は涙を溢した。

 ディーノに触れられる先端からは喜びの涙がとめどもなく溢れ出し、薄い腹の皮が忙しなく上下する。

 辛抱堪らずに、ビュクンと白濁が腹から胸部にまで飛び散り、二度目の射精を果たした。

「たくさん出たな。次は、こっち」

 そう言って、蜜口を軽く抜き差しした。

 後ろの穴でディーノを迎え入れる。

 その覚悟がまだできていない雲雀は戸惑いに戦き、尻を軽く揺する。

「ムリ。あなたの、そんなの…入らない…っ」

 準備万端に天まで反り勃つソレをチラリと見やり、雲雀は青白くなる。

 どう考えたって、物理的に無理だと。

「ローションで慣らしたから、大丈夫だって。痛くしねぇよ」

 約束すると、真剣な眼差しで乞われる。

「早く、して…っ」

 自棄ぱちになって雲雀は頷いた。

 実際のところ、彼を絶対的に拒む術を知らないからだ。

 夢にまで待ち焦がれた瞬間。

 逞しい雄が侵入を果たし、体が小さな痛みと歓喜に震えた。

「っ、…ァ」

「恭弥…っ」

 ドクドクと脈打つ威きり。すべてを支配し、屈服させるその充足感に雲雀の中の何かが弾けた。

「ひゃぁ…っ。これ…だめ…っ」

 どうにかしてと訴え、細腰を揺らす。

 その声にディーノは応え、それまで堪えてきた腰を振るい上げ、圧倒的な強さで雲雀をよがらせた。

「あぁん。ディー…、ふぁ…、ぁっ…ん」

 あられもなく声をあげた。

 口の端から飲み込めない唾液が糸を引き、これ以上だらしない表情を見られたくなくて両腕で顔を覆った。

「恭弥のいい顔、見せろよ?」

 顔を覆っていた両腕はあっさりと取り払われた。

「ん。可愛いぜ」

「う、んん、ん…っ」

 挿入を繰り返し、良いところを突いてくるディーノに合わせて、雲雀も腰を淫らに動かす。

「も…。もう……っ」

「いきそうか? 俺もそろそろだ…」

 達するという意味が分からず、朦朧とした意識の中で、汗に輝く金色を見上げた。

 なんて淫らな腰使い。つがいの貝のように密着し、獣の性的衝動のまま腰を突き動かしている。

「あ…、あぁ…っ」

 楔が打ち込まれるたびに黒髪は揺れ、額から汗が吹き出た。

 戦い以外でこんなにも激しくエキサイトする行為があるとは今日まで知らなかった。

まるで互いの全てを喰らい尽くすゲームみたいだ。

 ふたりが協調し合うことでもより相乗的効果は生まれ、一層夢中になれた。

「ディーノ、ディーノ…っ」

「好きだ。恭弥――」

 その姿は獣が盛っているようだった。

 ディーノが挿入の度、最奥から離れていくと急に寂しくなり、キュと彼を粘膜が締め付ける。その都度、ディーノは引き戻され、奥の壁をピンポイントで突き上げる。

「ひゃ…ぁぁっ」

 幼い雲雀の性は硬度を増して、孤独に反り勃ち、ゆらゆらと振動に揺れる。

 幾ら孤高を愛する性格だとはいえ、そこは触れてくれることを求め先端から涙を零していた。

「恭弥、ココも愛していいか? 群れるのは性に合わないだろうけど、今は俺と群れてもいい?」

「あ…」

 不憫なくらい腫れている幹に軽く触れてやれば、ピクピクと健気に反応を返してくる。

「恭弥、可愛い」

 飲み込みきれない唾液が顎を伝い、雲雀は大人の欲望の渦に巻き込まれてゆく。

 震える性器を抜いたり、弄られたりされながら愉楽の淵へと誘われ、本能のまま律動にあわせて細腰を揺らす。

 そして、我慢することなく雲雀は彼の名を呼び続け、男を教え込まれていった。

「ディー…」

 甘い吐息。キュと締め付けがきつくなり、ブルリと腰の動きが止まった。