世の中に、こんな医者が居るはずがありません。
登場人物は全て架空です。実在しません。念のため

第1097話 屁の931(くさい)番「Iさん、これでエエ?検査オーダー」
「・・・」
「あんた、Iさんじゃったよな?マリリンじゃったっけ?」

「はア?あ、あたし?」
「そう、あんた」
「センセは、あたしの名前を知ってたんですね」

「コメニチコフスキーじゃったか?」
「何処の国ですか、その名前」
「ちゃん付けじゃないと、返事せんみたいな」

「あたし、センセから名前で呼ばれたの初めてかも。すっごい新鮮」
「すっごい緊張」
「んじゃ、みんなの名前知ってんだ」

「そらそ、当たり前だのクラッカー」
「んじゃ、あたしの名前は?」いきなり突っ込むナースD。
「Kさんじゃろ、んであっちがヌリカベじゃから・・・Mさん」

「凄いじゃないですか、んじゃ、いま入ってきたのは?」
「ウッ、んーと。ヒラメ・・・じゃなくてエ。平安朝じゃから、Vさん」
「何か、名前を言う前にミョーなこと言いませんでした?」

「べつに、気にしないでね。ゼンゼン、皆目」
「んじゃ、出ていったのは?」
「んーと、んーと。モアイじゃから・・・Bさん」

「いちいち。何とかじゃからって言うのは、何で?」
「同姓同名なら、一本松のKさんって。昔はそう呼んでた」
「明治ですか、大正ですか?」

「んだから、あんたなら3段腹P?」
「ナンか納得行かないワ、パターンを変えて呼んで頂ければ」
「んじゃ、153・75ってのは?」
「ナンで、あたしのボディの秘密を?」

「ただの番号じゃって、身長体重じゃ無いっての。名前を呼ばずに」
「そう言えば最近、病院じゃ患者さんを様付けで呼ばなくなりましたね」
「個人情報保護と国民背番号。屁の39873番さんとか。みんな番号で呼び合ったりして」

屁だけに931(くさい)番とだけは呼ばれたくない、午後。

第1096話 病院の火中の栗

「んでさ、今日のデスカンファを元に看護研究やるしかないで。
すなはち、来年のTMC研究大会やね」
「だ、誰が?センセがでしょー。ウッソー」

「ワシは医者、あんたは看護師。看護研究っちゃ、看護師のモンッ!」
「えー、誰が。何処で、何時、ナンであたしが」
「うっせ、黙って聞くんじゃッ。脳みそ使え、筋肉鍛えろ、脂を燃やせッ!」

「ええい。そっくりそのまま、ご返杯ッ!」
「あんたらがヤランかったら、ワシがやるで。早いモン勝ちや」
「遅くて嬉しい、発表外せばなお嬉しい。みたいな」

「あーあー、そう言う事ね。よー分かりました、1等賞貰っても分けてあげないかんね。
んじゃ、デスカンファお終いッ」

その足で、研究大会担当に直行。
「あのさ、来年の研究大会。ワシ演題出すから、1ヶ空けとってね」
「こないだ終わったバッカで、もう来年とは。ブタも高笑い」

「今から練って2ヶ月もあれば完成じゃ、楽勝やで。既に、テーマは決めてあって。
我々のケアで、高齢末期患者の”まほろばになれるか?”やで。
エエなー、ナンかコーフンせん?」

「あ、ゼンゼン」
「鈍いんちゃう?んで、副題が”高齢者末期患者の緩和ケアパスの試み”や」
「そっちは、結構フツー」
「んーもー。ボーボー、燃えるね。ファイヤッ!」

既に幾つかの文献を読破して、脳みその中でプロットが出来つつあったし。
追加文献を読むのにはちょうど良い”尻叩き”だから、更にかき集める文献。

自らすすんで火中の栗をつまみ上げた、午後。

第1095話瓦煎餅と潤む目

「あのさ、今度の学会は高松なんよねー。オミヤ待っててな」
「エエなー、懐かしいな−、死ぬまでにも1度行きたいなー」同郷のZさん。
「今度は、オミヤで我慢し」訪問診療の2週間後、脳梗塞で救急入院。

「おうおう、待ってたよ。んじゃ、しっかりリハビリしよな」救急病院から転院。
「死にたい・・・」
「手足が不自由になったくらいで、いちいち死なんでエエ」

「もう生きとうない」
「前から言うとったけど、もう暫く頑張り。ワシが、責任持ってあの世へ送ったる」
「頼むで。フガ・・・、死ぬまでついて行くで」

「モノも言いにくいかね?あ、入れ歯が無い」で、口元スッキリ。
「センセは、20年の付き合いじゃのー」
「そうやなー、初診の時に懐かしい訛りじゃったから。同郷じゃって知って、23年」

「飯、要らん」
「意地でも長生きせな、イカンぞ」
「ウウ」

「あ、そうじゃ。これ、オミヤ。懐かしいやろー、老舗くつわ堂の瓦煎餅やで」
「ウウウ・・・。食いたい」
「Zさんは、歯が弱いし。そうでなくても、これがやたら固いんは知っとろ?」

「じゃから、茶でふやかして」
「こう言う時に、ワシみたいに歯と歯茎が丈夫じゃと。こうな、ガシガシ行けるワケ。
あ、小さいヤツを口に入れたろか?唾でふやかして、お食べ。ほれ。懐かしいやろ」

3mm欠片を放り込まれたZさんも私も目が潤む、午後。

第1094話一見医(みため)

「んで、胃カメラのデモが来てるワケね。んじゃ、あとで覗いちゃおっと」
「その前にセンセご指名のDさん、いらしてますわよ」
「そうなんよ、昨日のデータがすんごい貧血で。直ぐおいでって、糸電話」

「あたしが電話!いかほどの貧血?」
「ワシの3分の1やで、血イが薄いのなんのって。ペラペラや」
「それを言うなら、サラサラでしょッ」

「サラサラなんか、とっくに通り越してるワケ」
「んじゃ、その上は?」
「ペロペロかな、更にその上は。んーと、ペリペリ(語尾上げで)」

「もう結構ですッ!」
「んで、鉄を打つワケ」
「トンカチで?」

「ゴンゴン叩いて・・・棚の釘打ってんじゃないッ」
「ハイそこまでッ」
「んじゃ、胃カメラデモのストーカーしちゃったりして・・・」

「ホント、ドアのスキマから覗くのは日本一似合うわー」
「そこまで誉められると、照れるな−。調子に乗るな−、ヘッヘッヘ」
「よろしく」実験台のジムのおにーさん。

「あ、ボクはちゃうよ!」
「知ってますよ、センセがしないように。よろしく」
「前の機種の実験台は、ワシじゃった。今度のは、細くて。運がエエ」

「くじでこうなったんですから、運が悪いんです」
「長い人生、これより運が悪い事は山ほど。それに比べりゃ、屁のかっぱ」

チェックのBDシャツに綿パン、ケータイ首飾りのヘラヘラ私。
それに引き替え白衣にネクタイじゃ、どっちが医者らしいかワカランッみたいな。

「関係者以外は・・・あの」突然現れたメーカーさん。
「ホウホウ、それが胃カメラなワケね」で内視鏡室へ侵入。
「ハイ、そうですけど。あ、ボクは担当じゃ・・・」

「細くなって、喉ごしがエエんよね」
「ハイそうですけど。ここが」
「あ、ボクは担当じゃ・・・」

「そういう感じですね」
「なんぼするん?500か?」
「ざっくり500で、おつりが。ご予算で、オプション」

「ボクは担当じゃ。んで、サービス品は?」
「だんだん分かってきました」
「安いやないの、買わそ。あ、洗浄機も。締めて800なら安いね−、買わそ」
「一応、見積もり出してますけど」

「ホウホウ、あとちょっと。どうにかならん?、長い付き合いになりそうだし」
「ギリギリで」
「そこを何とかひねって。あ、ボクは担当じゃ・・・」

「絶対違うのが分かります」
「前のは酷くて、胃カメラして貰おうかと思ったら。基本はMですか?って聞かれた」
「確かに、かなり改良されて。Mじゃなくても、大丈夫」

「何時までそこで遊んでるんですか、センセッ。外来っ」背中を突く外来ナースQ。
「ヘッ、ホントにセンセだったんですか!」
「人は見た目、医者も見た目」

ぱっと見で医者は見た目の、朝。

第1093話 隠食介医隠ん(かくれふぁん)

「こ、コラッ。ナンであたしと目が合って、後ずさり」
「あ、見えた?」
「メタボ体があんだけ動いたら、見たくなくても見えるでしょッ」

「んで、Zさん。ご飯食べた?」
「お粥1匙で、腹一杯って」
「あんたと、変わって貰ったらエエのに」

「そうなんですよ、あたしなんか丼3杯で腹八分目・・・大きなお世話ッ」
「あんた、腕上げたなー。んでこれ、Zさんに」
「あららー、コラーゲンゼリー。しかもチョコ味なんて、豪華な。あたし好み」

「メーカーさんが来たから、頼んであったんよ。んで、今日」
「んじゃ、スプーンお持ちしますわね」
「食べてくれるやろか?」

「あたしなら、喜んで味見」
「あんた以外で、オネガイします」
「んじゃ、Zさあーん。センセが美味しいゼリーを貰ったんですって」

「要らん」
「ま、そう言わず。一口だけでも、オネガイします」私。
「センセの頼みじゃ、一口」

「ハイハイ、そう来なくっちゃね。今が半口ね」
「もうエエ、要らん」
「あと半口残ってるやん、後生だから。オネガイッ」

「そこまで頼むか。んじゃ・・・」
「ホレ、美味しいやろー。すんごく。で、やっと半口」
「も、もう要らん」

「残りの半口行っちゃったら、ワシ消えるから。消える前に、半口」
「消えるんじゃったら、ウグウググ」
「あららー、5分の1残っちゃった。これで最後かな、それとも・・・」

「し、死ぬウー。ワシを殺す気かー」
「センセが食介(食事介助)すると、1口が4口になるんですね−」
「ワシって、隠れカリスマ食介医師って。知ってた?」

「あたしも、隠れファンなんですけどオ。韓流俳優、ベピョンジュンの」
「死ぬまで、隠れていなさい。ワシはあんたの、隠れふあん」
「ファンなんて、ヤダ」
「不安で、ヤダ。撤収、お隠れ」

隠れカリスマ食介医師も隠れる、午後。

第1092話 既弾泡ょ(ばれちょ)

「フンフンフンッ、鹿のフンっと」
ちょっとだけ外来から脱走して、病棟からの帰り道。
「あ、センセ。いつもお世話になってます」外来患者のYバッちゃま。

「あ、どうも」
「今日は、何日でしたか?」
「んーと、2月14日ですよね」
外来日で。天皇陛下の執刀医が、バチスタモデルのセンセって聞いた日だったけど

「んで、これ」
「あ、そうですよねー。ゴチになります」で頂いたチョコ。
老々バレンタインチョコは、ちょい気恥ずかしく終了した外来。

「んで、センセ。これこれ」長方形の箱を差し出す、外来ナースP。
「ワシ、葉巻は吸わんけど」
「違いますよ、義理チョコ。義理も、薄うてペラペラ。ギリギリチョコとも言う」

「愛も下心も無い、義理チョコね」
「当たり前でしょ、こんなに沢山の連盟で。ナニが愛ですか、贅沢な。小生意気な。
ちなみにお聞きしますけど、どの人がタイプ?」

「むちゃ言うな。13匹の便所コオロギのどれが好きかって、聞くようなモンや」
「んまっ、失礼な。誰が便所コオロギ、誰が丸虫、誰がノリカ。あヤダ、あたしじゃん」
「独りで、よーそこまで遊べるなー。感心するほど呆れるわ」

「この13人の名前、ちゃんと覚えておくんですよ。ずーっと」
「ヒンズー語で2357を、ずーっと覚えておけっていうようなモンや」
「覚える気もなく、すっかり忘れるってことですね?」

「理解が速いやん」
「アホでも分かりますッ!来年は、ギリもなくなるかも」
「どっちにしても、咥えて帰ったチョコは家でゲロッ。鵜飼い状態」

バレチョ(バレンタイン・チョコ)バブルが既に弾けてる、午後。

第1091話 婦長涙止法(だつりょく)

「はアー」
「・・・」
「はアー」

「・・・」
「はアー」
「穴の空いた浮き輪みたいに、小出しに空気を出すんじゃねーの」

「ナンでヒヤリが立て続けに、あたし悲しい。はアー」
「あと1口が命取り、もうちょっとで青酸カリベロベロするとこじゃったとか?」
「悲しんでるあたしに、むち打つようなことを言わないで下さいませんこと」

「悲しむなんて、ゼンゼン似合わんな−。婦長さんは」
「んじゃ、どんなのが似合うと?」
「髪の毛総立ち、辺り構わずギャンギャン怒りをぶちまける」

「はアー」で潤む目。
「ふうーん。その程度じゃ、アカンか。んじゃ、ホントに悲しいんだ」
「センセは、あたしが冗談で悲しんでると思ったんですかッ!はアー」

「力抜いたら、屁と一緒に実が出るかもオ」
「そこまでコーモンが緩んでませんッ!はアー」
「まあ、エエ。あのさ、真っ新な処方箋用紙が無いんじゃけどオ」

「そこいらを漁ってごらん遊ばせ、2,3枚落ちてるかも」
「丁度エエことに、麻薬処方せんがたっぷりあるワケよ。そう言う場合。
(麻)の字を2本線で消して、フツーの薬を書いちゃイカンかなー?」

「ダメに決まってるでしょッ!」
「んでも、消した後に書くんよ。これは麻薬じゃないのよね!って。
そこまで書いたら、薬局も納得するかも?」

「そんなことで、納得するはず無いでしょッ!んもー、あたしイライラしてきた。
ナンでそこまで、あたしがキレそうなことばかり」
「涙を止めるには、自然放屁するくらい力を抜いてリラックス。完全脱力じゃね」
言い終わる頃には、婦長の目は乾燥していた。

婦長の涙を止めるには脱力がエエ、朝。

第1090話 武士一分え(いしもええ)

「んじゃ、キーホルダー要らんけど。寄付、\1000ね」
「あららー、豪気な。\600で結構なのに」
「ツリは要らねえ、とっときなってことよ。家建てて、残ったら倉でも建てな」

「もしかしてこの千円、拾ったんじゃ」
「アホ言え。僅かばかりじゃけど、ワシのポケットからな」
「ええい、太っ腹。メタボ腹ッ!あたし、これに\200足して」

「ワシに?」
「こ、コラッ。キーホルダーが2個売れたことにして、寄付しちゃうわ」
「ウウウ、泣かせること言うやないか。ナンで、ウウウ」

「その、ナンでのあとのウウウは?」
「ナンでここまで心根優しいおなごが、私にだけ厳しい。ウウウ、何かの祟り?」
「セクハラッ。心根と女は、関係無いでしょッ」

「んじゃ、ウウウ」
「こ、コラッ。また良からぬ事を」
「ナンでここまで心根の優しいおなごの鼻が、あぐらをかいてふんぞり返ってるんや」

「それはDNAの祟り・・・じゃないッ!」
「しかし、腕上げたやないか。誉めてつかわす」
「センセの祟りは宜しいから、\1000でオシマイなんですね。ホントに、ゼッタイ」

「あと\13残ってたけど。小さい余分は、もうエエか」
<ミャー>
「あんたは江戸屋豚八か?猫の泣き真似、まあまあやん」

「違うんですよ、鳴くぬいぐるみ。んでも、誰も通らなかったでしょ?ヘンだわ」
「あ、どうも。いらっしゃい」
「こ、コラッ。今センセは誰にご挨拶?」

「ぞろぞろ歩いて通ったやんか、いま」
「ぞろぞろって。何時、何処で、どんな風体の?」
「たった今、前の廊下で、落ち武者が。あ、大丈夫?血だらけで」

「こ、コラッ。気持ち悪いこと、言わないで下さいよ」
「頭に刺した2本の蝋燭の火は、消さんと・・・」
「横溝正史みたいな。んでも、これ以上余分なこと言わないで下さいッ」

キムタクの映画、「武士の1分」もよかったけど。
「医師の余分」もエエんとちゃいますか?の、午後。

第1089話 外来赤鉛筆い(のこりみじかい)

「Pさーん、来たでー」
「あら、いらっしゃい。ヒー」
「ちいと喘息出よるみたいじゃけど、元気に息しとる?」

「なんとか、酸素を吸うてな。ヒー」
「顔色エエし、また太ったか?」
「そのままそっくり、センセへお返し。ヒー」

「そうなんよ、ちょっと油断するとコンマ7キロは行くモンなー」
「センセ、ナンでじゃろ?酸素が1.75ならトイレに行ってもエエのに。
2にすると、なんとのう苦しい。ヒー」

「0.2にしとるんちゃうか?」
「そこまで、惚けちゃ居らん。ヒー」
「んで、いま苦しいか?」

「んにゃ、ゼンゼン」
「そらオカシイやろ、ワシ酸素の管を摘んどるのに」
「バカなことしなさんな、んでもセンセの顔を見とると気分がエエ」

「酸素顔なワケね。笑顔と管を完全に潰すんと、どっちがエエか試してみる?」
「ジョーダンばっか言うてからに、ヒー」
「他には?」

「そうそう、頭の右半分がキリッと誰かに棒で殴られたみたいに痛いことがあるが」
「ベッドの後に、棒持ったヤツが隠れとるんちゃうか?そいつが出てきて、ゴンッとか」
「昨日出張した息子と、二人暮らし。恐いこと言わんこと、そんなん見ただけで死ぬで」

「大丈夫や、そう簡単には死ねん」
「んでも、この3人の中じゃあたしが一番先じゃろ」
「そらそうよ、んで次がこの看護婦さんやろ」

「ちょ、ちょっと。ナンで年下のあたしが、センセより先?」
「食い意地満々じゃと、生活習慣病まみれで。外来の赤鉛筆なワケ」
「意味分かりませんけど」

鉛筆削るのを失敗して”残りが短い”なんてオチの、訪問診療。

第1088話 申送仕上ち(すとれっち)

「おろ、早いねー。未だ寒いし。あ、寒いからトイレが近い。
んでも6:30まで、あと5分有るから。天井灯はつかないんよ。
その代わりと言っちゃナンじゃけど、これをこうしてと」

「おう、なかなか賑やかでエエわ。シッコも出やすい」
「お孫さんのお下がりのトレーナーは、イルミネーションに馴染むわー。
ラメがキラキラ、眩しいぜKさん」

「だ、誰エ。イルミネーション点けたの」
「ちょ、ちょっとスマンね」でカルテを書き進める、朝のステーション。
「んーと」<キョロ>「んーと」<キョロ>「んーと」。

「せ、センセ。ミョーな目つきしないで下さいよ」
「つぶらなドングリ眼は、目力有る?パワーを落とした積もりじゃけど」
「ストーカー風目玉の動きが、ミョー」

「んじゃ、申し送り仕上げのストレッチしまーす。
「んじゃ、ボールを抱きかかえる感じで・・・」
「ウック、ウー」

「プッ」
「次は、左腕を横に延ばして。クーッっと突っ張るウ」
「ク、クーッ」

「プ、プッ」
「最後は、足をブーラブーラ」
「ブーラブーラっちゃ、どう言うこと?あ、そう言う事ね。ブーラブーラっと」

「プッ、ヤダ。センセ、笑わせちゃ。なんで面白い顔?」
「ワシもみんなに混じって、カルテを書きながらストレッチ。
顔を面白くして、みんなを笑わせてない。どことなく馴染んでない(語尾上げで)」

「ゼンゼン」
「凄んごく馴染んで、ワシの存在感は空気並みやろ?砂丘で胡麻を見つけるような」
「それを言うなら、墨汁の中に白玉団子を見つけるくらい馴染んでますわ」

「馴染む4段活用。馴染む、馴染む時、馴染めば、馴染めッ!」
「それなら5段活用で。もう1つは、馴染まんッ!」

最近の日本語の乱れは著しいと思った、早朝。

第1087話 教育(ちら)

「んで、全身が痛いってナースに言われたらしいけど。さっきご本人にお聞きしたら。
一番腰が痛くて、ちょっと背中。あとは、触ったときに左下腹も些からしい。
思い込みで患者さんの話を聞いたら、イカンでしょ」<チラ>

「はあ」患者さんご子息Gさん。
「しかも、さっきは酸素飽和度が65パーじゃってナースに聞いたけど。意識はある。
んな65パーは無いんで、酸素飽和度が分かって居らんですよねー」<チラ>

「はあ」
「んで、今朝の酸素飽和度は89パーじゃけど。痛み、貧血、心不全に伴う末梢循環不全。
はたまた、ストレスまで。複雑に要素が絡み合ってるワケで、単純じゃない」<チラ>

「はあ」
「んで、Sさんの病状は・・・。で、何かご質問は?あ、無い!
居るんですよ、ワケの分からんこと聞くヤツが。こないだなんか・・・」<チラ>

「はあ、とっても凄く充分ですけど。ゼンブお任せします、センセに」
「まだちょっと言い足りないけど、んじゃまた何か分からないことが有りましたら。
質問だけじゃなくて、文句とかも大いに結構。心から、お待ちしております」<チラ>

「イエ、文句だなんて」
「期待されるから、当てが外れて文句が出る。端から期待されてなけりゃ、文句も出ん」
「まあ、そうですけど」

「居るんですよ、ご家族がちょっと文句を言うと引くヤツが」<チラ>
「あたしはゼンゼン」
「お願いですから、どんどん文句を言って欲しいんです」<チラ>

「イエイエ、有り難くて。感謝してます。じゃあ、これで」既に、椅子から腰を浮かせて。
「あ、そうですかー。残念ですネー、まだまだ言い足りないような」<チラ>
「じゃあ、失礼します」で残ったナースと2人のステーション。

「んで、センセ。センセッ」
「な、ナニよ。青筋ぷっくり、プチッと切れるかも」
「何度もあたしに向かって嫌み<チラ>とっくに切れてますッ!」

ナース教育的IC(説明と同意)<チラ>に気づいたらしい、午後。

第1086話 文句病棟る(たのしめる)

「ブフッ」
「・・・」
「ブフッ」

「ちょ、ちょっと。センセ。あたしが前を通る度に、なぜ故バカ笑い?
後ろ姿がモンローにうり二つでも、笑っちゃうとは。あたしに、文句がおあり?」
「文句なんて、滅相も無い。おかっぱ頭のアニメを思いだして」

「ミョーなアニメじゃなければ、エエんですけどネ」
「あ、センセ。Pさんが咳が出るっておっしゃって、喘鳴みたいな・・・ゴロゴロ」
「あんたの医学用語ヘン。んじゃ、ちょっと音聞いてこよ。聴診器借りるね」

「どれでもお好きなヤツを」
「しかし、どれもこれもミョーな聴診器バッかじゃねー。これなんか、歪んで酷いモンや。
もしかして君たち、イヤピースを耳と鼻の穴に突っ込んでんじゃないの?」

「んなことするんは、受け狙いのセンセぐらいでしょッ。ごじゃごじゃ言わないッ。
いちいち文句を言わなきゃ、聴診できないんですかッ」
「ま、すっきりしたところで。んじゃ、参るぞ」の7分後。

「ゴロゴロは、飲み込めなくて口奥に残った唾液の音や。喘鳴ではないッ。
呼吸音は清明ッ。一体、どう言う耳をしてるんですかネ」
「んじゃ、センセの耳は?」

「こう、丸くなってその後スーッとまっすぐ。んで、クイッと曲がって」
「そう言うことを聞いてるんじゃありませんッ」
「文句が多いッ!」

「そのままセンセに、お返ししますッ」
「んで、のりは無い?」
「そこの引き出しに」

「あれはアカン。1本ゼンブ使ってもあんたのたらこ唇、塗り切らん。
これってデータ結果を3枚貼ったら、使い切りで。あとの使い道は1つや。
あんたの鼻に、思いっきり突っ込むくらいしか無い。どらどら、お試し」

「要らんことしなくて宜しいッ!」
「文句が多くない(語尾上げで)」
「多くない(語尾下げで)」

文句も楽しめる病棟の、午後。

第1085話 無駄病棟

「んじゃ、申し送りを始めまーす」
「ちょ、ちょっと割り込んでエエ?カルテを書くんだから」
「邪魔しなければ。あー、また早朝迷惑回診したんだ」

「んじゃ、始めましょう」冷静な婦長さん。
「んーと。Pさんは・・・お変わりありません。Gさんは・・・お変わりありません」
「ファーアッと」

「んで、Zさんは・・・お変わりありません。1578号の方のDさんは・・・便秘3日」
「ファーアッと」
「んで、次は。あっ、スイマセン」

引っ張ったカルテカートがガツッ!、でMIHIセンセの右足ピョコン。
「な、ナニ。いまの。んじゃ、もう一回」
しつこくカルテカートを引き直してガツッ!で、センセの右足ピョコン。

「何度も脚気の検査したらイカンよ。ワシの足はオモチャじゃないッ」
「フツーは膝小僧をコツンとやった方が上がるのに、今は反対側が何故にムダピョコン」
「申し送りを聞いていて、あんまりアホらしくて反対側がピョコンや。ムダは止めたら」

「申し送りがムダだって、仰るんですかッ!」
「お変わりない方が多いんだから、少ないお変わりのある方を言うたらエエやんか」
「そしたら、2分で終わっちゃうでしょ」

「こんな野良猫の井戸端会議みたいなムダ申し送りをしない病院も、あるらしいで」
「なぜ故、野良猫。しかも井戸端会議、さらにムダ」

「ナンでこの3人以外はお変わり有りませんって、言えんかなー。日本語で。
そんな無駄な時間があったら、ちいとでも早く患者さんの側に行きなさい」ネチネチ。
「あー、センセのムダ話を聞いて。時間を無駄にしちゃったわ。
んじゃ、この3人以外はお変わり有りません。以上ッ。何だか言い足りないワ」

ムダな事を言って時間をムダにした無駄病棟の、朝。

第1084話 外来はファストフード

「ナンで、こうゴミが増えるかなー」ナースB。
「ま、処方の美学みたいなカタチ(語尾上げで)」
「ナニが美学ですか、これだけ汚して」

「お手軽、簡単、速い。処方界のオーショー、みたいな」
「ナニが処方界、ナニが猪八戒」
「処方内容も、手書きじゃなくてプリンター(語尾上げで)」

「いちいち、語尾上げしなくて宜しいッ」
「んでも、処方ミスが無くなったやろ?」
「打ち込みミスだけですね、あたしらの最初のチェックだけみたいな」

「そうそれ。ま、3ヶ月も修整やったらいつかまともになる。長ーい目で、オネガイ」
「3ヶ月も続けるんですか、3ヶ月も」
「3ヶ月で済めばエエ方やろ、時々わざと間違えて。なんなら3年でも5年でも」

「オバカ言わないで下さいね、本気でやっても間違えるのに。その上、わざとなんて」
「あっ」
「な、ナンですかッ!」

「エエこと思い着いたで、イラストなんか入れると楽しくない(語尾上げで)」
「語尾上げがしつこいッ!イラスト入れないッ!フツーで結構ッ!」
「あっ」

「な、ナンですかッ!」
「インクが擦れてきた。本日は、これにて店じまいと見せかけて。あ、スペアがあった」
「とっとと入れ換えて、仕事仕事」

「やっぱ、気分エエわ。新しいインク、新しい処方箋。気分転換に、新人ナースを配置」
「ナニ言ってんですか、中古の医者には中古のナースで充分」
「さ、んじゃここを切り取って。あそこへ貼り付けて、切りカスはポイッと」

「ウチの息子がハンバーガー食べたあとと、全く同じですわ。ゴミ箱が、ハアー」
「んでも、ペンのインク消費が減って。ワシの外来って、エコやねー」
「その分、紙の消費が10倍。センセの外来って、エゴでしょッ」

外来ゴミはファーストフード的に増え続ける、朝。

第1083話 超高齢病状説明(るいじこくち)

「センセ、父も98歳ですから」
「そうやね、認知もまあまあ入ってるし。んじゃ、そう言うことで」
それから3週間後、「センセ、何だか具合悪いわ。飯食えんし、だるい」で父上入院。

「入院して1週間。まだ腹がオカシイし、背中もナンとのう痛いが」
「そんなに直ぐ治ってもろうたら、ワシが飯食えんやろ。のんびり、じっくりな」
「センセの都合で治る時間が延びるんか、そら困った」で1週間。

「センセ、Pさんがスタッフ全員に聞くんですよ。ワシの病気はナンじゃって。
ご家族の意向で決まったんでしょ。センセが、それらしくはっきり言うて下さいよ」
「末期癌で、肝臓やら腹ん中あっちゃこっちゃ種が飛び散ってるみたいな?」

「んじゃなくて、もっと違う言い方があるでしょ。やんわり系(語尾上げで)」
「んで、これを書いてきたんよ」
「ホウホウ、これを今からPさんとこへ。んじゃ、お手並み拝見」

「おお、センセ。ワシの病気は・・・」
「そのことナンじゃけど・・・腹と背中が悪かったんよな?」
「そうじゃ、あと喉も!」

「おろ、喉も!と来たか。ま、そっちは想定外。んじゃ行くで、病気の説明」
「待っとったんよ、それ。ホウホウ、大きい字で書いてくれたか」
「2つあるわな、症状が。腰骨がヨボヨボでスカスカ、じゃから腰痛で決まり」

「やっぱ、年のせいか?」
「ま、それに近いわな。んで、腹。下痢一歩手前で、慢性腸炎も一歩手前。
それが原因で、左脇腹が具合悪い。右ならモーチョー、左は腸炎。真ん中は、無い」

「真ん中は、ワシの得意な」小指立てる。
「そんな下ネタは、要らん。寝てバッカじゃ腰回りの筋肉が弱って、腰痛は治らん。
今は下痢じゃないから、チャンス。飯食えば、腸が動くなり法隆寺って言うやろ」

「柿じゃなかったか?腸じゃなくて鐘じゃろ?んで、鳴る」
「医学界は、飯なんよ。3万年前から」
「んじゃ、そう言うことにしとこ」

「結果、骨粗鬆症と慢性腸炎じゃね。寝てバッカ居ないで、起きる。
んで、飯を食う。ちょっとずつ治る。ワシ、ウソつかない正直医者歴3日。
んじゃ、お風呂行っておいでよ。気持ちエエで、その前に飯。ワシの介助で」

「センセにそう言う事されると、ウグウグ・・・モシャ」
「美味しいやろ、駆けつけ3口って言うでしょ」
「いくら、センセに食わしてもろうてももう充分。風呂、もろうて来こ」

すまし顔のナースQが背中を突く、昼下がりのステーション。
「センセはあたしらにウソつくの上手なのに、なんで患者さんにはヘタかなー。
受け狙い、しすぎでしょッ」
「薄々感じている様な、センセの説明。告知に似たようなモン」ナースB参戦。

超高齢病状説明は類似告知の、午後。

第1082話 記憶交差診断(どっちがニンチ)

「あらまあ、お久しぶりですわねー。お元気でいらっしゃいました?」
「ヘッ、そうでしたっけ。そ、そうですよねー。お久しぶりでした」
この度の入院で、顔を拝見したのは初めてだと思うんだけどなー

「10年前の2月18日に、ここでお世話になって」
確かにそうかも知れん、日にちまで正確だモンなー。ゼンゼン覚えてない
「ほらほら、開業医のQセンセがあたしを診てセンセに紹介して」

「Qセンセって、何処のセンセじゃったっけ?」
「あらヤダ、お忘れでした。惚けるようなお歳なのに」
思い出せんなー、あとで長谷川式してみた方がエエかも

「で、ここへ来て」
「10年前なら、計算は合ってるなー。そ、そうですよねー。やっぱ」
「あたしも歳だし、糖尿も血圧も酷くて。Rセンセは手術したら危ないって」

「ワシの知ってるRせんせなら、そう言うかも知れんね。何の手術か知らんけど」
「んで、Bセンセが仰ったでしょ。どうせ危ないなら、一か八かで手術って」
「そこまで言っちゃったワケですね、手術で勝負とは。Bセンセって、誰?」

「んで、回復室に3日もお世話になったでしょ」
「うちには回復室は・・・」
「でも、手術は成功したって」

「ワシは、内科じゃけど」
「あらま、そんなご冗談」
「んじゃ、ちょっとゲームしようかネ」

「あらま、負けたらどうしましょ」で別室へ消えて20分後。
「センセ、17点です」
「ビミョーじゃね、ギリや。ワシも満点取れるかどうか、自信がないモンなー」

「エエとこ、23点(語尾上げで)」突っ込むナースZ。
「一応ワシがフツーで、患者さんは軽いニンチと言うことで決着やね」
余りにも鮮やかな記憶じゃが」

記憶診断の交差にどっちがニンチ?の、朝。

第1081話 怒毒爺全身(まわってる)

「失礼しまーす。きゃ、キャーストーカー」ナースC。
「な、何じゃ何じゃ。いきなり図書室に侵入してきて、濡れ衣ー」
「んだって、柱の陰からあたしを見つめて」

「アホ言え、んな悪趣味。これ筋トレ。片足ハーフスクワット」
「んでも・・・」
「手放しじゃすっ転ぶから、柱を持ってんじゃん」

「んで、何処の筋肉を鍛えてんですか。何処の」
「ま。大体だけに、大腿四頭筋」
「昼休みずーっと筋トレ?」

「んにゃ。へ、へっくしょいっと」
「あー、センセも通年花粉症?人間並みに出ますか」
「んにゃ、これはナース拒否症。へ、へ・・・ヘック。んで、YOUは何しに」

「何しにって、ここは図書室。決まってるでしょ、することは」
「図書館と言えば、あんたは四股を踏む。どすこい」
「ウッセ、ふんっ。最近、センセは鼻垂らしてませんね。マスクが濡れてない」

「3年前から、鼻が乾いてスースー」
「あら、”怒らない技術”って本を読んでるんですか」テーブルの上を覗き込む。
「読んで悪いかッ!」

「ゼンゼン、読書効果がないっすね」
「大きなお世話、小さな苛つき。フンッ」
「やっぱ。技術的に、センセは無理かも。その本、読んでも」

「何か、3ページ読んだだけで心が洗われるような。落ち着くような」
「真逆状態ですね。その本のおかげで、他人の言葉の悪意に過敏」
「その分、爺になって鼻の粘膜が鈍感になって、花粉症がどっかへぶっ飛んだ」
「ついでにセンセも違う世界へぶっ飛ぶか、超鈍感になるかすれば良いのに。残念ッ!」

「読書を邪魔されてもうこんな時間、どうしてくれる。フンッ。
怒ると体に毒が出るらしい、体に毒が出たらどうしてくれるッ!」
「元々の毒に毒が合わさっても、誤差範囲ッ」

既に怒りで爺体全身に毒が回っている、午後。

第1080話 擬態語診療

<あららー、そんな境地に!自分のことを、カリスマって呼んじゃってエエんか
しかしなー、呼吸音が足で感じるなんて凄すぎ?あ、ケータイバイブじゃん>
「誰や、人が機嫌良く聴診してんのに。ええい、プチッと」

「外来中に電源入れるからですよ、端から切っときゃエエのに」ナースF。
「ハイハイ、ブチッと」
「いちいち擬態語を入れなきゃ、動けないんですか」

「バシッで、宜しかったでしょうか」
「その心は、あたしをぶっ飛ばしてしまった訳ですね」
「ペコリ、ポリポリ。はーあッと」

「意味分かりませんけど。余計なことしなくて結構、処方箋書いてくださいませネ」
「ヘロヘロ」
「ハイハイ、疲れたワケですね。あと1人で外来終了ですから、ギュギュッ」

「それって、ワシのエネルギー源を絞ったワケね」
「フンッ、Pさーん。どうぞオ」苛つくFさん。
「どうね、元気じゃった?」

「元気なら、こんな所へ来ん」右胸心のQさん。
「確かに。んで、胸の音はフツーじゃ。心臓が右側、弁膜症の音がザービュー。
 いつもと変わりなし、脈の飛びも変わらんね。んじゃ、お薬」

外来から撤収しようとした時、「センセ、病棟からお電話ア」。
「居らんって、言うてエエよ」
「こらあ聞こえてる!って、言ってます」

「耳だけはエエんじゃから」
「んで伝言入れたのにその後から、ケータイが繋がらないって」
「伝言っちゃ見方が分からん、消し方は知ってるけど」

「んもー、信じられないワ。どれどれ、あららー、着信歴もゼンブ消えてる」
「ワシは、怪しい電話には出たくない人だかんね」
「どういう人かなんて知りたくありませんけど、この番号は怪しくないでしょ」

「他人のケータイに伝言を入れるなんて、不埒な悪行三昧。どーせ、出会わない系」
「それも、意味分かりませんけど。ガツッ」
「タッタッタッタ・・・コンコン、コンコン」
「ちょ、ちょっと。それは?3つだわ」

今時の若いナースに丑の刻参りをどう説明して良いか悩む、昼前。

第1679話 老化現象る(とぼける)

「キャー、ヤダ。どうしても名前が思い出せん、んーと、んーと」
「若年性認知みたいな?」
「それを言ったら、若年者に失礼やで。中年性やろ」

「それを言ったら、あたしに失礼じゃないんですかッ」
「ワシは、ウソと坊主のちょんまげはゆうたことが無いッ」
「んじゃ、ツカミはOKと。Gさあーん、どうぞオ」

「おっはよ、元気じゃった?」
「ガタガタじゃ、家もあたしも」
「んでも、元気そうやで」

「血圧を測っておくれ」
「エエよ。んじゃ、ここへ手を出して貰ってと。んーと、153と91じゃ」」
「やっぱ、高いのー。ウチで測ると、40と12なんじゃ」
「電池が入っとるか?」

「変えたバッかじゃ」
「Gさんの腕を締めんと、猫の首締めてとらんか?」
「そこまで言うか。昔の血圧計じゃから、使えんのやろか?」

「昔の血圧計じゃから、昔の数字が出るとか?」
「んなアホなこと。血圧計も歳を取れば、老化現象もあるんじゃないんか?」
「Gさんは、年取って皺が増えたけど。血圧計は増えたか?皺が」

「あんなモンに皺が増えたら、気色が悪い。血圧を測るのに向かんとか?」
「血圧計に、向き不向きは無いやろ。うがいした水でコーモン洗えるけど。
逆にイ、コーモン洗った水はうがいには向かんみたいなモンじゃ」

「センセは、難しいこと言うのー。帰って爺さんに聞いてみよ」
「Gさんとこのご主人は、3年前に・・・」
「その爺さんの仏壇に手を合わせて、聞くんじゃ。線香を3本奮発して」

「止めた方がエエ、あの人歳を取る度にダジャレが酷くなって。血圧が上がるかも」
「そう言えば、そうじゃ。あたしに向かって、お前は誰や?とか。
朝ご飯食べたばっかなのに、飯はまだか?とか。だんだん酷くなったのは老化か?」

「Gさん。100から7引いたら?」
「93じゃろ。んで、7引いたらって聞くんじゃろ?答は92に決まっとる。
んで、色んなモン出してその後隠して。ナニがあったか?なんて聞きたいか?」

「あれは有名になりすぎて、ナンボでも練習できる」
「センセが作ったんがあるって、聞いた」
「これ?ぬらりひょんのエプロンと。砂かけババの入れ歯と、オニヤンマのサングラス。
今朝のおかずは?って聞いた後に、さっきの3つ言うてみ!って。簡単やろ?」

「ゼンゼン分からん、1個も思い出せん。今朝、鬼嫁に言われたことなら全部」
「そんなんは、忘れてエエんよ。んでさっきの3つは?あららー、出てこんか。
嫌な事は忘れてエエんよ。お祓い受けた方がエエかも、ふけ(老化)予防の」

嫌な事には惚けられる老化の、午後。

第1078話 消毒解毒(ふーふー)

「んじゃ、Sさん。行くよ、凄く痛いから。泣いてもエエよ。プスッやでー。
ここからが痛さが330倍になるから、我慢せんとイケン」
「330倍っちゃ、酷くないかの?」

「んじゃ、消毒して。フーフー」ここで皮膚をきつめに摘まむ。
「3つ数えてみんね」この時点で、針を刺してサクッと注入。
「イーチ、ニ−イ。こんなモンでエエか?」
「ハイ終わりッ」

「まだ3が残っとるけど」
「あんまりゆっくりじゃから、ブチュッと行っちゃった。んじゃ、もう1本行く?」
「来年の分か?」

「んにゃ、5年先の分」
「墓はインフルにならん。そう言うことで。ワシ、帰るわ」
「それがエエわ、んじゃお大事にイ」
「今朝の外来は、これで終了でーす。ナースB腕まくり。
「早速ですが、あたしのインフル。センセのフーフー無しで、オネガイします」

「ワシって、注射にはフーフー好きな人」
「ダメです、看護学校で教わったんですよ。アルコール消毒は、フーフーしないって」
「ワシは、大学院の時に師匠が泥酔状態で教わった」

「教わった状況が、イケナイんじゃ?ナンで、フーフー?」
「正確なところは分かってないけど、水を含んだアルコールは細菌の細胞に染み込んで。
蛋白変性で殺菌するとか?」

「んじゃ、フーフーは関係無いでしょッ」
「ワシの師匠曰く。メチャメチャ酒を飲んだら、苦しくてフーフー言うわな?」
「そら身の程知らずに、目一杯飲めばフーフー言うでしょね」

「その時のフーフーで、アルコール消毒力が増すって。師匠が、グデングデンで言うた」
「そんなん、信用できるんですかア」
「ワシの師匠は、素面の時より酔ってる時の方が正しいことを言うんや」

「酔ってフーフーしたら、カキピーとかスルメの切れ端とかが飛ぶでしょ?唾も」
「確かに。あ、それで!ワシが転んで膝をすりむいた時に、ばあちゃんがやってくれた。
唾つけて、もう大丈夫。ばい菌は居らんようになった、言うて。唾の殺菌作用か?」

「ゼッタイMIHIセンセにフーフーして貰ったらイカンわ。唾のばい菌で死ぬかも?」
「んじゃ、唾を出したワシはどうしてくれるんよ。死ぬかも知れん」
「センセの、唾のばい菌の耐性菌みたいな細胞で出来てるから。全身が」

「よー分かりました。んじゃ、フーフーしません。マスクします。その前に、と。
んかーッ、ペッ。で、スリスリと。ハイ、手の消毒は完璧じゃね」
「せ、センセ。今ナニしました?」

「手の消毒」
「あれがですか?んかーペッが、消毒?猛毒を手に、擦り付けたみたいな」
「毒が、毒を制すみたいな」

消毒と解毒が混乱している、午後。

第1077話 新呼方半下履(にゅーはーふ)

「まあ、自分的にはぴったしの季節やモンなー」
「センセは季節の先取り、2階級特進。ボクの冬は、センセの夏」介護士N君。
「このチラシの写真、昔はバミューダショーツって言うとったんやけど。
丈が短くて半分、最近はハーフなんて言うらしいな」

「新しい半パン、つーことはニューハーフですね」
「なんか紫レースフリフリのパンツみたいで、ケツが痒くならん?」
「前に、ゾウさんの刺繍とかが入ってて。後ろがキリンさんで」

「内股で歩かんとイケンのやろか?
キャハ、可愛いー。あ、これってセクハラじゃないよね?」
「小指もオネガイしますね、ちゃんと立てて」撤収してステーション。
「どうもー、諸君仕事してるウ?」

「あセンセ。何時から売れない漫才師。小指か親指か蹄か、ワケ分かんないモン立てて」
「明らかに短くて細いから、小指に決まっとるやろ。これが象の小指に見えるか?」
「細いと言えば。センセ、あたし痩せたと思いません?」

「確かにほっぺがいつにも増して、プックリのむっちりピチピチ」
「それって痩せたことになるんです?凹んだのとは違うでしょ?」
「そら凹んだところもあるで。ほっぺが出た分、鼻がグイグイ凹んで」

「ナンか違うような、気分悪いような、蹴りを入れたいような」
「んで、やっぱ大福ダイエットとか。はたまた、ケーキダイエットとか?」
「それで痩せるんだったら、あたし今頃は激やせ」

「ちょっと想像したら、トドの土左衛門」
「センセ。トドって泳げないんですか?変わってますねー」
「そら居るやろ、変わりモンが中には1匹ぐらい」
「短パン履いて、めがねかけて。メタボ暑がり、天パー」

短パンの新し言い方をニューハーフと呼ぶ?ニュー爺下履きと呼ぶ?、午後。<>

第1075話 声次第縮小の(しょうしんもの)

「カッカッ。もう一度言うてみん?もう一度」
「センセの字が、やっと読めるようになりました。これで満足ですか」ナースB。
「353日、目から赤い涙を流して修行した成果かも知れん」

「センセって、痔ですか?」
「赤いんが出たのは、コーモンじゃない。2カ所ある我が家のシャワートイレは、絶大。
ワシのコーモンぴっかぴか、見せんけど」

「見たくもないし。そう言う情報は、ゼンゼン要りませんけど」
「痔と言えば・・・。あ!文字のこと。痔に関する話題を広げるか?」
「ナニが悲しくて、センセと痔の話をしなくちゃ行けないんです。あそこの文字」

「もしかして廊下に貼ってるお習字、噂じゃSさんが書いた」
「ハア、あれですか。ちょっと失敗」声は相変わらず小さいSさん。
「イヤイヤ、ゲージツ的な。素晴らしい出来やね」

「あ、有り難うございます」声は相変わらず小さい。
「素晴らしいんじゃから、もっと堂々としてエエんよ」
「イエ別に」

「んで、何段なん?」
「あ、準師範ですけど」
「今日からSさんのこと、師匠って呼ばせて貰ってエエ?」だんだん声が小さくなる私。

「Sさん、ダメよ。センセに師匠って呼ばれたら、ミョーなモンと誤解されるわよ」
「そのミョーっちゃ、あれか?それともあっちか?」いきなり声が高くなる私。
「そんなにミョーなモン、やってるんですか?医者以外に」
「ウウ・・・時間じゃ。ワレ泣き濡れて、訪問診療車と戯るやね」トーンダウン。

で1軒目は、半年前に全周性の食道腫瘍が見つかったQさん。
年齢と慢性呼吸不全で手術不能に近いし、ひとり息子も「このままで」となった。

「センセ、最近なんだか胸がつかえて。イカン」
「食道と胃の境目が、歳取ると縮んで狭くなる。骨も縮むやろ?」
「やっぱ、歳を取るとみんなそうなるんじゃね」

「皺と同じやな、色んなところが縮むんよ」ちょいトーンダウン。
「そうやろ、歳のせいか。癌じゃなかろう?」
「そんなエエもんとはちゃう」更にトーンダウン。

「それならエエか」
「喘息も出んし、息も楽やろ」
「エエとしよ。んで、癌じゃナインじゃな」

「そらそ。んじゃ、また来るわ」きっぱり言い切って。
「センセにあと10年は長生きしてもろうて、あたしを送って貰わなきゃナラン」
「了解、んじゃ」

次第に声が小さくなる小心者の、午後。

第1674話 老化予防酵素(めしはまだか)

「今夜は食べ放題なんですよねー」
「明日はメタボなり放題だよねー」
「ウッセ。ヤなこと言うじゃないですか、極楽の明日を前にして」

「食えばエエってモンじゃナインよ、食えば」
「おかげでプリンプリンのもち肌、ツルッツルですからア」
「それを言うなら、ブリンブリンの脂肌。ベッタベタやろ」

「んでも年の割には、皮膚が張ってると思いません?」
「そらあんた、柿羊羹じゃったっけ。爪楊枝で刺すと、クルンとゴム皮が剥けて。
羊羹が出てきてこんにちわ!みたいな。人呼んで、背脂羊羹なんちゃって」

「んでも皺が・・・」
「Mikael Molinセンセは言うんよね。糖分とタンパク質を、徐々に減らすとエエんて。
猿の寿命を数年延ばしたって。これは、魚・ハエ・酵母菌でも効果は同じらしい」

「なぜ故に、長生き?んでもハエが3万年も生きたら、地球中ハエだらけみたいな」
「ちょっと、強引。それが凄いんよ、歳を取ると酵素の元気がなくなるんで。
カロリー制限で、その酵素がしっかり仕事をするようになるらしい」

「その”しっかり”って、ニュースで良く聞くけど。政治家のしっかりっちゃ、ねー。
いい加減とか、取りあえずみたいな感じイ。そう言う意味で、信用ナラン」
「んじゃ、ちゃんとも?一定のメドがつくまで長生きできるとかも?あ、ダメ!」

「食べたいモンを我慢して、ちょっと長生きしてもねー」
「そうやって脂身バッか育てて、脂が脳に回って脳みその皺も伸びきったりして」
「ご飯を食べたかどうかもワカランよーになるのを防ぐ酵素が、欲しいわア」

食後に「飯はまだかいね?」って言いそうな、ナースPの午後。

参考;MedicalTribune 2012年1月5日号、29ページ

第1673話 学生さんに混じる野良犬

「こんにちわア−」
「ハイ、こんにち・・・あらら。何処のオヤジかと思ったら、センセじゃった」
「もしかして、大菩薩に見えたとか?」

「体型的には、大仏」
「婦長さん。ま、続けて。学生さんに混じって、黙って聞くから」
「あれ、センセなん」ポソポソ学生さん。

「何処まで行ったか、分からんようになってしもうて・・・」
「とうとう、来るモノが来た(語尾上げで)」ポソリの私。
「あ、看護診断じゃったわね。フィー、危なかった。PDCAサイクルって知ってます?」
「あ、自転車じゃないんよ」付け加える私。

「昔はPOSとか使っていたけど、色々問題があって」
「チェックできる人が居なかったから、タダの自己満足になったワケね」の私。
「センセッ、ここで何してるんです?」

「あ、私服で徘徊」
「徘徊って、ナニ?ホントは患者さん?白衣が似合わないかも」ポソリの学生さん。
「しかし、学生さんはエエねー。初々しくて、背がすらっとして」

「ハイハイ、どうせあたしはチビで猫背。んで、中古品って言いたいんでしょ?」
「学生さんの前で、そこまで言えません。ハイハイ、実習の続き?」
「んで、看護診断はPDCAって」

「そこは済みました、POSも。その後が聞きたいワケよね、学生さんもワシも」
「話が進まないのは誰のセイか、分かってないわね」ボソッの学生さん。
「んもー、そこの野良は邪魔ッ!シッシッ」

野良犬扱いされた、午後。

第1072話 午後挨拶い(ごちゅうい)

それほど多くはないけど、色んな声が聞こえる外来とリハ室間の廊下。
午前の外来とラウンド1は、定番のブレザー型白衣にチノパンとスニーカー。
午後になれば速攻で落ち着きを取り戻し、施設とリハ室間の廊下がちょっと賑わう。

白衣を脱ぎ捨て、昼食後を筋トレに読書すれば煉瓦色のカーディガン。
ネックストラップにくっつけた携帯と聴診器が、歩く度にもつれ合い。
ラウンド2で100mも歩けば、ネジリンボウかりんとうに様になって。
終いにケータイと聴診器の膜面が、時折カチャリと音を立てる。

「こんにちわア」
「へ?・・・あ、センセ。誰かと思ったデ、ナニしよるん」
「午後のワシは、回診。人呼んで、ラウンド2って言う」

「やっぱ、みんなが呼ぶか」
「ラウンド1.57でもエエんよ」
「ビミョーじゃの」

「そのビミョーさが、何ともエエやろ?」
「ワシのシッコの感じと、ほぼ同じやな」
「そんなにビミョーなん」

「そらもう。出るような、出んような。出てないような、出てしまったような」
「そら、ホント。ビミョーじゃね」
酸っぱい臭いが漂いそうで。要らんご挨拶、しなけりゃエかったかも>
「んじゃ、運動に行ってくるな」

言い終わる頃に、次のステーションに到着。
ガラス窓を通しておかっぱ頭、サイズが婦長さんみたいな。
学生さんを前に、プチ講義の真っ最中。

「おろ?何処の女子高生かと思ったら、婦長さんじゃん」
「あら、ヤダ。あたしですかア。グフッ、女子高生だなんて」
「制服が似合うかも」
「あらら、かもじゃなくて。ホント、似合うんですよ。あ、た、し」
背筋に氷の欠片を30個入れられたように、背筋がピンッとなり冷汗タラリ。

いい加減な午後の挨拶にご注意の、午後。

第1671話 無痛注射ら(はなのあぶら)

<な、ナンでや。インフルは、ヒマな2診でエエんちゃう?
それにナンでこんなに一杯、インフル祭りかッ!太鼓たたいて、エイヤサーっと。
あんたら、インフルより強い菌でも大丈夫ッ。この際、泥水0.5ml脳注だぞッと>

「一応、過去の情報で。センセのは痛くないって、もっぱら評判良いって」
「な、なんて?聞こえなかったから、ハイもう一度ッ」
「何度でも言いますわよ、悪評」

「言うな!んで、2診に回せ」
「2診も多いんです、インフル。ハイ、残りの職員はこっちへ入ってエ」
「センセ、ホントに痛くないんですね。ホントに」

「残念なお知らせがあります。痛くないのはさっきまで、ここから痛くなります」
「ヘッ、ヤダ、ナンで」
「痛くなくなる鼻の脂が、とうとう切れてしもうて」

「鼻の脂を何処へ?」
「決まってるやないか、針を刺すところにズリズリ」
「キャー、出直します。見逃して下さい、許して下さい、命だけは・・・」

「コラコラ、ここはドサ廻りの劇団?」
「あ、事務長さんもインフル?」
「そうですけど、急ぐんで先に打ってもらってエエですか?」

「あ、どうぞどうぞ。あたしは、打たずに撤収します」
「逃げたら、ピンク針だかんね。と言うことで、ハイ事務長さん」
「あ、ワシは自分の鼻の脂がありますけ。センセのは、要りません」

「そんなことしたら、全身にばい菌が回って大変なことに」
「自分のばい菌が自分の全身に回っても、大変なことになるんですか。何で?」
「ごじゃごじゃ言わずに、腕出して。ハイッ、終わりッ」

「あ、ゼンゼン痛くなかった」
「ジジイになると、ナンもカンも鈍くなるんよ」
「ワシとセンセは同じ歳じゃったよな、同じジジイじゃったよな」

「ワシはインフル痛くなかったのは、ナースTに打って貰ったから」
「来年はワシもそうしよ、Tさんよろしくな」
「イヤです、センセに脅迫されてイヤイヤ打ったんですから」

「大丈夫、今年のことを1年も覚えちゃ居らん。3日で忘れる」
「そう言うセンセは、2日で忘れる」

無痛注射は鼻の脂!の、午後。

第1070話 注射代筆る(のりうつる)

「Zさん、Zさん。リハビリから帰ったばっかで、御免なさいけど。サイン」
「ヘッ、ワシのサインなんか屁の役にも立たんで」
「今日は違うんよ、インフル」

「あ、ワシ痛いのイヤや」
「んでも、奥さんが嫌がっても柱に縛り付けてでも打ってって。昨日」
「嫌なヤツじゃ、ワシの注射嫌いを知っとるくせに」

「取りあえず、サインだけでも」婦長。
「あんたは、詐欺布団屋みたいなことを言うやないか。取りあえずサインなんて。
どっかで、怪しいアルバイトしとったか?」

「ヤクの密売じゃったよな。所謂、バイニン。バイキンでもエエけど」私。
「コラコラ、それ言うのが主治医とはトホホね。はい、サイン」婦長。
「ワシ手が震えるから、あんたが書いておくれ」Zさん。

「あ、ダメなんよ。代筆は。んじゃ、Zさんの手を持ってあげるから」
「持って貰っても、震えるモンは震える」
「んじゃ、紙切り芸人みたいに婦長さんが紙の方を動かすとか?」

「あたしは、それほど器用じゃありませんッ!んなら、そう言うセンセが」
「んじゃ、Zさんがワシに乗り移って書いたらエエんじゃろ?」
「乗り移るって?」

「イタコがマリリンモンローになって、ズーズー弁で言うヤツがあるやん。
んだっちゃ。もうちっと、スカートの裾をヒラヒラさせて欲しかったベ。みたいな」
「インフルサインが、ナンでモンローのスカートひらひら」

「んじゃ、そういう事で。インフル、打ってエエよー」
「ダメダメ、サイン。あらら書いてある、いつの間に?誰が?」
「さっきイタコが」

注射代筆でイタコが私に乗り移った、午後。

第1069話 病棟啼猫(たのしみ)

「ウンニャー」
「おろ?何処に鳴く猫、ワシ犬派」
「棚の上に薄茶色い物体が、寝てるでしょ」

「あ、ホンマ。んでも、鳴く以外は大人しいやん」
「そらセンセ、シッコもウンチもせんし。鳴くだけ」
「んじゃ、何も食べんの?あんたちょっと見習ったら?」

「その代わり、後はナンもしませんよ」
「その方がエエ。字がスンゲー汚いとか、脂性に汗はキモクサだとか。
そうやって、ワシを虐めるよりなーんもせん方がどれだけ・・・ウウウ」

「ハイハイ。そうやっていじけたフリしても、目が笑ってる。メタボ腹が、揺れてる」
「ハイハイ。そうやってワシのアラを探す奴は、心も人生も歪む。南無八幡大菩薩ウ」
「ナンですか、それ?」

「我が家に代々伝わる、イジメ返し」
「それをやると、返されたあたしはどうなる?」
「あらおぞましや、4段腹が7段腹に。んで、猫」

「あれって模擬ペットなんですよ、Pさんの置き土産」
「ウンニャー」
「こんな鳴き声を、真夜中に聞いたら体感温度マイナス10度でしょー」

「コケッコッコーとか、恨めしやーとか、アホ・マヌケ・すっとこどっこいッ!じゃ。
まだ早いッ!みたいな、気味悪いみたいな、腹立つッ!みたいな」
「それよりなにより、五月蠅いでしょ。皆さん、起きちゃうでしょ」

「んで、ナンに反応して鳴くんね?」
「フツーは、人が通ったり声が聞こえるとウンニャーって」
「んじゃ、今は?誰も通らんし、誰もナンも言わんし」

「オカシイですねー」
「あ、あの人に反応したんじゃ」
「ヘッ、あの人って。何処に?」

「ホレ、足の見えない落ち武者が3人通ったやろ。返り血浴びた」
「キャー、あたし今夜は深夜勤務なんですよー。ヤダヤダ」
「丑三つ時に、ウンニャーって3回鳴いたら。落ち武者3人のお出ましやで。キャー」

病棟啼猫が楽しみな、午後。

第1068話 電磁波壊(ほるもん)

「センセ、ヘンなこと言いますけど」
「そらヘンじゃ」
「まだ、ナニも言ってませんッ」

「んで、ナニよ。絶望的や、あんたの変じゃないところ探すんは」
「電磁波」
「とうとう来たか。天井の隅から飛んでくるんやろ、電磁波が」

「それ、ちょっと危なくない(語尾上げで)」
「んだから、ヘンじゃないところは・・・無いやろ?婦長さんは」
「ンマッ、失礼な。ジョーシキが、白衣着て歩いているようなあたしなのに」

「電磁波が、ワシがジョーシキの塊センセって言うんやろ。そんなん、お見通しだぜ」
「それは、モーソー。ドイツ製の機械で測ったら、あたし凄いんです」
「75Kgの体重が、3.8gって表示されるとか?」

「ホルモンバランスが、ネットアンケートじゃ100%グーだったのが。
ホルモンお気軽測定アプリ。スマホを、ポケットに入れると変わる」
「ハツとかミノとかになったら、鍋で宴会じゃー」
「ウウッ」

「んで、電磁波?」
「あ、そうそう。バランスが崩れるんですよ」
「スマホの」

「んじゃのーて、あたしのバランスッ!傷つくわー、とっても」
「傷って。DNAじゃったら、3本足のゲジゲジになったりして。
遺伝子じゃったら声変わりして、髭ボーボーで遠吠えとか?」

「ウー・・・ガルッ!で、噛みついたりして」
「電磁波で、オオカミおばばじゃったら。ホルモン関係無く、タダの変身じゃん」
「ウー・・・ガルッ!」

電磁波が壊すホルモン、午後。

第1067話 模様替れ(こえがれ)

「な、ナニい。先月の早朝4時に転んで、頭を打撲。んで今朝、体が左に傾くウ。
今朝まではすんごくフツーじゃったんやな、あんたの情報じゃ。
オカシイやん、フツーじゃないやん、あんたと同じやん」

「ちょ。ちょっとお待ちいただいて」
「ま、待てん。宜しくない。プチ速攻、頭のCTやろ」
「その心は?」

「1に外傷性硬膜下血腫、2に脳梗塞を発症して転んで頭を打った。
3は早朝に、スッピンのあんたを直視してPTSD」
「ナンで3で体が傾くんです、オカシイでしょ」

「3は、忘れてくれ。心のわだかまりが、思わず出てしまった」
「忘れられませんッ!」
「んで、ご家族をお呼びして。ICして。必要なら脳外受診ッ!」
10分後、「ハイ、紹介状」。

2時間後ご家族と帰院した時、まだ体が左に20度ほど傾いていた。
「んで、CTは古い梗塞巣だけと。血腫は無しと。エかったやん。
んじゃお女中、拙者先を急ぐ旅ゆえゴメン。達者で暮らせ」

「どーせ医局でまったり、サスペンスでしょ?」
「ちゃうちゃう、模様替え。これすると、声が枯れるんよ」
「ナンで声がれ」
「BGMと大合唱。ま、それも忘れてくれ」

それから1時間後。
「センセ、さっきのWさん。まだなんか、ちょっとだけ変ですけど」
「経過観察でエエって、返事じゃったけど。注意してね」

「センセ、センセ。すんごい歌声が聞こえません?そこって、何処?」
「ここって、医局」
「センセの声と、耳をつんざく巨大音量」

「やっぱ、60年代の歌はエエなー。胸がキュッとなって、声を張り上げたくなる」
「そう言えば、声変わりしてますね」
「1時間は、歌いっぱなし。模様替えの合間に紅茶啜って、喉潤して」

声を枯らして模様替えの、午後。

第1066話 過世話(こまる)

「Pさんの吸入酸素、調整ですかね?」
「そら、エエことや。あんたんとこのアホ犬じゃあるまいし、垂れ流しはイカン」
「でも、でも。隣の方に声を掛けるんです」

「そら、エエことや。みんな仲良う、お互いに馴染んで。今日も楽しい、療養生活」
「でも、でも。吸入酸素のチューブをいじって、掛け直すんですよ」
「そら、エエことや。顎に酸素吸わせて、どうするどうする。ましてや、耳に」

「イエ、ちゃんと鼻の穴に」
「そら、真っ当や」
「向きが問題で、引っ張り上げるから。真正面から見える、鼻の奥」

「それは如何なモンかと。時々ずれて、それって眼帯?みたいなことあるやん。
スースーして、目が乾くやろ。目薬欲しいやろ」
「でも、でも。夜中に、気がついたらオムツ換えちゃってるんです」

「そら、エエことや。そーっと、目を覚まさんような気配りは?あ、無音みたいな!
凄いやん、立派やん、介護の鏡やん、患者さん気持ちよく熟睡やん」
「そらもうシーツ汚して、油断できませんから」

「そうそう。油断大敵、あんたの屁はブイブイ」
「私は音無ですッ」
「それって、いっちゃん臭いヤツう。んで、それを1人で?」

「そんな事、3人も5人もやられたら・・・」
「それが、チームケアの神髄やんか。ダブルチェックでミス無し、能なし、取り柄無し」
「意味ワカランけど、センセが何か言う度に気分悪いわー」

「もう一度、確認?」
「あ、またッ!Pさん、お隣のGさんのオムツ持って歩いてるウ」
「もしかして、世話してんのはPさん?」

「ハイ、むかし研修会講師の」
「長谷川式4点の?」
「ハイ、元校長先生の。あの方が動く度に、増える二仕事、三仕事、四仕事」

過ぎる世話は困る、午後。

第1065話 血圧下理由(いえねーよ)

「センセ、あたしの血圧エエじゃろ?」外来椅子に座るPさん。
「んにゃ、オカシイ」
「オカシイぐらいに、下がっとるか?」

「その逆」
「やっぱなー。出がけに嫁と喧嘩したんが、イカンじゃったか」
「お平らに行かねば、エエ歳なんじゃから」

「んじゃ、センセは喧嘩せんか?」
「ワシって、争い事が嫌いな人なんよ。別名、神の仏って」
「何処の仏、喉の?」突っ込むナースK。

「いちいち、突っ込まんでエエ」
「んで、あたしの血圧は?」
「いつも138なのに、今日は153なんよ。朝、薬飲んだ?」

「やっぱダメか、飲まんと」
「そらそうよ。月がとっても明るいのは、裏から照らすお日様のおかげ。
Pさんの血圧下がるのは薬のおかげ。それを選んだワシのおかげ」

「んじゃ、血圧が下がるワケないわな。帰って飲も」
「ハイ、お大事に。お次、Gさあーん。どうぞオ」
「Gさん、Gさん。上げなきゃ」

「イヤ、血圧はもう上がってるじゃろ」
「そっちじゃなくて、チャック」
「あ、これか。気にせんでエエ、68から下がり放しじゃ」

「そっちネタは置いといて。息子と喧嘩したか?」
「んにゃ。久しぶりにこのべっぴんさんを見たから、コーフンしてな」

「キャハ、やだGさん。そんな、ホントのこと言っちゃって。
あたし、良く言われるんですウ。血圧上げ女って。
んだから、あたしを見ただけで30は上がるかも」

「そうじゃろ、そうじゃろ。んじゃ、測って貰おうか」
「んじゃ、腕を出して」
「んーと・・・おろ?いつもより」

「上がったじゃろ」フンフンのGさん。
「そらそ、25は上がったはず」フンフンのナース。
「確かに、いつもとは違うな」フンッの私。

血圧低下理由は言えねー!の、午後。

第1064話 感知装置(ぴいぴー)

「Pさん、ベッド柵を上手にすり抜けてヨロヨロつたい歩きしてたんですよー」
「認知があるから、自分の思う能力と実際の能力にギャップが大きいんで転ぶやろ?」
「そうなんですよ、かと言って拘束したらADL(日常生活動作)は落ちるし」

「悩む所じゃね」
「んで、ベッドの足下にセンサーマットを敷いたワケ。それが凄いのなんのって」
「マットを、頭の上でクルクル。ピザ職人」

「やれるモンなら、どうぞ」
「んじゃ、マットを丸めて望遠鏡。それとも、巻き寿司?」
「食べられるなら、恵方巻きにでもどうぞ」

「今年の恵方は・・・南南北」
「それって、どう言う方向?」
「んで、Pさん」

「あ、そうそう。マットを踏んだ?ベッドから降りた?と思って行くと、ベッドの上」
「んじゃ。誰も踏んでいないから、あんたの空耳アワー」
「おかしいわねーと思ってステーションに帰ったら、またピイピー」

「それって、笛吹童子とちゃうか?ピイピーは」
「違いますッ!んで、お部屋へ行けば」
「Pさんが盆踊りでピーヒャラら、みたいな」

「ゼンゼン違いますッ!寝ていらっしゃるんですけど、向きがさっきと反対。みたいな」
「Pさんって忍者かもな。ホンマに、認知あるん?麻痺あるん?」
「そこなんですよ、そこ」

「あんたが認知があるんちゃう?みたいな」
「さっきから。このお部屋を、出たり入ったりしました?今、センサー踏んでますけど」
「ん、スキップで。あ、まさか。ワシがセンサーマットを踏んだとか?その疑いの狐目」

「あたしが疑うと、眼が細くなるんです」
「あー、ヤダねー。人を呪えば穴2つ、人を疑えば毛ぼくろ大3つ」
「意味分かりませんけど、今回は許しましょう」

「そら、ありがてえ。んじゃ、お女中、さらばじゃ」
「とっとと、ラウンドなさいませ」
「ふあーい」

私のラウンド通過後はセンサーがピイピーの、午後。

第1063話 阿呆言訳(とぼける)

「センセ、この処方」
「ふぁ?またやったか、3万年分」
「2週間分ですか、4週間分ですか?」

「3万・・・じゃなかった?」
「当たり前でしょッ!人間は何年、生きると思ってるんですかッ」
「あんたは、7千年は」

「あたしは、妖怪ですかッ!」
「そんなエエもんと、ちゃうッ!」
「主任さーん、MIHIセンセの・・・こう言う場合は、セクハラ?パワハラ?」

「んにゃ、5段腹」
「4段ですッ!んーもー。ナンの話してたんでしたっけ?」
「3万じゃろ?」

「あ、処方日数が書いてないんじゃ」
「そらアホやん」
「アホじゃないですけど」

「あ、名前のイとラが違ってるわ。アホやん」
「アホじゃないですけど」
「しかも、打った番号がダブっとるやん。アホやん」
「アホじゃないですけど」

「あのさ、いちいちアホじゃないですって言われると。ナンか、悩むんよねー。
ワシってとぼけてるだけの人なんよ、分かるかなー。オネガイしますよ。
 もしかして超アホか、そーとーアホ。ワシの事いちいち確認してない(語尾上げで)」

「んだって、ホントにアホな医者なら。診てもらった患者さんが、可哀想」
「優しいねー。その優しさを5mgでエエから、ワシにも使ってね」
「0.3mgなら、なんとか都合をつけましょう。自称アホのセンセのために」

阿呆な言い訳で惚ける、朝。

第1062話 アイのマスク

「キャッ、机の上にミョーなモンが乗ってると思ったら」
「イケメン爺のさらし首とでも?」
「イエ、ゼンゼン。そんな、蹴り倒したくなるモンじゃなくて」

「女優か踊り子のマネキンとか?」
「むちゃ言わないでください。ほら、有るじゃないですか。
沖縄市場で売ってる、チラガー(豚の顔皮)みたいな」

「こんな可愛いのを売ってるんなら、買って玄関に」
「魔除けに役立つかも?んで、何してるんですウ。まったり」
「待ってんの、褥瘡の処置タイムまで。あー、ヒマ。あー、待ち遠しい。あー・・・」

「お約束は3時半じゃから、あと25分有るでしょ」
「んじゃ、失礼して」
その時ステーションに入ってきた、介護士D。

「キャッ、センセ。何事、ナンしてんですか?」
「アイマスクう」
「フツーのマスクを上へズリ上げて、目をマスクで隠して」

「目すなわちアイマスク」
「居眠りして、寝言で喋ってる?」
「さっきペンで穴開けたから、ワシの方からはあんたのアホ顔が見える」

「マスクに穴を開けたら、意味ないでしょ」
「褥瘡処置の時は、新しいヤツで」
「マスクは、センセのオモチャじゃありませんッ!」

「これは、ワシつまりアイ・マイ・ミーのアイじゃね。そのマスクで。
アイ・マスクとも、人は言う。嗚呼、ワレ泣き濡れてタコと戯むる」
「それを言うなら、マイ・マスクッ」

「細かいところには、気がつくんだ。まともに成仏できんぞ、ナムう。
と言ったところで、褥瘡処置のお時間となりましたア。行くぞオー」
「コラコラ。ミョーなことに付き合わされて、あと10分お待ちイ」

待つ10分間MIHIセンセは再びアイ・マスクの、午後。

第1061話 芥川不知数下ん(かうんとだうん)

「108、88」
「おろ、飛ばした」
「52、44」

「オハヨ、Qさん元気イ。あんた誰みたいな顔して、長谷川式8点じゃったっけ」
「誰かア、65う」
「増えたらイカン。お静かに、お平らに。ラウンドですよ」

ぽっちゃりの両手のひらで、手首の辺りから上下に挟み指先へゆっくり降ろすと。
「ジイサン、腹が減ったがー。99、87、33・・・・・・・ふウ」
ものの1分で落ち着くQさんは眉間の皺も取れ、病室に静寂が戻ってくる。

「Qさんのご主人、昨日の午後来とったね」
「ふうーん、21ウ・・・・・」
「んじゃ、ちょっと診察ね」

定番の皮膚を摘んで水分チェック、心音と呼吸音、足背の浮腫で3分。
「しかしナンでやろ、108から始まってだんだん減るのは?」
「そうなんですよ、いつも108から減って来ますよねー」ナースB。

「ま、ワシみたいに信心深いと。ある程度は、想像付くけどな。あんたには無理」
「ちょ、ちょっと。どう言うこと、どう言うことオ」
「あんた、もっと激やせしたいやろ?給料が上がったらエエと思ってるやろ」

「そらそうですよ、給料上がれば。エステに行って、ダイエット食品買いまくって。
グッチョのバッグに、ゼリーヌのワンピ、ユニグロのババシャツ。買い放題」
「そうやろ、そうやろ。そう言う欲っちゅーか。ま、煩悩じゃね」

「あ、煩悩は108つ!」
「そう、Qさんちはお寺さんなんよ」
「んで、煩悩を1つずつ取り去ってくれてんだ。センセの」

「アホ言え、生き仏みたいなワシは空気と水があったら。なーんも要らん」
「あたしだって、グッチョにゼリーヌに。んーと・・・」
「その時点で、地獄へ真っ逆さま。蜘蛛の糸状態じゃね」
「蜘蛛の糸って?虫が捕まる」

芥川龍之介を知らずカウントダウンするナースの、午後。

第1060話 目多量流涙(めうるうる)

「ジジにアンパンマンのパソコン買って貰うーって、言ってるけど」
「そう言うモンは、ジジにお任せね。5台でも13台でも」
「1台で」

夫婦でぶっ飛び買いに走り、速攻で荷造り。
オモチャ以外の色んなモンを詰め込んで、クリアファイルに挟むお手紙。
定番のサンタ写真を2枚散りばめて、「メリークリスマス!」は去年の冬。

荷物を送り出すのと脳みそに描く孫の笑顔、どっちが先かワカラン状態。
2歳になる前のこと。突然サンタ姿で帰宅し、フリーズ後に玄関で大泣きした。
サンタ写真を見て、ジジと分かってくれるかなー?悩みつつ涙目る。

そんな翌日。
「センセ、Kさんなんですけどオ。リハビリがあるでしょ」リハスタッフ。
「あるなー。死なん程度に、頑張っちゃって貰っちゃってエエよ。
入院したては、なーんもせんじゃった、ちょっとは出来たのに」

「そうですよ、いつもイライラしてたですモンねー」
「そらワシより若いモンなー、2つも。んで、麻痺じゃ悩むよなー。
死にたいって言ってたなー、ワシも悲しかったなー」

「んで、ぜんざいがお好きなんですって」
「ワシも。餅は、こんがり焼いてね。かりんとうの次に、好きッ」
「センセの情報は、どうでもエエんです。Kさん」

「気イ悪いなー、不満だなー、ぜんざい食いたいなー」
「んで、ぜんざいを作ってもエエですか?Kさんと。センセ抜きで」
「Kさんは、糖尿があるんで・・・」

「ローカロリー、人工甘味料でお任せ」
「塩を少々パラパラで、甘みが増すんよ。あ、常識!」
と言うことで、ぜんざいを作る日を迎えた。

「センセ、センセ」聞き慣れたPTの声に、カルテから目を上げれば。
「おう、どうした?あ、Kさん」
「Kさんが、センセにって。一生懸命書いたんですよ、これ」

「ハア?あ、カードじゃん」
「ワシ、書いた」笑顔のKさん。
「んーと。センセ、ありがとう。K・・・凄いじゃん、ちゃんと読めるやん。
3ヶ月前とエライ違いやん、進歩したやん、すっごいやん。ワシ、嬉しいやん」

「んじゃ、ぜんざい作ってらっしゃい」でリハ室へ送り出す。
カードを持つ手に、ホンワカ暖かいモノが伝わってきて涙目る。

還暦を過ぎて涙腺が緩み流涙溢れる、午後。

第1059話 汗る(あせる)

今は2023年7月猛暑、敢えて冬のお話を。
「ふぃー、アジジじゃねー」
「真冬に暑いって言うのは、センセと暑がりの北極熊と南極のミミズくらいでしょッ。
しかも、そこまでデコチンに汗をかくのはセンセと全身汗腺の水ブタのモンでしょ」

「んでも、BD(ボタンダウン)シャツに白衣の上着。ちなみに綿パンはJプレス。
んで。ゴム手にマスクじゃから、熱がこもってもの凄く。恨めしやアー」
「あ、褥瘡処置をされてたんですか。ドアもカーテン締め切って」

「んで、早く治してあげたいから。必死で、熱っぽくな」
「そら、付いたWちゃんも暑かったでしょ」
「あー、そこまで言うと。W君が、超デブみたいに聞こえるやん」

「そんなこと、こんな笑顔で言えますか。こんな美白で」
「そのドドメ色のヘラヘラ笑い。ゼッタイ言うとるやん、チクったろ」
「じょ、冗談にも。言って良いことと、良いこと。じゃなくイケナイことが」

「そのイケナイことを、その口で言っちゃったワケね」
「ゼッタイ言ってませんッ!んもー、ヘンなこと言うからミョーな汗が。
でも、あの褥瘡。ちっと良いような」

「そうやろ、そうやろ。その評価は正しく真っ当。誉めてつかわす。苦しゅうない。
ま、ワシの熱意というか。勢いつーか、一汗かいたみたいな」
「一汗かいてもエエですから、褥瘡の上には落とさないで下さいね。バッチいから」

私の汗を雑巾の絞り汁みたいに思われた、午後。

第1058話 爺々爺る(じじいる)

「あら、センセ。赤地に濃いグリーンのチェック、なんてタイムリー。
真っ赤なとんがり帽が、お似合いだわ。木陰から覗く、サンタクロースみたいな」
「わしゃ、あんたをストーカーするほど趣味悪くないし。早死にも、したくない」

「還暦過ぎて赤が似合うのは、センセとサンタと赤鬼くらいだわ」
「活躍の季節到来じゃね、忙しくなるぞオ。そうなると、病棟のイルミネーション。
コンセントを、ブチブチ刺すぞオ。5本しかないけどネ。んで、レクのサンタ役」

「まだ早いですッ。あと2週間は・・・」
「場末のキャバレーみたいに。色んな人が、真夜中に病棟の廊下をフラフラ歩いて」
「キャー、魑魅魍魎の世界ですねッ。恐いイー、でもちょっと興味津々。キャー」
「何がキャー、あんたのスッピンの方が・・・」

「これ。そこの、おじさん」
「・・・・・」
「コラコラ。そこの、おじさん」

「ヘッ、もしかしてワシのこと?」
「そこのおじさんって、ショックよねー。Pさん、オニーさんって言うたらエエよ。
このセンセ、お銚子乗りじゃから。車いすで、散歩に連れて行ってくれるかも」

「おじさんで、ゼンゼン嬉しいで。不良ジジイが目標」
あんたもオバはんで、超ハッピッピーやろ?」
「んじゃまるで、ジジイのセンセと同じ歳みたいじゃないですかア」

「んじゃまるで、ワシが年下みたいじゃん」
「3廻りも違うでしょッ」
「んじゃ、あんたは382歳か?」
「1廻り何歳ですかッ!」

「あんたがそれほどの歳とは、妖怪ババじゃったか。イヤイヤ、参った」
「怨霊ジジイに参ったのは、あたしの方ですッ」
「ラウンドやけど、Pさんも一緒に回る?あ、ジジイとはイヤ!ワシ、年下なのに?」

爺回診には爺が居る、午後。

第1057話 治癒顔

「Hさん、来たよー。往診やでー」
「あ、センセ。あたしゃ昨日から胸が苦しくて、イカン。酸素吸ってもよーならん」
「そうね。んじゃ、失礼して」

「な、ヒューユー言うとるじゃろ?」
「んにゃ、残念なお知らせや。ピーとも、フイーとも言わん。スースーじゃ」
「ホントかの?今朝起きてからも、ずーっと。あら、ホント」

「エエやん、凄くエエやん。しかも酸素飽和度が93%なら、まあエエんちゃう?
ま、酸素1L吸うてるけどな。先月よりエエで」
「そうなんじゃ、センセの顔を見るとナンか胸がスーッとして」

「そらまあ、キムタク似のワシの顔を見れば。すっきりくっきり、スースーやろ?」
「誰に似とるかは、ジョーダンとして。確かに、センセの顔を見ると・・・」
「んじゃ、そう言うことで。また来月な」

「そうそう、センセが帰った夜は特に胸が来る良いことが多いのはナンでじゃろ?」
「仏の顔も3度までって言うけど、ワシの顔はせいぜい1度で2時間しか持たんか?」
「ま、そう言うことじゃな」

「今度の往診で、猪八戒のお面かぶろうか?西田敏行かカーネルサンダースでもエエけど。
キムタクのお面じゃ、いつもと変わらんから」
「センセは、鏡を見たこと無いんか?」

「白雪姫の魔法使いみたいに、鏡に聞くんよ。世界で一番キムタク似にてるのは?って」
「んだら、なんて答えるんね?」
「ワシの口から言うのも、ナンじゃけど」

「やっぱ、唐揚げの白髪頭の外人じゃろ?」
「んでも、あれで治るか?あの顔で」
「治らんなー、ゼンゼン」

「んじゃ、キムタクなら?」
「治るかも知れんなー」
「ワシの顔は?」

「たいがい治るな−」
「と言うことは、キムタクもワシも治る点で一致。つーと、統計的にどう言うこと?」
「よーワカランけど・・・顔で治るところで、なんとなく近い(語尾上げで)」

統計的に処理すると良いカンジの顔であることが立証された、午後。

<治癒顔>
「センセ、お早う。この間から1週間、便秘で困った」
「んじゃ、ナンかお薬が要る?」
「んにゃ、エエ。要らん。センセの顔を見たら治る」

「んじゃ、ワシは排便促進顔ね?」
「んでも、隣の家のRさんは。センセの顔を見ると、血圧が下がるって」
「お年寄りは、白衣高血圧って言うて、医者の顔を見ると血圧が上がるんよ」

「んじゃ、センセは血圧の薬顔じゃな」
「ワシの顔の垢を、煎じて飲んだらエエかも?」
「コラコラ、ミョーなこと言わずに。ハイッ、診察ッ」たまりかねた外来ナースD。

「あ、ホンマや。血圧エエやん」
「んでも。この間、別のセンセの時は・・・」訪問診療ノートを見せる。
「あ、ホンマや。15多いやん。んじゃ、ワシの顔は血圧下げる顔か」

「どっちか言えば、下げ運顔」ナース。
「じゃ、帰るわ。ありがと」で消える。
「んで、次はSさんね。どうぞオ」廊下側へ声をかける。
「あ、センセ。あたしゃ物忘れが酷くてイカン」外来椅子に座りながら。

「んで、この間の長谷川式(認知度チェック)は・・・21点。エエやん、フツーやん」
「頭がよーなる注射か薬は無いか?」
「んなモンがあったら、先ずワシが使う。無いッ!」

「残念やなー」
「んでも、21点ならギリギリセーフじゃ。20点を切るとちょいヤバイけど」
「あと1点しか余裕がないワケじゃね」

「Sさん。センセの顔を見たら、点数が上がるかも知れん」突っ込む外来ナース。
「んなアホな。毎日鏡見てるワシは、天才か?」
「んにゃ、災いの方の天災」

「んでも。センセの顔を見ると喘息が治ったり、血圧が下がったり。
この間なんか、不整脈が消えたって。たまたま偶然か、顔見て驚いたか。
どっちにしてもエかったらしい」

ある時は喘息を治す顔、してまたある時は血圧を下げる顔。
しこうしてその実態は・・・3万の顔を持つ治癒顔の、午後。

第1056話 視診る(みる)

診察には色々あっても、実際に自分の目で見ないことには始まらない。
「んだから、ちょーっとでエエんよ。ちょーっとで」
「今日は、入浴日で・・・」

「んだから。Rさんが入浴してんのを、覗きたいワケじゃないんよ」
「当たり前でしょッ!んでも、案外・・・」
「アホ言わない、Rさんは男ッ!」

「んじゃ、んじゃ。あたしが患者さんだったら、見たいでしょ?」
「ワシはヘンタイじゃないッ!悪趣味でもないッ!死にたくないッ!」
「意味ワカランッ!」

「あのね、わしゃ覗き魔じゃナインよ。ちょっとだけ見せてもろうたらエエんよ」
「入浴日ですからア」
「褥瘡を水で洗いまくって、ばい菌を洗い流して。その効果を判定したいワケ」

「んだから、入浴日」
「んだから、入浴前」
「あたしが見ておきますから、それでエエでしょ。ご報告します」

「日なたのふぐの目で、視診て(見て)貰ってもなー・・・」
「それも意味ワカランッ!」
「んで、視診(見)たら、触ってみたくなるな。グッと押して排膿状態チェックだな」

「色々してるじゃん、視診じゃないじゃん」
「医者として、科学者として、キムタク似としてな」
「合ってるのは、最初だけでしょッ」

「ワシを、よー視診(見)て欲しい。特にぽってりした6頭身、短いようで長い胴。
金太郎飴みたいに。どこをどう切り取っても、キムタク似(語尾上げで)」
「何処をどう切り取っても、猪八戒(語尾上げで)」
「ウッセ」

ナースに真っ当な視診を教える必要がある、午後。

第1055話 苦手る(いやがる)

<>「あ、今日もチェックシャツじゃ。あたしの死んだ旦那もそうじゃった」
「そうね、趣味が合うんじゃ」
「倒れて3日で死んだけど、あん時一緒に逝けばエかった」

「いくら愛してる旦那でも、心中ッちゅーワケにもイカンやろ」
「なんとのー、雰囲気はセンセに似とるな。長生きしすぎた」
「まあ、そう言わずに長生きしなさいネ。んで、検査異常ないし。退院エエよ、来週」

「もう3週間ダメか?」
「ワシがなーんもしてあげることがないから、退院」
「そうか、んじゃ仕方がない」で退院すると。

3週間後に近所の医者から再び紹介されて入院が、2度3度となり。
いくら何でも何かあるとしか思えないから、民生委員の出番。

聞くところによれば、お上から何某かをいただいた日に寿司。
翌日は焼肉。寿司と2回ローテーションで、尽きる軍資金。
細々1週間は持つモノの、ひもじくなって脱水症が加わり近医を受診。

旦那に似てると言われ気に入られても、いくら何でも流石に説教。
それが気に入らなかったのか、娘を呼んで説教したのが悪かったか。
4度目の入院は違う先生をご指名して、気ままな入院生活を送り始める。

廊下で出会えば、
「センセは相変わらずチェックじゃね、うちの旦那と・・・」
特に怒ってる訳でも避けているのでもなく、フツーの対応。

独り暮らしが恋しくなったか、寿司焼肉ローテーションが恋しくても。
3ヶ月目に娘が仮住まいを引き払って、帰るところが無くなった。
最終的に施設入所となり、ようやく安住の地を得て久しぶりの外来。

「センセ、足の指が痛いって。痛風?今までの食生活知ってるから」ナースB。
「最近変わってますよね治療」ナースB。
「一般的に、Vを3から多い時は9錠でしょ?」ナースM。

「年寄りに、そんな激しい事したことがないんで。ワシでエエんか?治療」
「センセに任せますわ。言うて来よう」
3分後に顔を出す、第2診察室のPセンセ。

「何でも、センセが苦手って言うんで。私がやります」
「タブンそうでしょうね」
「センセが苦手って、なんででしょ?」

「さあ?デブが嫌いか?髪の毛の量か?」Pセンセの目線は下から上へ。
「いくら何でも、関係無いでしょ。んで処方と検査時期は・・・あ、それで行きます。
しかし、センセが苦手ねー。珍しい人が居たモンですねー」
「旦那と二重写しで抱いたホノかな恋心?生活態度で説教されたから?」


苦手で嫌がる、午後。

第1054話 受諾演技ぽ(あといっぽ)

「センセ、薬だけでエエって。Pさん」
「コラコラ、イカンやないの。トーニョーと腎臓の検査しなきゃ、呼んできて」
「なんじゃ、センセ。ワシに用事か?」

「3ヶ月検査をしてないやろ、腎臓の。トーニョーも」
「やっても一緒、やればやるほど悪くなる」
「腎臓がかなり弱っておって、尿毒症になりかけてるんや。ハイ、検査」

「イヤじゃ、もういつコロッと逝ってもエエ。んじゃから、薬」
「いつ逝ってもエエんなら、薬を飲まん方が速く逝ける」
「それは言い過ぎじゃろ、直ぐ死なんでもエエ。酒も飲みたい、タバコも」

「やっぱ、死にたくないやろ」
「どうしても検査せなアカンか?」
「腎臓はナ。尿毒症の悪化を早く見つけて、処置せねばイカン」

「独り住まいじゃし、コロッと」
「それがなー、悲しいお知らせなんじゃけど。尿毒症で死ぬまでに、苦しいかも」
「どんな風に?」

「く、苦ジイー。吐きそう、飯食えん、酒飲めん。グ、グルジー。みたいな」
「今センセが、胸をかきむしって手を斜め上に延ばして。顔を歪めるほどか?」
「んにゃ、もうちょっとこうか?タジケデクレー、頭が割れて3つになるウー。かな?」

「やっぱ、そう来るか?」
「そん時のナースは、鼻水垂らしながら。Pさーん、頑張りイよー。ズーズズッ」
「その最後のズズーは?」

「黄緑色の鼻水を、思いっきりすすり上げた音」
「鼻がつまって、苦しそうじゃのー」
「そう、苦しくなる前に検査。さしてエねー、オネガイッ」

「そこまでセンセに演技されたら、イヤとは言えんなー」
「そうやろそうやろ、手も足もスリスリ。こんな感じイ?」
「わしゃ、まだ仏さんじゃないから。そこまでされても・・・」

「んじゃ、次はお正月が終わった頃に検査。オネガイね」
「センセに、そこまで優しくされると。まだ死ねんな。んじゃ、また来るわ。
 しかしセンセは、医者にしておくのが勿体ないが演技は臭い」

検査受諾の演技はあと一歩の、朝。

第1053話 放火訓練器具(ちょうしんき)

「センセ、今日はナンの日か知ってますよね」
「そらそ、そんなこと。3千2百年前から」
「ハイハイ、ハイハイ。言いたいことは、それだけですか?」

「んで、ワシの誕生日は半年以上先じゃし。ウチのミニブタを焼いて食うたんが・・・」
「ペットを食べるんですかッ!残酷、非道、残忍、赤鬼イ、メタボブタ」
「んじゃ、あんたは4つ足は食わんの?犬ホルモン、丸虫の肝吸い、象のミミガとか」

「そう言う、イカモノ食いじゃないんで」
「んじゃ、お百姓さんがお米をペットにしてたら。あんたは、にぎり飯は食えんやろ」
「お米をペットですかー。そこまで気が回らんじゃった。イヤ、ぬかった」

「んで、ナンの日?」
「放火・・・じゃなくて、防火週間みたいな」
「放火訓練じゃったら、今すぐ。ここで」

「準備がまだですッ」
「隠し持った、マッチに放火マンもあるでよ」
「普段タバコ吸わないのに、まさかジジイの火遊び?」

「オムツの端をこうやってぐいっと摘んで、マッチをシュッ」
「また、プチSMですかッ。んじゃ、あたしが団扇で風をビュービュー」
「キャー、効くウ。んじゃなくて、何時から訓練?」

「あと13分で」
「倉庫は何処じゃったっけ?火の気のないところから煙が、そよそよ来るわな。12分後」
「キャー、皆さーん。放火魔ですよー、MIHIセンセですよー」

「コラコラ。端から犯人を言ったら、アカンやろ。ゼンゼン、ミステリーとちゃう」
「ハイハイハイ、お手ッ!マッチと放火マンを持った方ッ」
「今日はこのくらいにしておいてやるわ、次を楽しみにしておくんだね」

「また、来年もやるつもりですか?んじゃ、パターンを変えて下さいね」
「んじゃ、こうして放火するのは?」
「ナニ、聴診器グルグル」

「金属部分と空気の摩擦熱で、ボーボー発火するんや。ホレ、赤くなってきたやろ」
「赤くなったのは、センセの顔だけですッ。スベって、恥ずかしいんでしょ?」
「放火訓練器具は、やっぱ聴診器じゃ」

放火訓練器具は聴診器の、午後。

第1052話 無顔が見る

「センセ、主人が50年ぶりに旅行に行こうって」外来最後のBさん。
「エエじゃないですか、行ってらっしゃい・・・あら、何処のご主人?
ま、まさか。その年で不倫?」

「ヤですよ、センセ。誤解しちゃ。ウチの主人。87歳の不倫もエエけど」
「んでも、やはり3年前にどっかへ行かなかった?あっちの世界へ」
「まあ、夢だったんですけどね」

「んで、一緒に行っちゃった?」
「んなはず無いのにと思いながら、恐々後からついて行こうとしたら」
「後ろへ回って、ケツをぐいぐい押したとか?」

「そこまではしませんけど、手を引っ張るじゃないですか。50年したこと無いのに」
「んで、行っちゃったんです。暗い方?」
「鬼や閻魔さんが居る方?煮えたぎる方?」

「ナンであたしが地獄なんです、主人はともかく」
「似たものB夫婦は、行き先も似たもの?」
「ゼッタイ似てませんッ!」

「結局、何処へ?」
「レンゲ畑のむこうにみすぼらしい旅館があって、入っていったらオネーさんが」
「行灯の油をぺろぺろみたいな、それとも口が耳まで裂けてるみたいな?」

「化けモンばっかじゃ無いですか、もっとエエのが居らんのですか?」
「ゾウみたいなキリンとか、オカマの五右衛門とか、砂かけジジイとか?」
「それ、だんだん酷くなってません?」

「んで、どんなのが居ったんね?」
「顔のない女将が、いらっしゃいって。こっちを見てるんですよ、恐いでしょ」
「ちょ、ちょっと待ってね。顔がないと言うことは、鼻も口も無いワケやろ?」

「そらそうですよね、当然」
「ハイッ、そこまでッ!んじゃ、血液検査と心電図に行ってらっしゃいませ」
「後を聞きたくないんですか、凄いのに」

「顔がないんじゃったら、目もないわな?どうやって見るんよ、Bさんを」
「そこが、主人の不思議なことですねー」
「不思議ご主人より、Bさんの方がもっと不思議やで」

「んじゃ、センセはあたし達は似たもの夫婦だって?」
「息子さんに、その話をしたら?」
「ダメですよ、あの不思議息子。直ぐ信じるから」

B家の不思議は既にDNAに刻まれている、朝。

第1051話 握苦手い(ぜつめい)

「あのね、君たち。どう言う坐高してんの?先祖は座高市?ワウ、ワウ」
「朝っぱらから、ナニ吠えてんですか。捨てられた無駄吠え老犬(語尾上げで)」
「この椅子、どうしてこんなに下げて。机の上に乗ったワシの頭は、さらし首かッ」

「そうしていただくと、世界平和確実。あ、それって深夜勤務のPちゃんの仕業だわ」
「もしかして、坐高1m股下10cmか?」
「胴長ダックスフントじゃあるまいし、見世物小屋で稼げますわ」

「まさか、あんたが団長?」
「ムチでピシッ、もっと胴を延ばせーッ。プチSのあたし、そそられるウ」
「んで、あんたのクビがにゅるにゅる伸び。行灯の油をジュルジュル、キャー。苦手エ」

「んなモン、得意な人は居ませんッ。んもー、我がピーなんだから。ここをこうして」
「あ、治った。テーブルの上が見えたら、紫蘇わかめの紙袋。やだねー」
「センセは、紫蘇ワカメがお好き?」

「アホ言え、ワカメはエエとして。紫蘇っちゃ、青虫のエサ。誰が好きになるかッ」
「んでも、袋からこぼれ落ちそうになってる。紫蘇ワカメ小袋」
「あ、これね。認知症のBさんの小旅行へ行くお手伝いして。お土産」

「たまには良いことするんだ、超たまには」
「たまを強調しなくてよろしい。んでナンの話?」
「皿うどんに刻んだ紫蘇を振りかけて。飲むのは、トマトジュースが最高」

「ウゲゲー。あんたかゾンビか、砂かけババやろ」
「誰がAKBのZちゃんって?時々間違われるけど」
「Zちゃんの隣の家の、又従兄弟の住んでる、山のあなたのなお遠く幸い住むノブタ」

「コラコラ。んでもあれ、ヘルシーしょ?紫蘇アンド皿うどんウイズ・トマトジュース」
「中華好みの青虫なら、あれで3万年は長生きしそうじゃけど。ワシ、アカン」
「言い放題、やり放題、キレ放題のセンセ。苦手見っけ、院内新聞に投稿?」

放送局のあだ名ナースに苦手を握られた絶体絶命の、午後。

第1050話 漢方処方(きょひる)

「センセ、こむら返りで。痛くって」
「そらイカン、足出してみん?あ、右の血管が触れにくいけど。
痛いのどっち?あ、右。やっぱねー、冷やいし」

「んで、お隣のBさんが同じ様な症状で。漢方の32140番をもらったら」
「一発で治ったんやろ?」私。
「ヘッ、やっぱ効くんね。あれ」

「偶然か、運命のイタズラか。ちゃんと証の診察してから、処方して貰ったか」
「んで、薬局へ行ったら。それは無いけど、ヘの32140番ならあるって。
センセに、相談してみてらエエって。そんで来た」

「来て貰っても、ワシは証の診察が出来んから無理。死んでもエエんじゃったら他所で」
「漢方で死ぬか?」
「証が合わんと、死ぬことがあるらしいって。君は証の診断が・・・って。
漢方処方は止めた方が・・・って。元K大学、漢方学教授の師匠」

「んでも、漢方はお医者の薬より安全って」
「漢方でじんま疹が出ることもあるし、モノによっては酷いことになるんよ。
漢方で、偽バーター症候群で死にかけた症例報告書いた。止めて、治療したら治った」

「んで、漢方」
「もっとエエんが閃いた、足湯と血行を良くする薬。秋冬限定。じわーっと効いてくる」「で、一発じゃのーて、じわーっっとか?」

「ほか行って、こむら返りに効く漢方くれって言うて。診察もせん医者に貰ったらエエ。
決死の覚悟で」
「なんか含みがあるような・・・」

「その医者の名前教えてね、夜中に玄関前に落とし穴掘っちゃうから」
「ナンか陰湿な雰囲気、気安く出せばいいのに」
「ホントは証の診断がようワカランから、恐い」

「ヘッ、センセでも恐いモンがあるんですか」
「そうやねー、強いて言えば。青紫蘇・揚げソバ・缶のトマトジュース。
そして症の診断。あれは恐い、凄く恐い。お代官様ア、お許しくだせーみたいな」

「もう他に、怖いモンは?」
「一杯の渋いお茶と、かりんとうが恐い」
「それは、聞いた事がある下げじゃ」

漢方処方を拒否して落語のオチで終わった、朝。

第1049話 外来気忙い(ちゅうくらい)

「んで、今日のインフル。終了ね」
「イエ、事務のQさんが1名。痛くないヤツを1本って、生意気言ってます」
「んじゃ、ピンク針。その辺に落ちてるヤツ、拾って。水道で洗って」

「コラコラ、ゼンブ聞こえてますけど」
「聞こえるように言ってみたけど、聞こえないことも言っちゃったのは?
あ、聞こえてない。安心してエエよ、そこが一番重要。教えないけど」

「ヤですねー、気になりますねー。ヒントは?」
「1択で。テキトーに、チャッチャと済ます」
「選べないんですね、ゼッタイ。それって、択の字はイランのやないかと」

「ごじゃごじゃ言わずに。黙って手をお出しッ!前足じゃないッ」
「腕ですッ。あー、ホントにピンク針じゃ?」
「アホ言んじゃねーよ、ピンク針はこっち。変えてみん?」

「忙しいんだから、ジョーダンは・・・。ピンク針じゃないヤツで」
「忙しいんだから、贅沢言わないッ。エイッ」
「あ、効くう」

「後ろ足に刺したのは、ボールペン。今から本物を腕に皮下注、ピカチュウ」
「ペンで突いたのは、ホントの足ッ。んもー。センセと違って、気ぜわしいんだから」
「ワシも、気ぜわしいから。もう1本行ってもエエよ。気ぜわしいナー」

気忙しさも中ぐらいなり、オラが外来。

第1048話 満足度調査声(しっことまる)

「んで、Kさん。ちょっとだけ良いです。これ」
「回覧板は返したけど、今朝」
「んじゃのーて、患者さん満足度調査のアンケート」

「まん・・・、アン・・・。アンマン?豚まん?ワシ、耳が遠い」
「んじゃ、質問するから答えて貰えません」
「あ、なんか聞きたいワケじゃな。歳は、93じゃったかいの?」

「96ですけど、そう言うんじゃなくて。今日はどうやって来ましたか?なんよ」
「そら、足で歩いて。もう、スキップは出来ん」
「あ、徒歩ね。んで、誰かと一緒に来ましたか?」

「ハア、お隣のQさんと。ゲンちゃんも来て、玄関横の木に縛ってある」
「ゲンちゃんて犬?ヘッ、猫!」
「最近は、放し飼いしちゃイカン」
「病院に犬は連れてきちゃイカンか?あ、ダメ。牛と豚とニワトリは?」

「今日来た理由は?」
「話せば長くなるけど、エエか?」
「4,5分で、オネガイできませんか?」

「ホントは来週じゃったけど、婆さん連中とゲートが終わったらカラオケの予定が入って。
んでも、あたしはひ孫と遊びたかったのに。保育園の遠足で・・・。
やっぱ、婆さんより友達の方がエエらしい。小遣い奮発したのに、\500も」

「あ、分かりました。診察とお薬ですね」
「そんなに簡単なことじゃ無いけど、まエエか。そう言うことにしよ」
「んで、職員の対応に問題はなかったですか?気になったこととか」
「よーワカランこと聞かれて、疲れたこと」

我慢しきれなくなった私。
「看護婦さーん。それ、もうちょっと小さな声でやって貰えんじゃろか。もっと遠くで。
診察してても、気になってしゃーない。んでワシ、トイレ」

で、すっきりを開始しようと思った途端。
「ハイ、どうぞ。診察室に入って貰って結構ですよ。直ぐ帰ってくるから」大声ナース。
途中で止まってしもうたやんか。クシャミしかけて、声かけられたみたいな

満足度調査声でシッコ止まる、朝。

第1047話 口を慎む貝

「コラコラ、ナンでカルテをそこまで積み上げるかなー。直ぐ、崩れるでしょ」
「あんたの腹が押さなけりゃ、ピサの斜塔でも崩れん」
「それって、そっくりそのままご返杯っと」

「もうちょっと粋に返してもらうと、誉めちゃうね−」
「誉められなくて、結構です。特に、センセからは」
「それって、そっくりそのままご返杯っと」

「進歩が見られませんねー、センセも。Rセンセ、見ませんでした?」
「3分29秒前に見たけど、今は知らん」
「センセより、足が10cmは長いから・・・」

「1歩進んで2歩下がれば、2分後に山里に出没するはず」
「冬眠前の、熊じゃないですッ」
「誰が、睡眠前のブタじゃッ」

「そんなこと、言ってませんッ」
「ワシの空耳か?」
「空耳と言えば聞こえは良いけど、悪意の耳でしょ」

「ワシも反省して、あれこれ言わず。貝になる」
「センセは、ホラ貝?」
「誰がアホ貝じゃッ」

人事を云うは大いなる失なり。誉むるも似合わぬ事なり。我が長をよく知り、
我が修行に精を出し、口を慎みたるがよし。by葉隠聞書2-104。

第1046話 嫌小動物末路(はかないのー)

「Qさん、ちょっとチクッとするけど。エエ?」
「イヤー」
「あら?」

ちょいとカーテンが揺れても、気付かない。
「センセが血液検査しなさいって、急に言うモンじゃから」
「ウソー」
「あら?」

「おっと」
「あららー、そこに隠れてるんはセンセ?誰?」
「イケメンのワシをお探し?」

「誰が、何処が、何時から、誰に断りもなく、身の程知らずに、イケメンとは。
火曜サスペンス”家政婦は見た”風に、身を隠してる気イかも知れませんけど。
カーテンの横から、顔が半分以上出てますよッ。要らんこと、言わんで下さい」

「ワシ、今日はQさんの代返なんよ。Qさんは後遺症で、声が出んから」
「代返は要りませんッ」
「んじゃ、今度は腹話術を勉強して」

「もっと大事なモン、勉強なさいませッ」
「操り人形みたいに、人間を操る術みたいな」
「そんなこと覚えて、何に使うんですか?」

「例えば、アホナースは誰?って聞いて。あんたの手を、ググーッと上げさせるとか」
「ツマランッ、アホ臭ッ。あー。ゴ、ゴキッ」
「誰が、ご機嫌じゃッ」

「んじゃなくて、あそこの陰に隠れたゴキブリッ」
「シューはないんね?無けりゃ、あんたの靴片方貸してみん?」
「ヤですよ、そこの棚の上にシューがあるでしょ。それで」

「よっしゃ、シューッっと」
「コラコラ、何故にあたしにシューわ向ける?」
「ゴキの親玉かと、んじゃ子分をシューシューっと」

「子分じゃないッ。キャー、カーテンを這い上がってきたア」
「そっちに飛びついて、噛みつけ。蹴りを入れろッ」
「誰を応援してるんですかッ」

「子分。あららー、ぽっとり落下で、ナムう」
「ハイッ。センセが、ティッシュで思いっきり掴んで捨てる」
「人使いが荒いね、んで死んだ子分見る?あ、見たくない」

「早く見えないところへ、ポイッと」
「エエか、あんたを殺せって言うたんは、このナースや。良ーく見て、成仏しなさいね」
「シューをしたのはセンセだから、化けて出るならこっちへオネガイね」

「あんたには、情けっつーモンが無いんか!」
「嫌いなモンには、情けは無用」
「ゴミ箱の中で、断末魔のピクッ。見た?悪魔と目が合ったのが災難じゃねー。
 儚いのー、無念じゃったろうなー」

嫌いな小動物の末路に儚さを感じる、団塊。

第1045話 天然の詐欺師と講演詐欺

「センセ、センセ。詐欺なんですよ」
「だ、誰が天然の詐欺師ってか?もしかして、ワシ?」
「そんなこと、ジョーシキ・・・んじゃなくて。\15000やられちゃって」

「ワシワシ詐欺とか、ホレホレ詐欺とか?それとも、おいでませ詐欺みたいな?」
「意味分かりませんけど、取りあえず\15000はリスク管理の講座」
「んで、なんで発覚したん?」

「ネットで情報仕入れようと思って、講師はどんな人かナーって調べたら」
「病院関係の詐欺師一覧に、あったりして?」
「そんなんじゃないけど、講演の会社に電話したら。そんな名前の講師は居ないって」

「権田原ペエ助大字芋煮なら、居るとか?」
「誰ですかそれ」
「んで。力一杯文句言うても、金は返ってこんやろナー」

「そうなんですよ、損したんは病院ですけど」
「んでも。ちょっと高いけどハゲしく記憶に残ったっちゅー意味じゃ、エエんちゃうか。
他人を信用するなって、リスク管理の基本やん。\15000で何人も学習したワケやろ?」

「まあそう言う意味じゃ、そうかも知れないけど・・・何だかねー」
「どうせクダラン講演で、しかも睡眠学習で、身につかなくて、直ぐ忘れる講演が多い。
そう言う意味じゃ、3分でしっかり記憶に残ったワケやろ?そいつ、すっごい講師や」

「んでも、せっかく福岡に行けたのに」
「んじゃから。交通費は要らんでここまで学習できたら、安いモンや。感謝せなアカン」
「そう言うモンですかねー。ナンかセンセ、あたしらを騙してません?」

「ホンマの詐欺師っちゃ、騙されたことに気付かんモンや。それがプロの詐欺師やね。
そう言う意味じゃ、そいつはまだまだ修行がタリン。世の中、それほど甘くはないで」
「やっぱセンセも詐欺師の修行をされたんでしょうね、たっぷり?」

講演詐欺師に対抗して天然の詐欺師を自負する、午後。

第1044話 外来ダンゴ

外来終了3分前、

「センセ。Iさんが、ゼーゼー言うって。来られました」
「そらイカン、お通しして。お友達のママなんよ」で車いす進入。

「センセ、朝からゼーゼー言うんですよ。ゼーゼー」のママ。
「今は?」
「そら、ゼーゼー・・・あら、黙っちゃった」悩むママ。

「んじゃ、先ず胸の音はと・・・んーん、エエんじゃないですかア。スースーで」
「そうですわね−、朝はゼーゼー・・・」
「んで、酸素飽和度97パー。体温36.7度、脈67。エエんじゃないですかア」

「昨日と一昨日は、沢山下痢で・・・」
「スタッフに聞いたら、たっぷり軟便で。水じゃないって」
「えらくて、とっても」

「どらどら」で差し出した両手を重ねて。
「んー、ちょっと皮膚が乾燥気味だし。1本行っちゃいます、点滴」
「手を握って貰ったら、えらくなくなったような。そうですねー、1本」で1時間後。

「んで、どうかねー?」おトイレを済ませた車いす。再び、差し出した両手を重ねて。
「点滴も効いたけど、これが一番エかった」で握り返す手に力が入る。
「あら、Iさん。どうしたんね?」

「あ、Tさん(ケースワーカー)。お世話になってます。今日は、点滴で」
「違うでしょ、MIHIセンセに手を握ってもらいに来たんじゃないん?」
「ま、それもあるけど」

「あたしも、Iさんの手握っちゃおうっと。MIHIセンセの手、ちょっと避けてみません」
「ナンでや、ワシの方が先じゃモンね」
「センセの手が、あたしの手に。キャー、触ってるウ」

「ナニが、キャー。ワシが先にやで。ホレッこうして、ああしたらキャーじゃ」
「キャー」
「あらら、ダンゴになってると思ったら。センセたちですか」の婦長さん。
「あ、迎えに来たから。あたし、帰ります。またなんか有ったら来ます、お邪魔様」

この一言で外来のダンゴが崩れた、午後。

第1043話 外来のコマネチ

「センセ、ヘンなんじゃ」
「じいちゃんがすっとぼけたこと言うのは、3年前からヘンじゃろ?」
「そら、5年前から。んじゃのーて、あたし」

「Wさんもとうとう来たか、83にして」
「何言うとるんじゃ、あたしは全部まともじゃ」
「そう言う人に限って、かなりヤバイんよ。ちょっとテストしようや」

「あ、知っとる。長谷川さんとか言うヤツよな。先月やったけど、19点。満点じゃろ?」
「ギリやで、ちょいヤバイかも。ジッちゃんの方がフツーかも」
「あれがフツーなら、犬がヒヒーンと啼くで」

「んじゃ、ブタは?」
「ブタは、センセ。そう言う場合は、ンモーじゃろ」
「Wさんは、まだまだ修行が足らん」

「んじゃ、センセならナンと啼く?」
「んーと、んーと・・・」
「これこれ、そこの2人。後がつかえてますよ」

「んで、ナニがヘン?」
「シッコが、ヘンな感じで。出たいような、引っ込んだような」
「それって、ボーコー炎かも?ハイ、シッコの検査」

15分後、「Wさーん、どうぞオ」で呼び込まれて。
「あのさ。シッコ見たら、ボーコー炎じゃ」
「ボーコー炎は男の人だけって聞いたけど」

「そうでもないで、なる人は何回でも」
「あたしゃ、35年以上ボーコー炎には」
「女性は尿道が短くて、その上に大をして後から前に向かって紙で拭くとイカン」

「んじゃ、どうやって?」
「こうやって、前から後ろへ向かって。こう、ぐぐっと拭けばエエんじゃ」
「あたしゃ、いままでずーっと後から前じゃった」

「こういう風にコマネチッ!て拭くと、ばい菌が入ってボーコー炎になりやすい」
「んじゃ、エエのはなんて言って拭くんね?」
「逆向じゃから、こうやって。クイッと、ネチコマッ!やろ」

何度も尻を拭く実演をした外来コマネチの、朝。

第1042話 Sジョブズと秋の空

「センセ、Pさんですけど。今日、訪問診療に行きますって電話」
「体調はエエから、柿の出来はどうって?」
「心配してんのは、Pさんの症状じゃなくてPさんちの柿ですかッ」

「そらまあ症状も気になるけど、柿も・・・んで?」
「ちょっと小さめじゃけど、沢山なってるから好きなだけって」
「よっしゃ、5分早めに出発じゃね」

でPさんちに到着すれば、滅多に居ない息子さんがニコニコ。
「あ、どうもお世話にないます」
「あ、今年は柿もミカンも出来良いみたいですね」

「まだちょっと酸っぱいけど、そんんなんが好きな方は。センセは?」
「どんなんでも好きです」
「1つお試しで、ハイ。来月来られる頃は、ちょうど良い頃合いで。なんぼでも」

「美味しいモンが多くてエエですなー。柿とか梨とか。んーと柿」
「あ、そうそう。柿ですね。裏に一杯なってますんで、好きなだけ」
「そ、そうですかア。んじゃ、診察してから」

「場所はこっちで」
「あ、知ってます。もぎかたも7年前から」
「あ、ばあちゃんに教えて貰った。んで、袋も用意してきた。準備万端ですなー」

それでも何か言いたげで、
「どんなんが美味しいか、分かります?」
「それはちょっと」
「お教えしましょう」と言いつつ、袋に選りすぐりをどっさりいただいて診察。

次に向かったKさんのお宅。
「ご家族がお留守の時は、確かここからだったよなー。Kさん、来たヨー」
「あ、しもうた。見つかってもたがな、えらいこっちゃ」
「ナニしとるんね(コテコテの讃岐弁繋がりで)」

「栗をな、センセのために焼いてな」
「ホンマかいな」
「冷めた頃じゃから、ポケットに入れてお帰り」
「スマンね、んじゃ1つ。Kさんは糖尿じゃから、遠慮シイシイ食べるんよ」で診察。

「銀杏も色づいて、紅葉の秋じゃねー」帰院車中。
「センセは色んなモンもろうて、食欲の秋でしょ」
「訪問診療もそうじゃけど、なんでも遊び心は大事やで」

「遊びすぎてません?」
「Sジョブズなんか、すっごく本気で色んなモン作ったけど。遊び心を忘れないワケよ。
iMac・iBook・iPod・iPadなんかで遊んできたけど、違うんよなー。どっかが」
「レベルの違いがありすぎて、ジョブズさんに失礼でしょッ」

ジョブズさんの笑顔を思いだした時、銀杏の葉が舞った。

第1041話 談合会議(はがくれ)

「センセ、今度の虐待委員会は?」
「真新しい話題がないしイ、新しい資料も出てないしイ、やる気せんしイ、止めるか」
「コラコラ、勝手に止めちゃイカンでしょッ」

「会議の進行がだるいし、半分以上冬眠してない?」
「目をつぶって、あれこれ考えてるんですッ」
「んでも、最後までナンも言わんヤツが多い」

「次に発言しようと思ってる内に、時間が来るんでしょ」
「資料は読まずに、その日のうちにシュレッダーとちゃう?」
「それはセンセでしょ、細かく切ってメモにしてます」

「んで、ワシが素晴らしい意見を言うと。えーそんな酷いー、とか一斉に」
「反感かうような過激なこと言うからでしょ、もっとフツーのお平らなこと言えば」
「1週間前に配った資料に目を通していない、不届き千万なヤツばっかじゃし」

「そのままセンセに、ご返杯っと」
「んで、ワシは作戦会議を開いたんよ」
「作戦会議って、何人で?」

「そう言う場合、人数は関係無い」
「どーせ、1人で勝手に」
「ちゃうちゃう、座敷童と。会議が楽しみやねー。寝られんくらい」

で、その3日後。
「センセ。過激な意見が、なぜ故あんなにすんなりっつーか。
あっという間に、決まったんです?えーそんな酷いー、とかが出る前に」
「参謀本部が、エかったんやろ」

「本部長のセンセだけ、独りなのに?」
「座敷童・・・。んでもワシの後、直ぐに賛成イ!って聞こえたやろ」
「その後が凄かった。そんなんに反対する奴は居ないでしょッて、後の方から」

「葉隠の、仕込み杖作戦なんよ」
「んで、関係無いスタッフに意見を言わせたら。エエんじゃないの?って」
「関係無い人もそう思うんなら、多少真っ当かなと思ったりして」

「談合事などは先ず1人と示し合い、その後聞く人を集め一決すべし。
また、大事の相談はかもわぬ人(直接関係ない人)や背外の人(世捨て人)などに
潜に批判させたるがよし。贔屓無きゆえ、良く理が見ゆるなり」葉隠れ、曰く。

第1040話 ジイのウミ

「センセ。ちょっと、ちょっと。こっちへ来てヤ」
「男に興味はないッ。暗がりに引きずり込んで、ワシを悪の道へ連れて行く?」
「この歳になると、悪も善もワケワカラン様になってきて。イカンなー、ホント」

「んで、地獄へ落ちる方法が聞きたいんね?簡単じゃけど、今のまんまでOK」
「んじゃのーて。これって、ヘルペス?」
「うんにゃ、そんなエエモンとはちゃう」

「んじゃ、ニキビ?」
「バカ言わんことよ、ニキビが出来る歳じゃなかろう」
「んじゃ、ナニ?」

「出来心っつーか、今までの悪行三昧のウミがそこへ溜まっただけ。単なるジイの膿」
「仏心じゃのーて?」
「のど仏以外に、仏がつくもん無いやろ」

「酷い言われようじゃね。んで、どうしてくれるん?」
「拙者が潰して進ぜよう、しかもタダ」
「タダほど恐いモンはないって、フツー言うけど」

「あんたの顔の方が恐いから、大丈夫」
「大丈夫じゃないような・・・」
「んじゃ、こっちへ来て。酒精綿は、リサイクルでエエか」

「せめて新しいヤツで、やってもらえんやろか」
「勿体ないけど。ハイ、顎出して。もっと」
「センセ、跡が残らんか?」

「棺桶に入るまでには、治るかも」
「そんなに長く残るんかね」
「そんなに長生きするつもりかね」

「センセと同じ歳じゃから」
「歳は同じでも、日頃の行いで寿命が変わるから。んじゃ、行くで。コノッ」
「痛たたッ」

「まだまだ。また痛いって言うたら、初診料とるで」
「これで初診料とったら、詐欺か恐喝じゃ?」
「コノッ、クウーッ」

「いッ、いッ。センセ足が痛いで、踏まれてるワシの右足が」
「ごじゃごじゃ言ってる間に、ハイ一丁上がりイ」

直径1mmのクレーターが顎に出来上がった、午後。

第1039話 ワシと一緒や

「あ、センセ。あたしのお薬ナンじゃけど、1個落としてしもうて。血圧のヤツ」
「赤の方ね、黄色の方?」
「んーと、どっちじゃったかいね。んーと、んーと・・・」

「Pさん今からトイレやろ?」
「そう言うセンセも、トイレか?」
「我慢できんくらい」

「あたしもじゃ、ちょっと危ない感じ」
「ワシも一緒や、話は気分すっきりになってからにしようや」
「そうじゃね、あたしは相当危ないな」

バッちゃまより20歳は若い分だけ早く済ませて、外来の椅子に座る。
「んじゃ、Wさあーん。どうぞオ」
「あセンセ、居ったか」
「今日は若ぶりのズボンじゃないんね」

「孫が履かなくなって、もろうた。腹回りはワシと変わらんけど、足が長い。
ちょっと腹の緊張が取れると、ずり落ちてイカン」
「ワシと一緒や、んでサスペンダー」
「わしもそうしよ」で送り出して午前の外来終了。

昼食・筋トレ・読書を終えてラウンドすれば、
「センセ、Qさんが色々訴え。ちょっと、あたしと一緒に聞いて貰えません」
「んで、Qさん。どうしたんね」
「わしゃ、腹が張って色んなモンが出るんで困ったワケ」

「そらワシじゃって、腹が張れば屁の2つや3つ出るで」
「2つや3つどころじゃないがね」

「この看護婦さんなんか、4、5発は軽い。なッ」
「あ、ハイ。4、5発は、ウウ・・・」
「ワシより多いんか、そら困ったろ」
「ウッセ」

「時々、ガス以外の固形物じゃって危ないよなッ?」
「あ、ハイ。危なく・・・ありませんッ。あたしは、センセと一緒じゃないッ」
「あ、いてッ」

横腹に指突きが入った、午後。

第1038話 40歳より内は

「センセ。どっかに良い出物無い?」
「もう出とるやん、鼻の横に」
「それはデキモノ」

「んじゃ、へその下」
「それは、メタボ腹ッ。んじゃのうて、相手」
「あんたとケツ相撲する気になるような、無謀な相手は・・・」

「ケッコン相手ッ!」
「そんな無謀な・・・んじゃなくて無知蒙昧な・・・んじゃなくて・・・」
「センセに言うたんが、失敗てんこ盛り」

「フツー40までは強気で選んで、それからはちょっとハードルを低くしてな」
「確かに、40越えたらハードル落としてもエエですわ。センセレベルで、
我慢しちゃいます。死んだ気で」

「あ、んじゃ。首なんかぎゅっと締めたろか?ワシのレベルに似合うレベルって?」
「このくらいの美白足長なら、ねえ。おつりで、ビルが建つ」
「そのくらい自分が見えない世間知らずなら、妄想で腹一杯じゃろ。
葉隠でも言うとるんよ。40歳より内は、知恵分別をのけ、強み過ぎ候程がよしって」

「エエこと言うてるやないですか、それで行きましょ。葉隠で」
「若いうちから物わかりが良くて、世間をよく知った人は鍋島侍じゃないらしい」
「ヘッ、それって侍のこと?」

「40を過ぎても力みや意地がなければ、誰も怖がらんって意味もあるらしいけど」
「あたしが怖がらせて、どうする。怖がらせたら、誰も近づかないでしょッ」
「恐いモノ見たさのマニア(語尾上げで)」

アラカンを過ぎても侍になりきれない、午後。

1037話 外来殺要求(いわれても)

「センセのお陰で。ワシ、死に損なった」
「ちょ、ちょっと。そう言う言い方するかなー、他人に聞こえて嬉しい話じゃないで」
「ワシも98じゃ。自分じゃ出来んから、ぼつぼつセンセに殺して貰お」

「んじゃ。電卓で計算したら、あと2年で100歳じゃ。凄いやん」
「そんなモン、電卓使わんでも」
「この電卓、時々間違うから」

「そんな電卓があるんか、ホントに」
「んで、どうされたいん?猫いらずを、一服もって欲しいワケ?」
「ワシはネズミか?」
「似たようなモンよ。んじゃ、水攻めとか100叩きとか。石抱きは耐えられるね?」

「江戸時代のゴーモンじゃ有るまいし、殺して欲しいけどそんなんは好かん」
「好き嫌いの問題じゃ・・・。可愛いと自画自賛のひ孫が、女医さんになったんやろ?」
「あ、そうじゃった。自画自賛が引っかかるが、可愛いあの子が結婚するまで死ねん」

「そうやろ、そうやろ。んでも女医さんは結婚せんのも居るし、遅いのも多い」
「ワシはもたんな、あと10年は」
「んじゃ、ひ孫が医学博士になるまで死ねんっつーのはどうや?」

「センセはその博士か?」
「ま、一応」
「んじゃ、博士になるんは簡単じゃな」

「ま、一応」
「んじゃ、2,3年もすりゃなれるか?」
「イケメン見つけて、医学博士なんてどーでもエエとか言って。サクッと結婚したり」

「ちょ、ちょっと。何処の馬の骨ともワカランヤツと、可愛いひ孫がそう言うことに?」
「まあそうやねー、あり得る話じゃ。夜叉孫が、目出度く30人も出来たりして」
「可愛いひ孫がそんなことになったら、ワシ死にたい。いっそ、センセに殺して貰お」

外来で殺してくれって言われても困る、朝。

第1036話 中殿筋って何処よ

「あのさあ。ワシ、股関節と膝が弱いんよ」
「確かに、股間と脳みそが問題がありますよね。センセは」PT(理学療法士)F君。
「F君、どう言う耳してんの?ワシ、たまにあるんよ。血迷ってミョーなこと言うヤツ」

「ボクって、超たまにフツーのこと言う人」
「んで。膝と股関節と言えば、やっぱ責任筋肉は大腿四頭筋と中殿筋やろ?」
「昔はそう言われていましたが、最近は説がかわって。それだけじゃないと」

「取りあえず、ワシって昔の人じゃから。昔説で言っちゃう。んで、中殿筋トレ。
こうやろ、こうやって。フンッ!んで、内転筋も関係有るらしいやんか、膝痛に」
「そらセンセO脚の話で、内転筋は無関係。センセのは、強いて言えばガニ股」

「ワシのは、白鳥の湖が踊れそうな足。奥が深いのー」
「Oとガニを間違えただけの、単純ミス。奥深イなんて、タライに五月雨程度でしょッ」
「んじゃ、バレリーナの中殿筋ってどれ?」

「ここですよ、ここ。ここが、関取の中殿筋ッ」
「ヘッ、ここやろ?」
「それは骨、この筋肉。脂にまみれて、ワカランのかなー」

「ワシって特異体質?」
「それを言うなら、特異性格でしょッ。筋トレより性格トレした方がエエでしょ」
「コロコロ転がったら何処までも行っちゃうみたいな、まん丸な性格でも?」

「別なところを治した方が良いと、思いません?」
「強いて言えば、弱気で引っ込みがちなとこ?」
「中枢部分に問題あり、じゃん!脳みそに無い関節なんて、どうでもエエでしょッ」

中殿筋問題が脳みそ問題にすり替わった、午後。

第1035話 人一度死唯一二度(じぇーむすぼんど)

「センセ。イケメンは諦めて、貯金に専念する事にしたんですよ」ナースF。
「あらら−。んじゃ、ブランドバック三昧は?」
「あ。きっぱり、さっぱり」

「そらそうやなー、棺桶に入る分だけで充分やろ?肉饅詰めボストンバッグだけ」
「うー、そんな先まで話を引っ張らなくても」
「んでも、経済評論家は言うとるよ。何処かの将軍様だったか、デノミで貯金はパー」

「んでも、日本じゃ将軍は徳川まででしょ」
「んでも、ヤバイ政治家が国債破綻で。貯金凍結しとる間に、デノミ(語尾上げで)」
「と。どうなる、どうなる?」

「\1万が\100に切り替えて、お札刷りまくって。交換できるのは\100万まで。
 あとはトイレットペーパーにでもしなさいって」
「そんなん使ったら、お尻痛いでしょッ。死んでも死にきれんわ」

「大丈夫。人は、死んだ後はケツ拭かなくてエエ。一度死んだら痛くない、大丈夫」
「ゼンゼン、大丈夫じゃないッ!」
「葉隠れで言うとるんよ。人はいずれ1度は死ぬもの。病死、切り死、切腹、縛り首」

「ちょ、ちょっと。ナンで、切腹や縛り首」
「色んな罪状で」
「ちょ、ちょっと。色んなって?」

「細かいこと、言わんでエエ。お黙り」
「細かくないでしょッ、ゼンゼン」
「んで。見苦しく死ぬのは、無念じゃ!と」

「エエですッ、あたし見苦しく死んでやるんだ」
「生きてる時と同じくらい?」
「こ、殺して差し上げましょうか?」
「ワシが知ってる2度死ぬのは、ただ1人。儚いセミの一生を思うと、ため息出るねー」

人は一度死ぬけど唯一2度死ぬのは007ジェームス・ボンドだけの、午後。

第1034話 当直明けのテンション様々

「ウッ、夜明けが近い。な、何時や?あ、5時」起床ラッパが当直室で鳴り響き。
何はともあれ窓を開けて暗闇を確認すると、満タンボーコーを空にして。
ストレッチ5分で完全覚醒すれば、ローテンションで仕事の段取りを練る。

身繕い整えて久々の早朝迷惑回診スタートは、5時半ちょい過ぎ。
10月を間近に控えた朝、真夏バージョンでは如何なものかと思いつつ。

「おっはよ!」渡り廊下の冷気に襲われ、テンションアップが加速する。
「あー、センセ。短パンじゃん、センセには秋は来てないんですね」
「あと3ヶ月は、来んやろ」

「んじゃ、年末じゃないですか。秋をすっ飛ばして。
んじゃ、まるで昼夜じゃなくて季節逆転のハイサじちゃま」

「エエやん、好きにさせてもろうてエエやん、ごじゃごじゃ言わんで、エエやん。
とっととラウンドしてエエやん」脳みそ全開だぜイ!状態突入。

「コラコラ、誰ですか。家政婦サスペンスみたいな、ドアの陰から」
「ヘッヘッヘ。おはようござい、回診でござい。皆さん、起きてますかー」
「起きてるワケ、無いでしょッ!」

「んじゃ、失礼して。すり足、忍び足、イカタコの足っと」
「ほおかぶりしてたら、こそ泥にしか見えない回診ですね」
「無視、無視」で、寝息を聞きつつグルグル・ラウンド。

「おはようござい、回診でござい。ヘッヘ、だんだん、エンジンかかってきたで」
「お、センセ。早すぎんか?まあ、TVでも見て行かんか?丁度、相撲じゃ」
「ワシって、デブの裸は見飽きたから。ウチの風呂場で」

窓の外が明るくなり始める頃に、病棟廊下はざわめきだつ。
人生の先輩の朝はトイレから始まり、トイレで暮れる。真夜中もオマケ。
ラウンドが終わりかける頃、車いすで向かい出すのは患者食堂。

娘より若い介護士Pは、眠そうな患者さんの車いすを押しながらハイテンション。
「ご飯、ご飯、ご飯は良いわ。ご飯、ご飯っと」
「あんた、朝っぱらから元気やのー」
「若いですから。一昨日の合コンで、王子発見しちゃったんで。化粧のノリもヨカです」

「あんた、出身は九州か?」
「イエ、北海道」
「ワケ分かりませんけど」

「そうなんですよ、あたしも素敵な王子見つけなきゃ」介護士Z参入。
「んでも、Zさんは」
「ハイハイ、×が幾つついたか忘れたくらいですー。良い味出ますよ、アンティークは」

「アンティークと言えば聞こえはエエけど、日本語じゃ?」
「止めてッ、英語で言ってッ」
「なんでそこまで、テンション上げるか?」

「王子の話になると、ナンか突然テンションが上がる人なんですウ。あたし。
センセの知り合いで、良い出物ありませんこと?50歳以下20代ならなお結構」
「相手が嫌がる。ワシって対象外なのね、嬉しいけど」

70歳を超えて当直免除になり、今は昔の当直明けテンション。

第1033話 競合薬名申請書記載(ぷちえすなりかけ)

「失礼しまーす、誰かセンセいらっしゃいませんかア」
ドア1枚隔てて医局方面から聞こえるのは、お馴染みの某社MRさん。
昼休みの読書と筋トレなんだから邪魔しないでね!の、死んだふり。

「困った、どうしよ・・・。明後日やし」
「ナンか急ぎの用なん?」Hセンセの声。
「はア、どちらかと言えば。冷や汗かいて、焦りまくってんですわ」

「んじゃ、教えてあげるわ。あっちの部屋」
「あー、そーですかー。スイマセンね−、んじゃ失礼して。ごめん下さいませエ」
「な、何よ。急ぎって」

「ヘッヘッヘ。センセも見かけによらず、見たまんまのドMですか?
あたしどっちかと聞かれれば、プチSなんですよ。お手伝いすることあれば。
例えばムチでピシピシとか、蝋燭タラタラとか。ウヒッ、センセはゴム派ですね」

「このゴムは大腿四頭筋トレやで、さっきは中殿筋」
「んで、ドS?」
「ただの筋トレ、邪魔しないでね。オネガイだから、んで急ぎってナニ?」

「あー、そうでした。センセのドM見て、忘れるところじゃった」
「忘れてエエよ、全部。特にドMのとこ」
「それはそれとして、我が社のイチオシ。これを忘れたら、盆も正月も越せない」

「歳をとらんで、エエやん」
「無視無視。んでゼガガの採用申請って、センセが書いていただけるんじゃ?」
「ファ?それってゴキ駆除の?」

「止めてくださいよ、悪い冗談。我が社が一丸になって、押しまくってんですから」
「押しつぶしたりして、ぺったんこに。それにワシって、ゼ行とガ行が書けない人」
「よーく分かりました。センセのために、ゼ行とガ行が書けるペンを豪華3本ッ!」

競合薬の名前を書いちゃおうかと思う、プチSになりかけた午後。

第1032話 生乳吸放題価格?(ちちはおいくら?)

「おろ、髪切った?」
「キャー、ヤですよ。主人が居るのに」
「キャー、なんのこっちゃ?」

「んだって、誰も気付かなかったのに。センセが」
「そらあんた。いつも目障りな寝癖クリクリ爆発頭が、まっすぐになってりゃ。
ナンか悲しいお知らせか、笑える不幸があったかとか。思うやろ、フツー」

「あたしの髪と、悲しいお知らせにどう言う関係があるんです。不幸で、なぜ笑う」
「ワシは、総理と同じ¥1000散髪なんよ。んで、あんたはナンボの散髪?」
「さ、散髪って。ビヨウインですッ」

「やっぱ髪のことだけに、頭のビョーイン?」
「ちょっと発音ヘンでしょ。それってセクハラ?」
「あ、セクハラっちゃ。今日もPさんが?」突っ込む介護士W。

「言葉じゃなくて?Pさん手だけは良く動くから、困った」
「それが、今日はいつもとパターンが」
「なーんも言わずに、じっと見つめてウインクとか?」

「¥10やるから、チチって」
「あんたのお父さんを、呼ぶワケね」
「んじゃなくて、¥10でチチ吸わせろって」

「Pさんって、あっち系?」
「あっち系って、どっち系?」
「どっち系って、チチなら誰でもエエみたいな。W君でも」

「止めてくださいよ、Fさんに任せます」
「キャー。あたし、¥100あげるから見逃してって言うわ」ナースF。
「実家の乳牛を連れてきて、¥100でチューチュー吸い放題みたいな」PTのT君。
「んじゃったら、わしも参加してエエで。生牛乳吸い放題、¥100均一」

乳牛の生乳吸い放題のチチはおいくら?の、午後。

第1031話 カレーのフラフラ

「センセ。あたし頭がフラフラする様な、しない様な」
「どっちかと言えば、ぐるぐる回るとか?」
「そんなハゲシイモンじゃのーて」

「羽毛布団の上を、歩く様な?」
「ウチはベッド、羽毛布団の上を歩く様なことはせん。落下したら痛い」
「んじゃ。煎餅布団の上を、竹馬に乗って歩くみたいなと言えば分かる?」

「ワシは、それほど器用じゃない。んじゃ、耳鼻科は行った?」
「行ったし、脳外科も。神経内科も、はっきりした異常は無いらしい」
「あ、それってカレイが原因かも」

「ワシは年に似合わんカレー好き。でも、バンコクのグリーカレーの辛さは懲りた。
食べた翌朝のウンチは水、シャーシャー?出る時、やたら熱いみたいな」
「やっぱそう言うヤツは、熱いか?」

「コーモンに、焼け火箸を突っ込んだみたいな。やったことないけど、試す?」
「んなアホな!そんな無茶したら、イカン」
「ま、そういう感じよ。経験者語る」

「お医者になるには、そんな経験も要るんか?」
「ナンでも、広く浅くな。むかし下宿してた時、ジッちゃんから言われた」
「ワシは、医者にならんでエかった。痔もちだけに、そんなことになったら即死じゃ」

「んで、カレイ性平衡障害かもね」
「暫く、カレーは止めとこか」

「カレーじゃなくて。加齢性平衡障害って、室伏利久センセも仰ってるんだけど。
関連疾患も見当たらなくて、各系の機能検査をしても病的な低下が無くて。
グルーッと全体的な機能が低下しているって、高齢者が居るらしいで。それかも?」

「ナンかエエ薬があるんか?」
「治すのは薬じゃなくて、リハビリらしい」
「腰のリハビリと一緒で、治して貰おうかいカレーの味も」

どうしてもカレーから離れられない、朝の外来。

第2030話 何故頑固

「センセ、Dさんのお薬なんですけどオ」
「丼一杯欲しいって言っても、湯飲み茶碗程度でオネガイしてね」
「なに言ってんですか、転院前の薬を半分以上減らした癖に」

「あのね。薬っちゃ、出せばエエってモンじゃないんよ。劇薬とか劇毒もあるし」
「んでも、今までお薬が12,3種類出ていたのに。こっち来て、いきなり3種類でしょッ」
「後1つ、悩んどるんよ。減らせんかと」

「Dさんが、寂しがりません?手を抜かれた、みたいな」
「どんだけビョーキがあるんじゃ!で。薬が増えたら、不安になるやろ。フツー」
「安心しません?腹一杯お薬もらって。フツー」

「あんたのフツーは、フツーじゃない。あんたの4段腹も、フツーじゃないッ」
「意味、分かりませんけど。フツーの」
「急性期は足し算でもエエけど、慢性期は引き算するのが真っ当な生き方やで」

「ですかねー。ってゆーか、殆ど変わってるじゃないですかッ」
「あんた、どっかの医者が風邪薬を12種類出したら。すんなり全部飲むか?」
「まあ、テキトーに間引いて」

「そうやろ、そうやろ。それがフツー。人生、足し算もあれば引き算もある」
「ナンかいつもと違う雰囲気、何かご不幸が?」
「教訓。薬は出せばエエってモンじゃない、人間ホドホド。中庸が肝心、アホは欲張る」

「そんな教訓、有りましたっけ?」
「あと一口がブタになり、もう二口で血糖値上がって糖尿病予備軍。そんな教訓。
 聞いたことあるやろ?ワシ、口にしたことある」
「教訓じゃなく、健康教室じゃ?」

「世に教訓する人は多いけど、聞くヤツはちょぼちょぼで。従うヤツは少ない。
それは、精神の柔軟性が失われるからじゃッって。これ、葉隠の教訓」
「んで。ジイになっちゃったMIHIセンセは、他人の意見を聞かないんだ。頑なに」

「若い頃は、感受性豊かで素直じゃったから。先輩が、これは定説とか教訓じゃとか。
黙って聞けとか言われて。無理難題を、ハイハイご無理ごもっともですッて言うた」
「んで精神の柔軟性が失われて、いま頑固なワケですね。センセは」

先輩教訓のトラウマが尾を引いて頑固になった、午後。

第1029話 臓器賞味り(きげんあり)

「んじゃ。急変しても無理矢理に延命はしなくてもエエんですね。治療や対処はするけど。
後は、自然のままにで?」

「ハイ、若いときから女房には言ってましたから。信用できるセンセだったら、
延命は要らんって。んで、ウジウジ生かしちゃイカンぞ。センセに頼む」
「んじゃ、ワシは信用できると思っとるワケですね?」

「まあ、一応」
「そうですか、なるほど」
「で、その時は臓器を・・・」

「はア、臓器って?」
「使えるモンは、取り外してエエから。活きの良いうちに」
「んでもなー、どんなエエ機械でも93年も使うと・・・」

「サビを落としたら、まだ使えんか?あっちは無理じゃけど」
「あっちもこっちも、タブン使えんやろ」
「良い味しとると思うけど、イカンかー」

「タブン、イカンなー。ホルモンでも、新鮮で活きが良くなきゃ味悪い」
「なんなら全部取っ払ってもろうてもエエんじゃ、綺麗さっぱり。カッ、カッ」
「こんなジイの筋肉はしわいし、味も悪るかろうし」横から突っ込む奥様。

「臭いも、きついかも知れんし」と、調子に乗るMIHIセンセ。
「んじゃ、センセにナンかあったら。ワシの臓器を好きなだけあげるで。
その代わり、ワシにナンかあったらセンセの臓器くれるか?」

「そう言うの、止めようや。どっちかがどうかなったら、どっちかが死なないと・・・」
「ワシは諦めがついたから、エエで」
「んでも、ワシは30年下やで。条件悪いワ」
「案外エエかも知れん、ワシの臓器」

臓器の賞味には期限がある、午後。

第1028話 Eの意味

「センセ、胸がヘンなんじゃ。こう、なんと言ってエエんか」
「どう聞いたらエエんじゃろ?Mさん。痛いとか、かゆいとか、セツないとか」
「そんなんとは違うなー、どっちか言えばヘンなんじゃ」

「ナンか、よー分からんけど」
「ワシも、よーワカランような」
「二人の会話の方がヘンでしょッ、怒りますわよ。美白のあたしも」突っ込むナースD。

「美白って、土留め色?イカスミ真っ黒?」
「美白は、黒じゃありませんッ。どんな目、してるんですかッ!」
「そんなに絡まんでも、エエやんか」

「そ、それじゃ。タンが絡んで、腹が痛いような。ヒック。あ、しゃっくりじゃった」
「んでも、今フツー」
「病院の玄関を入ったら、止まった」

「んじゃ、そう言うことで。エエわけね」
「んでも、帰ったらまた出たりして」
「んじゃ、入院じゃなく泊まって行く?待合のベンチは、無料」

「あそこで寝て金取ったら、詐欺じゃろ?んでも、腹がヘン」
「何処ね?ちょっと横になって。あ、ここ?」
「イヤ違うなー、そっちでもそこでも・・・」

「ここは胃、ここはタブン十二指腸。んで、タンノウ」
「そこかも知れん、タンが着く」
「胆嚢とタンが絡むんは、タブン関係ない」

「ワシも93じゃし。結果、歳か?」
「ナンでも歳で片付きゃ、恐いモン無い。最高齢114才に比べりゃ、鼻垂れガキ?
帰って茶でも飲んで、のーんびりしたらエエんじゃ」

「これ以上のんびりしたら、体をもてあますで。んでも、こんなべっぴん見てもなー。
あっちもこっちも、ビクともせんし。ワシも、終わりじゃろか?」
「それだけ言いたいことを言えたら、当分持つやろ」

「んじゃ、血圧でも測ってもろうて帰ろうかい」
「そうじゃね。んじゃー、スイッチ・・・オンと。おろ?」
「ナンじゃナンじゃ。あら、ワシもとうとう終わりじゃ。血圧がEって、もうエンド?」

「エラーのEじゃけど」
「うちのジジイ犬が死んだんが、イケンじゃったか?」
「犬より下ネタばっかのMさんは、エンドのEかも知れん」

Eの意味が混戦する、午後。

第1027話 突っ込みにボケと通訳
「んじゃ、入院したおばあちゃんの説明とのご質問とかよろしいですか?」
「あ、なんでもエエんですか?」
「その後で、まだご質問があったら仰ってください」

「あ、ハイ。あんたも良く聞いとくんよ」横のご主人を突っつくおばちゃま。
「はア、ああ」
「入院していただいた理由は、褥瘡を早く治そうと思ったからです」

「ヘッ、女装?ばあちゃんは女じゃったよな」
「床ずれのことよ、何言ってんですか。この人は」
「んで、栄養管理を十分にしようと思うんです」

「ヘッ、遠洋の管理っちゃ。船に?」
「栄養管理って書いてあるでしょ。食事のこと。んーもー、黙って聞いてなさいッ!」
「主治医は私。よろしくお願いしますね」

「ヘッ、何時からばあちゃんの主人になってくれたんじゃ?」
「担当のセンセのこと、ホントに口チャック。で、病名は?」
「アルツハイマー病に伴う廃用症候群です」

「んで、そのハイヤー進軍っちゃ?」
「はア?そこに廃用症候群って書いてあるんですけど、読めませんかねえ・・・。
 やっぱ、ペン習字4ヶ月の成果が出てないかもなー」

「心の迷いが、出るんやないですか」
「イエ、ちゃんと読めますよ。へんな読み方するのは、この人の問題です。
目も頭も歪んでるんです。気にしないで、どんどん進めてくださいませ」

「あ、んじゃ・・・。取りあえず、さっきので説明は終わったんですけど」
「ちゃんと絵も描いていただいて、良く分かりました」
「他に、何かご質問は?」

「えーと」
「あんたは聞かなくてエエのッ!よろしくオネガイします。ほら、あんたも言いなさい」
「あ。無理に仰らなくても、結構ですけど・・・」

「主人のセンセ、オネガイします」
「違うでしょッ。んー、もうエエわ。帰りましょッ。じゃ失礼します」
奥様の後をトボトボ着いて消える、ご主人。

「センセの将来を見たような気イ、しません?」突っ込みナース、D。
「夫婦漫才でボケと突っ込みなら、ワシはボケ担当じゃね」
「そのまま地で行けますから、得意のはず。んじゃ、あのご主人も?」

ボケが得意なご主人に病状説明するには通訳が要る、午後。

第1026話 還暦越ち(せっかち)

「キャー、センセ」
「何処が、キムタク似じゃッ」
「キャー、キャー」

「んだから、騒ぐでない。多少ブラピ似が入っておっても、狼狽えないッ」
「キムタクでも、ブラピでも無く。センセの足下に、ゴキがッ」
「そこのシュー取ってくれんね。あいよ、ホレッ」

「キャー、逝っちゃいましたア」
「直にステル(ドイツ語で、死ぬ)やろ」
「ステルのはセンセにオネガイしますウ」

「ワシは死にたくないで、まだ」
「んだから、捨ててって」
「あ、ワシのステルは。ドイツ語のステルベン、つまり死ぬの略にル」

「私のは、ポイッのステル」
「センセ、ワシのここが痛いんじゃ。シッコする時にな、出口が」
「Eさんのは、ニョードー炎じゃね、シッコの検査とお薬ね」

「早よう頼むで」
「すぐ処方箋書くからね」の3時間後。
「センセ、Eさんが怒ってます。これだけ痛いのに、ナンもしてくれんって」

「んでも、ワシが回診したときに言うたで。診断とお薬のこと」
「回診って、何時?」
「んーと、今朝の5時半過ぎ。今は8時半過ぎじゃから、3時間前(語尾上げで)」

「おかしいわねー、ナンもしてくれんって」
「薬を持って行ったやろね」
「申し送りが終わったら」

「そら怒るで、転がってでも這ってでも。とっとと、お薬取りにお行きッ!
ワシと一緒でせっかちだから、3分以上待てないの。ごじゃごじゃ言わないッ!」
「ジイは、先が短いからですねッ!」

米寿越えは想像つかないけど還暦を超えはせっかちな、午後。

第1025話 我儘言放題(まだいける)

「センセ、あたし耳が痛いんじゃ」は、訪問診療でドアを開けたとたんの声。
「また嫁さんに我が儘を言うたんじゃろ、したら息子に怒られた。んで、耳が」
「ホレ、これ見てみいね。怒られて、こんなモンが耳から出ようか」

「あららーVさん、血イが混じってるやんか。そら痛かろう」
「耳鼻科へ行かねば」
「んでも何処の耳鼻科も多いから、待つのがイヤや」

「我が儘言わんの、待つってことは腕がいいから人気があるんじゃ」
「腕が悪いから、手が遅い。んで、時間がかかって待たされる」
「んじゃ、予約してから行くんは?」

「予約したら、ゼンゼン待たんか?」
「ゼンゼンって言われると、悩むのー」
「そうじゃろ、そうじゃろ。んじゃから」

「んでも、耳から血イ出よるしイ。痛いんじゃろ?」
「まあな。んでも、腰も膝も肩も痛いで。まっ、全身痛じゃね。んで、待てんワケ」
「とりあえず嫁さんに頼んでみるから、それでエエやろ?」

「頼むのはタダじゃけど」
「すいませーん。あ、おばあちゃんですけど。耳鼻科へ連れて行って」
「エエですけど、この間は針刺したら痛いからイヤやーって泣くし。センセも困って」

「Vさん、我が儘言うたらアカンで」
「だって針刺したら・・・」
「んじゃ、耳から血イ出まくって。その後、脳みそもとろけて出てもエエんか?」

「んなアホなこと、あるかいな」
「耳の中と脳みそは、せいぜい3cmも離れておらんから。ワカランでー」
「脳みそがとろけて出たら、あたしはどうなるんね?」

「飯を食べなくても、腹が一杯みたいな。饅頭食べなくても、美味しかったなんて。」
「そらイカン、おやつは太巻き1本じゃね。我慢できんから、勢いついたら最後まで」
「そらイカン、Vさんは糖尿やで。我慢せねば」

「それが我慢できんから、箱に入れてもろうて焼かれんワケ」
「四角い箱に太巻き30本も入れてもろうて、焼いてもらえばエエやんか」
「焼かれたら、太巻きはあたしの何処へ入るんね?」

「んじゃ、諦めル・我慢すル・聞き分けの良いバアになルの3ルで行こうや」
「イヤじゃ、イヤじゃ。好き放題して、死んでやルのルじゃイカンか?」
「我が儘ルVさんは、当分四角い箱には入られんね。入れるサイズが無いかもな」
「大丈夫、貯金おろして精一杯大きい箱注文しとくわ」

「それだけ言いたいこと言えたら、当分じゃ。箱がゴム製のヤツなら、何時でもOK」
「センセは、そんなに早ようあたしを逝かせたいんね?」
「我が儘ルその口だけでも、なんとかせねば・・・」

 我儘言い放題だからまだイケる、午後。

第1024話 モバの看取り

「センセ、お願いッ!」
「見逃してッ!」
「まだ、なんも言ってませんッ!」

「んで、ナニ?」
「Dセンセ、代休でしょ。午後は」
「あ、んで見んかったんか。お隠れしたんかと思うた」

「んなわけないでしょッ。んで、Wさん」
「あ、代行ね。ラジャッ」で受話器置いて、ステーションにぶっ飛んでゆけば。
「いつもより速いですねー、尻軽う、でも駆けっこビリい」

「んじゃ、そう言うことで。達者で暮らせ。おろ?モニター、脈が25っちゃ何?」
「心電図好きのセンセだから、すぐ気づくとは思ったけど。あれがWさん」
「意識ある?無いやろなー。飯食えんんやろなー、文句が言えんやろなー」

「ご本人はDNRで、身寄りが無くて。もしもの時は、献体と言うことで」
「あらまー、そんなすごい方。何処何処。ワシ代理しちゃう」で病室30020号へ。
「こういう場面は、MIHIセンセが一番似合うからお呼びしたんです。ウウウ・・・」

「似合うの意味がワカランけど。しかし優しいねー、婦長さんは。泣いてくれるんだ。
んでも、ハグはせんよ」
「当たり前でしょ、そんなことしたらぶっ飛ばしますわヨ」

「しかしWさん、綺麗じゃねー。長患いの割には」
「午前中にお風呂して、栄養ドリンクも飲んだし。んで、さっきから。ウウウ・・・」
「んで、こざっぱりしてるんだ」

「Wさんは、東京からいらしたんですよ。お元気だった頃から、楚々としてたそうです」
「モバじゃったワケね」
「モバって?」

「モダンばあちゃんの略」
「そうなんですよ。しかも、亡くなったら献体」
「わしの後輩がお世話になるんじゃ、よろしくね」

「瞳孔開いてきたわ、んじゃご臨終でエエ?」
「あ、ハイ。お世話になりました」
「ワシ、こういう場面になるといつも心の中で言うんよ」

「なんて?」
「あの世でワシの親に出会ったら、MIHIセンセにこっちへ送ってもろうたんじゃって。
最後の最後で、痛いことはゼンゼンせんじゃったから。感謝してるってを、オマケで」

「それが似合うとこ」
「センセの娘さん達には、二人ずつ孫。初孫記念に、酒止めたセンセも元気そうじゃった。
あの分じゃ、当分は来んやろって言うてね!って。あっちで、歓迎してくれるかもな」

「ウウウ・・・泣かせるウ」
「んで、義理のばっちゃんに出会ったら。今んとこ、貴方の夜叉孫が2人になったって。
ヒマじゃったら、オマケしとってねって」

「お世話になりました、じゃ今からエンゼルケアをします」」
「しかし、Wさんはべっぴんさんじゃね」

看取りのリップサービスをぼそっと呟く、午後。

第1023話 緊張解成功(にはつめで)

「アララ、どうしたんです?その首」
「歳を取って多少縮んだかも、骨の数は変わらんと思う」
白衣どうした、定番の蝶ネクタイは?みたいにスタッフが驚く中。

仕方がないから、翌日に久しぶりの手結びボウタイ。
腰痛で緊張ストレス、手結びよりピアネスタイプばかりだった。
やっぱ予想通り一発で決まらず、腰痛前を思い出し緊張解れて二発目で成功。

例年、5月連休明けにボウタイの衣替えをするけど。
昨日の気温、4月というのに28度。激暑に耐えられず。外した。
で、ケーシータイプの白衣に着替えて。文句ある?褒めてみん?

トイレ鏡前、私でも医者に見えるから世界7不思議。
ナースに医者みたい!って言われ、「私は誰?私は踊り子?」ツッコミ入れる。
流石にブーイング「さぶー」連発で、体温5度低下で撃沈。

帰宅して下がった体温を8度上げる湯船、取り出した鼻笛。
鼻の位置、口の形、鼻息の出し方。腰痛で忘却3ヶ月の彼方。
出しやすい音階で選んだのは、「22歳の別れ」一発目。
次は初めての「故郷」、緊張解れて二発目で成功の心地良さ。

緊張が解れると初めてでも二発目で成功の、週末。

第1022話 緊急執筆依頼(わしにまかせてね)

「センセえ、これ・・・」で差し出された、シーラカンス的フロッピーディスク。
「お歳暮には早いし、お中元は過ぎたし。誕生祝いも、10ヶ月先だし」
「使い古しのフロッピー1枚で、どれもOKなんですか。安ッ」

「んで、これで折り鶴でも折っちゃうの?」
「折れるモンなら、いかようにでも」
「よーし。目標、千羽鶴」

「ちょ、ちょっと。ジョーダンが通じないんですか、センセは」
「3つ折りが限度かも・・・、んでも頑張れば。4つ折りで、バラバラに」
「や、止めて下さいッ。頑張らないでッ、見逃してッ。病院新聞の原稿ッ!」

「ヘッ、原稿依頼か。2度の飯より好きな」
「3度の飯じゃ?」
「朝はパン食なんよ」

「そういう問題じゃ」
「どういう問題について、書けばエエの?」
「センセにテーマを与えても、無視でしょ。勝手に変えるでしょッ」

「皆まで言うな、好きに書いてエエっちゅーことやろ。笹舟に乗った気で、任せなさい」
「かなり、やばくない(語尾上げで)」
「いわゆる、末は土左衛門(語尾上げで)」

穴埋めの駄文でも、緊急原稿頼みは阿吽の呼吸でワシに任せてね。
速攻で書けるのは、せいぜい2000文字程度かな?じっくり攻めるには短かすぎ。
急な臨床研究論文執筆は、鉛のどてらを纏っているように重い。

第1021話 医師男限

「センセ、オネガイが」
「借金と男の紹介は、無理無理」
「まあそういう言わず。男の方なら、2,3人イケメンを・・・。んじゃなくて」

「金は無いッ!今のワシの財布に、お札はないッ!コインもないッ!」
「Eさんなんですけどオ」
「Eさんって、ワシ担当じゃったっけ?とうとう、来るものが来たか。困った」

「そうなんですよ、困ってるんです。男で」
「やっぱ、男を紹介して欲しいんやろ?ワシの同級生、遙かにアラカンオーバー」
「そんなジジイ、要りませんッ!大丈夫イ、Eさんの担当はBセンセですけど」

「んじゃ、そう言うことで。よしなに計らえ」
「んで、男」
「男男って、しつこいぞッ」

「Bセンセは、女。Eさんも女。だから、男じゃなくちゃイカンらしい」
「ワケ分からんけど、エかった。ワシも、キムタク似の男と見られて」
「見えてませんけど、キムタク似。顔を見せて、言って欲しいんです」

「Eさんは、98歳じゃから。男は諦めろってか?」
「女はいつまで経っても女、男はいつまで経ってもガキ」
「意味分かりませんけど、結局ワシはどうしたら?」

「Eさんの前に顔を出して、骨折は3日じゃ治らないって。言うて欲しい」
「そんなん、Bセンセが言えばエかろう」
「それが男じゃなくちゃ、イカンのですわ。美白のあたしが、付き添いますから」

「び、美白の真っ黒。そんなん楽勝やん。ナンかおもろい展開で、行っちゃう?」
「お手柔らかに」
「はあーい、Eさん。お元気かねー」
「あら、男のセンセ。あたしの折れた腕は、直ぐ治るでしょ?」

「まっ、軽く見積もって1ヶ月じゃね。だんだん良くなるけど」
「そんなにかかるんですか。お世話になったDセンセは、Y病院に行って。
男のセンセに見て貰ったら、3日で治るって」

「んな無茶な」
「んで、男のセンセを呼んでおくれって言うた」
「そら何かの勘違いやで、男のセンセじゃなくて。男の看護婦さんやろ?」

「看護師さんなら男の方も居ってもエエけど、看護婦さんで男は・・・」
「大丈夫、ここに世界初の男の看護婦さんが居るで。ほれ!ここに」
「ヘッ、あたし?じょ、ジョーダンじゃありませんよ」

「染色体検査してないやろ?」
「ウウ・・・いつか蹴りを・・・」
「んじゃ、そう言うことで入院は最低1ヶ月ね」

「そういうモンか」
「そういうモンじゃ。んじゃ、お大事にっと」
「お世話になりましたア」
「お世話しましたア」

男と思われて一安心、小指が立っちゃう午後。

第1020話 外来指名料し(ちゃとうめぼし)

「センセ、ちょっとお聞きしたいことが」
「低血糖には、フツーのコーラがエエ?とか。あんたが飲んだら、デブるか?とか」
「あたしは、選りすぐりのアルコールしか飲みませんッ!」

「メチルかエチルか、どっち?みたいな。ワシって、どっちも飲んだこと無い人。
あんた、いっぺんやって見せてくれん?すっごい興味津々、気になる」
「ナンで、あたしがそこまでセンセのために献身的に?んじゃなくて」

「ウオッカ静注して全力疾走は、何メーターまで可能か?とか」
「いい加減にしなさい!と突っ込んで。R施設のSさんから、お電話」
「イチゴのショートケーキは、カロリー多い。あんたは、こんにゃくゼリー」

「黙れエ、喋るなー、聞けエー」
「ホウホウ、そう来るなら。エイッ!」の3秒後。
「コラあ、電話切るナー。Sさんが、風邪ひいたって」

「そら風邪もひかねば、人間じゃない。あんたは、風邪ひかん生物(語尾上げで)」
「んで、センセご指名」
「おろ、ワシって。何時から、カリスマ・ホスト?」

「そんなエエモンじゃ、ありませんッ!」
「今日はワシって、外来日じゃないよな。ツーことは、先ずは外来担当のセンセ」
「どーしても、診ないんですね?」

「診ない事は無いけど、指名料は高い」
「し、指名料ですかッ」
「場末のホストでも、指名すりゃ指名料が要るやろ。見たこと無いけど」

「あたしも、経験無いけど。ちなみに指名料は?いかほど」
「ここだけの話やで。ま、6つか7つも頂けりゃ」
「猫いらず?」

「ハイ、ゴックンコロリの。んじゃなくて」
「んじゃ、青酸カリ?」
「殺す気か!んじゃ、正解は217択で」

「もう結構ですッ!こんな会話してる間に、診れるでしょッ」
「んじゃ、診るわ」
「あ、今は風船バレーで忙しいから。1時間後に来るらしい」

待つ間に外来指名料として渋いお茶1杯と梅干し1個!の、午後。

第1019話 延命処置拒否る(でぃえぬえーあーる)

「んじゃ、Rさんのケースカンファです。よろしくオネガイします」
「ハイ、主人(患者さん)共々聞かせていただきます」
「経過は写真付きで作ってありますので、お二人で見て下さい。後はそれぞれ」

「あら、男前に写って。貴方じゃないみたい」
「写真は正直で。あそこの掲示板のレク写真見たら、アホ面写りのスタッフばっか。
まるで全員、面白修正したような」

「コホン。さ、ちゃんと進めて下さいね」
「あ、どうも。そう言うことで・・・」
一通り医療介護スタッフ・リハスタッフの説明が終わった。

「んで、ナニか質問、疑問、文句は有りませんか?」
「文句なんて」
「イエイエ、期待されているから文句があるワケで。期待されていなかったら、まんま」

「文句はないけど、ワシから1つ。聞いてもエエでしょうか?」患者さん。
「ハイ、なんでも」
「この最後の方で、入院予約時にDNARを確認したって。ワシのDNARっちゃ、ナニ?」

「あ。それは入院される方かご家族に、全員聞いてることなんですけどネ。
あんまり告知をしなかった昔は、MKなんて言うとホントは胃がんじゃけど。
患者さんがMKに気がついたら、ドイツ語で胃疾患の頭文字でMKなんて」

「んじゃ、ワシのDNARは?」
「どんどん治るネ!あ了解!の略で、DNARなんて言いませんよ」
「そうでしょうね、全部日本語ですモンね。それなら、ドナアリでしょ」

「そういう言い方は、知らんじゃった。今度どこかで使うとして。
昔はDNRで”do not resuscitate :蘇生(そせい)させないで”の略。最近は、変わった。
DNAR (Do Not Attempt Resuscitation)と呼ぶ」
まあ簡単に言うと、やたらめったら管突っ込んだりして生き返らせるな!かな」

「そらそうじゃ。文句も言えんで息も機械がして、薬で血圧上げて貰って。
シッコの管やら、鼻の穴に管入れられたり、のど仏に穴開けて管。飯も管。
ジョーダンやない。挙げ句に床ずれまで作られて、腰に穴じゃ生きた心地せん」

「ワシもそう思うから、奥さんに言うとるんよ。医者からどうする?って聞かれたら。
DNARでオネガイしますって、言ってねって」
「んじゃセンセのDNARとワシのDNARは同じやな?あ、それならエかろう」

延命拒否はDNARの、午後。

第1018話 婆殺人方法ん(はものいらん)

「センセ、Kさんですけど。ご相談が」
「縄跳びはちょっとなー、ましてや二重跳びはワシでも」
「自慢じゃないけど、あたしだって。んじゃなくて、完全自宅熱中症」

「んでも、母思いの嫁が1人居るやろ」
「それがー、思いすぎて。節電と過保護(語尾上げで)」
「ワケ分からんけど」

「エアコン切って、扇風機は止めて。窓は閉め切って」
「そんなことしたら、ばっちゃんの干物が出来るで」
「でしょ、でしょ。んで、嫁さんが言うんですよ。この部屋の湿度は37パーって」

「干物系?んで、ばっちゃんは?」
「熱が38度」
「そらあんた、熱中症やん。直ぐカモン」

「でも、治って帰ったら。また同じ二の舞」
「二でも三でも、踊っちゃうワケね」
「ハイ、困ってしまうんですよ。その点、与太郎ちゃんは快適エアコン」

「息子がおるんか、それって家庭内暴力ちゃうん?」
「噛むとか、シッコをかけるとかはしませんよ」
「息子、危なくない(語尾上げで)」

「吠えないし、尻尾振るし」
「悪魔か、野獣かッ!」
「犬です、チワワッ」

「犬の分際で、ばっちゃん干物。ワンちゃん絶好調は、許せんッ」
「んで、38度」
「取りあえず、2,3日入院で」

病院はエアコン効いて、2,3日点滴すれば即退院OK。
「Kさんのお嫁さんをお連れしましたけど、ナンか一言」
「よっしゃ、任せてね。あんたは席を外してね」

廊下の隅っこで、ボソボソ2分。
「んじゃ、Kさん元気でな。また会おうや」
「ハイ、お世話になりました」

で消えて4日後。
「センセ、凄ーい。Kさんのお部屋、訪問したら27度。超快適」
「ワシの凄さを実感したやろ?ワシ・マジックや」

「確かに今日訪問したら、ワンちゃんとKおばあちゃん。仲良く涼しい大部屋で、お昼寝。
この2ヶ月、ナンだったんやろ。あれだけしつこく、熱中症のこと言ったのに」
「ワシも言うたで、熱中症のこと」

「どう言うと、あんなに手のひらを返したように変わるんですウ。すっごい、知りたい」
「ま、あんたにゃ1000年早いわ。修行なさいませ。ワシなんか、山にこもって300年。
テキトー道を究めると、ざっとこんなモンだぜ」

で、撤収する訪看ナースを見送りつつ。
<まさか、「ばっちゃん殺すにゃ、刃物は要らん。エアコンと扇風機のスイッチ切って。
部屋しっめきったら、2日でミイラじゃ」って言ったとは。口が裂けても・・・>

素敵エアコン自室で、快適エアコンKばっちゃんの笑顔を思い浮かべる午後。

第1017話 回診気分(るんるん)

「外来ですけどオ、一人処方していただきたいんですウ。いま、センセは医局ですか?
あ、んじゃ。そちらへ行きます」
「来なくて良いッ!来るなッ!見逃してッ!ラウンドに行くんだかんね、今すぐ」

「あー、ゼッタイ怪しい。そう言われると、燃えやすい体質ですから」の2分後。
「失礼しまーす。んで、このカルテになります。しかし、いつも気になるんですけど」
「ワシの体重は、気にしなくてエエんよ」

「ゼンゼン気にしてませんけど、ナンかここへ来ると甘ったるい臭いが」
「ワシの甘い性格の良さが、香るんやろか?」
「詰めの甘さなら、プンプン。あら、センセは紅茶派でしたっけ?コーヒー党じゃ?」

「あ、ワシって。ご先祖さんが英国紳士じゃったんで、紅茶にクッキー。
ビールはノンアルコール、ナイトウエアはシャネル製で屁の38番」
「ハイハイ。ごじゃごじゃ言わずに処方箋をとっとと書いて、直ぐラウンドッ!」
「んじゃ、ネタ探しの旅に出るか」で医局を飛び出し、病棟徘徊へ。

「こんちわー、Bさん。今日も元気で、リハビリが楽しいー。んじゃ頑張るぞ、オー。
ハイハイ。握手3回、聴診器1回。カステラ1番、電話は2番ってCM知っとる?」
「しかしセンセは元気じゃのー、心配事は無いんか?」

「あるある。Bさんが何時になったら、スキップしてお家へ帰られるか?それが心配」
「いくら何でも、この足でスキップは・・・」
「ワカランで、リハビリやってみんと。んじゃ、行ってらっしゃいませえー」

「んで、お隣のMさん。ワシ担当じゃないけど、次は貴方の番。リハ行くぞー、オー」
「しかしセンセは、心配事があるようには見えんなー」
「んじゃ、先を急がないラウンドじゃけど。ハイ、お大事に。お気張りやす」

「あのセンセの回診は、えろう楽しそうじゃのー。どうなっとるんかのー」を後頭部に。
「ハあーイ、Dさん。18時間見んじゃったけど、元気じゃったね?」
「生きとる」

「死んでるようには見えんし、生きとるから返事も出来る。んで、今日は点滴じゃけど。
明日はどうしようか?熱下がったし、胸の音もエエから。点滴も、もうエエか?」
「あと1本、やっておくれ」

「んー、もうエエよ。茶でも水でも、クイーッと飲んでりゃ。OK、OK」
「センセは気楽じゃのー、エエ商売じゃのー」
「そうなんよ、お気楽テキトーが長生きの秘訣やで。んで、ラウンドも(語尾上げで)」

回診気分はルンルンの、午後。

第1016話 忘却幸(どっち)

「えー、そんなこと。誰も言わんでしょッ」
「んにゃ、言われた。はっきり、くっきり」
「んじゃ、誰が言うたんです」

「んーと、んーと」
「10年も居って、マダ名前を覚えていないんですウ。ボケてない(語尾上げで)」
「んーと。ばあちゃんが、リウマチで。じいちゃんが、糖尿で食べ放題命」

「本人情報は?」
「飼ってる犬が、アホ面の」
「更に、本人に迫る情報は?」

「旦那の頭のてっぺん横3cmにハゲが、ある。これは、かなり接近した情報じゃね」
「ですかねー、ゼンゼンでしょ」
「ニックネームなら、直ぐ」

「んじゃ、そっちでオネガイします」
「見逃しチくれ、殺される」
「殺されるようなニックネームなら、是非お聞きしたい」

「出直してエエ?」
「どーせ出直すって消えて、廊下に貼ってあるスタッフの写真を見るんでしょ」
「んじゃ、拙者先を急ぐ旅ゆえ。お女中、やせ犬に餌やれよ。1日3回」

「犬は1日2食で良いんです」
「そんなズルしたら、エンガチョやで。自分ばっか、1日6食」
「6食と夜食ですッ!」

「んじゃ、アホ面犬の飯は?」
「ゼッタイ2食ッ!3食はデブるから、回数だけは忘れませんッ」
「たまには忘れて、3食にしてあげてね」

忘れるのはどっちが幸せ?の、午後。

第1015話 燃えるちょっと

「センセ。明日、退院するPさんですけどオ」ケータイから聞こえる。
「スキップにするか、爆走で帰るか悩んでるとか?」
「んなはず無いでしょッ!右片麻痺ですから。湿布オネガイします、軟膏も」

「よっしゃ、お任せ。湿布軽トラ1台分と、軟膏は全身塗りたくり3万本」
「バカ言わないで下さい、ほどほどって言葉を知りませんか?」
「適切にとか、きちっととか、しっかりなら」

「何処かの政治家っすね。ハイハイ、テキトーで結構ですッ。直ぐ来られます?」
「あ、5分後になります。エかったでしょうか」で15分経過すると、ケータイぴりり。
「センセ、今どこ?」

「今は、*病棟。あと20分はかかりそう」
「んじゃ、20分後ですね。湿布と軟膏の処方箋」
「タブン、恐らく、無理かも。見逃してくれん?あ、どーしてもダメ!」

「んで、ナニしてるんですウ」
「男として死ぬか生きるかの、瀬戸際じゃッ」
「またまた、ご冗談を。メタボかぽっちゃりの、瀬戸際でしょッ」

「あと5分ネッ」で、10分後に現れたステーション。
「んーもー。薬剤部に行かずに、ずーっと待ってたんじゃから。遅いッ」
「どーせ、Dちゃんとヘラヘラしながら待っとったんやろ。どーせ。
んでも、Pさんの退院は明日やん。30時間以上有るで」

「気になるし、忘れたらイカンと思って。んで、ナニしてたんですか?」
「病棟で、男として死ぬか生きるかの瀬戸際っちゃ。レクのフーセンバレーッ。
汗びっちょじゃ。フィー、あぢぢ。Zさん、本気なんじゃモン」

「その汗から想像するに、本気はセンセでしょ?」
「センセお入りなさいませ。ちょっとだけって、言われて引き下がるわけにも行かず。
ついちょっとが。20分経ち、35分経ち。あれって盛り上がるなー、ホント」

「盛り上がったのは、MIHIセンセだけでしょ」
「Pさんだって、麻痺側の手がちょとだけ上がったで。彼は、本気じゃ」
「Zさんは知ってるんですよ。MIHIセンセは、フーセン・バレーなら燃えるって」

「一旦足を踏み入れたら最後。蟻地獄のZさんに、ありんこのMIHIセンセ」
「キャー、お助けを−。お代官様アー、みたいな」
「ハイハイ、ごじゃごじゃ言わずに、湿布と軟膏うッ!」

「今度のフーセン・バレー大会は、何時やろ。また燃えるデ。
ちょっとだけ、参加しよ。んで何時やるか、あんた知らん?」
「知りませんッ」

ちょっとに燃える、午後。

第1014話 講演会は傘が無い

「ヘッヘッヘ、センセ」
「フェ?確かに仰るとおり、暑つうござりまする。んじゃ、そう言うことで」
「あたし今来たばっか、なーんも言うてませんけど」

「禁酒歴15年、ビアガーデンは縁がない。聞いてるだけで腹が立ってきたから、帰る?」
「あたしは甘党で、飲みませんけど」
「ビールに硫酸混ぜて飲むなんて、エエ趣味してるやないの」
「混ぜるな塩酸、飲むならクエン酸」
「んじゃ、んじゃ」

「センセ、センセッ!もうこのくらいで見逃していただけません?
それより何より、夏はやっぱ講演会でしょ。そうですよねー、ゼッタイ」
「あんたナニ言っちゃってくれて、ジョーダンじゃないでしょ。夏の講演会」

「明日は雨模様ナンで、そう言う時のセンセ頼み。ナムう」
「医者は傘が嫌い、講演会を嫌うのよねー。雨が降ると」
「そうなんですよ、困ってしまって猫にゃんにゃんですわ」

「おろ、未だ余裕有るやんか。んじゃ、雨乞いでも」
「止めて下さいよ。甲子園球児、てるてる丸坊主」
「そうなんよ、母校の300キロ隣の高校がセンバツに」

「センセの出身は、何処?」
「流れ流れて北は仙台から、南は長州。その前は讃岐、しこうしてその実体は・・・」
「早乙女主水の介みたいな。ところでナンの話してましたっけ?あたしたち」

「3色ボールペン2本おいて、とっとと帰ろうかなんて」
「そうでしたっけ。んじゃ、黒一色1本。んじゃ、失礼しまーす」

パンフとタクシーチケットを細かく刻んで腰を労る、午後。

第1013話 短絡希望盛上で(しょーとかっとで)

「センセ、センセ。来て、来て」
「あのな、ワシはあんたのパシリとちゃうで。ましてや旦那でもない」
「パシリは良いとして、ナニが悲しくて旦那」

「んじゃ、そう言うことで。お女中、達者で暮らせ」
「んじゃなくてエ、ショートカット」
「確かに気になる、あんたのヘアは尋常じゃないショートカット」

「またまた、んじゃなくて。パソコンのが消えた、ショートカット」
「消えても、なんぼでも作れるで。ご希望なら、1000個でも3万個でも」
「画面から、溢れるでしょッ」

「んじゃ、7つほど」
「1つで結構ですッ」
「んじゃ、こうしよう。作り方教えるから、霊安室で」

「真夏でもサブイところで、お経をあげながら?」
「んにゃ、線香を4本頭に刺して」
「ヤツハカ村より怖いじゃないですか。んで、何故ゆえに霊安室」

「今のワシは、ショートカットを霊安室で教えたい気分なんよ」
「んじゃ、コピー用紙で三角作って、おでこに貼りますから。少々お待ちを」
「そこまで凝る必要は、無いと思うけど」
ショートカットのレクチュアを1分で終える。

やっぱショートカットは良いよねの、翌週。
「センセの定期処方箋、出せばエエってもんじゃないっしょ」
「んじゃ、なにか。さ来月の定期処方を出すと、隕石が地球にぶち当たる?」
「どうせなら、センセの頭にぶち当たって欲しい」
「痛いやろ、後遺症で3円ハゲが出来たら。責任者は、宇宙人か?」

「なんで定期処方箋の話が、宇宙人に行き着くんですウ」
「んだから、話はシンプルにってことを言いたいワケ」
「ワケ分かりませんけど、単刀直入にですね」

「もっとわかりやすく言えば、あんたの体型みたいに」
「やだ、センセったらア。こんなにスマートで8頭身」
「そうそう、楕円形体型」
「喧嘩売ってません、因縁ふっかけてません、蹴り入れてほしがってません?」

「質問短く、足短く、余命短く。ショートカットで」
「んじゃ、7歩譲って。来月の分は、せめて2週間前でネッ。ショートカットで」
「そのショートカットの使い方、ヘン。ヘンのついでに、頼みがあるんじゃけど」

「最短でオネガイされるならエエですよ、忙しいんだから」
「Sさんをお見送りした時に、忘れもの。んで、霊安室」
「皆まで仰らなくても、センセのために渦巻きの線香に着火」
「ワシはヤブ蚊かッ!」
「藪医者」

ショートカットで盛り上がる、午後。

第1012話 誤解されても巻くしかないッ夏

「失礼しまーす。キャー」がこだまする図書室。
「ナニがキャーじゃ。じゃかあしい、集中出来ん」
「ナニしてるんですか、こんなところで」

「見たら分かるやろ、屁こいて寝てるように見えるか」
「ハイ」
「ブタが見ても、丸虫が見ても。文句なく、筋トレやで。これ」

「ソフトSM」
「腰痛予防と足の痛みに、ラバーで筋トレ」
「膝はど派手なオレンジで、首は真っ青な帯?」

「あ、これは冷え冷えベルト。ちめたくて、気色エエー」
「調べ物をしようと思うんですけど、なんか気持ちが萎えて・・・」
「あ、気にしなくてエエんよ。どんどん脳みそ鍛えてね。あと10分で終わる」

「ネエネエ、Pちゃんどうするウ?」
「気にしない、看護研究の資料の方が先でしょ」
「ウック、ウー。そうそう気にしないでエエんよ、ゼンゼン。ウック、ウー」

「んでPちゃん、深部体温だったわよね」
「ホウホウ。ウック、ウー。足湯と徘徊に、深部体温がキーワードね。ウック、ウー」
「お静かにッ!その、ウック、ウーが気になって。集中出来ないでしょッ」

「ウック、ウー。黙って筋トレは、集中しにくい。ウック、ウー」
「あーあと20分しかないわ、昼休み」
「ウック、ウー。あと5分で、読書タイム。ウック、ウー」

「センセ、センセ。一気に冷えて、筋肉がカチンカチンになる方法があるけど。
聞きたいでしょ。しかも5分もあれば片が付く」
「エエね、エエね。んで、片が付くってのが気になるけど」

「冷え冷えベルトの代わりに、ロープをセンセの首に巻いて。みんなで一斉に引っ張る。
5分もすれば、ハイできあがりイ。夏は、ロープを巻くしかないッ」
「そらホンマモンのSMじゃん、死ぬじゃん、ダメじゃん、ワシの人生アウトじゃん」

「体は冷えて、筋肉もカチンカチンに固くなりますけど」
「それ、元へ戻るん?」
「ハイ、お湯をかければ。タブン。エエかも知れない、ダメかも知れない」

穏やかな、翌週午後の図書室。
「失礼しまーす。キャー、センセ。先週も、んで今週も」
「んなにワシの顔が見たいか。くれて進ぜよう、特製ブロマイド」

「ヤダー。一応、看護研究資料確かめに来たんですけど。んで、またソフトSM」
「んじゃないけど、混ぜてあげようか?とってもハードなヤツ」

「ハイ、ハードじゃったらヨロピク。んじゃなくて。やっぱ噂通り、キャーの気分」
「なんや、なんや。何処のアホが噂しとるんじゃ。責任者出てこいッ!」
「さっきは、院内放送で」

「あのな、ワシは筋トレ。何処がキャーじゃ」
「んでソフトSM?両膝そろえて、ゴムバンド巻き付けて。お約束のど派手オレンジ」
「これの何処がSMじゃッ!ムチでしばいたろかッ、蝋燭垂らしたろかッ」
「んじゃ、本物?」

「1セット10回。1日1セットでエエところを、3倍やれば3倍速く治る計算の筋トレ」
「単細胞はそうでしょうねー、確かに。美白八頭身のあたしは、そう簡単じゃ・・・」
「単一組織なまこ女は寸胴で、口からコーモンまで一本道。不思議だよお立ち会い。
あららー。口から水鉄砲チューッで、ケツからピューの単純構造」

「んじゃ、首に巻いてるのは?こうやってきゅーっと締めると、良い具合にあの世へ」
「うっ。し、死ぬ。しかし、また今週もかー。人殺しー」
「ハイハイ、ナンでも言い放題。冥土の土産に、お好きになさいませ」

「んで、この首は・・・」
「骨の数はキリンと同じ、長さバランスはブタと同じ首のことですか?聞き飽きたけど」
「そう、それ。言い飽きたけど。んで。ただの、冷え冷え首ベルト」

「荒縄巻いて、ぎゅーっと思い切り引っ張ると。あらら、不思議なことに全身が冷たく」
「あんたら、結託してワシを逝かせたいワケね。今週も」
「毎週死にたいんですか、しつこく蘇っちゃうんですね。ゾンビみたいな、おぞましー」
「急に冷え冷えベルトが熱くなってきちゃって。冷蔵庫に入れなくっちゃ、いそいそ」

夏に色なモンを巻いていると誤解されそうな、午後。

第1011話 ナンか違うヘン

「センセ、センセッ!」
「あ、どうも。どちらさん?」
「やですよ、あたし。ほれ、美白足長あんど気立てが良すぎる、あ・た・し」

「声はダミ声、ソバカス寸胴軽薄ナースなら」
「残念ですねー、そのようなナースは当病棟には」
「残念ですねー、約11名」

「んじゃ、全員じゃないですかッ!」
「そういう言い方もある」
「そのまんまでしょ、イヤミったらしく」

「なんか、水族館のガラス越しに見られているような。3578歩譲って」
「譲りすぎですッ」
「なんか牛乳瓶の底から、ストーカーされているような。ナンか違うヘン」

「ハイハイ。確かに今日のあたし、コンタクトじゃありませんよ。
なにもそこまで、回りくどい言い方しなくても。ウウウ・・・」
「しかも黒目がパンダみたいな」

「あー、分かりましたア。これって度無しの、黒目拡大コンタクトレンズ。
ちょっと恥ずかしいのと、んでも気がついて欲しいのと。で、縁だけ眼鏡」
「んでも。白目のとこが、ナンか違うヘン」

「センセは気がついて欲しくない所ばっか、気がついて」
「そうやろ、そうやろ。朝起き抜けにすっぴん見て結膜出血?」
「違いますッ!コンタクトレンズ入れようと思って、突っつき回して。充血、ウウウ」

いつも気にしていない見慣れた景色がちょっと変わると、ナンか違うヘンな午後。

第1010話 どっちもゴメン

「はあーい、手を上げてエ。クーッと伸ばすウー」病棟レク前の準備運動中。
「クーッ、クーッと伸ばすと。おっとっとと」
「コラコラ、後ろの方で騒がないッ!なんなら前へ出てきて?んじゃ、最初から?」
「どっちもゴメン。んじゃ、そう言うことで。先を急ぐ旅故、さらば」

ラウンド後のステーションに侵入しようとして、前を横切る車いす。
「おろ、何処へ?」
「Bさんお迎え、リハ室へ」

「行きは空車、帰りは満車の車いす。逆三途の川の渡し船みたいな」
「途中まで乗りますか?それともあたしが乗って、センセが押す」
「んじゃ、そう言うことで。とっととお迎え」

「3キロ先から眩しくて、直ぐ分かっちゃう。ひまわりイエローのポロは、風水?」
「イヤ、特大イエローカード」
「自分に、出すヤツ?」

「ハイ。お粗末様」
「センセー、お電話でーす。2つ同時ですけど、7病棟と23病棟。どっちが先?」
「どっちもゴメンじゃ」

「ダメですッ!ケータイの電源、切ってるでしょ?」
「んなはずねーべ、おろ真っ暗。停電?あんたこれ、お試しでスイッチ入れてみん?」
「あたしら、センセの秘書じゃないんだから。嫁でもないし」

秘書も嫁もどっちもゴメンの、午後。

第1009話 焼かれる夏

「センセ、あたしゃ何時死んでもエエんじゃ」往診でWさんの開口一番。
「そう簡単には死ねんで、多少なりとも金貯めとかんと。墓掃除用とか雑費。
それに、お宅は神さんか仏さんか知らんけど。信心しとるかネ?」

「信心しとるか言われると、悩むわのー。神さんと仏さんは、仲が悪いんか?」
「まあ、商売敵ほどじゃなかろうけど。仲がエエか悪いかは、ワシも知らん。
どっちかがおいでおいで言うたら、どっちかが引っ張って。マダマダやーとか?」

「仲良くしてもらわんとイケンから、お寺と教会をはしごせなアカンか?」
「それに、近所のモンが2,3人は葬式に来てもらわんとイケンじゃろ。
息子さん一人でお通夜とか焼き場も葬式もじゃったら、Wさん寂しかろう」

「そらそうじゃ。多少は、賑やかしが居らんと」
「近所の人が祭壇の写真見て、Wさんがエエ人じゃったなーって思って欲しいじゃろ」
「そらそうじゃけど、自信ない」

「そう思ったら。近所の人に、多少はエエ顔見せとかんとイカン」
「当分死ねんじゃないか。あたしゃ、早う四角い箱に入りたいで」
「エアコンなしの箱に入ったら、熱中症でどうにかなるで」

「暑がりじゃから、それは困る」
「ドライアイスを入れてもろうても、あとに3000度とか4000度が待っとるで。
こんがり焼かれたら、この猛暑じゃタマランやろ」

「んじゃ、寒くなったらエエじゃろ。秋を待つか」
「秋の気配は遠いで。炎天下は紫外線たっぷりやで」

外に出てWさんより先に焼かれる夏。

第1008話 暑ッ!(さむっ!)

「寒ッ!看護婦さん、毛布出してくれ」
「Zさん、この暑いのに寒いだなんて。幸せモンじゃねー」ナースB。
「わしゃ、不幸せでエエんじゃ」

「んじゃ、タオルケット2枚でエエですか?」
「しょうがないの−、凍りそうじゃ」
「フィーッ、あぢぢ」

「ほらほら、こういうセンセも居るでしょッ」
「フツーじゃないで」
「夏は暑いモンじゃろ、北半球は。んで、あぢぢじゃ」

「んだから、センセが暑い暑いって言うと50度は室温が上がるわ」
「あぢぢは、あぢぢじゃろ?サブくてあぢぢは、脳みそとろけたあんたぐらいか」
「んまっ、失礼な。皮膚すべすべ、美白、しわ無し。敏感肌ですよッ」

「ホエ?脳みそがツルツル、軽薄、しわ無し。鈍感肌なん」
「何処に耳を付けてんですかッ!」
「んー、目尻から外へおよそ10.33cm」

「どこが、およそなんですかッ!」
「しかし、あぢぢー」
「んもー暑苦しい。今度から、罰金\30ね」

「んじゃやっぱ、罰金に消費税?」
「世の中ナンでも消費税じゃのー、今のワシに無いのは戒名だけ」しみじみZさん。
「んじゃ、あっぢぢ。\31でつりは要らネエ、取っときな。オイラ、太っ腹だイ」
「ウッセ」

これで室温が0.7度は上がった、午後。

第1007話 昔若今要注意心電図

「不完全右脚ブロックの一部がミョーなんだよなー、気にしなくてもエエけど」
25年前なら「放っておいてエエ」は、何事もなかった様に時が流れ。
今は検診で良く見りゃやっぱヘンで、ブルガダ症候群かもーとなり。
結局は、精査でペースメーカー植え込みが検討されたり。

「おろ?Pさんの心電図。イヤイヤ。若いね−、青いね−」
「ワシより30も若いセンセに言われると、嬉しい様な照れる様な」
そんな会話が、25年前には交わされていたのですが。

循環器の医師なら高い評価の雑誌「Circulation」に、載ったんですね−。
(ちなみに、Circulation(2011;123:2931-2937)
4人に1人出現する一般的所見、「QRS-ST接合部のノッチとかスラー」。
放射線影響研究所長  春田大輔先生の50年の調査じゃちょいと心配?

これは、特発性心室細動と関連するらしい。
一般人口における早期再分極発現率は、23.9%だったそうで。
そして、将来の「突然死リスクを1.83倍高めるとか。
検診でこいつを見ることもたまにあるので、そういう時に所見に何て書けば?

昔見たら良いけど今見たら要注意の、心電図。

引用;Medical Tribune.2011.7.28 P75

第1006話 点滴確保(ひやあせ)

「センセ、Gさんですけどオ」
「ヘッ。Gさんが丼飯、3杯?」
「んなはず無いでしょッ!」

「確かに、カリスマ食介(食事介助)師匠のワシでさえスプーンが踊らなかった」
「お盆とか団扇とかで、裸踊りの?」
「図星じゃけど、無視無視。認知症の拒食は、謎が多いなー」

「お腹が、空かないんですかねー」
「あんたじゃったら、飯食った後でも塩大福なら3個は軽い?」
「イエイエ、4つでも5つでも」

「それが毎食3口とか5口じゃ、フツーは腹減るわな」
「摂食中枢の問題でしょうか?」
「あんたと同じ問題を抱えてるけど、逆の意味で」

「んでチアノーゼ、出てません?」
「脱水症で、末梢循環が悪いんやろなー。点滴は抜く?」
「ハイ、しょっちゅう。経管栄養も中心静脈栄養も、抜くでしょうねー」

「困ったねー」
「困っちゃって、点滴しようにも血管が糸みたいに・・・」
「ここ、ここはたこ糸くらいあるで。ここに入れちゃって、エエよ」

「んだからア、誰が?」
「あんたが」
「イエ、無理。センセが」

「ウー、30年ぶりの翼状針やで。しかも、こんな針より細い血管に」
「んじゃ、じゃんけん。あ、こうしましょ」
「どうしましょ?」

「キムタク似のセンセは、手を上げてエー」
「ハーイ」
「ハイッ、お目出度うござい。大当たり。翼状針で、Gさんに点滴出来る特典ッ!」

「目出度さも中ぐらいなり、おらが夏。んで、キムタクならスパッとかね?やっぱ」
「そらそう、キムタク似ならスパッと翼状針が入るでしょッ」
「福山雅治は、自信ないけど。ハイハイ、翼状針に酒精綿ですよッと」

「ウ−、緊張するなー。おろ、入ったで」
「ブタもおだてりゃ木に登る、MIHIセンセもおだてりゃ血管に入る翼状針。
明日から、点滴が準備出来たらすぐお呼びしますね。キムタク似センセ」
「ワシ、明日からキムタク似じゃなくてエエから。呼ばないでね」

久しぶりの点滴で冷汗の、午後。

第1005話 自分姿想像(さぶくなる)

「センセ。最近、白衣の上は?」
「暑い、クールビズ。インディアンもオテモヤンも、ウソつかない」
「んでも、毎日日替わりでポロですわね。インディアンも、オテモヤンも」

「手持ちがあと2週間分はあるから、取っかえ引っかえで大丈夫」
「暖色系と寒色系を交互なんて、一応は気を遣ってるんでですね」
「まあね。ブルックスか、ラルフか。はたまた、ユニか」

「色の鮮やかさと言うか、襟の立ち方で。やや難ありは、後の方ですかね」
「あ、Pちゃん。Zセンセがハンゲコウボクナンジャラホイを処方よ」ナースB。
「効くんですかねー、ナンジャラホイは」ナースV。

「効くんでしょ、タブン。スタッフから症状聞いて、処方したから」ナースV。
「ワシって、あの手の薬が苦手な人。診察せずに、しかもスタフ情報で」
「それでエエんじゃ?」ナースB。

「ショウの診察がよーワカランから、裏や表や。はたまた、陰陽。
挙げ句の果てに、上品下品。その上、カイジャリとか会者定離まで。
最近じゃ、丸3角237角にハッカク。ツイッターで大評判」

「そんなんありましたア?」
「129角には、やや難あり」
「んで、ポロの色が真っ赤なんですね。ズボンが白で、色的に全身おめでたい」

「目出度さも中ぐらいなり、あんたの出腹って。松尾芭蕉じゃったっけ?。
それとも、レディーゲゲじゃったか?」
「それって、かなり難ありますわね。んで、あたし的にもムカツク」

「手持ちが全部出払ったら、ナンにしよ?」
「ぐるっと回って、冬物で?我慢大会みたいな」
「グルグル回って、シャネルの5番?テヘッ、マリリン似?」

「それって、吐きそうなくらいの難ありですわ」
「ワシも、同じく」

言った後で自分の姿を想像してサブくなる、午後。

第1004話 麦粒腫にはサカキ

「センセ、Qさんなんですけどオ」
「ニューハーフになったとか?」
「んなワケ無いでしょッ!んじゃなくて。メバチ」

「カブトを焼いたら、美味いヤツ」
「煮魚でも美味しい。んじゃなくて、目ですよ。目」
「目玉が好きって、通やのー」

「あ。メイボですよ、メイボ」
「なんやそれ、相棒の友達?」
「目の横に小さい黄色いプツーッとした、ニキビみたいな」

「あ、麦粒腫ね。周辺は、腫れてない・・・んじゃ、そのまま経過観察ウ」
「センセ、知ってます?サカキの葉っぱを火で焙って、目の上に貼ると治るって」
「あんたは魔女か?祈祷師か?鬼婆か?」

「んでも、ウチのバッちゃまが」
「魔女の?」
「フツーの」
「山姥の?」
「しつこいッ!フツーの」

「んじゃ、ウチの庭にサカキがあるから。マル焦げにして、持って来よ」
「焙り方が難しいらしいんですよ、バッちゃん曰わく」
「んじゃ、焙り方を聞いてきて」

「3年前に、既に」
「んじゃ、イタコに頼んで聞いてみてネ」
「イタコの知り合いは居ませんッ!」

ネット検索で「ご近所のイタコサイト」を検索する、午後。

第1003話 手出力(にてる)

「おっはよー、今日も頑張ってリハビリ行くぞオー。じゃね、Bさん」
「しかし、センセだけ元気じゃのー」
「Bさんも、平行棒で5m往復出来るようになったらしいやん。凄いやん」

「まあな、んじゃ。センセに手を握ってもろうて、行ってくるわ」
「手でも足でも、何処でも握る。ついでにハグは?あ、暑苦しい」
「お隣のUさんも、MIHIセンセに手エ握ってもらいたいって」

「そらエエけど、担当じゃなくてエエ?」
「たまには、エエって。気分転換に」
「んじゃ、気分転換に。ニギニギと。ヘッ、ついでに聴診器も?エエよ」

「気が済んだ」
「ついでにハグも?あ、暑苦しい」
「MIHIセンセは、冬向きですモンね」介入するナースV。

「そう言うことをいうヤツは、お仕置きでハグ・・・はしない」
「結構ですッ!昨日の栃木ピョン様ショーの記憶が飛ぶから、止めて下さいよ。
DVDボックス¥3万なにがしで、ゲットした入場券。行きましたわよ」

「やっぱ、与作とか矢切の渡しとか。コブシころころで?」
「キャー、イメージがダメージ」
「んじゃ、寸劇か?まぶたの母とか?」

「どさまわり劇団じゃないっつーの」
「んじゃ、まさかトーク?」
「そのまさか」

「彼は日本語上手ナン?」
「片言で、皆さんはボクの家族です!なんて」
「んじゃ、1分もあったら終わるやんか」

「イエ、1時間」
「皆さんはボクの家族です!なんて、3万回繰り返すとか?
ま、まさか。上から読んだり下から読んだりで、1万5千回?」

「んなはずは、でも2万人のお客」
「んじゃ、握手しまくる?」
「あたし、そんなことされたら失神」

「ポツポツ、痒いヤツね」
「なんでピョン様で、蕁麻疹ッ!こう、手をさしのべて」
「灰を出すとか、レッドスネークカモンとか?」

「元気をもらっちゃうんですッ!」
「出すのは灰?レッドスネーク?」
「手からパワーをいただくんですッ!」

手から出すパワーは似てる、午後。

第1002話 他人都合(みえない)

「せっかくお昼のサンドイッチで、くつろいでるのにスイマセンけど」の電話。
「ハイ、じゃあそう言うことで。シッシッ」
「拾い食いしてる老犬を、横取りしようって言うんじゃないんですから。ワウッ」

「ガルウ・・・」
「ワウワウ・・・んじゃなくて。処方箋の追加です。病棟へカモン」
「さっきのピンチヒッターで許せ。処方書きたくない気分、引きこもりたい気分」

「これだけ、手をついて御願いしても?電話じゃ見えないでしょうけど」
「これだけ、逆立ちして断っても?電話じゃ見えないだろけど」
「ダメです、薬剤師さんの訪問服薬指導で急いでいるんで」

「んでも、出発まで1時間以上あるやないか」
「薬剤師さんの昼休みの都合で・・・すぐに欲しいって」
「んじゃ、あと30分」

「それじゃあたしが・・・当直明けで今すぐすっ飛んで帰りたい都合が」
「あのね。あんたの脳みそには、他人への優しさとか臨機応変とか。
遠慮とか体育会系下積み忍耐生活とか、ワシへの労りの気持ちとか無い?」

「ハイ、ゼンゼン」
「んじゃナニか、処方は薬剤師さんの都合。んで、いま書くのはあんたの都合か?」
「こんなに筋が通った話は、ないでしょッ」

「んで、いたいけなワシの都合は何処にあるの?」
「遙か彼方山の向こう、泣き濡れて丸虫とたわむる所。センセの都合は無視」

他人の都合の見えないヤツが多い、午後。

第1001話 異臭対策撮影(ぶれまくり)

週に2,3回は聴診器とデジイチ持ってうろつく病棟。
「あら、センセ。美しいものを撮影したいなら、しょーがないわー不本意ですけど。
そのカメラの、デルモになりましょう。一肌も二肌も、さっぱりと」

「さっぱりと、消えてくれんね」
「あらま、遠慮はイヤですわよ。んもー我が儘なんだから。このポーズで駆けつけ1枚」
「先ず新患の褥瘡。緑膿菌らしいし、他の菌も居ってグジュグジュらしい」

「ハイ。臭いもきつくてマスクを通過、目はしょぼしょぼ」
「んで、これも新患のPさん。感染した水虫らしいやないか」
「ハイ。臭いもきつくてマスクを通過、目はしょぼしょぼ」

「んで、接写レンズ付けてきた。さらばじゃ!」
「コラコラ、まだ撮影が」
「臭いが消えてから、まったり撮影するとか」
「それじゃ、治ってしまうでしょ。治療前後で撮影して、確認するんじゃ?」

「急に、確認したくなくなった気分」
「イケナイ気分ですわねー」
「ワシが指示する気分、あんたは撮る気分ってのは?」

「ウッセ」
「ちょっとトイレ。あ、ヒマなら病棟のカメラで撮ってね」
「逃げるなッ!」

異臭対策撮影で写真はブレまくりの、午後。

第1000話 食介どくとる

「センセ、Qさんですけど」
「まさか、ぼた餅バクバク。みたいな」
「んなはず無いでしょッ!ご飯食べて貰えなくて、点滴してるんだから。1ヶ月も」

「そうなんよなー、あれだけ喋られるのに。飯が入らんなんてなー、腹も痛くないし。
吐き気もないし、胃も腸もどうもないしナー。血液検査も、異常がないしナー」
「あたしなんか、3時間ナンか口に入らないと。もう、大変」

「まさか、ゾウリムシでもカリカリ。んじゃなくて、ポリポリ?」
「どっちも違いますッ!ナンの話しでしたっけ?」
「象とアリンコと、どっちが大きいか?あんたにクエスチョンの、Qう」

「そうそう、Qさん。点滴、自分で抜いちゃいましたけど」
「もう、飯にしようや」
「嫌がって食べられませんけど」

「ナンか美味しいモン持って来てね。ぶっちんプリンとか、なんたらムースとか。
ワシが食介(食事介助)するかんね。先に行って、話しつけるから」
「んじゃ、準備してきまーす。キレるとか、脅しっこは無しですよ」

「あんたとちゃうッ!」
「誰が何時?」
「うへへーい」で、Qさんのベッド横の椅子に腰掛け。

「あのさ、点滴と飯とどっちがエエ?Qさんが食べてくれんと、ワシ苦しいんよ。心が」
「要らん」
「あ、センセ。持って来ましたよー、厨房に無かったんで私物ですけど」

「ダイエットに丁度エエから、いただきまーす。あー、抹茶プリンじゃ。
これ1個でご飯半分やね、味見しなくてエエ?毒味しなくてもエエ?」
「味は保証付き、毒は入ってませんッ!なんならあたしが・・・」

「んじゃ、Qさん。これなら美味いでー、病院食とはちゃうで。ハイッ、挨拶代わり」
「んー、ゴクッ」
「な、な、美味いやろ。抹茶は日本の味じゃねー、ハイッ。ご返杯と」もゴクッ。

「あららー、センセ。お上手、お上手」
「ワシ、嬉しいイ−。Qさんが食べてくれて、んもー最高にハッピいー」
「明日から7時出勤で10人分の食介、オネガイして宜しかったでしょうか」」

久し振りの食介をした、朝。

第999話 やっぱ、聴診器

「訪問診療で手を抜いて、カルテだけ適当に書いて証拠残したら。
診療報酬的には、OKやもんなー」
「センセも、手を抜くつもりじゃ?」
「アホ言え、ワシは正義の味方。悪を憎んで人を切る。暴れん坊副将軍やで」

「ウッセッ」
「んでもなー、聴診器が当たった瞬間に万札報酬やからなー」
「だから、真面目にあっちこっち診察して。たっぷりグチ聞いて。笑顔、振りまいて。
得意のアホ話で、スベったり盛り上がって、カルテ書いたら撤収でしょ」

「んでも、10年以上の付き合いじゃから。顔見ただけで、元気かどうか。
すっかり、こんがり。丸ーく、お見落としだぜイ」
「センセはお見通しでも、患者さんはそれで撤収じゃ気が済まないでしょ」

「んで、今日はワシの次にイケメンの研修医センセ同伴じゃから。任せたワケ」
「結局、手を抜いてません?」
「手は出さなくても口は出す、重労働っちゅーか。教育っちゅーか」

「聞こえだけは、宜しいですこと」
「んで、胸の音はどうやった?」
「Mr(僧帽弁閉鎖不全)がありましたけど」

「んで、終わり?」
「はあ?」
「呼吸音は?背中側に、なんか聞こえんやった?」

「もう一回聞かせてもらって宜しいでしょうか?」
「一回で聞き落とさないように、オネガイね」
「どうぞ、そちらのセンセなら何回でも」のPさん。

「あ、ベルクロラーレ(マジックバンドを剥がす時の音)が」
「それが、典型的な肺線維症の時に聞こえる音やで。耳に刻んでね」
「へエー。MIHIセンセは、ただ恰好だけで聴診器当ててたんじゃないんだ!」

「MIHIセンセ。今度から、こちらのセンセが来ていただけるんです?」
「Pさんは、こっちのセンセが来た方がエエの?」
「そらもう、若いし。顔もエエし。何度も診ていただけるし」

幾つになっても若い方が良いんだと、プチ嫉妬する午後。

第998話 痛いとこ

「んじゃ、失礼しまーす」
「おろ?Dさん、ずる休み早退みたいな」
「何言ってんですか、明けで帰るんです。ケーキ買って、しかも3個」

「これこれ、Dちゃんはダイエット中でしょ。アカンでしょ」
「今から帰って全部いただいて、証拠隠滅で子供にはバレやしませんよ」
「子供じゃなくて、ダイエットが問題ッ!」

「あ、そっちですか。明日から始めますから、大丈夫」
「あんたからその台詞、今月は何回聞いたかワカラン」
「でしたっけー、痛いとこ突くモンですわね」

「どうせ突くなら、3段腹を・・・」
「ナンですって、何処を突くって?MIHIセンセ」
「ワシなーんも言ってないけど、空耳か妄想?」

「眠気覚ましに、頭をゴツンと一発」
「ワシそう言う悪趣味、持ってない。ナニが悲しくて、あんたの頭をガツッと」
「ガツッとは、センセの頭ですッ!んじゃ蹴り一発、お見舞い。みたいな」

「痛ッ」
「Dちゃん、いくらなんでも蹴りまで」
「あ、あたし蹴ってませんよー」

「んでも。MIHIセンセのうめき声って言うか、悲鳴が」
「あー、痛かったで。ガムと一緒にほっぺの内側を噛んじゃって、イテーのなんの」
「禁酒ダイエットしても、ほっぺだけはメタボなんだ」

痛いところを突かれた、午後。

第997話 素敵な人生観

「あら、センセ。センセの顔の一部を、剥がして外来持参?」
「あ、これ。丸の真ん中に楕円形の穴が2つ・・・チラガーじゃないッ!」
「んじゃ、コーモンから血イがビュビュッ。大痔主イ?」

「ハイ、長く座ると水戸様がキリキリだから円座・・・じゃないッ」
「んじゃ・・・」
「腰痛予防のクッション」

「そんなのツマラン、もっと面白いのないんですかア」
「座布団で面白くなら・・・ハイッ、いつもの3倍回ってますウー。みたいな」
「ささ、外来を始めましょうねー。機嫌良く遊んでないで。Pさん、どうぞーオ」

「センセ。今朝は、女房と大げんかしたんじゃ」
「んで、言い負けて。家に居ったら居心地悪いから、病院へ来たんじゃろ?」
「ま、それに近いけど。そこまで言うなら、今日センセに聞いてくるってな」

「何でも聞いてエエよ。知ってることは5倍に膨らませ、知らんことはテキトーで」
「体に悪いモンでも、ちょっとならかえってエエって。TVで言うとった。
 んで、たばこは1日半箱ならエかろう?」

「ダメ、血イ吐いて死ぬかも。ワシ、結婚して禁煙した」
「んじゃ、甘いモンは脳みそにエエって。2日に1回なら、ぼた餅3個?」
「ダメに決まっとるやん、Pさんは糖尿じゃろ。糖毒性っつーて、余分な糖は毒なんよ」

「げっそりダイエットで劇やせセンセに、そう言われると返す言葉がない」
「散歩は、今日は暑いとか。風邪ひいたような気がするとか、気分が乗らんとか」
「他にも、孫が遠足とかも入れてな。あ、んで。酒は2合までならエかろ?」

「ゼッタイダメ、ワシ禁酒14年。悔しいからダメ」
「ワシ、明日が誕生日ナンじゃけど」
「あ、Pさん。歳いくつじゃったっけ?」

「96」
「見えんなー、若いなー。そこまで生きたら、思い残す事は無いやろ。好きにしてエエ」
「とうとうワシ、センセに見放されたか?」
「そこまで好き勝手してきて、96歳まで生きたんじゃからなー。
突然まじめになったら、体に悪い。何時コロッと逝ってもエエように、好き勝手に」

「ナンか、ワシ。勢いが失せてきた。女房の言うとおりにしよかの」
「そんな軟弱じゃ、あと10年は持たんかも知れん。好き勝手にせな、長生きできん」
「コラコラ、医者の言葉とは思えん。帰って奥さんに言うたら、イケンよ」ナースB。

「院長センセが言うたことにしたら、ハクがつく。人生観の問題」
「そうじゃの。ちょいとが、エエ人生」
「いくらちょいとでも、ダメですッ!」ナースB。

ちょいと体に悪いくらいが素敵な人生観の、午後。
注;チラガーとは、豚の顔の沖縄料理。

第996話 満足度95%と不満度10%

「センセッ、ダメでしょ。怒るときにはちゃんと」
「んだから、あんたにはしっかりきっちり怒ってるでしょ」
「んー、そう意味じゃなくて」

「無理難題だけじゃ、気が済まんっちゅーこと?」
「んー、やっぱあれは無理難題だったんですね」
「足下見て、怒ればエエワケね」

「んだから、パワハラって。満足度が低いんですよねー、センセは」
「あのな、自慢じゃないけど。ワシって、町内会じゃ満足度95%なんよ」
「それって、妄想?」

「2つアンケートを採って、不満度10%が残念じゃった。覚えてろッ!」
「信じられない、そのデータ」
「去年は満足度100パーじゃったのに、無念じゃ」

「TVの通販でも、お客様満足度94.6%でしたなんて。言ってますけどねー」
「あんなモン、相手にならん。信用ならん、カッカッカ」
「そうなんですよ、どこかにトリックが」

「子供だましじゃ、トリックと言うほどの高尚なもんじゃない」
「んじゃ、どうやって?94.6%でしたなんてなるんですウ」
「簡単よ、先ずCM出して速攻で注文して来たら。そいつはノミネート」

「んで?」
「んで、電話掛けてお気に入りましたかア?なんて聞いて。まあまあなら決まり。
そんなヤツばかっかかき集めれば、満足度はパーフェクトの楽勝で上げ放題」

「んじゃ、センセもそうやって町内会アンケート?」
「アホ言え、そんなめんどくさいこと」
「んじゃ?」

「町内会アンケートは犬猫、丸虫、カラスが相手。ノーって言わんかったらイエス」
「んなら、100パーでしょッ。ゼッタイ」
「それがな、虎猫のトラちゃんが花粉症で。鼻すすってンゴーで、ノーに」

「それって、ホントのアンケートなんですウ」
「TVの通販アンケートは、対象とか質問内容を言わんやろ」
「そう言えば・・・」

「答えを3択にして。1まあまあ満足、2ちょい満足、3はどっちか言えば満足。
4イヤイヤ満足。さてどれ?みたいな」
「それじゃ4択」

「なんなら、153択でもエエで」
「結構ですッ!」
「ワシの作ったアンケートの3大ミスが、作戦の基本よ」

注;ワシの作ったアンケートの3大ミスとは。
「アンケートの内容を間違えた・アンケートの相手を間違えた・誰かがウソをついた」

第995話 スルメ3枚で死刑?

「センセ。この間、聞いたんですけどオ。ホントですかねー」
「いいや、ウソじゃ」
「まだ、話の中身を言ってないような・・・」

「どーせ、幻聴でノリカ様?って言われたとか。アホ話やろ」
「それもエエけど。スルメ3枚盗んで、んで死刑になりそうじゃったって」
「他にも、盗んだモンが一杯あったんじゃろ」

「くさやのひもの2枚とか?」
「それじゃ、さらさし首程度でしょッ」
「それでさらし首なら、あんたは隠し首みたいな」

「意味分かりませんけど。んじゃなくて、スルメ3枚」
「と、すっぴんで町を徘徊したとか。んなら、死刑ッ!」
「それって、誰のこと言ってんですか?あたしはあり得ないから・・・」

「自覚がないから、再び死刑ッ」
「んでも、スルメ3枚・・・」
「スルメは、烏賊じゃから。その話はとっても、ここは盗るにかけてんの分かるね。
で、イカさまじゃーなんてね」

「Rセンセ、そんな無茶なオヤジギャグ」
「ハイハイ。ここでドッカーンと笑わなきゃ、もう笑うところ無い。キャハ」
「MIHIセンセにそこまで言われると、ナンか・・・」

先輩のオヤジギャグを笑うべき、午後。

第994話 無視する他人の都合

「せっかくお昼のサンドイッチで、くつろいでいらっしゃるのにスイマセン」
「ハイ、じゃあそう言うことで。シッシッ、ガルル」
「拾い食いしてるのを、横取りしようって言うんじゃないんですから。ワウッ」

「ガルウ・・・」
「ワウワウ・・・んじゃなくて。処方箋の追加ですウ」
「ワシってさっきのピンチヒッターでぐったり、これ以上処方書きたくない気分」

「ワウッ」
「もう犬はエエから、筋トレに脳トレで忙しいんよ。昼休みは。
あと47分後に、処方させてくれって気分」

「ダメです、訪問服薬指導で急いでいるんで」
「んでも、出発まで1時間以上あるやないか」
「薬剤師さんの昼休みの都合で・・・すぐに欲しいって」

「んじゃ、あと30分」
「それじゃあたしが・・・当直明けで今すぐすっ飛んで帰りたいんで」
「あのね。あんたの脳みそには、他人への優しさとか臨機応変とか。
遠慮とか体育会系下積み忍耐生活とか、ちょっと先にお薬払い出しとか無い?」

「ハイ、ゼンゼン」
「んじゃナニか、処方は薬剤師さんの都合。んで、いま書くのはあんたの都合か?」
「こんなに筋が通った話は、ないでしょッ」

「んで、いたいけなワシの都合は何処にあるの?」
「遙か彼方山の向こう、泣き濡れて丸虫とたわむる所だけにセンセの都合は無視」

他人の都合の見えないヤツが多いような気がする、午後。

第993話 聴診器にレンズ

週に2,3回は聴診器とデジイチ持ってうろつく病棟。
「あら、センセ。美しいものを撮影したいなら、しょーがないわー不本意ですけど。
そのカメラの、デルモになりましょう。一肌も二肌も三肌も」

「そら、拷問。さっぱりと、消えてくれんね」
「あらま、遠慮はイヤですわよ。んもー我が儘なんだから。このポーズで駆けつけ1枚」
「先ず新患の褥瘡。緑膿菌らしいし、他の菌も居ってグジュグジュらしい」

「ハイ。胃が重くなるくらい、臭いもきつい。マスクを通過、目はしょぼしょぼ」
「んで、これも新患のPさん。感染した水虫らしいやないか」
「ハイ。腸が重くなるくらい、臭いもきつい。マスクを通過、目はしょぼしょぼ」

「んで、そこまで全身が重くなちゃったワケね」
「意味分かりませんけどオ」
「んで、ワシとしては接写レンズ付けてきたんじゃけど。さらばじゃ!」

「コラコラ、まだ撮影が」
「臭いが消えてから、撮影するとか」
「それじゃ、治ってしまうでしょ。治療前後で撮影して、確認するんじゃ?」

「ワシ、急に確認したくなくなった気分」
「イケナイ気分ですわねー」
「ワシが指示するタイプ、あんたは撮るタイプってのは?」

「ゼンゼン」
「日本語ヘンですけど、聴診器を変えてくるね」
「意味分かりませんけど」

「レンズ付きの聴診器が医局に。あ、ヒマじゃったら病棟のカメラで撮ってもエエよ」
「逃げるなッ!」
汗かきまくり1分27秒ほど息を止め撮影、撮影した写真はブレまくり。

マジックハンドにレンズがついてたらブレなかったかも?の、午後。

第992話 流転の処方

「センセ、この間の当直でPさんがお薬を落としたって。んで、1ヶ処方しましたけど。
あれって、ナンで出てるんですか?症状・診察所見に加えて、心電図が・・・」
「前の医者が処方してたんで、悩んでる」

「んでも、QT延長気味でしょ。そのうち、まずいことになるかも・・・」
「スンゲー悩んでるのは、前医あの薬に関する情報が見つけられなかったから」
「んで、悩んでるのは分かるけど。いつまで悩む?」

「んでも、頼んでる前医情報が・・・」
「一度前医から離れて、センセだけで考えて。全責任は、センセで」
「んじゃ、ボクにこう質問してくれます?MIHIセンセの親ならどうするって」

「んじゃ、それで」
[「ボクの母親なら、出しません。もう亡くなってるけど」
「居ないけど、出さないんですね」

「ハイ、リスクとベネフィットの問題ね」
「処方の根拠に関する情報収集は?」
「ずいぶん前から処方されていて、医者がどんどん変わって」

前医処方の情報が何処までたどれるか分からず悩む、午後。

第991話 時を操るP

「ナンもする気がセンわー」
「んじゃやっぱ、人間続けるのも止めるとか」
「あー、天使か天女か。それとも・・・」

「そんなに飛びたいなら、ハゲタカか悪魔の使いのオオコウモリか」
「凄いイメージがダメージじゃないですか、白鷺とか白鳥とかの選択肢は?」
「焼いて食うたら、腹壊した」

「んで、今度の看護研究。ハア−、ですわ。ナンか、良いネタ無いですウ。
こう、3分で出来て。見栄え良し、聞いて参考になる。誰か代わってやって欲しいワ」
「誰かに頼むなら、忙しい人に頼めって言うじゃん。それ、ジョーシキ」

「何から先にしようかと考えてると、どんどん時間がたって」
「酒飲んで、寝てしまうんだ」
「センセはストーカーですかッ!」

「ウウ・・・そんな悪趣味な。鬼、人でなし、ブタであり。
いま読んでるコヴィーさんは言うんよ、P/PCバランスと時間管理が大事って」
「そうなんですよ、あたしのパソコン。時刻がずれまくり」

「んじゃ、PCの前のPはどうしてくれるんじゃ」
「Pでしょー、Pと言えば・・・わ、ワカラン」
「あんぽんたんの、Pやろ」
「ぽのPでしたか、ワカランじゃった」

そう言う自分もPになりそうな、午後。

(注)成功・効果性は、2つの側面バランスにある。
1つは目標達成(Performance)であり、
もう2つは、目標達成能力またはそれを可能にする資源(Performance Capability)。
すなわち P/PCバランスが重要。「7つの習慣」S.R.コヴィー著

目標達成には、時間管理が大切だそうで。(「7つの習慣」S.R.コヴィーによれば)
時間管理が難しい人の弱点には、次の3つがあるらしい。
1;優先順位を付けることが出来ない
2;その優先課題を中心に計画することが出来ない
3;計画に基づき行動するように自分自身を律することが出来ない
このうちの1が最も重要ですって。

第990話 天和の歳

「んで、あんたは幾つになったかね?」
「83になったばかしじゃ」
「そら若い」

「そう言われると、そんな気がするけど。ところでFさんは、いくつになったか?」
「わしゃ、85じゃけど」
「お兄さんかの、あたしより2つも」

ダックスフントの背比べみたいな会話が気になりだした頃、呼ばれたFさん。
「元気?」
「元気じゃったら、こんな所へ来んじゃろ」ツカミはお約束の。

「そらワカラン、家で居ると辛いとか。徘徊のついでにとか、んーと。
あ、MIHIセンセの顔見て笑いたいとか」
「それもある。んで、センセの歳は?」

「24年生まれじゃけど、イカンか?」
「イカン歳は無いじゃろけど、ナンの24年か?」
「あ。んーと、ほ?はたまた、て?」

「”て”が付く年号なんて、有ったかいの?」
「そらあるで。天和(テンホー)。1回だけあるけど、あん時はチビリそうじゃった。
ん?・・・んじゃなかった、天保。天保12年物の臼が、ジッちゃんのところにあった」

「最初のヤツは麻雀じゃろ?次のが、社会の教科書で出て来たような」
「Fさん、MIHIセンセを相手にしちゃダメよ。早く診察して、薬もらって帰った方が。
伝染するわよ、MIHIセンセの困ったビョーキが」

もう1つひねりが足りない、午後。

注1;天和は、麻雀の役のひとつ。親の配牌の時点で、既にあがった状態。
麻雀牌136枚から無作為に14枚選んだものが、和了の形になる確率は約33万分の1。
注2;西暦1843年=天保14年までで24年は有りません。

第989話 勝負赤以前問題(わかってない)

「あららー、センセ。その赤は」
「血の気が少ないから、赤ポロで補ってんの」
「ジジイはムチャしたらイケマセンよ、暑苦しい赤は。もっと地味な感じでないと」

「午後から気温が上がってきたやろ、白衣着るにはちょい暑い。んで、勝負赤」
「んで、赤毛オラウータンが火だるまみたいな」
「んにゃ、激辛ラーメンを啜った甘党の赤鬼みたいな」

「あら、センセ。お祭りですか?」
「これが、ハッピに見えるか?」
「どてらには、見えませんけど」

「しかしセンセ、赤を着ると元気出ません?」
「爆発しても、萎むことはないわな。赤って」
「確かに、あたしも勝負服は赤って決めてますから」

「チンチロリンとか花札とかの?」
「やるなら、パチンコでしょッ!」
「中毒財なワケだ、今日の玉1発より明日の玉1発に興奮するんだ」

「確かに、夫婦でパチ中ですモンねー」
「家1軒分くらい使っても、ネズミ小屋しか儲かってないやろ?」
「勝負の赤が、イケンのやろか?」

勝負赤以前の問題が分かってない、午後。

第988話 色々ビズ

「センセんとこの病院、クールビズやってるんですね」
「あ、Sさんもあのポスター見たんね」
「んで、センセは何ビズ?」

「何ビズって言われても・・・節電して涼しい格好で、外来せんとイカンからなー。
出来ることなら、白衣も短パンで。短パンビズとか?」
「んじゃ、外来はどっかの公務員さんみたいにアロハシャツで。アロハビズがエエな」
「んじゃ、あたしは腰ミノで、ミノビズで行こうかしら」ナースB。

「んじゃ、聴診器代わりにファイヤーダンス。ファイヤービズで、対抗?」
「えろう暑苦しい、ビズですな―。クールじゃないんですか、今は」
「んじゃ。ホントのクールビズで」

「帰りに自販機で、冷たいモンでも買って帰ろ」
「あれは、クールビズでもホットもある。あれは冷やさないから節電?」
「ホットでも、電気は食うでしょ」
「冷たいのと熱いのが、同居するからイカンのや。統計学的に平均が一番」

「んじゃ、間を取って室温」
「んじゃ、自販機のスイッチ切って。室温ビズじゃったら、水道水でエエやん」
「んで、センセ。ビズって、どう言う意味なん?」
「よ―ワカラン、ビズじゃね」

ビズの意味がテキトーになってる、午後。

第987話 ハグの麻薬

「あらら、センセ。お元気イ」
「マアマアじゃね。だからと言って、ここで婦長さんとハグする気にはなれんけど」
「当たり前ですよ、あたしだってイヤですよ」

「そらワシじゃって、イヤヤで」
「無理やりハグしたら、ほっぺたに手形が付きますわよ」
「安心しなさい、それほど趣味は・・・」

「良いんですか、悪いんですか?趣味が。返答によっちゃ、お覚悟」
「んでも、孫にハグっ!て言うと。喜んで、ハグしてくれるで」
「何歳です?お孫さん」

「2歳かな」
「そらセンセ、2歳じゃ拒否する方法を知らないから。イヤイヤ、ハグ」
「そうかなー」

「あら、センセ。ナンか、喘息発作が治まって、急に息が楽になったみたい」
「Pさんは、MIHIセンセの顔が最高のお薬なんだワ」
「ワシの写真、3枚くらい飲んでみる?A4じゃけど」

「止めて下さいよ、ミョーなこと言うの。喉に詰めるでしょ、そんなモン飲んだら」
「んじゃ、3枚におろして」
「脂身が多すぎるッ!んでも。患者さんには、センセって麻薬みたい」

「や、薬がキレた・・・」
「毒のショック療法かも?」
「麻薬がハグしてあげたら、走って帰っちゃうかもオ」

ハグの麻薬効果は凄いぞ!と思う、午後。

第986話 エイジポケット

「センセ、ワシ時々あるんよ。突然、何を探してたか分からんようになって。
んで、女房に聞いたら。自分が分からんモンが、他人に分かるはずがないって。
女房は、他人かの?知らんじゃった」

「結果、そうかも知れん。結婚生活が長いと、そうなるか?水か空気みたいな」
「んで、言うちゃるんよ。お前は、いつからワシと他人になったんか?って」
「いつ結婚したか忘れるくらい前からとか、言われたりして」

「この看護婦さん、案外きついのー。言うことが」
「んでも。物忘れなんて、フツーでしょ」
「そらそ、この看護婦さんなんて歩き始めたらずんずん忘れて。
時々聞かれるで、あたしは誰。ここは何処?なんてな」

「そうですよ、MIHIセンセなんか記憶がすっぽり抜け落ちで。髪の毛もすっぽり」
「栄養が足らんのやろか?髪の毛の」
「脳みその栄養の問題でしょ。んで7月13日は何月何日だっけ?が来たらアウトよねー」

「そうかなー、その程度ならフツーでしょ」
「新しい正月を迎える度に、すっぽり抜け落ちが多くなって。記憶がストトーンと」
「飛行機で言うたら、エアポケットみたいな」

「なんじゃその、なんたらポケットって」
「いきなりストーンと高度が落ちるのを、エアポケットに入ったって言うらしい」
「それで、お湯は沸くか?」

「そら空気で押し出す、エアポットジャーじゃろ。強いて言えば、エイジポケット。
年のせいで、突然いろんなモンがストトーンと落ちるヤツ」
「MIHIセンセの場合は、ジジイポケットみたいな」
「ウッセ。若年寄ポケットでオネガイ出来ん?」

いろんなモンがエイジポケットに落ちる、長い人生の中での午後。

第985話 イボ目力

「センセ、センセ。はよう、これこれ」
「あ、充電ね。ハイハイっと」
「んじゃ、ついでに」

何を勘違いしたか、私から出る怪しい気を自分の体になすりつける風。
「あのさ、Pさん。それって何してんの?」
「あーダメよ、MIHIセンセは巣鴨のお地蔵さんじゃないんだから」

「ワシから、ナンかのオーラが出てるとか?」
「出るモンと言えば、加齢臭くらいでしょッ」
「んじゃお大事にっと」でカルテが一瞬だけ机の上から消える。

「あー・・・」
「あー・・・って、ナンね。ワシがブラピ似っ?どちらか言えば、キムタク似」
「なんも言うてません、それって幻聴。んじゃなくてエ、いまヒマでしょ?」

「確かに机の上にカルテはないけど。んで、あんたが持ってる検診カルテ」
「あー、分かっちゃいましたア」
「そのつぶらな瞳が、訴えるなー。先着1名だけ、検診なんか行っちゃうゼみたいな」

「ナースWの目力やねー。節穴から覗く、丸虫の目風」
「センセ、丸虫の目って見たことあるんですか?」
「無いけど、想像つくわな。あんたの目で」

「こんなつぶらな、可愛い瞳」
「鼻の横とは、珍しいところに付いとるし」
「これは黒子ですッ!」

「んじゃ、何か。両耳の前に左右対称であるのも、黒子?」
「これが目ですッ!」
「黒いイボじゃなく、イボ目じゃったか。んでも毛が・・・」

「ウウウ・・・睫毛です。ウウウ・・・」
「ハイハイ。それ以上やると、パワハラか勤務時間中の漫才ですわ」突っ込む主任。
先着1名様の検診をして気づいたのは、カウンターの上に重なったカルテ。

「んじゃ、次の患者さんは無いね」
「イエイエ、いつもの患者さんのカルテがたっぷり」
「いつからそんなに?あ、30分前から」

イボ目力に騙された、朝。

第984話反比例する居心地の良さ

どうも座り心地が悪いソファーをどうにかしたくて、買い換え代に処分代?
きれいに使っていたから、中古品として処分はどなんよ?と思いつく。

1週間前にデスクトップPCのハードディスクが、カリカリ言い出し6年使えば元は取った。
17インチディスプレイは健在だけど、使い道が分からず取っ払ったその足で売りに。

「この手のディスプレイは・・・ほぼジャンクですからア」でも、300円ならOK。
それを思い出して電話1発したらしい、「早いほうが」に「んじゃ今日」。

2組で1800円を手中に納め、直ちにチェックしていたソファーを取りあえず1ヶ注文。
いきなりナニもなくなったリビングのフロアーは、芋虫ごろごろ状態でもOK。

医局の我が机上はデスクトップPCが消えて、ノートPC2台でも空間はたっぷり。
大きめマグカップごろごろ状態でもOKだから、テンキーボードを追加しても余裕。
風通しが良すぎて落ち着かず、某病院レジデントマニュアル持ってうろうろ。

午後の外来は静寂そのもので、腰をいたわりつつカウチ学習にはもってこい。
クールビズやってる外来は、患者さんがいない時はマイ扇風機がビュンビュン。
もともとPC冷却用の上下2連小型だから、音も風量も「まあ、そんなモン」でしょ。
10年来要らんモンを置かない外来だけに、真冬に暖房がなければ氷河期?

学習意欲と睡魔が反比例する住めば都で居心地が良い天国の、午後。

第983話 そのまんまハグ

「おうおう、Gさん元気かの?」
「まあの、んでウチのバッちゃんはどうじゃ?」
「最近、不整脈の発作も出んし。熱もフツーじゃし、今日もエエ顔しとろ?」

「そやの、おかげで来た甲斐あったわ。しかし、部屋へ入ってきた時は・・・」
「キムタクが、慰問に来たかと?」
「んにゃ。何処のオヤジが、バッ様をたぶらかしに来たかと」

「妬けるか?」
「そないな歳じゃないけどな、んじゃまた来るわ」
と言いつつ、お約束のハグでジッちゃまは消える。

「あら、センセだったんですか。後ろから見たら」言いつつ、侵入する婦長さん。
「ブラピが、慰問に来たかと?」
「ゼンゼン」

「あら、そ」
「ラウンドも。たまには白衣じゃない方が、変化があって良いかも?」
「んじゃ、このまんまでエエね?そのまんまでエエ場合、Gさんはハグするらしいけど」

「結構ですッ!」
「ワシも、結構ですッ!」
「んでも、さっきGさんとハグ。まさか、Gさんがタイプ?」

そのまんまハグは、タイプとは関係ない午後。

第982話 修正昔写真(あてにならない)

「センセ、ヒンケツですか?」
「な、なんでキンケツって知ってんの?。色白だから?」
「ナンか、白は半分あってるような。腹黒さで、半分違うような」

「んじゃ、ワシはパンダか?白黒で」
「んな、可愛くないけど」
「センセ。最近、腰イテテで芝刈りしてないでしょ」

「もち肌は直射日光に弱いんよ、ったくねー。足長いけど、性格が良すぎる」
「足も性格も、勘違いッ」
「んで、ナンであんたの二の腕の色。赤銅色は、さび落としでもしたか?」

「畑仕事でこんがりなんですよー、センセに分けてあげたいわアこの色」
「今の肌の色に赤銅色が混ざると、ほんのりピンクは。良いかも、可愛いかも」
「クルリンと巻いた尻尾があったら・・・」

「ブフヒブヒとか?」
「何でもお好きに、ほざき遊ばせ」
「まだワシが赤ん坊だった頃、連絡船の上で」

「海へ投げ込まれて?」
「んで、あら可愛いボッチャーンみたいな」
「オヤジギャグですね」

「んじゃなくて。あらま色白で可愛いって、往年の歌手がワシをだっこして」
「んで、やっと海へ?」
「海は忘れてね。もしかして、ワシを外人の赤ちゃんと思ったかも?」
「南洋諸島に浮かぶ島の、外人?」

昔の写真は超修正であてにならない、午後。

第981話 微量講義時間意味(ちょっとじゃない)

「んじゃ、Rさんリハビリ行ってきまーす」
「ハイ、行ってらっしゃい」
「Dさん、座薬入れまーす」

「ハイ、入れちゃって下さーい」
「センセ、いちいちのリアクション。お疲れ様ですわね」
「ハイ、お疲れでーす」

「んで、ナンでいちいち?」
「ほんのちょっとした気持ちと言うか、気まぐれシェフと言うか」
「あ、センセ。この間、軽い気持ちでお願いしていた心電図の勉強会」

「ほんのちょっとだけで、軽ーく30分」
「もうほんのちょっとだけで、止めて下さい。エキスだけ」
「資料はほんのちょっとじゃからなー。薄めても、23分は持たんやろ」

「資料の原本いただいたら、人数分ほどコピーしますから」
「あ、ほんのちょっとでできる予定だかんね。泥舟に乗った土左衛門じゃから。
全て、丸ーく任せなさい」

「センセ、センセ。延期とか中止という選択肢は?」
「死ぬ覚悟でっつーのが、3番目の選択肢」
「分かりました。んで、資料は何ページくらい?」

「ほんのちょっとの、A4で8ページかな?」
「センセのほんのちょっとは、フツーじゃないと言う意味ですね」

講義時間のほんのちょっととは普通じゃ無い、午後。

第980話 玄関表情差(だんちがい)

「んじゃRさん、お大事に。もっともっと、元気になって下さいね」
「ハア」
「涙ぐんでちゃダメでしょ、今日めでたく退院なんですから」

で、ご家族と一緒に退院されるRさんを玄関方面にお送りして。
「ナンか、あたしまでウルウルしちゃうわ」
「結膜炎か?」

「ナニ言ってんでですか、心根が優しすぎるんでしょうかねー。
鼻水も出ちゃうわ、ハアー。ナンか、耳もかゆいし」
「顔面総崩れ病みたいな」

「センセじゃありませんッ!ぽん太、うちのワンちゃん。あたしが夜勤にゆく時もですよ。
目が潤んで、イジイジ。耳も垂れて、鼻グズグズ」
「やっぱ、あんたが居らんのがよほど嬉しいか。家族内発症、顔面総崩れ病みたいな」

「家に残されたぽん太のもの寂しい表情、目も潤んで。涎に鼻水、ジュルジュル」
「うれしさ満開?失禁してない?」
「ウッセ」

「やっぱ、家族内発症の・・・」
「よく見ると、目が笑ってるんですよ」
「ナース妻、めっちゃ元気で留守が良い。みたいな」

「やっぱ、そうですかねー。でもあたしが家にいると、ワンちゃんは纏わり付いて」
「旦那も?キャンキャン言いながら、逃げ回る」
「そんなことしたら、蹴り一発。根性たたき直す」

出勤時玄関での表情差が段違いな、朝。

第979話 減量裾上い(びちょうせい)

事務室に侵入するなり、頭ポリポリ。
「あのさ、白衣のズボン余ってない?」
「2,3本ありますけど、センセはリバウンドで再びデブに?」

「ダイエットしたせいで、体重23Kg減でウエスト13cm減なんよ。
おかげで今まで履いていたズボンが、ブッカブカ。腹の前に、両手両足が2,3本入る」
「ついでに、猫の2、3匹入れてみるとか」

「狸なら1匹入れて、ポンポコポンじゃね」
「んで、これなら2本ありますけど」
「おろ?P君のやん。PTの」

「そうですよ。新婚幸せ太りで、これじゃキツキツらしいでですよ」
「ちょい大きめじゃけど、今までのよりはましじゃからいただいて」
で医局で履いてみれば、松の廊下を楚々として行けるかも状態。

「おろ、ウエストは若干大きめじゃけど。足は・・・」
半脱ぎ状態、安全ピンで裾合わせ3分。
「あら、センセ。ぴったし。センセは、P君より15cmも背が低いのに」

「ワシが193cmで、P君が208cmだったけ」
「定規1本分、さば読んでますッ!」
「裾を微調整かな?」
「超大胆合わせっしょ」

ダイエットで裾を超調整の、午後。

第978話 エンゼルの夏ぼけ

「んじゃ、行くべ。フィー、しかし気温が高いなー。止めよか?」
「ダメですッ!センセが来るのを、皆さん待ってんだから」
「んなことねーべ。やっぱ、優しいナースVが来るのをお待ちになってらっしゃる」

「確かにあたしは美白・足長・華麗、これで性格が良いから困っちゃう」
「いろんな意味で、すでに困った状態みたいな」
「んじゃ、Wさんですよ」でお宅へ進入。

「フィー、あちちじゃねー。お互いデブは高温・高湿度に弱いから。あら?
 もうすでにエアコン入ってんじゃん、んなに暑がりだったっけ?」
「センセが来ると思ってな、30分前から入れとった」

一通り診察と血圧やら体温やら、カルテ記入して無駄話して。
「んじゃ、センセ。暑いから、夏ぼけせんことよ」
「んじゃ、Wさんも。暑いから、夏ばてせんことよ」

ドアを開けると、モワモワ空気が顔をなでる車中。
「しかし、Wさんとセンセは良いコンビですねー」
「同郷じゃから、あんなモンよ」

「さ、帰って勉強会ですわ」
「なんの?」
「エンゼルケアの」

「あのさ、エンゼルって男?女?なん」
「知りませんけど」
「ばっちゃんにエンゼル・ババケアで、じっちゃんにはエンゼル・ジジケアみたいな」

「あたしみたいなセレブには、コラーゲンとかヒアルロン酸注入も」
「こんなことなら、生前からやってればもっとましな人生が・・・みたいな」
「貯金下ろして、ブチ整形かなー」

”プチで済めばいいけど”を飲み込んだ、夏ぼけエンゼル爺の午後。

第977話 可愛系ま(よこしま)

「あら、センセ。酔っ払った、ちょびひげオヤジみたいな」
「あ、これね。ある人はチャームポイントとも言うけど」
「全然チャウ・ポイントでしょッ!」

「上手いッ!とある理由で、髭剃り途中下車。中途半端状態(語尾上げで)」
「あー。かさぶたになってる、唇が」
「T字ひげ剃りで、鼻の下から一気に縦に上唇まで剃っちゃって」

「んで。今日は、よこしまなんですね」のP君。
「誰が悪代官じゃッ、おぬしも悪よのー」
「フエッヘッヘ、じゃなくて。白衣から透けて見えるのが、黒白よこしま」

「黒白縦しまなら、縁起良くないけどな。地味なTシャツ」
「んでも、ナンでよこしま?」
「クールビズしてるって、院内ポスターにあったから。白衣の下は、素肌にTシャツ」

「これ以上暑くなったら、どうするんですか?」
「そうなったら、肌に直にマジックでボーダー描いて。んで、白衣」
「時々、柄を変えて下さいね」

「イチゴとか、チューリップとか?」
「カバとか、オットセイとか」
「可愛い系じゃ、ダメなん?」
「そういう、不埒なよこしまな考えはお止め下さい」

何故可愛い系がよこしまなのか分からん、午後。

第976話 高齢者時代の時の流れ

「ゲホゲホ」
「センセ、こないだヒャックション・ズズー。次はゲホですか」
「ナンかさア、前期高齢者を過ぎると色んなモンの時の流れが変わる」

「時計が、オカシイとかじゃなくてですか?」
「ワシの時計は、世界標準。とっても正確、腹時計」
「んで。センセ本体以外に、オカシイところって?」

「風邪引いて、症状が出るまでにちょい遅いような」
「ただ鈍いんでしょ」
「んで、薬飲んでも悪化して」

「抵抗力と根気と、我慢が足りんのでしょ」
「んで、薬飲んでも治るのに時間がかかる」
「脳みそと腰と、気遣いが回らんのでしょ。それか、風邪薬と思ったら下剤とか?」

「前期高齢者を過ぎると、時の流れが変わるんやろか?」
「変わって欲しいのは、もっと他にあるけど」
「人格は問題ないとして」

「真っ先に来たのが、その問題でしょッ!弥生時代から変わってませんッ!」
「氷河期の頃は、フツーじゃったけどなー。最近、変わったんかも」
「んじゃ、ネアンデルタール人だった頃は?」

前期高齢者を過ぎると、今まで自分がナンだったのか分からなくなる午後。

第975話 20年勤続のホコリ

「センセは、今年が20年勤続になりましたけど」
「年月は、早く流れるモンだねー、もう200年ですか」
「ボクって、妖怪?」

「それに近いような。まあそういう細かいこと言わず、おおらかな気持ちで」
「んで、この字でよろしかったでしょうね?」
「200年目にして、名前を確認されるとか。ワシって、影が薄い?」

「イエ、とっても濃厚」
「あららー、こんなに同期が居るとは。んで?あららー、Aさんは40年勤続!
妖怪なみじゃね、18歳から勤めればそうなるわなー」

「んで、ハンコね。ポチッと。7年目にして、パソコンのハードディスクがガリガリ。
イカンイカン、データは外付けハードディスクじゃからエエとして。メルアドコピーと。
いろんなモンを完全削除して。シーラカンスWinXPノート復旧みたいな」

デスクトップに繋ぎまくったコードを、どんどん引っぺがせば。
奥の院やら開かずの空間に、20年ほどで蓄積したホコリ。拭き掃除しまくり。
大昔の歌で、「思えば遠くへ来たモンだ」なんて歌詞があったけど。
PCの下からクリップや、伸びきった輪ゴムなんかがホコリにくるまれて飛び出し。
20年目のホコリをポンポンゴミ箱に放り込み、思えばここまで来たモンだ。

20年勤続の流れた歳月とホコリに想いやる、午後。

第974話 噛むと噛まないじゃ

「あ、センセ。Hさんにラギゾベンじゃなくて、出して欲しい・・・」
「とうとう、キングギドラを出すかッ!」
「ギとンしか、合ってないじゃないですか」

「んじゃ、ゾーの?」
「皆目合ってませんッ。んじゃなくて、アキソベロン出して欲しいんですけど」
「6文字言うのに、そこまで噛むか?それ1本、ちゅーっと出るまで待とうホトギス」

「1本行っちゃうっつー事は、噛まないんですか?」
「噛む噛まん関係なく。結果、水戸様から色んなモンがチューチューお出まし。
最後は、透明。カマキリ踏みつぶしたみたいに、腸までニュルッ」

「ヤですよ、そんなの。んで、ナンの話でしたっけ?」
「カマキリ踏みつぶすと・・・」
「腸が・・・あ、便秘の薬じゃ。あたしも飲んでるヤツ」

「便秘か?」
「大して食べないけど、出るモンも少ないから。思いっきりと思って」
「摂食中枢か消化管運動麻痺?」

「ですかねー。早飯、早食いはDNAにすり込まれてるから.ナンか良い方法?」
「そらあんた。オカズを小さく刻んで、おちょぼ口。30回噛んでみ」
「今度は、噛むんですね。すると?」

「流石のあんたの脳みそでも、ナンか食べてるらしいって気づいて」
「お膳見たら、分かるでしょ?」
「カレーは飲み物って食べデブキャラの気持ちが、分かるウー言ってたよな?」

「ハイハイ」
「あれは、飲んで胃袋を通過した頃に気づくから。いつまで経っても食べるんよ」
「噛むって大事なんですね」

噛むと噛まないの違いが分かりかけた、午後。

第973話 たかが、されどナースコール

「あー。またPさん、6回目。ハイ、伺いまーす」
「どっか痛いとか?」
「いえね、奥様が腰痛でお見舞いに来られなくて。寂しいんですよ」

「あれだけナースコールを押すには、何か理由が?」
「んだから、寂しいだけ。行けば、ニコニコして。腹が痛いのは、いま治ったって」
「んじゃ、エエじゃん。エかったじゃん」

「んで、3分もせんうちにナースコールが。Wちゃんが行くと、長いけど暫くOK」
「あ、分かった。当たりを、探してんとちゃう?」

「ワケ分かりませんけど。そう言えばあたしが行くと、押す回数が多い。
もしかして、あたしって当たりなんだ」」
「ワケ分かりませんけど、クジって当たりよりハズレの方が多いみたいな」

お腹が痛かったり足腰が痛くて歩けなく入院し、ベッドに縛り付けられると。
誰しも不安で溢れても、大声を出すわけにも。普段は気にしないナースコール。
俄然存在感が強くなり、押しまくる事になる。
「でもこの程度でスタッフを呼んでは、弱虫すぎる?」と、悩むし。
我慢が限界に達する前に呼びたい衝動に駆られ、唯一の通信手段のナースコール。
を握りしめてエイヤッとボタンを押して、優しい「ハイ、覗います」は天使か仏様の声か。
あろう事か返事が聞こえないと、募る不安は如何ばかりか。痛みさえ増してくる。
かと言って、もう一度押すのは「しつこい患者」と嫌われそうでためらう。
患者さんにとって、ナースコールは命の綱であり。鳴ったら、「ハイ、覗います」と。
明るく反応して欲しいと思う昨今である。たかがナースコール、されどナースコール。

第972話 箱入操縦く(いたにつく)

「センセ、この間休んだやろ」訪問診療中のWさん。
「盲腸じゃッた」
「その歳で?」

「歳に不足はないやろ」
「エエ歳こいて、なー」
「なんなら、傷。見る?カワイイで」

「何が悲しくて、そんなモン」
「こーんなに切って」で両手を広げれば。
「アホらし。んで、あたしが箱に入るまで元気で頼んます」

「分かった分かった」
「あのー、、センセ。箱って?」運転手兼任ナースDは、たっぷり?
「んで、焼き方は。タレは?ウナギのタレとか、焼き肉のタレとか」私。

「こんがり、しっかり焼いてもろうたら。タレはナンでもエエ」
「そら、息子に頼んでな」
「あ、そう言うこと」やっと分かったらしいナース。

「んで、墓参りは?」
「遠いからなー。車いすじゃ、行けんわなー。少々じゃなー」
「そんなことはないけど、箱に入った方が楽やで。小さいヤツ。壺でもエエけど」

20年近いお付き合いのWさんだから、言いたい放題。
「センセ、ホンマに箱までオネガイしまっせ」涙ぐむ。
「泣くような話しじゃなかろうに、眼科紹介しよか?」
「意地クソ悪いことを言うてくれるやないの、これじゃまだ死ねん」

Wさんの操縦方法が板に付いた、午後。

第971話 十二指腸にサンショウウオ

「ゼンゼ、ジョホウをオネガイ。ズズー」
「目力がドロンで腐敗臭?声変わり加齢?はたまた、インドカレー?」
「ナニ言ってん、ズズー」

「目の周辺の化粧だけ見たら、太山君?んでも、体型的には細川君?」
「ウウ・・・。風邪引いてなきゃ、ケリ3発」
「んで、やっぱ食欲とか。ズンズン落ちちゃうワケね」

「そうなんですよ、ズズズー。こう見えても、あたしってオオメシぐらいなんで」
「確かに、BMIもIQも根気力もかなり低そう」
「2つ目は、外して下さいませ」

「オオメシぐらいって?」
「カツ丼にショウガ焼き定食ならOKよ、みたいな」
「体型のナゾが、分かったで」

「やっぱ、美人DNAとか神様のプレゼント?」
「んにゃ、十二指腸が謎解きの鍵じゃね」
「十二指腸が美しいとか、美白とか言われても。内視鏡じゃなきゃ、見えないし」

「ワシの腕ぐらいある横川吸虫か、サナダ虫が居候しているらしい。
んで、カツ丼とか豚ショウガ焼きをエサにして。出るに出られん、サンショウウオ。
むかし読んだやろ、井伏鱒二。あのサンショウウオや、ゼッタイ」

「んじゃ、あたしの十二指腸にサンショウウオが?」
「んじゃったら、目出度い。十二指腸に、天然記念物が居候するなんて」
ギネスに載ったり、ドサマワリできたり。あんたの将来は、安泰じゃ」
「ぞれよかジョホウ(処方)をオネガイ、ズズズー」

処方よりオオメシぐらいと痩せ体型のナゾが気になる、午後。

第970話 湿布危険徴候のウヒョッ

「センセ、湿布出しておくれ」
「エエよ、1日2枚として。2週間で2袋もあればエエやろ」
「足らん、足らん」

「肩と膝に、貼るんじゃろ?」
「全身が痛いから、あっちゃこっちゃに貼る。んじゃから、20袋」
「全身に貼りまくったら、サブくない?」

「冬向きじゃ無いワナ、冷やすヤツは。貼った途端にウヒョッて、声が出るワナ」
「んじゃ、冬は湿布は要らんか?」
「イヤイヤ。貼って暫くすると、カッカする湿布やね」

「肌が、かぶれんか?」
「あたしの肌はゾウなみじゃからかぶれんけど、最初はウヒョッて言うナ」
「湿布にウヒョッは、馴染みなワケね。んでその後は?」

「カイロより温いで。ま、朝貼ると晩ご飯までカッカしとる」
「どっちにしても、体中に貼りまくったら最初は体温下がるから。体に良くないかも」
「んじゃ、湿布は体に良くないんか?」

「そういう意味じゃ、良くないかも」
「体に悪いモンを、ナンで病院で貰える?確かに、貼ってウヒョッと来るとアブナイ」
「怪我するわけじゃ?あ、ちょっとチビル。そら危険じゃ」

湿布の初期ウヒョッは危険な、午後。

第969話 保育園人気者(15ふんだけ)

「あのさ、キャンデーで手なずけるとかはイカンやろね?」
「アメで釣るワケですね」

「んでも、ウチの娘はコンロアメに殺されそうになったんよ。3歳の時。
覚えてないと思うけど、マメとかキャンデーは禁止ナンよ。子供は」
「そういう意味じゃ、イカンでしょうね」

「んじゃ、ワシが。アンパンマンキャンデー3個、一気にガリガリッと」
「あららー、ナッツみたいに噛みますか。あ、あたしの分は?無い。
気分的には、ドキンちゃんのが欲しかったのにイ。んじゃ、始めますか」

「ビッ、ビエーン」
「ハイ、モッシー。元気ですかアー。ここはどうかなー、元気かなア」
「ヒック、ウー」

「ハイハイ、ジジですよー。みんなだけは、恐がらなくて大丈夫よー。みんなは」
「婦長さんのその一言、ナンか引っかかるみたいな」
「んじゃ、背中は元気かなー」

「いくつ?お歳は。あ、2歳。若いねー、若いねー。このバアバと違って」
「センセのその一言、ナンか引っかかるみたいな」
「いちいち引っかからなくて宜しい」

「しかし、今日の出で立ちは正解ですね。赤のちゃんちゃんこ」
「キタロウッ、んじゃなくてエ。ダンベ(ダウンベスト)じゃがね」

2歳前後が多く孫で鍛えたジジイ魂、診察が終わる頃にはジジ気分満開。
「んじゃ、撤収か?おろ、誰かなー」
「これ」で差し出されるカード1枚。

「んじゃ、みんなア。これ、ナーンだ」
「ニンジン」
「んじゃ、みんなア。これは、ナーンだ」

保育園のジジイに、さっき泣いた子を含めて纏わり付く。
「センセ、病院と違って人気モンですねー」
「子供ってのは、純粋無垢。誰が良い人か、直ぐ分かるんよ」

15分間だけ保育園の人気モン健診爺医の、午後。

第968話 異空間時流楽(えんじょいした)

真夜中の急変家族は10年ぶりの再会で、診断書書いて寝つけず悶々と1時間。

「あら、センセ。いつになく無口」ナースG。
「とりとめもない経済評論とか、本心じゃ無いのにスタッフを誉めちゃいそう。
ナンで円と株価が通常の連動しないんじゃッ。ドルは、原油価格は、日本の物価は?
よっ、胴長短足。アラさっと」

「年中、寝不足なら良いのに」
「立ち止まるとそのまま寝ちゃいそうで、徘徊中」
「昼からお休み?」

「仕事じゃけど、帰って良い。あ、ダメ。鬼ッ、人でなしッ、豚足ッ」
「ナンかお聞きするところ、昨夜の急変患者さんのご家族は昔の同僚ナースとか」
「まあね」

「んで、MIHIセンセは凄く優しかったって聞いて」
「まあね」
「何時からですか?」

「ナニが?」
「キレやすくなったのは?」
「バカ言わないでネ。ワシのニックネームを聞いて、チビるなよ」

「下半身は締まりが良い方なので」
「その分、口に締まりがない。三段腹も、ブーヨブヨ」
「コラッ、ニックネームはッ」

「ブッダのMIHIとか、ノー天気・クライストMIHIとか、親鸞MIHIとか」
「アホくさ、聞いて損した。ハイハイ、眠気覚ましの徘徊に行ってらっしゃいませ」

寝不足の当直明けは、場所毎に時の流れが違っていて。
喧噪の病棟は耳にピリピリだけど、認知症共同生活施設は別世界。
皿からすくい上げるスプーンの速度も、噛んで飲み込むのものーんびり。
食べながら寝てしまうクライアントの側で、微笑ましい平和気分。

当直免除で異空間で時の流れエンジョイが懐かしい、朝。

第967話仮自分想定(したくないな)

「センセ、手が痒くて」
「反対側でポリポリすればエエやん、ワシの足貸したろか?靴、履いたままじゃけど」
「せめて、靴など脱いでいただかなければ。気分よく仕事が」

「あららー、乾燥肌っちゅーか。川でダイコン洗うバッちゃんの手、治療前みたいな」
「でしょ、でしょ。仕事しすぎイ、みたいな」
「単に油ぎれエ、みたいな」

「んで、クロクロP軟膏がエエって。処方していただけますウ」
「んーと、それよかシロシロV軟膏がエエと思うけど」
「噂じゃクロクロが・・・」

「治らんでエかったら、それ。ワシの奥さんじゃったら、シロシロ」
「んー、センセの奥さんならって言うのが。説得力が有るような、無いような。
んでも、例えがネー。あたしがセンセの奥さんになる設定が、ちょっとイヤ」

「ワシもイヤ。んじゃ。クロアカやクロドドメ?、イモリの黒焼き軟膏でも出すけど」
「悩むワー。いっそイモリ・・・んじゃなくてエ。死んだつもりでシロ?」
「軟膏では死ねんから、青酸カリ軟膏1Kgで決まりじゃね」

「あ、やっぱそれってピーナッツの臭いが?」
「見てるねー、TVサスペンス。ま、ワシじゃったら。ハナクソ丸めて、万金タン軟膏」
「聞いただけで、サブクなって鳥肌が立ちそうな。乾燥しまくり肌みたいな」

「んでも、油ぎれなら。カルビ6人前とアイスにケーキで油を補給した方が」
「皮膚に油が行かんと、下腹にどっぷり溜まったりして」
「悩むワー」

「大丈夫。その手で下腹を揉みまくったら、油がしみ出て手にべっとりピッカツル」
「そう言えば乾燥肌に脂肪乳剤の点滴をすると良いって、論文を読んだけどなー。
何だかなー、背脂が増えそうじゃなー」

仮に自分を想定したら遠慮したい、午後。

第966話 床横殺人談義(したらいかん)

「センセ、殺してくれ」
「イヤじゃ、犯罪者になりとうないモン」
「ならんようにするから」

「そら無理やで、TVの科捜研とかCSIとかで研究したんじゃけど。完全犯罪は無理」
「どうしたら、センセを犯罪者にせんで済むかワカランか?」
「ワカランなー」

「困ったなー」
「んで、例えばの話。あくまでも想像の話じゃけど、どうやって殺されたいんね?」
「やっぱ、痛くないし苦しくないヤツ」

「雪山でウイスキーを注射して、転げ回るわな。酔いが回って、ぐでんぐでん。
そこで取りだした睡眠薬を1瓶、一気飲みすりゃ爆睡中に逝けるかもな」
「そらサブイし、山に登るのは車いすじゃ無理じゃろ?あ、手が震えて注射は・・・」

「手伝ったら自殺幇助やわな、そんなんイヤや。シモヤケ出来るし、ワシ禁酒中やし」
「酒の所は、かなり気に入ったけどな。ワシ見て、センセは禁酒したんか?」
「初孫見て、禁酒したんじゃけど」

「昔は、ワシより飲んどったんじゃろ?不公平じゃ」
「反省したところが、ちょっとだけ違う。Wさんは浴びるほど飲んで、脳みそが傷んで。
全身、グラグラ揺れるモンなー。スマンけど、ワシぜんぜん揺れん」

「揺れんところで、一発思い切ってワシを殺してくれんか」
「死んどるWさんの側に居ったワシは、まんまホンボシ」
「大丈夫、MIHIセンセはゼッタイ犯人じゃないって。メモ書いとくから」
「そんなメモ1枚で完全犯罪にされたTVは、見たことがないやろ」

ベッドサイドで殺人談義をしたらイカン、午後。

第965話 暴爺制圧役(やしゃまご)

「センセ、Pさんからお電話で。ご指名」
「んで、午後は外来は・・・。まっ、エエか。どしたん?」
「咳が出て、えらくてどうにもならんって」

「そらイカン、90歳じゃから肺炎でもなったら。心臓に毛が生えててもナ」
「んじゃ、おいで下さいで宜しかったですね。手ぐすね引いて待ってる!で」
「お手柔らかに!を、追加しといてね。んで、来たら直ぐレントゲンね」

それから30分後。
「センセ、写真撮るなら腰じゃって。聞かないんですけど」で撮影室へ。
「丁度エかった、腰が悪いから来たんじゃ」

「ナニ言ってんですか、咳が出てたまらんから病院へ連れて行けって」お嫁さん。
「バカ言うな、咳が出て腰が痛くてたまらんかったんじゃ。咳は、腰からじゃッ」
「スイマセンねー、頑固ジイじゃから。何処でも頭でも、撮ってやって下さい」

「Pさん、頭の写真は?」
「んー、それも1枚かのー」
「んで、咳が出るから胸も1枚。腰はワシの念力で3枚」

やっと撮影にこぎ着ける。
「右胸にギイーって音がするけど、写真じゃOKね。んじゃ、お薬ね」
「やっぱ、湿布はイカン。トロッとしたヤツがエエ」
「ボルダレンジェル1本ね、と気管支炎の薬も5日分」

「そねえなモン、要らん」
「んでも、熱もあるし」
「薬塗ったら咳も止まるから、あとは要らん。ワシで、儲けよとう思っとるな」

「んでもー・・・」
「要らん、要らん。そんな薬出したら、ここで暴れるで」
「Fちゃんにうつしたらイカンから、死んだジョンの小屋で寝て貰いますからね」

「Fちゃんって?」
「夜叉孫ですわ、こんなジイに懐いてるんです」お嫁さん。
「そらFちゃんに嫌われるね、ゼッタイ。んで、ジョンって犬?」
「ハイ、17歳で死んだ雄犬。最後の2年はシモの締まりが問題で、この人そっくり」

お嫁さんの後ろを咳をしながら薬袋をぶら下げて歩くPさんの、午後。

第964話デジタルの不安

「センセ。あたしの異常で、お聞きしたいことが」
「そんなことは、300年前から分かってるけど」
「せめて、3年前でオネガイします。んで、ナンの話でしたっけ」

「んで、何処が正常か知りたいなんて。無謀なことは、言わんやろ?」
「無謀ですか、それを聞くことが」
「異常が、白衣着てるようなモンやで」

「そのままそっくり、お返ししたい気分」
「んで?」
「あ、コレステロールが223じゃったんですよ。3多い」

「確かに、あんたのベルトの穴が3つ増えたんとはレベルが違うけど」
「同じ3でも?」
「大違いかも知れん」

「それに中性脂肪が154で、4多い」
「んじゃから、あんたの3段腹が4段腹になったのとはレベルが」
「同じ4でもねー」

「脂関係以外で、他に質問は?」
「上の血圧が、今まで129じゃったのが131。2多い」
「確かに、洋服のサイズLが2ヶ増えて4Lになったのとはレベルが」

「ナンか、あたし息苦しくなってきましたけど」
「肺の周りに脂が付いて、拡がらなくなったみたいな?」
「センセ、どうしても脂から離れられないんですね」
「デジタルはねー、細かいところが気になるんよ。特に、脂ぎってるとこは」

デジタル時代に検査の誤差範囲でも気になる、午後。

第962話 パンツと陣地は程々に

「おろ?センセ、足だけ激やせ?」
「とうとうデビューする日が来たようじゃね、カモシカ脚」
「ナニ言ってんですか、ズボンを買い換えただけじゃないですか」

「いままでのパンツは、歩くにバサバサ座るにゆったり。今日は、ピッチリ。
15年慣れ親しんできたバサバサパンツを3本、断捨離」
「中身は変わるはずがないしイ。細くなったのは、ズボンだけ。みたいな」

「江戸の火消し風やろ」
「火消しと言うよりも。峠を越す頃に追いはぎに変身する、駕籠かきみたいな」
「コラコラ、机を揺するなッ!」

「ハア?」
「P君ッ、極貧揺すりを止めなさいッ!イエス・アイキャンで鍛えた字が揺れる」
「ちょっと揺れた方が、綺麗に見えたりして」

しかし、殿の字はゲージュツ的やなー。書いてるペンさばきから違うモンなー>
「あらら、センセ。いつになく縮こまってるじゃないですか」
目の前で殿が書き物しとるし、そっち方面にカルテ陣地広げたら恐れ多くてチビる

「コラコラ。そんなにカルテを押し出したら、あたしの立場が」
「んじゃ。ウンチ座りでもナンでも、好きにしたらア。コンビニ前のハンケツバカ風?」
「そんなお下品なこと、43年前からしてませんわ」

「あれやると、歳のせいで膝がギャンギャン痛むか?」
「お腹がつかえて苦しくて、仰け反っちゃいますわ。んで、スッテンコロリン」
「バランスも悪いんだ、歳のせいで」

「センセと同じ歳ですッ!」
「程良い年頃には、程良さが大事っちゅーこと」

パンツの幅も机に広げるカルテ陣地も程々が良い、午後。

第963話 10年持可不可ゃ(たってみなけりゃ)

「センセ、あたしゃあと何年持つと思うかね?」
「Pさんが、何時コロッと逝くかワカラン。ワシは神様じゃないし、仏様でもない」
「そんなことは分かっとる。聴診器ぶら下げた仏さんや神さんは、オラン」

「そらワカランで、あっちの世界にもワシみたいなモンが居るかもな」
「それほど煩悩で溢れとったら、門前払いされるじゃろ」
「んでも。こんだけ世の中で大切なモンが何か、熟知しててもか?」

「知ってることと、やってることに開きが大きすぎるじゃろ」
「そうかなー。たった5mmくらいしか開いてないような、そんな気せん?
開いたスキマを通られるのは、横向きのゴキかマル虫みたいな」

「ワケワカランけど。センセの言う世の中で大事なモンって、ナニ?」
「そら、3つじゃ。幸福・自由・美徳」
「センセに無いモンばっかじゃの」

「確かに。んで、何年持ったらエエんね?」
「んーと、あと10年」
「10年っちゃ、100歳を超えたいワケやね」

「ヘッ。あたしゃ、もうそんな歳になったか」
「あ、大丈夫じゃ。忘れるくらい歳をとったんじゃったら、そのまま行けば300歳」
「それじゃ、ひ孫が先に逝くじゃろ」

「まあ、わしのパソコンでも最長で8年じゃったけど」
「機械と一緒にされたら、カナワンなー」
「んじゃ、大サービスで13年でエかったか?」

「どこいらへんが、サービスか?」
「3年分が」
「サービスが足らん」

Pさんが10年を越えられるか?は経って見なきゃワカラン、午後。

第961話 模型気管支とカニューラ

「内径が20mmと。んで、穴を開けてと。ボール紙むき出しじゃ、陽気さが無くてイカン。
ビニールテープは・・・地味にオレンジでと。ウウウ、艱難辛苦の甲斐あって完成イ」
「あらま、派手な笛ですこと。ピーヒャラ、プーみたいな」

「コラコラ。あんたらの学習用に、構想1分製作3分。感慨に耽った3年と7ヶ月」
「イモじゃないんだから、耽りすぎイ。ま、まさか笛吹きながらラウンドするんじゃ?」
「んだから、笛じゃないっての。切開された模型の気管支と、挿入されたカニューラ」

「血だらけ風は、なんかの事件被害者の死体から?やっぱ、事故と殺人両面で捜査?」
「気管支だけ取り出されて、いったい何の事故やッ!殺人やろ、やっぱ事件・・・。
んじゃなくてエ、実験道具やで。ホレ、この穴が気管切開されたとこやろ」

「しかし、全体がオレンジってどう言う感性は如何なものかと」
「あらら、内側までオレンジって」横から覗き込む介護士P。

では、全員集合ウッ。始まり始まりイ、さてお立ち会い。ご用の方もそうでない方も」

「バナナのたたき売りみたいな」
「さあさあ、カニューラを気管に開けた穴にググッと差し込んだと思いなさい」
「思いました。んじゃなくて、強引に差し込んでんじゃないですか」

「んで、圧を25くらいに持って行き。輪切りで足側から見ると、風船が程良く膨らんで。
さてここでフツーじゃしないけど、引っこ抜くとあらら、シワシワ風船でござい」
「パンパンになってないんだ、風船・・・じゃなくてエ。バルン」

「さあ、貴方の将来みたいなシワシワババ・・・んじゃなくて、シワシワ、バルン。
こいつを注射器でチュチューッと吸えば、あららのメモリは7CC少々なワケよ。
耳たぶ堅さなんて、非科学的に行っちゃうと気管支粘膜の壊死(語尾上げで)」

「メタボと激やせじゃ、耳たぶの硬さも違うし。あたしのは美白ボヨヨン」
「この方にお似合いの空気量は7CCだけど、個人差有り。一言二言ご注意申し上げまする。
力んだり咳き込んだら、落ち着くまで圧測定は待て!ウー、ガルッ。ワフう」

「しかしセンセ、ホントヒマなんですねー。回診が終わったったと思ったら。もうこれ」
「せっかちジジイとお呼び!みたいな」
「しかも、製作と撮影はMIHIセンセなんていちいち書き込んで」
「気管支模型はあんパン囓って、3分作製。撮影は7分。パンフ作成5分の暇つぶし午後。

第960話 放電日和の訪問診療

「おろっ、胸の音エエやんか。喘息は快調じゃね」
「そうなんよ、今朝から。センセが来ると思ったら、息が楽になったで」Dさん。
「んじゃ、毎日訪問してもらおうや」ご主人。

「そらエエ、それがエエ」Dさん。
「それで得するのは、病院くらいのモンじゃ」ご主人。
「ま、そこまでせんでエエ。ハイ、充電」ハイタッチの私。

で2軒目。
「Zさん、リウマチはどげんかせんとイカンなー」
「どっかの知事さんみたいなこと言うて。春から夏は、エエ方じゃ」
「んで、デイケアは行っとるな?あ、行っとる。そらエエ、んじゃ」

「ちょ、ちょっと。充電せにゃなるまいヨ」
「あ、そっちね。忘れてないんだ。んじゃ、充電っと」ハイタッチの私。
「これが一番効く」

で、3軒目。
「糖尿は・・・あらら。最近、間食が多いやろ?」
「ヘッ、ナンで分かるんね?」
「そら、Bさんの引き出し見たら。あららー、じゃろ?」

「息子とケンカして、つい・・・。んで、嫁とも大げんかして・・・。
口答えする孫と言い合いになって、バクバク。充電して貰わんと、イカンわ」
「放電した方がエエんちゃう?ま、期待に応えて充電っと」ハイタッチの私。

帰りの車の中で。
「たった3人じゃけど、ハイタッチで充電したら。ワシは電池切れ」
「そのくらいで丁度エエでしょ、静かになって」の運転役の主任さん。

訪問放電日和りの、午後。

第959話 新パターンの午後

「あららー、センセ。早すぎない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、遅すぎない(語尾下げで)」
「月初めの1日に、月末の定期処方じゃないですか。それ」

「あららー、見つかっちゃった」
「目の前に出されて、見つかっちゃった!も無いでしょッ」
「んじゃ、そう言うことで。お女中、達者で暮らせ。ホレ褒美じゃ」

「いくら何でも、シフォンケーキの切れっ端。ネズミじゃない・・あらら、スポンジ」
「ホレ、もう1つ」
「何処から出して来るんですか・・・ま、まさかズボンの中から。キャー」

「キャー、イリュージョン。テンコーとお呼び!」
「あららー。椅子の裂け目から、スポンジ掘り出したでしょ?裂け目が大きくなってる」
「ご期待に応えて、もう3つ?」

「期待してませんッ」
「誉められて期待されると、伸びるタイプなんじゃけど」
「伸びなくて宜しいッ」

で、次のステーション。
「あららー、センセ。ヒマなんですね、もう定期処方」
「そうなんよ。この際、思い切って30年分行っちゃおうかと」
「定年まで、あと5年少々なのに?」

「んじゃ、気張って125年分」
「患者さんが、ゼーンブ入れ替わってますッ」
「んじゃ。名前の所を*にして、誰でもエエ様にってテクを使おうじゃん」

「アホなテク使わずに、伏せッ!」
「ガルッ・・・」
「ワウ?」
「コラコラ、そこの二人。仕事しなさいッ!代わり映えしませんネー、相変わらず」

定期処方提出に新しいパターンが待たれる、午後。

第958話 病棟レクのさらし首

「ネエネエ、センセ。ナンかさらし首みたいで、いつになく不気味イ」
「そうなんよ、この椅子に問題ない(語尾上げで)」
「椅子が問題じゃ無くてエ、椅子の設定が問題。センセ本体も、大問題じゃけど」

「確かに君達のスタイルとワシのじゃ、比較にならんけど。あ、あんたらが酷い方ね」
「それって、聞き捨てなりませんワ」
「んでも、フツーに座るとこれやろ。椅子に座ってんのに、体育座りみたいな」

「あらら、ホント。ちょっと間違うと、コンビニ前に座った若モン風ジジイ」
「間違えないでね、オネガイね。んでも。これに座ってたスタッフって、超胴長超短足?
ムカデか、胴長ダックスフント。はたまた、ぬらりひょん」

「ワケ分かりませけど。レバーを押したら元通りに」
「ウグッ、ウグググ」
「ナニ、お腹押さえて・・・あ、そのレバーは肝臓でしょっ。ホント、疲れるんだから」

「なかなか腕を上げたやないか、そのツッコミ。誉めちゃうかんね」
「んもー。誉められても嬉しくないし。仕事にならんです、センセのボケが気になって」
「んじゃ、ラウンドも済んだし。今日の病棟レクは、何かナーっと」で食堂へ。

3月と言えば桃の節句、と言えばおひな様ボール。(どう言うこっちゃ?)
テーブルの上をビニールボールに色紙を貼り付けて、おひな様仕立てが3つ4つ。
あっちへコロコロこっちでポトンと落下すれば、お任せのスタンバイ。
「あ、ホレッ。もう一丁」で、おひな様ボールを放り上げるMIHIセンセ。

私はしゃがんで、みんなは少し高めの車椅子レベルテーブルだから。
テーブルの上へ私の首だけ出ちゃうから、気づけばさらし首ウロウロみたいな。
「センセ、ボールとセンセの頭の区別がつかんから。思い切って、顔に赤ペンキでも」
「どうせ描くなら、サッカーボール風がエエんじゃけどオ。日の丸もね」

赤く塗られた顔じゃ血だらけさらし首やん、と思った病棟レク。

第957話 介護の自信

「しかし、あんた。11年前と変わらんな−、ナンでや?」
「そうですわねー、あたしが学生だった頃からですから。13年(語尾上げで)」
「あんたの進歩が無いんか、ワシの目が腐ったか?」

「認知に問題があるのか、真っ当な言葉を忘れたか?もあるでしょ」
「長谷川式やってみようかな?っと」
「センセも変わりませんね、13年前から進歩がない。んで、相変わらず?」

「相変わらずキムタク似?みたいな」
「イエイエ、奥様とラブラブですか?ってこと」
「後がないから」

「それも変わってなですね−、逃げられたら次がないってでしょ?」
「あたし大丈夫ですけどオ」いきなり突っ込む介護士Q。
「あらQちゃん、ホントにイ。こんなオヤジで我慢出来るん?」

「オムツ交換も得意じゃし、食事介助も自信ありますウ」
「ちょ、ちょっと。奥さんに逃げられて、いきなりオムツか?」
「大丈夫です、初日にキャッシュカードの暗証番号教えて貰って」

「そう言うのは、初日にしちゃうワケね」
「ハイ、翌日は財産の名義変更と生命保険の確認まで済ませてと」
「案外しっかりしてるんやね」

「ハイ、あとはフルコースで」
「やっぱ、フレンチとか?」
「イエ。トリカブト雑炊とか、あんかけ猫いらず饅頭酢味噌和えとか。オプションも」

「お、オプションなんて。贅沢してエエの?」
「イモリの黒焼き、鉄火丼中盛り。あ、忘れてました。トッピングは、ヒ素入り万金丹」
「3日持たんやん」

「ですから2日が勝負ですよね。大丈夫ですよ。そう言うのも、自信あります。
任せて下さい、テキパキサクサクしますから。色々、自信あります」

色んな自信は無くてもエエと思った、午後。

第956話 評判と評価の乖離

「あのさ、3分ヒマ?」
「はア、2分47秒でオネガイしますけど」
「婦長さんにお聞きしたいことが」

「年齢体重、男性の好み以外。センセの評価なら、100や1000」
「んなモン聞いて、どうするんじゃ。んじゃなくて、Rセンセ」
「ウチのセンセじゃございませんね、んでも多少は」

「良く言えば変わりモン、悪く言えば変人?」
「センセ程じゃ」
「んじゃ、はっきり言えば。すっとぼけ、我慢足らず?短気は損気」

「センセほど、せっかちじゃ」
「んじゃ、正直言えば異常?」
「時々、センセがフツーに見える程度(語尾上げで)」

「スマン、あんたに聞いたワシがアホじゃッた。Rセンセから、しょっちゅう電話がな。
不幸の電話みたいなモンが、かかって来るんじゃけど。話がゼンゼン通じんのよ。
まさかアボリジニ語じゃったとか?。ワシ、そっち係は弱いから」

「センセと電話で喋ると、あたしも同じ現象が・・・」
「なんや、その程度か。んじゃ、フツーやん」
「そう思ってらっしゃるうちが、ハナですわ」

「人の評判と評価は、なかなか一致しないことが多いですから」
「そうよなー、ワシも誤解されやすい体質じゃから」
「体質の問題じゃ無いような・・・」

「よー分かった、聞きにこなけりゃエかった。あんたの評判を誤解しとった」
「センセの評判と評価は、完全一致ですモンね」
「ワシって、裏表がない人じゃから」
「裏ばっか」

評判と評価には大きな乖離がある、午後。

第955話 はっきり言いなさいッ

「あー、プリンターのスイッチ切ってる。他所でもやってるんて、あれブツブツ・・・」
「ふうーん。小姑ッちゅーか、やなオヤジっちゅーか。ブツブツ・・・」
「やだねー、歳取ってもああはなりたくはないわよねー。ブツブツ・・・」

「あらやだ、手を拭いた紙タオルでディスプレー拭いてんじゃん。ブツブツ・・・」
「棚の上を手でサーってして。指先のホコリをチェックする(語尾上げで)ブツブツ」
「やだねー、歳取ってもああはなりたくはないわよねー。ブツブツ・・・」

「あー、今度はキーボードを持参ブラシで。ゴミ掃除してんじゃん、ブツブツ・・・」
「あららー。この間の夜勤で無くしたピアス、あんなとこに。ブツブツ・・・」
「MIHIセンセ、そーとーヒマみたいね。倉庫の掃除もさせちゃう?ブツブツ・・・」

「ブツブツ、ブツブツ。言いたいことがあったら、はっきり言いなさいッ」
ワシのストーカーせんと。ツマラン申し送り、とっとと行っちゃいなさい」
「あー、やだ。なんかしてるフリをして、あたし達の話聞いてんだ。ヤダー、ブツブツ」

「あのな、言いたかないけど。プリンターの寿命、うちの1/5やで。
無駄働きバッカさせられて、超短命イ。絶命寸前」
「センセンとこのプリンター、年賀状書く時しか使わないんでしょ」

「んなこと無いけど、使わん時は電源落としとるから。これ、過重労働もエエとこやで。
あんたらがのり弁唐揚げ付き平らげてデブってる時も、電源入ってるモンなー」
「今日は、鮭弁と肉団子皿大盛りですから大丈夫イ」

「んだから、3段腹が3.5段腹。プリンター死にそ。ブツブツ・・・」
「肉団子が、何処でどのように3段腹と関係あるってんですかッ!」
「無いと言えば詐欺まがい、有ると言えば正直モン。ブツブツ・・・」
「ブツブツブツブツ。言いたいことがあったら、はっきり言いなさいッ」

言いたいことが溜まっちゃった、午後。ブツブツ・・・

第954話 施術者入替(こうかてき)

「アロハあー」
「あ、モーニンですウ。変えましたわね、モーニンから」
「リフレッシュっちゅーか、変化を求めてナ」

「そうそう。リフレッシュっちゃ、エステ」
「何処をエステするんじゃ?」
「あらま、いくらあたしが美白足長8等身だからって。欠点くらい有りますわヨ」

「欠点とか、治さなイカンとこって言われてもなー。何処を述べよ!言われてもなー。
いっそ全身、そっくりそのまま入れ替えた方がエエんちゃう?」
「ねえねえ、Pちゃん。エステって、時間は?」

「溝掃除だけでも、3時間はかかるやろ」
「ちょ、ちょっと。溝って?」
「4段腹の溝と、浅くなって殆どツルツルになったあぜ道みたいな脳みその溝」

「脳エステは諦めるとして、30分くらい?」
「既に脳みそはツルツル、極寒に張った池の氷。んじゃなくてエ、タブンよ。タブン。
1時間ぐらいと思うんよ、途中で寝てしまうし。ハイッ、終わりましたで起こされて」

「寝た途端に放って置かれて、1時間経って起こされてるんかもよ」
「んで。体表面積が3倍じゃから、特別料金でハウマッチ?」
「んーと、ツーサウザントイエン」

「ナンじゃそりゃ、んーと・・・\2000じゃな。けっこう良い時給じゃね」
「半年経って気がついたんじゃけど。エステシャン、だんだんスリムになってんよ。
あれ見ると、ナンか効果がありそうな気イしてきて通ってるんよ」

「そら、あんたみたいな奴バッかエステさせられたら。毎日重労働やもん、痩せるで.
してもらうより\1000払ってエステシャンのエステをした方が効果があるんとちゃう?」

痩身施術者を入れ替える本が効果的な、午後。

第953話 さくらへアドリブ

「センセ、研究大会ですよね」
「ワシ、コーフンして熟睡かも」
「意味分かりません。んで、質問はするんでしょうね。やはり」

「ご要望とご期待に添って、いろんなパターンをご用意させていただいとります」
「誰も、オネガイしてませんけど。今回は、審査委員ですから。欠席はないですよね」
「丁度運良く、ラッキーにも、予定していたみたいに。あの時間だけヒマなんよ」

「運が悪いとしか言いようがないですわね、ハアー」
「んで、研究大会?」
「そう言うことで、さくらをオネガイしたいんですけど」

「遠山の金さんみたいな、さくら吹雪でもビュービュー?」
「んじゃなくて、良くあるじゃないですか。国会討論みたいな」
「あ、あれね。端からナニを質問するか教えておいて、役人が作った答えを読むヤツ」

「それに近いような。んで、第798題の質問係をG理学療法士にオネガイして?」
「あ、よー勉強するかの君じゃね。的が、ちょいとずれずれの」
「ハイ、的がずれずれ・・・じゃなくて、真面目な彼に」

「レジュメ読んだけど。もし質問するなら?って、ヤツやな」
「ハイ、難病患者さんのことで。私らあんまり知らないから、ゼヒにセンセに2分間で」
「先ず1番の質問の答えが発表スライドの中にあった場合、次の質問を用意じゃね」

「ナンか、取り調べみたいな」
「んで次の質問答えが発表スライドの中にあったら、その次の追求を用意してるワケね」
「ナンか、逃げられなくなってきそうな。センセ、えん罪だけは・・・」

「3つ目の質問答えが発表スライドの中にあった場合、アドリブで質問しちゃうワケね。
これが嬉しいことに、壇上で立ち往生して号泣(語尾上げで)」
「うれし泣きですか?」

「研究発表でうれし泣きじゃ、クセになるやろ。研究発表のトラウマ体験」
「研究大会を潰す気ですか、センセが言い出しっぺなのに」
「んじゃ、リーサルウエポンのアドリブだけにしとくか」

さくらへのアドリブ質問が待ち遠しい、午後。

第952話 PATは趾で

「センセの患者さん、Dさんですけどオ」ケータイの向こうから、ナースB。
「まさか、結婚したとか?」
「なんであたしが独身で、98歳寝たきりDさんが結婚なんて。酷くない(語尾上げで)」

「ゼンゼン、酷くない(語尾下げで)」
「んじゃなくて、脈が180ですけど。モニター見ていたら、1分前から」
「そらイカン、静めねば。ラジャッ、寝たきりで全力疾走じゃイカンやろ」

「んじゃ?ナニを」
「んーと、PAT(発作性上室性頻拍)じゃから。ツカミは、アミサリン200mg静注で」
「んじゃ、ツッコミはあるんですか?」

「追加が200か400か?飲み込みがエエなら、氷水一気とか、力むとか。それ、ツカミ」
「ホウホウ、迷走神経を刺激するんですね」
「穴を掘って、座るワナ。んで、あんたじゃったら趾1本で」

「足の指ってのがミソですね、思いっきり抓るとか」
「んじゃねーべ。ワシの指、使いたくないから」
「前足の?」

「チョキ2股に別れた・・・そらブヒッの手じゃッ!」
「んで、ナンで自分の趾でどうやって自分のPATを止める?」
「先ずあぐらをかいて、三段腹をググッと引っ込めて足を口へ」

「かなりきつそうですけど、それだけで迷走神経がグジャグジャになりそうな」
「んで。目一杯、ゲロるまで趾を喉へ押し込むと。PATは止まるワケ」
「絶命しそうなこと、しちゃうんですね」

「心臓が止まると同時に、PATも止まる。あんたは、穴の中に座ってるから丁度エエ。
上から生コン注いで、割り箸3本でエエやろ。真ん中におっ立てて」
「あらら、Dさんの脈。67になってるわ」
「それ、想定内」

PATは自然に治ることもあるんだよとナースBに教えた、午後。

第951話 脳のニクロム線

「あららー、いったいこれは!」
「な、ナニい。誰がキムタクじゃッ」
「そんなアホなこと、言ってませんッ」

「切れたか、イボか?はたまた、ハゲしく脱出」
「コラコラ、あたしのは内痔核・・・んじゃなくて、センセの字っ」
「ナニがや?まだ読めんってか?」

「イエイエ、2週間前に平仮名を練習中って言ってたのに。漢字が読めるじゃないですか。
ってゆーか、読める漢字を書いてる。うちの子より綺麗な字、幼稚園ですけど」
「幼稚園児と比べるの、止めてくれん。んでもワシ、開眼したんよ。字に」

「ほっほー、その辺りをレクチュアしてみたいでしょ」
「殆どの漢字は、分解するとヒラカナとカタカナになるんよ。後は、お約束。
2本の線は平行、間が均等、縦線上はちょいオーバー気味長さ。それで決まりッ!」

「んで、こんなにけっこう読める字が?」
「能ある鷹は爪を隠す、上手い字隠すブタは着痩せするって」
「ボールペンとセンセの脳みそが、ニクロム線で繋がっているんじゃ?」

「スイッチ入れると・・・即ちワシがキレると。ニクロム線が、熱くなって。
めざしがこんがり焼ける手はず、ぬる燗でキューッとは禁酒中じゃから」
「んじゃなくて。脳みそから伝わった情報が、ペンを勝手に動かすとか?」

「んなら。ワシの着ぐるみを剥いだら、伝説のテイバクさんが出てくるとか?」
「誰ですか、キックボクサーみたいな」
「そんなん知らんのか。古の中華、囚われの下級役人が隷書を発明したと思いなさい」

「思うだけなら」
「んで、始皇帝に見せたら。あんたは凄いッ、素晴らしいッ!言うて罪を許して貰った。
そういうエライ人」

「んでも、ナンか悪さをしてとっ捕まったんでしょ?」
「ストーカー行為とか、よその家のハッサクを1個盗んだとか?」
「ワケ分かりませんけど。センセの脳みそとニクロム線なら、なんとか理解しやすい」

まだ頭の周りにニクロム線を発見していない、午後。

第950話 医学博士とパンツの差

足の裏の米粒に例えられる医学博士だけじゃなく、認定医だの専門医だの。
取ったからどうってこと無いけど、取りあえずってか!みたいなモンて色々ある。

「モーニン」
「あら、センセ。んー、ナンかちょっといつもと違うけど。何処でしょうねー」
「例えば今まではキムタク似じゃったんが、アラシのニノミヤクン似になっちゃった?」

「んなはず無いでしょッ、前提から決定的に違うし」
「んじゃ、パンツか?」
「外から見て分かるはず無いでしょッ。んだからと言って、チャック開けないでネ」

「んでも、三日月目でも丸見えやろ?パンツ」
「あ、インナーじゃなくて」
「インナーっちゃ、アフターとかライナーの親戚か?んなアホなーの弟とか」

「よくそんだけクダランことを、思いつきますこと」
「そこが、凡人とのちょっとの差(語尾上げで)」
「ちょっとどころじゃないでしょッ」

「んで、もしもそのインナーパンツをパンツの上に履いたら。どう呼べばエエんよ?
インナー・アウトとか?バッター・アウトで野球じゃん、みたいな」
「しかし、パンツでそこまで話を広げられるなんて」

「ウン、このパンツ。15年物やから、ちょっとシルエットがちゃうんよ」
「15年間、体型が変わらなかったんですか?」
「山あり谷あり、涙無しじゃ語れん。1週間じゃ語れんけど。
ワシの医学博士と同じくらい涙涙の物語。あ、そんなモン聞きたくない」

医学博士とパンツに大差ないと思った、午後。

第949話 通信講座成果(ややなみじ)

「あらまっ。この書類、ゼンブ読めるッ!」
「確かにワシの字は読みにくかったのは、1万5千歩譲って認めようじゃないか」
「んだって、読めない字が無いモン。30文字で」

「んだからあ。ワシの字は半分は、よーワカランじゃった。
んで、残りの1/4はいささか。んで、さらに1/7は・・・」
「そこまで細かい情報は、要りませんッ!」

「センセ、センセ。それよりこれ、なんて書いてありますウ」
「イエス・アイキャンじゃまだまだ習ってないヤツかもナー。
おろっ、このカルテ。ワシ担当か?」

「イエ、Pセンセですけどオ。みんなが悩んでまして、こういう時は同病が良いかと」
「どらどら・・・んまっ、凄まじい。1のような2のような、はたまた3億7千94」
「ナニ言ってんですか、1回に服用する錠剤数がそんなに多かったらイカンでしょッ」

「んで、この患者さん痒いんやろ」
「ハイ、まあまあ」
「血だらけになるくらい掻きむしって、貧血とか?」

「イエ、背中が痒くて寝付きが悪いくらいかな?」
「3億錠も処方したら、爆睡・激睡。三途の川を2,3回渡って帰ってこれるで」
「ハイハイ。ナンとでも仰って下さいませ。んじゃ、1錠ですね」

「なんや、1って書いてるやないか」
「ハア?さっき見たら、1か2か鑑別不能の字が・・・。あららー、指示簿が」
「くっきりはっきり、ペン習字みたいに1って」

「小一のうちの子と同じイ。1の頭に軽く打ち込んで、真っ直ぐですね。お習字みたいに」
「昨日、習ったバッカ」
「んじゃ、強引にセンセがワカラン字の上から書き足したワケですね。
んでも、読めるデスもんねー。字の腕を上げましたわね、センセ」

「トップじゃないよな?」
「当たり前でしょッ。でも、栄えある第3位。先月まで最下位じゃったから、超大進歩」
「苦節2週間のイエス・アイキャン。あと半年したら、師範と呼んでエエよ」
「ウッセ、あと13歩で並み字」

通信講座でやや並字レベルに近づいたらしい、午後。

第948話 失目酒精(めちる)

車いすのZさん、カルテを書くMIHIセンセににじり寄るステーション。
「センセ、ビール飲んでエエか?」
「2年前のワシに聞いたら、節目節目なら,、ちょっとだけよ!って言うたけどな」

「ダメでしょッ、入院中ですよ。入院中うッ」ナースK突っ込む。
「んでセンセの言う、その節目っちゃナニ?」一応、聞いてみるZさん。
「節目は節目よ、戸板の節穴とはちゃいますよ」

「パンツの穴でないことも知っとるで」
「ワシの節目と言えば、Zさん。朝は軽ーく、食前酒(語尾上げで)。
昼はグラスでクイクイ景気づけ、夜はしっとり晩酌やろ。やっぱ」

「そんだけ飲み続けたら、禁断症状が出るヒマがないでしょッ!」
「それが変わったワケよ、日々進化とか朝令暮改とも言う」
「テキトー、エエ加減とも言う」

「んで、入院中はダメッ」
「ノンアルコールビールなんじゃけど、イカンか?」
「あ、あれはビールやないで。炭酸麦ジュースじゃから、禁酒してるワシも愛飲中。
コーヒーとかわらんから、OKじゃ」

「センセ、もう1つ。消毒アルコールっちゃ、飲めるんか?」
「飲めんこと無いやろけど、勇気が要るワナ」
「ダメよ、Zさん。ノンアルコールビールに、チョロッと入れようと思ってんでしょ?」

「ランプ用メチルアルコールなら、検査室に。んでも、あれってマズイやろ。
戦後、あれを飲んで目がおかしくなったらしいで。んで、目が散るアルコールって」
「またまた、オヤジギャグ炸裂ですか?」

「んじゃ、ロックでキューッと行っちゃって。どんどん」
「センセ、急にコーヒー飲みたくなったでしょ?」
「ボクって、アブナイコーヒーは飲まない人。特に、メチルアルコール入りは」

目が散るアルコールの噂はホントなのか知りたいけど恐い、午後。

第947話 好感度(たいぷ)

「ねえねえ、Bさん。車いすに乗って散歩しません?」
「んー」
「センセじゃなくて。ナースDさんか、介護士Q君じゃ。後ろから、押してくれるんは」

「どう言う意味?」
「意味なんて、そのまんま。あの2人がタイプじゃから。なっ、Bさん」
「フン、んー」

「あらまっ。あたしなら、W君か*病棟のJ君じゃね」ナースT。
「あんたのタイプは、興味ないッ」
「んじゃ、センセはこの病棟でタイプと言えば?」

「5択とか10択なんてモンじゃ足らんな。3万択で、オネガイできんやろか」
「スタッフ、ゼンブで200人は居ったような?ググッと曲げて、200択でオネガイします」
「まあ、強いて言えば。さらにイヤイヤで、しかも言わんと殺すと脅されりゃ・・・」

「かなり無理しないと、言えんっちゅーことですね」
「出来れば見逃していただけると、ご先祖さんも喜ぶ」
「ご先祖まで出ますか。んで?タイプ」

「言わんと酒飲ますって言われりゃ、禁酒してるだけに・・・婦長さんかな」
「あらら、イヤですよ。定年間近になって、今さら」聞き耳立ててたらしい婦長さん参入。
「いまさらも、カッパの皿もねーんだけど。先が短いから、後腐れがないでしょ」

「たかがタイプで、後腐れとは」
「言いたいこと言ったら、徘徊するタイプなんよ。ゴメン」
で、徘徊しかけて開いたドアから見える主任さん。

「ナンか面白そうなことしてるやん」
「面白いですよー、手伝います?」
「ボクって、手伝わないタイプ。おろ、研修会のレジメ。暇潰しに、頑張る」
「頑張るタイプなら、なんなら出席しません?研修会」

「出てもエエけど、演者が泣くまで質問するタイプでエエ?
ワシにたてついたら、耳から脳みそ出るまでディベートだかんね。キビシイぜ。
泣くまで攻める。ボクってそう言うタイプなんよ、正味」

「ダメです、そのタイプは」
「んじゃ、どんなタイプうがお好み?」
「センセ以外のタイプ」

「んじゃ、複雑怪奇。ナゾが多いタイプじゃね」
「イエイエ、ミジンコみたいに、単純タイプの単細胞ですッ」

好感度がミジンコなみタイプの、午後。

第946話 交差会話む(まますすむ)

「センセ、ちょっと聞いてよろしいですか?」
「あ、Gさん。ちょっととは言わず、腰を落ち着けて3年でも5年でも」
「あたし、体が持ちません」

「んで、ナニを?」
「あ、センセ。どうしてビョーキになるんですか?節制してても、血圧上がるし」
「タブン、ウンやろねー」

「んじゃついでに、モーチョーってナンでなるんですか?こないだ便秘してた孫が」
「それも、ウンじゃろ」
「なるほど、ウンチが溜まってばい菌が・・・ね」

「そのウンとは・・・」会話は交差したまま撤収して医局。
「あ、センセ。経済、学習してますウ」
「国債の利回りがヤバイと判断するのは、確か7%がボーダーだったですよね」

「そうそう、センセ。1万1千だったでしょ?」
「そうなんですよ、日経平均」
「んでも、血イ出ないでしょ」

「下がりまくって、それこそ血イ出した人も居るんじゃ」
「あれって抗凝固剤に酸化マグネシウムを使って再検した方がエエと」
「そんなモンで復活しますか?」

「復活というか、本来の姿が分かるワケで」
「確かに、円安に振れて\95位になってくれると。日経平均もグイグイ・・・」
「それで10万超えれば、偽血小板減少症と言えるでしょうね」

会話は交差したまま進む、午後。

第945話 不要走行写真(とんでもない)

「あのさ、P君マラソン大会に出るんて。ワシ2口、カンパね。ちょっと多かった?」
「ケチいですわねー、たかが2口\2000。センセの給料ならポーンと3千万くらい」
「アホ言え。そんなことしたら大会を乗っ取って、3位以下は銃殺とか。
はたまた獄門さらし首とか?そういう規約を」

「それじゃ参加者が2人しか出んでしょッ」鼻息荒い、ナースZ。
「それか、全員がいちにのさんでゴールするとか」突然参入する介護士Q。
「んじゃ競争にナラン」

「首を晒されるよりマシ」
「んで。喘ぎながら走ってる写真、ワシ要らんから。葉書サイズじゃ使えん。
もうちょっと大きかったら、ダーツの的(語尾上げで)」

「えー、どうしてですウ。あ、P君。タイプじゃないから?
ヤダー、んじゃあたしがタイプう?スミマセンねー、5人の子持ちで」
「ワシ、そういう趣味無い」

「んじゃ、Rちゃんとか?」
「それじゃナニか、ワシに拷問する気イか?」
「Rちゃんと拷問と、どう言う関係?」

「んじゃ言い直して、なんかの罰ゲームか?」
「それで手を打っちゃいますネ。んで、応援は?」
「ワシさ、運動会とか大嫌いなんよ。特に徒競走の音楽があるやろ?あれ、サイテー」

「ハイハイ、あれ聞くと燃えちゃうヤツね。すんごく」
「アホ言え。あれ聞くと、息が詰まって死にそうになるで」
「あー、センセいつもビリだったんだ」

「アホ言え。小中9年間、徒競走で1回だけ下から2位じゃった。凄いじゃろ?」
「どーせ、足をかけて転ばしたか。賄賂でインチキしたか、校舎の裏で脅したか」
「あんた、ワシの同級生か?あれ、見たんか。んで悪夢を思い出すから、写真要らん」

走ってる写真なんてトンでもないと思う、午後。

第942話 自己追い込み:上品な作曲編

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「イヤイヤ、センセは多趣味で」
「イラストは、既にスケッチブック4冊かな」
「恥だけじゃないんですね、かくのは」

「あ、エッセイなら8冊分の原稿があるけど」
「ナンも書いてない紙の方が、使い道が・・・」
「音楽なんかに造詣が深いって、聞いたような」

「学生時代はアメリカの歌謡曲みたいな、カントリーミュージックに凝って。
その後は、バロックかな?大学院の時は日本のポピュラー。卒後は、ジャズ」
「節操がないというか、飽きやすい性格というワケですね」

「んで、6年前からやりたくても出来なかったDTM」
「それって、頭にふりかける駆虫剤みたいな?前にもこんな会話したような」
「そらDDT!んなモンにはまったら全身真っ白!も、前に言うたような」

「んじゃ、糖尿の親戚?これも前に使ったパターンみたいな」
「んなアホな、真ん中のTはナニ?コンピューターミュージックですわ。パソコン演奏」
「パソコンをバチで叩いて、ドンドコ。楽器演奏みたいな。いままで何か、楽器は?」

「まあそうじゃねー、縦笛・オカリナ・ホラ等々。吹きまくりじゃね」
「最後のが、一番得意?」
「あ、ウクレレぽろんぽろんも。それよか、病院でナンか新しいことせん?」

「例えば?」
「ワシがDTMで病院歌を作曲するとか。始業時間に全館流すわけ。やる気出るでエ」
「御詠歌風だけは止して下さいね、気分が萎えますから」

「1つ積んでは殿の為エ、2つ積んではまた崩すウ・・・みたいな?」
「センセの作曲はエエけど、上品なヤツをオネガイしますね」
「下品な曲ってどんなんや?」

「んーと」
「まさか、あんな事やそんな事が歌詞に?」
「それなら、あたし得意ですから。3番まで作詞しましょ」
「そういう下品な歌詞は・・・」

「まだ、歌詞を発表してませんけど」
「想像しやすいで、顔見てると」
「顔で作詞はしませんッ」

上品な曲作りをしようと思う、午後。

第941話 マスクは透明で

「おろ、センセ。大きめマスク」
「完全防御。ワシって体弱いの、残念ながら顔はエエけど」
「欠点は、自分が見えないこと(語尾上げで)」

「マスクしたら、ワシが誰だか判別付かんやろなー」
「イエ、大丈夫。マスク関係なく、目立つボウタイ」
「あ、そうや。さっき9876号室から出て来た、多分女性。あれって誰?」

「どうしたんですか?」
「イヤ。いつも大変お世話になってますウ、言われてな。あどうもって、言うと」
「んで、お婆ちゃんの具合どうですって?聞かれたんよ」

「そら、ちゃんと説明せんと」
「立ち話もナンですから、ステーションでって言うたら」
「気が効くじゃないですか、センセにしては」

「ここで結構ですって、言うてんよ。んで、誰じゃッたかなーって。
 なんせ、顔の半分以上が隠れるマスクやで。分かるはず無いわな」
「んで?」

「んで。ご飯の方は、んーとって言いかけたら。注入して貰ってる栄養が、エエからって。
はっはー、経管栄養中の女性じゃなと。んで、もう歳ですからって来たワケよ」
「だいぶ絞られてきましたね」

「んで、おいくつでしたっけ?って探りを入れたら。この間、98になったって」
「殆ど、ピンポイント状態ですわね」
「もう一息と。心臓は・・・言いかけたら。不整脈で、脳梗塞が恐いって言うから。
タブン心房細動じゃなと。しかも、連れ合いがこの間逝って、あっちで待ってるって」

「外堀は、殆ど埋められましたわね。後は本丸に、一斉攻撃みたいな」
「思わず、あと3つヒントオネガイします。3択でエエんですけどって」
「まさか、言うたんじゃ?」

「いくら何でも、そこまでは。んで、助け船が1艘出て」
「最後のヒントでしょうね、これ以上MIHIセンセを甘やかしちゃイカン」
「担当のQセンセがお休みの時に、診ていただいて。この間の説明は、よー分かりました。
大変お世話になりました、って来たんで。詳しくは、Qセンセにお聞きき下さいネと」

「MIHIセンセが担当じゃなかったんですか」
「んじゃまた。今度は風邪が治ってマスクが取れたらお話ししましょってだけ、言うた」
「んで、どなたでした?」
「マスクしてたから、ワカランッ!」

医者と話をする時は透明なマスクにして欲しい、午後。

第940話 胸手疥癬ん(なぽれおん)

「センセ、センセ。Yさんの背中見ましたア」
「顔と胸は見たけど、背中までは・・・」
「すんごいんですよ」

「ま、まさか。キティちゃんの、クリカラモンモンじゃ?」
「栗のイガに痛みつけられて、悶えるわけですね。悶々と」
「タトゥーよ、栗のイガとは関係ないの。んで、見ましょ。そうしましょッ」

「まさか、疥癬じゃ?」
「どらどら。んー、薄いピンクのトンネル無いしイ。念のため検査」
「ハイ、注射針」

「そんなんで突っついたら、痛いやろ。こさぐワケじゃから、スライドグラスがエエの」
「だ、誰?背中をいじってるのは」
「あ、MIHIセンセよ。Yさんの背中が痒いじゃろ、んで掻いてくれてんの」

「んじゃ、もっと横」
「ここらじゃないとアカンのよ、ガリガリと。な、痛くないやろ?」
「気持ちがエエから、もちっと強くハゲしくな」

「疥癬って、古代バビロニアの時代から数千年間人間にくっついてきたらしい」
「そんなに歴史が長いんですか」
「あんたの先祖より由緒正しきヤツなワケじゃから、尊敬せねば」

「ナポレオン時代、疥癬の流行で戦う気が失せたらしい。リーサル・バイオ・ウエポンや。
ナポレオンが胸に手を入れてるやろ、あれって疥癬で痒かったちゅう噂」
「センセは疥癬にとっても詳しいけど、親戚じゃ?」

言われて急に体中が痒くなった、午後。

第939話 自己追い込み;学習意欲とTVサスペンス編

何かを始めようと思いついたモノの、なかなかコシが上がらない時がしばしば。
そんな時は、「決めたア、ゼッタイするぞオ」と公言するに限ると誰かが言ってた。

「センセ、オネガイが・・・」
「ダメッ、ゼッタイダメッ」
「まだ、なーんも言ってませんけど」

「せっかく勉強しようと思ったのにイ、もーイヤ。勉強せん」
「家のヒネガキと同じこと言うんですね、センセって」
「可愛いとこ有るじゃん」

「そういう時って、気が散って集中する気がない時ですよねー」
「あんたんとこのひねくりガキと同じとは、トホホじゃね」
「んじゃ、参考までにお聞きしますけど」
「んじゃ、参考までにお答えしますけど」

「どう言う時に、しゃーないから勉強しようと思うんですウ」
「TVサスペンスと、大いに関係するのよ」
「うちの子はあんまり見んけど、お笑いじゃダメですか?」

「最近のお笑いはレベルが低くて、ダメッ。話にナラン、ヤスキヨ最高うッ!」
「んじゃ、100歩譲ってサスペンスがどうなら?」
「昼間のお勉強タイムには、殆ど再放送じゃから。そこが大問題」

「ますます分かりませんねー」
「ワシって、殆どTVサスペンスを押さえてる人じゃないですかア」
「そんなこと知りたくない人です、あたし」

「既にそこで意欲を失ってるね、ったくもー」
「結論だけオネガイできますか」
「ここまでが、漫才で言えばツカミ。あと2時間27分」

「耳が腐りますッ。簡潔・超短時間・言葉少なで、オネガイします」
「最初の5分で、見たことあるか分かるワケよ。忘れてる場合は、思い出すまで見るわな。
犯人とトリックまで思い出した所で、番組表で他がツマランかったらイヤイヤ勉強」

「手間暇かけるんですねー」
「手間暇かけんと、ぬか漬けは美味くないやろ」
「ワケ分かりませんけど。んで、終わりかけて見たことに気づいたら?」

「くっそー、腹立つウで。忘れんように、教科書の隅っこに書き留めて置くわけ。
犯人とトリックを。これが、再放送3回見なくて大丈夫作戦。で、イヤイヤ勉強」
「あたし眩暈が・・・。センセを反面教師として、息子を育てます」

子供の学習意欲について講演依頼があったらどうしよ?と思う、午後。

第938話ヘルメスとペン習字

「センセ、ウイキャン始めたんですね」ナースB。
「イエス・アイキャン。とうとう、天下分け目の3日目」
「それを言うなら、1・9分け目の坊主かどうかの瀬戸際でしょ」

「既に、効果が出てるやろ」
「そうなんですよ、えらく字が大きくなって。出来損ないのお手本みたいな」
「3日目にしてこれやから、半年経ったら恐くない(語尾上げで)」

「確かに上達したとは言えないけど、読みやすくなったのは事実。前が、酷すぎ」
「どらどら。ほっほー、なーる程こう来るわけですね」横から突っ込む主任さん。
「でしょでしょ、あと1年もすれば院長センセの足元に及ぶかも」ナースB。

「ウッ、それは有り得んと思いますけど。皆さんで拍手しますか」主任さん。
「それって、ボクのこと尊敬してる?」
「そんな無茶なことは」主任さん。

「んで、センセ。読みやすくなったら、ここ違ってますよ。2じゃなくて、3」
「読みやすくなると、間違いも発見しやすくなるんだ。こらイカン、困った。
前なら阿吽のコミュニケーションというか、魚心あれば下心じゃったのに」

「ナンかそれって、ヘン。まあ良いわ。さ、外来の続きですね」
「Zさん、どうぞオ」
「おっはよ、元気イ」

「センセ、お聞きしたいことが」
「なんで、ウイキャンを始めたとか?」
「ナンですかそれ。んじゃなくてですね、隣の部屋の人、ヘルメスなんですけど」

「高級品バッグを買ったんやね」
「あれって、伝染しますウ」
「確かに影響受けやすい人は、うつるかもオ。自分も欲しくなる人も、居るやろ」

「あんなモン欲しくありませんよ。朝起きたら、最初は痒くてたまらんかったらしい。
その後、凄く痛くなって。あんなモン、お金もらってもイヤですよ」
「ブランド品とお金貰えるなら、あたし欲しいわ」

「水ぶくれのブツブツが、胸やらお腹やら。最初は、ベッドから落ちたんかと」
「ナンか、話が見えんなー」
「あたしも見せてもらったけど、真っ赤になって痛そうじゃった」

「それ、ホンマにヘルメスか?」
「んじゃ、フラペスじゃったかな?」
「それって・・・。字が違うで、クックック」
「あー、分かったア。字が違うとこは、MIHIセンセのペン習字と同じ。ちょっとだけね」

カルテを調べると、Zさんのお隣さんは抗ウイルス剤を処方されていた朝。

第937話 非危険人物(まるくすは)

「イヤイヤ、参った。昨日ノロで、今日インフル。明日はコレラか、腸チブスみたいな。
むかしあったんよ、”圭子の夢は夜開く”ってのが。あ、ウタダ・ヒカルのママね」
「危険度から言ったら、どれが一番?」ナースb。

「そうやねー、夜勤明けのスッピンの次に来るのは・・・何やろ?」
「確かに、あれはソートー危険じゃないですかね。自分で言うのもナンですけど」
「院内感染じゃ、MRSAとかVREなんか有名ですけど。危険度の差って」ナースC。

「最近の論文じゃ、MRSA保菌率はフツーの入院患者さんで9%なんて。
んで、スタッフが6%らしいで。ついでにVREは0.1%ってデータがあるな。
巷で調べたデータがないから、あとはよーワカランけど」

「んで、ノロとインフルをみっけ!がセンセなワケですね」
「毎回マスクと1日約10回7分30秒手洗い励行、おかげでワシの手はピッカピカ」
「ヨゴレとかばい菌が落ちて最後に残ったのが、一番危険なモンですわねー。ハア」

「ワシが院生の時、病棟婦長さんからMIHIセンセは人畜無害って言われたんよ。
信じる?あ、信じられん。そういう事じゃ、神やダビデやブッダに救われん」
「労働環境が違うんですかね?」

「いきなり意表を突くけど、確かに環境は大事やね」
「良く言うじゃないですか、職場の雰囲気が大切って。それでやる気が違うって」
「確かにワシって、労働環境に恵まれてないかもオ」

「何言ってんですか、粒ぞろい美白・スリム・弱弱心根スタッフで文句なし労働環境」
「労働は人間と自然の間の物質代謝を媒介する人間的活動と、規定されてるワケ。
あ、これってワシが言うたんとちゃうよ。マルクスさんが、”資本論”の中で」

「センセ以外にも、ワケワカランこと言う人が居るんじゃ」
「医者とナースの間の物質代謝を媒介する人間的活動に、問題があるかも?」
「ワカランけど。それを言うた人は、そーとー危険人物みたいねー。センセみたいに」

マルクスさんは私より危険人物じゃない、午後。

第936話 座敷童の早朝風景

「早やッ」
「いま何時や?あー、4時半か」
「電話に出るの凄く速かったけど、ナニしてたんですか?」

「んじゃ、そう言うことで。ワシ寝る」
「コラコラ、Wさんの気管カニューラ。自己抜去です、ヨロシクう」
「抜いてもエエけど、もうちょっとしてからにして欲しかったなー」で、当直室から出動。

「んで、センセ。朝早くから、ナニしてたんですウ」
「遊んでた」
「だ、誰とですか?友達少ないでしょ、センセって」

「意味分かりませんけど、ボクって人見知りするタイプ(語尾上げで)」
「意味分かりませんけど、裏の鶏より早く誰がセンセを起こす?」
「んーと、この時間はC君ね」

「Cって。んじゃ、PとかQとかZなんかも?」
「レアなモンばっか言ってくれちゃうね−。よりによって」
「んじゃ、V?」

「あのね、座敷童のC君。4時過ぎは」
「合間を縫って、あたしが無言電話で宜しかったでしょうか」
「目が冴えて寝れんから、ラウンドしちゃおうかなっと」

「ダメです、そんなことしたら患者さんが寝れませんッ」
「夜明けまで、小一時間あるけど。いまさら2度寝も出来んし」
「何時ものように、ボーッと」

言われて撤収した医局。
窓のブラインド開けて外の景色をうかがうと、暗闇の中に施設の窓が目に入る。

早起きのお年寄りの部屋は殆ど灯りがついている、朝。

第935話 親知差歯外予防(ほっちきすどめ)

「あのね、Yセンセが言ってたんよ。親知らずは、歳を取るまで大事にしとくんて」
「やっぱ、親も歳取ると弱気になってくるんやねー。大事にセンとイカンっちゅーこと」
「親の限界子知らずって、よー言うやんか。あれ、あれ」介入の私。

「ナンか違うけど、ナンか近いような」
「ワシが言うこと信じんヤツは、エエ死に方せんぞ」
「例えば?」

「アホみたいに口を開けてたら、棚からぼた餅が落ちてくるとか」
「それって、超ラッキーじゃないですか」
「ところが。カビが生えとるわ、ゴキが住み家にしとるわ。一家団欒中(語尾上げで)」

「そら、ペッペッですわね」
「それが大あくびした時で、息と一緒に吸い込んだよ。お立ち会い」
「それで、それで」

「後を追うのは、帰宅したゴキ父。おーい、待っちくれエー。みたいな」
「ちょ、ちょっと待って下さいませ。それと親知らずの関係は?」
「有るワケないやろッ!有ったら責任者出てこいッ」

「まあエエわ。この間、虫歯治療の時についでに抜いて貰ったし。んで?
 ナンで、親知らずを抜いたらイカンのです?」
「入れ歯になった時、そこへ引っかけて止めるんやて」

「入れ歯の関係ね。んじゃ、あたしは関係ないわ。顔もスタイル抜群。薄命だわ、ハア。
入れ歯になる前に、神さんも仏さんも放っちゃおかんでしょ。黄泉の国へカモンって」
「待ってんのは、悪魔と閻魔やろ」

「どうせ待っててくれるんなら、賑やかな方がエエか」
「あんた、ゼッタイ長生きするで。入れ歯が外れて、喋る度にカパカパ」
「そうなったらどうしよ?んじゃ、今のうちに親知らずの差し歯しよ」

親知らず差し歯の外れ予防はホッチキス止め!の、午後。

第934話 本人識別

「センセ、マスクしましょうねー。インフル、流行ってます」
「んでも、外来患者さんがワシをキムタクと区別がつかない・・・」
「有り得ねーでしょ、タタミみたいなマスクしてても本人識別できますッ」

「やっぱ、イケジイ・オーラとかで?」
「猪八戒体型で」
「んでも、薬局がワシとブラピを間違えるとか?」

「有り得ねーでしょ、字イ見たら。あのきちゃない字は、センセしか書けん」
「半年後を見てろ、変字じゃからね」
「どう言うことですウ」

「ウイキャンのボールペン字講座、1日20分。半年で、貴方の字は変身しまっせ風?」
「変身よりヘンタイなら・・・」
「字が脱皮してどうする、どうする。イエス、アイキャン」

「資料請求1枚出したけど、7枚出したらそれだけで字が美しくなるとか?」
「それも有り得ネーでしょ。三日坊主になることを、期待してますワ。
いくらか知らないけど、講習料が無駄でしょ。笑っちゃうわ」

「人の不幸を喜ぶヤツは、良い死に方せんって。ご先祖が言うとった」
「クロマニヨン人の?」
「イヤ、ネアンデルタール人の方」

午前の外来を終えて、コーヒー啜りながらミルクフランス囓る昼休み。
筋トレストレッチ後「資本論解説書」パラパラ、冷め切ったコーヒーチューチュー。
いきなり鳴った電話につい出てしまったのは、一生の不覚。

「ハイ、こちら警視庁。事件ですか、事故ですか、イタズラですか」
「センセ、オネガイが」
「いま誰もおりません、3年後にかけ直してくださいませませ」

「こ、コラッ。その声は、MIHIセンセ」
「イエ、MIHIセンセではありませぬぞえ」
「いくら鼻摘んで声を変えても、分かりますッ。急患ですッ」

「何で分かったんや?」
「そこまでアホなこと言うセンセッつーと、本人識別は楽勝ウッ」
「しゃーない、ラジャッ」

サスペンスで誘拐犯が持ってる変声ツールを、ネット通販で探そうと思う午後。

第933話 似合う事

「ハイ、センセ。出来ましたよ。しかしいつも思うけど、センセ似合うワ」
「あ、ども。おろ、何時キムタクが慰問に?」鏡チェックしながら、私。
「ハイハイ、何でも好きに仰って下さいませ。赤の着ぐるみは、センセのモンですねー」

「まあ、年1回。シーズン限定。病棟レクの、お約束みたいな」
「確かに、体型的にも。センセしか居らん、サンタ」
「ナンじゃったら写真を、畳サイズに引き延ばして。病室のドアに貼るとか?」

「ダーツの的にするとか」
「ブラピのサインを、書きまくるとか」
「豚のしっぽを、書き添えるとか」

「クシュ、クシュッ」
「おろ、歳に居合わないクシャミは師長さん?」
「スイマセンね、歳に似合わないくしゃみで」

「別に、顔見なきゃエエんじゃから。砂かけ婆アのくしゃみと思えば、可愛いモン」
「ちょ、ちょっとお待ち下さいませ。んじゃ何ですか、砂かけ婆アの方があたしより?」
「些細なことは忘れて、さてここで問題。師長さんがクシャミと同時に屁をすると?」

「しません、まだそれほど緩んでませんッ」
「たとえ話じゃから、深刻に考えんでエエの」
「場合によっちゃ、そーとー深刻な問題に発展するような」

「胃腸が引圧になって、屁が引き戻されるんやろなー。ヘック・ブヒッ・シュッ?
そう言うのって、婦長さん似合うわア」
「似合わなくて結構ですッ」

医局のロッカーに斜に構えて貼るのが似合う、MIHIサンタ写真。

第932話 確認したいこと

「センセ。今朝、病院の玄関近くで凄いモン見ちゃったんですウ」
「カバが、花笠音頭を踊ってたんじゃ?」
「それに近いような」

「んじゃんじゃ。マントヒヒが聴診器持って、お医者さんごっこしてたとか?」
「殆ど当たりですね」
「んじゃ。鼻右横3mに毛付きホクロの三段腹のナースが、アホ面してたとか?」

「それって、なんか気になる表現ですけど」
「んで?」
「あ、確認したいんですけど。センセ、ベージュのコートじゃないですよね?」

「それに近いような。んで、ナニ見たん?」
「イエね、薄茶色いドラム缶が動いてるんですよ。事もあろうに立って。
ありえねーでしょ、それって」

「そこでワシも確認したいことがあるんじゃけど、聞いてエエ?」
「年と体重以外なら、なんなりと。ちなみに、タイプはアラシのニノミヤ君」
「あんた、牛柄のコートは着んよなー」

「それに近いような。んで?」
「今朝、病院の玄関で凄いモン見たんよ。牛柄のイノシシが転がってるんよ。
世界のお笑い映像番組なら、入賞間違いなしじゃね。ブタ面牛」

「んじゃ、あたしじゃないわ。あたしは、大きめのヒョウ柄やもん」
「それなら安心じゃ、あんたじゃない。しかも、真っ黄色のブーツやで。
全身アニマルとは、いったいどう言う感性?こいつの親、出てこいッ!みたいな」

「ハイハイ、その辺でエエでしょうか。外来始めて。あ、忘れてましたけど。
そこのお二人さん、今朝玄関ですれ違ってましたよ。あたし、直ぐ後ろにいました」

「あのさ、確認したいんじゃけど」
「その前に、あたしも確認したいんですけど」

確認の大切な、朝。

第931話 ノロあがりのリバウンド

3年前の当直ラウンド中、通りかかった部屋の奥から聞こえる「ウップ、ウップ」。
しゃっくりにしては?で、覗き込もうとした瞬間にみたノロウイルス患者さん。
軽くエビぞった3秒後、ベッドから天井に向かって吹き上げるような嘔吐は衝撃だった。

耳の底にまだ残っていた「ウップ、ウー」の後、「キャー、Gさーん。キャー」。
「間に合わなかったアー。ウー、シャワーじゃア。その前に綺麗にしなきゃ」
どうやらノロ患者さんのお世話をしていたスタッフが、嘔吐の噴水を浴びた?

「ギリ、アウトじゃったわ。タオルで口を包んだんだけど、横から来ましたわ」
「仕事する前に。シャワー、浴びなきゃ。あんたがノロまき散らすわよ」
「んでも、化粧が・・・」

「そんなこと、言ってられんでしょッ。お面でもかぶって仕事するわけにも行かんし」
「我慢しよ」ナースG。
「あたしも我慢するから」介護士D。

「ちょっちょっ。んじゃ、あたしらのスッピンは我慢大会なワケね」
「そうとも言う」
「んじゃ、シャワーして来よ。15分後にスッピンで現れたら、あたしだから」

「サイン決めとく?両手でVサインすれば、それはあたし。みたいな」
「あんた、それでブヒッなんて笑わせたらイカンよ」
とまあ、こんな夜勤であったろうと想像するわけで。誰かが情報流したとかじゃなくて。

3日後の午後。
「あら、お帰り。どうやった?あの後」ナースG。
「そらもう、潜伏期2日。症状3日。凄いのなんのって」介護士D。
「詳しく述べよ」私。

「3日間。旦那より深いお付き合いしたわよ、トイレと。すっかり馴染んじゃって。
以外とトイレって、可愛いモンよ。ピーピーウゲゲで、逃げないのはトイレだけ。
旦那も息子も冷たいモンだわ、5m以上近寄らないんじゃモン。んでも、2Kg痩せた」

「ノロ上がりじゃね」
「ナンか、双六とか風呂上がりみたいやん。湯気がホワホワ立ってるみたいな」
「そうそう、トイレットペーパーが無くなって。叫んだら、どうしたとおもう。旦那」

「ペーパー渡さないわけにはいかないでしょ。縄で拭くか?」
「まあ、そうじゃけど。マジックハンドで、ハイって。酷くない(語尾上げで)。
頭に来たから、治った今夜は焼き肉やけ食いよ」

せっかくノロのおかげで体重が減ったのに、激しくリバウンドしそうな午後。

第930話 温泉3日1回(いおうきぶん)

「んじゃ。タイルの貼り替えで、目地が乾くまで3日間は温泉なワケね」
「そう言うこと」
「温泉なんて53年ぶりじゃね」

と言うことで、着替えやら風呂グッズ持参して車で4分の温泉へ。
我が家の風呂なら転びそうになっても、つかまえるところがあるけど。
温泉はそうは行かないので、濡れたタイルは恐る恐る踏みしめていると。
キャーキャー言いながら、MIHIセンセの脇を子供が駆け抜けて行く。

2,3杯お湯をかぶって、直径4,5mの湯船の端っこに腰を下ろせば顎までお湯。
硫黄の臭いかすかに感じたけど、まさかこの臭いってアンモニアじゃないよね。
某病院の当直に行った先輩の話は、思い出すのは大きな患者さん用の風呂。

硫黄の臭いは温泉なんだ!の3秒後、かき回した湯から浮かび上がったのはウンチ。
洗い場まで2度3度、すっ転びそうになりながら猛ダッシュしたそうな。
それを思い出すとじっとしていられなくなり、そそくさと洗い場へ直行。
4,5杯湯をかぶって石鹸塗りたくり、あっという間に泡を落とす。

「ンカーッ、ンカーッ、ンカーッ」
鏡に映った湯船中央からの音源は、2人のジイのどっちか。
喉がいがいがするのか、痰が絡んで出ないのか?と思ったら急に静寂。
ヲイヲイ、さっきのンカーッの処理はどうしたんじゃ!ま、まさか湯の中へ?

「ファ、ファッグジョーン。グジョーン。ズズ、ヘエーッペ」
ヲイヲイ、今度は別なジイか。ズルズルしたモンは排水口付近で処理しなさいね。
おろ?2人ともエラク静かになっちゃって、溺れてんとちゃう?

角度を変えて鏡を見つめれば、顔の半分まで浸かってる2つの影。
こうなりゃ湯の中から何が飛び出しても恐くないゾ、ウ*チでもクジラでも出てこいッ!
こうして2日目はロッカーと洗い場1往復だけで、硫黄の香りを堪能し撤収。

3日で1回の温泉は硫黄気分で幕を閉じた、午後。

第929話 人恋QOL(ちゃらになる)

「おろ?センセか」心筋梗塞後の心不全に加えて転倒骨折のPさん。
「今日は人気モンじゃね。リハビリと看護師さんと、ワシも混ぜてもろうて。
一気に3人やモンなー、まるで宴会かスーパーの大売り出しじゃね」

「いつになく賑やかじゃ、こうでなけにゃイカン」
「んで、どうね?」
「まあまあじゃ」

ベッドサイド・リハビリの合間を縫って聴診器を当て、皮膚を摘んで手は腹へ移動。
「ウン、まあまあじゃね。んじゃ、リハビリ頑張ってな」
「もう行くかの、もちっとゆっくりして行きさんせ」

「んじゃ、次は何処を診察しよ?ナンか聞きたいこと無い?」
「何時になったら、逝かせてくれるんか?」
「それは、仏さんか神さんしか知らんやろ。んじゃ、また来るわ」

「また、おいでなさんせ」の2時間後。
「センセ、Wさんですけどオ。朝からずーっと言いっぱなし。お腹がイカンって」ナースG。
「朝に回診した時は、ままあじゃって。エエ顔しとったけど」

「寂しいんですかねー、人恋しいって言うか」
「何をしてあげたら、WさんのQOLが高まるやろか?」
「そらセンセ。センセが、ずーっと添い寝してあげるとか」

「暑苦しいやろ?かと言って、あんたじゃ役不足(語尾上げで)」
「スタッフが離れて、1時間持たんですモンねー。ナースコール」
「やっぱ人恋しいわなー。人間は独りで生まれ、独りで死んで行くけど」

「イエ、あたしは旦那を道連れにせんとイケン。あれ独り残しておくと、あとが心配」
「んじゃ、旦那のQOLはどうしてくれるんよ?」
「無視無視。歳を7つもサバ読んで結婚っすよー。年収粉飾、許せんでしょ?」

「体型補修ギプスみたいなコルセットで、チャラじゃろ?」横から突っ込むナースB。
「人恋しさも中ぐらいなり、患者さん。じゃね」
「天涯孤独なWさんの人恋しさを思ったら、あたしはエエ方じゃ。チャラにしとこ」

人恋しさナースコールは人生の大先輩のQOLを思えばチャラになる、午後。

第928話 記憶媒体追加た(じんせいかわってた)

「おろ、センセ。何してんの?」
「パソコンのオペ」
「プラ手してんのは、やっぱMIHI菌が伝染しないように?そうよねー、気をつけねば」

「放電せんように、プラ手」
「センセって、アマゾンに生息してる電気ナマズみたいな」
「エレキの若大将は加山雄三、エレキの神様は寺内タカシ、エレキの外様大王がワシ」

「最初の2つは、ウチのじいちゃんのレコード・コレクションにあったワ。
確か、40年前に流行ったんでしょ?最後のミョーなんは、知らん。んで?」
「メモリを刺し代えようと思ったけど、アカンのよ」

「感染防御対策が、しっかりしてるから?」
「んじゃなくて、僅か0.3mmサイズが合わんのよ」
「思いっきり差し込むとか?」

「あんたんとこのアホ犬が超便秘して、浣腸するんとはワケが違うんじゃ。
これで、サクサク動くようになると思ったのにイ」
「MIHIセンセのどっかに、そのメモリを刺せるとこは無いんですか?」

「せっかちなのに、これ以上サクサク動いたらどうなるんや。ワシの場合」
「汗ボタボタ。見苦しく暑苦しいでしょうね、きっと」
「絶命寸前でも、過換気症候群みたいにハアハアなって走り回ったりして」

人間のメモリが増やせたら人生変わってた、午後。

第927話 体重増半日減量(ぷちいんのろ)

「おろ、センセ。口元が歪んでヘン」
「じんま疹で薬を飲んだら口が渇いて。イーって言うとクチビルと歯茎がくっつくんよ。
その点あんたはエエな。真夜中に首がニュルニュル伸びて、パックリ明けた口。
ベロベロ、ジュルジュル。行灯の油を、口を歪めて」

「そこまで言えれば、充分でしょ」
「痒みはないのに、ブツブツ。あっちゃこっちゃ。見せないけど」
「見せたら、放火しますよ」

「チラッと見えるのでも、これってじんま疹じゃろ」
「ナンに対するアレルギー反応です?」
「多分、風邪のウイルスによる中毒疹みたいな」

「おかしいわア。自分自身が、一番強烈なアレルゲンなのに」
「んじゃワシは、一生じんま疹持ちやん」
「んで、抗ヒスタミン薬飲み続け。ちょいボーッとなると、キレない。皆、ハッピー」

「しかも、食欲が落ちた。んでも吐いていない、便通バッチリ。嗚呼、それなのに。
3日前はヘアブラシを使うと、頭皮ピリピリ。43度の風呂が、いつもはアチチ。
それがどっちか言えば、温く感じる今日この頃」

「異常に頭皮が敏感になって、体温中枢が非常識に鈍感。んじゃ、頭蓋骨は丁度エエ」
「あんたそれって、統計学にイチャモンつけるのと同じやで。
頭に火をつけて、足をググッと冷やすと。ヘソの辺りが丁度エエって、判断するヤツ」

「んじゃ。センセは、頭がインフルで胃腸がノロ。手足がじんま疹。
こらまた傑作、全身患ってるじゃないですか腹抱えて、大笑い」

「人の不幸を喜んでると、あんたの明日は尋常じゃじゃスマンかもよ。
ハチマキに蝋燭刺して、走り回ったるけん」
「返り討ちで、よろしかったでしょうか。んで、結局どう言うビョーキなんですウ」

「非典型的インフルもどきに、非典型的ノロ感染症もどきを足して2.3で割ると」
「ビミョーな数字で割るんですね。コンマ3に意味ないっしょ、そんなプチ的数字」
「んで、名付けてプチインノロなんてな」

外食で蓄えた体重増1Kgを半日で減量したプチインノロの、午後。

第926話 座右銘ん(かわらん)

「センセって、ホントはどうなん?」
「どうなんって。キムタクとブラピならどっちが近いか?みたいな、どうなん?」
「んじゃなくて、勉強」

「嫌いッ」
「その割には、いろんなこと知ってるでしょ?殆ど要らん事」
「あ、ワシって反射的に口からでるんよ。山の上から超音波が届いて、言わす」

「それってビョーキ的じゃ?」
「そういう言い方もある」
「それしかないと言うか。真っ直ぐなあたしを、小馬鹿にしてるというか」

「そら、後の方じゃけど。んで、勉強」
「どうやって好きになるか、子供のためにお聞かせ願えれば・・・」
「そっち系は、死ぬまで続きそうじゃからねー。分かった時の嬉しさを、倍増させる」

「よー分かりませんけど」
「ちょい分かって、すっかり分かった気になって自画自賛。針小棒大的(語尾上げで)」
「それって、センセの一番得意なヤツじゃないですかア。楽勝的でエエんですね」

「そんだけやないで。ワシ、いつも何でやろ?って思いながら仕事してるんよ」
「何であたしが美白スリムな天使、何でやろとか?」
「脳みそに、泥水お注射して宜しかったでしょうか?とか」

「イケマセンッ!んで、何の話してたっけ?」
「んじゃそういう言うことで、今年もくれるワケね」

「お気楽・適当・地道コツコツ」の座右の銘は変わらん、午後。

第925話 毒包囲外来(げどくざい)

「えー。もう月末の定期処方ですかア、月初めなのにイ。しかも、今日」
「特に今日、出したくなっちゃったワケね」
「明日とか、3日後とかじゃ?」

「そう言うこと聞くと、ゼッタイ今日」
「ハイハイ、あたしが担当ですから。ゼヒ、今日オネガイしますね。月末処方」
「あー、すっきりした。3年間の便秘が、一気に解決したような気分」

「そう言うあたしは、5年間便秘した気分。んで、早すぎません」
「ボクって、せっかちの人」
「確かに、無意味にせっかちですモンねー」

医局でまったりコーヒーと思ったら、ケータイピリリ。
「あ、みっけ。センセ、ゼッタイ忙しいはず無いですよね。ヒマしてるでしょ。
コーヒー啜って、文献パラパラかな。水曜日で、この時間なら」

「あんたは、ワシのストーカーかッ!」
「それほど悪趣味じゃありませんッ!」
「んで、何よ?」

「あ、Pさんからお電話で。お腹が痛かったんで、5分で来るから診て欲しいって」
「エベレストみたいに積もり積もった仕事中ウ、先ずは今日の1診じゃね」
「ホントに忙しいんですかア、ホントに。んじゃ、しかたが有りませんけどオ」

3分後。
「んで、Pさんは?」
「あらら、忙しいんじゃ?5分経ってませんから、Pさんはまだ」
「光ファイバーなみに、仕事をやっつけたワケよ。せっかちじゃから」で、外来。

「せっかちより、メタボの割に腰が軽い。あ、Pさんこっちこっち。ここへ横になって」
「んで、何処が痛いんね?」触診開始。
「あら。何処も痛くない」

「んじゃ、ここも。こっち?」触診続く。
「ハイ、痛くありませんわ。センセの顔を見るのが、特効薬みたい」
「お薬無しで、ハイお大事に。ワシ良く言われるんよ、MIHIセンセは外来の解毒剤って」
「んじゃ、あたし達は毒ですかッ!」ナースB。
「センセ、酷ーい」ナースK。

 毒に囲まれてる、朝。

第924話 上腕二頭筋り(いきちさあり)

「な、ナンやのん。何時から、インフル注射場になったんや」
「何時からって言われても、昨日かその前か。更に3日前か」
「結局、ワケワカランってことやな」

「そういう言い方も、ある」
「ベルトコンベアーで、腕出した人がグルグルしたら楽やろなー」
「そんなクダランこと考えるのは、センセだけでしょッ」

「ハイ、んじゃつぎの方。あらら、Qさんじゃん」
「センセ、痛くしないでね」
「そら無理やで、針刺すんやモン。足に5寸釘刺してインフル打ったら、案外エエかも」

「センセがやって、エかったらあたしもするわ」
「んじゃ止めとく。んじゃ、ゆっくり3つ数えてね。痛くないようにするから」
「んじゃ、1イ−、2イー」

「もう終わったんじゃけど、もう1本打つ?」
「ヘッ終わった!何時?」
「2を数える寸前。んじゃ、お大事に。次の方ア」

「次は職員です」
「おろ、ブー1号やん。メタボ猛獣用の注射器って、置いてあったかいね?」
「コラコラ。繊細で知覚過敏なあたしですから、極細針でオネガイしますね」

「そんなんムリムリ、針が刺さらん。ゴジャゴジャ言わずに、前足を出しなさい」
「腕ですッ。ハイ」
「よくまあこれだけ成長したなと、すっかり驚く前足やね」

「腕ですッ」
「アルコール綿じゃ足らんから、アルコール雑巾出さねば」
「もう自分で拭きましたッ!キャー、痛いイ・・・足が」

「あ、スマン。足踏んでた」
「酷くない(語尾上げで)」
「んじゃ終わった、ハイ撤収ウ(語尾下げで)」

「おろ?いつの間にインフル」
「足踏んだと同時かな?痛みの閾値の問題じゃね」
「イキチって、あれですよね。桃太郎侍が言っちゃう、人の世のイキチを啜りの」

「そういう言い方は、ないッ。はっきり言えば、あんたの鈍さの問題ッ」
「ホウホウ、そう来るわけですね。身の程知らずに。自慢じゃないけど。
上腕二頭筋の脂身は、センセと大して変わらんでしょッ」

上腕二頭筋に痛みの閾値に差がある、午後。

第923話 師走出番(さんたで)

「センセ、やっと出番。ホントのお仕事」
「おろ?ワシって、今までウソのお仕事してたんだっけ。ワシ医者だったはずよな」
「そう思う人も居る、そう思いたい人も居る」

「ワシって、デルモ?演歌歌手?もしかして、踊り子?」
「んなきちゃない踊り子は居ません、モデルも有り得んッ」
「んじゃ、何よ。ワシって」

「強いて言えば、着ぐるみがけっこう似合うオヤジ。時々医者」
「あ、そうなんだ。やっと分かった、薄々そんな気はしてたけど」
「んで、12月と言えば」

「師匠が走る、猪豚も走る、ドロボーが走れば追う警官も走る、んで他に走るモンは」
「んじゃなくて、12月」
「お正月前に散髪行っときなさいよって、良く言われた」

「あたしは、お下がりの着物着せられて。新しい下駄、買ってもらった」
「んじゃ、12月と言えば下駄の季節かア」
「んじゃなくて、12月と言えば」

「大掃除にすす払い、ついでにババ払い」
「ハイハイ、ババで悪うございました。んじゃなくて、12月と言えば病棟行事」
「餅つき」

「行き過ぎ、もうちょっとバック」
「紅葉狩り」
「バックしすぎ。間が無いんですか、中庸というか程々というか。サン・・・」

「サンと言えば、やっぱ人形劇のサンダーバードやろ。糸で釣ってる」
「んーもー」

師走出番はサンタで!の、午後。。

第922話 年瀬前本業以外仕事(さぷらいずのしかけ)

「3ん、2イ、1イ。ハイッ、点灯ッ」
「コラコラ、ナニやってんですか」
「ワシがいま、盆踊り踊ってるように見えるか?。見えたら、脳みそへ注射1本」

「んじゃなくて、未だ早いでしょッ。イルミネーションは」
「予行演習と言うか、お試し点灯と言うか、超先取りと言うか」
「そんなことしなくて、エエんです。今年が最後、院内感染予防で1夜飾り」

「夏は花火代わりに、ピカピカさせたけど。春と秋は、なーんも無いやん」
「ピカピカするモンは、確かに」
「年に1回しか活躍できんなんて、悲しかろ?」

「用もないのに、やたらピカピカさせたら。電気代が勿体ないでしょ」
「もしコンセントに差し込んで、爆発したらどうするどうする」
「しませんッ」

「んじゃ、差し込んだ途端に化粧が落ちて魑魅魍魎の世界になるとか」
「なりませんッ」
「んじゃ、んじゃ」

「もう結構ですッ」
「しかしナンやねー、あんたの時の流れは速いねー。3年前から、もう56だっけ」
「勝手に決めないで下さい、3年前からずーっと28歳ですッ」

「やっぱ脳みそに注射(語尾上げで)」
「しかし、センセのコスプレの季節ですねー」
「グフッ、それ言われるとコーフンして。いろんなポーズを考えちゃうんよ、実際」

サプライズの仕掛けを考えるのに忙しい、午後。

第921話 加圧採血問答(ぷれっしゃー)

「んじゃ、Gさん。採血ね」
「ヘッ、ナンかくれるんか?」
「こっちが貰うんよ、血イ」

「ヤブ蚊みたいにか?」
「あれよか、ちょこっと痛いかも」
「痛いのはイヤじゃけどなー・・・」

「いつも言うとるやろ。男たるもの・・・その後はナンじゃッた?」
「・・・」
「男たるもの・・・その後があったでしょ」

「女じゃないッ!やろ」突っ込まれる採血中のナースG。
「衝立の陰から、ミョーなこと言わないッ!」
「あ、痛い」

「まだ、針刺していないわよ」
「腹が痛い」
「腹が痛い間に採血したら、痛さ半分で済むとか?」また要らんことを突っ込む私。

「そうじゃろか?血イは、来年にしよや」
「ダメッ」
「人の血を吸うんが、そんなに好きか?」

「今日、採血オーダー出したセンセを恨んでもエエし。呪ってもエエわよ」
「そらあんた、筋違いやで。ワシを恨んだら、極楽行けんで。おーじょー出来んやろ。
ワシは針刺さない人、ナースQは針刺す人。ましてや、手元が狂ったら暴れる」

「キャー、ミョーなプレッシャーかけないでくださいよ。ホントに手元が狂ったら」
「痛たた」
「んだから、MIHIセンセを野放しにしちゃ。ゴメン、もう一回ね」
「2度も手元が狂わんやろ、やっぱ。ゼッタイ2度は、有り得んな?絶対な、ホント」

採血するしないでプレッシャーをかける、朝。

第920話 猪八戒歩(とぼとぼ)

「おろろ。センセ、店じまい?」
「世の中、景気悪くて。ワシが書いた論文の別冊、誰も貰ってくれん」
「貰う人って、古紙業者(語尾上げで)。別冊より、ポケットティッシュが嬉しい」

「それじゃナンね?ワシの論文部冊は、ティッシュ代わりにもならん?」
「鼻かんだら、血がでるでしょ?ヒモで縛って。とっとと、お片付けしましょうね」
「んで、何しに来たん?」

「MRと言えば、薬の宣伝しかないでしょ?」
「あとは、1に暇つぶし2に穀潰し。3,4が無くて、ゴミパンフまき散らし」
「どうでしょこれ、力が入ってますよー。フルカラー、上質紙、写真たっぷりですよ」

「んじゃそう言うことで、徘徊してくるわ」
「ちゃんと目を通してから捨てて下さいね」オネガイされて、ラウンド。
「やっぱ、MIHIセンセが徘徊した後だ」廊下で出くわす介護士D。

「立つ鳥跡を濁さず、足跡残さず、屁の香り残す?」
「んじゃなくて、何処の病棟でも言ってますよ」
「あんまり誉めないでね、疲れるから」

「大丈夫、疲れない。センセがラウンドしたこの時期は、イルミネーションがピカピカ」
「ワシ、あれ気に入ってる人。むかし映画であったんよ、サタデーナイト・フィーバー。
ジョントラボルタが白いスーツで踊るわけ、それをパクってるワケよ」

「白衣で踊る、ミョーな宗教?」
「エブリディ・ラウンドフィーバーって、エエやろ?ピカピカの中をラウンドするのっ」
「場末のキャバレーで、フラフラしてる酔っ払いみたいな」

「それを言うなら厳かな余韻を残して去る、聖者やろ」
「イエイエ、とぼとぼ歩く猪八戒(語尾上げで)」
「凡人には、ワシの良さが理解出来んやろなー。猿人にも」

トボトボと猪八戒歩きの、午後。

第919話 医療の変態

「センセ、センセ。昨日の夜中、病棟の廊下を徘徊してましたア?」
「アホ言え、家で寝とったけど。ま、まさかワシって夢遊病か?んで?」
「真夜中にラウンドしてると、ナンか背筋がサブクなって。後ろに気配が」

「あ、それゼッタイワシじゃない。そんなミョーな趣味無いモン。想像しただけで、寒気。
ワシって極フツー、変態とちゃう」
「意味、分かりませんけど」

「あ、ここで言う変態って。マルクスが資本論の中で言う変態とは、ちゃうよ」
「変態にも、色々あるんですね」
「マルちゃんは、例えば商品がお金に換わることを変態って言うたんよ」

「ヤーらしく無いモンを売ってお金に換えても、変態なんですか。それってヘン」
「ヘンって言われても、ワシ困る」
「でしょ、でしょ。変態は困るでしょ」

「そういう意味じゃなくて」
「よーワカランです、変態の世界は」
「あんたの頭で分かるように、噛み砕いて唾でグジュグジュにして説明すると。
さっき、4日間便秘のRさんに浣腸したやろ?」

「ハイ、たっぷりお出ましに」
「すなはち、コーモンからグリセリンを60ml入れるわな」
「ハイ、ブチューッと」

「すると、17分後にお腹がゴロゴロしだすわな」
「23分後でしたけど」
「いろんなウンチが、水戸様から飛び出すわな」

「ハイ、大変なことになりますね。徘徊されてる時に来ちゃうと、フツーは超大変」
「入れたのはグリセリン、出て来たのはウンチやろ?つまり、変態したワケよ。
体の中で液体が固体に。それが医療界で言う変態や、すっごい簡単やろ?」

マルクス的変態について講義をした、午後。

第918話 経管栄養再開痰(うめぼしだえき)

嘔吐下痢症で、1週間ぶりに経管栄養を開始した朝。
「センセ、Yさん、栄養を注入して2時間。痰、半端じゃないですから」
「んじゃ、半端な痰ってどんなんや?」

「んかーッペッみたいな・・・んじゃなくて」
「注入する前はフツーで、終わる頃に出て来るんやから唾液とちゃうか?
栄養の管を、肺に突っ込んでるワケじゃネーんだから」

「アホなこと、言わないで下さいよ」
「1週間絶食で、点滴バッカじゃったろ。あんたじゃって、3年ぶりに梅干し咥えたら?」
「ダーダー、唾が溢れますけど」

「それそれ、その原理」
「ナンか、分かったような。騙されたような」
「ワシは、ウソと坊主の髪はユうたことが無い人ッ」

「信じられん」
「あのさ。クレタ島人が、”すべてのクレタ島人は嘘つきである”と言ったワケよ。
その場合、言ったことは本当なんやろか。それとも嘘なんやろか?それと同じ」

「ますます、ワケワカランッ」
「これってエピメニデスっていう哲学者の、嘘つきのパラドックスなんじゃけど」
「んで、それと痰じゃない唾液ダラダラとどう繋がるんですウ」

「それを言うたエピメニデス本人がクレタ島の出身じゃから、話はなおややこしい」
「ワケ分かりませんから、ゆっくり注入して様子を見ますね」
「あのさ、それって。ゆっくり梅干し啜るかクチャクチャ噛みまくるかの違いやで」

「んーもー、どうすれば」
「あんたが張り付いて、ダラダラ唾液をストローでチューチュー吸い取るしかないッ」
「MIHIセンセって、クレタ島出身でしょッ」

経管栄養再開痰と梅干し唾液の関係で悩む、午後。

第917話 自然笑顔練習(おこたりない)

「センセ、Wさんなんですけどオ」
「またまた、シモネタ大爆発か?」
「イエ、そうじゃないんですけど。ヘンなんです、センセみたいに」

「それって、すこぶるフツーやろ。ワシみたいじゃったら」
「既にそこがヘン」
「んで、何処がフツーなんよ」

「さっき清拭したら、仰るんですよ。スマンのー、ワシみたいなヤツはどうしたらエエ?
生きてる甲斐がないなーって、それもニコニコ笑顔で。意味ワカランでしょ?
思わず言っちゃいましたわ、あのMIHIセンセでも生きてんじゃから気にしないって」
「そっちの方が、意味ワカランけど」

「んでも、Wさんが一所懸命リハビリしてるの見ると凄いと思うし。平行棒なら歩けるし。
ずいぶん良くなって、あたしの方が元気を頂くわって言ったら。笑顔で言うんですよ。
んじゃ、半分だけ返してって」

「そら止めた方がエエ、ミョーなモンがうつったらどうするんや。一生後悔する」
「そっちの方が、意味ワカランけど。生き甲斐がないのと、ニコニコ笑顔(語尾上げで)」
「確かに、あんたみたいに原型を留めないほど厚化粧するモンにはワカランやろなー」

「そっちの方が、余計ワカランでしょッ。スッピンに、ちょい薄化粧のあたしですモン」
「ワシ、笑顔で怒り狂いたくなったけど。エエ?」
「出来るモンなら」

「んで、Wさん」
「そうそう、Wさん。手足が右半分不自由で車いす、糖尿で1日1200キロカロリー。
腎臓が弱ってるから、超薄味。1日2回注射、時々血イ取られて。情け無いって」

「そんなんで情け無かったらなー。足短くて、寸胴。1日4300キロカロリー。
脳みそ弱ってるから、TVは薄いお笑い専門。ツマラン話でも、笑えるらしいで。
しかも旦那のへそくりかすめ取って、似合わんブランド品買うて。情け無いッ」

「ちょ、ちょっと。それって誰?」
「知らんけど、案外身近な人(語尾上げで)。すっかり、笑ってやってネ。カッ、カッ」
「そこんとこは、ゼッタイ笑えませんッ!」

自然な笑顔の練習が怠りない、午後。

第916話 不読書類文字筆(しじをきいてない)

「あのさ。あんたのおかげで、メチャメチャ院長センセに怒られたんやでエ」
「何でですかア?」患者Dさん。
「こないだ外来受診の時に言うた、あんたの仕事関係書類。出してないやろ?」

「あ、今月か来月には出そうと。思ったことは、思ったんですけどオ」
「ホンマに自宅安静?Dさんがフツーに歩いてるのを見たって人が、何人も」
「些細な事は忘れてエエですから。どの程度怒られちゃったですか?興味あるー」

「罵声は言うに及ばず、罵詈雑言の限りを尽くし、殴る蹴るは言うに及ばず」
「コラコラ、いい加減なこと言わんように」我慢しきれずナース突っ込む。
「舐めてんじゃねーよ!と、果ては5寸釘を37本。脳天から足の親指まで、グサグサ」

「コラコラ、あんな温厚な院長センセがするはず無いでしょ」ナース再び。
「センセ、釘はやっぱじぶんで抜いたんですウ」エヘラエヘラのDさん。
「泣きながら仕事をきっちり済ませて、刺さったまま帰って奥さんに釘抜きでクイッと」

「仕事をきっちり済ませてのところで、ウソがバレバレ」
「ほれ、ここに穴が空いてるやろ。これが5寸釘が刺さってた証拠」
「センセ、それは右耳の穴」Dさんのぞき込む。

「あ、こっちか」
「それは反対側の耳」
「んじゃ、この2つか」

「それは、鼻の穴でしょッ」
「んじゃ、生命力の強さで既に塞がって久しいかも」
「んで、ナンで怒られたんでしたっけ?」

「ワシが書いたDさんに関する書類、皆目読めんって。確かに哲学的かもな」
「おちゃらけ文しか書いたこと無い癖に。誤字脱字と変態文字が原因」ナース。
「あのさあ、この数字は読めるやろ?あんたのキリで引っ掻いたような目で」

「ハイハイ、読めますとも。んーと・・・2か5か、9でしょ」
「スマン、1なんじゃけどオ。極たまにやけど、自分で書いた字が読めん事あるなー。
あ、メチャメチャたまにやで。そこんとこ覚えておいてね、試験に出すかんね」

読めない書類の文字を見ると、ペン先は私の指示を聞いてない。

第915話 栄養減要望(ごしめいで)

「一応、この病院は一生お世話出来るところではないんですよ。スイマセン」
「分かってるんですけど、母は102歳ですから」
「確かに、あと20年も30年も持つとは思えませんけど」

「そんなに持ったら、あたしの方が先に」
「あ、18の時の。んじゃ、84歳ですか。お若い」
「イエ、不整脈とリウマチと血圧と糖尿ですから」

「その点、Gさんは認知症と多発性の脳梗塞だけですから」
「食べると咽せるけど、栄養はお腹に管が入ってますでしょ」
「必要な栄養量と水分はちゃんと」

「だから悩むんです」
「これ以上入れちゃうと、ボクみたいにデブになっちゃうから」
「それも、そうですけど。あたしが生きている間に、看取らなきゃならんから」

「それほど急がなくても」
「お墓もあるし、お葬式の積み立ても満期なったし。いつ逝っても」
「あとは寿命ですから」

「いえね、そこでご相談ですけど」
「戒名とかをつけろと言われても、笑えるネーミングなら得意ですけど」
「じゃなくて、半分」

「戒名が半分じゃ、誰が誰だか分からない・・・」
「じゃなくて、入れる栄養を半分」
「ちょ、ちょっとお待ち下さいね。いまは、成人男性がベッド上安静で最低限の量で」

「そこを、幼稚園児か赤ちゃんの量に」
「ダイエットしなくても、Gさんはボクみたいにデブじゃ」
「もちろん、ダイエットはセンセの方ですけど。母に入れる量を、少しずつ減らして」

「激やせ、ミイラ一歩手前になっちゃいますよ」
「それで静かに、逝かせてもらえば」
「あと4年待って貰えますか、ボク定年なんで。それからゆっくり、と言うことで」
「ダメです、母はセンセご指名で看取って欲しいんです」

いくらご指名でも、悩む午後。

第914話 病棟ゴキの惨め

「フンフンフン、マル虫フンッと」
「あら、センセ。ご機嫌で」
「激暑お見舞いじゃね」

「何時まで続くんですかね、この暑さ。応えますねー」
「確かに、あんたとワシは共通点がある。あ、性別やないで」
「当たり前でしょッ!こんな美白な、こんなスレンダーな、ノリカ似が男じゃねー」

「ニューハーフでもっと女らしいのって、居るんちゃう?」
「んで、共通点?」
「暑さに弱い背脂と腹脂を、前後左右に着てること(語尾上げで)」

「んでも、この暑さ。地球もオシマイですかねー、ハルマゲドン」
「誰が、マルハゲドンじゃッ」
「人間って、弱点に突っ込まれたと勘違いしやすいから。すっごい気にしてると」

「気にしていないと言えば、ウソになる」
「気にしすぎると言えば、ホントになる。今日は、オレンジボーダーTシャツですね。
白衣を通して分かりますけど、あらまあ派手な色。しかも、ボーダーの太さ」

「ワシのこと、地味すぎるジミーって呼んでエエよ」
「脱獄囚の?」
「しかし、この暑さ。あんたとゴキしか、生き残れんやろなー」

「イエイエ、美人薄命ですからー」
「んだから長命、ゴキなみ絶滅希望。応相談」
「ゴキなったセンセを踏みつぶす、ナウマン象になりますけど宜しかったでしょうか」

「あんたに踏まれたゴキのワシは、臓物ドピュー。痛そう、苦しそう、惨そう」
「フツーのゴキなら出来ないけど、MIHIゴキなら思いっきり行けちゃいます」

潰れて干からびたゴキを見た、午後。

第913話 親知らず色々

「センセ、母の胃瘻。手術する前に、もう少し考える時間が欲しかったわ」
「ナンで?」
「あっちのセンセが、これしか方法がないって言うから。オネガイします、じゃった」

「んで、ここに変わって2年以上経つわな」
「ここまで来るとは思わずに、母は今年96歳ですよ」
「そら救急病院のセンセは、作ったあとの人生がどうなるかを考えん」

「そこを知ってたら、もしかして別な方法を考えたかも知れん」
やたらダラダラ生きたくないって、20年前から言ってたんですけど。
今となっては、親の心子知らずみたいなモンですわ。今はワケワカラン状態じゃし」
「親の心子知らず、子の心親知らずやねー。難しいねー」でカンファレンスを終え。

おろ?歯の奥がえらく風通しが良くなって、ナンで?と思ったら。
かぶせた金属が外れて、しかも知らんうちに飲んじゃったらヤバイみたいな。
放って置いて年を越すわけにも行かず、覚悟を決めて苦手な歯科のドアをくぐる。

「あ、ここですね。シミますか?あ、ゼンゼン。これも?あ、大丈夫」
で、レントゲン撮ったら虫歯みっけと相成りまして。
「虫歯と、最後の親知らず1本。どうされます?磨きにくいでしょ」

「最後って、抜いた記憶がはっきりしないんですけど。あと1本ですか」
「はあ、ちょと色が変わってますから。そのうち虫歯になるでしょうねー」
そこまで言われて「ハイ、ほっといてね」とは言えず、「思い切っちゃいます」。

「丁度運良く、治療中の側で。麻酔がかかってますから、ラッキーですね」
「ハア、ラッキーでした。んじゃ、よろしく1本」
「ハイ、んじゃ。エイヤッとで、抜けました」

「コレデスか、ボクの親知らずは」
「ハイ、先が茶色でしょ」
「なーる。んじゃ抜いて安心、親知らずですか?」
「ハア」

親が歯の生え始めを知ることはない歯だから「親知らず」らしい。
親が自分の人生を決められなくなった頃に作る事が多い。
それなら、この患者さんの胃瘻は親知らず胃瘻?

第912話 水槽行方(みのがして)

「あのさ、玄関の左・・・」
「水槽でしょ、センセが持って来たヤツ」
「ヘッ、もう2日目でばれてんの?」

「ばればれですよー、あんな大きなモン」
「一応は、ざっくり雑巾がけしとったけどナ」
「相変わらず、テキトー。んで、ナンであんな大きな水槽」

「金魚すくいで連れて帰ったのを入れてたら、だんだん成長して」
「センセのメタボ腹みたいに?」
「んで、とうとう20cm泳いだらむこうの壁に激突」

「センセみたいに、やたら栄養過多の運動不足で?」
「んで、大きいのを買ったんよ」
「金魚は、何匹?」

「1匹」
「1匹にあれですか?」
「成長速度を見てたら、3ヶ月後にはサメかクジラになると思って」

「あれにクジラは入りませんッ、泳げませんッ、金魚は金魚ッ!」
「まさか1サイズ大きいんじゃ、意味無いし。金魚に太っ腹のとこ見せなアカンし。
小錦に4畳半じゃ似合わんみたいなモンで、豪邸を買ったわけ」

「んで?」
「水を替えたり水槽洗うの、しんどいし。金魚がクジラになってもエエように、移動」
「何処へですか?」

「公園の池。あそこなら、クジラの2匹や3匹」
「ムリムリ」
「んで、空き家になって。捨てるなら病院へ捨てようと」

「コラコラッ。病院は、燃えないゴミ収集場所じゃありませんッ」
「後はよしなに」
「一応、幾つかあたってますから。多分何処かで引き取ることに」

「マジックで、MIHIセンセ寄贈とか書かなくてエエ?」
「それなら、MIHIセンセ放置でしょッ」
「倉庫がすっきりして、嬉しいネ−」

水槽の行方を見逃して欲しい、午後。

第911話 血だらけの検診

「あららー、そのシャツの腕。血だらけ」
「おろ、いつの間に?」
「デイリですか?」

「義理と人情は命より重い渡世人、背のパンダが泣いている!みたいな、血だらけ」
「ナニ言ってんですか、検診採血した時にちゃんと押さえておかないから。
フンとにもー。ミョーな病気持ってないでしょうね、あれとあれ以外は」

「あれと、あれって?」
「直ぐキレ病と、自画自賛病ッ!」
「あ、あれ。治った」

「ハイハイ。それよか、シャツの血イを落としとかないと」
「んじゃ・・・」
「コラコラ、ここで脱ぐか!」

「ワシって、白衣を脱ぐと医者には見えんのよ」
「確かに小うるさそうなジジイか、脂性の猪八戒」
「悪かったな、ブラピ似で。血だらけシャツは、他所で洗おうっと」で移動。

「あららー、そのシャツの腕。血だらけ」
「そこまでは同じリアクションじゃね、んで」
「デイリですか?」

「そこも同じやね、んで?」
「早く洗わないと血イ落ちませんよ、さっさと」
「そこから違うね、嬉しいことに」

「んで、何処で暴れたんですか?」
「そう言う場合は、何処で活躍?って聞いて欲しいモンだね」
「仕方が無いから、洗いながら。んで、何処で活躍?」

「拙者、関ヶ原の戦いでな」
「あ、落ち武者。マゲを落として、カッパ頭の」
「そう言うの嫌いッ、ただの検診ッ!」で撤収して。

「あららー、そのシャツの腕」
「血はついてないけど、同じリアクション」
「汗ですか?」

「腕だけ汗かくヤツって、居るか?」
「センセなら」で、ムかッ。
「あららー、シャツを濡らして徘徊ですか?」

 検診採血で押さえ足りなかった、午後。

第910話 千利休の掃除

「ヘッヘッヘ」
「ヘッヘッヘ。んじゃ、そう言うことで」
「ちょ、ちょっとセンセ」

「さっきからずーっとワシのこと、ストーカー(語尾上げで)」
「1分27秒ほど、見ちゃったんですけど。ナゾが」
「ちょい不良爺には、ナゾがつきものやで。んじゃ、そう言うことで」

「んじゃなくてですね、模様替えが好きなのは知ってるんですよ。センセが」
「ちょい不良爺は、模様替えが好きッ!みたいな」
「んじゃ、センセは模様替えじゃなくて整理だわ」

「そういうこと言う人は。んじゃ、そう言うことで」
「んで、ナゾ」
「ナニよ?」

「拭き掃除までして、すっきりしたのに。ボールペンを1本、斜に構えて置くのは?」
「あ、これね。ワシ今読んでるのが、岡倉天心の茶の本。紅茶とはちゃうよ、念のため。
講談社学術文庫って、あんたには縁がないかもナ。真面目な本には」

「そのくらいは、あたしも買うだけなら。それとペンの置き方と、どのように」
「千利休さんが、弟子でもあり息子に掃除をさせたらしい。掃除機とかは使わんで」
「何処にさし込みがあるんですか、コンセントっ」

「確かに、玄関(待合)と茶室を繋ぐ庭の小路(露地)にはさし込みは有ったかな」
「年代の問題ですッ」
「んで、何度掃除してもやり直させたらしい」

「やっぱ親と思って、舐めて手を抜いた?」
「何度目かに、アホッ。あ、バカッじゃったかな?それともトンチキッ!だったかな」
「関西人ですか?それとも九州人、はたまたコロボックル?」

「知らん。んで、木を揺さぶって掃除したところへ色づいた木の葉を落としたんて」
「イヤミなやっちゃなー。それって、パワハラ?」
「掃除とは綺麗にすることではなく、美と自然がないとアカンってな」

「それとセンセが置いたペンとどう繋がる?ま、まさか。これが美と自然?アホくさ」
「MIHI流の美と自然が理解出来たワケだ、あんたの脳みそでも」
「テキトーで、やりっ放しでしょ。それって」

 禅の流れを汲む茶道は奥が深いと思った、模様替えの午後。

第909話 将棋0.37段

「センセって、将棋できるん?」
「ワシのあだ名を聞いたら、驚くで」
「メタボ落ち武者猪八戒なら、想定内ですけど」

「んじゃねーべ。坂田さん吉のひ孫弟子で、坂田2.36吉」
「やたら細かいんですねー、コンマ以下まであるんだ」
「んで、ワシが将棋指したら隕石が地球にぶつかるか?」

「センセの患者さんのPさん、将棋してくれるなら車いすに乗ってリハビリするって」
「んで?」
「あたしって、角が真っ直ぐ前後左右に動かす人じゃないですか」

「それは、ただ無謀な野蛮人」
「んで、相手を探してるわけ。将棋の」
「真剣勝負に手抜きはないけど、覚悟してるんやねPさんは」

「遊びじゃないですか、ただの。手加減とか情けとか、フツーの神経ならあるでしょ」
「男の勝負は、潔さしかないッ」
「大人げないワケですね、センセは」

「んじゃ、来週の午後3時。決戦か?」
「お手柔らかに、オネガイしますね。んでも、逆にこてんぱんにやられたりして」
「ワシは、将棋0.37段。免許皆伝、無手豚カツ流やから」

「コマに油がべっとり付きそうな、流派ですこと」
「師匠の名前は・・・」
「聞きたくありませんッ。どーせ、いい加減な名前でしょ」

作戦としてはアナグマ戦法で行くかアライグマ戦法か、悩む午後。

第908話 超音波脳検査(みられんやろ)

「今、エエ?検診の心電図」
「エエッスよ」
「しかしナンじゃネー、心電図ってナンかドキドキするんよ」

「不整脈ですか?」
「かも知れんけど、心の中を見られるみたいで緊張する(語尾上げで)」
「センセって、そう見えてもデリカシーがあるんだ」

「あんたには、どう見えてんの?ボクって」
「こう、丸くてぼっちゃりして。キレ易くて、あ!」
「あ!ってナニよ?」

「イエ、ゾウリムシが走ったような筋電図が混入しただけですけど」
「思い出したんよ、ビンゴ」
「っつーことは、ボクに何か自慢したいワケですね?」

「イヤ、この間の急患。あんたのエコー、ビンゴじゃったで。あんた、凄いわ」
「直径4mmの左尿管結石で、OKでしたよね。センセの一言がエかったから」
「確かな問診、カリスマの指、熟成した知性と経験に基づいた勘、素敵な容姿端麗」

「それに加わった、強引な自画自賛」
「大きな病院なら、CTとかMRIなんか言っちゃうんやろなー。んで、診断つかんで。
んじゃ、エコーでも?なんて言って。おろろ、ナンじゃろこれ?で石だったとか」

「いくら何でも、そこまでボクは言えません」
「あんたのエコーじゃ、骨で囲まれてる脳以外はお見通しやろ?」
「センセ的表現なら、そうでしょうね」

「案外、脳みそも見られたりして」
「そういう時は、一番にセンセの脳をチェックします。単純で、分かりやすいし。
あっちこっち、ブチブチとキレてるやろし。細切れで見やすい」
「エコーで脳みそが見られる日までに、鉛の兜を作っておこ」

エコー検査で脳味噌は見られんやろ!の、朝。

第907話上官殿注射(やりにくい)

Pさんは杖を振り回しながら、インフル問診票をヒラヒラさせて内科と外科を右往左往。
移動する度にナースSに向かってシモネタぶっ放すから、ひんしゅく買いつつウロウロ。

「ねえねえ、Pさん。それを書いてもらわんと、注射できんのよね」
「ヘッ。これこのままなら、何処へ出せるか」
「んじゃから、これを書かないと」

「名前なら書くけど、後は勘弁してくれんか」
「んじゃ、あたしが手伝うから」
「この歳じゃ、もう子供は作れん。手伝えん」

「そっちは、手伝わなくてエエんよ、ハイハイ。これこれ」
「おんや、MIHIセンセ。ヒマそうじゃの、構わんから注射一本」
「それを書いてもらわんと、ワシが構う。今はダメえ」

「ちょ、ちょっとオ。Pさん、待合室で書こうや」
「丁度エエ、Gさんに書いてもらおう。あんた、2枚書いとくれ。テキトーでエエ」
「そら構わんけど、んーと・・・」

「コラコラ、ダメでしょ。自分で書かなきゃダメって言ったのに、ハイじゃ」
「そう言えば、MIHIセンセも今はダメって言うた」
「でしょ。去年は打った?に、イイエじゃないでしょ。毎年でしょ、打ってんの」

「ワシ、去年打ったか忘れた」
「打ちました、MIHIセンセが。んで、免疫能低下と言われたことがある?にハイなの?
何処で、誰に、何時。免疫が低下って」

「言われたような、言われてないような」
「それは現役の能力が低下してるんでしょ、それは違うの。ヤダー。
それにアレルギーがあるに、ハイって。ナニに?」

「年中鼻水たらたら、鼻アレルギー。ワシが衛生兵をしてた頃は、こんなモン無かったで。
上官殿が打てっ!って命令したら、有無を言わせず打った。最近は、面倒やのー。
MIHIセンセの上官殿は、黙って打てっ!て言わんのか?」
インフル問診票をヒラヒラさせて、診察室を小一時間彷徨うPさん。

上官殿の注射はやりにくい、朝。

第906話 降参孫娘鼻奥洗(ちらしのにおい)

「センセ、コーフンしたでしょ?IC(病状説明)で」
「クラクラして、ボーッとした」
「センセも、やっぱ男だったか」

「ナニ言ってんの、ナンの話?ヤダあ」
「このこのオ、すっとぼけてからに。さっきの孫娘」
「あ、あれねー。困った」

「それを言うなら、参ったとか?見ほれたとか?」
「確かに、凄かった」
「でしょでしょ、お婆ちゃんが言ってましたよ。モデルなんですって」

「仮装行列衣装の?」
「あの人、良く載るんですって」
「ビールケースに乗って、演説?」

「そう言うんじゃない」
「まさか、チラシに乗ってどっかへ飛んで行けると思ってんじゃ?」
「それは、3年後のMIHIセンセでしょッ。紙より軽い」

「偽ブランド品の服とか、インチキ漢方とか、先物取引勧誘とかのチラシ」
「どうしてそう言う胡散臭いモンしか、思いつかないんですか」
「んじゃ、パンダの仮面をかぶった新興宗教?」

「ええい、投げ売り洋品店ですッ!」
「んだから、香水プンプン、つけまつげバシャバシャ、真っ赤な口紅べっとり。
ブーツの先に泥はね、踵はカンカン合成の安物、デンセンした網タイツ」

「妄想し過ぎッ」
「ワシ、顔見てると吐きそうじゃった。目をそらすと、横にミョーなモンが目に入って。
忘れたくても思い出す悪夢」

「横に居たのはあたしでしょッ!ジジイは、ああ言うのに弱いんだ。みんな明日から」
「バカ言うな!バケツの雑巾水を、頭からぶっかけるかんね。あれやったら」
「パワハラじゃー」

「そっちの方が、よほどパワハラじゃー。香水の臭いが、鼻に染みついてしもうたデ。
チラシに載らんでエエから、フツーで御願いします」

 チラシ孫娘の臭いに降参し鼻の穴の奥まで洗った、午後。

第905話 電話の不幸度

「あ、みっけ!」
「しまった、つい取ってもた」
「あとの祭り。んで、職員1名お熱39度。勢い余ってインフル5名」

「ただ今、医局の医者はあっちゃこっちゃに行って居りませぬ。
この様な不幸の電話は、他所へ回せないシステムになっておりまする。達者で暮らせ」
「これこれ、コラッ!問診票書いてまーす。とっとと、おいで下さいませエ」

「ワシって、3時からケースカンファの人」
「エかったじゃん、あと1時間と言えば。診察とインフルで、釣りはやるから倉建てろ」
「ふあーい」

全てのノルマを終えて。
「あのさ、午後の外来担当ルールを決めようや」
「エエですよ、1にMIHIセンセ。2にMIHIセンセ。3,4が無くて5にMIHIセンセで」
「1に今日の朝の1診担当、2に2診担当。3,4が無くて、ケータイ出るアホ」

「そらそうしていただければ、いちいち探さなくてエエから楽かも」
「今日のワシ、不幸の電話を取ってしまうこともない。居留守を使うこともない」
「ヘッ、居留守使ってるんですかッ!」

「あたり前田のクラッカーじゃ、昼休みの電話は特に不幸度が高い」
「1日1回はあたしのヒバリがさえずるような声、聞きたいでしょ?」
「断末魔のぬらりヒョンの声なら、聞いてみたい気がするけど」

「外来の短縮ダイアルを、MIHIセンセだけ設定になりますけど」
「んでも医局の医者の間に、電話に出たくない症候群がブレイクアウトしたら?」
「MIHIセンセだけ、ミョーな病気の予防ワクチンを打っていただきますッ!」

電話から逃れられない不幸度が高い、午後。

第904話 インフルの弁慶

「センセ、インフル18人。よございますわね」
「ふぁあ?ナンでもしまっせ」
「ほらねー、キレないでしょ。今がチャンスなワケ」

「なんでなん?」
「昨日、お孫さんが帰っちゃって。抜け殻みたいになってるから、エエんよ」
「ちょっとケリを入れたりして、キレんかったら次はどうするどうする」

「ハイハイ、次々インフルね」
「その合間に、外来患者さんを詰め込んでよろしいですね」
「ふぁい」

「大丈夫なん、あれで」
「大丈夫よ、医者を30年以上やってるから。無意識に、ちゃんと動いてるみたい」
「超ジジイになって、細長いモン見たら注射の真似をしたりして。ケッケッ」

「んで、あと何人?」
「まだ3人しか打って無いでしょ。んで、残りは15人になりますけど」
「んでも、この缶に使った注射器がソートー入ってるで」

「あ、それは・・・昨日のでしょ」
「あ、そうなん。んじゃ、15人ね」
「ネッ」

「ちょっと、ワシ・・・ね」
 診察室を出かけると、
「これこれ、何処へ?逃げちゃダメエ」

「爆発寸前じゃッ」で、トイレへ駆け込もうとすると。
「MIHIセンセは、爆発するんて」待合いから聞こえてくるバッちゃん2人の声。
「そら、大変じゃ。巻き添えにならんように、注射止めて帰るかの?」

「そうしよか」
「あららー。PさんにSさん、何処行くの?直に帰ってきますよオ、MIHIセンセ」
「んでも爆発するって、言うとった。もう粉々じゃろで」
「フィー、危なかった。暴発するとこや、さ次イ」で30人超のインフルと外来を終える。

「センセ、ラウンドが終わったらカルテ書く前にインフルね」
「ラジャッ、何人?」
「8人」

「9病棟で7人で、あと3人か。行っちゃうよ、打っちゃうよ、プスプスっぶチュー」
「Dセンセの患者さんもオネガイできれば、3人追加になりますけどオ」
「エエで」

「ナンかミョ−。やっぱ止めようかなー」
「打たせて、オネガイッ。プラス3人」
「何でですの?そのこだわり」

京の五条の橋の上に立つ弁慶じゃないけれど、インフル打つ人の収集に励むと決めて。
同じ場所に、同じように、同じ量で、訴える痛さの統計を取るには、目標50人設定の遊び心。
もの言えぬ方が13人混じっていて、統計処理できないのに気づいた午後。

第901話 注射が痛くないワケ

「センセ、次は事務長さんですよ。インフル。痛くないようにしてくれって」
「んじゃ、ピンク針ね」
「キャー、痛くてもエエんですかア?」

「事務長スペッシャル針を使うとか言うたら、エエやん」
「知りませんよ」
「センセ、一発やんわり言ってくれんね」事務長現れる。

「あ、まだ準備が」
「そこにあるじゃないですか、それそれ」
「これはフツーの針じゃから・・・」

「フツーでエエでしょ、フツーで」
「んじゃしゃーないわ、これで。消毒は・・・ヘッ、ヘッフションっと」
「あ、ちょちょっとセンセ。しぶきが飛ぶじゃないですか、腕に」

「丁度エエ、ワシの唾で消毒」
「ダメです、アルコール綿でオネガイします」
「我が儘な人やねー、さっき使ったやつじゃ?あ、ダメ。グリグリしてもダメ?」

「ゴジャゴジャ言わずに、さっさと打って下さいよ」
「なんか刺激が無くて、つまらんなー」
「私のインフルで刺激を捜さないで下さいよ、刺激を」

「何時まで座ってんですか、もう1本打ちます?」
「あらッ。何時、打ったんです?」
「アルコール綿で、グリグリしてる時。鈍いんだからア、ハイ撤収う」

「次の方ア。あ、Rさん」
「オネガイします、痛くない方で。センセのは痛くないって、噂」
「あ、今日からメチャメチャ痛い分なんよ」

「キャー。涙が出そう、泣いたら他所で言わないで下さいね」
「尾ひれに背びれと腹ひれつけて、言いまくっちゃうかんね。グリ、グリッと消毒ウ」
「キャー、冷たいー」

「何時まで座ってんの、帰って仕事ッ!ぐずぐずしてたら、追加ッ」
「あら、ホント。MIHIセンセの注射は痛くない、ナンで?」
「そらあんた、大きな声じゃ言えんけど。小さな声じゃ聞こえない」

「んじゃ、フツーの声で・・・・。んー、・・・」突っ込みを考えてるRさん。
「先祖伝来の秘技ちゅーか」
「センセの先祖って、ネアンデルタール人の?」軽い突っ込み。

「遡るのも、1200年前後で止めてもらえん?」
「まさか、平家とか」
「坂之上ぬけ麻呂、分かってる範囲で」

「どうせインチキ占い師か詐欺師」
「ぬけ麻呂インフル秘技は脈々と・・・。んーと・・・」ボケに飽きてきた。
「インフルって、そんな昔からあった?」

「小さいこと気にしてたら、出世せん。ハイ、インフル終了ッ!」
「あれ、終わったんか。インフル」

テクと口先で意識を逸らせばインフルの痛みが弱まる、朝。

第900話 万常休と呼んでね

「あのさ、そのお茶美味しい?」
「ただのお茶ですから、どれも変わらん。買うお茶は、値段っしょ、格安お手頃」
「あのさ、茶人で陸羽って人が居ったんよ」

「ナンか、いつになく学問的な雰囲気イ」
「んで、煎茶を飲むのにお湯を沸かすワナ」
「水出しってのも。あ、それは論外!」

「昔は湧かす時に水の中へ、いろんなモンこだわったけど。陸羽さんは1つだけ。
さてここで問題です。その1つとは、ナニ?」
「お茶にはペットでしょ。入れモンがなけりゃ困っちゃうから、どんぶり(語尾上げで)」

「遙か昔に、ペットはねーべ。わき水湧かして、一つまみの塩なんやて。
岡倉天心の The book of tea に書いてあった。いま読んでる最中」
「そのうち茶人でデブ・・んじゃなかった茶人デビュー?」

「ワシって、万常休と呼ばれるかも知れん」
「千利休より多いんですネ。あ、ずーっと休んでるから」
「ま、そう言うこと」

「んで、このお茶を飲みながら歯磨きガムを食べると虫歯にナランって」
「1度で2度美味しいことするワケね、虫予防に」
「しかし、虫歯って。ばい菌なのに、ナンで虫なんですかア」

「それにはワケがあってな、昔はビョーキは何かの祟りじゃろと思って居った。
んでも寄生虫は口やコーモンから出ることがあるから、虫が原因って分かったワケ」
「祟りも、口から出る?」

「フツー口から出るんはゲップ。んでイヤミもな、特にあんたの場合は。
じゃから、病気の原因に虫を考えたわけやね。んで、虫封じとか疳の虫とか。
虫歯もその名残らしい。by 病が語る日本史。いま読んでる最中」

「節操なくいろんなモンを読んでるんですね、センセは」
「本の虫(語尾上げで)」
「あ。虫も好き好きの虫も、関係あるんですかね?」

「世の中には、いろんな虫があるんですね」
「本の虫が、いま凝ってる茶道」
「あ、知ってる。千利休」

その上を行く常に休む万常休の、午後。

第899話 髪型変化年齢(きょうみない)

「このッ・・・死んでますねー、ゼッタイ」
<早ようあっち行けッ、今は死んだフリ。家に帰って、解毒剤飲まなきゃ>
「ヘッヘッヘ、もう一回シューしちゃおうかなー」

<じょ、冗談や無いで。これ以上シューされたら、ホンマに死ぬ。すっ飛び撤収ウ>
「キャー、死んでなかったんや。キャー」
<こっちの方がキャーや。殺気を感じてサクッと逃げたところへ、シューじゃ死なんなー>

「コラコラ、そこのお女中。ゴキと遊んでないで、処方箋出したよ。来月の」
「あたしが担当の日に限ってやたら処方を出す、MIHIセンセの法則ですね」
「それを言うなら、あんたが夜勤の日に限ってゴキの厄日になるナースGの法則」

「ウッセ」
「おろ、髪切った?」
「目の前1,3mで気づくのに23分17秒かかったなんて、鈍すぎません」

「キョーミの対象外じゃから」
「あらまっ」
「それにしては、ビックリじゃね」

「そらまた、なぜ故?」
「異常に若返ったから」
「キャー、ヤダ。あたしに惚れちゃイケマセンよ」

「ウッセ。キョーミの対象外じゃから、大丈夫イ」
「んで、何歳若返ったんです?言っちゃってみて下さいよ」
「アバウト1000年(語尾上げで)。流行った髪型の時代で、計算するとじゃけど」

「せ、1000年って。どう言う計算ですかッ」
「平安がアバウト800年、明治がアバウト1800年。どや、差っ引いてぴったし1000年や。
算数苦手なワシでも、計算しやすい。ざん切り調マイナス平安調オ」

「あたしも、髪切ったんですけどオ。何歳くらいの計算になりますウ?」
「んーと、んーと。前の髪型、どんなんじゃったっけ?んーと、んーと」
「あ、酷ーい。もしかして、答えをオヤジギャグで考えてんじゃ?」

「ゼンゼン。キョーミの対象外じゃから、マイナス23歳にしとくわ」
「その計算じゃ、余分に歳取ってんじゃないですかッ!」

髪型変化の年齢には興味ない、午後。

第898話 編曲鼻歌(ごうもん)

「フンフンっと、アラヨッと」
「センセ、センセッ!」
「ハア?鹿のフンッと」

「いつになくハイで、薬剤チェック業務が出来ません。聞きたくないのに、気になって」
「気にしなくてエエのに」
「朝の3倍、ハイ?」

「さっき、昼飯で充電したばっか」
「センセには、漏電とか放電は無いんですか?」
「ワシって、途中で止められるクシャミと漏電は嫌いな人」

「どう言う人か、知りませんけど。センセの鼻歌。あれ、何?」
「さっきのは、”奈良の春日野”っつー歌。吉永小百合様の名曲」
「何で、吉永小百合が鹿のフンって歌う?」

「作詞家の佐伯孝夫さんに、聞いてね」
「で、毎回ビミョーに違うでしょ?」
「あい、気になる?ワシって、編曲も手掛けてるから」

「タダ、ズレてるだけでしょ?」突っ込みナースB。
「ウッセ。モーツァルト風、民謡風、カンツリー風。編曲は、自由自在。
医者にしておくのが勿体無いと、思わん?」

「医者じゃ無かったら、公衆の面前でそういう鼻歌を垂れ流したら逮捕っしょ」
「ウッセ。ワシが編曲した鼻歌は、犯罪か?」
「拷問でしょ」

 私が編曲した鼻歌は拷問らしい、午後。

第897話 医師服装評判


「おろ?グレーの綿パン。お葬式帰りですか?」
「喪に服してナムう、ジミーと呼んでね」
「ナニ言ってんだか、いつもの綿パンはクリーニングでしょッ」

「センセ、Rさんが言ってましたよ。2,3日顔を見ないって」
「ワシってジミーだから、印象薄い(語尾上げで)」
「アホなこと言うてんじゃん、見たくなくても見えるッ」

「あ、そうそう。この間の夜勤で。センセが廊下のゴキにシューしてくれたでしょ?」
「あんたもシューして欲しい?」
「ナンであたしが、ゴキなみにシューされる」

「同じ扱いしたら、ゴキが不憫やで」
「んじゃなくて。病室へ逃げ込んだでしょ、ゴキが」
「もがきながら、ほふく前進で廊下に出て来たやろ?」

「廊下の明かりで、オムツを替えて痰の吸引しようと思ったら。キャーだったんです」
「ヌリカベかと思ったら、鏡に映った自分じゃったとか?」
「んじゃなくて、1歩踏み出した途端グチュッって。臓物やら、なんじゃかんじゃ」

「ゴキにとっては、厄日じゃね」
「驚いたと同時にズルッと滑って、お尻を打っちゃって。ゴキの上へドスン」
「供養してやりなさいね」

「お祓いを受けたいのはあたしですッ」
「まだ5分経ってなかったやろ、フツーは死にかけると5分で明るいところへ出るんよ」
「話を信じたあたしがバカだった」

「あと13秒待てばエかったんや。後ろ向いてブツブツ文句言うの止めん?外来行こ」
「プチ・モーニンラウンド終わりましたら、とっとと始めますよ」がお出迎え。
「あ、センセ。ウチのばあちゃんが、お世話になってますウ」診察室侵入Zさん。

「Zさん、元気じゃった?」
「ハイお陰様で、病院に来なくてエエくらい元気」
「口が?」

「んまっ、そんな意地悪な」
「意地だけじゃナインよ、悪いんは」突っ込むナース。
「センセは優しいって、とっても評判。説明も、よーしてくれるし」

「あたし達に酷いだけ、んでヒマなだけ」すぐ突っ込むナース。
「お隣のQさんも言ってましたわ」
「Qさんも軽く認知が・・・」しつこいナース。

「あのさ、ワシの後ろでブツブツ言うの止めてくれん」
「ハア?聞こえましたア」
「風邪ひいた猪豚みたいな、だみ声。あんたワシの評判に、嫉妬しとるんやろ」

「ハイッ、次の方ア。Sさあーん、どうぞオ」
「評判じゃなくて、悪評でしょッ」
「いつか、顎のホクロ毛を抜いてやるかんな」

ブツブツのバトルは続く、朝。

第896話 膝鎮痛効果く(ひまごがきく)


「んなら、次は外科じゃね。ハイお大事に」で内科診察室から撤収したQさん。
「センセ、膝が治らん」外科診察室から聞こえてくる。
「えーと、湿布に塗り薬。んで、飲み薬も入っとるなー。電気も、渦流浴も」

「センセ。テレビでよー効くって、あれも最近始めた」
「Qさん、なんねそれ?」
「センセでも知らんかの。んーと、ヒザピョン言うて宣伝しとろう。
 飲んだ人がこりゃエエ言うて。階段がスイスイです、なんてな。お試し3日分無料」

「あれは、効く?ホントに」
「んでも腰にはコシピョン、肩にはカタピョンもあるで」
「それも、効くかね?ホントに」

「ナンで効くか効かんか、分かるんね?1ヶ月分で\6000」
「3ヶ月分注文すると、1割引」
「センセも買ったんか?」

「親戚の婆ちゃんが、欺されそうになった。んで、タブン効かんって言うたけど」
「んで、買って効いたんじゃろ?」
「イヤ、ナンで効かん?か聞かれた。効かんから、整形外科が繁盛しとるって」

「そしたら?」
「どうすりゃエエかって。買ったつもりの\6000で、孫の服でも買えって言うた」
「んなら?」

「孫の趣味はワカランから、服は買えん。現金じゃったら、ろくなモンに使わん」
「かと言って、墓の中までは持って行けんし」
「んじゃ、外科で薬でも貰って帰るか」で廊下へ出た。

「はあーい、みなさん。こっちですよー」
「はあーい」可愛い声がざわざわ。
「今日は病院にお見舞いですから、歌と体操を見せてあげましょうねー」

「はあーい」可愛い声が響き渡る中にQさんの声が混じって聞こえてくる。
「あららおバアちゃま、歌も体操もお上手で。お元気なんですねー」
「うちのひ孫と同じくらいじゃ」痛みを忘れて足リズムでピョンピョン。

膝鎮痛に効くのはひ孫だった、午後。

第895話 30年前的講演反応(いまならつっこむ)

「へエーッヘッヘ」
「ウッ、へエーッヘッヘ」
「センセ、すこぶる体調がお宜しく。TVシンポなんか、軽ーく行きたくなったりして」

「そう言うところへ行くと、暴れそうになっちゃったりして」
「それ、困っちゃったりして」
「孫が帰っちゃうんよ。ウウウ」

「金の切れ目が、孫の切れ目って」
「あんたの脳みそに、雑巾水23ml注射。する?」
「しない」

「んで、ナニよ。どーせツマラン薬の宣伝みたいなチョウチン持ち研究やろ。フンッ」
「あ、そう来ますか。その素敵な論文を書いたセンセが、笑いを取るみたいな」
「んじゃ、ヒマじゃから。頂戴その論文だけ。ホウホウ、ブブッじゃね。笑える」

「でしょ!んでも、新進気鋭のセンセらしいですよ。んで、ブブッですかア」
「これってオカシイやろ、下手するとこの論文ゴミやで。わざわざ英語で書いてあるけど。
外人が見たら、もしかすると恥さらし(語尾上げで)。クロマニヨン人が見たら・・・」

「見ますかねー、クロちゃんが」
「学会誌やもん、会員じゃったら読むやろ」
「血管内膜の厚みが、LDL:HDLと関連があるなんて。凄くない(語尾上げで)」

「血管の中に、管を突っ込まれた患者さんの方が凄いかもオ。さぞ痛かろう。惨かろう。
屁の役にも立たんモンの研究のためになー。論文は、ゼンゼン凄くない」
「その心は?」

「血管の構造変化は、血の脂と速効でリンクするか?年単位のタイムラグ(語尾上げで)。
そこんとこの解釈とか、タイムラグの補正とか、孫が帰っちゃうワシの悲しみとか。
その辺りの考案が、ぶっつり欠けてんとちゃうか?」

「もうちょっと分かりやすく、オネガイします。特に、センセと孫のとこを」
「本日のあんたのメタボ腹脂肪細胞サイズは、本日の血イの脂の量に直ぐ関係するか?」
「はあ」

「血イの脂が増えて何年もしたら、検査で分かるくらい脂肪細胞が大きくなっとるワケよ。
血イの脂レベル上昇に遅れて構造変化が来る、血イと構造の間の時間差。タイムラグや。
血イの脂が30上がっても、速攻で血管の厚みが瞬間3mm増えんやろ」

「そうですよねー。流石、他人に厳しく自分に甘甘なMIHIセンセ」
「誉め言葉と解釈して、エエんやね。オンラインで、そのことをぶちかまして?」
「支店長に聞いてきます。タブン、来なくてエエってでしょ」

30年前的講演に反応して今なら突っ込む、午後。

第894話 石診断(たぶん)

「あー、やっと出たア」
「不幸の電話はお断りッ!ただ今電話に出たくない気分です、3日後にお電話を。
ヨロピクオネガイと、そのようにマル虫が申しておりまする」

「これこれ、急患ですッ」
電話の横で、「テテテー。すっごいイテー」
「聞こえたでしょッ、若者スタッフGの叫びが。悲鳴が」

「撒きビシでも踏んだか?」
「忍者じゃありませんッ、とっとと来るッ!」
「ラジャッ」で、筋トレストレッチ私服に着替えたまますっ飛んで行く。

「あ、センセですか。すんごいイテーんですウ」
「あここね、んで。吐いたモンもシッコもウンチも、色はフツーじやったワケね」
「超フツー」

「ここは?あ、ここも痛くないワケね。今まで病気をしたことがない程、アホ元気。
んで、こんなの初めて。2度あったらタマラン、そうじゃろね。その冷や汗」
赤いシッコ出た?あ、1時間前に。ハイッ、検尿とエコーねッ」

「アホ元気って・・・。ホントに、癌じゃ?」
「んなエエモンとちゃう。ここで医療ドラマじゃったら、レアなビョーキの名前が出て。
腸間膜血栓症とか日本住血吸虫の腸管穿孔とか、疑うんやろなー」

「センセ、んじゃ検便?」スタッフを送り出そうとしたナース。
「要らん。腎臓結石やろ、先ずシッコ」
「あの人、センセっすか。ホントに」待合室から声が聞こえる。

「あ、まだ居たの。シッコとエコーで、決まり。んじゃ、一緒にエコーに行こか」
「ハイ」
「あ、スンマセーン。タブン尿管結石って、ゴッドハンドが」叫びながら検査室侵入。

「了解ッ。んーと、尿管結石ッ。膀胱まであと1cm足らずが、1ヶ」
「あ、これね。揉んでも届かんなー、ワシと同じメタボ腹じゃから。飛び跳ねるとか?
あ、痛くてそう言う気分じゃない。んじゃ、総合病院の泌尿器科に紹介してあげよ」

手際の良い問診と診察に検査で、ジャスト15分。
「やっぱ石みたいよ、泌尿器科ね。タブン治療は、点滴と合成麻薬やろ」
「センセ、合成麻薬を使って逮捕されません?俳優みたいに」

「医者があんたに打ったら、合法。あんたが医者に打ったら、逮捕」
「打ってみます?」
「ハイッ、紹介状持って行くッ!石じゃったら、爆破(語尾上げで)」

爆破を聞いて、いきなり治ったらしい彼。
「総合病院に行ったら、CTとかMRIとか行っちゃうんかね−。ウチら、儲からんなー。
問診に検尿とエコーだけで診断ついたら、医療ドラマにはナランなー」

多分ビンゴ!やろ?と思いつつ、返事を待つ午後。

第893話 薬正逆作用決(だれがいつ)

「センセ、Pさんですけど。下痢止め出して貰ってから、酷くなりました」
「原因が違うんか、下痢止めの副作用か?」
「んでも、下痢止めですよー。下痢止めで下痢して貰っちゃ、どうするどうする」

「大昔じゃけど、鎮痛解熱坐薬で熱出したことあるで。厚生省時代に報告したんよ。
あの坐薬って、基材は天然椰子油で作ってあって。患者さんに説明した上で基材だけ。
そん時は熱は出んかったけど、痛みは変わらんじゃった。そんなモンやで、薬は毒や」

「んじゃ、まるでMIHIセンセじゃないですか」
「意味ワカランけど、敢えて言わしてもらうと。んーと。キムタク似?」
「そっちの方が意味ワカランッ!」

「キムタク似を、言い換えれば」
「言い換えなくて宜しいッ!」
「1回だけエエ?エエのが、あるんよ」

「無視無視。んでも、薬ってよー分かりません」
「凄く簡単に言うと、鏡に映ったあんたの顔が美熟女に見えるみたいな」
「んじゃ真っ当じゃないですか、ゼンゼン」

「あんたとヌリカベの比較検討を述べると・・・」
「述べなくて宜しいッ!早い話が、血圧下げる薬で血圧グイグイ上がっちゃうみたいな」
「それはネーベ、いくら何でも。んでも、あり得るか」

「んじゃんじゃ、吐き気止めで下痢が止まるとか?」
「ニューハーフをオヤジにする薬で、チイママが目玉のオヤジになるみたいな」
「ワケ分かりませんけど」

「早い話が、薬の主作用と副作用が入れ替わったみたいな」
「更に早く言えば、薬もセンセも気まぐれってこと?」
「早すぎない(語尾上げで)」

薬の正作用を誰がいつ決めるのか悩む、午後。

第892話 比較以前逆襲(はんげきうける)

「チャンチャカですもの、お別れしたら男のミサオー。中之島ブルースよーっと」
「いつになく、ご機嫌じゃないですか。イボイノシシでも捕まえたんです?」
「4時半から起きて、座敷童Cと遊んでたから。眠くて、抑制が効かないんよ」

「その辺は、いつもと同じですけど。比較以前の問題(語尾上げで)」
「イカン、婦長さんが・・・ウウウ」
「ど、どうしましたッ!?」

「面長ダルマに見えるのは、何故?」
「ちょ、ちょっと待って下さいね。美白の熟女っしょ」
「眠いイ・・・、イカン。ミョーなモンがア・・・。拙者先を急ぐ故、さらばじゃ」

「ちょ、ちょっとオ。ゼンブ言って消えないと、気になるじゃないですか」
「ゼンブ言ったら、寝られない。ゴメン、お女中。達者で暮らせ」で移動。
「おろ、福笑いか?」名札用写真を2枚見比べるナースBを前に。

「異動で、写真入りネームを差し替えてんですけどオ。これとこれは、どっち?」
「どっちが笑えるかって聞かれたら、んーと」
「ナゼ故に、写真見て笑う?どっちが可愛いとか、どっちがノリカ風とか?」

「比較以前の問題やろ。モモンガのAとB比べて、どっちがモモンガ?みたいな」
「ワケワカランッ!んでも、何かいつもよりボーッとしてません?センセ」
「そうなんよ。2つ論文投稿したら、気が抜けて」

「あ、とうとう毛が抜けましたか」
「毛じゃないッ、気イ。ゼンゼン違うッ」
「比較以前の問題でしょッ」

”比較以前問題”逆襲で反撃をを受ける、午後。

第891話 燐寸団扇消火器処方(ほぼどくやくや)

「センセ、昨日入院されたPさんですけどオ。お薬はあれだけ?」
「2つ飲めば充分やろ、あと531個出したい?」
「んなアホな処方は、要りませんッ!」

「んでも。消化器内科と整形外科と、脳外科に皮膚科。元々、循環器内科」
「惜しいナー、あと小児科と産婦人科があったら全科網羅やんか」
「Pさんは、男性のお年寄りですッ」

「んで、センセが見立てると処方は2つ。前は各科平均4種類で、合わせると11種類」
「それも食前やら、食後やら。挙げ句の果てに、食間と寝る前。ワシならちゃぶ台返す。
朝どんぶりにゼンブぶち込んで、茶漬けでザラザラするぞッ!なんてな」

「んでも、必要だから出したんでしょッ」
「そういう言い方もある。んがしかし、話を良く聞くと、邪魔処方。これ事実」
「んでもー」

「転んで腰打ってから、整形でずーっと痛み止め。当然の骨粗鬆症も、オマケだね。
んで薬が増えりゃ胃が悪くなって、消化器内科に行けばオマケの追加薬ザクザク。
減塩食じゃ飯マズイから、ごま塩ぶりかけて血上がるし血の中ミネラルもグイッと。
んで、循環器科から利尿剤が出っぱなし。皮膚カサカサで、痒くなって皮膚科で薬」

「話は繋がってますねー、上手い具合に。まるでセンセが作ったような話」
「かゆみ止め夜間せん妄で色んなこと言って、CT撮ったら見える小さい梗塞2,3個。
こら、認知症じゃんで。脳みそのビタミンみたいなんを出されて、薬はワンパック」

「なんせ93歳ですモンねー。初老オーバーのセンセも、その程度のモンならあるでしょ」
「んで、脳血流改善剤3種類。トホホじゃね」
「ホントにエエんですね、この2つで」

「エエんや。マッチ団扇処方は、要りませぬぞえ」
「何ですか、それ」
「マッチでシュッと火をつけて、団扇で消して。火が大きくなったら、消化器シュー。
マッチ擦らなきゃ、団扇も消化器も要らんやろ?そう言う処方」

「意味不明。んでも、センセの処方は前の病院じゃ出てませんね。似たようなヤツも」
「そうなんよ、脳梗塞は2ヶあって。心電図で古い心筋梗塞かなー、みたいな」
「心筋梗塞かなー、みたいな情報はありましたア?」

「梗塞があっても心臓の下側じゃから、ポンプ機能に影響が無くて済んだんやろ。
高齢だと気がつかんウチに、嵐が過ぎ去って傷だけ残る」
「糖尿の方なんか、無痛性心筋梗塞があるとか・・・」

「エエぞ、その調子。んで、血液サラサラの薬が1ヶ。飯の時に、咽せるらしいから。
誤嚥性肺炎予防を兼ねた血圧の薬が1ヶ、しめて2ヶ」
「んでも、11種類が2ヶとはトホホですねー」

「薬が減って腹が減るんじゃったら、プラセボで数合わせしてもエエで」
「そこまでする気はありませんけどオ。こうやって、MIHIセンセに騙されるんだ!」
「あんたの化粧と同じやろ、ワシの治療はスッピンで勝負や。あんたもやってみる?」
「スッピンの話題だけは、ちょっと避けていただきたいわ」

燐寸団扇消火器処方はほぼ毒薬や!の、午後。

第890話 希望見天国(たまにはね)

「あららー、今日は真っ赤なポロ」
「あ、ジミーじゃった?」
「ハイ、とっても派手。眩しい、目が痛い」

「アホ言いなさい。朱色がかった赤のポロなら、派手って言われてもなんとか我慢する。
 やっぱくすんだ赤なら、いささか派手かもー・・・でエエやろ?」
「しかしセンセは、どんな色にも耐えうるんですねー」

「ワシは、人間カメレオンかっ」
「派手なら派手なりに見慣れるし、地味だと大きさだけで目立っちゃう。そう言う意味」
「ワシは、変幻自在忍者かっ」

「良い意味で言ってるんです、あたしは。景色に浮いてるよりも、飛び出してる」
「んじゃ、はっきり言えばキムタク似(語尾上げで)」
「んじゃ、はっきり言わない方が・・・」

「んじゃ、午後外来は予定外じゃけど。施設KのDさん」
「Dさあーん、どうぞオ」
「センセのおかげで、咳はぴったり止まったで」いきなりのDさん。

「また来たんね。治ったら、来んでエエのに。あ、今日は定期受診。忘れてた!」
「4日前の夜中は、地獄をみたんよねー。ねっ、Dさん」
「そうそう、咳が止まらなくなって。あたしゃ死ぬかと思ったら、地獄が見えた」

「地獄にはナニが居った?」
「ナンかよーワカランモンが、側に立って。ゴジゴジャ言うとった」
「そら、夜勤の職員じゃ」

「センセッ!」付き添いの施設スタッフ突っ込む。
「んで、今は地獄は見えん?」
「咳が止まったから、見えるわけ無いじゃろ。さしあたりセンセは、地獄で仏じゃ」

「それを言うなら、地獄で彷徨う赤いメタボ座敷童でしょッ」ナース突っ込む。
「んじゃ、当分は地獄とは縁がないな」
「それがセンセ、ご縁がもう1つ」ため息混じりの施設スタッフ。

「咳じゃなくて?」
「今度は財産で、地獄。あり過ぎるのも、大変なんですねー」
「なんでもそうや。程々、テキトーが一番やねー」
「息子さんと娘さんで、大バトルの地獄」

たまにはDさんに天国を見せてあげたい、午後。

第889話 伝統服装活躍(びょうとうれく)

「イエーイ、頑張れエー」
「フンッっと」
「ホリャッと」

病棟のレクリエーションで患者さん達が一番燃えるのは、風船バレー。
痛くもないけど風船を顔にぶち当てられると、ますますヒートアップ。
麻痺した腕さえも、思わずグイッと上がりそうな勢いを見せることも。

「センセッ、そっちへ行ったで。返してや」
「おうおう、任せなさいッ。フンッっと」
思いっきり打ち返しても、1m先はボヨヨンふんわりパワーダウンだから。

「ダテに釣りズボンじゃなかろッ!」
「えろうレトロなこと、言ってくれんじゃん」
「フンッっと」

「ワシ、ちょっと休憩。抜けるでー、んでPさん。最近は、サスペンダー言うんじゃ」
「抜けたらアカンで。モガとかモボの時代からあったなー、それフンッ」
「ふいー。ちょっと動いただけで汗かくなー。ほれフンッ」

「しか、センセ。だいぶ腹回りがすっきりしたな。それフンッ」
「そうなんよ、苦労の甲斐あって。ほれフンッ」
「センセ見てたら、苦労してるとは思えんで。坊ちゃん育ちじゃろ?」

「農地改革がなかったら、そうなるらしいけど。世の中、そう甘くはないな」
「そうかの」
「んでGさん。世が世なら、ワシはお公家さんの末裔かも知れんでおじゃる」

「ワケワカランなー、それ」
「ワシも半信半疑じゃけど、オヤジの実家のばあちゃんが言うとった」
「言うのは勝手」

「ワシも、そう思う。檀浦から落ち延びた平家の末裔らしい」
「ボツボツ汗も引いてきたじゃろ、一勝負しておいでませ。釣りズボンで。
しかしセンセは、白衣を脱いだら可愛いモンじゃ」

茶の濃淡アーガイル模様サスペンダーに、ベージュ綿パン。
白と黄緑レジメントボウタイ、ナイキのエアスニーカー。

病棟行事でトラッドが活躍する、午後。

第888話 嫌悪鏡映姿ち(だめむちむち)

「ちょっと聞くんじゃけど。P君って、彼女居るん?」ナースD。
「ハア、居るように見えます?」
「イエね、オランやろと思ったから聞くんよ」

「逆に、ボクも聞きたいです。ナンでボクに彼女が居ないと思ったのか、その理由」
「逆に。そう言う細々したことは、放って置いてエエんよ」
「細々してないと、思うんですけど」

「んで、好みのタイプは?ガリガリ痩せぎす、身長187cm体重13kgはイヤじゃろ?」
「そうですねー、ちょっとどころじゃ。骨に皮が張り付いてる、激痩せ標本みたいな」
「そこで、ムチムチが登場するワケね」

「身長135cm、体重300kgとかじゃないですよね?」
「探したら居ってかも知れんけど、そこまでは。私がよー知ってる人じゃから」
「んなら安心、でもちょっと心配。んで?」

「同級生なんよ」
「ど、同級生って。歳の差、20歳とかじゃないですよね」
「あたしは何年落第したんかッ!なんてね。同じ歳のムチムチ」

「んじゃ、おいくつに?」
「P君、あたしが幾つに見えるんね?」
「そう言うビミョーなことを聞かれると、答えにくいでしょ」

「歳は気にしないでしょ、ムチムチなら」
「そう言う問題じゃ無いような・・・」
「年齢に不満無しと。んじゃ、次の条件は」

「ボク23ですよッ!」
「あらら、そんなに若かったん。32とか33かと。それが彼女が居ない原因かも」
「ウウウ・・・23歳でスイマセン。ウウウ・・・」

「顔は並、力一杯の不幸オーラ。気にしなくてエエけど」
「気にするなって言う方が、ヘンでしょ。どんなオーラ?」

「転んだら、犬のウンチがあったとか。椅子に座ったら、押しピンが3本とか。
激やせでも、服のサイズは8Lとか。傘を持ってない日に、ゲリラ豪雨とか」
「んじゃ、わしの同級生は?60歳じゃけど。全身ムチムチかもオ」突然参入する私。

「こうなったら、ムチムチじゃない方が嬉しいですッ」
「ムチムチじゃ、ダメなん」
「ハイッ、ダメですッ」

鏡に映った自分のムチムチにため息を付く、午後。

第887話 正常敬語(ためぐち)

「キャー、ヤダ。センセったら。それって、オヤジギャグじゃないですかア」
「そうかア」で消える殿。
「あのさ、ちょっと聞いてエエ?」

「へそくりの場所と年齢と体重以外なら、OKかな。タイプとか、聞きたい?やっぱ」
「そんなモン聞いても、屁の突っ張りにもナラン」
「んじゃ、学生時代のニックネームとか?」

「聞く前から分かってんだから、時間の無駄。あだ名は無駄なブタで決まりじゃけど。
んじゃなくて、殿との違い」
「髪の本数とか、メタボ腹の腹囲とか?それとも、あたしの魅力は何処か?とか」

「んなモン聞いてどうするどうする、あんた敬語の使い方ヘン。んで、殿との違い」
「殿と違ってました?ヤダ、ホントお」
「それに、失礼しまーすって言う時のおじぎの角度が。殿には前屈30度やろ」

「測ったことありませんけど」
「んでワシは、後屈30度。それって酷くない(語尾上げで)」
「どっちも30度で、エエじゃないですか」

「それに、何でワシはため口?」
「ヤダ、ため口でしたア。尊敬はしてないけど、親しくも思ってないしイ」

「かのベネディクトは、日本人は、相手の立場によって別な言葉を使うって言うとる。
つまり「敬語」というモノを持っているところが西欧とは違うって言うワケよ。
ルース・ベネディクト著「菊と刀」より、念のため」

「んで?」
「あんたらは、ワシに敬語を使えないワケやろ?」
「使う気になれないという方が、あんがい正しいかも」

「ってことは、あんたらは欧米の貧民かッ!」
「ワケワカランッ!」
「情け無いナー、乱れた日本語。正常な敬語っちゃ、ため口(語尾上げで)」

今年の研究大会テーマは「MIHIセンセへの正常な敬語とため口」にしたい、午後。

第886話 病棟流浪(すきっぷ)

「センセ、お世話になりました」
「ハイ、しっかりお世話しちゃったけど。定年なんだ、そうなんだ」
「バカ言わないで下さいよ、センセより13も下なのに」

「んじゃ、13歳なんだ」
「どう言う計算してんですか」
「願いましては、5円也イ。御破算で、47歳みたいな。んで?」

「異動」
「どうせ院内で動くんじゃから、何処なとお行き」
「んまっ、冷たい。今度は地味にしかも目立たないように、フェードアウト作戦」

「ムリムリ。体型そのまんま、派手に暑苦しく。背脂テカテカ、メタボオーラ作戦」
「んでも、婦長さんとか主任さんとかが変わると緊張する(語尾上げで)」
「あっちが?」

「んじゃなくて、こっちが。こうなったら。リラックスして、仕事が出来るやろか?」
「あんたのパンツのゴムと同じ」
「だらだら伸びきって、あっちこっちがワカメ風。んじゃなく、緊張しまくり」

「んなら、婦長さんと主任さんも入れ替えたらエエやんか。ついでにPとRとDさんも」
「それじゃ、ゼンブ入れ替えに近いじゃないですか」
「いっそのこと、ナースそのまま。患者さんをローテーションした方が?」

「んなーるほど。そう言う方法も・・・無いッ!」
「んじゃ、患者さんとナースを入れ替えるとか。斬新やで」
「斬新すぎるでしょッ」

「残念やなー、惜しいなー、つまらんなー」
「んならいっそ、医局を総入れ替え。イケメン限定、もち独身。キムタク似まで可」
「キムタク似ならなんとか、ワシがカバーして」
「ウッセ」

 病棟流浪はスキップの、午後。

第885話 500円超禁煙不能(だめなやつはだめ)

「センセ、あたし止めようかと」
「人間を?」
「あたし、ずーっと人間ですッ!」

「んじゃ、止めるんは妖怪?早く人間になりたいイー、みたいな」
「コラコラ、こんな可愛い妖怪?」
「可哀想な妖怪(語尾上げで)」

「んじゃなくて、タバコッ」
「目から吸って、耳から煙を出す技は捨てがたいけど」
「んもー、禁煙ですッ!」

「それならそうと、端から言えばエエのに。なに勿体ぶって、禁煙くらいで」
「そらあたしなんか、禁煙のベテラン。クイーンオブ禁煙と申しましょうか」
「前歯のヤニ色見たら、分かるで。年輪みたいな、ヤニの波」

「まだ\500まで間があるから、チビチビ吸うしかないわ。まとめ買いもしたし」
「そう言うヤツは、\1000になってもフィルターに火をつけて吸うやろ」
「んでも、センセはどうやって禁煙したんでしたっけ?」

「結婚して、上の子を授かったのを聞いて止めた。ウジウジ、医局でスパスパじゃった」
「ま、まさか一発で完全に?」
「そのまさかで。1日缶ピー1ヶが」

「代用品は?」
「そんなみっともないことするか、フツー」
「フツーは、ガムとか酢昆布とか」

「んで、孫が出来て禁酒」
「そこもワカラン。あたしなんかお酒クイクイ、タバコスパスパで絶好調ウ。
でも、そろそろ止めようかな」

「人間止めるか、酒たばこ高額納税者止めるか」
「確かに、半分以上税金(語尾上げで)」
「税金は、給料からさっ引かれるだけで充分やろ?」
「たばこ税って、煙以外に何に消えてんだろ?」

500円になっても禁煙出来ない駄目なヤツは駄目の、午後。

第884話 戦略的偏恵関係(りゅうこうご)

「センセ。今年の流行語大賞は何って言っても、あれですよね」
「そう、がちょーん」
「往年のギャグじゃないですか、ジッちゃんが良く使った」

「んじゃ、あたり前田のクラッカー?」
「それは祖祖父が」
「ホンマにもー、メチャクチャでござりまする?」

「誰ですかそれ?」
「エノケンとアチャコ」
「ご先祖が言っていたような」

「ももんがの?」
「意識して船がぶつけられたり、貿易摩擦で。TVニュースで出るヤツ」
「ゴミ?船虫?」

「新聞とかも書いてあるっしょ、何たら的互恵関係って」
「あ、あれね。トップが、鉛の笑顔仮面かぶってる国が相手の時やろ」
「確かにあの笑顔、油断出来ませんよねー。如何にも作ってる感じ」

「カンさんも使うけど、苛ついたら顔に直ぐ出るから。分かりやすいだけ、マシ」
「んで、どう言う意味なんですか?あれ」

「分かりやすく言うと、ポケットに突っ込んだ左手には出刃包丁持ってな。
出した右手はぎこちなく握手してるけど、引きつった作り笑顔みたいな。
んで、頑張ってお互いに得しましょうなんて。ジョーダンきついわ」

「恐いじゃないですか、安心出来ないじゃないですか、やっぱ」
「油断したらアカン。気がついたら、あららこんなとこから血イが!みたいな」
「血イ見ますか?」

「どっちかが得したら、どっちかが損せんと辻褄が合わんやろ。世の中甘くないで」
「しかも朝令昼改じゃから、端から信用する方がヘンかも」
「んじゃ、昼まで待ってからにした方が」

「昼まで待ったら、生き馬なら目も耳も抜かれる。足裏のホクロまでいかれるで」
「鼻横のイボとホクロなら、オネガイしたいですわ。それなら互恵関係だわ」

流行語大賞に思いを馳せる、午後。

第883話 骨折入院予約(おんななかせ)

「センセ、入院担当をオネガイしてもエエですか?」
「んでどんな人?あらら、骨折だけやん。これは、外科ッ」
「そうなんですけどオ、センセにぴったりの家族で」

「意味分かりません」
「娘さんが居られて、センセと同じ年で。おばちゃんは宝だって、入れ込みが強い方で」
「優しい方やねー。そらあんた、母と言えば日本の宝やろ。やっぱ」

「んじゃ、父と言えば?」
「そらあんた、日本の・・・。何やろ?」
「んで、入院予約のおばあちゃん。数えで100歳のはず」

「名義だけ住人で。ただいまバッチャンは180歳みたいなんと、ちゃう?」
「ウッセ。ご家族に入っていただきますッ」
「あ、こんにちは。んで、お具合は如何ですか?」

「足を骨折したんですけど、数えで100歳ですから。手術はちょっとウウウ。
他にも病気がいっぱいありまして、数えで100は厳しいんです。ウウウ。
ですから殆ど寝たきり、足先がピクピク出来るのが精一杯で。数えでウウウ」

「100歳でしたね」
「あら、センセ。ウチのおばあちゃんをご存じでした?」
「イエ、いま初めてお聞きしましたけど」

「あたし、おばあちゃんの歳を申し上げました?」
「ハイ、しっかり何度も。あ、栄養は点滴で。そら寂しいことで」
「ハイ、あっちのセンセが咽せてアブナイからって。肩口から」

「んじゃ、おトイレは。あ、オムツですか。そらカナワンですねー」
「ハイ、数えで100ですから」
「いま病院は満床なんで、ちょっとお待ち願えますか?」

「あのー、担当はセンセで?」
「この程度の医者じゃ、イケマセンか?」
「あ、結構です。転院を待ってる間に、担当が変わることは?」

「ボクより2番手のイケメンが良かったら、他を探した方が。3番手ならゾロゾロ」
「コラコラ、んじゃMIHIセンセが一番に聞こえるでしょッ。紛らわしいこと言わないッ」
「そう言う意味じゃなく」

「どう言う意味ですかッ」
「あのー、看護婦さん。ウチのおばあちゃんは、どうなるんでしょうか?」

「あ、思わず大きな声を。大丈夫、このセンセで宜しかったら。申し込みをお願いします。
多少のご不満はおありでしょうけど、他のセンセも似たり寄ったり。
途中で気に入らなかったら、取り替えますから」ケースワーカーU。

「そんなこと出来るんですか?」
「それって、ホンマか?ワシ、知らんじゃったで。指名料は?」
「場末のホストクラブじゃありませんッ!」

「あのー、センセ指名で」娘さん。
「あのー、ホントにこのセンセで良いんですね?」しつこくU。
「ハイ、ゼヒ。何か問題でも?あたし嬉しい、こんな優しいセンセでウウウ」

「泣かなくてもエエですよ。ハイ、ティッシュ3枚」私。
「あらま、お優しいこと。ウウウ・・ティッシュ、もう3枚オネガイします、ウウウ」
「んじゃ、私の担当でよろしくお願いします」

消えた娘さんの声が、待合室から聞こえてくる。
「顔と体型通り、優しそうなセンセで良かったわ」
「んじゃ、少し詳しくお話をお聞きします」で2人は別室へ。

10分後、ケースワーカーだけ現れる。
「でしょ、でしょ。内科で、ご家族がOKでしょ。あたしの読み、ぴったしっしょ?」
「んでも病気は骨折・・・」

「細かいこと言わない。このオ、女泣かせエ」
「スマンけど、知らん人が聞いたら誤解するようなこと言わんでくれん」
「大丈夫、センセを見たら誰も誤解はしません。ヨッ、女泣かせッ」

骨折入院予約で女泣かせの、午後。

第882話 家庭内処理力(えんぎりょく)

「んじゃ、センセ。お世話になりました、センセもお元気で」
「ハイ、Qさんも長生きしてね」
「ウウウ・・・。施設に入って、足腰も便秘も治して飯もちゃんと食います」

ご家庭の事情で一緒に住めないけど、距離は圧倒的に短くなって退院の運びに。
「とにかく無事元気になって、結構でしたねー。家族だけじゃ、解決出来なかったけど」
「あれならエエ方やで、あの笑顔が答えやろ」で見えなくなった。

「Pさん。ハイ、給料明細」受付の奥から聞こえてくる、事務のF君の声。
「あ、どうもすいません。今月で終わるんですよ、ローン」
「家のローンね?凄いじゃないの」

「ま、まさか。息子の自転車です」
「あんた、そんなモンまでローンなの?」
「ハイ、年金がらみの家庭内ローン」

「それって?」
「同居の義理の母から借金して、3ヶ月で給料毎に¥7800返すんですウ」
「金利無しは確かに年金の底力かも知れんね、いつもニコニコ家庭内処理じゃね」

「それに、子供達も良く知ってて。上手い上手い、ジジババにねだるのが」
「そうそう、まだ3歳なのに。あたしがダメって言ったら、ジイの布団に潜り込んで。
泣き真似して、ねだるから一発よ。おうおう、明日買ってやるゾ!なんて言わせて」

「息子なんか、おばあちゃんの前で涙ぐむんよ。ボクだけ持ってないとか言って」
「ばあちゃんもイチコロ、誰にも言うたらアカンよなんて。\1000札握らせて。
ったく、誰が教えたわけでもないのに」

「そらあんた、母親を見て育つわけよ。旦那におねだりする妻(語尾上げで)」
「そうやって、家庭内処理してるんだ!」
「親の演技力を見て、子の演技力は育つって言うやろ」

「誰がそんなことを?」
「んーんと。どこぞの女優じゃったか、フランスの演出家じゃったか。んーと、んーと。
出かかって、引っ込んだり出そうだったり。便秘してるゾウの屁みたいな、んー」
「ダメよ。MIHIセンセのサル芝居演技に、騙されちゃ」

問題は家庭内処理力か演技力か?の、午後。

第881話 ミスはミス

「んで、ヒマな婦長さんでもエエし。主任さんでもエエで、気切チューブ交換」
「んじゃ、あたしは忙しいし。主任さんも忙しいしイ。結局う、独りでされたらア」
「ボクって、気切作業は独りでしたくない体質と言うか。そう言う人」

「どんな人か知らんけど、ナニ甘えちゃって。んじゃ、ミス病棟を差し向けましょうね」
「そんな人、居ったっけ?」
「ハイハイ、3万人は居りますわよ。あたし含めて」

「ワシ、急にシッコが出たくなった人に変身してエエ?」
「我慢しなさいませ、3分間」
「んで、誰?付くのは」

「よりどりみどり。丸いのか四角いのから、三角も。はたまた、楕円形(語尾上げで)」
「変形7角形で、オネガイします」
「んじゃ、決まりのRさんね」

「ふあーい。ヨロピクう」
「朝っぱらから、大ハズレだわ」
「コラコラ、大当たりでしょッ。名誉の顔面負傷みたいな」

「ミス病棟と言えば、あたししかいない」
「ヘッ。1歳を頭に子供13人、嗚呼ミステイクのミス」
「どう言う計算してんですか」

「電卓で、ピコピコ。13人でご名算ッ」
「出直してきます」
「シッコか?それとも大きい方?」

「どっちも違いますッ、診察介助に付く気が失せただけ」
「そらあたしのミステイク、あんたのミスもミステイク。
みんなまとめて、ミス(御簾)の中でおじゃる。
われ泣き濡れて、ミスでタワムルなんちって」

ミスはミスだぜ!の、朝。

第880話 不可入院笑(ばれたかも)

「センセが訪問診療されてるRさんですけどオ、口開けないんですウ」
「開けっ放しじゃ、口が渇くやろ」
「んでうちの子も番犬のゴンちゃんも、ポッカーンって口が」

「T家のDNAやなー、しかも伝染するんや。恐いなー」
「んで、Rさん」
「その点、Rさんは賢いで。主席で、女学校を卒業」

「んで、Rさん。体温37.4度、脈107、シッコ少々」
「んで、脱水。んで、点滴」
「んで、お世話をしていた息子さんが入院。奥さんつきっきり」

「んで今日、点滴。明日、入院」
「んでも、病棟は満床って聞きましたけど。タブン」
「エエよー、入院で。ワシを誰だと思ってんの」

「キレやすいMIHIセンセ、メタボ腹MIHIセンセ、ジジイでうざいMIHIセンセ」
「そこまで言うこと無いッ!穴の空いた泥舟に乗った気で、任せなさい」
「あたしは、センセと心中したくないですウ」

「明日9時5分、Rさんの調子がいまいち気になるワケ。唐突、突然、いきなりの入院」
「気になってるのは、昨日からですけど」
「エエんよ、突然急にってのが大事なの。そんで、ワシの外来に来るわけね」

「ベッドが・・・」
「すると、こら何たる不思議な巡り合わせじゃとか言っちゃうワケ」
「すっごい、わざとらしくないですウ」

「あ、イカン。こら入院じゃ。運命の思し召し、たった今同じ歳98歳のバッちゃんが退院。
ベッドが呼んでるんやねー、Rさんを。ハイ、同級生のよしみで入院OKッ!」
「んでも、予約無しで」

「んでも、脱水はウソじゃない。すると血イドロドロで、脳梗塞起こしちゃイカン。
いま寝たきりが、スキップで走り出したらどうしてくれるんや?」
「ワケワカランッ!でも、急変とまでは言えないような・・・。予約もしてない・・・」

「急変に予約はオカシイやろ、退院も入院も98歳とは凄くない(語尾上げで)。
何か運命を感じるなー、輪廻転生じゃなー、カオスじゃなー、入院じゃなー。で、OK。
そこであんたが、仕方がありませんけど入院ですねって呟くワケ。ここで笑うなよ」

「大丈夫です、あたしも女優。しみじみ、肩を落として」その日は暮れて翌日。
「センセ、Rさん。具合が悪いような、そこそこなような」
「そら入院やろ、ゼッタイ急変しとるはずや。ハイ、ベッド確保ッ!」

「MIHIセンセ、何かいつもの3倍ヘンじゃけど。Rさんは、入院なんですね」の外来主任。
「それで、エエんよ。なっ、Tさん」
「あたし、よく分かりません。クックック」

入院で笑うなって言ったのにばれたかも?の、午後。

第879話 脳温度低下後作業(3どめのすいこう)

「ナンか用事、無いよねー」
「あ、MIHIセンセじゃん。用事あるじゃん」
「んじゃ。そのうちと言うことで、さらばじゃ」

「ナンか用事、無いよねー」ステーション見渡すナースF。
「有りますよ、たっぷり作りましょ」
「んじゃ。そのうちと言うことで、さらばじゃ」

「ナンか用事、無いよねー」しつこく見渡すナースF。
「ちょうど良かった、良いところに。飛んで火に入る夏のブタ」無理矢理作るナースB。
「それじゃ、焼き豚じゃん。んじゃ。そのうちと言うことで、さらばじゃ」撤収。

何とか仕上げた論文、3度目の推敲でオーバーヒートしまくりの脳みそ。
目はしょぼつく、腰は重い、コーヒー飲みすぎて胃袋ジャブジャブ。
クールダウンに5分だけ気分転換にと、3つの病棟へ電話すれば雑用有りまくり。

「センセ、ヒマでしょ?仕事を作っておいてあげましたから」
「あのさ、ワシそれほどはヒマじゃないんよ」
「うっそー、ヒマが豚の皮をかぶってるみたいな」

「キムタク似だと、誤解されやすいんだ」
「ケンタのサンダース似だと、誤解されやすいんかも?」
「チキン売ってこ。用事、無いしイ」

「しかしセンセ、ヒマなんですね。ホント」
「んだから、2日で論文あらかた出来た」
「他に趣味はナインですか?」

「あと、最近サボってるけどウクレレ」
「この際、ハワイアンショー?レクの時間に行っちゃいますか」
「ワシって元ダンサー(語尾上げで)、腰ミノ着けて踊る(語尾上げで)」

脳ミソをクールダウンさせて3度目の推敲をする、午後。

第878話 直ぐ呼べッ

「センセ、Pさんが。MIHIセンセを、直ぐ呼べッて」
「ワシ、ついさっきラウンドして。けっこう説明したんやけどなー。
1発ギャグを入れんかったんが、アカンやったんやろか?」

「んなはず無いでしょ、たかがオヤジギャグ。んで、直ぐ来る?」
「直ぐ来ない。これって英語的イ」
「何が英語的イですか、ベリージャパニーズ」

「直ぐ呼べッて言われても、ラーメンの出前じゃあるまいし」
「んじゃ、おヒマなときに何時でもどうぞ」
「そういう言い方は、ワシがヒマじゃから直ぐ来ると思ってる?」
「思ってる」

ラジャッで、Pさんのお部屋。
「何かご用?」
「さっき貰った湿布の裏表は分かるんじゃけど、上下はどうかいな?」

「ウウウ・・・湿布は上下は・・・。そう言うことは、今度は看護婦さんに聞いてね。
Qさんも、湿布は裏表はあっても上下は無いかんね。あ、知ってる!
んじゃ、もう消えてエエ?あ、暑苦しいから早く消えろ!」

5分も経たないうちに、ケータイがピリリ。
「センセ、Qさんが。MIHIセンセを、直ぐ呼べッて」
「あのね、3分前にPさんの同室のQさんと話したバッカ。ナゼ故、直ぐ呼べ?」

「私には、理由を仰らないので・・・」
「あのな、ワシはピザ屋の出前とはちゃうんじゃッ」
それから5分後、新患のサマリーが出来上がったのでステーションに侵入すれば。

「ホント、センセはヒマなんですね。ピザ屋より早いわ」
「遠出のシッコのついでに、来た」
「野良犬が拾い食いしながら、マーキングみたいな。どっちがついでか、ワカランけど」

「んじゃ、ついでにQさんの顔を見てこようか」で、Qさんに声をかければ。
「明日でもエかったのに、センセはヒマなんか?湿布の左右は・・・」

理由無きヒマ医師と思われている、午後。

第877話 興味性別(うすれた)

「センセ、ヒマでしょ?」
「まあ、ヒマっちゃヒマかな。そうでないっちゃ、そうでないかな」
「じゃあ、ヒマっですね」

「んで、もしもワシがヒマじゃったら。ナンかおもろいことして、笑わせてくれるん?」
「あたしも、そこまでヒマじゃ」
「んじゃ、そう言うことで」

「コラコラ、電話を切るんじゃありませんッ」
「このボタンを押したら、どうなるか知りたくない?」
「Pセンセ、お留守でしょ?」

「いきなり本題とは、ツカミを知らぬ無粋なヤツ」
「誰がブスですかッ!」
「んなこと言ってないで。言ってもエエんか?言うぞ3万回」

「ダメですッ!んで、施設のRさんが39度。センセは今日、外来当番医。
しかも担当医のPセンセは留守なんでしょ?」
「知らん。ワシ、年上の男に興味ないから」

「酷い言い様で」
「ワシの場合、ニューハーフにも興味は無いと言い切れるな」
「んじゃ、女には興味あるんだ。その歳で」

「そらそ、今一番興味があるのが孫のMちゃん。うら若き女性」
「と、若い男だったりして。キャー」
「そうなんよ、直に生まれるうら若き男性には凄く興味が・・・キャー」

「アホくさ、んで頼む診察。結果で処方」
「電報なみの簡略じゃね。し・み・しょ」
「何でですかそれ?」

「しゃーない・診て・処方の略」
「意味ワカラン省略語。あ・と・し」
「なんやそれ?」

「アホなこと言うてないで、とっとと、仕事ッ!の略」
「ふ・・・・」
「ヘッ、それは?」

「ふあーいの略」
「脳みその回転の不具合(語尾上げで)」
「興味ある性別の垣根なんて、どうでもエエ」

性別の興味が薄れた、午後。

第876話 殿代理湿布処方(こころしてはれ)

「な、ナンでや!」
「あ、気づきましたア。ヤダあ、すんなり行くと思ったのにイ」
「アホ言え、これって外科の処方箋やんか」

「んでも、センセが見えない」
「電話しろッ、ケータイ鳴らせッ、ボリュームMaxで院内放送しまくれッ」
「んでも、院長センセ。出張」

「あ、殿なワケね。留守」
「でしょでしょ、殿には逆らえないでしょ?ヘッヘッヘ」
「お主もワルよのー。んで?」

「ハイ、湿布5袋」
「んで患者さんは・・・あららー、見たことある名前」
「実を申せばあたくしの、ヘッヘッヘ」

「ホウホウ、45歳」
「キャーキャー、33歳でオネガイします」
「キャーキャー、サバ読むどころじゃネーベ。クジラ読むんじゃねーべ」

「とっとと、処方箋ッ」
「ワシ、急に湿布を処方したくない人に」
「殿の代わりでも?」

「そこへ持って行かれると、ワシ弱い。薬が欲しい、財布忘れたワシじゃけど」
「ご先祖様の言いつけで、MIHIセンセに借金させてはならぬ!って」
「クロマニヨン人のご先祖?ワシが借金したら祟る?ちっさいやっちゃー、クロちゃん」

「クロちゃんの末裔が肩凝りで、湿布が欲しいって」
「殿より授かった湿布、心して貼れ!それと。タブン明後日支払うから、ワシの借金。
ワシもヤク欲しい。蕁麻疹(語尾上げで)。かゆみ止め(語尾上げで)」

「そんなに痒ければ、トイレ掃除用タワシでゴリゴリ?」
「アホ言え、そんなバッチイもん使えるかッ。ワシの借金、殿につけといてね」
「エエんですか、そんなことして」

「ジョーダンっす」
「明後日、帰って来られたらチクっちゃいますよ」
「撤収ウー、痒イー」

メタボ腹をポリポリしながら、薬局前で待つお昼前。

第875話 ばあさまにツッコミ

「おろ、坂を上って来たんはPさんじゃ?」
「ハアー。この坂、どうにかナランもんかいの。ハアー」開いた外来のドアから顔を出す。
「Pさん、元気イ」笑顔で迎える。

「元気じゃったら、こんな坂は走って登るで。坂の上が遠い、あんなに上じゃったか」
「この坂は、夏は熱帯地方冬はアラスカなみ。だらだら坂やモンなー」
「ホント、タマランわ。坂の上を見て登ると、胸が苦しうなって。切なくて」

「んじゃ、後ろ向きで下を見ながら登ったら?楽しくて、胸が軽くなるかもな」
「子供じゃあるまいし、アホなこと言いなさんな」
「斜に構えてスキップしたら、エエかも」

「ばあさまを、からかうモンじゃ・・・」で、駆けつけ診察。
「んじゃ、お大事にイ」で、外来終了してラウンド。
軽くスキップしつつ、Rさんの病室。

「Rさん、具合どうね?」
「あちこち、節々が痛いんだわ。リウマチで」
「低気圧がどっかへ行ったから、だんだん軽くなるやろ」

「人ごとみたいに。そう言えば、昨日息子が来たんよ」
「あ、ワシの2つ後輩で外科の。凄く優しくて、気が良くつくセンセ」
「センセの目は、節穴か黒ボタンか?」

「腐って干からびた、ドングリ?」
「あたしがあちこち痛いって言うたら、薬も貰って湿布も貰ってんだから我慢しろって。
そのうち治るって言うから、全身黒こげになれば治るじゃろって言い返した」

「可愛くない言い方やねー」
「んでも、人の痛みのワカランモンが医者とはなー・・・」
「その親の顔を、見せてあげるで。ホレ、この鏡の中に」

「ばあさまを、からかうモンじゃありませんよ」
「食べ終わった弁当箱に、お金を払う。空を買う、からかう。みたいな」
「ツマラン事を言うてるとセンセもそのうち、若いモンにからかわれるんじゃ」

 自分は突っ込みよりボケの方が似合ってると思う、午後。

第874話 訪問診療の長話

「センセ、訪問診療のRさんでですけどオ。もっと話がしたいって」
「ワシは診察して検査の説明をして、ちょっと居たら帰るわな。質問無いかって聞いて」
「そうですねー。んでもー訪問看護婦さんが行くと言うんですって、話が短いって」

「ビョーキの話は、十分してるはずやけど」
「ビョーキ以外の話(語尾上げで)」
「ワシは、茶飲み友達とはちゃうんよ。んでも嫁の文句も聞いとるで、時々」

「孫とか息子の文句ですかねエー、もっと言いたいのは」
「ワシは人生相談員やないで。糖尿病患者さんのシッコは、甘いかしょっぱいか?とか。
便秘は何年我慢出来るかとか、緊張してチビリそうになるんは何故かとかの講演なら」

「そんな情報、要りませんッ!」
んじゃあ、ご近所モノで。猫のトラちゃんは、オスか牝かハーフか?とか」
「それも要りませんッ!んで、ホントはどっち?」

「そうやろ。んじゃから、せいぜい居って10分のモンやろ」
「茶飲み話は、別料金って言いましょか?保険が利かないヤツとか言って」
「それもヘンじゃしなー」

「んじゃ、ビョーキの話をメチャメチャゆーっくーりで、しゃーべーったーらー」
「ナンですかそれ?」
「これは逆3倍速で喋ってんの、んで15分」

「ヤですよ。そんなアホ臭い猿芝居に、付き合わされるの」
「んじゃ、あんたが合いの手を入れるのは?ハイハイ、ニューボトルう。手拍子入り」
「ミョーなホストクラブみたいじゃないですかア、それって」

「あんた、そう言うところに出入りしてんの?」
「してませんッ!んでも1回ぐらいなら・・・」
「詳しい情報があったら、Rさんと一緒に聞いてもエエで」

今度の訪問診療が楽しみな、午後。

第873話 多剤耐性便秘い(なにやってもでない)

「センセ。ナンか最近、多剤耐性菌が増えてるでしょ?」
「増えてるんじゃなくて、増やしとるんかも。それか、やっと気づいただけかも?」
「んじゃ、前からあったんですか?」

「検査方法が新しくなって、あららこんなモンが!みたいな」
「エエ抗生剤が出ると、そこまで使わんでもエエのについ使っちゃう医者って居るやろ。
アリンコをやっつけるのに、爪楊枝でエエのにバズーカ撃ちまくっちゃうみたいな」

「そら新しいモン使うと、治療が格好良く見えるでしょッ」
「それを見たアホ医者が、遅れを取るまいと使いまくり。もう30例使ったとかいわれ。
ボクは50例だけどねーなんて言い返して、とうとう薬が効かなくなって」

「そんなことで競争するんですか?」
「脳みそ使わんで治療してるから、ますますアホになってくるわな。災難は患者」
「まるで人ごとみたいな」

「んで30年前に流行った抗生剤を使うと、あんがい効いたりして」
「そう言えば、そんなことが」
「それを業界では輪廻転生治療とか、歴史は繰り返すゾ今に見ていろ!とか」

「ワケ分かりませんけど、便秘もそうですよね」
「便秘が多剤耐性?」
「ってゆーか。起きて直ぐ水を飲むとツルッと出てたのに、牛乳じゃなくちゃダメになり。
次は生卵3ヶ一気のみになり、さらにお酢を鼻から啜るとかで出るようになって」

「あとは練りカラシと練りワサビをミックス、耳から注入(語尾上げで)」
「出来るモンなら、やって見せて下さいッ!んで、ばあちゃんからよく聞く言い伝え。
便秘なヤツは早起きして直ぐ、バケツ一杯水を飲めって。あんがい効いたりして」
「出来るモンなら、やってみ!」

どの下剤を飲んでもウンチがでないのを多剤耐性便秘と呼ぶ?、午後。

第872話 トド頑張る

「失礼しまーす。お掃除をさせていただき・・・あらら、リラックスですね」
「お世話になりまーす。いまちょっと取り込んでますので、適当に」
「ソファーで寝ているようにしか見えないんですけど、取り込んでるンですか」

「そういうモンです」
「んじゃどうも、お騒がせしました」
「ハイどうも」

 それから10分後。
「センセえー、38病棟のBさんですけど。あららー、まったりですね。
しかもナンですか、この音。へ、論文にはオペラですか。外国の盆踊り大会かと」

「アホ言え、神の声を盆踊りとは。そこへなおれ、成敗じゃ。獄門さらし首じゃー」
「んで、さらし首がゴロゴロしてるんですか?ソファーで」
「イヤ。こう見えても、論文書いてんの」

「どう見ても、捕獲されたトドが冷凍室でゴロゴロしてるみたいな。
それとも、強いて言えば霊安室のカバ?んじゃ、カバが可哀想」
「どう言う目で見ると、そうなるかなー。んで、Bさん」

「そうそう、頭が痛いような気がするからお薬が欲しいって」
「気の迷い(語尾上げで)。熱が無かったら、病棟の格納庫のPとかBとか。それ。
7分前に回診したけど、笑顔満面じゃった。とっとと消えて。論文続きや」

「しかし、いくら見ても論文書いてる風じゃないけど・・・」
「凡人とアホ人には、ワシがキーボード打ってんのが見えんじゃろ」
「トドかカバが、ゴロゴロ」

「あのな、もうちょっとエエ動物は無いんか」
「肥前クラゲとか?肥満クラゲとか?」
「もうエエ、消えなさい」

「ふあーい。しかしここ、サブいっすねー。扇風機まで、グルグル」
「エエんでチュ。体の芯まで、凍ってまチュ」
「脳味噌も、フリーズしてません?」

バーチャルキーボードを打って4時間後。机に向かってにキーボードを打ちまくり。
A47頁の大作を仕上げ表が4つを付ければ、取りあえず完成した頃にグラスの氷は温い水。
来年の5月の締め切りまで熟成させる手はずが整っても、安心出来ないのは理由があって。

VRE院内感染予防対策の論文と、スクリーニング手立ての続編までは気が抜けない。
ボーッとしてると、次の論文ネタ切れで持て余す予備時間。
求めぬと 湧いて来ない 論文ネタ。 by MIHI>

トドはトドなりに頑張ってる、まったり真夏の午後。

第871話 吉牛餃王論文(ちょろいぜ)

「ヘッ、もう仕上げたんですか?」
「速い安い美味い。吉牛かギョー王なみじゃね」
「んでも、昨日宣言して午前中は病棟でほろほろしてたでしょ?」

「ラウンドした後、再来週の定期処方もぶちかまして」
「昼休みは、図書室の電気点いてたし。どうせグータラ」
「んだからア。朝6時に目が覚めて30分。先ずは目覚めに、筋トレ・ストレッチ。
んで、覚醒したところで構想練るやろ。ベッドで」

「んでも、何かに書かないと忘れるでしょ?」
「1時間経って忘れるヤツは使いもんにナランから、捨てて。13時にプチラウンド。
気分が変わったところで、一気じゃった。脳みそが、オーバーヒートしまくりよ」

「頭蓋骨、頭皮。ボロボロで、ボーボーですね」
「キーボードをパショパショやってたら、新人MRさんのご挨拶で。どこから?あ、横浜!
ジャズのライブハウスが多くて、エエとこやねー。とか言っちゃって15分」

「集中出来ませんねー」
「ワシ集中力無いからエエんよ。注意力散漫が並んだ通信簿、授業中後ろを向くなっ!て。
書かれ続けて、7年と3ヶ月に1日足りない」

「柄になく、細かいんですね」
「ツーことで、気づいたらA43頁と図表2枚かな?」
「軽ーく、ジャブみたいな論文ですね」

「んでも、あと2週間寝かせて熟成を待つワケ」
「なんかせんと、熟成しないでしょッ。長さは、置いたまんまのジャブ論文」

「昨日仕上がったのは、もっと多いんやで。文章いじくり廻して、文献付けまくり。
その点、今度のはスピードが勝負。牛丼とかギョーザと、速さで勝負出来そうや。
しかも、ちょい美味。隠し味ピりり、激美味?」

「またまた自画自賛が」
「ワシって凄くない(語尾上げで)」
「ある部分は凄いけど、それ以外は惨くない(語尾上げで)」

「ある部分って、キムタク似のとこ?」
「ゼンゼン似てない、無視ッ」
「論文なんて、チョロいモンやで。ケッケッケ」
「それが無けりゃ、ややフツーのジジイなのに」

出る杭は打たれ能あるブタ爪を隠す、午後。

第870話 輸血人肌とHES

「んじゃGさんの輸血始めるから、針刺して生食ぶら下げてね」
「ハーイ」で、15分後。
「血管が細いから、苦労しまし・・・あらら。センセ、血イ抱きしめて」

「このままじゃアカンやろ、んで温めてんの」
「室温でエエでしょ?」
「んでも、激暑の室温と真冬吹きさらしの室温じゃ。どっちがどうなんじゃ?」

「直ぐ屁理屈を言う。まあ、高原の春なみとして18から20度。せいぜい25度でしょう」
「やっぱ血イと言えば人肌やろ。酒と一緒でな。温めの燗がエエーって言うやろ」
「んで、血イを抱きしめてるんですか」

「届いたばっかやから、冷え冷えでワシも気持ちがエエーっと」
「それは問題ないけど、もっと他に問題が」
「ワシの炸裂するパワーが血イに注入されて、輸血が終わった瞬間に脱兎のごとく?」

「んなアホな。MIHI菌というか、MIHIウイルスというか」
「大丈夫、MIHI菌はビニールを通さない」
「そういうエビデンスが?」

「GE(総合診療医)の世界じゃ、定説」
「ウソくさ。あー、センセも見てるんだ。ヒガシヤマ君。センセ当たる?」
「先週のインスリノーマは、クエンチャーだったけどなー」

「何が食べられないんですウ」
「消火はquenchingって言うから、勝手にクエンチャー。ま、急冷と言う意味もあるけど。
診断が付いたら解決で、フツーは消火やろ。何で燃やすか!」

「相手にナランでしょ。んでも、今週はよーワカランじゃったでしょ?」
「好酸球がちょっと高いとか言ってたけど、好酸球性肺臓炎ならちょっとじゃない。
40%とか50%じゃったモンな−。むかし気づいて治したけど、ファイヤー」

「ヒガシヤマ君なみじゃないですかッ!」
「顔とか、足の長さ?」
「んなはず無いでしょッ、相手にナラン」

「まあ、ありきたりでHESは良いとして、ひねりが足りん。監修はC大学総診の教授や。
ワシなら食道アニサキスでHES。ベッドサイドに、”釣りの悪友−イカ釣り特集”本。
あ、Wさん。釣りお好き?と振って、ハイ3日前にイカ釣りにとか答えちゃって」

「ヒガシヤマ君に、分かった!とか言わせるんでしょ?」
「ちゃうちゃう。竹藪の向こうにタヌキが見えた!とか言っちゃって」
「竹藪の向こうに、タヌキが見えて。藪よりマシ?お笑いの台本にしては、ショボイ」

「そこでヒガシヤマ君にフンするMIHIセンセが、ムーンウオークでクエンチャーッ」
「出ましたねー、とか言われて。ヒガシヤマ君のファイヤーの後に、決めぜりふ?」

「ヒガシヤマ君じゃなくて。Wさんはアニサキスアレルギーで食道浮腫、癌じゃない!
手術は中止ッ!再度内視鏡とステロイド点滴ッ。どうよッ!クエンチャーッ」
「造語癖もあるMIHIセンセが得意の、自画自賛ですね」

来年の研修医はGE教室に殺到するかも?の、午後。

参考;好酸球増多症候群(HES)の診断基準
著明な好酸球増多を伴い、種々の臓器障害をきたす病態が好酸球増多症候群(HES)。
1968年にHardyとAndersonにより定義された診断基準は以下の通りです。
1. 1500個/μL以上の好酸球増多が6ヶ月以上続くか、又はそれ以前に患者が死亡する。
2. 寄生虫症やアレルギー疾患など、他の好酸球増多をきたす疾患が除外できる。
3. 好酸球浸潤による臓器障害がある。

第869話 食事50秒便秘(かいてないね)

「センセ、昨日入院のZさんですけど。食事を拒否してます」
「そらそうやろ、減塩食じゃ美味くない」
「そっちじゃなくて」

「ワシなら、ゼッタイそっち系(語尾上げで)」
「ご飯食べると便秘になって、お腹が痛くなるって」
「んでも、そうやって3日も食べんから。サブイレウスで、入院したんやで」

「んじゃ、センセ。Zさんが食べられるようにして下さいよ」
「荒技でもあり裏技でしかも秘技を、出すしかないかなー。エコエコ・アザアザ」
「ナンか、異様な感じイ」

「んじゃ、出しちゃうかなーっと。Zさんのベッドから5000m以上接近したら、イカンぞ。
禁を破ると腹が4段から5段になること、ゆめゆめ忘れる無かれエー」
「そこまで言われると、こっわいもの見たさ(語尾上げで)」

スキップしながら作戦を練れば、Zさんの部屋。
「ここの飯はなー、食う気せんよなー」
「見た目はエエですよ。あたしが食べんだけで、お隣さんは美味しいって完食」

「おろろ、作戦変更。こないだの血液検査で尿毒素が増えておったんよ、困った。
飯を食わんと腎臓が弱り切ってしもうて、体が持たん。困った。
そのまま行くと七転八倒の苦しみで、なかなか死ねん。困った」
(ウソも方便で、ホントは拒食による蛋白質の異化作用)

「その困ったは、ワシのことかの?」
「メシ食わんと、胸かきむしって30年は苦しいらしい」
「30年か、そら長いワナ。ワシ、82歳じゃが。メシ食えば便秘、腹痛いで困った」

「フツーはメシ食うと、腸が仕事をし始めてウンチを出すときに産みの苦しみはある。
そら、フツーやろ?Zさんの考え方は逆じゃろうなー」
「そうか?んでも、昔から便秘じゃないんじゃ。便秘は、飛行機に乗り出してからじゃ」

「ヘッ、Zさんってパイロットじゃったんね?」
「特攻隊の生き残り。んで、飯の時間は50秒じゃったワケ。時計見て、始めッて言われて。
あれから便秘になった」

「50秒で便秘か、それが60年も続けばベテランじゃね」
「そう、じゃから便秘には詳しいんじゃ。ワシの言うことには、重みがあるじゃろ?」
「んでも、医学教科書的には違うんじゃけど・・・50秒の歴史には勝てんなー」

50秒の食事で便秘になるなんて何処にも書いてなかった、午後。

第868話 ナースの海外ボランティア

「あららー、こんなところにMIHIセンセが書いた報告書。あららー、2ヶ月前の日付」
「あらー、ダメじゃん。忘れてんじゃん、アホじゃん。ブタじゃん、茄子のへたじゃん」
「そこまで言うこと無いじゃん、みたいな」私。

「あららー、この足の傷。もう治ってしまったじゃん、いまさらこれは無いじゃん」
「この封筒って、病棟しか置いてないヤツう?つーことは、勝手に病棟が置いてった?」
「んじゃ、なんもかも病棟の責任だっちゅーワケね。チクっとこ」フフッのナースX。

「コラコラ、要らん事言わんで宜しい」
「ウウ、言いたい。口が我慢させない、脳みそが言いたいだけ言えって急かす」
「出来の悪いヤツは病棟で隔離、出来の中途半端なヤツは外来に曝せって」

「ジョーダンじゃございませんこと、アホなこと言わないで下さいませ。
そんなことしたら、MIHIセンセの秘密をバラしますわよ」
「ワシの秘密って。ま、まさかキムタクと両親の違う兄弟とか?」

「それは、兄弟って言いませんッ!」
「んじゃ、ブラピとンーと・・・」
「ゼッタイ、無関係ッ」

「んじゃナニ、ワシの秘密って。ま、まさかコーモン右横ホクロがハート型の?」
「そんな情報、聞きたくないッ!んでも、どうやって見たんです」
「畳に鏡を置いて、全裸でまたがって・・・」

「その情報も、発表禁止にして下さいッ」
「あんたも調べた方がエエで、ドクロ型だったりして」
「MIHIセンセ、電話で相談なんですけどオ。マラリア」しびれ切らして。

「猛暑で、赤とんぼの代わりにアカイエカが飛び始めたか?とうとう、来るモンが来たな。
末期症状じゃね、地球環境も」
「末期なのはセンセですッ。ボランティアで、予防注射」待ちきれずナースX。

「これ以上暑いとこに行くんだ、タダでサウナみたいな」
「えらいわア、北極温度の医局でまったりしてる医者に見せてあげたいわ。
海外ボランティアなんて、心根も身体も出来が良いんでしょうねー」横のナースA。

「アカイエカもびっくり。思わず、吸った血イをブブッと吹いちゃうぜ!みたいな」私。
「あたし体力は自信があるんじゃけどオ。頭を使うのは・・・」
「頭にスコップをくくりつけて、井戸を掘るとか?多少は、脳みそも使う」
「帰ってきたら、頭の筋肉隆々・・・んじゃ、脳みそ使ってないッ!」キレたナースX。

マラリアの予防注射は当院ではしておりませんとご返事した、午後。

第867話 キレないワケ

「センセ、最近丸くなった?」
「丸くって言われても、この体型で四角く見えたら問題あるで。赤内障かも?」
「白とか緑は知ってるけど、赤は知りませんでしたわ」

「ワシも、初めて言うた」
「勝手にビョーキを作らないッ!」
「んじゃ、思い切って紫内障でもエエで。色的に厳かな感じせん?」

「最近の会議は静かでツマランって、みんな言ってます」ナースG。
「声なき声でディスカッションしとるんやろ、3Hzくらいで」
「誰がが・・・まっ、早い話がMIHIセンセ。意見をあんまり言わんって」

「素敵なアイディアを出し惜しみして、熊に出会ったみたいに死んだふり?」ナースY。
「イエ、そう言う温和し目の話じゃなく。キレるのが見られなくて、刺激が」ナースG。
「そんなにワシのキレるのが見たかったんか。そらブチブチって、キレよか?」

「インネン付けたりガン飛ばしたりして、無理やりキレなくてもエエですけど」
「ワシ最近なんじゃけど、因果応報を実感したんよ」
「出家したとか言わんで下さいよ、腹抱えて笑ってモーチョーになったらイカン」

「因果応報っちゃ、奥が深い言葉やで」
「そうですわねー、確かに」
「原因になるようなエエことしたら、黙ってても報われる。つまり、エエことあるワケ」

「あらら?そういう意味でしたっけ、因果応報って。えー、ホントにイ。
どっちか言えば、天に唾するって言う方が近いような」
「天に唾してサクッと避けたら、まったりしてたミミズやマル虫に唾がかかるわな」

「サクッと避けちゃうワケですね、そら虫も迷惑千万」
「人が嫌がることをすると、虫もはた迷惑じゃから。怒って噛みつかれるぞ!みたいな」
「何となく近くなってきましたね」

「そういう理解がタラン貴方にはスペッシャルで、最近仕入れたエ言葉をしんぜよう。
”自分を苦しめず、また他人を害しない言葉のみを語れ。
 これこそ善く説かれた言葉なのである。スッパニパータ451より by ブッダ”
凄いやろ、泣けるやろ、鼻水タラタラやろ。よーく噛みしめるように」
「そっくり全部ご返杯、みたいな」

寝る前にこう言う本を読むと、「なんやワシ全部クリアしとるわ」で爆睡ッス。

出典;寝る前に読むブッダの言葉、奈良康明監修、佼成出版2002

第866話 ホルモンと食塩

「はア−、何だかだるいっちゅーか。けったくそ悪りイっつーか。ヤだわ、思春期」
「やっぱ、中年でも思春期ってあるん?」
「そらセンセ、物思いに耽る春的な時期は人それぞれ。人生色々」

「ワシ、早引けしてエエ?急に仕事したくなくなった」
「ダメですッ、今日はPセンセは出張。Rセンセは、代休。Dセンセは学会。
んで院長センセは・・・何かがあったような。無かったような」

「んじゃ、お女中。拙者先を急ぐ旅ゆえ、ここいらでいとまを取るぞえ」
「んだから、午後はセンセの独壇場。独りラウンドし放題なんて、素晴らしいでしょ?」
「ワシって、消え放題がエエ人」

「駄目な人ッ!分かった。こんなんが積み重なると、体調不良とかホルモン異常とか。
はたまた、化粧のノリが悪いとか家計簿が真っ赤とか。ぜーんぶセンセのセイ?」
「濡れ衣じゃ、それって。三段腹のセイやろ、ホルモン異常は」

「それとも歳のセイですかねエ、もう32だし」
「コラコラ、勝手に10歳引くな!足せッ」
「9歳しか、サバ読んでません。んでも、歳とホルモンって関係あるんでしょ?」

「Pさんは甲状腺ホルモンが足りなくて、血液中の塩分が減ってるんよ。
気づかんと前の病院処方は、1日食塩6gやて。足りない分は、足すだけじゃアカン。
年寄りを舐めんなよッ!みたいな」

「昔は歳取ると自然に甲状腺ホルモンが減るって。それは放って置いてエエんでしょ?」
「最近は、そうじゃないらしい。アンチエイジングとかで、色々研究が進んどるらしい」
「アンチエイジングは、エエですよねー。32から歳取りたくないわ」

「あと10歳、足し算でオネガイします」
「んで、甲状腺」

「そうそう。最近はT4,T3が正常でも、TSH濃度がちょっと高い高齢者は違うんよ。
潜在性甲状腺機能低下症として、甲状腺ホルモンを補充するとあら不思議!お立ち会い。
血清脂質、心機能、動脈硬化、精神活動なども改善するらしいアンチエイジング」

「3年に一度の、MIHIセンセのエエ話じゃないですか」
「んだから、高齢であっても積極的に治療をしたほうがエエって説がある」
「んでPさんに甲状腺ホルモン剤が出たか?なんで食塩止めて甲状腺ホルモン剤か?」

「んだから、Pさん。そのうちあんたより若返って、ピチピチお嬢になるかもオ。
昔あったやん、やせ薬に甲状腺ホルモンが練り込んであって。やたら食べても痩せる。
ホルモン増えすぎはビョーキやで。あの国製は毒ギョウザの前に、評判になったやろ」

「あたしも飲もうかしら、甲状腺ホルモン」
「フツーの人が飲むと、動きも甲状腺ハイになってアカン。特にあんたは暑苦し過ぎ」
「ホルモン焼きとか、ホルモン鍋じゃやっぱ痩せませんよねー。ウウ、悲しい」

アンチエイジング講座を開いた、当直明けの朝。

第865話 贈物遊戯感覚医師(ねたさがしはいかい)

「センセ、またやったんですってネ」
「そうなんよ、また。んで、どのまた?」
「VREの院内伝搬防止作戦を、ゲーム感覚で論文にしちゃったって」

「ワシのこと、カリスマゲーム感覚医師って呼んでね」
「カリスマの意味、ワカランッ!」
「エエとこに気がついたな、そうなんよカリスマ。元は何か知っとるか?」

「カリスマ美容師とか、言いますよね。あたしの美容師さんも、カリスマらしい」
「いくらカリスマでも、素材がなー。変わりようがないやろ。カリスマでもムリムリ」
「ウッセ。んで、元は?」

「カリスマとは贈物とか、下賜品が大元なんてよ。ワシが言うたんとはちゃう。
イザヤベンダサンの”日本人とユダヤ人”に書いてあったんや」
「たまには、ホントらしいこと言うんだ」

「たまにな。カリスマは間借りしてる居候とは。あ、さぶいオヤジギャグ言うな!か?
179頁真ん中辺り。角川ソフィア文庫\514。税別。ポイント5付き。念のため。
カリスマは才能とか努力は殆ど関係ないワケ・・・と思ったのはワシじゃけど」

「んで、VREもやっぱスコアで?んで点数出たら、誰にも文句言わせないんでしょ?
下駄履かすとか、赤点追試とかもやっぱ無いワケでしょ?」
「そらそ、評価するヤツによって点数も作戦も変わったらオカシイやろ」

「確かに、センセ言ってましたモンね。昔、マニュアル通りやってますって言ったら。
そのマニュアルがトンマでオカシイ、その上に主治医で対処が違うんもオカシイ。
クダランマニュアルは直ぐ変えろって、会議で吠えたんですってね。聞きましたよ」

「んでも、能あるブタが出す杭は打たれるで。んなら論文にするぞオ!じゃった」
「確かに、ゲームが論文になるんはけっこう凄いかも。んでも、やっぱヒマかも」
「んでも、日本語文献13・英語文献18読んだ」

「その辺りは感心しますわ。んでも、やっぱヒマだから」
「ネットで、わが社のホームページにたどり着いて。論文を読んで質問してきたモンなー。
北は北海道から、南は九州まで」

「北海道と福岡の病院から1件ずつでしたよね」
「ワシは、ウソは言わん。全部で2件じゃけど、北は北海道から南は九州まで。
ワシのお遊びが、注目も照明も浴びて。いきなり人気モンか」

「ワケ分かりませんけど、MRSAのスコアなんか誰が作ったかシラン人も居るし」
「伝説のカリスマゲーム感覚医師って褒めちぎってくれんと、自画自賛しちゃうかんネ」
「それがないと、感心の度合いが変わるのにイ。惜しい、残念、アホくさ」

「いま書いてるんで、ネタが尽きたと思ったら。出ちゃうなー、クックッ。んで次はッ」
「神さんか仏さんが、そんなミョーな感覚をMIHIセンセにプレゼントしたわけだ!」

カリスマゲーム感覚医師が、ネタを探して徘徊する午後。

第864話 助演男優不受賞(せんえんきふした)

「センセ、ちょっとご相談」
「あんたに似合う男は、オランッ」
「そんなんじゃなくて、それもあるけど」

「どうしたら三段腹が2段腹になるかなら、拙者が相談に乗ってしんぜよう」
「よろしく、オネガイします。んじゃなくて、映画」
「やっぱ、植木等の日本一の無責任男シリーズやね」

「古う、んじゃなくてエ。ナイチンゲール」
「あんたらとはゼンゼン違う世界の方やね。似ても似つかん、近寄っても3万キロ」
「彼女の映画で、募金」

「あ、エエよ。ワシ、論文集を読んで感動したんじゃ。その話入ってる?」
「多分、恐らく、きっと。そうあって欲しい、みたいな」
「どらどら、んじゃ\1000ね」

「あららー、太っ腹。メタボ腹」
「まだ出せってか?」
「イエ、一口\200って書いてあるのに」

「んじゃ、おつり\1200」
「余計にとって、どうするッ!手遅れですッ、一度手から離れたお札は返りません」
「鬼、人でなし、ブタのケツ。んで、まさかあんたが出演?」

「主人公の美白足長ナイチンゲールで?まさかでしょッ」
「そらそうやわなー。あんたが主人公じゃったら、全編お笑いやもんなー。
 戦場の堕天使暴れまくる、負傷兵笑い死に!みたいな」

「ちょ、ちょっと言い過ぎ。やってみたいけど」
「んで、ナイチンゲールにはやっぱお相手が居るやろ。恋というか愛というかの」
「監督じゃないけど、そうなって欲しいところですね。癒される」

「そう言う場合、キムタクやろなー。やっぱ相手は」
「エエですね−、そう来て欲しいところですワ」
「困ったな−。ワシのスケジュールはどうなってた?」

「\1000寄付したMIHIセンセが、キムタク似と偽って?ノーノー、バッドジョーク」
「あらら、違うん?」
「そんな映画、誰も見ないでしょッ!結果、出演依頼は来んでしょッ」

千円寄付したのに助演男優賞を取り損なった、午後。

第863話 油断不可外来

「センセ、処方オネガイしまーす」
「ハーイ」
「ギョギョッ、小気味悪い素直さ」

「ハイ、湿布が3Pで宜しかったですね。んで。あ、主任さんのね。診断は・・・と。
肩関節周囲炎と言うよりも、グフッ」
「ナンか、最後のグフッが気になるけど」

「あ、ゼンゼン気にしないでね。ゼッタイ病名欄見ないように、個人情報じゃから。
見たら、市中引き回しの上獄門サラシ顔だかんね。どんなことがあっても、ゼッタイ」
「それだけ、ゼッタイになんて言われると。フツーは見たくなるでしょ」

「フツーは、そうじゃね。見たいわな」
「あららー、五十肩。んだって、主任さんって30代」
「どうせ湿布持って帰るだけだから。分かるモンね」

「ハイハイ、知りませんからどうなっても。これが最後の1枚」
「んで、また処方箋ね」
「Gちゃん、あたしの湿布」

「MIHIセンセに頼んで、主任さんの分は書いていただきましたけど」
「書いたのがMIHIセンセってのが、引っかかるワケ。ちょっと受付へ」
「あのさ、ナンか処方箋が多くない(語尾上げで)」

「別にイ。あらら、まだ2枚あった」
「止まれッ!バックオーライ。ナンでヒマな3診の仕事を、1診へ持ってくるんじゃッ!
1枚でも1診の処方を3診に廻したら、ゾンビ顔を鬼瓦顔って誉めちゃる」

「んまっ、失礼な。楊貴妃顔がノリカ顔にってことで、オネガイします」
「油断ナンも、あったモンじゃないッ」
「手首の運動に、丁度エエでしょ」

「ナニが丁度エエじゃ。手首の運動するんなら、診察机をひっくり返すとか。
ボケナースが油断してたら、バズーカ一発ぶっ放すとか」
「ナニ言ってんだか、そんなヒマがあったら3診の処方箋3枚は」

「キャー、ナニこの病名。オカシイでしょッ、あたしまだアラサーよ」の遠吠え。
「ヤダねー、50まであと3ヶ月でアラサーだと。油断もナンも、あったモンじゃねーべ」

油断出来ない、外来。

第862話 侵入菌駆除い(ひまつぶせない)

「センセ、SOSウ」
「インカ帝国の危機か?」
「んじゃ、あたしはインカ帝国の姫?」

「イヤ、ただの貧民。落ち穂拾いを脅す、意地の悪ーい女」
「何とでも仰ってエエから、SOSウ」
「んで、何?」

「USB刺したら、真っ赤に」
「刺したのがUSBじゃなくて、千枚通しとか?」
「パソコンって、刺すと血イが出るんですウ?」

「出せって言われりゃ、屁でもゲップでも」
「Pちゃん、ヒマなセンセに付き合ってないで。治して貰わなきゃ」
「そうそう、この画面。USBがウイルスに感染してますって」

「そら感染しとるんやろ」
「それが、5病棟のパソコンはナンも言わないんで。ナゾ」
「ナゾじゃねーベ。簡単に言うと、穴の空いたマスクはウイルスが通過するワケ」

「マスクは、何処にしてるんですウ。パソコンの何処に、口が?耳が?」
「マスクはウイルス対策ソフトのことや。このパソコン、ネットに繋げて無いやろ?
ウイルス定義ファイルを更新せんと、新型ウイルスに気づかん。それ、マスクの穴」

「ますますワケワカラン。もうどうでもエエから治して下さい」の30分後。
「USBにフリーソフトで、あらよッと。ヘイ、便所コオロギと一緒に駆除」の5分後。
「あら、ウイルスは検知しませんになったわ。センセ、ウイルスをばらまいてる?」

「ワシは、それほどヒマやないッ」
「ヒマだから、治してくれたんでしょ?」
「そういう言い方もある。ヒマで悪かったなッ」

この程度じゃ暇つぶしにもならない、午後。

第861話新半X新半

「センセ。あたし朝はパンも食べたいし、ご飯も少々」
「そんなん簡単や、頼んでみよ」でステーション。
「あのさ、Dさんの朝ご飯じゃけど」

「パンとご飯が半々の話でしょ?ムリムリ」
「やってみないで、ムリムリは無いやろ。チューボーに聞いてみん?」
「我が儘でしょ、それって」

「あんたでも、ビールと日本酒。その上焼酎にウイスキー、クイクイ一緒に行くやろ」
「ハイ時々、んで朝起きて鏡見たら顔なんか自分じゃ無いほど浮腫んじゃって」
「自分を知らんやっちゃ。昨日の晩は酒盛り、ビショビショ酒浸り?」

「ハイ、ボコボコ浮腫・・・両親が遊びに来たんで、一滴も飲んでませんッ」
「見栄を張るんじゃないッ!どーせ、ませガキがチクって小遣い稼ぎしとるで」
「そんで、見たこと無いゲームを3つも持ってたんだ」

「んで、パンとご飯。半々でエエ?トーストにホカホカご飯を、ジャム代わりみたいな」
「ムリムリ、しかも殿粉バッカ」
「何でや。神さんも仏さんも、そんなあんたを許しとるで」

「たまにバチが・・・」
「螺旋根性でちょっと見ると新半X新半みたいなヤツでも、仕方なく生かしとる」
「ちょちょッ、螺旋根性はある程度納得。その新半って?」

「あ、スマン。つい学識が耳から溢れた。新半を英語で?ハイッ、どーぞ」
「ニュー・ハー・・・の2乗。んじゃ、じっと見たら?」
「産毛が濃い鬼嫁なんて、言えるかッ!」

「キャー、脱毛しよッ」
「パンとご飯は、エエとして。新半はどこまで行っても新半、フツーの世界はムリムリ」

ビールでもハーフアンドハーフがあるのに、パンアンドご飯は何故アカン?と悩む午後。

第860話 殿はエエんでチュ

「ちょっと病棟へ行ってきてもエエ?」
「ケータイ、大丈夫でしょうね?」
「持ってる、ポッケに」

「持ってるだけじゃ、アカンでしょ。電源とかは?」
「スイッチはある」
「入れてるかどうかですッ」

「クリカラモンモンを?」
「ナンですか、それ?」
「はっきり言えば、皮膚に牡丹とか虎とか龍の模様を刻んで」

「ケータイが痛いでしょッ。んじゃなくてエ、電源を入れてるかどうかですッ」
「またまた、笑っちゃいますねー。相変わらずで」
「あ、センセ。いらしたんですか」

「んじゃ、私もちょっと病棟へ」殿(院長センセ)。
「ハーイ、行ってらっしゃいませ」
「ナンか違うなー、待遇が」

「エエんです、それで。あ、伝言忘れてた。んーと・・・あらら、電波が届かない?」
「殿は、地球の裏側の病棟やろ」
「んなはずは・・・あらら、センセのケータイ。スイッチが・・・」

「殿はエエんでチュね?んじゃ、ワシもエエんでチュね?」
「ダメですッ、特にMIHIセンセは。早くお帰りをー」
「ふあーい」でステーション、カルテを書いていると。

「Yさん、明日退院ですよね。退院時処方は、書いてもらった?院長センセに」
「あー、忘れてましたア。んでも、センセは午後はお出かけ(語尾上げで)」
「ハイハイ」

「ナンですか、太い親指をピコピコ伸ばしたり丸めたり。親指でハナクソ飛ばしたら」
「これが親指かッ、小指・・・んじゃなかった人差し指ッ」
「その心は?あ、退院時処方をMIHIセンセが代理で書く。ウソでしょー、ヤダー。
あんなに手書き処方箋を嫌ってんのに、しかも7種類もあるのにイー」

「エエんでチュ、殿は別格。カリントウは、別腹でチュ」
「ところで、そのなになにでチュのチュは。あたしら孫扱い?みたいな」
「アホ言え、孫のサンダルのゴミにも及ばんッ。と、殿に代わって手打ちにいたす」
「あーあ、ますます暑苦しくなってきたわ。この処方箋、Bセンセに頼もうっと」

殿の代理にもなれなかった、午後。

第859話 悩額隠回診(ほたるいか)

「センセ、今ちょっとエエですか?」
「イヤだけど、エエよ。何?イヤだけど」
「しつこい!んで、この間の患者さんの治療で悩んでたでしょ?Vさん」

「ワシって悩みやすい体質っつーか、悩み多き年頃っつーか。ハア、悩むね実際のとこ」
「ゼンゼン、そうは見えませんけど」
「能ある鷹は爪を隠す、悩み多きMIHIセンセは外痔核を隠すって言うやろ」

「相変わらずですけど。んで、あたし何を聞きたかったんだっけ?」
「実際は43なのに、80に見えるのは何でやろ?みたいな」
「ウウ、あたしまだ42歳と11ヶ月なのに。ウウウ・・・ナゼ故80。あら?ナンの話」

「人は見かけによらんって言う、ツマラン話やないの?」
「そんな話してましたア、ナンか患者さんのことじゃったような」
「そう言えば、さっきVさんの名前が出てたみたいな」

「そうそう。点滴すると右に良くて、点滴しないと左に良いって。どう言うこと?」
「点滴すると右翼が喜び、点滴しないと左翼が喜ぶこと?政治問題は奥が深い」
「Qちゃん、ダメ本気にしちゃ。MIHIセンセのデコチンが光ってるから、ジョーダンよ」

「ワシは、闇海にキラキラのホタル烏賊かッ!」
「それに近いような、遠くないような。脳みそちょろっとで、体の殆ど胃袋みたいな」
「まあ、簡単に言うと右心不全と左心不全じゃ治療が真反対のことがあって悩むんよ」

「ホウホウ、んじゃ治療出来ないじゃないですか」
「まあ、例外も3857あるから。エエ」
「1つの治療に例外が3857もあったら、悩むでしょ?」

「んで、悩んでたワケよ」
「胡散臭くない(語尾上げで)」
「これホントだかんね。信じる者は救われる、疑う者は野壺へ真っ逆さま」
「Qちゃん、MIHIセンセのデコチン光ってるわよ」

悩みと額を隠してラウンドする蛍烏賊の、午後。

第858話 死んでない、悩んどるッ

「寝てんのやろか?」
「ま、まさか死んでるとか?」
「んでも、時々鼻毛が揺れてるから。息はしてるみたいよ、残念やけど」

「イジくそ悪いから、寝たふりして。ホントは、とん死してるとか」
「突っついてみようか?」
「それよか、トンカチでガツンと3,4発」

「千枚通しで、メタボ腹ブツッとか。風船がパンッて割れるみたいに、はじけたりして」
「息を吹き返して、暴れたら恐いし。箒の柄でツンツンやった後の方が、エエんちゃう」
「いっそ頭を冷やしてと言うことで、消毒用アルコールを頭からビシャビシャに」

「バイキンと一緒に、あの世へ逝ったりして」
「んなら、ついでに火を付けて綺麗さっぱりとか」
「練習で、白衣の袖を焦がしてみるとか」

「あ、ナンか死臭?」
「寝屁ってあるけど、死屁ってあるん?」
「あたし、死んだこと無いから」

「全身の力が抜けた時に、コーモン括約筋も緩んで。ガスが出るってことは?」
ピロピロリーン
「ハイ、MIHIでーす。あ、それね。1400キロカロリーで行っちゃって」
「なんだセンセ、生きてんだ。ツマラン」

「黙って聞いてりゃ、好きなこと言うてくれるやないの」
「何してたんですウ、はしゃぎ廻って五月蠅いセンセが。5分間も黙っちゃって。
あたし、死んでるかと期待しちゃったわ」

「スマンのー、生きとって。座って、佇んで。悩んでたッ」
「センセでも、悩むことって有るんだ。まさか、何故キムタク似なのか?なんてギャグ」
「それもある、んがしかし。違うんだなー。あ、ブラピ似で悩んだワケでもない」

「不埒な悪行三昧。んで、何を悩んで?」
「あのさ。川の下流をせき止めたら、上流はどうなる?」
「オケラが大笑いしますねー、そう言う場合」

「確かに発想の転換はエエけど、惜しいなー。フツーは、上流に水が溢れるやろ?」
「オチは?」
「オチは無いッ。んだから悩んでんじゃッ」

「オチで?」
「んじゃなくてエ、黄疸のDさん。石も感染もなくて、膵頭部癌もない。
白くなくて黄色いウンチはずーっと出てる、黄疸もずーっと続く。もち、貧血無し」

「フムフム」
「かと言って肝内胆管も拡張していない、総胆管の出口付近はワカランけど。
血液検査は肝炎って言うほど異常がないし、エコーもCTもやったけど決め手がない」

「んでも、この1週間は黄疸が進んでないでしょッ」
「それも悩むんよ、大したことしてないのに」
「それがエエんじゃ?」
「悩むなー、ナンでワシってキムタク似?ブラピでもエエけど」

悩みながら睡魔と仲良しになる、午後。

第857話 ヒールでDNAR

「センセ。今度、勉強会をするんですけど」
「よー、勉強するねー。たまには脳みそ使わんと、ウジが湧くか?」
「センセみたいに、要らんとこに使いまくると。すり切れて新品同様、ピッカピカ」

「溝が消えて、すっきりツルツル。なーんも考えられん。何でやッ!」
「やっぱ、相談した相手がイカンじゃった。出直し、仕切り直し」
「はっけよい、残ったか?あんたなら似合うワ、マワシ」

「んじゃ、そう言うことで」
「コラコラ。言いかけて止められると、出かかった屁をいきなり止められたような。
すっごく気分悪リイで、実際のとこ。んで、勉強会っちゃナンの?足し算?引き算?」

「あたしらは、小学一年生ですかッ」
「アホ言え、それほど可愛くないッ!んじゃ、やっぱ平仮名か?カタカナか?」
「ハイ。アの次はホでしたね」

「んで、ナンの勉強?」
「DNARをどう捉えるか?の」
「そらエエ、ワシも参加してエエ?いやゼッタイするッ!」

「その点で、悩んでます。センセが参加せんように、開催日をどう誤魔化すか」
「なーんも悩まんでエエ、どうせ悩むんだったら4段腹・・・」
「そっちは、とっくに諦めて。食べ放題、飲み放題、段差増え放題」

「ま、まさかDNARっちゃ。ダイエット・ネバー・アンタ・リバウンドの頭文字取った?
どうしたらMIHIセンセみたいに、ダイエットしてもリバウンドが来ないのか?
何故、それ程までにキムタク似?はたまた、フレッド・アステア似」

「あらら、パターンが変わった。んで、あたし知ってるんですよ。何故か。
映画好きのひいばあちゃんが言ってました。アステアって俳優、ダンサー、歌手の?
渋くて格好良くて、痺れまくりだったって。センセは、ムリムリ」

「んで、DNAR(命が尽きそうな時に、無理矢理蘇生しない事)」
「そうそう、DNAR」
「ディベートしようや。ワシ一人に、みんな相手で」

「棒やトンカチ持って?」
「言葉ッ、口ッ!ワシが、ヒールに徹するから」
「キャー、みょーな趣味!ハイヒール履くなんて」

「コラコラ、ヒールっちゃ悪役のことやで」
「んじゃ、まんま!地で行ける。流石だわ、ヒールが似合うのはセンセだけッ」

ヒールするならかぶり物がお約束だけど、役作りに悩む午後。

第856話 医者毒駆除(よもぎで)

「センセ、作り方知ってますウ」
「爪楊枝で松葉杖の作り方とか、カバのヒゲで箒の作り方とか?」
「ヨモギの」

「そんなん簡単や、ユンボでどこぞの土手をガリガリやって庭へポイッ。
春になったら、ヨモギの1本くらい生えて来るやろ。楽勝やで」
「ユンボは?」

「それは、ヤンパーとかヨツビシ重工(語尾上げで)」
「んじゃなくて、ローション」
「ザラザラやモンなー、鮫肌を通り越しておろし金肌やね。あんたの肌、どうよ」

「あたしが塗るんじゃなくて、Pさん」
「Pさんは、ブレパール出しとるやろ。ワシが処方箋」
「ダメなんですって、あれじゃ。んで、ヨモギ」

「ナゼ故、ヨモギ?」
「医者と看護師がいつも持ってくる毒には、ヨモギが効くらしい」
「確かに、看護師はよー毒を盛るからナー。恐い恐い、その点ワシは人畜無害」

ちょ、ちょっと待ったア。毒を盛るから、ドクターって言うんでしょッ」
「サブう。んで、ヨモギをサラダに?」
「イエ、ローションに」

「毒を出すのに、塗るんか?大腸菌を、タコの吸い出しで抜き取るみたいな?」
「ハイ。ちゅ、ちゅーっと」
「吸い出した毒は?」

「センセに返します。倍にして」
「ワシが毒にやられたら、どうしてくれるんや」
「フグは、自分の毒にはやられんでしょッ!」

「自分の毒にやられたら、ワシはフグ以下かッ!」
「そういう時も、ヨモギですッ!ベタベタ、全身に塗ってさし上げます」

ナースの毒にやられた、午後。

第856話 医者毒駆除(よもぎで)

「センセ、作り方知ってますウ」
「爪楊枝で松葉杖の作り方とか、カバのヒゲで箒の作り方とか?」
「ヨモギの」

「そんなん簡単や、ユンボでどこぞの土手をガリガリやって庭へポイッ。
春になったら、ヨモギの1本くらい生えて来るやろ。楽勝やで」
「ユンボは?」

「それは、ヤンパーとかヨツビシ重工(語尾上げで)」
「んじゃなくて、ローション」
「ザラザラやモンなー、鮫肌を通り越しておろし金肌やね。あんたの肌、どうよ」

「あたしが塗るんじゃなくて、Pさん」
「Pさんは、ブレパール出しとるやろ。ワシが処方箋」
「ダメなんですって、あれじゃ。んで、ヨモギ」

「ナゼ故、ヨモギ?」
「医者と看護師がいつも持ってくる毒には、ヨモギが効くらしい」
「確かに、看護師はよー毒を盛るからナー。恐い恐い、その点ワシは人畜無害」

ちょ、ちょっと待ったア。毒を盛るから、ドクターって言うんでしょッ」
「サブう。んで、ヨモギをサラダに?」
「イエ、ローションに」

「毒を出すのに、塗るんか?大腸菌を、タコの吸い出しで抜き取るみたいな?」
「ハイ。ちゅ、ちゅーっと」
「吸い出した毒は?」

「センセに返します。倍にして」
「ワシが毒にやられたら、どうしてくれるんや」
「フグは、自分の毒にはやられんでしょッ!」

「自分の毒にやられたら、ワシはフグ以下かッ!」
「そういう時も、ヨモギですッ!ベタベタ、全身に塗ってさし上げます」

ナースの毒にやられた、午後。

第855話 病棟で臭う

「最近の病棟は、あんまり臭わんねー」
「確かに、この病棟ならあたしの美臭が薫る(語尾上げで)」
「加齢臭とか、死臭の話やないで」

「カレーを食べた、歯周病(語尾上げで)」
「サブいのは無視して、昔って言っても30年前やけど」
「あたし、生まれてません。シーラカンスが、池に居た頃でしょ?」

「ナンとでも言いなさい。大学院生は給料出んから、日々の糧は当直じゃったなー。
先輩の老人病院なんか、結構ワシって人気があってな。来い来いって」
「入院で?」

「んで、土曜の午後から行くワケよ」
「入院で?」
「スマンが、入院の話は控えてね」

「白衣持って行かなくてもエエんじゃけど、つい勢いで持って行くワケ。
玄関入ると外来は終わってても消毒液の臭い。カーテン閉じた受付に、スイマセーン」
「入院の方は、こちらになりますウ」

「病棟奥の当直室に案内されて、途中はアンモニアの臭いプンプン」
「こちらがお部屋です、3383号室になりますウ。パジャマに着替えていただきますウ」
「当直室ッ。明けの月曜日には、白衣にアンモニアの臭いちょろり染みついて」

「やっぱ、ソソウで?」
「んで、医局へ帰ってきたら。週末は**病院当直じゃッたか?とか言われて」
「イエ。退院じゃなくて、脱走」

「それから10年もセンうちに色んな施設が出来て、勉強会があって臭いも減ったね」
「その様ですわね。臭いと言えば、これ。この間、センセに教えて貰ったローション。
タオルに振りかけて干してみたんですけど、複雑な臭いでしょ?」

「どらどら、フーン。なんて言うかなー、この臭い・・・」
「青いというか、草原というか。でしょ?」
「干した青虫をすり鉢でスリスリ、青汁で溶いて鼻の下に塗ったのを舐めたみたいな」

「ホウホウ、言ってくれるじゃないですか。青虫を2,3匹捕まえて来ますんで。
センセにご馳走しましょ、ベロベロ舐めてみましょうね」
「ワシ、そう言う趣味無い」

「ヨモギとハーブを乾燥させて、アルコールで溶いたローション。イメージ最悪ウ」
「臭いは、最初だけ我慢すると慣れるらしい」
「んじゃ一番はセンセ。大丈夫だから、心配しなくて。ねっ、センセ」

病棟の臭い談義、ほとぼりが冷めるには1週間はかかりそうな午後。

第854話 博士じゃ得しないッ

「センセ、噂じゃ博士なんですって?」
「だ、誰が頭に濁点付けるかッ!」
「濁点って?あ、バカせ?キャハ、やっぱねー。そうじゃろと思った」

「あ、落とした。拾ってくれん、その名刺」
「何をわざとらしい。あらら、蝶ネクタイでミョーなとっちゃん坊やの写真。
おろろ、医学博士じゃないですか。なんてこったい。誤字脱字、印刷ミス?」

「とうとう気がついてしまったか、ある時はメタボの紳士。またある時はキムタク似ジイ。
しこうしてその実体は、何を隠そう。仮面の忍者、緑亀虎次郎。ただ今参上」
「全部隠しちゃって下さいませ。ずっぽり、すっきり、すっかり」

「んで。ワシが博士じゃったら、こないだスーパーで会った駄犬がニャーと啼くか?」
「ブヒッなら、しょっちゅう啼いて・・・。あれは、メタボ息子ッ!」
「あんた、腕上げたなー」

「センセに、365日鍛えられてますから」
「んで、夏目漱石」
「な、ナンですか。唐突に」

「彼は文部省から博士号を授けるって言われて、断ったらしい」
「貰えるモンならナンでもOKな人です、私。特に、お金が副賞ならなおのこと」
「理由は自分の学問を役人が評価するなんて、てやんでぃジョーダンじゃねーぜってな」

「彼って江戸っ子?」
「そら知らんけど、東京帝大教授の席も断ったらしい。同じ理由で」
「空いてる席なら、バスでも電車でも断らない私。んでセンセ、博士でナンか得した?」

そう言われて、博士で得したことを1つも思いつかなかった午後。

第853話 代理噂(ちくり)

「センセ、施設Dのラウンド。サボってないでしょうね」
「サボってはないんじゃけど・・・なんつーか」
「こらまた煮え切らない、はっきり言えばエエッしょ。くっきり、はっきり。キレずに」

「入り口に立った途端に、帰りたくなるんよ。何でやろ」
「仕事がしたくないとか、涼しい医局でまったりコーヒー啜りたいとか。ダメですよ」
「ワシのと、ナンか違うんだよなー」

「んじゃ。あんまり居心地がエくて、そのまま住み着いたら困るから入りにくいとか?」
「それも、ワシのと違うなー」
「んじゃ、あたしがMIHIセンセの弱点をスタッフにチクったのに気づいたとか」

「確かに、スタッフの中でワシ以上にイケメンは居らん」
「意味ワカラン。自画自賛が酷いって、チクっただけ。あと2、3個付け足し」
「まあ、なんなと言うとくれ。ワシもあんたの秘密や弱点を、尾ひれに羽織袴を着けて」

「ちょ、ちょっと。何を言ったんですか、克明に327字で述べよ」
「なに、大したことは。水戸様の締まりが悪い上に、音が無い分臭いがきついとか」
「止めて下さいよ。あたしって、へそくりとオナラは人前で出したことがない人」

「それを言うなら、黄色い羽募金袋に拾った5円玉を入れる人(語尾上げで)」
「黄色い羽募金って、何処の町内会ですか?しかし、何ででしょうねー。
もしかして、単に靴を履き替えるのが面倒だとか」

「それって大きなヒントやね、近いかもオ」
「もう1つ、質問です。スリッパは関係しますか?」
「ナイス・クエスチョンッ!」

「スリッパに、メタボ足が入りきらない!」
「一気に遠くなりましたけど、宜しかったでしょうかア」
「あんまり綺麗で、ゼンブ持って帰りたくなる?」

「そう、それそれ。すんごく近づいた」
「ワカランですねー。まあ、大した理由とは思えんけど」

「汚いんで履く気になれんワケ。ラックに刺さってるスリッパ、ゼンブ裏が真っ黒。
きちゃねーのなんのって。せっかく掃除したフロアーに、ヨゴレを擦り付けるみたいな。
だからと言ってスリッパ履かなかったら、ワシのソックスで掃除してるみたいな」

「細かい、細かい。小さい、小さい。MIHIセンセ、そのまんま」
「んじゃ、言うてよ。1年に2,3回でエエから、雑巾でスリッパの裏を拭いてねって」
「ナンであたしが?気づいたセンセが、その場で言えば済むことでしょッ」

「ワシ、気が小さくて。よー、言わん」
「ナニ言ってんですか。それは、会議で言うんの1/337以下でしょッ」
「ワシ、スタッフには良い人でいたいから。その点、あんたは捨てるモン無いしイ」

「イヤですよ、センセの代理でチクるのは」
「代理チクリやらせたら、あんた日本一。イヤ、宇宙一かもオ」
「そんな一番、嬉しくも何ともないですッ!」

「代理母があるくらいじゃから、代理チクリ婦長が居ってもエエやろ」
「意味不明。あたしだって、スタッフには良い婦長でいたいですモン」
「世間の評価を気にするなんて、婦長もまだまだ修行が足りんな!」

代理で噂を拡散するのはチクリの、午後。

第852話 病室からの叫び

「おっはよー」
「あらら、今日は珍しくちょい遅の迷惑回診なんですね」
「まあね、時間差回診みたいな。はたまた、ネコ騙し回診みたいな」

「ヘエ−、そうなんだ。意味ワカランけど」で3587号室へ消える、元気満帆ナースR。
いきなり聞こえるのは、「お前は、穀潰しイー」とは穏やかじゃない叫び。
思ってもナースRにあそこまで言うのは、勇気と言うよりは完全無防備か無謀極まりなく。

「撃てエ、心臓めがけて撃てー」で、何やら穏やかならん事になってきた。
ほふく前進でにじり寄るしかあるまいと思いつつ、耳介をパラボラ風に広げて聴力アップ。
しかしやるモンじゃ有るなー、師匠と仰いで修行を積むしか有るまいとつくづく思う。

「イヤー、ホント参りました。異常に早起きで、声の張りも絶好調だし。
あれなんて言うんですかね−、ダイコン・ジョウヒってんでしょ?」帰還して一言のR。
「そら、白いけど硬い皮膚してんだナ。うん。おろし金で、すり下ろして」

「それって大根おろしでしょ、いり胡麻と削り節パラパラが香ばしい。
生醤油タラリ7mlは、シラス干しにオネガイします。んで、何の話?
あ、ダイコンとジョウヒ・・・んじゃなくてエ」

「あのさ、それ男尊女卑。あの人と、お近づきにならせて貰ってエエやろか?」
「そらエエんじゃないですか、似たもの同士で」
「感謝感激雨あられ集中豪雨ザンザン、お早うございまーす」

「だ、誰じゃッ。ここは病院やぞ、お前らの来るところではないッ」
「こう見えても、一応は医者やってまーす」
「誰が、石頭やっとる?」

「イヤイヤ、奥が深いわ。突っ込みとボケの勉強になるなー、流石やなー」
「コラ、そこの」
「あ、ボクでしょうか?ハイ、ナニか」

「玉砕覚悟で、突撃しなさい。1億総火の玉、突撃イー」
「ハイッ、では失礼して。突撃イー、撤収ウー」

病室からの叫びはフツーが良い、朝。

第851話 少々定義主張(ぼけつほる)

「センセ、ちょっと聞いてエエですか?」
「ちょっとって、ケアワーカーR君の定義じゃどうなんよ?」
「て、定義ですかア。そんな大げさなモンじゃなく」

「確かに。ちょっととは、大げさなモンじゃないワケ」
「ナンか猛暑の頭の上に、火のついたガソリンを振りまいて激暑が降り注いだ感じ。
大したことを聞きたいワケじゃなく、些細なことですよ」

「確かに。ちょっととは、大したことじゃないのも些細なことも事実」
「止めておきますわ、急に聞きたくなくなっちゃって」

「コラコラ、ここが一番重要なところやデ。言いかけて止められると、気分が悪りイ。
屁とかクシャミを出しかけて、大きなゲップでゼンブ止まっちゃったみたいな」

「分かる、それッ。クシャミよりは、屁・・・んじゃなくて。センセのブログ」
「いつか出版しようとしてるヤツやな。ベストセラーになったらどうするか聞きたい?
あ、邪魔くさいから黙ってろ!んで?」

「この間書いてたP主任さんって、ホントはK主任さんで。ナースYは、ホントはAで。
介護士Qは、Bで。医者のGは、Dセンセ。院長センセは、院長センセで。
そう考えると、ゼンゼン当てはまっちゃうけど。ゼッタイそうでしょ?」

「アホ言え。ブログの最初に、ちゃんとフィクションですって書いてるで。
しかも、個人を特定出来てもゼッタイ違うってしつこく書いてあるやろ」
「そのしつこさが怪しい」

「あんたやろ、殿にMIHIセンセが病院の裏話を暴露しまくってるってチクったのは」
「そんなヒマじゃないですよ、ボク」
「もうちょっとで、切腹せなアカンじゃったで。ふぃー、アブねえ」

「惜しかった、思い切ってメタボ腹をかっさばけばエかったのに」
「それじゃナニか、ワシが獄門さらし首になったら豆大福供えるんか?」
「石投げます。大きいの7個」

「スマン、当たったら痛いから小さいのにしてね。しかも、後ろ向きでオネガイします」
「それじゃ誰だか分かんないでしょッ、MIHIセンセって特定出来るところがエエんです」

「他にも、ワシを特定する方法ってあるやろ?」
「首から上でですかア。んーと・・・。あ、後頭部の毛が薄いところかな?」
「スマンが、もうちょっとエエのにしてくれん?」

「もうちょっとの定義からすれば、つむじが中心から3.7cmずれてるとか。
右1/3がテンパーで、残りが猫毛と白髪のミックスみたいな。
それって、大げさじゃなくて、大したことじゃなくて、些細なこと。定義通りですね」

少々の定義差を言い張って墓穴を掘る、午後。

第850話 拾耳聞(ふつー)

「センセ、オネガイがあるんですけどオ」
「ダメッ・イヤッ・止めてー。で、一応押さえておいて。んで、何?」
「今の一言で、35倍暑苦しくなったわ。んで、書いて欲しい処方箋。1枚だけ」

「なんや、そんなことかいな。貴方のためなら、たとえ診察室でも屁の3発」
「それまでッ!ゴジャゴジャ言わずに、ハイこれ」
「んーと、1から3を14日分ね」

「あー、ダメなんですウ。1と2は、他のセンセがこの間使っちゃったから。
1−3使いたかったらゼンブ書き直しイ」
「あのな、誰の許しを得て1と2を使ったんじゃ。責任者出てこいッ」

「それって、院長センセですけどオ」
「あ、殿ね。殿とあらば致し方有るまい。殿の1と2をAとBに書き換えてと」
「それはダメです。1と2はコンピュータに登録してますから」

「そのコンピューターにマグネット30個、スリスリ」
「アホなこと言わないッ」
「何であそこまで、手エ抜きたがるかねー」ヒソヒソ。

「手を抜いてんじゃなくて、か細い指が疲労骨折(語尾上げで)」
「耳だけは良いんだ、どんな耳してんやろ?」
「数字の3を、上下斜めに軽く引っ張った感じ(語尾上げで)」

「要らん事を言う間に、処方箋の1枚なんか直ぐでしょッ。とっとと。あ、書いた!」
「んじゃ、Pさあーん。どうぞオー」
「あたしが1番なのに、呼ばれるまで時間がかかった」

「スマンスマン、ナースに虐められとったんよ。ウウウ・・・」
「センセでも、イジメに会うんじゃ」
「あ、Pさん。そんなこと無いんよ、ジョーダンなんじゃから」フンッのナースG。

「んでもワシの目、涙ぐんでない?」
「ゼンゼン、すっかり乾いとるが」
「あらま、んじゃ診察しよか。痛たた、誰じゃワシの耳に千枚通しを突っ込むのは」

「ちょっと左右のバランスがオカシイけど、突っ込んでるのはふつーですよ」
「テテテ、ホンマかいな。あ、聴診器の先ッちょ耳栓みたいなヤツが1個無いで。
あー、何かうっすら血イもついてる。貧血になりそう、休診(語尾上げで)」

「そんなん、唾でペッペッで充分。何ならあたしが」
「耳の穴が腐るウ、見逃しチくれー。おーい、聴診器の耳何処へ行ったんやー」
スペアの聴診器で外来が終了して、医局へ引き返すと3分後に外来呼び出し電話。

「あら、センセ。似たような聴診器ですね」
「うんにゃ、これさっきの」
「でも使うと、血イ出るんでしょ?」

「耳、拾った。廊下で」
「拾った耳って、どんな?」
「カドが取れて丸くなった、フジツボみたいな。転がってた耳」

「んじゃ、あと5人は外来出来そうですね」
「ホエ?急にあんたの声が、風呂の中で屁出したみたいな。いま何て言うた?」
「まあまあ、素晴らしく都合の良い耳を拾われたんですこと」

拾った耳で聞くBBC放送CDはフツーの、昼休み。

第851話 少々定義(かおす)

「センセ、ちょっと聞いてエエですか?」
「ちょっとって、ケアワーカーR君の定義じゃどうなんよ?」
「て、定義ですかア。そんな大げさなモンじゃなく」

「確かに。ちょっととは、大げさなモンじゃないワケネ。具体的に?」
「猛暑の炎天下、頭の上からガソリンを振りまいて着火した(語尾上げで)」
「なんじゃ、その程度の事を聞きたいんだ。ほんの些細な(語尾上げで)」

「突然、聞きたくなくなった」
「コラコラ、ここが一番重要なところや。言いかけて止められると、気分が悪りイ。
屁とかクシャミを出しかけて、他人の大きなゲップでゼンブ止まっちゃったみたいな」

「分かる、それッ。クシャミよりは、屁・・・んじゃなくて。センセのブログ」
「いつか出版しようとしてるヤツやな。ベストセラーになったらどうするか聞きたい?
&あ、邪魔くさいから黙ってろ!んで、ナンかインネンをぶちかます?」

「んじゃなくて。この間のP主任さんって、ホントはK主任さんで。
ナースYは、ホントはAで。介護士Qは、Bで。医者のGは、Dセンセ。
そう考えると、ゼンゼン当てはまっちゃうけど。ゼッタイそうでしょ?」

「アホ言え。ブログの最初に、ちゃんとフィクションですっ!て書いてる。
しかも、個人を特定出来ても。ゼッタイ違うって、しつこく書いてあるやろ」
「そのしつこさが怪しい」

「あんたやろ、殿にMIHIセンセが病院の裏話を暴露しまくってるってチクったのは」
「そんなヒマじゃないですよ、ボク」
「もうちょっとで、切腹せなアカンじゃった」

「惜しかった、思い切ってメタボ腹をかっさばけばエかったのに」
「それじゃナニか、ワシが獄門さらし首になったら豆大福供えるんか?」
「石投げます。大きいの7個」

「スマン、石は小粒にしてね。本気で、狙わないように」
「センセをピンポイント」
「どうしても、ワシを狙ってんのね?少々外すっつーワケには?」
「少々の定義からすれば、ずらして2cm(語尾上げで)」

少々の定義がカオスの、午後。

第850話 拾耳聞(ふつー)

「センセ、オネガイがあるんですけどオ」
「ダメッ・イヤッ・止めてーと、一応押さえておいて。んで、何?」
「今の一言で、35倍暑苦しくなったわ。んで、書いて欲しい処方箋。1枚だけ」

「なんや、そんなことかいな。貴方のためなら、たとえ診察室でも屁の3発」
「それまでッ!ハイこれ」
「んーと、番号の1から3を14日分ね」

「あー、ダメー。数字の1と2は、他のセンセがこの間使っちゃったから。
残念なお知らせ、ゼンブ書き直しイ」
「あのな、誰の許しを得て数字の1と2を使ったんじゃ。責任者出てこいッ」

「それって、院長センセですけど」
「あ、殿ね。殿とあらば致し方有るまい。殿の1と2をAとBに書き換えてと」
「それはダメです。数字の1と2はコンピュータに登録してますから」

「そのコンピューターにマグネット30個、スリスリ。データ破壊」
「アホなこと言わないッ」
「何であそこまで、手エ抜きたがるかねー」ヒソヒソ。

「手を抜いてんじゃなくて、か細い指が疲労骨折(語尾上げで)」
「耳だけは良いんだ、どんな耳してんやろ?」
「数字の3を、上下斜めに軽く引っ張った(語尾上げで)」

「要らん事を言う間に、処方箋の1枚なんか直ぐでしょッ。とっとと。あ、書いた!」
「んじゃ、Pさあーん。どうぞオー」
「あたしが1番なのに、呼ばれるまで時間がかかった」

「スマンスマン、ナースに虐められとったんよ。ウウウ・・・」
「センセでも、イジメに会うんじゃ」
「あ、Pさん。そんなこと無いんよ、ジョーダンなんじゃから」

「んでもワシの目、涙ぐんでない?」
「ゼンゼン、すっかり乾いとるが」
「あらま、んじゃ診察しよか。痛たた、誰じゃワシの耳に千枚通しを突っ込むのは」

「ちょっと左右のバランスがオカシイけど、突っ込んでるのはふつーですよ」
「テテテ、ホンマかいな。あ、聴診器の先ッちょ耳栓みたいなヤツが1個無いで。
あー、何かうっすら血イもついてる。貧血になりそう、休診(語尾上げで)」

「そんなん、唾でペッペッで充分。何ならあたしが」
「耳の穴が腐るウ、見逃しチくれー。おーい、聴診器の耳何処へ行ったんやー」
スペアの聴診器で外来が終了して、医局へ引き返すと3分後に外来呼び出し電話。

「あら、センセ。似たような聴診器ですね」
「うんにゃ、これさっきの」
「でも使うと、血イ出るんでしょ?」

「耳、拾った。廊下で」
「拾った耳って、どんな?」
「カドが取れて丸くなった、フジツボみたいなんが1つ転がってた耳」

「んじゃ、あと5人は外来出来そうですね」
「ホエ?急にあんたの声が風呂の中で屁出したみたいな音に、いま何て言うた?」
「まあまあ、素晴らしく都合の良い耳を拾われたんですこと」

拾った耳で聞くBBC放送CDはフツーの、昼休み。

第849話 粋差行(ちがい)

「いきなK塀エ、見越の松にイっと」
「あらま、センセ。絶好調、懐かしい」
「ワシが5,6歳ぐらいの時の、テーマソング。意味分からんかったけど」

「昭和29年でしたかねー、あたしセンセより9つ若いから。母親のお腹の中で聞いた」
「コラコラ、9つ若くて何でワシと同じ丑年。イワシ読むなッ!誤魔化すなッ!」
「クジラ読んだの、ばれました?」

「コラコラ、そこの二人。読み方が違うでしょッ」
「ま、冗談はさておいてと、Pさん転院したワケね」
「ハイ、Q施設へ。あそこって凄いんですよ」

「スタッフにキョンシーとか、モモンガが混じってるとか?」
「化け物と野獣シリーズですかッ、違いますよ。処方です、処方」
「1日33種類処方されて、腹が張るからそれ系の薬がさらに27種類出るとか?」

「死んじゃいます、本気で飲んだら。んじゃなくて、退院時処方を4週間分出せって」
「アホ言え。何処のオバカが、そんな寝ぼけたこと言うんじゃ」
「あっちのナースが」

「んじゃねーべ、医者が言わしてんや。ヤダねー、せこいねー、野暮天だねー」
「その最後の野暮天って、何かの天ぷら?エビ天みたいな」

「神ならば出雲の国に行くべきに目白で開帳やぼの天神。なんて狂歌師が詠んだそうな。
他の神さんは出雲へ行って神無月になるのに、谷保天満宮はその月に目白に来たから。
何と野暮=谷保な天神さんで、野暮天の語源になったらしい。byネット」

「神さんも、とぼけるんだ!」
「そうかと思ったら、”野夫”の音変化。フツーの粋客で、世態に通じない。
人情がワカラン、”野人田夫”とも」

「ワケワカランというところで、野暮なんですね。センセも」
「アホ言え、ワシは野暮の対極にある”粋(いき)”を目指して、日夜特訓中や」
「その”いき”って、結局は何ですか?」

「ある見方では、いきとは”垢抜け・張り・色っぽい”みたいな」
「まるでセンセじゃないですか。垢まみれで・メタボ腹が張ってて・エロっぽい」
「ナンか違うような気がするけど・・・」

何処か”いき”違いがある、午後。
(参考;「いき」の構造、九鬼周造著、岩波文庫)

第848話 有名かッ!

「センセ、ワシこっちの病院に変わってエエか?」
「そら、患者さんは医者を選ぶ権利があるけど。医者は、患者さんを選ぶ権利はない。
んで、センセは誰じゃッたんね?あ、Dセンセ。彼は糖尿専門でワシより3級下」

「センセは、専門は?あ、元は心臓。いまはナンでもじゃね」
「ナンでもとは言えんけど、ある程度はフツーに」
「イヤ、センセは有名じゃ」

カーテンの陰でヒソヒソ、「悪名高いんと違うん?」を無視して。
「ワシで良かったら、エエで。タブン13個の薬が半分以下になるかも知れんけど」
「数もじゃけど、あのセンセ説明してくれんのよ。ゼンゼン、殆ど、TV画面見てる」

「Dセンセんとこは患者さんが多くて、忙しいからやろ」
「その点、MIHIセンセはヒマじゃから。暇つぶしに、よー説明してくれるって有名」
「ナンか、嬉しいような悲しいような。まっキムタクかブラピ似で有名でエエか」

「ヤーねー。ああ言う自分勝手な自画自賛が、有名ナンよねー」を聞きつつ外来終了。
「あららー。番外の訪問診療1軒。さっきまで雨ザブザブが、サクッと曇るのは何故?
そう言えばMIHIセンセはみんなが言ってましたモンね、晴れ男って」

「だ、誰がハゲ男じゃッ!責任者出てこいッ・・・と、軽くジャブっ」
「ホント。お一人で、よー遊ばれますこと。曇ってても、超暑苦しゅうございますワ」
「んで、Wバッちゃまは元気かなーっと」

「あら、MIHIセンセ。雨の中、大変ですね」
「それがWさん。MIHIセンセが出る頃になったら、雨が上がったんよ」
「そうじゃった、MIHIセンセは晴れ男じゃったな」

「誰がハゲ男じゃッ!キレ突っ込みで、聴診器を当てるワケ」
「いつも通りじゃね」
「胸の音も、いつも通りでOKね。んじゃ、また来るのも、いつも通り」

「1軒だけだとあっという間ですね。あらら、次のセンセの訪問診療なのに雨が」
「ワシは帰って医局でまったりで、スマンのー」
「センセ、雨乞いしたでしょ。心の中で」

「ピチピチチャプチャプって、唄った」
「ヤですよ。そんなことするくらいなら、てるてる坊主になったら如何ですウ」
「誰がテカテカ坊主じゃッ!と、益々冴えるジャブ」

「雨合羽着で、腰にヒモ結びつけて。病院の軒先に、ぶら下げてさし上げますから」
「んで、てるてる坊主で雨乞いか?集中豪雨?、イヤ嵐(語尾上げで)」
「ゼッタイ、有名人になれますわよ。町内じゃ」
「有名じゃなくて良いッ!ワシ、完全にキレるで暴れるで。てるてる坊主の乱舞やッ」

キレやすいのが有名だったのを忘れていた、午後。

第847話 燃えるケータイ

「コラコラ、ダメよー。ゴミ箱を漁っちゃ、ビービーだかんね。ダメなんよー。
そうそう、ポイッ。ゴミをポイッは良い子やもんねー、ハイ拍手ウー」
孫の教育は大変だなと思いつつ、家中の安住の地を求めてゴミ箱は移動しまくりの日々。

<ポンッ>
「あらら、焼却炉がいつの間にポン菓子製造器?」ブツブツ。
「まっ良いか、細かいこと気にしてたらイモは焼けん」3日目の午後。

「おっかしいなー、エアコンのリモコン知らんね?」
「いつもの場所には・・・無いわねー。どっかに潜り込んでんじゃ?」
「リモコンのないエアコンって、暑苦しくない(語尾上げで)」

「かと言って、いちいち机の上に上がってエアコン操作もねー」
「もしかして、あのポンッは・・・」の胸騒ぎの小走り。

灰の掻き出し口からのぞく、黒こげ小金属製品こんにちわ。
良く見れば燃えかすにポッチがついて、押してスイッチが入ったら何が動き出すか?
炭バサミでツマミだし、ぶっ叩けば灰は飛び散り全体像が想像出来るのは嗚呼!

見慣れたリモコン風黒こげ物体は、押してみるまでもなかった1ヶ月後。
「おっかしいわねー、携帯知らんね?」
「ボクは携帯嫌いじゃから、出来ることなら世の中から消えて頂きたく。
んで、何時から無いんね?」

「昨日、Mちゃんが持ってたから。あーそれはダメなんよねーとか言って、取り上げて。
大泣きされて、それから・・・何処へ置いたっけ?」
「ケータイ鳴らしたら」

「何度もやってみたけど、電波の届かないところにあるらしいのよ」
「持って出てないから、家の中にあるはずでしょ。運悪く、ちょうど電池切れやろねー」
「ま、まさかゴミ箱?」

ごそごそゴミ箱を漁っていると、ジイの様子をうかがう孫。
「あ、ジイは捜し物してんだかんね。ゴミ、漁ってるわけじゃないんよ。
そうそう、良い子じゃねー。あ、ダメって。一緒に漁らなくて、エエんでちゅ」
ゴミ箱を漁るジイの周りを、自分も参加したくてペタペタ歩き回る孫。

「もしかして、また燃やした?」
庭に飛び出て、焼却炉にたっぷり溜まった灰を「まさかねー」ブツブツ言いつつ突っつく。
「まさかナー、いくら何でも2回目じゃ」に、<ガツッ>の手応えで掴み出す。

手のひらにすっぽりはまるサイズは、黒こげの世の中から消えて頂きたいもの1ヶ。
「あららー、また燃やしちゃったワケね。おーい、これこれ。ここにあったよー」
振り回せば灰バサミから落下して、<カツッ>乾いた音が情け無い。

それ以降、物が無くなると孫の見ていないところでゴミ箱を漁るジイであった。

第846話 さらばゴキ友

「コラコラッ、今日は物静か。口が腐った(語尾上げで)」
「フンッ、ラウンド済んだ。カルテ書き散らしたら、消える」
「あらまっ、えらく素直な。気色悪いでしょ、そこまでやられると」

「ラウンド、サクサクッ。撤収、サクサクッ」
「んでまたナゼ故に部屋の隅、壁伝い歩き。如何にもゴキ」
「フンッ、ゴキの着ぐるみでラウンドしちゃうかんね」

「キャー、ヤダ。あたしゴキ踏んだみたいな」
「そらあんた。キャーって言いたいのは、ゴキの方やで」
「キャー、内臓が出てるウ。足が取れてるウ、キャー」

「成仏しなはれ、ナムう」
「キャー、靴の底になんか卵みたいな。ツブツブ、キャー」
「惨いことしなはる、一族郎党末裔まで逝っちゃったワケね」

「キャー、ヒゲが靴底の溝にくっついて・・・しかもちょっと動いたア」
「断末魔で、あんたに呪文をかけてるんや」
「ナンでそこまで分かるんですウ、ゴキの気持ちが。キャー」

「お女中、キャーキャー言うでない。品格を疑われ・・・あ、品格は元々皆無」
「んで、呪文って?」
「エコエコ、アザラシ。アザアザ、エンヤコラって。聞こえる?」

「どんな耳してるんですかッ」
「こう耳たぶはヒョウタン縦半分みたいな、穴はキムタク似で」
「んじゃなくて、んもーイヤッ。んで呪文をかけられると、あたしどうなるんですウ」

「あ、もうかかってるやんか。ブタになるんよ、しかもメタボブタ」
「ウウ、いつか踏みつぶしてやるウ」

病棟ワックスがけ日に逝ったヤツに一言、さらばゴキ友!

第845話 難ゴキ味方の日

「あ、シッシッ」
「な、なんや。ワシがメダカの水槽に耳クソ放り込んだ以外、ナンか悪いことしたか?」
「んまッ、メダカにまでパワハラ。MIHI病が伝染したら、どうしてくれるんですかッ」

「そら、メダカの世界にも居ってエエやろ。キムタク似イ(語尾上げで)」
「何処にもおりませんッ。昨日あれだけ言ったでしょ、今日はワックスがけ日って」
「確かに、聞いた」

「んじゃ、シッシッ。回診したければ、ゴキと並んで部屋の隅っこを移動ッ」
「んじゃナニか。ゴキの着ぐるみが聴診器してウロチョロしてたら、避ける?」
「そんな面倒くさいことはしません、一気にシューッで。とん死まっしぐら」

「あのー、カルテは?」
「どうせイタズラ書きか、院長センセの似顔絵を描くんでしょ。明日、明日」
「なんか、仕事した気イせんなー」

「いつもと一緒ッ。100パー、仕事量変わりなし」
「あれだけ徹底的に掃除すると、ゴキの食糧難やで。流浪難ゴキ(語尾上げで)」
「良いんですッ」

「あ、エエんでちゅかー。ハアー、可哀想なゴキ君。夜中に出るなら、ナースP家ねッ」
「ミョーなこと言わないで下さい。旦那が真夜中に、酔ってホイホイに引っかかるけど」
「あ、あのゴキ亭主ね」

「ちょ、ちょっ。あたしが言うならまだ良いとして、センセが何故言う、ゴキ亭主」
「あんたの亭主はゴキはゴキ、あんたが何を言おうとワシはキムタク似」
「どっちもどっち、ゴキの背比べ」

綺麗になった病棟廊下にゴキの味方がクッキーの粉をばらまく、午後。

第844話 塵以下評価(さらにひどい)

「あのさ」
「今日はうちのワックス日ですッ、ゼッタイダメですッ!」
「あんたの悪口、まだ口に出してない。言いたい。言わせろ、ゼヒ言う。三段活用」

「ちょ、ちょっと待って下さいね。あたしの悪口って?」
「そんなこと、口が裂けても言えん。ヘビみたいに、舌の先が2つに裂けたら言える」
「あ、しまった!MIHIセンセの無駄話に付き合ってしまったワ」

「んでさア、動線」
「んだから、今日は凄く忙しいんですッ。ナニが動線?」
「床頭台を1個ずつ運ぶんは、アホ動線でノーリツもあんたの根性も悪いやろ」

「根性は大きなお世話。んで動線をどうする、どうする妄想?」
「1度に2個、もっと言えば1度に8個でも120個でも運べるで」
「2個なら、んでも1度に8個はねー。ましてや100個となると患者さん52人しか・・・。
で、100個ってどうやって?」

「だめよ、Pちゃん。そう言う突拍子もないことは、聞かん方がエエわよ」
「確かに、MIHIセンセだけに。んでも気になる100個。タブン腰に100本のヒモ結ぶとか?
そんで、一斉にガラガラ引っ張るとかじゃ?」

「アホ言え、そんなおもろいこと。ゼヒ、やって欲しい」
「んじゃ、どうやって100個?」
「その前に、この処方箋OK?」

「これって再来週の定期処方じゃ?ナゼ故に処方、メチャクチャ忙しいワックス日。
ダメに決まってるでしょッ。そんなことしたらゴミ箱にポイッですわよ」
「100個一気移動の技を、聞きたいやろ?ゼッタイそのはず」

「聞きたくありませんッ、独り言ならここで仰っても構いませんけど」
「あ、ゴキッ!」
「キャー、キャー」

「と言うことで、掃除アンドワックスがけに励むのだぞ。お女中」
「んもー、MIHIセンセはゴキ以下だわ。んもー、可愛くない」
「んじゃ、ゴキは可愛いんか?ゴミは可愛いんか?」

「ワケワカランッ!んでも、ゴミなら掃除機で吸い取ってポイッじゃけどオ。
MIHIセンセを掃除機で吸い取ったら、ノズルに詰まっちゃうしイ。結果、ゴミ以下よ」

ゴキ以下でも酷いけどゴミ以下はさらに酷い、午後。

第843話 怒人無駄多(なぜなの)

「センセ、怒らないでね」
「な、ナニい。許さんッ!手打ちじゃ、切腹じゃア。そこへ逆立ちッ」
「まだナニも、ゼンゼン。言ってませんけど」

「あ、そ。全て隠さず、申し述べよ。お上にも、お慈悲というモノが・・・」
「んじゃ言いますけど。Pさんの検査オーダー。実は、申し上げにくい事が・・・」
「ま、まさか。あんたんとこの駄犬のドロドロ血イ抜いて、身代わりに?」

「駄犬だけ余分ですッ、それにピーちゃんの血イ検査してどうする」
「んじゃ、検便をあんたんところの台所を彷徨くゴキのウンチで代用?」
「意味分からんッ!センセのアラビア文字が、読めないッ」

「な、ナニい。どらどら指示簿は・・・あ、これね。何処をどう見ても9やろ」
「でしょ、でしょ。ゼッタイ9ですよね、そこんとこ忘れんようにオネガイしますね。
んで、このオーダー用紙には?」

「こらあんた・・・2やろ。どっちから見ても、ゼッタイ2。恐らく、自信ないけど」
「んで、採血を2日にしたら指示簿は9日。怒りますよあたし、ホントに。
どっちがどうなんじゃイっと。それにQさんに、センセはなんて仰いました?」

「ふぁ?ナンてって言われても・・・お早うって、元気イって。挨拶したらアカンの?」
「その後は?ナンか頼まれたでしょ」
「婦長さんが三途の川を渡る途中で、重しを着けて落とせ(語尾上げで)」

「咳止め出すって言うたっしょ。んで、とっとと訪問診療でしょッ。
ホントに怒りますわよ、その前にRさんに頼まれた湿布の処方ッ」
「へーい、行ってきやーす」

で、1軒目はDばっちゃまのお宅。
「センセ、これってどうなんでしょ?」ばっちゃまの後ろからお嫁さん。
「おろ、アミノコラーゲンね。奥さん?」

「いえ、おばあちゃんが」
「まあ、タンパク質やし。コラーゲンじゃから」
「効くかねー」ばっちゃま。

「バッちゃん、お肌ツルツルになるかも。写真撮らんとアカンかも」
「98歳じゃ、見合い写真ってワケにも行かんから・・・」
「そらジッちゃんが怒って、草場の陰から文句言いに出て来る」

「んじゃ、葬式用なら。お肌ツルツルで、写りがエエかも知れん」
「そこまで言うたら、Dさんも怒るよねー。主任さん、これお裾分けして貰ったら?
肌ガサガサ、アルマジロ肌(語尾上げで)」
「一言多いッ!あたしも、ホントに怒っちゃいますよッ」

怒っちゃう人が無駄に多いのは何故なの?の、午後。

第842話 緩看取手(ぬくもり)


「Pさん、お歳は幾つだったっけ?」
「確か、平均寿命をちょっと越したかな?」
心電図モニターを見ながら、脈が60を切り始めたのに気づく。

「先週から呼吸状態も良くないし、もとが難しい病気だし」
「らしいね。ワシ、医者30年以上やってるけど3例目やモンなー」
「あの病気の患者さんとしては、長生きなんでしょ?」

「予後不良って、教科書には書いてあるけどな。そうそう教科書通りには」
「寝込んで1ヶ月、毎日奥様がついていて。手を握ってあげて」
「愛やねー、羨ましいやろ?」

「ってゆーかア、あたしはムリ。握るなら、旦那よりベンジャミン。犬の」
「アホ駄犬の?」
「隣の林家ベーちゃんよかマシ」

「ピンクの服着てる?」
「ま、まさか夫婦漫才の片割れ?」
「何処がオモロイかワカランヤツ」

「ペーじゃなくて、ペですッ!」
「どっちでも、大して変わらんやろ」
「月とマル虫、キムタクとMIHIセンセ」

「んなら、ほぼ同等ってか」
「アホなこと言ってないで、Pさんの脈拍50ですよ。奥様、間に合えばいいけど」
「愛で間に合うやろ」

「あ、ホント。奥様」
「あ、脈が40。んでも、間に合ったな。エかった」
「あら、脈が60に増えたわ」

様子を見てきたナースR。
「やっぱ奥様、黙って手エ握ってらっしゃるわ。Pさん、何か言いたそうに口が開いた」
「奥さんの手からPさんに伝わって、Pさんの言いたいことが手から帰ってゆくんやろ」

「長いこと夫婦をやってると、凄いですねー」
「呼吸が殆ど無くなったから、もう近いよ」
「そうですねー」

「あと5分、奥様と二人っきりにしてあげてね」
「あら、たまには良いこと仰るじゃないですか。MIHIセンセでも」
「たまにはな。あ、心停止。んじゃ確認してくるわ」

緩やかな看取りの中に手の温もりを感じた、午後。

第841話 講演会欠席(まごがかつ)
「フエッヘッヘ、グフッ」
「あー、いつもの347倍ミョー。禁酒してるから、酔っぱらってるワケじゃないしイ。
逃げられた奥さんが、ひょっこり買い物から帰ってきたワケじゃないしイ」

「フエッヘッヘ、グフッ」
「もしかして、孫のMちゃんがジジイのところへ?」
「フエッヘッヘ、グフッ」

「皆さーん、今日は無礼講。出血大サービス。今ならMIHIセンセに、蹴りを入れても笑う。
ナニしても怒りませんよー、さあイラハイラハイ」
「ってもねー、出張中のQセンセの患者さんの処方なんか」

「あ、そんなの楽勝。屁の野ブタ。他には?」
「あたしの肩を揉ますのは、勿体ないから」
「勿体ないって言うのは、日本語で言うと三段腹(語尾上げで)」

「オバカ言わない」
「さ、早く勤務時間が終わらんかなー。スキップして帰らなきゃっと」
「なんなら、お孫さんおんぶして回診されたら如何ですウ」

「あんたらに、可愛すぎる孫を見せるのは勿体ない」
「その勿体ないの意味は、三段腹じゃ?」
「オバカ言うでないッ!医局へ引きこもらなきゃと」
「パソコンの壁紙のお孫さんの写真を、べろべろしちゃダメですよッ」

ニタニタ医局で、まったり中。
「フエッヘッヘ、グフッ」
「フエッヘッヘ、お世話になりまーす。センセ、ご機嫌じゃないですか」

「ナンで分かるん?」
「プヨプヨほっぺに、孫って書いてありますけど。ナンでもお見通しの、あたし」
「ホウホウ。ワシの孫はなぜ可愛いかって、質問?」

「そんなこと聞きたくないけど。あ、やっぱ聞いた方が良い!言いましょ、聞きましょ。
300字以内で?あ、379文字。えらく細かいことで。よござんす。
その前に、四文字熟語で。来喜講演会、字余り」

「んじゃ、そのご返事を四文字熟語で。孫とお風呂なんで、不行講演会。字余り」
「字余り返しっすね」
「ツーことで、達者でお暮らしいただければこれ幸い」

講演会出席より孫が勝つ、午後。

第840話 思切完全行動(ためらいぜろ)

「センセ、Pさんですけどオ」
「ヘッ、もう退院か?ワシの知らん間に、スキップ出来るようになった!みたいな」
「んなはず無いでしょッ。んじゃなくてエ、ナンで今日だけ点滴がないんですウ」

「迷ったんよ、悩んだんよ、ためらったんよ。点滴」
「ナンでもされてけっこうですけど、指示簿がめんどいでしょ。
思い切って1本行っちゃうとか、一切止めるとかは考えんのですか?」

「あのさ、朝起きてあんたでも鏡を見るやろ?恐くて、直視出来んかも知れんけど」
「意味分からんけど、見ますよ。見ながら言いますモン、鏡に向かって。
鏡よ鏡よ鏡さん、ノリカより美しいのは誰?あ、あんた!なんて自分に向かって」

「その場合、ノリカを沙悟浄にしようか猪八戒にしようかと。ためらうやろ、フツー」
「ゼンゼン、皆無」
「イカンなー、脳みそ腐っとるなー、とろけとるなー」

「意味ワカランなー。んで、鏡とあたしがどう繋がるんですウ」
「パーフェクトにためらうと思ったけど、聞いたワシがアホじゃッた」
「アホです、アホです。パーフェクトの、んで点滴」

「悩むワケよ」
「どうせ、ただの気まぐれか。指示簿に書くのを、忘れていたかでしょッ」
「気まぐれで、ワシが仕事をしていると思うかッ!」

「思うから言ってんですッ!」
「あ、そう。そのどちらでもなく、ためらい気ということでオネガイします。
切腹したくないのにさせられる時、短刀をヘソ横にチョンチョンしてためらう感じイ」

「思いっきり刺しちゃって下さい。そう言う場合、あたし短刀のケツをググッと押します。
大サービスで、トンカチでゴンゴンもオマケ」
「情け容赦ないワケね」
「センセの場合、思い切りパーフェクト10割行動。ためらいゼロ。」

ちょっとはためらって欲しかった、午後。

第839話 USBはそっと刺せ

「コラッ!」
「な、なんや。ワシ、手にUSBメモリなんか持っとらんで」
「んじゃ。そのポッチャリメタボ手、パアーッと開いてお見せ下さいませ」

「ワシって、手を開きたくない人。特にぱーっとはね」
「ジャンケン、グうに勝つのは?」
「そら、パーやろ。この・・・あ!」

「んで、なにゆえ病棟のパソコンに、辺りを伺いながらの挙動不審USB」
「イヤ、別に。ワシが調教したマシンが、このクソ暑い中で仕事をしているかなーッと。
チェックというか、徘徊メンテナンスサービスみたいな」

「んで、USBメモリをそーっと刺してるわけですね。ウイルスチェックで」
「なにも、自分のマシンでやればエエんじゃけど。早く中身が見たくて、ホント」
「ミョーな、動き。こざかしい、猿芝居。怪しい、散乱目線」

「そもそもワシが奇妙奇天烈な、小技を使うように見えるか?」
「ハイ、丸見え」」
「USBメモリ刺すにも、作法が有るの知ってる?あ、あんたらナンも知らんなー」

「んじゃ、センセは?」
「ワシって、松風流大島部屋」
「んじゃ、あたしは新陰流大磯部屋にしよっかなー」

「名は体を現すって言うからな、メタブタ流大食い部屋(語尾上げで)」
「ちょっと教えていただけますウ、USBメモリはそーっと刺した方がエエんですウ?」
「アホパワーでざっくり刺すと、折れるかも」
「んじゃなくてエ、そうっと刺すとウイルスが気づかない事って有りますウ?」

「そらあんた、サクサクッと刺すと。おろ?いまのナニ、ナンか刺したア?
あ、気の迷いだった?それとも妄想?はたまた白日夢?なんて。
 気づく前に抜いたら、感染せんかもな?」

「でしょでしょ、素早く抜いたり刺したりするワザを磨かなきゃ!」
「ワシなんか、USB秒速抜き差しマックって。町内会じゃ」
「でも、あたし的にはそーっと刺した方がエエと思うんじゃけど」

「そうよねー、あーペビョンジュン!とか叫びながらそーっと刺すとか」
「韓流ファンのおばはんパソコンじゃね、Tシャツはヒョウ柄(語尾上げで)」
「んじゃ、んじゃ。あたしみたいな嵐ファンは?」

「ドラム・スティック暴れ打ち刺し方やね、裕ちゃんみたいな」
「それって、ウチのばあちゃんが言ってました。呼ぶんでしょ、嵐を。ハア?」
「優しくそっと扱うと、USBメモリは3年とか5年は持つらしい」

どちらにせよUSBはそっと刺して欲しい、朝。

第838話 絞殺余命い(えらべない)

「センセ、あたしあと10年は無理じゃろか?」
「Wさんは78歳じゃから、間食を止めたら行くかも知れん。88まで」
「エかったア、ひ孫が中学生になるまで間に合うワ」

「んじゃから。間食・無駄食いを止めて、ちゃんとインシュリン注射をしての話やで」
「そこが難儀なんじゃ、どれか1つくらいどうにかナランか?」
「1つアカンと、3年3ヶ月寿命が縮むかもな?」

「んじゃ、あたし頑張るから。センセはずーっと往診に来るんよ」
「んでも、ワシ。あと5年で定年やで、5年で」
「センセの10年保証は、信用ナランやないの」

「あと10年は元気で仕事が出来るように、酒も止めた」
「んじゃ。カリントウも止めりゃ、更に5年は医者出来るな。往診も」
「あのさ、なんでカリントウ止めなアカンの?」

「エエんじゃ、あたしも間食止めるんじゃから。センセも付き合う」
「カキピーを止めるんじゃ、アカン?」
「イカンイカン、それくらいじゃ。甘い」

「小柳・ピーナッツ・琉球黒糖、3大カリントウは外せん」
「んじゃ、カリントウ止めれば。10年、往診に来てくれるわけだ」
「んでも、Wさんが10年以上長生きしたらどうするね?」

「そら、センセが医者止めるのをも少し延ばせばエエ」
「イヤヤ。ジャズ廻しながら、カリントウ肴にコーヒー飲んだくれるんじゃ」
「センセが爺になったら、そんなことしたくても出来んようになるやろ」

「楽しみは、孫の成長だけか?」
「エエんじゃ、それで」
「んでも、世の中何が起こるか分からんしイ。やっぱ10年で医者止めよ」

「よっしゃ、よー分かった。んじゃこうしよ。10年で、あたしの余命は尽きるとして。
10年目の往診日に、あたしの首を絞めるか毒を盛るんじゃ。その時忘れなさんな。
センセが、壁に書くんじゃ。余命が尽きたんじゃ、殺人じゃないって」

「そんな見え見え。ワシ、お縄を頂戴するやんか」
「センセは、塀中飯で激やせやね」
「カリントウの差し入れ、オネガイ」
「寿命が尽きた!って、遺言に書いとくから。安心して、あたしの首を絞めるんよ」
それから7年後、肺炎で入院した時「死にかけた時にみょーな事したらイカン。延命拒否や!」。
治ってそのまま施設生活3年、計算通り10年目で静かに看取ったWさん。
選択肢が絞殺と余命計算の2つじゃ選べなかった、午後。

第837話 災難の仕分け


「キャー、出たー。キャー」
「んだから、休憩室に鏡を置かないって。みんなで決めたんやろ、全員一致で」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。そんなこと、決めるはず無いでしょッ」

「んじゃ、真っ昼間から座敷童君が遊びに来た?あいつら、趣味悪ウ」
「ちょ、ちょっと待って。それってオカシイでしょ、意味分からん」
「んじゃ、ナニよ?」

「ゴキブリが出たワケですよ、ゴキが」
「捕まえて天ぷらか、活け作り?とっ捕まえるゾーで、キャーやな」
「誰が捕まえるかで、キャーですよ」

「んで、誰が食べるか?」
「ウエッ。ゴキを食べるところを、すっかり忘れていただけますウ」
「んで。キャーキャー言いながら逃げ惑う、災難のゴキ(語尾上げで)」

「サクサク逃げるゴキに、とうとうスプレー缶1本使っちゃいました」
「あの部屋で1本、シューシュー行っちゃったの?」
「なかなか弱ってくれないですもの、ゴキが」

「ウンチ消臭剤シューシューじゃないよね。君らは大丈夫じゃったやろ?やっぱ」
「ハイ、その後お茶しましたから」
「ロッカーの陰で、目エむいて昇天したんやろなー。哀れなゴキ」

「それじゃナンですか、センセの先祖はゴキ?どっちの味方?恐わッ」
「あんたらの方が、3万倍恐いで。味方とか先祖とか、大した問題やないッ」
「んでも、あたしらにとっては災難でしょ?」

「ワシに言わせりゃ、ゴキの方が災難や。穏やかな生活を、いきなりキャーでかき回され。
こともあろうに、シューシュー1本使い切りなんて。冗談やないで、実際のとこ」
「ゴキのヒゲ見ただけで、あたし気分が悪いわ」

「ゴキにしてみりゃ。夜勤明けのスッピン見せられた上に、キャーキャーはネーベ。
そうでなくても、食い散らかしてボロボロ落としたモン食わされて。拷問大災難」
「あたしなんか、もうちょっとで踏みつけそうになって大騒ぎの災難」

「ゾウ足で踏まれたら、ゴキの方が災難。臓物が、あっちゃこっちゃの穴から飛び出す」
「んでもオ。びっくりしてよろけた拍子に、パンツの縫い目が裂けちゃって。災難だわ」
「見栄はって、無理やりパンツに三段腹押し込むから。災難は、自己責任(語尾上げで)」

ゴキとナースPの災難について、仕分けする必要がありそうな朝。

第836話 婆嗚呼神(おーまいがっ)


「んで、神戸?」
「ハイ、4日間。神戸牛の背脂にまみれて、学会。ネットブックは、念のため」
「Qさんに仰いましたア?週末は留守って」

「言うたけどオ」
「んで、何か言ってらっしゃいませんでしたア?」
「寂しいって」

「それだけですかア?」
「やっぱワシは、キムタク似じゃって。ブラピもあるでよ」
「あらら、喘息発作で酸素不足?はたまた、せん妄」

「アホ言え。今日の胸の音なんかスースー、子猫の寝息。カリスマ喘息祈祷師。
呼んでみる?あ、呼びたくない!」
「センセの場合、カリスマって。カリの住まいの略?みたいな」

「そうそう、息が楽になったQさん。昨日から、MIHIセンセが神様に見えるって」
「貴方は神を信じますかア、ナムうーみたいな」
「ナンの神様でしょうね、MIHIセンセは」

「どうせ、大したモンじゃないとは思うけど。ビンボー神(語尾上げで)」
「イエス様はニーチェを許さんぞッ。信じぬ者の根性に神のバチを!やで。
ついでと言っちゃナンじゃけど、腹に網脂を!みたいな」

「神様はバチじゃないでしょッ」
「エエんでチュッ、このバチあたり。マル虫のエンガチョ踏んで、エエんでチュッ」
「兄弟で、お前の母ちゃんでべそッ!てケンカしてるみたいな」

「その表現形式も、まんざら嫌いではないが。お前の母ちゃん5段腹ッ!でもエエ。
へそくり本棚下の段右から6冊目の中、でもエエんちゃう?」
「ナンで知ってる、あたしの秘密ッ!」

「誰も信じなくても、明日からワシには安楽ハッピーお勉強」
「信心深いQさんは寂しさ余って怒り心頭、神も仏もMIHIセンセもあるものか!と」
「”ホントに出張?遊びまくりで、オーマイガッ!”みたいな?」

Qバッちゃまのオーマイガッ!は神をも恐れぬ、午後。

第835話 不明惑行為(なにはら)


「そら、若い方がエエ」
「体験学習の中学校の可愛い子に、車いすを押して貰う方がエエでしょね?」
「そらそ、決まっとる」

「おばさんより、嬉しいわねー。んでも、あんがい味があるかもオ。スルメみたいに。
 噛めば噛むほど、ジワーッと」
「スルメも、新鮮なヤツを干した方が美味い。古いイカは、イカン・・・なんてな」

「おばはんイカをスルメにすると、噛んでもエエ味が出んかも」後ろから参入する私。
「おばはんは、うちので充分じゃ。おばはんイカは、話にナラン」
「んまっ、MIHIセンセの次に酷いことを言うワケね。ジジイはらだわア」

「ちょ、ちょっと。ナンでワシの名前が出るんじゃ、オカシイやろ」
「その声は、パワセクハラ隊長のMIHIセンセじゃありませんか」
「変態長ウ、ほふく前進みたいな」

「Rさん、こう言うセンセバッカじゃありませんから。心配しなくて良いのよ。
将来、安心してお医者さんになってね」
「ハイ、タブン。大丈夫です」

「アーやだ、お腹空いてきたわ。お昼ご飯を、さっき食べたバッカなのに」
「R君が将来医者になると、人前でケツポリポリ出来る婦長さんも見られるんよ。
5m以上近づかなければ、恐くないかんね」

「タブン、大丈夫です」
「こらこら、またじじいハラッ!」
「んで、隣の君は将来ナニに?あ、君も医者」

「お二人とも、このセンセを見て。この反対をすれば、素敵な医者になれますわよ」
「それってばばハラじゃね、それともおばハラ?はたまた、3.7段ハラ?」
「なにハラでも結構、ゼンブ迷惑行為ですッ」

不明な迷惑行為は”なにはら”なの?の、午後。

第834話 徘徊友(にあう)

「センセッ!グループホームだけ、伸ばしちゃイケマセンよ」
「あんたのババパン・ゴムは、それ以上伸びん」
「大きなお世話、ラウンドですよ。ラウンド」

「ワシって、渡り廊下を時空を越えて移動するらしい。たまに、失速」
「ショートステイのラウンドの帰り道でしょッ、ナンで勢いが落ちるかなー」
「勢いつき過ぎて、逆効果。スキップ118秒が3cm、困っちゃう」

「困っちゃうのはこっちですッ、今週からグループホームへ寄り道して下さいねっと。
あ、コーヒー入れろとかはダメ。センセと違って、みんな忙しいんだから。
仕事の邪魔をしない!独り漫才しない!」

「んじゃ、ワシは何しに行く?」
「んなん、分かってるでしょ。ラウンド。徘徊とも言いますけど、センセの場合」
「ラジャッ」で、徘徊開始の朝。

「あらら、お珍しい。何事ですか?」
「あんね。グループホームだけ、のけモンにしたらアカンって。外来主任。んで、来た」
「センセの昔の同僚も、お待ちですよ。ほら、こっちに向かって手を振ってるでしょ」

「おおう、Gさん。元気じゃッたア?」
「Gさん。さっき、お腹が痛いって言ってらしたでしょ?」
「いま治った」

「ヤダあ、センセの顔を見たら治ったんね?」
「んじゃ、散歩にでも」
「未だ早いでしょ。センセとのーんびり、お話しでもしてからお散歩でも?」

「イヤ知り合いが来たから、買い物にでも行こうかと思ったんじゃが」
「んじゃ、ショートのラウンド一緒に行こうや。散歩がてら、な」
「もう少しゆっくりされては?コーヒーでも」

「主任さんにきつーく言われてるワケ。ワシと違って、みんなは忙しいって。
仕事の邪魔したらアカン。お茶もダメ、紅茶もダメ、ビールは嬉しいけど禁酒中」
「んじゃ、散歩。行くかの」で靴履き替えて出発。

「あら、センセ。Gさんとどちらへ?」
「ショートのラウンド」
「後ろから見ると、まるで徘徊の友ですわ。とってもお似合い」

徘徊の友に似合う私の、朝。

第833話 不良爺先取つ(かんみたいけつ)

「お世話になりますウ」
「お世話するの止めよっと」
「お世話も要らなきゃ、Q処方も要らぬ。講演会に、来ていただけりゃエエーっと」

「Qは、他所の薬じゃなかったっけ?」
「細かいことを気にしていたら、出世しませんよッと」
「確かに、話題の糖尿じゃし。ナンか、今までの考え方をハゲシク覆す内容らしいやん」

「皆まで仰るな!匍匐前進してでも、講演会に行きたいでしょッ」
「そこまで言われると、気持ちが萎えるなー」
「あと2週間の辛抱ですから、ねッ」

「そうなんじゃけどオ」
「あらら、怪しい雲行き。ヤですよ、ホントにイ。ノリの悪さは、なぜ故に」
「ちょっと聞くんじゃけど」

「ホントにちょっとだけですよ、ちょとだけ」
「あのさ、右手にイチゴショートケーキを持ってるとするやろ?」
「左手がコーヒーなら許せる?」

「そう言う単純な問題とはちゃうんよ、実際。左手にはチョコケーキ」
「あららー、どっちもエエじゃないですか」
「んで、昨日はブルーベリーに生クリーム」

「センセ、センセ。糖尿のあたしは意識クラクラ、涎タラタラ」
「んで、昨日まではイチゴで行く気じゃったのに。奥さんが抹茶ケーキ見せるんよ。
しかも、オミヤに生シュークリームのおまけ付き」

「悩みますねー、ホント」
「んで、決めたんよ。講演会は止んぴッて」
「ちょ、ちょっと待っていただけますウ。ケーキと講演会の接点は、何処?」

「取りあえず、R社Z氏としてはケーキの選択は?」
「一応、抹茶には生シュー」
「そうやろそうやろ、そう来てアタリ前田のクラッカー。んじゃから、行かない」

「納得できませんッ!」
「んじゃからア。抹茶ケーキが孫で、ジジイの顔を見に来る。
愛読書の”めばえ”付録未完成でも、プラモで鍛えた付録作成能力、抜群。
さあ、どうするどうする。お立ち会い」

「閑話休題。んで、講演会は来ていただけるんでしたっけ?
入り口でセンセがくるのを、あたしが見張っていればエエんでしたっけ?」
「我が儘なひとは、来週から医局は出入り禁止」

「どっちが我が儘なんだか」
「ジジイの機微を理解出来ん方は、医局訪問は73年に1回」
「あたしより、孫が可愛いと?」

「医局に、洗顔用の味噌汁あるけど」
「ウウウ・・・もしあたしが3日後に不良になったら、センセのセイですよッ」
「ワシなんか、2日後には不良ジジイだぜイ。あんたより先に、グレてやるッ」

甘味対決で不良ジジイになるのを競う、午後。

第832話 不外婦長口布理由(おひれにねおん)

「おろ?顎が外れたんね」
「自慢じゃないですけど、大福3つ同時に食べても顎は外れませんッ」
「自慢にはならんけど、笑えるわな。喉に詰めて目が行っちゃったら、さらに3倍」

「それじゃ、絶命しますッ!」
「んで、マスク?」
「あ、差し歯が外れて。んで、マスク」

「んじゃ。歯の間の穴から、ズルズルうどん啜れるじゃん」
「えー、ちょと無理・・・あ、出来るかも」
「出来たら言うてね、ドサマワリ。真っ赤な首輪を、奮発してあげるね」

「嬉し・・・くないッ」
「お後が宜しいようで。ラウンド行かなきゃ」
「とっとと、お行き遊ばせッ」

ベッド足元に腰を掛けて、Pさんと話し込んでいると。
「お早うございまーす」
「あら、婦長さんですか?」
「ちょっと大きめのマスクしてますけど、婦長のQですよ」

「婦長さん、ワケ有ってマスクが外せないんよ。別に、顎が外れてるとかじゃなくて。
もっと面白い理由で、言いたいけど言えんのよ。でみ、言いたいウウウ・・・」
「あらま、残念ですわ。後で、こっそり」

「差し歯が抜けたのを幸い、歯の間から出した舌で鼻の頭を舐めたりして。
 皆さんを抱腹絶倒の大笑いさ、みたいな」
「ゼンブ言ってるじゃないですか、尾ひれにネオンまでつけて」

「そこまで言うなら、マスクを取ってみたら。笑わせてみたら」
「あたしゼッタイ、マスク外しませんッ」
「あ、婦長さん。マスクにゲジゲジが」

「フンッ」
「小技じゃ、引っかからないんだ」
「猿知恵じゃね」

マスクを外さないワケに尾ヒレ装着と点灯電飾の、午後。

第831話 スイッチポン冷夏

「あのー、センセ。暑いですよねー、きっと」
「ハイ、お暑いですね」
「んで、ちょっとだけでエエんですけど。スイッチをポンッなんて、怒ります?」

「体調崩してからなんですけど・・・」
「あ、やっぱ止めておきますね」
「イヤ、そう言う意味じゃなくて。敏感になったんです、とっても」

「エアコンのスイッチに触って、偶然押したら。スイッチが、入ることがありますよね」
「そらそう。エアコンから温泉が吹き出たら、医局は銭湯。ビールがわき出りゃ、泥酔」
「医局へ入る度に、入浴料とか酒代なんか取られて」

「何が仰りたいんですか?なんか、暑苦しい話ですか?」
「イエ、とっても涼しいお話しになるはずなんですけど。やっぱ止めますわ。
体調崩したんですよね、んだから」

「そうなんですよ、とっても暑がりで寒がり。ミックスタイプ」
「あらら、ボク暑がり。寒がらずのミックスタイプ」
「んでもセンセは、ダイエットして痩せても暑がりなんでしょ?」

「痩せたと言われると、お恥ずかしい。フツーの体型に、若干近づいた」
「確かに、フツーとは言えない体型ですけどね」
「大きなお世話様ですね。偶然が偶然を呼んで、エアコンのスイッチが入っても?」

「そら、嬉しいやら有り難いやら。良くもやってくれたナ、MIHIセンセみたいな」
「ですよねー、ですよねー。んじゃ、フツーにスイッチをポンッと」
「ナンか、急に涼しくなってきましたね。我慢大会の甲斐あって、効くウー。エアコン」

「フツーのボクなんか、更に扇風機グルグルですから」
「それは、フツーとは・・・。鳥肌立ちません?」
「オカシイですね−、フツーの温度設定なのに」

「あららー、こらフツーの温度じゃないでしょ。24度とは、いったいどう言う神経?」
「フツーのボクもちょっと冷えてきたので、ラウンドして暖まってきますね」
「私もそうします、うーサブ。こりゃフツーじゃないわ、しまったなー。参ったなー」

スイッチ・ポンッでターザンからシロクマに激温度低下医局の、午後。

第830話 不要御礼て(みのがして)

「センセ、あたしのパソコンどうでしたア?綺麗なモンでしょ」
「確かに、ホコリも付いていないし。傷もない、買ってきたバッカみたいな」
「年賀状宛名書きと、たまに出張報告ウ(語尾上げで)」

「使わないソフトが、やたらめったら。ワシなら綺麗さっぱり、風呂上がりじゃね」
「何時か使うかも知れないでしょ?何時か。んで、ナンたら言うロバが居ましたア」
「ロバじゃないけど、木馬が3匹ウロウロ」

「木馬なんて、可愛いじゃないですか」
「可愛くないヤツだから、始末におえんのよ。実際。んで、駆除した。トロイの木馬」
「へエ、その木馬ってとろいんだ!」

「それ以上、追求しないでネ」
「そう言えば、こないだからキーを押して動くまでとろかったのはそのセイ?」
「ついでにカスを掃除して、整地しておいた。ちいとは、サクサク動くようになったで」

「そんなことなら、ウエットティシュ用意しましたのに。おっしゃって下されば」
「あれ以上、言わんでエかった」
「んで、ナニかお礼をしなきゃ」

「お、お礼参りなんて。見逃しチくれー。命だけは、お代官様ア・・・」
「センセ。ミョーなモン、食べましたア」
「心から、感謝を込めてナニか」

「何もせず消えるのが、最大の感謝」
「ホンのささやかな、気持ちでも?」」
「愛も要らなきゃお金も要らぬ、あたしゃも少し背が欲しいなんてな」

「あのー。センセのそう言うヘンなとこ。あたしのパソコンに伝染しませんよね?」
「タブンな、タブンじゃけど。気になったら、トンカチで3発ゴンゴン見舞ってネ」
「先ずセンセをトンカチで治した方が、早くない(語尾上げで)」

お礼は見逃してもらいたい、午後。

第829話 胸揉不整脈(う゛いえふ)

「しかしナンやねー、いつも思うけどモニター。君達、スイッチの切り方知ってるね?」
「そらセンセ。後ろのポッチを、モヤシのような細くて真っ白な指で。ポチッとね」
「コンセント引き抜く以外に、奥の手を知ってんだ。流石やねー、イヤイヤ凄いわ」

「センセなら、ハサミでコードを切るってのもありますよね?」
「ナンとかとハサミは使いようってな」
「流石ですとねー、イエイエ凄かですモンねー。福岡出身、あ・た・し」

「んで、一番上のPさんって。あれでエエの?不整脈みたいな、フツーは見ん」
「はア?」
「心電図診てると、ちょい見でVf(心室細動と言う不整脈)。ナンか変」

「あらら、ちょっと見てきます」
「走れエー、転がれエー、キンちゃん走りッの2分後。
「センセ、見てきましたわ」

「んで、バイタルは?」
「血圧124の68、脈68。意識バッチリ」
「付き添いのバッちゃんのを計って、どうすんの」

「イエ、Pさん本人ですけどオ」
「んじゃ、どうしてあのモニター?」
「奥様が、胸をピコピコ・マッサージ」

「医学的には、それをバッちゃんマッサージ性Vfって。知ってた?あ、バカにしてる!
んじゃ、フツーに命に関わるVfと鑑別診断はどうすんの?」
「キンちゃん走りで、患者さんを見に走る(語尾上げで)」

教育の効果があって返しが上手くなった、朝。

第827話 嘔吐唾液差

「んじゃ、始めまーす。931歳男性のWさんは、ベッドに倒れていて発見され入院」
「おーい、そらオカシイやろ」
「あ、そうでした。年齢91歳」

「そっちじゃなくて、ベッドで発見された時のことや。オカシイやろ」
「凄っごいフツーでしょ、何処がおかしいんですウ」
「発見された時、ベッドでカッポレ踊ってたりしてもオカシイけど」

「センセならちっとも不思議じゃ」
「チュチュ着てクルクルなら、もっとオカシイけど」
「そう言う見世物風は、ゼヒ見たいですわね。センセ、一度お試しに」

「そう言う意味で。倒れてるというか、寝てるのはワシのと違うなー」
「どう言う意味か分かりませんけどオ」
「意識のない状態でベッドに寝ているのを発見されたやろ、フツー」

「細かいことは無視して、入院来ずーっと嘔吐が続いてます」
「おろ?吐いてんの。うゲゲーみたいな」
「イエ、ペッペッみたいな」

「それって、唾液みたいな」
「んでも、口から吐き出すみたいな」
「あのね、あれは唾。嘔吐は胃袋から、ウゲゲーッが本物」

「んじゃ、あれは偽物の嘔吐(語尾上げで)」
「イエ、本物の唾液」
「ゴミ箱のティッシュの山は、ゼンブ唾液。止めていただくわけには」

「そらあんた、胃瘻から栄養を注入すれば反射で出るわな。ちょっとすると唾液が。
止めたら口の中が乾いて、虫歯になるで。歯がボロボロ、舌は苔だらけ」
「あのー、センセ。Wさんは総入れ歯で・・・」

「入れ歯がボロボロになるやろ」
「外してるから、フガフガで気にしなくてエエような」
「気にしなきゃイケンのは、10年先のあんたじゃッ」

「10年後は39歳ですッ!センセは爺歳でしょッ、どっちがどうなんだか」
「なんで、42に10を足すと39じゃッ!グルッとお見通しだぜイ、このたわけモン」
「何故にあたしのホントの歳を?」

「検診の心電図に、名前の横に年齢性別。あんたホントはハーフ・アンド・ハーフか?」
「ナニ言ってんですか、見せられないけど、正真正銘の美しき女優ですッ」

「そうだそうだ、脳みそのビョーキの3つや8つがどうしたってんだい。
死ななくても不思議じゃない女優だイッ。ゼッタイ、ホラー映画女優じゃネーぞッ」

「ナンの話でしたっけ?んじゃ、飲み込んだ唾液を吐いた場合それは嘔吐とは言わない?
その鑑別診断は如何に?」
「そら、簡単よ。出す時にペッペッかウゲゲーかで、鑑別するワケ」

とは言ったモノの、その鑑別法は書いていなかった私の教科書。

第826話 USBで医者

「あらッ、センセ。電話で呼びつけたように、病棟へ来られるんですね」
「さっき電話で、湿布を処方して欲しいって。んで来たけど、拙者先を急ぐ故。
さらばじゃ、お女中。イナゴを食って、達者で暮らせ」

「ナニ言ってんですか、とっとと処方して。もう2つお仕事ですよッ」
「ワシ、突然1つ以上は仕事が出来ない人になっちゃって。ホント、困ったちゃん」
「処方箋3枚書くのに、何時間かかるんですかッ」

「んーと、1枚が1時間17分じゃから。3枚で57日か?」
「どう言う計算するとそうなるッ」
「4玉そろばんで、パチパチ。願いましては・・・」

「ハイハイ、ではこのUSBから」
「あららー、ばっちいのが2匹。ハイ、ゴミ箱ッ」
「こらこら、駆除しなきゃ!」

「可愛いモンやで、トロイの木馬も。パクッと開けたら、パカパカスキップして。
あっちこっちのパソコンに、行ったり来たり」
「んだからア、センセに駆除させてあげようと。駆除するのは、トロイのナンたら」

「アブねえ、アブねえ。もうちょっとでワシを駆除かと」
「ついでと言っちゃナンですが、そちらも駆除。ヨロピク」
「んじゃ、さらばじゃ。ゴメン」

「コラコラ、まだ2本残ってますよ。このオ、USBのお医者さんっ」
「ワシ、初めて言われた。お医者さんって」
「そうでしょ、そうでしょ。人には隠れた才能も、隠したい才能もある」

USBのおかげで医者と認められた、午後。

第825話 誉めいたぶり

「センセ、オネガイが」
「ええよー。借金とイケメン紹介以外なら、なんでん言うてみんさい」
「んじゃ、そう言うことで。明後日まで、失礼します。お達者で」

「コラコラ、ナンかワシに頼みがあるんじゃないの?」
「あっ。いつもとえらく違うリアクションなんで、怒ったのかと。
火を付けられたネコと、キレやすい北京原人だけは関わり合いになりたくない」

「ワシって誤解されやすい人なのね、ホント」
「センセにとって誤解とは、見たまんま(語尾上げで)」
「即ちワシを、キムタク似とも言い換えるようなモンやね」

「論理矛盾とか屁理屈とかは、センセの脳みそ辞書じゃ印刷漏れなんですね」
「インク切れかも知れんし、印刷したバッカのところを濡れ手で触ったみたいな」
「そう言うクダラン言い訳は、お上手なんですね」

「それほどのことはない。そんなに誉められると、困る君」
「誉めることと5寸釘を刺すことと、区別がつかないなんて。医者に見てもらったら?」
「ホントのことが言えん医者と、脳みそがビョーキの医者とどっちに?」

「自分が医者だって事がワカラン医者よりは、数百倍まし」
「その”まし”の単位は、ミリか?それともナノグラムか?」
「恐らくトンと思いますよ、体型イメージはブタで、単位は匹(語尾上げで)」

「最近のブタは、ワシみたいに29頭身とは知らなかった」
「センセの頭は、蚤サイズで。首から下は横綱なみ?着痩せするタイプ?」
「どっちかと言えば、生まれてこの方着太りするタイプって言われ続けてきたボク」

「センセをそう評価した人は、眼病を患ってるか脳みそが発酵して臭いか」
「どっちかと言えば、5m近寄っても臭わない方かな」
「んじゃ、嗅覚もヘンなんだ。いたぶりつつ、誉めときます」

 誉めいたぶりの、午後。

第824話 無防備PC(かぜをひく)

「あららー、これって感染しとるで。ゼッタイ」
「そうでしょ、そうでしょ。あたし病棟のパソコンで作業して、風邪ひいたモン」
「ロボットみたいなやっちゃな、機械からビョーキうつされるなんて」

「美白足長、んでもって憂いなんかも溢れちゃうキューティ・ロボですね」
「いいや、真っ黒のダックスピッグ。名前はトントントン、ダーティ・ロボみたいな」
「与作が木を切ってる見たいな・・・でも、ゴホッ。咳が」

「んじゃなくて、パソコンがウイルス感染しとるっちゅーこと。エエんか。
伝染しまくって、病棟中が伝染音頭。踊りまくりじゃー、知らんデ」
「どうなるんですウ?」

「そのうち、新型ウイルスなんかに感染すると。まっ、全滅やね。お気を付け遊ばせ」
「んじゃ、あたしのパソコンも?」
「ウイルス対策ソフト、入れてるやろなー。ガンブラーなんかにやられると、一発じゃ」

「ネットするだけじゃのに、関係有るんですかア」
「あんた、それって怪しいホームページ開いただけで感染するんよ。
簡単に分かりやすく言うたら、パンツ履いたままウ*チするようなモンじゃ」
「ヤバイッ!んでも、理解不能」

「んじゃ、もっと分かりやすく言えば。マスクして、ゲロ吐くみたいな」
「きっちゃなくない(語尾上げで)、もっと違う言い方が出来ないんですかア」
「んじゃ、草原のシチュエーションで行ってみる?」

「そうそう、爽やかな感じイ」
「漬け物石を持って、草原に立ってるワケね」
「ナンか、怪しくない(語尾上げで)」

「んで、前に何か有るワケね。そこへポンッと飛び乗っちゃうんだ、思いっきり」
「怪しい臭いがしてきません?」
「そう、やっぱ臭うか。そらそ、飛び乗ったところは野壺のど真ん中と来とる」

「そしたら、ぱっくり割れてズブズブ・・・そのくらいオチは分かりますッ。
;でも、それとウイルス対策ソフト無しのネットとどのように関係が?」

「無防備って事や。ネットで感染するのが、一番ヤバイじゃんか。
恐いー、突然画面が真っ黒みたいな」
「キャー、どうしたら?」

「風邪を引く前に、パソコンをトンカチで殴るか。はたまた、氷水をぶっかけるか」
「それでウイルスは?」
「全滅じゃね、パソコンと共に」

「それって、治ったとは?」
「言えるモンなら、言ってみちゃう?そのくらい無防備だっちゅーこと」
「でも無防備って、恐いんですね」

無防備病棟パソコンは風邪をひく、午後・。

第823話 無線LAN勝手設置(まるにびんかん)


「センセ、ここへハンコを。あらっ、キャー。名刺イラスト、可愛いイ」
「コホン、婦長さアん。もっと大きな声で、はっきりくっきり言ってみて。3万回」
「もうエエでしょ、2回言ったし。んでも、この辺り・・・んー違うかなー。センセに」

「まあ、強いて言うなら、目エが似てる?まん丸な」
「丸と言う線は捨てがたいですわね、丸は。顔も丸、体型も丸。絵で描くと、3重丸。
丸の中に丸があって、その中にまた丸」

「ウッセ!なんか腹立つなー」
「んじゃ、印鑑貰ったし。撤収っす」
静寂が戻った医局、紙袋1つ抱えて事務室へ。

「あのさ、この無線LANルーター。ここへ置いてもエエ?まだ、使えるんよ」
「ゴミ捨て場と思ってなければ、ウエルカム」
「ここってLANコード余分が、1ヶ所しか刺すとこ無いやろ?そこへこいつをブチッと」

「んじゃ、ノートパソコン持って来たらエエんじゃ。ネットが出来るんですね。
確か、セキュリティを設定しさえすれば」
「このルーター丸いから設定無しでオール・ウエルカム。電波は近場限定、ひ弱」

「四角いじゃないですか、それ」
「ワシのように、四角をかぶったシャープな丸みたいな」
「それって。無線LAN曙時代の機種、ルーター界のシーラカンス」

「そうとも言う」
「それしかないッ、ツーことは。ハッキングし放題、情報ダダ漏れ」
「ハイハイ。あんたは、悪意があるワケね。ワシに、院長に、ダンゴ虫に」

「んなことないですよオー、こんな善良な市民をつかまえて」
「捕まえたら、極悪人みたいな。そう言うヤツは、獄門さらし首
「センセ。ゼンゼン丸くなって無いじゃないですかッ!」

「丸って、難しいのネ。んでさあ、丸虫って居るのに。なんで四角虫って居らんの?」
「歩く時に角が引っかかって、歩きにくいからでしょッ!」
「歩くうちにぶつかって角が取れて、丸くなったらマル虫?」

「んなアホな、丸虫」
「最後は、みんな丸くなるんだ。んで、ワシも丸虫」
「センセは、角虫ですッ」

無線LAN勝手設置で丸に敏感になった午後。

第822話 腰トレーナーになる

「あ、腰が痛い。んで、なかなか治らんワケね。病院でお薬貰ったワケ」
「ハイ。内科のセンセに言うのも、ナンですが」
「腰痛は、ちょっと本気で研究したんですわ。個人的に」

「センセ、ダメ。頭に火の点いた蝋燭を2本立てて、丑の刻に白装束。
変な薬草を燃やして、イタコに悪魔の整体師を呼び出してもらうとか。
イモリの黒焼きを3万匹、ぐいぐい行っちゃえとかはアカンですよ」

「それも1つの方法じゃけど、もうちょっと近代的でビッセンシャフトリッヒな」
「そのイッヒッヒって?笑うと免疫が上がるみたいなモンですか?」

「むかしお世話になった学長の口癖で、学問的って言うドイツ語」
「凄い、センセはドイツ語もオデキになるんですか」
「イヤ、ほんの一口ドイツ語だけね。ゼッタイ一口ね、二口は無いからね。他言無用」

「うー、うちのミケに言いたいけどゼッタイ我慢ですね。んで、センセの研究成果は?」
「それそれ。こうあぐらをかいて、ゆっくり前傾姿勢なワケ。10回で1セットやネ。
出来れば1日3から4セット。ハイ、腹筋鍛えますッ。どうぞオ」

「ウック、ウウウッ。センセ、あたしには無理じゃ?」
「ウエストは?」
「127cmですけど。体重もぴったり同じ127Kgって、凄いでしょ」

「体重もやけど、凄いと思う心をどうにかせなアカンれんねー。腰より先に」
「ハイ、ダイエット挑戦回数は10回以上を誇ってるんですけど」
「それを誇ると言えば、世の中ホコリだらけでしょ」

「んですかねー」
「んじゃ、今度はうつぶせネ。スカイダイビングで飛んだみたいで、背筋鍛えるッ」
「ウック、ウウウッ。センセ、あたしには無理じゃ?」

「ナンか、ふやけたぼた餅を地面に投げつけたみたいな」
「そこまで仰られると、心が萎びますねー」
「んで、最後の2つ。自慢じゃないけど、次のが最強でボクの秘技とも言える」

「ヘッ、まだ過酷なのが2つも?」
「さっきのは序の口。幕内というか、真打ちというのが次。100年後は、逆三角形かも」
「急に忘れ物を思い出したので、帰ってエエですか?」

やっぱ餅は餅屋と思うけど、スポーツ医学書を元に編み出したワザ。
これは自分だけしか効果がないんやろか?と悩む、団塊腰トレーナー。

第821話残金気遣(よゆう)
「Pさんでエエから、早よう採血してエよ。2回まで失敗して1 エエから」
「イヤッ、2回までエエっつーのが気に入らん。もっと言い方があるでしょッ」
「じゃ、Wさんでエエから。大サービスで、3回まで失敗しても許すんよ」

「イヤッで、右に同じイ」
「んじゃ、最後の砦。主任さん、行っちゃってエエよ。5回まで耐えるから」
「イヤですよ、あたしも左に同じ。MIHIセンセにでも、頼んだら」

「ワシは、やってエエよ。36回失敗も可?太さはピンク針で長さはカテラン針ッ」
「冗談は止めて下さいよ。いくら何でも、検診でSM」
「耳の穴からぶっとい針刺して、チューッと脳と一緒に血イ吸う?」

「そんなアホな病院は、ないッしょ」
「ここにあったら、どうするどうする?」
「トマトジュースで、補給(語尾上げで)」

「そこや、余裕や。なっ、Pさん」
「そうよそうよ、あたしなんか今月はあと\2000。んでもこの余裕。ウウ・・・」
「ナンこうたんや?ダイヤの漬け物石とか?」

「1年分の給料でも買えませんッ、バッグですウ。んで、あと1週間。\2000」
「安売りカップラーメンなら、メタボ腹が維持出来るほど買えるで」
「タンパク質は?」

「高級バッグをガジガジ囓って、出てくる汁をチューチュー」
「そうよそうよ、あたしなんかあと\4013よ」
「倍あるやないか!余裕じゃね」

「一家4人で\4013」
「何、こう(買う)たんじゃ?」
「旦那が新しい車が欲しいって、つい勢いづいちゃって」

「そういう時は、余裕でタイヤを1人1個、ガジガジ・チューチュー。
駄犬はスペアタイヤを、ガシガシ・ワオーンか?余裕で」

残金で駄犬のことまで気を使う余裕の、午後。

第819話 バッチイもん


<ピヨヨーン>
「あららー、画面が真っ赤!USB刺したら火事イ、みたいな」
「また、見ッけじゃん。そう言うことじゃ、困るじゃん。ゼンゼン、ダメじゃん」

「じゃんじゃん言われてもねエ。何事ですかア、これって」
「あんたのUSB、風邪ひいとるで」
「そう言えば、昨日の夜にゴホゴホ咳・・・はしませんよねー」

「独身のP君は、夜な夜なネットにはまり込んで。ヤーらしいサイトばっか見たり。
USBに怪しくヤーらしい写真なんかを、無防備でダウンロードしたり。
送ってきたファイルをパッパッ開きまくりしたやろ、USB刺したまま」

「センセ、ボクのストーカーですか。スイマセン、そう言う趣味はないんで拒否ります」
「アホ言いなさい、んじゃなくて。 あんたのパソコン周りは、ウイルスだらけ。
あんたのヘソはメチャメチャ臭いゴマだらけ、みたいな」

「もうこのUSBは使えないんですか−、レアもんの写真とかムービーが。ウフッ。
ウウ・・・。んでセンセ、こいつに注射するとか。治す方法は無いんですか?」
「2つ有るけど。1つ目はトンカチでぶち殴る、2つ目は強烈な磁石で擦りあげる」

「なーんだ、そんなことで・・・壊れるじゃないですかッ」
「壊れたら、ウイルスは増殖出来ないやろ」
「まあそうですけどオ、画像ファイルがア」

「ヤーらしい画像を見た罰じゃ、反省しなさい。画像処分!ちょっと気になるけど」
「やっぱ、センセも見たいんじゃ。反省しますから穏便に、このUSBを立ち直らせて」
「このパソコンでウイルスは除去出来ても、あんたの家のパソコン本体がバッチイ」

「んじゃ、ウエットティッシュでお掃除?」
「中まで綺麗にはナランッ!帰りにウイルス対策ソフトを買って、大掃除しなさいね」
「はアーい。んじゃ、オムツ替えてこ」

<ピヨヨーン>

「P君、しつこいッ!何度刺しなおしても同じやで。あら、婦長さんのUSBなの。
そう言う趣味有るんだ、ヤーらしい婦長さん」
「何がですウ、あたしのUSBどうなっちゃったんですか?これって夕焼けみたいな」
「あのね、これはね・・・」

院内パソコン周りの仕事が増えた、院内感染対策委員長の午後。

第818話 無防備な午後


「あららー、これって感染しとるで。ゼッタイ」
「そうでしょ、そうでしょ。あたし病棟のパソコンで作業して、風邪ひいたモン」
「ロボットみたいなやっちゃな、機械からうつされる(語尾上げで)」

「美白足長、んでもって憂いなんかも溢れちゃうキューティ・ロボ」
「いいや、腹も真っ黒ダックスピッグ。人呼んで、ダーティ・ロボ」
「ゴホッ。やっぱ咳が」

「んじゃなくて、パソコンがウイルス感染しとるっちゅーこと。エエんか。
伝染しまくって、病棟中が伝染音頭でヨヨイのヨイ。踊りまくりじゃー」
「電線音頭ベンジャミンですね、マニアック。んで、どうなるんです?これ」

「そのうち、新型ウイルスなんかに感染すると。まっ、全滅やね。お気を付け遊ばせ」
「んじゃ、あたしのパソコンも?」
「ウイルス対策ソフト、入れてるやろなー。ガンブラーなんかにやられると、一発じゃ」

「めんどくさいモンは、入れてません。ネットするだけじゃのに、関係有るんですかア」
「あんた、怪しいホームページ開いただけで感染するんよ。
簡単に分かりやすく言うたら、パンツ履いたままウ*チするようなモンじゃ」

「匂いがこもるッ!」
「んじゃ、もっと分かりやすいように言えば。マスクして、ゲロ吐くみたいな」
「きっちゃなくない(語尾上げで)、もっと違う言い方が出来ないんですかア」

「んじゃ、草原のシチュエーションで行ってみる?」
「そうそう、爽やかな感じイ」
「漬け物石を持って、草原に立ってるワケね」

「ナンか、怪しくない(語尾上げで)」
「んで、前に何か有るワケね。そこへポンッと飛び乗っちゃうんだ、思いっきり」
「怪しい臭いがしてきません?」

「そう、やっぱ臭うか。そらそ、飛び乗ったところは野壺のど真ん中」
「そしたら、ぱっくり割れてズブズブ・・・そのくらいオチは分かりますッ。
でも、それとウイルス対策ソフト無しのネットとどのように関係が?」

「無防備って事や。ネットで感染するのが、一番ヤバイじゃんか。
恐いデー、突然画面が真っ黒みたいな」
「キャー、どうしたら?」

「風邪を引く前に、パソコンをトンカチで殴るか。はたまた、氷水をぶっかけるか」
「それでウイルスは?」
「全滅じゃね、パソコンと共に」

「それで治ったって、言えます?」
「言えるモンなら、言ってみん?そのくらい無防備だっちゅーこと」
「でも無防備って、恐いんですね」

無防備な病棟の午後は過ぎて行く。

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作品集

第817話 良いんでちゅ

「センセってばア」
「何よ、甘えんじゃねーぜ。ワシは、あんたの父ちゃんじゃネエ。
ましてや、旦那であるはずがネーべ」

「当たり前でしょッ!センセがあたしのダーリンなら、ビールに睡眠薬をてんこ盛り」
「言うな!あんたがワシのハネーなら、飲めって言われる前に猫いらず口にてんこ盛り。
クイクイ、飲んで。3万年、爆睡だいッっと」

「そのまま、目を覚まさないッ!んで、オネガイがあるんですけどオ」
「イヤッ」
「パソコンの・・・」

「あ、それOK。ウエル亀」の5分後。
「はアーい、持って来ましたけどオ。あららー、田舎のパソコン修理店でもこれほど」
「重ねないようにして、置いてネ」

「しかしセンセ、まるで医者みたいな」
「おろ?ワシって、医者じゃなかったっけ。もしかして、女優?ダンサー?」
「んじゃなくて、パソコンの医者みたいな。そう言う意味で、医者」

「ゴジャゴジャ言わずに、身ぐるみ以外は全部置いて行きなさい」
「キャー、逆追いはぎイー。みたいな。んで、パソコン関連グッズ入りバッグは?」
「邪魔じゃ、持ってお帰り」

「んでも、有った方が・・・」
「良いんでちゅ、要らないんでちゅ」
「はア、何をちゅーちゅー。先祖はブタネズミ?」

「ウッセでちゅ」
「分かった、孫のMちゃん扱いしてんだ。あたしが、あんまり可愛いから」
「パソコンに、熱湯浴びせちゃうかんね。そういう、神をも恐れんこと言うと」

「赤ん坊扱い?これって、赤ん坊プレイ?キャー、ヤダ」
「あのね。フツー赤ん坊扱いしちゃうと言えば、元は大人。んでも、端からガキなら。
 赤ん坊扱いなんて言わんのよ、あんたの脳みそはまんま赤ん坊」

「んじゃ。センセを猪八戒似と言わず、まんま猪八戒と言えばエエんでちゅね」
「あんたの日本語、ヘンでちゅ」
「それでエエんでちゅ」

赤ちゃん言葉は、どこかで止めないといけないんでちゅ。

第816話 ゼンゼンの使い方
「おろ?センセ、もう既に帰宅モード?」
「白衣は暑いし、ピンク系チェックのシャツお気に入りじゃし。
あ、帰ってエエのん?超多忙ジイジは、帰って孫と遊ばなきゃ」

「いくらラウンド1が終わったからって、ダメですッ」
「ラウンド1.7が、終わっても?」
「ビミョーなラウンドですね。んじゃ、もう病棟には来ないんですかア?」

「ゼンゼン、来ない」
「そこまで強調することはないっしょ。例えば、眩しすぎるあたしの顔を見にとか」
「その例え、ゼンゼンすっごいヘン」

「ナンかセンセ、ミョーに若ぶってない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、キムタク似のジジイぶってるけど」
「いつもの35倍、ゼンゼンミョー」

「あー、Qさん。Mさんの笑顔ゼリー、幾つにするウ?」ナースT参入。
「ホエ、えらく可愛いネーミングじゃん。ほかにも有るんね?」
「他って、例えば?」

「垂れ目、デカ鼻ゼリーとか。ホクロ毛3本、ド近眼ゼリーとか」
「なんか、それってあたしを見て言ってません?」
「見て言うんなら、こんなモンじゃねーよ。ウウ・・・言いたい」

「聞くのが恐いけど、聞かなきゃ気になって寝られそうにないしイ」
「んじゃ。頭3017文字とケツ2750文字だけ、言っちゃおうか?」
「ゼンゼン、全部じゃないですかッ。言わなくて結構ですッ」

「ゼンゼン、言いたいー。ゼンゼン、イラッとさせたいー。ゼンゼン、聞かせたいー」
「ゼンゼン、ダメですッ」

ゼンゼンの使い方が分からなくなった、午後。

第815話 病棟のメロディー

ずいぶん昔「地下室のメロディ」モノクロ映画が放映され、テーマはCMにしばしば登場。
その後テーマは色んなジャズメンにアレンジされて、手持ちではマイルスのが1枚。
映画の内容は忘れてしまっても、出だしを聴けば直ぐ分かるメロディ。

げんこつ山のオ狸さん、おっぱい・・・

「あらら、センセ。お上手じゃないですか、フリが」
半開きドアの間から覗き込むストーカー風MIHIセンセに、背後から声。
「そらあんた。まっ週35、孫にせがまれて踊りまくりイ」

「んじゃ、1日5回平均ですか」
「しかしワーカーのD君のフリは、切れが悪いね」」
「確かにセンセのはシャキッと、無駄な動きがないですねー」

「あたぼうよ、思い起こせば65年前。ダンサーMIHIって、園ではちょっとしたモン」
「宴会芸、やられないんですか?」
「禁酒してるから、いくら何でも素面であれはなー。ご先祖に、顔向けが出来んやろ」

「そんな恥ずかしいヤツ。ゼヒ、研究会のアトラクションで」
「それも抵抗あるけど、患者としてげんこつ山をやらされたら暴れるなー。ゼッタイ」
「機嫌良くやればエエのに、好きな癖にイ」

2曲目の鯉のぼりはフリ知らずで、ラウンドへ。
口から出るのげんこつ山のをMIHI風アレンジで、ドングリ山のオオとコブシを回す。
次の病棟へ移動する渡り廊下、そよ風と共に流れてくるハーモニカのメロディ。
入院中の奥様に聞かせる音色は、私にしてみりゃ立派な音楽療法でしょッ。

ご主人と私は歳が変わらないから、童謡以外はレパートリーはぴったし。
今日のメニューは、懐かしのフォークソングで「風」と来たらそのまま通り過ごせない。
壁にもたれかかってしばし足を止め、聞きつつハモりつつ小休止。

この歌が流行った頃は大学生で、同級生の1/4はフォークギターを持っていたような。
コーラがぶがぶやりながら、歌本開いて歌ったモンだねー。
そんなことを思い出しつつ、テナー崩れが「風」を歌いつつラウンド。

病棟のメロディーにキレ良く踊る、午後。第814話 毒は薬か、薬は毒か?
「センセ、お願いがあるんですけど」
「ハイハイ。早く逝かせてくれ以外は、なんでもOKですけど」
「それは2番目で、1番目はあたしの薬のこと。センセがくれる」

「ワシの脳みそを廻しまくって考えた処方なんじゃけど、他に?」
「そう言うことじゃなくて、朝の薬を出して貰ったでしょ。一昨日」
「飲もうかと思ったら、手からこぼれてどっかへ行ったヤツでしょ?」

「そうそう、それなんですけど。それでご相談」
「またこぼれた?」
「そうじゃなくて、昨日の晩に鉛筆が転がって。お隣の方のベッドの下に薬が」

「あらま、元気な薬じゃねー。案外あれって、すっごい効くかも」
「それで、見つかった薬をどうしようかと」
「ゴミ箱へポイッで、エエでしょ」

「そうはイカンです」
「掃除はしてるから、ベッドの下にあるゴミは毒じゃないけど」
「そうじゃなくて、あたしが飲まずに捨てたと思われたらイヤ」

「んじゃ、ここでワシが大きな声で叫んだりして。おーい、皆さあーん。
落としたRさんのお薬が、ベッドの下で見つかったぞー。ウソやないぞー。
今から捨てるのはRさんじゃなくて、ワシやぞーって?」

「わざとらしいですわ」
「他所の部屋を回診してる時に、ゴミ箱へっつーのはどうよ」
「水に溶かして流さなくてエエですか?ゴミ箱から、誰かが拾って・・・」

「まあ、Rさんに毒は出してないから。他の人が万一あれを飲んでも、死なんけどなー」
「あ、センセ。毒をお持ちなら予備に1つ」
「やたら元気になる毒なら、3個持ってるから。1つぐらいなら・・・」

「そんな毒は、要らんですワ。んでも薬って、どれも毒じゃないでしょ?効くから薬」
「良く言うでしょ、毒にも薬にもナランもんって」
「どっちでもないのって、あるんですか?」

「プレセボって、医者の口先が効き目を左右するヤツ」
「まさか、あたしの薬はそのプラなんとかじゃ?」
「特に内科医は、天然の詐欺師って」
「あたしの夫は内科医でしたけど、詐欺師じゃございませんッ」

薬で叱られる天然詐欺師の、朝。

第813話 講師は、ベンベンッ


「ヘイヘイホーで、エエいポイッと。あ!」
「あ!いま捨てたのパンフでしょ?」
「ヘッ。私は誰、ここは何処、貴方は屁のカッパ?」

「まあ、わが社のじゃないから結構ですけどね」
「なんや、早くそれを言いなさいよ。思わず拾うところじゃった」
「W社のMRさんにチクッときますね。このあとP病院で良く会うんで」

「要らん事を言わんで宜しい、んじゃそう言うことで。達者で暮らしなさいね」
「センセ、オネガイが」
「そんなの、イヤッ!」

「まだ、なんも言うてませんッ!」
「オネガイって言われても、多忙だし、あだ名がイケメン・ドクだし」
「知ってますよ、あるセンセから聞きましたです。センセの独身時代の呼ばれ方」

「な、なんやろ?キムタク似は時代が合わんし、大河内伝次郎似も合わんし」
「人畜無害・品行不明・肉食1Kgって」
「そこまで知ってるのは、ムムム。あいつか、あいつか、あいつか、それともあいつ。
 はたまた、こいつ。うーん、悩むー」

「けっきょく誰かワカランワケですね、みんなが知ってる安請け合いドク」
「結構はっきりモノを言うやん、言い過ぎちゃう?んで、オネガイするワケね。ワシに」
「まあ、そう言うことですけど。んで、講師を」

「ベ、ベンベン。空気のようで空気でない、ベンベン。よっしゃ、調子が出て来たデ。
ため息のようでため息でない、ベンベン。それは何かと尋ねたら、ベンベンッ。
そら、水戸さんのアクビ、アクビ、アクビ・・・イヤイヤ、屁ッ」

「それ深夜放送で良くやってったって、祖父が話してました」
「あんたのジッちゃん、歳は?あ、去年が還暦。トホホ、殆どカワラン・・・」
「んで、それは講釈師でしょ。んじゃなくて、講師ですッ。軽ーく、オネガイ。
女性MRの頼まれ事を断るの、とっても苦手なセンセだから。軽ーく引き受けるって」

「8時半に終わればOKやで。孫を風呂に入れんとイカン」
「ちょうど良かった、早く終われば打ち上げの宴会の時間が増えるし。
浴びるほど飲めるし、センセは禁酒中と来てる。センセを接待した事にして丁度エエ」
「何が丁度エエんかワカランけど、接待なしでOK」

構想23分製作19分のテキトーちょっと笑えるスライド原稿は、メール添付で送って。
手ぶらで勉強会の講師になったけど、ナンで講師がワシ?の不思議。

第812話 不可口出文句(おもってるけど)
「オロッ、ワシのノリがないッ。啜った、誰や?チュウチュウは」
「ハイハイ。おにぎりに巻いていただきました、美味しく」
「こんど猫いらずを入れとこ。んじゃなく、ベターっとしてくっつくヤツ」

「そのノリですか。食べられないモンは、存じません」
「んじゃ、達者で暮らせ。ラウンドに、参るかんね」で廊下へ。

その後の会話は、私が放ったスパイのゴキによると。
「どうしてこれほど我が儘に育ったんだか、先祖の顔が見たいわ」
「実は、ノリはあたしが片付けたんよ。この間の深夜勤務で、眠気覚ましに掃除中」
「んだから、ここにはノリは無いはず・・・あらら、有る!しかもこれは」

「ナニ?どうしたんね」
「ノリの土手っ腹に、MIHI専用だから触っちゃイヤ!って書いてある。
あららー、その反対側は酷いわ。移動したら、折檻じゃ!だって」

「どうしたらああ言う我が儘し放題のジジイから、可愛い孫に繋がるんじゃろ。
パソコンの壁紙は、画面一杯に孫よ!けっこう可愛いんだから」
「世界七不思議なんて、思っても口に出せないわよねー」だったそうな。

次のラウンドを終えて、カルテを書こうと椅子に座った途端。
「あのー、センセ。言いにくいんですが」
「んじゃ、言うの止めたら」
「そう言うことじゃなくて、オネガイが」

「金と女のオネガイはダメ、それ以外は要相談。多分、キョヒ」
「ここをこうさせていただいて、これをこっちへ」
「ナンでワシの前を、お掃除するの?カルテが遠い、手が短い。足長いけど」

「こちらへこの様に・・・」で、座ってる椅子がそのまま動き出す。
「もしかして、こっちへ移動して欲しいワケ?それならそうと、言えば」
「ウザくて、言いにくくて」

「ボクってウザくない人」
「そうですかア」
「はっきり言えばア、あんた邪魔って」

「思ってますけど、文句は口に出せません」
「やっぱ、思ってるわけだ。ええいこうなったら、そっちへググッと」
「だ、ダメですよ。椅子持ってにじり寄っちゃ。かえって狭くなっちゃったでしょッ」

「物言えば、MIHIセンセのクチビル寒しステーション」
はたまた、「MIHIセンセに物言わぬは、腹膨くるるワザなり」・・・お粗末様。

第811話 抗生物質脳みそ回転効果


「コホッ。んッーん」
「あらら、センセ。ヤダわ、だいぶ良くなってんじゃないですか?3日前より」
「1日何とか水飲んで頑張って、耐えきれずに薬を飲み始めてまる2日かな?」

「なんか、ボーッとしてません。いつになく」
「鎮痛解熱剤が良く効いて、喉の痛みも減ったし。咳も減っては来たんじゃけど、コホッ。
その反動で、飲みつけない抗生物質なんかが脳みそに悪さ(語尾上げで)。」

「もっと悪さすればエエのに、30年ばかし連続で」
「抗生物質がバイキンやっつけずに、ワシの脳細胞をやっつけたりして」
「その可能性があれば、どんどんバリバリ。ガツガツ行け行け、抗生剤」

「休日当直2回目で、論文仕上げようと思ったのに。脳みその回転の悪いこと悪いこと。
夜勤明けに、ケツボリボリでハナクソポリポリ。ヘイヘイ、お疲れエーとか言って。
朝から缶ビール4,5本クイクイ飲んでる、メタボナースと変わらんな」

「なんか、身近感一杯。胸に突き刺さる、実感みたいな」
「それで、エエよー」
「あ、そうそう。それそれ。この間、病棟の歓送迎会でやったんですよ。もの真似。
リクエストが多いんですから、MIHIセンセの真似なら上手いんです。あたし」

「ワシみたいにもの静かで上品じゃと、特徴って無いやろ?」
「濃厚な癖がありすぎて、どれを選べば良いか迷っちゃう」
「んじゃそう言うことで、お女中。拙者先を急ぐ故、さらばじゃッ」
「そうそう、それも追加しとこっと。その手の振り付きで」

休日のプチラウンドを終え医局、抗生剤脳みそ回転効果。
BGMにVOAのCD廻せば、ブッシュとイラキとNコリアが脳みその中でグルグル。
英語の文献がいつになくサクサク読めた、抗生剤妄想効果の日。

第810話 医者ごっこ(1)


「んで、これがおばあちゃんのレントゲン写真なんですが」
「ホウホウ、これが癌ですな」
「イエ、それは胃泡と言って。まあ、ゲップの元ですわ」

「んじゃ、これが肺炎なんですね」
「イエ、それは心臓でして。肺炎はありませんけど」
「やっぱしねー。んじゃ、ここが骨折ですな」

「イエ、それはフツーに関節隙間で」
「じゃあじゃあ、ここが胆石」
「イエ、胸には胆嚢はありませんから」

「分かったア。何処も異常がない、全身元気と言うことですな。みんな安心しなさい」
「一応、見える範囲では問題なしです。あの、全身が異常なしではなく。くれぐれも」
「んじゃ、胸がオカシイって言うのは。何故?」

「心電図も異常がないし、もちろん聴診しても」
「ちょっとセンセ、あたしにその聴診器を貸していただけません」
「そらエエですけど、使えます?」

「子供の頃に、近所の子を集めて良くやったモンですわ。お医者さんごっこ。ウヒッ」
「そのウヒッて、ヤーらしくない(語尾上げで)」
「その時は、いつもあたしがMIHIセンセみたいになって」

「それって、結構ヤーらしいでしょ」突っ込むナースD。
「ゴムホースを3本繋げて。先に牛乳のフタなんか、貼り付けましてね」
「それって自分で作ったんですウ?」

「ハイハイ、凄いでしょ。ウフッ」
「ウフッですかねー。確かに凄いけど、なんも聞こえんでしょ。それじゃ」
「あ、そうなんですか!ザラザラ音がするから、あれが胸の音かと」

「牛乳のフタと、シャツがこすれるみたいな」
「今の今まで、ずーっと思ってました。65年間、あれが胸の音とウヘヘッ」
「ウヘヘッ、そらやっぱ違うでしょ。Pさんも、ホントの医者になれば良かったのに」

お医者さんごっこが好きなオヤジは、外来で一言多い。

医者ごっこ(2)
昔取った杵柄か、あまりにも典型的な心雑音だと誰かに聞かせたい循環器医崩れ。
「ハイッ、聞いて」差し出す聴診器を耳に当てるナース。
「んで、ザーザー言ってますねー」

「ビユウッって感じやろ、ナンか波がググッと盛り上がってくるみたいな」
「そう言われれば、盛り上がる波(語尾上げで)」
「心臓の出口が狭いから、こんな音になるんよ」

「出口が狭いと、こんな音がするんなら。我が家の玄関も、そんな音がするかもオ」
「ギギーイ、じゃネエし。この心音はキティちゃんの真っ赤聴診器でも、聞こえるやろ」
「そら、同じ音ですから。聞こえなかったら耳鳴りか幻聴(またまた語尾上げで)」

「んで次の方が、逆で。聞いてね」
「センセ、この聴診器キレイなんでしょうね」
「大丈夫、ワシが使う前にアルコール綿で消毒してある」

「することが逆でしょッ、センセが使った後に消毒ウ」
「そんなにワシは、バッチイ人か?」
「それじゃあ、バッチイ人に失礼でしょッ」

「ワシは誰?イタコは何処?ワシはキムタク?イヤ、ブラピ?はたまた・・・」
「んもー、しょうがないわねー。ただの医者ッ」
「エかったア、ワシって医者だったのね。んじゃ、次の方」

「父がお世話になります」
「あ、どうも。Qさん、元気ね?」
「体が悪いからここへ来た」

「あ、そうでしたよねー。ホントに元気じゃったら、こんなとこにはねエ」
「そうでもない、ヒマなヤツはこんなトコでも来る」
「あ、そうでもないですか。んじゃ、ひとつ診察でもしますか」

「さっさとやってくれ」
「んじゃ。お嫁さん、これを」Qさんの胸に膜を当てたまま、聴診器を差し出す。
「はア、あたしがですか?」

「おじいちゃんの心臓、こんな音してるんで大事にしてあげてね」
「波打ち際で、波が寄せたり引いたりみたいな」
「心臓の出口の扉が、締まりが悪くて。血イが、行ったり来たりなんです」

「母がいつも言ってました。父はあっちふらふら、こっちふらふら。優柔不断って。
心臓もそうなんですか?ふらふら、行ったり来たり。徘徊(語尾上げで)」
「それとこれとは・・・」

「センセもうエかろう、S帰ろう。イヤ、検査でもしてもらおうか。どうするかノー」
「心臓から血イが出ようとしたり、戻ろうとしたりで。ズうーザあー、なんよ」
「センセ、ワシの体でお医者ごっこかの?」

 お医者さんごっことそうでない境目がビミョーな、朝。

第809話 健診


「センセ。終わった?」
「一応な」
「んで?」

「血イ抜いたら、濃いこと濃いこと。濃厚じゃね」
「見た目真っ黒は、腹の中と同じ。みたいな」
「んでも、レントゲンは白っぽいで」

「そらセンセ、脂身が多いから。レントゲンが通過するのを邪魔して、白(語尾上げで)」
「なんか、いちいち引っかかるなー。ミョーなモンでも、ひらい食い(語尾上げで)」
「なんか、春って健診の季節ですよねー」

「ワシ、むかし循環器やってたんで。心電図をとられる時、すっごい緊張するんよ」
「へエー、センセでも。んで、ナンで?」
「心の中を覗かれるみたいな、そんな気にナラン?エコーじゃったら、腹の中丸見え」

「やっぱ、3段腹の門脈も胆嚢も真っ黒」
「ワシを、真っ黒人にしたいワケね。ワシのご先祖、赤道直下系白人か!」
「心電図はハート、エコーは腹。頭のCTは脳みそ。中身が見えちゃうんだ」

「健診は、鉛の兜と鎧が必須じゃね。全身見られて、辛い」
「ナンのための健診ですかッ」
「血イ抜くと、ナンか体が軽くなって。スッキップ、スイスイ」

「たった20g減ってもですかア」
「それにチクッと、カイカンー」
「その前に、脳みその健診でしょッ」

無健診脳みそをポリポリの、午後。

第808話 電灯と免疫能


ガタッ、ペタペタペタ。ギー、バンッ。ドアが開いて、次のドアが開閉する音。
トイレですっきりして、「さあてと」で医局の後始末をしたついで。
管理棟天井灯のスイッチをプチッの3分後、机周りを整理する丑三つ時。

ガタッ「キャッ、キャー」ボロ雑巾を引き裂くような悲鳴。
「な、なんや。真夜中の運動会かッ」
医局のドアを恐る恐る開けて見る私。

「キャ、キャー」
「キャ。ウギャー」
「センセの悲鳴、恐すぎるー。死ぬかと思った」

「死んでも、差し支えないけど。あ、まさか。鏡に映ったスッピンを、見たとか?」
「キャッ、キャーヤバー。んじゃなくて。トイレに入った時は、天井灯が点いてて。
出て来たら廊下が真っ暗、誰が消灯?みたいな。あたし、暗いのが苦手なんですウ」

「そういう時はキャー言うより、笑いなさい。恐いのがすっ飛ぶから」
「でも真っ暗な中、笑い声だけが響いたら恐いでしょ。すんごく」
「笑うと免疫能が高まって、恐さも4段腹も3倍は治まる」

「そう言うモンですかア、んじゃ。大笑い・・・出来ませんッ!」
「ヘイ、お休みなさいませ。座敷童に宜しく」
「ナンでそう言うことを言うかなー、看護当直室で独りなのに」
「笑いなさい、バンバン笑いなさい」が終わる前にバタッとドアが閉まる。

当直室へ、マイ枕と乱歩の自伝を担いで引きこもった2分後に騒ぐ電話。
「センセ、P病棟ですけどオ。患者さんの脈が急に160になりました」
「真夜中の運動会(語尾上げで)」
「んなはずネーでしょ、センセじゃあるまいし」

「ラジャッ」でモニターの前に座り込み。
「あらら、PAT(発作性の頻脈)んで、何かした?ままさか、3cm以上接近?」
「ハイハイ、しかもスッピンで。んじゃなくてエ、頭の上の電気を消しただけですよ」

「とうとう、やってもうたか。消灯は免疫能を落として脈が増えるんよ」
「またまた、直ぐ分かる冗談」
「んで、ぶどう糖20mlにアミサリン200mgで静注ネ」

「ホントでですか?」
「ワシは、他人の悪口とウソは言ったことがないッ。口から出るのは、誉め言葉だけッ」
「んなアホな。あららー、ホント。注射が入ったらいきなり脈が68、効いたワ」

「電気を付けたから、脈が落ち着いたんや。消灯は、免疫能を落とすだけじゃないんや。
脈を不安定にするんや、やっぱ消灯は恐い。寝る前に、全員笑って貰おうぜイ」
「そう言うセンセの方が、よっぽし恐い」を聞きながら5分後は当直室の人。

第807話 イタコ文献読み(ほめられた)


「あらまー、目が覚めるウ」
「そのまま、目が覚めなきゃエエのに」
「何言ってんですか、世の男性が嘆き悲しみドブに身を投げるでしょッ」

「野壺の真ん中に立つやろ」
「ワケワカランッ!」
「んで。とっとと逝かずに、目がさめちゃったワケね。しゃーないなー」

「んじゃなくてエ、その色。青虫が好みそうな若草色のポロ」
「パンツも同系の淡いグリーンなんじゃけど、見せんよ」
「そんな情報要りませんッ、お金貰っても見たくありませんッ!」

「やっぱ。情報処理能力の問題か?」
「センセの要らん情報を、サクサク削除する能力はありますけど」
「んで、もう仕事は無いな?あと3時間は缶詰じゃから」

「豚足とか、ミミガの缶詰?みたいな」
「んじゃななくてエ、久々に論文を書くわけ。んで、参考文献を整理中ウ」
「やっぱ、ブタ語の?」

「ブヒブヒッ、んじゃねーべ。やっぱ英語と日本語。英語やや多め」
「アルファベットが分かるんだ、ブヒッも」
「そらブヒッ、多少は。ブ、ブヒッ。ブタ語講座とかブタ方言集の情報は?あ、要らん」

「しかしヒマなんですねー。他のセンセは、論文書かないくらい忙しいから・・・」
「ワシみたいな達人は、文献の読み方がちゃうからなー。ゼンゼン」
「どのようにヘンなんですウ」

「あんたの日本語ヘン。違うとヘンは、違うやろ?」
「細かいことはエエですから、如何様にヘンか?」
「ただ読んで自分の都合の良いところをパクるのが、凡人やね」

「んで、センセみたいに変人だと?」
「書いた人に乗り移って、読むワケ」
「なんか、尋常じゃないような。イタコのような」

「ナンや、知っとるんか。イタコ読みを。お主、なかなかやるモンじゃ」
「い、イタコ読みイ」
「書いたヤツが、ワシに乗り移って。美味しいところを言わせるわけ、イタコ風に」
「やっぱ、センセはヘン。ヘンの隊長で、変態長ウ」

文献の読み方で誉められた、午後。

第806話 脱エジプトでおじゃる


「センセ、オネガイが」イケメン・ナースマンK君。
「男のオネガイは不潔ッ」
「あのー、意味分かりませんけどオ」

「んで、何?」
「もうちょっとだけでエエですから、処方箋を濃く書いて貰えません?」
「ワシって、体弱いんよ。足は長いけど」

「足短いですウ。カーボンの下の紙の字が読めなくて、すっごい薄いんですウ」
「そう言うカーボンは捨てなさい、燃やしなさい、ケツ拭きなさい」
「コーモンが痛いでしょ、あれで拭いたら。んじゃなくてエ、もっと力を入れて」

「世が世なら、ワシはやんごとなき御簾の中の人やったんやでおじゃる。
んで力弱い、スマンが顔キムタク似。ブラピ似も可」
「全然スマンし、非キムタク似だし。皆目、ブラピ似に非ずだし」

「お茶目なことに、先祖伝来ケータイ御簾もあるでよ」
「もしかして、悪行三昧。さらし首を待つだけの、やる気のない御簾の中の人?」
「それは塀の中の超弱気の極悪人じゃねエの、んじゃなくてエでおじゃるぞ」

「さっきから、ナンか急に平安朝?」
「生まれた四国は、平家の落人伝説がてんこ盛りでな。うちのバッちゃんに言わせると。
ご先祖は、壇ノ浦で破れて南に下り讃岐の西に住み着いた平家の落人でおじゃる」

「凄いじゃないですか!ワケわからんでおじゃる、みたいな」
「さらにさらに、凄いのは。ダビデさんじゃ」
「何故、いまダビデ」

「脱エジプトで、アーク。神との契約の書が彫られた石の板。あ、理解を超えてる!
そいつをエッサホイサ担いでインドを回って太平洋から淡路島にたどり着いたわけよ。
エジプトから動物をサイや猿など変えた、因幡の白ウサギ風の民話があるんよ。
西南アジアから日の国まで、点で繋がってるのはジョーシキ。
最後に山陰地方にたどり着いたっていう説もあるけど、ワシってそれ気に入らない人。
そらあんた、粗末な船で波に揺られりゃ。ウッウーと、気持ちワリイ。9人ゲーゲー」

「まるで見てきたかのような」
「修行の甲斐あって、目をつぶれば一目会ったその日から恋の・・んじゃなくて。
イタコよりクリア、イカサマ呪い師よりぼんやりの透視力なんよ。ワシ、そういう人」

「んで、四国へ渡って3年と3月葦を育てたわけ。んだから、天皇即位で着る葦の服。
あれを国有林の中にある葦畑で育成してるのは、MIHI家と言われておるでおじゃる。
国有林の木を勝手に伐採しても許されるわけ、ワシら一族は。タブンな」

「結果、木こりですか?」
「ちゃうちゃう、れっきとした由緒ある下働きでおじゃる」
「ナンか、インチキ臭い奴隷」

「んで、京都は太秦や。字の読み方がヘンやろ?あれは、ユダヤ古部族の名前。
淡路島のどっかへアークを埋め隠して、スタコラ北に逃げた先が京都や。
分かるかな−、ワカンネエだろなー。住み着いた部族の名前を取って漢字で太秦」

「それで、壇ノ浦で破れて南下しても四国から出ることがなかったでおじゃるか?」
「良きところに気付いた、誉めて使わすぞえ」
「んでも、誰から聞いたんですウ}

「脱エジプトは、お公家の原点でおじゃる。つーて、電波で聞こえてきたでおじゃる」
「センセ、宇宙人と会話が出来るんとちゃいますかア」

「な、なんでそれを!油断出来んやっちゃでおじゃる。
おじゃるのお尻は、真っ赤っかでおじゃる」
「ジョーダンはさておき、そう言うことで。処方箋は、力一杯オネガイしますね」

「ふあーいでおじゃるウ」の、昼休み前。

第805話 キャッ、止めてッ


「センセ、この間の会議。聞きましたわよ、嫌みったらしい事を言ったんでしょ?」
「アホ言え、ワシは嫌みと悪口は3度のカレーより好きっ」
「まだ、患者さんを様付けで呼ぶヤツが居るって言ったでしょ?」

「そうしたら、事務長が様付けで呼ぶ職員は居ないはずですって返したんでしょ?」
「3人の様付け呼ぶ声は、座敷ジジか病院の怨霊花子ちゃんじゃって言うた」
「キャッ、止めてッ、オバケの話。夜遊びが出来ないでしょッ」

「キャッ、止めてッ。素顔で、夜に出歩くのは」
「コラコラ、大丈夫。今以上に、バッチリお化粧するから」
「ノーメイクでも、ソートーおぞましいけど。そんな事されたら、誰でもチビルで」

「ナンなら、たった今チビらせましょか?」
「キャッ、止めてッ」
「ツカミはそのくらいで。はいはい。患者さんですよ、カルテ出てます」

「あと5分で午前の外来終了じゃったのに、ギリで間に合ったんだ」
「センセがお気に入りの方ですよ、すごーく」
「へえ、誰やろ?ヘップバーンとか、バルドーとか」

「古ッ、懐かしの映画スターばっかじゃないですか。センセ、ああいうのがタイプう」
「んじゃ今売り出し中で、人気沸騰。若手女優のアンジェリーナ・ドドパスか?」
「誰です、それって。聞いた事無いわ、あたしみたいな映画好きでも」

「Pちゃん、ウソよ。そんなミョーな名前、MIHIセンセしか思いつかんやろ」
「確かに、いくら何でもドドパスはねエ。んじゃなくてエ、Gさんですよ」
「Gさんって、男やろ?」

「そうそう、MIHIセンセが好きイーって。いつも。どうぞオ、Gさーん」
「失礼しまーす」
「あれ、今日は母上のお見舞いじゃ?」
「イエ、風邪をひいた?センセに(ここを声を大きくして強調)診ていただきたくて」

喉を診たり、聴診器を当てたりの5分後。
「熱もないし、特に異常ないけどなー」
「鼻水が・・・。鼻の穴もご覧に?クフッ」
「イエそこまでは、んじゃ風邪薬でも」

「ところでセンセ、お歳は?ウフッ」
「はあ、還暦とっくにオーバーっす」
「ま、まさか。40代の後半かなと。ブフッ」

「ハイッ、お大事に」
「やっぱ、GさんってMIHIセンセ好みナンじゃ。キャー」
「キャッ、止めてッ。ワシ、モーホーやないで。キャー」

「キャッ、止めてッ」の多かった外来、静寂を取り戻す昼はパン後ストレッチ。
 知人のヒゲオヤジからの患者さん紹介、昼休み明けに入院関係の書類を作ってたら。
「あら、何を隠れてゴソゴソ。ついでに患者さん一人、オネガイします」

「スイマセンねー、お休みのところ。具合が・・・」
「イエ、仕事中ですから。あら、Rさんじゃん」
診察と処方を終えて、書類の続き。

「あー、センセ。逃げて、駆除されるッ」
「キャッ、止めてッ」机の下へ入り込む。
「んで、ナンで?」机の下から顔を出す。

「ゴキブリ駆除が始まるんです」
「そらイカン、撤収じゃあー」

ゴキブリなみの扱いを受けた、午後。

第804話 真面目と不真面目どっち?
「オロッ、Gさんじゃん。何してんの、こんなところで」
「ここにキャベツを買いに来たら、直ぐ入院じゃろ?」
「確かに、裸でクリーニングを出しに来てもヘン」

「腰に来たワケ」
「あららー、ワシも。一緒や一緒や。嬉しいねー」
「センセ、センセ。そう言うところで、喜んでもろうてもなー」

「ナンでも、一緒は嬉しくない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、嬉しくない(語尾下げで)」
「ところで、MIHIセンセは誰にかかってんの?」

「Qセンセ」
「あ、私も。一緒や一緒や」
「喜んで良いのか、悲しんでエエのか」

「どっちゃでもエエけど、Qセンセは大丈夫か?」
「大丈夫じゃなかったら、ワシかからん」
「そう来るか」
「どう来りゃ、エエんじゃ?カルテばっか見よるから、頭の薄いのしか記憶にない」

「んでも、真面目やで」
「センセが真面目と思っても、他の人は真面目と思わんかもな」
「そら、多少は違う見方でかも」

「そうやろ、んでも腕は色んな人に聞いたら。変わらんやろ、腕がエエか悪いか。
真面目と腕がエエは、違うじゃなかろか?」
「んじゃ、ワシは真面目と思うかね?」

「そら難しくないワ、面白いセンセじゃ。真面目も、不真面目も当てはまらん。
ジメジメ暗い医者はイカン、パーッと明るくな。真面目もエエけど」
「んでも、不真面目に腰ミノ着けて。アロハー、なんて挨拶する医者はエエか?」

「そこまで言われると真面目の方が、エエわな」
「アホ面の真面目な医者と、キムタク似の不真面目な医者なら。どっち?」
「悩むわねー、そう言う厳しい質問は」

「ゴホッ、ゴホゴホッ」言葉に詰まって咽せて出た私。
「ここは整形。咳は内科に行かねばの、センセ」
「そこのお二人、お静かに願います。MIHIさん、どうぞオー」

「ハイッ」
「あら、P病院のセンセ。クックッ」
「んじゃ、明後日。センセんとこへお薬もらいに行くけんねー、お大事に」で消える。
「あ、どうも」と言いつつ診察室へ。

真面目とは絶対的なモノじゃなく相対的なモノ?と悩む他院外来の、午後。

第803話 キャッ、止めてッ
「センセ、この間の会議。聞きましたわよ、嫌みったらしい事を言ったんでしょ?」
「アホ言え、ワシは嫌みと悪口は3度のカレー好きっ」
「まだ患者さんを様付けで呼ぶヤツが居るって言ったでしょ?」

「そうしたら、事務長が様付けで呼ぶ職員は居ないはずですって返したんでしょ?」
「3人の様付け呼ぶ声が聞こえたけど、病院の怨霊花子さんじゃ。なんて、可愛いやろ」
「キャッ、止めてッオバケの話。夜遊びが出来ないでしょッ」

「キャッ、止めてッ。素顔で、夜に出歩くのは」
「コラコラ、大丈夫。今以上に、バッチリお化粧するから」
「ノーメイクでも、ソートーおぞましいけど。そんな事されたら、誰でもチビルで」

「ナンなら、たった今チビらせましょか?」
「おバカなこと、言うてないで。患者さんですよ、カルテ出してます」
「あと5分で午前の外来終了じゃったのに、ギリで間に合ったんだ」

「センセがお気に入りの方ですよ、すごーく」
「へえ、誰やろ?ヘップバーンとか、バルドーとか」
「古ッ、懐かしの映画スターばっかじゃないですか。センセ、ああいうのがタイプ?」

「んじゃ今売り出し中で、人気沸騰。若手女優のアンジェリーナ・ドドパスピーか?」
「誰です、それって。聞いた事無いわ、あたしみたいな映画好きでも」
「Pちゃん、ウソよ。そんなミョーな名前、MIHIセンセしか思いつかんやろ」

「確かに、いくら何でもドドパスピーはねエ。んじゃなくてエ、Gさんですよ」
「Gさんって、男やろ?」
「そうそう、MIHIセンセが好きイーって。いつも。どうぞオ、Gさーん」

「失礼しまーす」
「あれ、今日は母上のお見舞いじゃ?」
「イエ、風邪をひいたかも。センセに診ていただきたくて」

 喉を診たり、聴診器を当てたりの5分後。
「熱もないし、特に異常ないけどなー」
「鼻水が・・・。鼻の穴もご覧に?クフッ」
「イエそこまでは、んじゃ風邪薬でも」

「ところでセンセ、お歳は?ウフッ」
「はあ、アラ還暦オーバーですからア」
「40代の後半かなと。ブフッ」

「ハイッ、お大事に」
「やっぱ、GさんってMIHIセンセ好みナンじゃ。キャー」
「キャッ、止めてッ。ワシ、モーホーやないで。キャー」

「キャッ、止めてッ」の多かった外来、静寂を取り戻すと昼前ストレッチ。
知人のヒゲオヤジからの患者さん紹介、昼休み明けに入院関係の書類を作ってたら。
「あら、何を隠れてゴソゴソ。ついでに患者さん一人、オネガイします」

「スイマセンねー、お休みのところ。具合が・・・」
「あら、Rさんじゃん」
診察と処方を終えて、書類の続き。

「センセ。逃げて、駆除されるッ」
「キャッ、止めてッ」机の下へ入り込む。
「んで、ナンで?」机の下から顔を出す。

「ゴキブリ駆除が始まるんです」
「そらイカン、撤収じゃあー」

 ゴキブリなみの扱いは”キャッ、止めてッ”の、午後。

第802話 同じや
「人生100年。60、70はまだまだ。80でも、若すぎる」
「おうおう、言うねー。ワシ還暦じゃけど、怪物みたいなセンセと同じワケには・・・」
TVのインタビューを、耳にしながら呟く。

「生涯現役。何かしようと思ったら、やる前に口に出す事。これを、やるぞーって。
そうすると、モチベーションが上がって。ナンでも出来るんですよ、みんな同じ」
「同じだったら、世の中怪物だらけでしょッ!」を残して出勤する。

「コラッ!まだが出来んようになったか、すっとぼけてからに3年前とは違うなー」
「殆ど、同じや。先が短いから、我慢が出来んようになっただけ。ワウッ」
「それに、いちおう気を使ってキシリトール入りキャンデーや。虫歯予防」
「歳取って、歯茎ボロボロやから。砂糖どっぷりでも、キシリなんたらでも同じや」

茶ラブの哲っちゃんに遊んで貰って、ラウンドへ向かう。
「おっ、ヒマやろ。カモン、ヒマベイベ」
「人を見たらヒマヒマって、失礼な。婦長は忙しいんですッ」
「動いてんのは口だけやんか、気管カニューレの交換に付き合ってよ。どうせヒマ」

「ヒマじゃないけど、スタッフの仕事の邪魔をされたら迷惑だから私が直々に」
「んじゃ、3938号室ね」
「ホントはヒマじゃ・・・。あら、新人のYさんが居るじゃないですか」

「シッシッ、婦長さんあっち行ってエエよ。忙しいやろ」
「あたしは犬じゃありませんッ。Yさんがさんは人見知りするタイプから、あたしが」
「人の事を猪八戒呼ばわりするタイプは、要らん事センでエエ」

「ただ、人を見る目があるだけエ」
「若さで介助して貰うから、3秒以内に撤収するのじゃッ」
「フンッ!今度頼まれても、キョヒっちゃいますからね。ちょっとしか年が違わないのに」

「ちょっとって、3000年か?」
「あたしはゾンビですかッ」
「それを言ったら、ゾンビが気を悪くするやろッ」

「月夜の晩ばかりじゃありませんことよ、背中に注意しましょうねーっと」
「悪魔よりタチが悪いで、なっYさん」
「そういう風な事を、あたしに振られても・・・」

「陰でみんな言うてんのは、おおよそ同じや」
「みんな同じと思ってんのは、センセだけッ」
感じる事も考える事も、人間みな同じじゃないの?と思う午後。

第801話 IC好み
「んじゃ、センセ。RさんのICお願いしますネ」
「ラジャッ。んで、相手は誰?」
「お嫁さんと弟さんと、お孫さんとオ。義理の、んーと」

「コラコラ。ICで、ふんどしのバーゲンみたいに呼び込んでどうする」
「エエじゃないですか、多い方が燃えるでしょッ」
「ICやで。病状説明で、何千人はねー」

「んなオーバーな、高々4,5人でしょッ」
「まあエエわい。んじゃ、先ずツカミか?んで、オチまでどう引っ張るかじゃネ」
「フツーに、オネガイシマス」

「ツマランッ、フツーじゃ」
「しかしセンセのICは面白いって、評判ですよ。ごく一部で」
「県人会とか、町内会?」

「大体その辺りですけど」
「んじゃお呼びしてね、太鼓ドンドコ」
「インディアンの盆踊りや、お囃子じゃないんですから。Rさあーん、どうぞオ」

レポート用紙にイラスト描きまくり、言葉を変えて同じ事を2回繰り返し30分。
「んじゃ、こんな感じでエエでしょうか?」
「ハイ、よーく分かったような気になりました」

「まあ帰られて、あら?みたいなのがありましたら。何時でもどうぞ」で消える集団。
「センセも、早口ですねー。Qセンセと違うんは、同じ事を言い換えて、2回がエエわ。
その点、Qセンセは1本勝負のバトルみたいやもん。家族も、必死で聞いてたりして」

「緊張感溢れるICって、エエなー。ワシのナンか途中で、ヘッとか言うたりしたら。
んじゃそこんとこ、も一回行っちゃいますウ?みたいな」
「あ、そうじゃ。ついでにZさんの家族にICされません?」

「あのさ。Zさんって、ワシが担当じゃったっけ?」
「そ言う細かいことは、気にしない気にしない。あたし聞きたい、センセの面白いIC」
「ICで面白がって、どうするどうする」

もっぱら写真・イラスト・文献その他、盛りだくさんの入院サマリーでIC。
カラフルマーカーが花を添え、賑やかさも手伝ってやたら力が入る。

第800話 医師不可殿良(あたりまえ)

「あのー、センセ。オネガイが」
「イヤッ。んで、何?スペッシャル2択なら」
「2択ならア。1番、Pセンセの患者さんの処方を書く。んで、2番はア・・・。
 QってFセンセの患者さんの処方を書く。さてどっち?」

「んーと、んーと。3番ッ」
「大当たりイ、お目出度うございまーす。ハイ処方箋2枚」
「ハズレかー」

「あ、さっき入院されたDさんの病衣。サイズは?」無視するナースS。
「LLかな?イヤ、M。もしかして、Sじゃないわよねー」同じく無視は介護士M。
「MMやろ?もしかして、SMみたいな。キャー、やだ」割り込み私。

「センセは、ミョーなところで口を挟まないッ。何処の世界に、MMなんてサイズが。
 趣味のSMは気になるけど、ヒジョーに興味があるけど。キャー、やだ!じゃけど」
「Gさん、腹かかえて大笑いしとるが。確かに、ワシはスタッフ見たら笑い絶命」

「あたし達の何処をどう見ると、笑えるッ!死んでもらう方は、差し支えないけど」
「あのな、ワシ。喉が渇いたぞ」訴えるGさん。
「ハイハイ、殿。お茶のお時間でございます、どうぞ」

「殿なワケね。Gさんは」
「世が世なら、お城で殿なんですって」
「エエなー、医者よりそっちの方が。代わってもらいたいぐらいやで」

「MIHIセンセが、殿と代わりたいって。Gさん、ドクターになりたいって言ってた?」
「そんなクダランモン、なりとうないッ」
「流石やねー、そら殿の方がエエで。医者のワシがそう思うんじゃから、間違いないッ」

「今時の医者は、ツマラン。大臣の教育がなっとらん、息子も嫁も来ん・・・」
「あら、先ほどお見えでしたでしょ。着替えをお持ちになって」
「ありゃ、ワシのカミさんじ」

「3年前にお亡くなりに・・・」
「そうじゃったかの。ちいと、医者に説教せなイカン」

 医者より殿が良いのは当たり前の、朝。

第799話 有心意気出(こえにだせ)

「人生100年。60、70はハナタレ小僧。80で、半人前。やるき心意気は、声に出す」
「おうおう、言うねー。ワシ還暦じゃけど、怪物みたいなセンセと同じワケには・・・」
 TVのインタビューを、耳にしながら呟く。

「生涯現役。何かしようと思ったら、やる前に口に出す事。これを、やるぞーって。
 そうすると、モチベーションが上がって。ナンでも出来るんですよ、みんな同じ」
「同じだったら、世の中怪物だらけッしょ!」を残して出勤する。

「おっ、ヒマやろ。カモン、ヒマベイベ」
「人を見たらヒマヒマって、失礼な。こう見えても、師長は忙しいんですッ」
「動いてんのは口だけやんか、気管カニューレの交換に付き合ってよ。どうせヒマ」

「ヒマじゃないけど、スタッフの仕事の邪魔をされたら迷惑だから私が直々に」
「んじゃ、3938号室ね」
「ホントはヒマじゃ・・・。あ、無視っすか!あら、新人のYさんが居る」

「シッシッ、師長さんあっち行ってエエ。忙しいんやろ」
「あたしは犬じゃありませんッ。Yさんは人見知りするタイプ。やっぱ、あたしが」
「ワシの事を猪八戒呼ばわりするタイプは、要らん事センでエエ」

「ただ、人を見る目があるだけ」
「若い人に介助して貰うから、3秒以内に撤収ッ」
「フンッ!今度頼まれても、キョヒっちゃうから。ちょっとしか年が違わないのに」

「ちょっとって、3000年か?」
「あたしはゾンビですかッ」
「ゾンビが、気イ悪いッ」

「月夜の晩ばかりじゃありませんことよ、背中に御注意っと」
「悪魔よりタチが悪いで、なっYさん」
「そういう風な事、あたしに振られても・・・」

「まあ、やる気のあるYさんは。いちいち手エ挙げんでも、声出さんでも」
「ハイハイ。センセに関しては、あたしは無口で手を下げっぱなし」フンッの師長。

 やる気と心意気は声に出せ!の、午後。

第798話 吐気肥満5人目(つわりです)

「ウッ、ウー」
「おろ、Wさん。太った?あ、二日酔?ワシ、禁酒する前から二日酔の経験がないんよ」
「ホント、MIHIセンセはデリカシーがないわ。する事見てたら、年中二日酔じゃ」

「んじゃ。着太りするタイプで、ゲロ出しまくり人に変身したとか?」
「お目出度ですッ!」
「5年前から目出度いヤツで、ゼンゼン代わり映えせん・・・あ、5人目!」

「やっと分かったんですか」
「全員が、みんなMIHIセンセと同じじゃないんですから。デブの吐き気じゃないッ」
「そら目出度い、これで少子化問題も即解決じゃね」

「そう言う単純な問題でもないと、思うんですけどオ」
「ナンでもエエ、子供が増えたらエエんじゃ。将来安泰じゃね」
「5人の子供達がMIHIセンセを支えると思うと、お先真っ暗」

「確かに、人口比率からするとそうなるけど」
「MIHIセンセは、ずーっと他人に迷惑を掛けない範囲で現役して貰って。
 税金払い放題、年金貰わない放題、コロッと逝き放題でオネガイします」

「それじゃ、ワシの人生寂しくない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、寂しくない(語尾下げで)。ゼンゼン。フツー、フツー」

「あんた、顔も日本語もヘン」
「センセの根性も体型もヘン」

「ウッウー」
「おろ?M君もお目出度か?」
「妻がつわりの真っ最中で、うつったらしいんです」

「あんなモン、伝染するんか?」
「仲が良いとね、伝染するって知りませんでしたア」
「デブも伝染する、みたいな(語尾上げ)」

「ウソでしょ、んでも近いモンがあるわ。亭主も、うちの子もポッチャリ」
「自分を外すなッ!ただのデブ家族ッ」
「センセ、あたしはただのポッチャリ型ですからネ。こだわりの」

「両親がデブだと、子供もデブの可能性が高いらしいで」
「それって、伝染?」
「ただの環境問題やろ。環境が伝染するとは、言わんから。蔓延するけど」

「つわりが伝染しやすい環境とかは、関係なく。デブが、吐き気を催しやすい環境とか」
「そう言うのって、環境汚染って言うんじゃろか?」

 5人目のつわりと吐き気肥満の、午後。

第797話 薬効疑問(しんじる)

「センセ、聞きたいことが」
「あら、Rさん。ワシに?財布の中身と体重以外なら」
「んなん、要らん情報じゃ。センセは物を言いやすい、聞きやすい。ビョーキのこと」

「Rさんの担当は、Wセンセジャッたろ?」
「そんな些細な事、どっちでもエエ。薬は効くか?」
「効く時もあるし、副作用っちゅー毒にもなる」

「毒ねー」
「毒にも薬にもならないって言うけど、毒にもならんヤツは薬にもならん。
 薬は効くっちゃ効くし、効かんっちゃ効かん。どっちがエエ?」

「それを考えるのがセンセの仕事、飲むのがワシの仕事」
「効くから薬、効かんかったらイモリの黒焼き以下。どうせ飲むなら効くと思って」
「そう来るか、モノは言いようやの。信じるしかない、ワケじゃな」

 頼まれていた書類を書き上げて、事務へ向かえば。
「あららー、センセ。明日、センセの外来に行くからな。よろしゅう頼むで」
「どうかしたんね?再来週じゃろ、次は」

「昨日の晩から胸が痛いんじゃ、んで明日のセンセの外来まで待つ」
「コラコラ、そら待ったらアカン。看護婦さーん、心電図ウーに胸写もオネガイね。
 今すぐ、3秒以内ッ」

「何言ってんだか。Qさん、MIHIセンセなんか放っておいて心電図に行きましょうねー」
10分後に、心電図とレントゲン写真を持って現れる。
「しかし、信心するモンじゃねー。センセに通じたな、あたしの思いが」

「そうかも知れん。その点、ワシは無信心じゃからアカンなー」
「浄土真宗じゃ、うちは」
「んじゃ、うちも一緒やで。親鸞さんじゃったよな?」

「仏さんは、空中に浮いてるんよ。んじゃから、ナニかがあったら直ぐ飛んで来る」
「そらナンか胡散臭くない(語尾上げで)。そんな尊士が居ったやろ?捕まった。
 ホンマに空中に浮くんなら、捕まらんと飛んで逃げられるわな」

「それ以上言うと、罰がアタルで」
「はあーい。んで、心電図もレントゲンもOKじゃ。心筋梗塞とちゃうわ、松の葉っぱ。
 シャツに、2本刺さってたらしい」
「信心しただけの事はあるな。そう言えば、昨日。松の剪定」

 薬もMIHIセンセの判断力も信じるしかない、午後。

第796話 医者仕分と(ぴんぽいんと)

「流石やね−、出来る人はちゃうなー」
「ナニ感心してんですウ」
「ゴーンさんは、世界一をめざす!って言いきったモンなー」

「目指すなら一番でしょッ!やっぱ」
「ピンホーとか言う政治家が、ナンで世界一じゃなくちゃいけないんですか?
 そんな惚けた事言うて仕分けしとったやろ。言われた方は呆れて、絶句じゃモンなー」

「そう言えば、入院患者さんも仕分けされてるらしいですよ」
「わが社は来るモノ拒まず、予約順に入院してもらってんじゃん。介護保険関係か?
 介護施設に申し込むと、ナンか順番狂ってない(語尾上げで)みたいな」

「それは、施設が仕分けしてるんですよ。ヘンでしょ?ゼッタイ」
「確かに介護度が3とか4で丁度エエと、優先入所。1や2なら、あ!居ったの風?」
「その波が、療養病床の病院にもグイグイ来ちゃって」

「医療区分なんてミョーなモンを作って逃げ足速い純ちゃんより、まだタチが悪い。
 前の与党のセイにして、都合の良いように悪用するからアカンのや。最悪ウ」
「そんで、市内の療養型の病院じゃ医療区分の高い患者さんの取り合いらしいですよ」

「ヤダネー、下品だねー、ヤーらしいねー」
「わが社も今まで通りやってたら、負けちゃうでしょ?獲得戦争に」
「戦争と来たか!お年寄りを仕分けするなんて、みんな罰があたるで」

「そうなんですよ、そうなると介護度が軽くて独り暮らしだったりして。
 そう言う方が行けるところが、無くなっちゃうワケですよ。実際のとこ」
「ヤダネー。人生の先輩に恩返しする気持ちが、アリンコの糞ほどもないんだ」

「そのうち、センセ達も仕分けされたりして?」
「例えば?」
「めがねデブで、キレ易くて、何時もアホな事バッカ言う医者と。そうでないのと」

 私だけピンポイントで仕分けされそうな、午後。

第795話”ん”も”ぺ”も、納得行かない

「センセ、Pさん。夜になると、ヘンというか問題行動とか発言があるんですけど」
「夜じゃなくても、時々な」
「でしょ、でしょ」

「ワシがブラピ似なんてな、オカシイ。どっちか言えば、キムタク似(語尾上げで)」
「そらオカシイですよ、大サービスでオラウータン似じゃないと納得行かないワ」
「そっちの方がオカシイような、納得行かないような・・・」

「オラウータンに失礼じゃけど。納得行かない方が、オカシイ」
「他にオカシイとこは?」
「物忘れはハゲシイし、主治医はどんな人って聞いたら。ほっそり男前って言うしイ」

「んじゃ、フツーでまとも。ビンビン、納得いっちゃうんだかんね」
「長谷川式認知症検査が21点ですよ、センセ。納得行かないわア」
「あ、野菜の名前を聞いた?」

「ハイ、一気に13個も答えちゃって。春野菜で、8割正解。
 あたしでも4つしか思いつかなかったのに、納得行かないワ」
「んで、まさか魚の名前とかを聞いたんじゃ?」

「ハイ、気を取り直して魚を行っちゃいました」
「正解率高かったやろ?」
「そうなんですよ、納得行かないワ」

「そらあんた、Pさんは結婚するまで農家で育って。野菜作り18年のベテラン」
「んじゃ、魚には弱いはずでしょッ」
「それがな、結婚した相手が魚屋さんで。魚をさばいて40数年の、超ベテラン。

「キャーそら凄いわ、魚をさばくなんて。あたしを見る魚の目が、恐いイー」
「よっぽどあんたの方が恐いやろ、目があった魚が失神したりして。
 野菜にも魚にも強いから、そこら辺りは長谷川式の成績はエエはずや」

「確かに、あたしより」
「あんたの学生時代の成績とは、どえらく違うやろ。それに、あんたの旦那と同じや。
 帰り道がワカランようになって、自分の家にたどり着けないとこ。あ、家が恐いだけ」

「確かに、旦那は家に帰ると顔色悪い・・・んじゃなくて。じゃあどうしたら?」
「あんたなら、例えば。”ん”の付く循環器疾患を、5つ挙げなさい!はどうや?」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。”ん”の付く・・・んーんー・・・」

「ハイ、終了。お喜び下さい、0点でーす」
「ナンか、納得行かないワ」
「我が儘なやっちゃデ。んじゃ、もう一問。”ペ”の付く神経疾患を。
 そうやねー、39個挙げなさい!じゃったら?」

「んー、”ペ”ですね。ペ・・・んで、ナンで”ペ”なんですウ。しかも39個とは」
「ハイ、終了。お目出度うございます、0点でーす。あんた来てるかも」
「ナンか、納得行かないワ」

 納得行かないことが多々ある、フツーの午後。

(注)早期AD(アルツハイマー病)の診断は、臨床症状で行うしかない。
しかし症状が典型的でないことが多い。最先端の脳血流シンチは早期ADについては
診断精度が低く、ADの診断を助けてくれる検査方法としてCLOX(時計描画テスト)
があるものの同様であると言われる。
 早期ADの診断に、2つのテストがある。(1)あるカテゴリー(動物・野菜など)
のものを1分間でいくつ言えるか(CF)、(2)ある言葉(例えば「か」・「さ」・「し」
など)で始まる言葉を1分間でいくつ言えるか?(LF)の2問である。健常老人(NC)
とADの識別において、NC・AD識別率はカットオフ値を13と14でそれぞれ87%
と75%であった。簡単にできるメリットがある反面、職業や趣味その他により記憶され
ている語彙数に影響を受ける可能性がある。それを回避するために質問数を増やせば、
テスト時間が延びることが問題になった。

第794話 仮定白衣脱(すごいらしい)

「お疲れ様アー」
「あ、ここは職員しか」
「ナニ言ってんですか、あたしですよ。あたし」

「あたしさんですね」
「んじゃなくてエ、Zですッ。夜勤明けの」
「Zちゃん、MIHIセンセからかってんの。まだ懲りないのね」

「ふんとにもー、疲れてんだから。悪い冗談止めて下さいよ。チッ」
「そのだみ声は、まさかのZさんか。すっかり変わり果て、哀れなことよ」
「あたし白衣脱いで私服に着替えたら、凄いでしょ?女優でしょ?」

「ホラー映画の、落ち武者女優か?」
「それよりセンセ、昼過ぎたら白衣は着ないんですウ」
「ワシも、白衣を脱ぐと凄いんよ」

「確かに、知らなかったら変なオヤジ。んで、ナンしてんですか?」
「白衣の時はラウンドじゃね、やっぱ。んで、脱ぐと・・・」
「猪八戒の着ぐるみをまとった、メタボオラウータンの拾い食い」

「Zちゃん。それじゃ、あんまし凄くないやん。そのまんまやん」ナースB参入。
「そのまんまで、徘徊(語尾上げで)」ナースZ。
「スイスイスキップでラウンドするのも、凄くない(語尾上げで)」私。

「しかし、センセとあたしの兄が同じ歳とはねー。はアー」婦長さん参入。
「婦長さんも、白衣脱いだら凄い?野ツボに落ちた、落ち穂拾いのおばはんとか」
「うちの兄が言うんですよ、昔は可愛かったのになーって」

「今じゃモモンガの着ぐるみ脱いだら、やっぱモモンガみたいな」
「代わり映えしないワケですね、あたしは。センセと同じで、はアー」
「はアー。団塊の世代は、脱いでも脱がなくても代わり映えしないんだ。はアー」

 どのスタッフも白衣脱いだら凄いらしい、午後。

第793話白衣小坊主(ただのいしゃ)

「おろ?また、ワシのより3倍太いサスペンダーやんか。しかし、エエね。
 何処に行ったら売ってんの?虹色なんて、ワシのコレクションには無いなー」
「あら、そうですか。こっちは地味な濃紺ですけど」

「ネット検索、キーワードは?」
「帯と、んーと・・・抑制かな?」
「帰ってチェックじゃ」

「1本\2500でお分けしましょうか?ホントは\980じゃけど」
「もしかして・・・」
「そう、そのもしかして。ちょっとの間だけですけど、ご家族の了解を得て。
 ベッド柵を固定するんです。センセも、机に固定しましょうか?ガシッと」

「小一時間ぐらいなら・・・」
「イエイエ。これでがんじがらめの3年と3月、スペッシャルで飲まず食わず」
「サスペンダーとちゃうんかいな、アホくさ」

「使い方によっては、サスペンダーになるかも。センセのより素敵かも」
「ワシの今日のサスペンダーは、アームバンドとおそろいでな。
 ホームズ君も似たようなのを使ったかも知れん、英国製」

「中身はコテコテ、超純国産。地産地消みたいな」
「帰ったら、真っ赤なポロなんよ。こいつは、JFKお気に入りメーカーやで」
「中身はコテコテ、どっぷり国産。みたいな」

「あのね、ワシにインネンでもふっかけてんの?なんか、言葉にトゲがない?」
「言葉にあるのは、5寸釘7本」
「そら、たまにはイビクロなんか着ちゃいますけど。今日は、VANね」

「それて、芋虫の背比べっしょ」
「大して変わらんワケね、んで用事は何?」
「あ、忘れてました」

「そのまま、300年。忘れなさい、ずーっと」
「センセの寿命が持ちませんッ」
「んで?」

「入院時の、療養計画書なんですけどオ。エヘッ」
「その、エヘッの心は?」
「書いていただきたいんですけどオ」

「ワシ、外来で書いたで。忘れもしない15分前」
「実は、あたしが担当でエ。患者さんの名前をオ、北側さんを南南東さんって書いて」
「上手いッ、良くそこまで間違えてくれた。誉めてつかわす。ウウ、クソッ」

「誉めていただかなくて結構ですから、もう一度書いていただければ」
「そんなん、ちゃっちゃと二重線で消して。北東南さんって書き直せばエエやんか」
「北側さんですけどオ。北東南はあり得ないしイ」

「細かい事を言わないの」
「ヒイじいさまの遺言で、人の名前を二重線でちゃっちゃと消したらアカンって。
 特に療養計画書の名前を間違えたら、MIHIセンセに書き直して貰いなさいって」

「ヒイじいさんは、看護師じゃッたんね?」
「いいえ、白衣の小坊主って。聴診器と数珠を使い分けるんで、村じゃ有名」
「ワシと同じ、ただの医者じゃないネ。ヒイジッちゃんに免じて、書いてしんぜよう」

 療養計画書を書き換えるだけなら2分で済むのに10分もかかった、午後。

第792話 修理厠友(りたーん)

 カーテン越しに聞こえる<チャリラリラーン>
「あー、その着メロはMIHIセンセ。大ですか?」
「コラコラッ、カーテン開けるなッ。座るタイプで、小の真っ最中ウ」

「んでも、使用禁止って。紙に」
「んでも、ワシはええんじゃろ?」
「そうですけどオ」

「おろ、トイレが使えるようになったか?」トイレの友リターン。
「あ、Pさん。違いますよ。中にいるのは、修理のおじさんですよねー。おーい」
「そうそう、トイレ・ピッカ社でーす。ご迷惑をおかけしまーす」

「んで、まだ治らないんですよねー」
「そうなんですよねー、あと27年は治らない。みたいな」
「トイレが治るまで、ワシはもたんかも知れん」

「そらPさん、トイレが治った頃は110歳を超えるから。その時はオムツかもオ」
「たまに間に合わんで、危ないからのー」
「たまに?中の修理おじさんも、締まりのない下半身が危ないでしょッ」

「確かに、夜勤明けにあんたを見た時は。チョロッとチビる」
「んなことは無いでしょ、主人も子供も元気で生きてますから。タブン」
「トイレの修理するだけやのに、そこまで詳しいとは。エライもんじゃ」

「んーん、治らんなー。んーん」
「んじゃ、ワシ。あっちのトイレを使おうかい」
「ご自分専用のトイレが、お部屋に備え付けてあるでしょ?あれでオネガイしますね」

「んじゃ、修理屋さん。ごゆっくり、お治し遊ばせエー」
「続きを、出し直しせなアカン。いきなり声を掛けるから、途中で止まってしもうたで」

 カーテン越しの会話ではある時はトイレピッカ社社員であり、はたまたある時は医師。
その実体はテキトー・お気楽三昧・お茶目なオヤジ、すっきりして出会うPさんに。
「スンマセンねー、まだ治らないんですよねー、使えませんねー」。

 トイレ友リターンを見送ってチャックを上げる修理屋医師の、午後。

第791話 旧新人

 病棟移動の廊下中間地点に開いたシャッターから、暖かな光が差し込んで。
レントゲン検査に向かうらしい車いす1台が、20m先の視界の中。
「おっはよー、検査かね−。行ってらっしゃーい」

 車いすを押すナースとすれ違う瞬間。
「おろろッ」
「酔ってる?」

「危なかったア」
「どうしたんですウ」
「桜の花びらが、開いたシャッターから転がって来たんよ。踏むかと思ったで」

「想定外に、優しいんですね。転転ばなかったのが、残念やけど」
「ワシって、意外と優しい人」
「その優しさを、半分くらいスタッフに」

 最後まで聞くワケ無く、心ホッカリのオヤジは小走りラウンド。
「おろ、あんたこんなとこで何してんの?」
「9年ぶりに返って参りました、新人でーす」

「何が、何処が新しい?古手の癖に、新人いびったらアカンよ」
「あー、師長さーん。MIHIセンセ、パワハラですよー」

「9年前から、ゼンゼン進歩のないやっちゃで。旧い新人じゃね」を残してラウンド終了。
パンにコーヒーとストレッチの後はコナンドイルで1時間、この1ヶ月定番になった昼休み。

 久々に最初の推理を外したホームズは、短編「黄色い顔」。
ワトソン君に「自信過剰に見えたり、事件のために努力を惜しむように見えたら、
そっとノーベリと耳打ちしてね」の一言は、人間味溢れる一面かも。

 なんせ子供が出て来て胸が熱くなる意外な結末に、目が潤んだのは涙腺の緩み。
旧いヤツだけどいつも新鮮な感受性を持ち合わせたい私は、ある意味で旧新人?
そんなコナンドイル全集(全9巻)も8巻目となり、ボツボツ次を物色しだした。

 英語大好き中・高校生だった、古手の私。
トボケ防止にホームズの次はTOEIC攻略本2冊、医学英語検定は3・4級目標でしょ。
旧経済学部中退が、母校聴講生で経済学博士を獲得出来るか危ぶまれてきた。
せめて中学なみの英語力を維持出来たら良しとしたい、旧い杵柄の新人。

第790話 それぞれのDNAR

1)あたしのDNAR
「センセ。あたしの同級生、一人もオランようになってしもうたワ。
 15人、あたしがみんな見送ったで。香典を出す方ばっかじゃ。
 こんなんじゃ、あたしが逝ったら香典くれるモンが居らん」

「エやないの。みんなの分、長生き独り占めじゃん」
「んで、センセに頼みがあるんよ。入院したら、長引かせたらアカンで。
 コロッと、シュンッと。気持ち良う、逝かせてや」

「そう言うの得意とまでは言わんけど、まあ任せてエね」
「んで、いきいきトンボの時に色んなことしたらアカンよ。ナンってたかねー。
 DDTとか、JRとか新聞にあったで。それで頼むワ」

「虫が湧いたら、DDT。JRは、元国鉄。もしかして、DNRとちゃうかね?最近、流行はDNAR。
 三途の川を渡りかけてる時に、強引になんだかんだ引き戻そうとするヤツ」
「あそれそれ、PTA」

「それは学校、BBCはイギリス、WCはトイレ、AHOはアホ」
「もうあたし、ワケワカランようになったわ」
「簡単に言うたら。死にかけてて、もう助からんのに無理やり長引かせるな!やろ?」

「そうそう、それそれ。人が気持ち良う三途の川を渡って、もうちょっと向こう岸の時。
 こら待てなんて、ちょっとだけ引張り返して痛い思いをさせたら許さんからノ。
 大抵は、時間の問題じゃろ?あと30年も生きられんじゃろ?」

「30年は如何なものかと、んだってZさん120歳になるデ」
「そんなことされたら、娘も息子も見送らにゃならんデ。止めとくれ、冗談じゃない。
 まさかそこまでやるほど、センセは人でなしじゃなかろう」

「まあな、最近は穏やかな看取りとか言うやろ?あれって任されるた方は大変。
 1分でも1時間でも安楽、痛くなく、苦しくなく。どうしたら気持ち良く逝ってもらうか。
 考える方は結構しんどいで、DNAR言われた途端に必死や。脳みそフル回転」

「そうそう、それでエエ。あたしのDDT、頑張ってな。センセ」
「DDTは、シラミ駆除噴霧やろ」
「そうそう。尋常小学校で、頭に」

 まだ理解の乏しい、ZさんのDNAR。
注)DoNotAttemptResuscitation(=DNAR)は、一般的に「蘇生するな」の意。
死を覚悟した患者ないし家族によって、決める権利がある。
心停止に至って、心マッサージで肋骨ボキボキ。挙げ句が、胸ぺこぺこ。
余計な心肺蘇生法を行わないで、静かに看取って欲しいということ。

2)あくまでもボク的DNAR
 何の病気でも、治ってそこそこ元気になるか最後を迎えるかどちらかだ。
入院患者さんの平均年齢が80才に近いと、闘う病気も複数が入り交じっている。
一度ことが起こると、行き着くところまで行くことも多いのも事実だ。

 入院患者さんの殆どが、何処かの病院や施設からの紹介なので。
入院の申し込みはまずご家族で、義理にしろ実にしろ娘さんか息子さんが来られる。
お話を聞いて今後予想されることから、DNARに話が進む。

 99%の方々が、「無理な延命はしないで、こちらで出来ることだけで結構です」。
残りの1%も話が進むうちに、「そこまでは、やはり」で同じ意見に落ち着く。
患者さん第一を中心に、ここで出来ることを全てお話しをしておよそ20分程度。

 この時、私の最後の台詞は決まっていて。
「痛くなく、苦しくなく、可能な限り安楽な気持ちが続けられると言うことで。
静かな看取りで最後を迎えると言う考えで、ホントによろしいですか?」
了承された頷きと安堵の表情を見せ、ベッドが空くまで待っていただくことになる。

 お帰りになってから30分、転院されてきた時のチェックポイントを復習し。
この時に気になる部分の検査を追加し、必要最小限の投薬を考える。
転院されてくると、初めの1週間は静かな格闘になる。

「紹介状の診断は合ってんやろか?イラン薬を出してないんやろか?」
他の医者の診断と治療を端から信じないのは、意地悪な気持ちからではなく。
あくまでも患者さんのためと言うことで、指先も鼓膜も全身をアンテナとして診察。

 不足する脳みその回転は、帰宅してジャズと言う油をさしまくり。
時に焼酎、しょっちゅうビール、思い出してはウイスキーと止まるところを知らず。
ほろ酔いの時に出るアイディアはメモを忘れず、翌日見直せば真実を突いてるかも?
納得行く診断、納得行く治療が決まれば、これから本当の戦いが始まるボク的DNAR。

注;DNR(do not resuscitate)とは一般的に「蘇生するな」。
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)とは、「心肺蘇生法を行わない」とい
う意思表示。
死を覚悟した患者や家族のみ、この決定権がある。
容態が急変し心停止に至っても、心肺蘇生法を行わず。
静かに看取って欲しいという、意思表示と言える。

第789話 ケータイの壊し方

「あらセンセ、生きてた?」15年前から知ってるナースP。
「スマンのー、美爺薄命。ワシ、死にそうに見える?」
「スンごく長生きしそうな感じ。まだ逝かないんやろかって、言われ続ける感じ」

「んでは、お女中。拙者、先を急ぐ旅ゆえさらばじゃ」
「コラコラ、ケータイの電源切ってるでしょ?」
「切ってないけど、切れてるみたいな。ワシのケータイ、ホンに屁のような」

「どれどれ?」
「充電しすぎて、腹がパンクでとん死。めちゃめちゃラッキー、ナムハンニャー」
「えー、壊したんでしょ?ハア?充電したのに、スイッチが入らないワケ」

「留守中に3日間ほど充電したんじゃけど、雷か座敷童が壊したか?」
「充電中に、赤いマークが出ませんでした?」
「そう言えば、めがね掛けたブタか猪八戒がチラチラ見えた」

「画面に反射して、自分が映ってんでしょ。他には?」
「白い服着た、猪豚が2匹。ウロウロ、オムツ変えてた」
「妄想まで来ましたか、とうとうねー」

「お尻のポッケに入れて、固い椅子に座ったとか?」久しぶりのブー3号参入。
「ボクって、お尻のポッケにはナンにも入れない人」
「ナニがボクだか、なにが人だか。ケータイの壊し方だけは、上手なんだから」

「んで、今ケータイが入院中。逝きそうな感じイ。アーメン、ソーメン、冷やしソバ。
 しかし、ワシはケータイに電気メシを食わせただけやのになー。何でやろ?
 医者はケータイ嫌いなんか、ケータイが医者嫌いなんか」

「残念ながら、言いたくないけど。イヤイヤ言えば、前の方でしょ」
「そうかも知れん、色んなケータイ呼び出し音が、院内のあっちこっちでギャンギャン。
 何時までも、鳴りっぱなしやモンなー。誰も出んしイ」

 ケータイ嫌いでも呼び出し音を自分好みに変えてる、午後。

第788話 筆書指示書類(むだろうりょく)

「あららー、ホント。ペンを使うの嫌いなんですね−、センセは」
「ホエ?」
「処方箋ですよ、指示簿もパソコンに書かせたんですか?」

「どーしても新しい処方箋を指示簿に書いてみたいって、プリンターが言うんよ」
「どの口で、どのように言うんですウ」
「おちょぼ口で、右横に直径3mmの毛付きホクロがある口。しゃーないやっちゃ」

「しやーないのは、センセでしょっ」
「んでもいちいち、アホみたいに。ナニを1回ナン錠で、1日何回。飯時と日数なんて」
「それが仕事でしょッ。しかも、わざわざ指示簿にはめ込み印刷したりして」

「あれって、結構苦労したんよね」
「そんなヒマがあったら、手で書けばいいのに」
「手で書くほど、無駄な労力は使いたくない人なんよ。ワシって」

「あたしらに迷惑をかけなけりゃ北京原人でもクロマニヨン人でも、ナンでもOK」
「あのさ、クロマニヨン人ってどんなパソコン使ってたんやろ?」
「花崗岩とマンモスの骨で出来てる・・・。センセは、黙々と処方箋書くのが仕事ッ」

「それは仕事とは言えんやろ、書くだけならメディカル・クラークっちゅーんが居ってな。
 センセ、こんなん出来ましたけどオ。なんて、イヤミもインネンも感じられん人な」

「そんな病院には、センセみたいな医者はゼッタイ無理。無理ッ
 厚労省の言うとおりにしちゃいます。そうしましょったら、そうしましょ。
 MIHIセンセとは似ても似つかん、そう言う素直の塊みたいなセンセ専用」

「われ泣き濡れてかワニとタワムル、私はそう言う職場で働きたい」
「ナニを生意気。宮沢賢治、気取っちゃって。ヒマなモンだから」

 今時の指示簿をペンで書くのは無駄な労力っしょ!の、午後。<>

第787話処方箋書式替(おかみのいいつけ)

「センセ、わが社は今日からお上の言いつけ通りに書き換えて下さいね。処方箋。
 今までのエエ加減で、あ・うんの処方箋は書かないように。事故が多いって」
「ワシ。今日、外来止めたい気分」

「ダメですッ!特に、今日は多い日なんだから」外来婦長の檄が飛ぶ。
「だからア、消えたい気分」
「んじゃよろしくウ」

「なんかさあ。同じ内容を書くのに、いつもの753倍かかる感じイ(語尾上げで)」
「黙々と、オネガイしますね」
「急に腱鞘炎になった気分、ペンを持ちたくない気分、屁とため息を出す気分。プヒー」

「センセ、これってアカンですウ。こないだの勉強会で教えたでしょ」顔出す薬剤師さん。
「ナニが?ポン3錠、毎食後に飲めって意味やろ。ワシとあんたは、ツーカーの間柄や」
「ポンポコン1回1錠、1日3回、朝昼夕食後。14日分。こう変わったはずですけどオ」

「んじゃ、1日2食の人は?朝夕食後、無駄なあがきのダイエットで、昼抜きの時は・・・。
 んーと、ミネラルウオーターの場合は57ml飲んでから。渋茶は48ml飲んでから。
 水道水の場合は、どうしヨ。んで普段は5食で、二日酔で4食の場合は?3.3食は?」

「どれが昼飯で、どれが晩飯か分かりませんねエー。アホ臭」
「患者さんの家族にアンケートを採って、多数決で昼と夜を決定するとか?
 独身の場合は、チンチロリンで3回勝負!丸虫とゴキブリは、相談可でオネガイね」

「そこまで詳しい記述を、厚労省は要求しないでしょッ」
「んで、軟膏は?ケツに3mm、人差し指の腹でくるくる回し。ニューハーフは小指で」
「そうでしょうねー。4mm出してしまったら、チューブに1mm押し返せみたいな」

「んじゃ、湿布は?腰の中央にあるホクロ右3.5cmを中心に1日2回。孫の手で張り付け。
 冷凍庫で3時間冷やしてからの使用を推奨するが、ウヒッとか声を出すな。
 ”35分息を止めてから、貼っても良い”の但し書き付き」

「ホクロがない方は?」
「あ、そう言う場合はエエんよ。ワシがマジックで、テキトーに書いちゃうかんね」
「そんなことをしたら、どっちにしても1週間で患者さんが激減しますッ!」

「その前に、不登院の医者が増えるかもオ」
「第98診察室のDセンセもぐったりして、お薬減らした患者さんもけっこう」

 処方箋書式替えは御上のいいつけの、午後。

第786話 医者患者使分(ほんねたてまえ)

「センセ、花粉症。どうなんですウ。ズズーッ」
「ワシ、毎日鼻を洗ってるし。やくざなワシらの世界じゃ、1日3回足も洗ってるし。
 すこぶる鼻ツーツー、清く美しくキムタク似で。ゴメンね」

「昨日、花粉症が上手なG医院に行ったんですよ」
「診療所の裏で杉や檜を育てて、山に植えるのが上手いワケね」
「ちょっと違うような。んじゃなくてエ、治療が上手い」

「フツーの花粉症に使う薬はどこでも大して変わらんから、もしかして?」
「ヘッ、ナンです?そのもしかしてって」
「ゴキブリの喉仏とか、ミミズの踊り焼きとか、コブラの前足とかを煎じたりして」

「イエ、フツーのですけど。第九三共製薬」
「んじゃ、上手いんはシャベリとツカミやね」
「それを言っちゃうと、MIHIセンセと同じ(語尾上げで)」

「んで、口の上手いGセンセがなんて?」
「あたしは、若いから治りにくいって」
「あんたは鼻の穴が人3倍大きくて、花粉吸入力が人7倍強いやろ。
 んじゃからア。バッちゃんになって胸筋が弱ったら治るか、あの世(語尾上げで)」

「んで。お薬を1ヶ月分出しますので、それで様子を見ましょうって」
「1ヶ月飲んで効かなくても、花粉症の季節が終わるから自然治癒みたいな」
「検査は如何しましょう?って言ったら、肝臓と血糖でもしましょうって」

「血の気が多いから、5L程抜いて検査したワケね。動脈血」
「そんなに採ったら、貧血になりますッ!」
「安心しなさい、検査データは正常のはずや。次に検査するまで」

「んでネ。もう1ヶ月ほどお薬を飲んだら、一旦止めて経過を見ますか?なんて」
「飲んでも飲まなくても、効き目は誤差範囲じゃッ。無駄や!って、言いたいワケよ。
 ブタにネックレス、髑髏(しゃれこうべ)にアイシャドー、モモンガのどてら」

「いったいあたしは、そのうちのどれですかッ!」
「2択でオネガイします。1番マル虫、2番便所コオロギ。さてどっち?」
「んー、んー。3番のノリカで、ファイナルアンサー」

「あとは鼻に丸めたティッシュでも突っ込んでろ、なワケ。それがGセンセのホンネ」
「コラコラ。ゼーンブ、MIHIセンセのホンネでしょッ!」

 医者が患者になるとホンネと建て前の使い分けが出来ない、午後。

第785話 不健診ん(けんしん)

「センセ。今度、春の健診でしょ」
「年に2回のヤツな。面倒くさくない(語尾上げで)」
「くさくない」

「んでも、あれっておかしくない(語尾上げで)」
「しくない。と、思うんですけどオ。ナゼ故にオカシイ?」
「本来は、どこか不健康なとこネガーって検査するんやろ?ナマハゲみたいな」

「オヤジが多いだけに、ナマハゲ。みたいな」
「じゃったら、不健診って呼ばないとイカンやろ」
「あ、そういうのを広島辺りじゃ言うんでしょ。カバチなことを言うって」

「ワシ、高校1年生まで1年半福山育ち。広島弁は、いちおう身につけてるんじゃけんのー。
 東北弁も江戸っ子なまりも山口弁ベースだかんな。讃岐なまりまで入った、ミックス。
 おいでませ、だっちゃ。こんなんなんやけど、えかろうか?」

「言葉もカオスそのままですね、センセは。しかも、展開が強引で我が儘」
「あんたの言うカオスって、キムタク似の略?」
「何処をどう略すと、自画自賛の解釈」

「ぼれーカバチなこと、言うてくれるんじゃノー」
「んじゃ、7歩譲って不健診としてエ。もっと簡単、結果も速く出ないんですウ」
「確かに。一戸建てサウナみたいに、大きめ段ボール箱に首から下を突っ込んで。
 ハイッ、息を止めてエなんて言って。カタカタ音がして30分」

「その前に、絶命しちゃいますから。戒名を不健診札に書いておくと、スンゲ安心」
「3年も待ってると横の穴からガチャガチャ、トイレットペーパーに書いた結果が出る。
 貴方は不健康力68%ですので、余命9857日3時間5分29秒。なんてな。
 読み終わったら、水戸様を拭いて流せる得点付き。水戸様の湿り気で、滲むインク」

「見終わったら、さらに25秒寿命が減ってるワケね。通信教育の速読術が、役立つわア」
「んーと、んじゃどうしたらエエんじゃ?って悩むと。寿命がさらに17秒減って。
「んでワシのところへ相談に来ると、沈思黙考が26年と363日」

「その時点で、あたしの寿命は1日足らず!」
「恥知らず・脳みそ足らず・寸胴寸足らず、向こう139年まで豪華3大苦の付録付きッ」
「ナンのための健診ですかッ!」

「逝っちゃうまでに、あと3秒?あと17秒それとも59秒?どれがアタリかお楽しみ。
 ロシアンルーレット風に、心穏やかに緊張して過ごせるために決まっとるやろ。
 結果が出るのと、逝っちゃうのが同時なら凄ーく素敵なバラ色世界」

 健康診断で体と心の不健康は分かっても、根性の不健康はワカラン午後。

第784話 物着将来似(なぜいかん)

「キャー可愛い、どうするどうする。お母さんそっくり、惨さ計り知れず。行方知れず」
「どらどら、足の裏と背中の丸いのがナ。あ、もう白髪?あ、ゴミか!」
「センセも、だっこしたいでしょ?」

「ワシ、白衣。病院ヨゴレ」
「よー、自分のこと分かってんだ。その点、あたしなんか」
「汚物まみれ、社会の辛酸舐めまくり、バイキンまみれ」

「ハイハイ、何でも言うてください。Yちゃーん、ベロベロバーッ」
「ギャー、ウワワーン」
「それって、折檻に近いんちゃう?27cm接近して、その化粧やろ」

「それって、パワハラに近いんちゃいますかア」
「しかしあんたら、ヨー連れてくるなー。抵抗力のない赤ちゃんを、病院なんかへ」
「オカシイですかア、ヘンですかア、ミョーですかア」

「まあカツ丼に着いてきた黄色いんが、サフラン漬けだったみたいなモン」
「日本人は、タクアンっしょ!」
ナンでそんな怪しいモンが着いてくるかなー、みたいな」

「表現に、難有り(語尾上げで)」
「んじゃ。赤点の答案に、学校呼び出しのイエローカードが着いてきたみたいな」
「それって、凄い実感」

「ワシって、そう言うのに実感が湧かん人」
「でもアタシンチの息子は、幼稚園ですけど。病院大好き、あたしの白衣姿が素敵って」
「ミョーな薬打って、妄想が出てるとか?」

「フツーの幼稚園児ですッ!」
「フツーの幼稚園児なら、あんたにヨイショせんと晩飯抜きくらいは分かるわなー」
「んじゃなんですか、うちの子は世渡り上手なMIHIセンセみたいって仰るんですかッ!」

「ガラポンで、ハズレの玉にくっついて5等賞の玉が出てきたようなモンや。
 間の悪いところにも、時にはささやかな光が射すこともあるでよ。みたいな」
「生まれてこの方、くじ運悪いっす」

「ワシみたいな子は、将来有望。ドドメ色の人生に、色んな物が着いてくるみたいな」
「息子の将来は、センセと同じ不安カオスのまっただ中ですッ。そら、イカンでしょ?」
「それって、スンゲーハッピーとちゃうん?」

 着く物でMIHIセンセと坊やの将来が似てたら何故イカン?の、午後。

第783話 鍛錬昼休(きんとれ)

「おろ?センセ。ミョーな腰つきが、良い感じイになったんじゃないですウ」
「そうなんよ、あるセンセの答えで甲羅からヒョウタンネズミ・・・んじゃなくてエ。
 ヘソからマル虫・・・んじゃなくてエ」

「ハイハイ、その辺りで話を戻してと」
「腰イテテでお世話になったセンセに聞いたワケ、牽引ってどうなんですか?と」
「ホウホウ。んで、ついでに首も締めて貰いなさいって?キュキュッと力一杯」

「思いっきり首締めて、素敵な絶命。んで気持ちエかったら、エエんちゃいますって」
「そら気持ちが悪くても、効けばエエですけど。効かなきゃ、センセ風でアホみたいな」
「んじゃなくてエ。裏を読めば、効かんっちゅーことやろ。他力本願じゃ、アカンと」

「とどのつまり、その心は?」
「自助努力じゃッ!ちゅーことや。基本、大腿四頭筋と腹筋と背筋の筋トレや。
 んで、ワシって目覚めがエエから即実行。1日3回腹筋トレで、腹は横に割れるし。
 背筋トレで体型変わって、フルモデルチェンジの正三角形」

「んじゃ、ゼンゼン変わってないじゃないですか。フツーの人は、腹は縦に割れるしイ。
 背筋付いたら、逆三角形じゃけどオ」
「脂身にも筋肉が付くらしい、下腹なんかキンキン鋼鉄のメタボ腹やで」

「それで腹踊りしたら、下手な動物園顔負け。珍獣以上、世界七不思議以下」
「ドサマワリしたら、客入るかなー」
「それで射的の的になってキャーキャー言いながら走り回れば、人気沸騰でしょ」

「ワシ、いま想像したんじゃけど。そう言う時は、お面かぶってエエでしょうか?」
「潔く素顔の方が、鉄砲で撃つ時に力が入ってエエんじゃ?あたしなら、バズーカ3発」
「腰だけは避けてね、オネガイしますね、そこんとこ見逃してね」

 筋トレ鍛錬の、昼休み。

第782話 団塊医と師長の体調関連

「センセ。ちょっとお聞きしますけど」
「イヤッ、聞かないで。オネガイッ」
「まだ、ナーンも言うてませんけどオ」

「どうせ、ワシがキムタク似。ブラピ似じゃイケナイのは、どーして?みたいな」
「聞くだけ無駄、聞いたら耳が腐る、聞いた後に後悔と憤懣が残る」
「んで、ナニよ」

「どちらの病棟から、いらっしゃいました?」
「2万3千7病棟やけど。あ、そんなの知らん。んじゃ、Y病棟」
「端からそう言えば、多少なりとも可愛げが」

「そんなにワシって美しい?可憐?儚い?」
「ゼンゼン。キモ憎らしさ37倍、ギャンギャン五月蠅さ75倍、超うざさ91倍」
「んで。ワシがY病棟から来たら、風水的にアカンわけ?」

「んじゃなくてエ、Q師長さん元気でした?」
「鼻で息して、足で歩いて、顎のホクロに毛が3本が風にプラプラ揺れてた」
「なんか、見る度に弱ってるような気がするんですけどオ」

「ワシが見る度に、根性が螺旋状にグルグルとぐろを巻きまくってるような。
 ナンか、傷んだモンひらい食いしたんやろか?それとも、あんたのスッピン見た?」

「後の方はかなり後遺症が。本人でさえ油断して鏡を見たら、トラウマ3年は続くしイ。
 主人なんか、失神して会社休んじゃうし。息子は高校生なのに、チビるし」
「危ない家族やなー、ホンマ。んでもQ師長さん、さっきワシの前をスキップしてたで」

「センセの妄想じゃ?マスクして、ナンかやつれたみたいで。急に年取ったみたいな」
「あー、チクっちゃろ。某T主任が、Q師長のことを鼻タレババアって言うてたって」
「Q婦長さんが年々弱って行ってる分、MIHIセンセも優しくなって結構ですこと」

「あんたそれ、イヤミかッ!」
「センセが虐めるんでしょ、んでQ師長さんが」
「そうですよねー、MIHIセンセは優しくてゼンゼンキレないし」

「みいーんな、ワシが悪かった。拙者、医局で切腹して果てる故。先を急ぐ、ゴメン」
「確かに。そうやって好き勝手してたら、余分な歳取らんし体調絶好調っしょねー」
「それが、団塊ジジイの強さの秘訣かもオ。可哀想な、Q師長さん」

 Q師長の体調は団塊医に影響される、午後。

第781話 携帯破壊法い(らくしょうだぜい)

「あらセンセ、生きてた?」15年前から知ってるナースP。
「スマンのー、美老薄命って言うけど。ワシ、死にそうに見える?」
「スンごく長生きしそうな感じイ。まだ逝かないんやろかって、言われ続けたりして」

「んでは、お女中。拙者、先を急ぐ旅ゆえさらばじゃ」
「コラコラ、ケータイの電源切ってるでしょ?」
「切ってないけど、切れてるみたいな。ワシのケータイ、ホンに屁のような」

「どれどれ?」
「充電しすぎて、腹がパンクで頓死。ラッキー、ナムハンニャー」
「えー、壊したんでしょ?ハア?充電したのに、スイッチが入らないワケ」

「留守中に3日間ほど充電したんじゃけど、雷か座敷童が壊したんやろか?」
「充電中に、赤いマークが出ませんでした?」
「そう言えば、めがね掛けたブタか猪八戒がチラチラ見えた」

「そら、自分が映ってんでしょ。他には?」
「白い服着た、猪豚が2匹。ウロウロ、オムツ変えてた」
「妄想まで来ましたか、とうとうねー」

「お尻のポッケに入れて、固い椅子に座ったとか?」久しぶりのブー3号参入。
「ボクって、お尻のポッケにはナンにも入れない人」
「ナニがボクだか、なにが人だか。ケータイの壊し方だけは、上手なんだから」

「んで、今ケータイが入院中。逝きそうな感じイ。ラーメン、ソーメン、冷やしソバ。
 しかし、ワシはケータイに電気のメシを食わせただけやのになー。何でやろ?
 医者がケータイ嫌いなんか、ケータイが医者嫌いなんか」

「残念ながら、言いたくないけど。イヤイヤ言えば、前の方でしょ」
「そうかも知れん、酷い時なんか色んなケータイ呼び出し音が医局でギャンギャン。
 何時までも、鳴りっぱなしやモンなー。誰も出んしイ。いっそ水浸し(語尾上げで)」

 ケータイを壊すのは楽勝だぜイの、午後。

第780話 略すなッ

「モーニン」で侵入したステーション、モニターの横を通り過ぎたMIHIセンセ。
「あららー、Pさん。エーエフで、タヒってんじゃん。どうかしてあげようや」
「結局、日本語で言うと?」

「心房細動と言う不整脈で、1分間に129と呼ばれる頻脈であれせられます。
 寝てんのに全力疾走は、えらかろうかしこみ。静めてあげようねっ、ちゅーこと」
「そこまで不自然に言わなくて宜しい。この上も無き、良ろしき指示を」

「ジ1A、ツ20、ゆじ。すすと。ワモも、あ37コロッ」
「それって、センセの得意なスワヒリ語ですかッ!」
「ちょっと略しただけエ」

「フツーの日本語でオネガイしますと、如何なことに?」
「ジギC1Aにツッカー20ml、ゆっくり静注。直ぐ、素早く、とっとと準備。
 ワシはPさんのベッドまでモニター持って行って、待ってんだかんな。
 あんたは37秒以内に、コロコロ転がってくるッ!な、な。分かりやすいやろ?」

「ハイッ、端からそういう風にオネガイします」
「最近さあ、色んな言葉を略すの流行ってんじゃん?」
「確かに、略しすぎですよねー」

「キモイとか」
「あ、あれね。まるでMIHIセンセ」
「確かに、キムタク似・もー・困っちゃうんだイッ!の略やろ?」

「どーしてそこまで、自分の都合の良いように並べられるんかなー」
「ウザイだってなー」
「あ、あれもMIHIセンセのための言葉ですよね−」

「確かに、嬉しいくらい・座持ちの良い・イケメンやで!の略やろ?」
「どーしてそこまで、自分の都合の良いように並べられるんかなー」
「あたし、だんだん気分が優れなくなって来たわ。センセ、略さずに行きませんか?」

「わそお」
「ナンですか、それ?」
「ワシも・そう・思うの略」

「好き勝手に、略さないッ」
「それを言うなら、スカリャッ!じゃッ」
「ウウウ、短い首を締めてやるウ」

 言葉をケチってやたら略したがるヤツらに警鐘を鳴らした、午後。

第779話 湿布相性(ててて)

「テテテ。センセ、イカンわ、あたし」
「Gさんは腰かね、痛いのは辛いのー。背骨にググッと来ると、タマランモンなー」
「そうなんよ。んでも、センセの顔を見たらちいとエエ。合うんじゃろうか?」

「こんなんでエかったら、舐めるように見てもエエヨ。ホントに舐めないでね」
「そうやねー。湿布でも出してもらおうか。やっぱあるんじゃろうね、相性」
「そらあるで、相性。ワシ最近、湿布にはうるさいんじゃ。湿布は、なーも言わんけど」

「そういう意味じゃナイけどナ・・・」
「んでな、P社のRは厚みがあって、効きそうな気がするんじゃけど欠点があるんよ。
 コタツで暖めておかんと、背中にでも貼った時にウヒョーッと来るで。刺激が」

「やっぱ、効き目が来るんじゃろなー。ウヒョーッと」
「んじゃなくて。あんまり冷たいんで驚いて、チビリそうになるワケ」
「そらイカン、そうでなくてもあたしゃチビリ症」

「んで、A社のMはその点はOK。んでも剥がれやすくて、太ももなんかに貼ったら大変。
 歩いてるうちに、ズボンの内側と太ももを行ったり来たり。3時間も経ったら凄いで。
 湿布のカッパ巻き1本出来上がりイ、みたいな」

「そらイカン、鉄火巻きがエエな。湿布のカッパ巻きは、食えんじゃろ」
「んで、その点でZ社のKはぴったし張り付くんじゃけど。そのぶん剥がしにくいワケ。
 貼り替えようと思って引っ張ったら、皮膚も一緒に剥がれそうでイテーのなんの」

「そらイカン。剥がれたら新しい皮が出て来るのに、あたしの場合は時間がかかる」
「ワシなんか剥がす時、ヒーとか声が出るんよ。思わず絶叫しちゃうね」
「なんて?」

「Z社の社長出てこいッ、あんたんとこの湿布はSMかッ!ってな」
「そこまで言うかね。湿布っちゃ恐いのー」
「湿布にも、ちゃんと相性が有るワケよ」

「イヤ。あたしが言う相性は、患者と医者の相性じゃ。センセを見るだけで治る」
「あ、そっちかね」
「テテテ。センセの話を聞き込んでたら、腰に来始めたで」

 医師と患者や腰テテテと湿布効果の相性は?、午後。

第778話人事異動る(うらがある)

「ハイ、んじゃセンセの番。ハイッ、間抜け面してエ」
「ワシ、アホやの?何時から。あ、生まれてこの方ずーっと。んで、何?」
「人事異動でYさんとRさんが異動になるんで、アルバムとダーツの的作り」

「ホウホウ、んでワシの写真は?あ、やっぱ的ね。思い切りぐさっと・・・コラッ!」
「良く独り遊びされますわねー、あたし感心するワ。んじゃ、Qちゃんも」
「明日じゃダメですウ?あたし、今日は勝負服じゃないんで」

「ナンの勝負じゃ?世界オカチメンコ大会代表決定戦か?」
「ナンかワカランけど、悪意だけは感じるウー。んで、オカチメンコって何?」
「カバチの上でメバチの下が、オカチ。ま、ある意味で美人の1つやね」

「んじゃ、良いとして、メンコは?」
「んで、イケメンの女性名詞がメンコ。東北弁でも可愛い子をメンコイ子って言うやろ。
 んでオカチメンコはとっても可愛い、女の子っつーことで」

「んじゃ、こっちも。そう言うことで、ダーツ的用撮影」
「ハイ、ピースッっと。服で勝負するより、点滴とかオムツ替えでも勝負せんね?」
「受けて立ちますわ。あたしらプロでも、優勝したら雄叫びなんか行っちゃう?」

「そう言う場合は、やっぱ勝負ババパンでガオーッみたいな?」
「ハイ、地味ーイなベージュ。イチゴアップリケ2個付きですわ」
「良く見たら、酔っぱらった沙悟浄とか」

「もうちょっとエエのは?」
「あ、どっちか言えばワシとうり二つの猪八戒(語尾上げで)」
「悪くなってるッ、それじゃ勝負出来ないでしょッ」

「武器なら、色々ご用意。投げ放題、12ゲージ注射針剣山とか。
 嗅いで失神、あれこれ着き濡れオムツ3枚重ね投げまくり。ウウウ、香りが想像出来ん。
 んで。人事異動って、なんかミョーなことやらかしたんか?」

「センセじゃナイッ」
「あ、そう。んじゃ、師長の嫌がらせに耐えきれず。自己都合異動?」
「人聞きの悪いことを言わないで下さいッ!何時あたしが嫌がらせ?」

「今朝ワシにやったヤツ。ワシあの後は目頭が潤んで、師長が美人に見えた」
「ジジイの花粉症が、すっかり治ってんじゃないっすか」
「1日33回、鼻洗ってんだかんね」

「ついでに、キレやすい心もザブザブ洗われたら如何ですウ」
「洗うと見える、人事異動の裏事情。無い方がおかしい、人事異動。
 有ればあったでなお怖い人事異動、無くて七裏・有って八裏」

 人事異動には裏があると思う、午後。

第777話 不意地悪処方箋(いくじなし)

「センセ、これはまだ時期尚早なんですけど」
「あ、ボクせっかちなんで。なんでも、世間で394番までに入っとかんと気が済まん人」
「センセがどういう方か気にしてませんが、もうちょっとだけ先にしてね」

「ちょっと先ね」
「ちょっとって、5分じゃありませんから」
「13分でもないよねー」

 薬剤師さんと私の会話から、1ヶ月も経過した朝。
「センセ、こんな書き方したら間違えますよ。処方箋」
「エライッ、あんただけやこの処方箋に気がついてワシに文句を言うたんは」

「誉めて貰わなくてけっこうですから、書き直しません?」
「タコも誉めればと木に登るって、言うた政治家が居る」
「何処の誰?」

「ブタ山総理じゃったかなー、それとも0.5沢幹事長じゃったかなー」
「そんな政治家いました?」
「あ、ゴビノビッチ・スケトーダラ大臣だったっけ」

「何処の国の、何処の出身?」
「忌の国の、町外れ大字谷底村」
「あたしそのうち、口から火を吹きますわよ」

「なんかな、薬は1回に飲む量を書けってなるらしいんよ。んで、練習や」
「予告無しで?」
「予告したら、防火訓練と一緒でホントの練習にナランやろ」

「んでも、みんな間違えると思うんですけどオ」
「気づいたあんたはエライッ!んで、あんたが使う”みんな”の定義がオカシイッ。
 何万人じゃ?何億人かッ!」

「そんなに職員は居ませんッ。高々、2万3千5人でしょッ」
「全国的に、処方箋の書き方で問題になってるらしい。んで、ワシが率先」
「全国的より、ローカル私が困ります。勝手に率先して貰ったら、驚くじゃないですか」

「惰眠をむさぼるスタッフに、薬のミスを無くしてね!って警鐘を鳴らしたワケよ。
「しかしナンやね−、他の病棟はどうなっとるんやろ?なーも言うてこんけど」
「どーせMIHIセンセが、意地悪してるんだろくらいに思ってんでしょ?」

 処方箋じゃ意地悪しないゼ!と言えない意気地なしの、朝。

第776話 話展開思案る(のうきたえる)

「エエじゃないですかア、むかし外科も習ったんでしょッ」
「んだって、30年以上前」
「ゴジャゴジャ言わずに、内科はセンセ担当患者さんなんだから」

「一応、診るけどオ。分かんなかったら、直ぐ外科やで。んじゃ、ゴム手2枚」
「そうそう、素直ねー。どーせ肥満なんだから、んじゃなくて、どーせヒマなんだから」
「おろろ、このゴム手オカシイで」

「外科のセンセは、いつもそれですけどオ」
「もしかしてRセンセもGセンセもヘンな宇宙人?」
「ヘンって言うなら、センセの大勝利。お目出度うございますウ」

「おっかしいなー、何でやろ?」
「サイズが違いますウ、MIHIセンセは5Lとか?」
「バカ言わないあるネ。サイズじゃなくてエ、指が入るとこが足らんあるよ」

「んじゃ、センセがタコ星人?」
「分かった、1本スペアの指が生えたみたいな」
「センセ、センセ。親指んとこが入ってませんよ、足らんはず」

「なかなかエエ目をしとるやないか、ごま粒みたいに小さいのに」
「親譲りですッ。センセも、もうちょっと脳みそ使わなきゃ。鍛えなきゃ!」
「あ、そうじゃ。脳みそ鍛えると言えば、エエんがあるじゃけど。聞きたい?3つ」

「3つですか、1つにマケてもらうワケには?」
「3つでセット割引になっています」
「割引には弱いんですよねー、悩むなー」

「あ、皆まで言わなくて宜しい。ゼヒ聞きたいって、パカッと開いた鼻の穴が訴えとる」
「鼻の穴がモノを言うわけですね、あたしの場合」
「1つは、高圧電流バリバリ3万ボルト座布団。2つ目がイタコの霊セラピー。
 んで、3つ目がミミズの飲尿。一気飲み7杯まで」

「どれもヤバくない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、快感」
「どれをやっても、脳みそドロドロみたいな」

「ドロドロになったところへ、とろみアップ粉を37gふりかければOK」
「ゼリー状ですね、脳みそも美味しい嚥下食に大変身」
「あのさ、3つ1度にやったらどうなるか聞きたいやろ?」

「恐くて聞けないけど、聞きたくもある昨今」
「それはねエ・・・フエッヘッヘ」
「キャー、あっち向いて喋っていただけますウ」
「熱々おでんも凍り付く・・・キャー。んーと、んーと・・・」

 話をどう展開させるか思案すると、脳みそが鍛えられる午後。

第775話 腰痛真実(かおす)

「あ、ッテテ」
「センセ、今スキップしてませんでしたア?」
「スキップが出来るワケねーべ。ゼッタイ、あんたの妄想」

「そうですかねー。猪八戒がスイスイッーと、スキップしてたような。
 あとに残ったケモノの加齢臭って、酸っぱい臭いしません?うちの旦那みたいな」
「確かに、吟醸酢風味やね。んでも、ホントに見えた猪八戒?」

「メタボイノブタがゴロゴロ転がって、見苦しく右往左往と言い換えても」
「キムタク似の激やせ沙悟浄なら、あんたの白日夢じゃけど」
「どれもヤなモンですねー、パソコンだったら完全削除ファイルみたいな」

「腰をかばって、車いすで回診したいもんだね。押して廻ってくれん?
 そんな優しさ溢れるスタッフが1人でも居れば、涙ちょちょ切れるんじゃけどなー」
「センセが座った電気椅子に、スイッチ入れたがるスタッフなら3万人は」

「そうかそうか、みんな優しいねー。嬉しくて、はらわた煮えかえるわ」
「そんなに喜んでくれるなんて、電圧3倍にしましょ。そうしましょ」
「有り難てえなってんだい、おかげでおいらは黒イモリだいッ」

「それほど喜んでいただけるなんて、不幸せまっただ中の災いと申しますか。
 ホーキング博士もびっくり、ブラックホールの喜び組みたいな。
 バンジー高度37%アップとか」

「ブラックホールもバンジーも、意味ワカランッ!」
「特別な意味、ありませんッ!ちょっと思いついただけエ。ほんの出来心っす。
 んだから、ワシは腰イテテなんじゃッ!」

「ホントにMIHIセンセは、腰イテテだったんですね」
「分かってくれれば、労ってね!あ、ここ期末試験に出ます」
「ナンか、嘘くさいんじゃけどなー」

「赤点とったら、地面に埋めて菜種油3L。毎日、口から注入」
「あたしのフォアグラ作って、どーする?」
「んじゃ、回診してこよーっと。アロハあー、クイクイッっと」

「MIHIセンセって、ホントに腰イテテ?」
「痛いモンは痛い、痛くないモンは痛いッ」
「んでもセンセ。昨日の研究大会、しつこく質問まくりだったらしいじゃないですか」

「あ、あれ。じっと座ってると腰に来るんで、ストレッチ代わりに質問。インネンとも」
「たかがセンセの腰のために、突っ込み質問。はた迷惑、余計なお世話」
「あの程度じゃ中ぐらいなり、おらが質問。イテテも中ぐらいなり、おらが腰」

 腰イテテがカオスになりつつある、午後。

774話上手言評価く(しゅぎょうふそく)

「センセ、Pさんって酷いんですよ」
「あのPさんやろ、転んで骨折して。リハビリやってる人」
「そうなんですよ、Pさん」

「まさか。あんたのホクロを、鼻よりデカイハナクソとか。誉めた?」
「それくらいなら良い方で」
「ナースZに。ケツもデカイけど、態度とメタボ腹は3倍デカイとか。誉めた?」

「それだと、ちょっと傷つきますけどオ」
「んじゃ、んじゃ」
「センセ。もしかしてあたしのこと、いつもそんな風に見てたんですか?」

「それくらいじゃ、ちょっとしか傷つかんやろ?」
「未だあるんですか?」
「2,3日寝られんくらいのヤツ、聞きたい?」

「ちょっとお待ちを、トンカチ持って来ます」
「5寸釘も4,5本ねッ」ナースR参入。
「君たちは表現がストレートすぎるねー、アカンよ。修行が足りんね」

「そんなモン、フツーでエエんじゃないですかア」
「もっとウイット溢れるというか、乾ききった雑巾を絞るように知恵をひねり出して」
「んじゃ。センセならこのパソコン画面を、どのように表現されますウ?」

「花火大会最後の一発じゃあるまいし、デスクトップにファイル飛び散らすんじゃねーぜ。
 こんなんできましたけどオ、よろしかったでしょうかア」
「あと一歩、ひねりが足りんですねー」

「奥の手を出して、ひねり出したら。スンゲーくて、笑い死に。
 聞いて驚くなよ。下痢ピー家族、便器側面に散らばったウン・・・」
「ハイッ、そこまでッ。捻り出しすぎッ」

 上手いこと言うワと評価を得るには、まだまだ修行が足りん午後。

第773話 上手言評価く(しゅぎょうふそく)

「センセ、Pさんって酷いんですよ」
「あのPさんやろ、転んで骨折して。リハビリやってる人」
「そうなんですよ、Pさん」

「まさか。あんたのホクロを、鼻よりデカイハナクソが付いてるとか言うた?」
「それくらいなら良い方で」
「んじゃ、ナースZに。ケツもデカイけど、態度とメタボ腹は3倍デカイとか?」

「それだと、ちょっと傷つきますけどオ」
「んじゃ、んじゃ」
「センセ。もしかしてあたしのこと、いつもそう言う風に見てたんですか?」

「それくらいじゃ、ちょっとしか傷つかんやろ?」
「未だあるんですか?」
「2,3日寝られんくらいのヤツ、聞きたい?」

「ちょっとお待ちを、トンカチ持って来ますので」
「5寸釘も4,5本ねッ」ナースR参入。
「君たちは表現がストレートすぎるねー、アカンよ。修行が足りんね」

「そんなモン、フツーでエエんじゃないですかア」
「もっとウイット溢れるというか、乾ききった雑巾を絞るように知恵をひねり出してネ」
「んじゃ。センセならこのパソコン画面を、どのように表現されますウ?」

「花火大会最後の一発じゃあるまいし、デスクトップにファイル飛び散らすんじゃねーぜ。
 こんなんできましたけどオ、よろしかったでしょうかア」
「あと一歩、ひねりが足りんですねー」

「奥の手を出して、聞いて驚くなよ。ノロ感染したあんたんちの便器のウン・・・」
「ハイッ、そこまでッ。捻り出しすぎですッ」

 上手いこと言うワと評価を得るには修行不足の、午後。

第772話 霊援助ー(えんれー)

「おっかしいわア、何処へ行ったんじゃろー。また作るかと思うと、ぞっとするわ」
「そんな恐いモン作るんね、ゾンビのおひな様とか?」
「そんなモン作って飾ったら、夜恐くて電気消せんでしょッ」

「何言ってんの、恐いモンなら他にもあるっしょ。MIHIセンセのヘラヘラ笑顔とか」
「それもあるけど」
「電気付けてスッピンのあんたの、ガーガー寝姿見る方が」いきなりナースD。

「確かに、ソーゾーしただけでチビる。んで、ナニ探してんの?」
「勤務表ですよ、手書きの」
「フツーの病院は、パソコンで作るわな?江戸時代じゃ有るまいし」

「ホー、江戸時代に勤務表なんか作ってたんですか。知らんじゃったわア」
「看護師諸法度、日々出務の心得。市中引き回しの上獄門さらし首お触れ、みたいな」
「こういう困った時は、女優Gは霊に聞くんですって。この間TVで」

「フンコロガシの霊とか、猪八戒か沙悟浄の霊に?」
「もっとエエのはナインですか?」
「大サービス、援助交際中のモモンガ霊ね。略してエンレー(援霊)」

「エンコーJKみたいで、聞こえが悪いでしょッ」
「ま、ワシならイタコに聞くね」
「イイダコ?イタチ?」

「ま、ダチじゃね。GPS経由のテレパシーで聞くんよ、ネットメールでもエエけど」
「んじゃ、聞いてみん?」
「はんにゃ、オーメン、南無ムムム・・・あららー」

「センセがやると、嘘くさくて。飲んでないのに、顔が赤くなるワ」
「信じる者は救われん、信じない者は野壺に落ちる」
「んじゃ、嫌々信じます」

「ハイッ来ました!重なった紙に押しつぶされて、ヒーヒー言ってるのが見えるって」
「ちょ、ちょっと待って下さいね。センセの太短い指が押さえてるでしょ、カルテの山。
 どかすとか引っ込めるとか、ちょん切るとかしてみん?」

「今この手をどかすと、祟りがあるらしい。切ったら3倍生えるって、イタコが言うた」
「あ、院長センセ」
「ヘッ、何処何処」

 ワケなく狼狽え、カルテを押さえた手が離れる。
「見ッけ、ここにあったのセンセ知ってたでしょ?」
「援助交際してたイタコ霊に聞いて、知ったんよ。エンレー効果は、凄んゲー」

 霊援助(エンレー)は凄んゲー、午後。

第771話 3年5年15年我慢(しんぽなし)

「センセ、お久しぶりです」
「おう、元気じゃった?前んとこで一緒に仕事して、1年で辞めたんかいね?」
「ハイ、ここで頑張ってます」

「ま、3年辛抱出来たら5年は持つし。5年持ったら、15年は。んで、3年辛抱や」
「もうここで、6年です」
「ほうか、ほうか。んなら、あと9年は持つな。ワシは、あと5年医者したら」

「漫才師?」
「はーい、メタボストレッチのMちゃんでーす。みたいな」
「センセって。ゼンゼン、進歩してないっすね」

「まともに突っ込み入れられるヤツ、居らんのよ。病院で、ナニを勉強してるんやら」
「センセは、病院にナニ勉強してるんっすか?」
「我慢、辛抱、忍耐かな?」

「赤点ばっかやん」
「あんたは誰?ワシはブラピ?ここは何処」
「ここ、病室。脳とろとろ病のセンセとは、やっとられんわ」

 3年5年15年我慢でも突っ込みに進歩が見られない、午後。

第770話 電話のタイミング

「出たくない 時だけかかる このピッチ by ドミ庵」

「おろ、鳴ってるけどなー。出たくないなー、無視かなー。実際。あ、切れた。
 我慢が足りんなー、3時間くらい呼び出しビービー鳴らさなきゃ。ホント」
 おろ?しつこいやっちゃなー、遠慮って言葉を知らんやっちゃなー」

「あー、居った。MIHIセンセ」
「んだからア、ナンで両手が塞がってる時に限ってケータイ鳴るかなー」
「さっきMIHIセンセがトイレに入るのが見えたから、丁度のタイミングを見計らって」

「やっぱあんたやろ、宇宙衛星でワシをストーカーしてんのは。あ、今トイレとか。
 あ、3298号室回診とか。あ、いま屁をこいたとか。あ、ずる休みとか」
「それ程ヒマじゃありませんッ」

 元々、電話が嫌いなMIHIセンセ。
「ケータイを発明したヤツがいたら、2,3発蹴りを入れたろと常々思っているんよ」
「そこまで言っちゃ、イカンでしょ。ケータイがないと死んじゃうなんて、今時の」

「そう言うヤツは、いっぺん荊棘線か荒縄で締めたろか?」
「そこまでせんでも・・・」
「んじゃ、いっそケータイに。ワシのノンアル・ビール、ザブッのドンブリコ?」

「それなら、ホントのビールを口へ放り込んで下さい。毎日でも大歓迎」
「了解ッ!寝っ転がってケータイ使ってる時に、ジャブジャブ」
「それじゃ、あたしが死んじゃうッ!」

「大丈夫ウ。息を吸い込むタイミングを見計らって、ちゃんと」
「そんなタイミングは、要りませんッ」
「確かに、電話のタイミングは難しいネー。ヘッヘ」

 電話を受けるタイミングは確かに難しく、かける方はどうなんだかワカラン午後だった。

第769話 丸くなる


「世話になりますのー」
「あら、Pさん。最近えらくシオらしいじゃないの?何かあったんね?」
「ワシも歳じゃから」

「確かに93歳。んでも、先月まで外来で凄かったでしょ。ちょっと待ってもねー。
 何時まで待たせるんじゃ、命が持たんとか。大きな声で」
「今月の初めが誕生日じゃから、1つ歳取ればそら違う」

「MIHIセンセなんか、還暦を迎えてもゼンゼン変わらんねー。困ったモンだ」
「還暦なんて、青い青い。鼻タレじゃー、赤子に毛が生えたようなモン」
「Pさんも丸くなったワケだ、んじゃ記念にインフルワクチンをしような」

「エエよ、ナンでもしてくれ」
「んじゃ、行きまっせ」
「ウッ、痛たた」

「そうなんよ、最近の新型インフル痛いんよ」
「最初の頃は、ゼンゼン痛くないって。季節性とはゼンゼン違うって、評判じゃったに」
「ワシのだけ、ミョーなモンが入ってるんか?」

「んじゃなくて、ワシらが最初に打ったのはただの水だったりして」
「それなら痛とうは無いわな。んでも、どうせ打つならもっとエエもんじゃな」
「そうなんよ、打った途端にバラ色の世界になるとか」

「そらちょっと危なかろ。ワクチンで我慢する、痛とうても、ちゃんとした中身なら」
「そうなんよ、ホント。季節性も両方打った婦長さんが2人、スタッフが3人。
 インフルにかかったモンなー、それっておかしいと思わん?」

「そらセンセ、最初の頃の注射が丸かったのかも知れん」
「丸いと効き目が薄いワケやね、なーる」
「Pさん、お連れが帰るってよ。ご一緒でしょ?」
「スマンの−、世話になるのー」

 腰イテテで、MIHIセンセも多少は丸くなったと思う午後。

第768話 不読字助解読機助ー(きーぼーどがかばー)

「あ、センセ。Rさんの褥瘡チェックと撮影、今からでエエですよ」
「昨日介護予定を聞いて、9:53にって。指示簿に書いてあるやろ?」
「ヘッ、あれって9:53って書いてあったんですかア」

「んじゃ、どう読んだ?」
「何時でも良いから、ナースの好きな時間にしてエエって」
「指示簿には、5文字しか書いてないのにイ」

「字が読みにくいから、触診でこうなりましたけど。よろしかったでしょうかア」
「ちいとも良くないッ。せめて透視にしてくれん?」
「MIHIセンセは放っといてエエわよ。申し送りは直に終わりますから、少々お待ちを。
 んじゃ、続き行っちゃって。どんどん」

「んーと。Pさんは、昨日からフーサン3錠が始まりました」
「ナニナニ。それって、新薬?ナンか新しい病気が出たんね」
「熱発して、気管支炎やろって」

「それじゃったら、リョーボンと違うんね」
「どらどら。あ、確かにフーサンってメモに書いてある」
「そら、プーサンやろ。蜂蜜好きな」

「MIHIセンセは、ミョーな事を言ってかき混ぜないッ!」
「んでも、ワシ主治医じゃけど。出したんは、スロボックスやでエ」
「あ、センセですか。処方したのがセンセじゃねー、しかも臨時処方でしょ」

「そうそう、手書きでな」
「だから読み間違え・・・コラコラ。スロボックスを、どう読むとフーサン?」
「これからは全て手書きは止めていただいて、プリンターでオネガイします」

「んじゃナニか、ワシだけプリンター背負って回診するんか?」
「校庭の隅っこにある、二宮金さんみたいな。あ、QセンセとZセンセにも頼も」
「Zセンセはパソコン嫌いでしょ、プリンターだけ背負って筋トレ?みたいな」

「どーして医者の字って、読めないのが多いんですかねー」
「オーベンの怒りから脱走するのが忙しくて、ペン習字するヒマがないんよ」
「んでも。Gセンセなんか、達筆で」

「じゃから、立派なパソコンがあるのにオブジェになってるやろ」
「そうか、パソコン使い手と字の上手さは反比例するんだ!」
「そうとも言うことも、無きにしもアララーの仏様じゃ」

 読みにくい私の字をキーボードがカバーする、日々。

第767話 痒いとポックリ

「センセ、あたし夜勤明けで帰るんじゃけどオ。痒いんよ」
「痒いところに届く金属熊手3本、処方?」
「可愛い孫の手、2本オネガイします。んじゃなくてエ」

「思い切って、ワイヤ・ブラシなんかエエんちゃうか?ガシガシやったら」
「止めて下さいよ。痛血だらけが癖になったら、どうするどうする」
「んで?なんや、じんま疹なんか出てないベ。オシャマンベ」

「センセ、出身は?」
「讃岐生まれ、東京・仙台経由・広島じゃけんのー。許してつかあさい、だべ。
 んで、コテコテの山口弁になっちまって。んで、マタタビでも食うたか?」

「ノーノー。真夜中に風邪薬を飲んだら、明け方痒いんですよオ」
「南京虫でも、湧いたか?」
「それって、何かのお豆?」

「どらどら、虫の歯形も付いてないしイ。皮膚の下を這った形跡もないしイ」
「虫の歯形って、上下で何本あるんでしょうねー?怪しい物を食した記憶がないしイ」

「鼻づまりで嗅覚ゼロやから、ナンか腐ったモンひらい食いしてもワカランみたいな。
 脳みそとろけて、ナニを食べたかすら忘れた。ってーことで、如何っすか?」

「あたしって、敏感肌・美白・しっかりメタボ・息子の通信簿はアヒル軍団でしょ?」
「確かに後半は頷けるけど、前半は妄想。あ、もしかして痒いのも妄想?」
「そうでしょうか?」

「んじゃ、このワシの指先を見てエ」
「んまっ、太短い。どうしたら、それ程みっともなくなるんですウ?」
「黙って見つめるッ」

「ナニかのおまじないですウ」
「ポックリさん言うて、精神療法の一種やね」
「センセ、そんなこと出来るんですか?んで、あとはどうなるんです?」

「5分後にハイッって言うたら、痒さ雲散霧消と同時にポックリ逝っちゃうワケ」
「アホらし、ナンか痒いのどっかへ行ってしもうた。帰って、シャワーの後ビールっと」
「な、な。治ったやろ?ポックリさんの効き目は凄いやろ」

 ポックリ効果の、当直明け。

第766話 言訳糖尿親子い(けっそくかたい)

「あー、センセ。もう来月の定期処方ですウ。早すぎない(語尾上げで)」
「遅すぎない(語尾下げで)」
「最近、パソコン処方箋が増えましたねー。手作りじゃなくて」

「足では作れんが、何とかすれば。キーボードを足の親指で、打てる出来るかも。
 試しに、病棟のパソコンでやってみよ」
「無駄なことは、しなくてエエですッ!」
「んじゃ、尾てい骨で。キュキュッと?」

「ホントにやれるモンなら、ここでやっていただこうじゃないですかッ」
「ヘソとか、耳たぶとかでもエエ?」
「どーせ山ん中にこもって会得したとか言うんでしょ、その秘技」

「んで、聞くけど。あっち向いてホイ方向の心電図モニター、誰が見てんの?」
「あらら。MIHIセンセが蹴りを入れて、他所を向いたんでしょ」
「壁に耳あり、メダカに目有り。座敷童ナースが、チェックしてんのかもオ」

「ふんとにもー。ああ言えばこう言いますわねー、良くもまあクダランことを思いつく。
 他にもっと大事なことは、ないんですか?」
「例えば・・・さっきモニターにショートラン出ていたとか?」

「そう言うのを大事な事って言うんですッ、教えてくれればいいのに」
「んじゃ、13分前にVPCショートランで。7分前はSVPC8連発じゃったから。
 強いて言えば、プチ上室性頻脈みたいな」

「他には?」
「3分前に、Rさんのお嫁さんがオムツと差し入れ持って来たみたいな」
「あららー、Rさんは糖尿で食事制限があったでしょ?また、シュークリーム?大福?」

「禁断の差し入れは、いま布団の中へ隠してるんちゃいますか?」
「嫁さんもその旦那、つまりRさんの長男も。トーニョー仲良し一家っしょ。
 DNAだけじゃ無く、家族環境にも問題ありっしょ。注意すると、言い訳で強固な結束」

 義理の親子でも生活習慣が似ていると、糖尿病の悪化も似るようで。
食べちゃイケナイと言われると、口を揃えてああ言ったりこう言ったりの言い訳。
Rさんトーニョー親子の言い訳を聞くと仲良く強固な結束の、午後。

第765話 病棟頭脱皮(へあねっと)

「ねえねえ、これナンじゃろか?」
「ヘビの抜け殻みたいな」
「病棟の廊下に落ちてたんよ、んでヘビイ」

「触ったらフワフワ、ちょっとザラッ」
「黒いね−、怪しいね−」
「そら、ボンレスハムを包んでる網やろ。あんたが履いてる、みたいな」

「確かに近いけど、脂が染み込んだ感じじゃないしイ」
「メッシュじゃね、これって。んで、ナイロンみたいな」
「誰かのストッキングとちゃうのオ?」

「こんなに小さくはないでしょ」
「亀の脱皮みたいな」
「亀って、脱皮するのオ」
「そらあんた、乳幼児亀から小亀。そんで中亀になって親亀、3回は脱皮するやろ」

「詳しいんですね、センセ」
「中学校の時、生物部じゃったんよ。専門はバッタじゃけど。亀は趣味で」
「ふーん、センセってもの知りなんだ」

「コラコラ。またMIHIセンセに騙されるところっしょッ。それは頭のヤツ」
「ヘッ、主任さんの頭は脱皮するんね。毎年、ベロッとか」
「んなはず無いでしょッ!ウチのジッちゃんはヅラだから、髪は簡単にベロッ」

「外すのは、脱皮とは言わんじゃろ」
「んじゃなくて、髪をまとめてくくる時に使うヤツですッ」
「よー知らんけど。あんた試しにそれで、首くくってみん?人間から脱皮出来るかも」

 病棟で頭が脱皮するヘアネットの、午後。

第764話 偉医湿布処方(まるくなる)

「センセ、湿布を出しておくれ」
「ワシは、効かんモンは出したくないけど。院長が睨むから、出してもエエな。
 欲しいだけ言うてみてくれん」

「まさか3年分とは言わんけど、3週間分じゃね」
「よっしゃー、サービスで4週間分じゃ。薬と合わせとこな」
「よう気のつくことで、有り難う」で消えるQさん。

「センセ、これで午前の外来終わりですね−。お疲れでしたア。しかしナンですね−。
 あれだけ湿布なんか効かないって、いつも仰ってたのに」
「郷に入れば郷に従えってな」

「元大病院の外国の勲章を貰った、エラーいセンセも変わるんですねー」
「確かに、昔は頑固ジャッた」
「ぼくの先輩がセンセに紹介状を書いたのは良いけど、途中に2,3文字英語が入ってて」

「ワシああ言うのが、一番イカンと思うぞ」
「んで、全文フランス語で返事を書いたんでしょ?」
「そのくらいセンと、気がつかんじゃろ」

「それにうちの娘が生まれて、義母が着替えを持って行ったら。運悪くセンセに出会って。
 家族の面会時間はまだだッ!って、激怒されたって。看護婦さんの電話で行ったのに」
「そんなことは忘れた」

「んで。その頑固モンが、湿布は効くと思うようになったのはいつからですか?」
「あんなモン効くはずがない、第一臭いし」
「確かに、フランスの香水なみで。ま、あれよかましかも?」

「確かにフランス女の香水は、酷すぎる。それなら、湿布を鼻に貼り付けた方がエエな」
「比較の問題ですか?」
「いまは雇われの身、湿布だろうがナンだろうがエエ。ワシも丸くなったモンじゃ」

 たかが湿布、されど湿布。病院変われば湿布処方で丸くなる偉医。

第763話 赤鬼勝負下着赤色(かってにきめるな)

「あ、今年はダメですよね」
「腰イテテじゃから、迫力無いモンなー」
「体型的には、センセしか居ないんですけどねー」

「んでも、ピーク時からダイエットで10Kg減量して。禁酒して6Kgやろ。
 それで、充分スリム体型なのにな」
「スリムとメタボは意味同じ?みたいな」

「そこへ持って来て、腰やろ。1ヶ月で1.3Kg減って。げっそりじゃモンなー。
 昔を知ってる人が見たら、あんた。激やせ、るい痩、全身消耗みたいな」
「その脳処理。ホント、笑っちゃいますよねー」

「あのな。ナンでワシが痩せたら笑うんじゃ、オカシイやろ」
「おかしくない(語尾上げで)」
「ゼンゼン。んでも、ワシ専用のトラ柄パンツを作ったらしいやないか」

「そうですよ、段ボールで3Lサイズ。コルセットの上に2Lは履けんでしょ?」
「そら無理。あ、ちょちょっとオ。パンツが、段ボール製ってどういうこっちゃ。
 固いとこは、モンで柔らかくしてね。色は任せる」

「センセは還暦で、勝負パンツは赤らしいじゃないですか。鬼役ぴったり。
 フンッとか踏ん張ってトラ柄パンツが破れ。勝負パンツがチラなんて。
 凄ーく笑えるっしょ?」

 赤鬼の勝負パンツが赤と、勝手に決められ勝手に笑われた午後。

第762話 着貰病気い(ほしくない)

「おう、Pさん。まだ薬があるやろ?来週じゃないんかね、来るんは」
「センセ、違うんじゃ。3,4日前から具合が悪うて」
「そらイカン。んで、どんな具合ね?」

「先ずな、孫から風邪をもろうたんよ。もっとエエもんが欲しい」
「お返しに小遣いでも?」
「熱の方は、捨てたんじゃけど」

「どうやって捨てたんね、教えて欲しいねー。捨て方」
「んで、前からあたしにはリウマチが着いとったけど」
「キツネとか狸なら、お祓いせなアカンなー」

「罰が当たったんやろ。痛いんが、あっちこっちに飛び火して」
「病気と罰は関係無いで」
「そらそうよ。そんならMIHIセンセなんか、全身病気じゃもん」突っ込みナースH。

「あらま、MIHIセンセはそんなに罰当たりか?」
「ってゆーか。病気に、MIHIセンセがへばり付いてるみたいな」再び突っ込みナースH。
「しかし着いたり飛び火したり、リウマチも大変じゃね」

「そらセンセ、リウマチよりあたしの方が大変じゃ」
「確かに。んで?」
「腹を下して、ゲーゲー来たモンで。痛い火に、油をぶっかけられたワケ」

「消火器、消火器」
「火事じゃないがね、消えるもんかね。んで、どこまで話したかいね」
「ぼーぼー、燃えたとこまで」

「ぼーぼーじゃったか!んで、薬を貰おうと思って来た」
「そら、エエ薬と鎮火剤と。んじゃなかった、鎮痛解熱剤と消火器・・・。
 んじゃなかった、胃腸の薬を出しとこね」

「やっぱ、病気っちゃ火事と一緒やナ」
「病気っちゃ、火事じゃったり着いたり貰うモンかねー」

 私は着いたり貰う病気は欲しくない、午後。

第761話 先後効果差の(きのせいなの)

「んで、センセ。どうなんですウ、腰は?」
「ヤク飲んでるけどな」
「効きますウ」

「某病院整形のセンセから貰ったヤクは、フツーのヤツ」
「あたしもそれ、フツーの」
「んで、途中で切れて。蓄えのジェネリックにしたら、ナンか違うんよ」

「気のせいでしょッ」
「んじゃ、あんたは?」
「あたしも例外的に、なんか違うんですウ」

「気のせいじゃろッ」
「んじゃ、センセはどのくらい違いますウ?」
「めざしの頭と、メリケン粉の団子ぐらいかなア」

「大して違わないんじゃないっすか」
「強いて言えば、味が違うみたいな」
「味じゃなくて、効き目は?」

「しかし、アンケートの対象2名のうち2名とも違うって言うことはなー。
 ナンか違うが100%じゃん、ゼンインじゃん」
「サンプル数に問題はないですか、それって」

「んで一応バイアスを考えて、気のせいと言うことにするんじゃけど。
 お上の言うほどは、同じじゃないような・・・」
「あたしも気のせいか、同じじゃないような・・・。ヤダ、センセと同じイ」

「香港製時計のゼイコーみたいに、名前は似てても中身は違うっちゅーのとはな」
「そのはずですよ、お上が言うんだから」
「効き目の違いは気のせい、気のせい。腰がイテテは、気のせいじゃないんじゃけどな」

 先後の効果差は気のせい?で、悩む午後。

第760話 騙脳め(みため)

「しかし、P君はカワランねー。あの頃と、殆ど」
「ヤですよ、センセったらア」
「んだって、ぽっちゃり全身が脂ぎってギッロギロ」

「センセは、騙されてるんですよ」
「んじゃ、20年前から?」
「あい、見た目で脳味噌が着太りするタイプ(語尾上げで)」

「学生さんじゃった頃は、初々しくて。ちょっと頼りなくて」
「ちょっとアホげで」突っ込む婦長。
「ちょ、ちょっと。婦長さんは知らないでしょ、あたしの学生時代」

「知らんでも、17年も一緒に仕事すれば。ねー。センセ。
 分かりたくない所まで、幕の内弁当の隅から隅までほじくり回してご存じよ」
「でも、カワラン」

「Pちゃんは、卒業して直ぐに恋愛して。男を騙して、年齢詐称」
「性別詐称」
「こう見えても、女ですッ!」

「な、ゼンゼン変わらん。そのキレ方も」
「そこからですよ、そこから。犬のお産じゃ有るまいし、ポンポン5連続妊娠。
 12年間、産育休。あんな所やら、こんな所を騙しまくって7人家族」

「それと見た目で騙すのと、どう関連?」
「女は化粧だけじゃ無く、フリやら言葉で騙す見た目。騙す色んなモンっつー関連」
「進歩が無いMIHIセンセ、騙しも出来ん」ナースPの決め台詞。
「騙すより騙される方がましだけどねー。ワシ的には。

 他人の脳みそを騙せれば人間は見た目だぜ!団塊の、午後。

第759話 還暦色(まっか)

「おろ、センセ。今日はえらく還暦色じゃないですか」
「そうなんよ、しかも半袖。ホレッ」
「キャー、今日は一番寒い日じゃなかったですか?」

「腰イテテじゃから、気分を盛り上げてカツを入れたろ思うてな」
「メタボジジイの、冷や水みたいな」
「気分は、完璧な春」

「センセは、年中体は真夏、脳みそは春っしょ」
「我が世の春っちゅーやつ(語尾上げで)」
「ハアー。自分が見えないというか、自分を見失ってるというか」

「確かに、人呼んでキムタク似。はたまた、その実体はブラピ似」
「そこまで言うか。んなら還暦色じゃから、赤鬼・・・イヤイヤ、酔っぱらった猪八戒」
「悪いけど、ワシ禁酒中ウ」

「んじゃ。頭から赤ペンキかぶった、トド」
「上手いッ。背脂2枚」
「3枚持ってますッ」

「んで、やっぱ勝負パンツは還暦だけに赤?」
「ナンの勝負や?」
「会議でキレて、結論をひん曲げる時の」

「真っ赤なパンツ見せて、これが目に入らんかッ!みたいな」
「キャハ、ホントに真っ赤なパンツなんですウ。どらどら」
「コラコラ、そこの二人ッ。患者さんのご家族が・・・」限界を感じた師長さん参入。

「あ、どうもー。おばあちゃん、今日退院やねー。寂しいねーって言うとってね」
「センセ、還暦の赤がお似合いですよ。帰る前に、ばあちゃんに見せなきゃ」
「さっき回診したら。ワシを見て、あらまー賑やかな色って言うとったけど」

「んじゃ、連れて帰りますね」
「センセ、還暦色って賑やかなんですかねー」

 真っ赤な還暦色ポロの背中に背番号「60」を入れようかと思った、午後。

第758話 様々落下る(われくだける)

「キャー、ゴキ。キャー」
<ガッシャーン、ガシャガシャ>
「あららー、コップがミョーな声に驚いて。落下、グジャグジャやねー」

「キャー、足の裏にイー、ゴキがアー、災難だわー」
「そら、ゴキの方でもキャーやで。豚足で踏まれたら、一生最悪の災難」
「だって、あたしが逃げたところへ走ってきて。その上、カモシカ足の下に」

「無駄な抵抗やなー。ヤツの背骨が、あんたの体重に持ちこたえられるわけがない。
 グジャグジャに割れて、軟体動物に変身(語尾上げで)」
「そうなったら、歩くのが大変、ストレッチも出来んし、豆大福も7個しか」

「確かに、豆大福は、5個が限度。腰痛予防の筋トレもなー」
「センセは、腰痛対策の筋トレやってるんっすか?」
「やってるやってる、腹筋なんか三度の飯状態」

「筋肉付いたでしょ?そーとー」
「付いた付いた、割れとるやろ。タブン。見せられんけど」
「見たくないッ」

「ちょっと力を入れたら、ガジガジやで」
「ちょっと触っても、ワカランでしょ?」
「ワカラン、ワカラン」

「いえ、そう言う意味じゃなく。脂身が邪魔して、筋肉まで届かない(語尾上げで)」
「よー押さえたら、割れまくってんのが・・・」
「見なくても分かるのが、三段腹。みたいな」

 落下するとコップ・ゴキの背骨・MIHIセンセの腹筋と様々なモンが割れ砕ける、午後。

第757話 怒伸指導い(ほめられたい)

「MIHIッ。今すぐ病棟へ来いッ。フヌッ!」
「ハイッ」

 これは30年前に、師匠と私の間で交わされた電話会話。
こんな悪夢生活が5年も続けば、イヤでも身につく怒られて伸びる体質。
怒られないならまだ良いが、誉められでもしたら裏を読みまくり身構えてしまう。

「あの頃はエかったよなー、怒れば怒るほどしっかり着いてきたモンなー。
 最近はあれをやると、逃げて行くモンなー」
「そんなモンですかねー。怒られなくなったら、期待されていないと言うことでしょ?」

 これは4,5年前に懇親会で交わされた、師匠と私との会話。
昨今は怒って伸びるヤツは、よほど鈍いか打たれるのに快感を抱くヤツ?
どんな些細なことでも良いから誉めることが、成長に繋がるらしい。

「センセは凄いですよねー」
「ヘッ。ワシ、あんたにナンかイケナイことした?」
「褒め殺しじゃないんですけどオ、フツーに」

「長男性格が災いするんじゃろなー、誉められると」
「そう言うモンですか?んじゃなくて、NSTで評価しようって行ったのはセンセでしょ?」
「シャーロックホームズ・シリーズで。マザリンの宝石って、短編があるんよ」

「ホームズって、マザコンなんですか?」
「細かいことは言わんけど。ホームズは、自分は頭脳であとは付け足しだ!って言うんよ」
「んじゃ、2等身じゃないですかッ!」

「もうエエ。当時、ワシは風呂上がりに般若湯をいただいていてな」
「ヘッ、般若のお面を?」
「脳みそに注射したろか?」

「知ってますよ、落語好きのお祖父ちゃんが言ってたモン。お酒のことでしょ」
「いまは禁酒してるんやけど。んで、ネットサーフィンしててな。泳げんけど。
 調子に乗って、ネットでNSTの本を注文したわけ。勢いっちゃ恐いなー。
 翌日、事務長さんに言うたら。んじゃ、センセにゼーンブオネガイしますって」

「口は災いの元って、よー言いますねー」
「カッカッ。みんなヨーやる。ワシが勝手に作ったNSTスコア、3年も続いてるモンなー」
「ヘッ、厚労省の指導じゃないんですか?」

「行政的には。あんなスコアは無理にヤランでエエんよ、別に。凄いわ、みんな」
「このまま黙って、誉めておきますか」
「そうじゃね、みんな凄いッ!で伸ばそ」

 怒って伸ばす指導より誉められたい、午後。

第756話 芝決未来(ようつう)

「センセ、処方箋の日にち!」
「あ、14日分ね。貴方に代行していただくと、物怪の幸い。ヨロピクねっ」
「おろ、返しがフツーじゃないですか。体調が悪い?いつもなら3万2千日とか言うのに」

「Pちゃん。MIHIセンセ、腰に来たらしいわよ」
「一番悪い口じゃなくて?そっちに来たか」
「んで、勢い無いんよ」

「ふーん、ツマランわア。刺激がないと、仕事に精を出しすぎて時間が余って余って」
「んじゃ、看護研究なんか行ってみちゃう?」
「んーと、みない方があたし好きですけどオ」横でナースF。

「これで決まりとして・・・あ、やっぱMIHIセンセ勢い無いわ。いつもなら、ねー。
 ゴジャゴジャ突っ込みが入って、オヤジおちを残して撤収するのに」背中でナースB。
「テテテ、スマンのー。痛みと脳みその回転は反比例するから、アカンのよ。ゼンゼン」

「やっぱ、色んな欲に勝つモンで最強は痛みですね−。流石のセンセも」
「ギリギリで踏ん張ってんのが、食欲。メシ食わんと、生きて行けんもんなー」
「大丈夫、センセはあちこちに蓄えがあるから。3ヶ月は持つ?」

「んで直ぐに負けたのが、学習欲やね。17秒で、軽ーくどっか行ったで。
 半年前なら、酒を浴びるほど飲んで痛みを誤魔化すってのもありじゃったけど」
「いっそ、焼酎でブロックして貰うとか?」

「グラングラン、来そうね」
「飲むんじゃないから、禁酒してても問題なしやけどなー」
「あらまっ、えらく素直な。地球がこむら返りを起こして、マグマがダラダラみたいな」

「んじゃお聞きしますけど、真っ先にしぼんだ欲は?」介護士D参入。
「芝生手入れは、夏なら芝生ハイ。シャワーを浴びている間に、腰の疲れもぶっ飛ぶし。
 最近は、芝生見る度に。もうヤクザなことはやめて、飛び石と砂利かなア。みたいな」

 腰痛が芝生の未来を決める、午後。

第755話 注射痛有(はぐする)

「んじゃ、行きまーす。チクッとしますよ」
「あ、はい」
「ハイ終了ッ!」

「ヘッ、ゼンゼン」
「ラッキーっすね」
「そう言うもんですか?」で撤収しかけたら。

「もう1人」
「誰も居らんけど、座敷童か砂かけババか?」
「あたしですッ」

「あ、ババ・・・」言いかけて「あいよッ」
「人間、ナニか取り柄があるもんですねー。センセのインフル、痛くないって」
「あれは人による」

「っつーと?」
「ワシが嫌いな人も痛い、ワシにハグされたくない人も痛い。さて」
「あたし、ゼッタイ痛くない人がエエけど。んでも・・・」

「そかそか。んじゃ、半分注入後半分吸引でも痛くない?」
「んなん、痛いっしょ」
「ハグするなら、Kバッちゃんの方が・・・」

 インフルの痛みの有無でハグの相手を決めたくない、朝。

第754話 怖ーい

「あのさ、そろそろPさん。嚥下食Bを止めて、ご飯とか?」
「怖ーい、誤嚥しそう。怖ーい」
<あんたの夜勤明けすっぴんの方が>

「ハア、何か言いました?」
「んにゃ、なーも。お粥でもエエから」
「怖ーい。余計誤嚥しそうで、怖ーい」
<あんたに来る化粧品の請求書、効果も無いのに>

「ハア、何か言いました?」
「んにゃ、なーも。んじゃ、ベッドサイドでポータブルトイレの練習」
「怖ーい。転倒しそうで、怖ーい」
<あんたの、腹減った時の顔の方が>

「ハア、何か言いました?」
「んにゃ、なーも。んじゃ、んじゃ。あんたが怖くないモンっちゃ?」
「旦那ア」

「んじゃ、あんたの怖いモンちゃ?」
「ケーキと豆大福が、怖ーい」
「んじゃ、まるで落語の”饅頭怖い”やん」
<ホンマに怖いんは、体重計やろッ>

 ”お後が宜しいようで・・・”の、午後。

第754話 怖相手ろ(ちがうやろ)

「あのさ、そろそろPさん。嚥下食Bを止めて、ご飯とか?」
「怖ーい、誤嚥しそう。怖ーい」
<あんたの夜勤明けすっぴんの方が。早朝回診で出くわして、チビリそうじゃったモン>

「ハア、何か言いました?」
「んにゃ、なーも。お粥でもエエから」
「怖ーい。余計誤嚥しそうで、怖ーい」
<あんたに来る化粧品の請求書の方が、よほど。効果も無いのに、無駄金つぎ込んで>

「ハア、何か言いました?」
「んにゃ、なーも。んじゃ、ベッドサイドでポータブルトイレの練習」
「怖ーい。転倒しそうで、怖ーい」
<あんたが腹減った時の顔の方が、よほど。食われるかと>

「ハア、何か言いました?」
「んにゃ、なーも。んじゃ、んじゃ。あんたが怖くないモンっちゃ?」
「旦那ア」

「んじゃ、あんたの怖いモンちゃ?」
「ケーキと豆大福が、怖ーい」
「んじゃ、まるで落語の”饅頭怖い”やん」
<ホンマに怖いんは、違うやろ。体重計ッ>

 ”お後が宜しいようで・・・”の、午後。

第753話 廁病説(でない)

「うっひゃー、限界じゃー」
外来の椅子を蹴り飛ばして、トイレまっしぐら。
先客1名、見覚えあり。

「あ、センセ。お世話になってます」
「あ、Mさん。こんなところで。いやはや、どうも」

「で、どうですか?うちの」
<うちのって言うから、奥さんか両親ね。はて?>
「最近は…」

<ウッ、出るものが出ない。止まっちゃったやん>
「この間、息子が来たら」
<あ、じゃあ。バッちゃんかMさんの身内か?誰かワカランが、入院してるらしい>

「うっうー」
<やっと緊張が取れて、良い感じ…>
「んで、こないだの検査は?」

「ヘッ」
<あららー、またストップやん。いつまで経っても外来に帰らんじゃったらイカン>
「ま。今度にしよ。じゃお先で。出るモン出すと、すっきりますのー」

 いきなりトイレで病状説明させられたら出るモンも出ない、朝。

第752話 MKッ(みのがして・くれっ)

「お、後頭部はJKやのー」
「あらセンセ、JKは古い古い。例えばア、センセはDD」
「デブドクターか?」

「惜しい、デンジャラス・デブドク」
「んじゃあんたは、NON」
「ハア?」

「舐めるんじゃネーぜ・オタンコ・なーす」
「んじゃ、んじゃ。あ、今日は婦長さんの誕生日。っつーことゃ、HB」
「それは言い過ぎ、酷くね(語尾上げで)」

「ナンが酷い、ハッピバースデーのHB」
「あ、そっちか。なら、フツーや」
「んじゃ、フツーじゃ無い方は」

「言えるか、んなこと」
「言うてみ、ひっそりと」
「パンツが裂けても、言えん」

「んじゃ、パンツに穴が空いたつもりで。その穴から、スイーっと」
「ま、エエか。ほとほと愛想が尽きた・ババシャツ女で、HB」
「いちいち、略すなッ!のIRNッ」

 IRNをMKー(見逃して・くれー)の、午後。

第751話 人事異動(こまるね)

「あのさ、こないだの休日当直で診たばっちゃま。Lさん」
「ハア?」
「救急で送った、Lさん」

「ハア?」
「ワシが聞いた心音は、心臓の先端でザーザー。足は腫れるわ、胸の音ピチピチ」
「ハア?」

「んで、返事みたら。心臓の弁は多少硬いイー。ジョーダンじゃねーべ、っつーこと」
「ハア?」
「んで、外科から内科へ主治医変更なんよ」

「ハア?」
「あのな、あんたはハア?しか言えんのか?」
「それって、外来っしょ?」

「あい」
「あたしは、今年度から病棟へ異動」
「あ、左遷か?あ、島流し?あ、窓際?」

「コラコラッ、あたしハゲシク仕事をするんで。高評価ア(語尾上げで)。
 んで、昇格ウ(またまた、語尾上げで)」
「事実誤認、ただのモーソー、無い物ねだりイ(語尾上げで)」

 やたらめったらの人事異動は困るね!の、朝。

第750話 個室異臭会話(これまたたのし)

 月2回の訪問診療。
「ウッとおー、気持ちエエー。春じゃねー」で乗り込む往診車。
「お待たせエ、んじゃ行きますかね」

 走り始めて30秒後。
「センセ、何かヘンな臭いしません?車って個室ですモンねー、臭いがこもって」
「あんた、キタキツネのウンチ踏んだんちゃうか?」
「生息地が違いますッ」

「んじゃ、カワウソ?」
「それもヘンッ。何か、臭いがきつくなったような?」
「カメムシが30匹、一斉に屁をこいたとか?」

「確かにその様な臭いではありますが・・・ま、まさかセンセ」
「コラコラ。ワシのコーモンは、口と一緒で固いって町内会じゃ有名」
「院内じゃ、真逆。MIHIセンセの口は、壊れたパチンコ台のチューリップ」

「その心は?」
「いつも開きっぱなし」
「あんたとはやっておれんわ、みたいな」
 漫才コンビの個室は、田舎道をゴトゴト進む。

 小一時間すれば、ちょいぐったり。
6階病棟へ徒歩で上がる気力無く、やむを得ず。んでもねーと、スタッフ用エレベーター。
ヘンなG(重力)がかると、腸内ガスの移動もヘンになり。水戸様緩めて、軽く放屁。

 軽さと香りパワーは無関係のようで、小さな個室に充満しかけるクサヤ干物臭。
5階でドアが開きワゴンを伴った介護士Mちゃん、入り口笑顔入っておろ?ナニ、ナニ。

「色んなモン運んで、大変じゃねー。んで、色んな臭いがするんだ」
「あい、そうですけどオ」
「んじゃ、お先」

 6階のドアが開き退室しつつ、「Mちゃん、後2階分息を止めた方がエエかも」心の呟き。
7階で誰かが入ってきたら、どんな会話が交わされるのか?黙って見つめ合うのか?
漫才なら、「放屁1発、屁の用心。あんたとやっとられんわ」みたいな。

 個室異臭も見方を変えれば”これまた楽し”、午後。

第749話 点数評価り(なんでもすこあ)

「でも、マニュアル通りですから。結果、そう言うことでエエんじゃないですか?」
「ちょ、ちょっ。マニュアルが変だから、やることが変っしょ。ゼンゼン、エくないッ」
「んじゃあ、どうすれば?」

「簡単、マニュアルを、激変させるんっしょ」
「激変は・・・」
「誰でもアホでも、マニュアルが納得が行かないとイカン。何点は、アホとか」

「スコア評価みたいな」
「ワシを納得させて、頭をガックリ縦に振らすみたいな」
「首締めて、ガックリ。青酸カリ飲ませて、ガックリ。出刃包丁差し込んで、ガックリ」
「痛くないので、オネガイね。苦しいのも、タイプじゃない。イアイヤ・スコア0点で」

「んなスコア・・・あ、NST(栄養サポートチーム)スコアリング採血。オーダー宜しく」
「ウソやん、もう?先月したやろ?」
「3ヶ月毎っしょ、センセが作って、期間もセンセが決めた」

「ナンか、毎月やってない(語尾上げで)」
「センセ以外は、3ヶ月毎」
「んじゃ、ワシも同じやろ。以外と、年に1回だったりして」

「NST委員長が、NSTスコアを作った人が、NSTなんて言い出しっぺが?」
「モノ言えば唇寒し、委員会。モノ言わねば、眠い委員会。出たくない、委員会。
 キレると楽しい、委員会。直ぐ終わると嬉しい、委員会。あー、委員会」

「MRSAスコアでしょー、NSTスコアでしょー、IKスコアでしょー」
「IKスコアって?」
「委員会でキレるスコア、みたいな」

「んじゃ、KOスコアとか?」
「ハア?」
「完全オバハン・スコアみたいな」

 何でもありスコアが氾濫する、午後。

第748話 疑似い(ぽい)

「ここからは、スタッフのインフルだけでーす」
「おろ?13人ね」
「あい」

「先ずは、イケメン介護士N君じゃん」
「いま、エキスウテますから」
「をいをい、いくら何でも。まあ、ワシのは吸えんやろけど」

「ハア?」
「いくら何でも、朝から。ドラキュラでも、遠慮して月夜の晩」
「ナニ言ってんですか。ハイッ、吸いました」

「心なしか、N君。痩せた?」
「ハイ、子供が夜泣きして睡眠不足」
「そんなN君のエキスを吸うなんて、極悪非道ナースHや」

「ハア?あたし、エキを吸っただけっすけど。注射液」
「あ、”エキ”で切れるんだ。エキスじゃ無くて。んじゃ、エキスじゃない方の。
 液、注入ウー」

 エキスを吸うとどうなるんだろ?の、朝で済むはずだったが。
「センセ、Kさん。熱っぽいけど」
「何度?」
「見た感じ、顔が赤い」

「ミョーなモン、見せたやろ?」
「朝一で、当直明け寸前に。顔を見に行っただけ」
「そう言う、惨いことしたらイカンなー。スッピンやろ?化粧したらしたで、拷問」

「それって、パワハラぽい?」
「正直ぽい、嘘は言えないぽい」
「あ、そうそう。Kさん。来週、退院ぽいっすよ」

「ぽいぽいで、ぽいぽいじゃね。ワシは、キムタクぽい」
「ハア?ぽい」
「ヘッ、ぽい。目は2つ、鼻も1つ、口も1つ。何処がどう違うんじゃ?」

「似ているようで、似てない。キムタク似は、疑わしぽい」
「ぽいぽいし過ぎ、安売りしすぎぽい」
「センセは、医者ぽい(語尾上げで)」

 ぽいは似て非なるモノの、午後。

第747話 財布痩(やせた)

 世の中には、仲間愛とかチームワークと言う言葉があるらしい。
そんな言葉が僅か1mmも実感出来ない、悲しい医者が居る。

「こう見ても、鼻はエエんよ」
「そう見えて、根性は悪いっしょ」
「その分、ちょい悪オヤジなんよ」

「鼻がエエ以外、ただのメタボジジイっしょ」
「んでも、決める時は柔軟なんよ」
「早い話が優柔不断、風見鶏っしょ」

「だからと言って、心は暖かいんよ」
「だから分厚い脂肪に囲まれて、汗っかきっしょ」
「言いたくないけど、我慢強いんよ」

「言わなくてエエけど。しょっ中、限界が来て。その度に、キレるっしょ」
「これでもピークより、アバウト20,07Kg減量持続っす」
「何か、悪いモンが腹の中に住みついてる(語尾上げで)」

こんな優しく素直に私想いの温情溢れるスタッフに恵まれるボクは、幸せ者。
その幸せ者が居なければもっと幸せって思うスタッフが居るボクは、不幸せ者。

「んで、とうとう?」おむつ交換しながら介護士K。
「あい、とうとう」シーツ直し介護士N。
「効果は?」

「あい、この通り」
「んで、何て言うヤツだっけ」
「スリム・スーパーデラックス・ジェット・プレミアム」

「大字、メタボか?」突っ込む私。
「コラコラッ、勝手に名前を変えないッ!」
「んで、何時買ったん?」

「3日前」
「3日は続いてるんだ」
「あい、4日目が恐い」
「三日坊女。んで、んー、んー」

「何、唸ってんっすか?」
「コスパ、低いんちゃう?」
「スーパー激痩せっしょ、財布が。来週から、ケーキ1日5個?8個は、やっぱねー」

 スイーツ我慢で財布が0.5Kg減量出来たらしい、朝。

第746話 混合方言(いわかん)

「センセ。”のんた”って、知っとる?」
「狸の?」
「そら、ポンタ」

「あ、そっちか。言ったら、半殺しの方じゃなくて」
「それって、何ですのんた?」
「あえて言えば、あんぽんたん」

「ますます、離れてるッ!のんたッ!めっちゃ、腹立つわ」
「そったらことで、腹腫れてたらイカンっぺし」
「センセ、出身何処っすか?」

「あんたの方言、めっちゃメチャメチャだす。讃岐」
「あ、センセも狸!んで、のんた」
「恐らく、高齢者しか使わん方言じゃろ?」

「簡単に言うと。ナンとかだネッの”ネッ”かな?生で聞きたいっしょ、のんた」
「そう言う風に使うんだ。上手いやん、スンゲーやん」
「そんなに褒められると、めっちゃ幸せます」

 浪速”めっちゃ”と長州”幸せます”方言混合に違和感の、午後。

第745話 挨拶音程(ふぁがいい)

「おっはよ」
「あ、お早うございまーす。ボホッ」
「地獄の釜に浮かび出る、屁みたいな声やん。喉が、水虫か?」

「風邪ですッ」
「野豚インフル?」
「人間の風邪ッ」

「朝から、ロートーンの挨拶聞くとスッキリせんなー」
「んじゃ、どう言う挨拶なら」
「挨拶は、ファじゃ」

「ふぁ?下痢気味の時の、すかしッ屁みたいな。抜けた感じの?」
「ファっちゃ、音程の」
「あ、そのファ」

「そ、ファ。シもミもイカン、ファ」
「意味ワカラン」
「ファの音程の高さで、挨拶すると。された方は、気分がエエらしい」

「ファねー。んでも、旦那みたいにオンチじゃったらソとかミ(語尾上げで)」
「おふぁよーでも、エエんちゃう?」
「完全にナメてますね、朝っぱらから」

 挨拶音程にオンチを想定していなかった、朝。

第744話 爺病院嫌い(いってらっしゃい)

「んじゃ、行ってくるね」
「あー、ボクも一緒に」遊びに来た孫。
「何処へ?ジイジは病院だけど」

「ボクは、病院はあんまり好きじゃ・・・」
「ジイジも、病院は嫌い」
「でも、病院」

「お仕事だから、嫌々」
「お仕事、嫌なん?」
「お仕事嫌いを治そうと、病院」

「お父さん、変なこと教えないで!」は奥様と娘の合唱。
「ジイジって、注射はするん?」
「看護婦さんは信用してないから、自分の時は自分で。気持エエよー」

「お父さん、変なこと教えないで!」は奥様と娘の合唱。
「んじゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃーい」

 およそ9時間後、玄関のドアが開いたのを察知した孫を想像。。
「ジイジ、お帰りなさーい。病院、嫌だった?おうちが良い?」
「病院って、最悪ウ−。家が一番」

「明日は、お休みする?」
「嫌だけど行くかなー」
「ふーん、嫌だけど行くんだね。ボク嫌だから、病院行かない」

「そらそうだ」
「お父さん、変なこと教えないで!」は奥様と娘の合唱。
「あーい」

 小紅葉のような手がヒラヒラ揺れて見送られるまでの、妄想。

第743話 飛意識帰(つねる)

「おろ、痩せた?」
「キャー、もう気がついて。このー、あたしに惚れたら抓っちゃうから」
「んな巨大ペンチ並みの指で、ワシを抓る?それって、ワシの皮膚を引き千切るんやろ」

「んでも。なんであたしが痩せたんが、分かったんですウ」
「Dちゃんの横に立ってるから、比較法。しかも後方、即ち遠近法(語尾上げで)」
「んじゃ、逆なら?あらら!Pさん、大人しいと思ったら・・・意識がッ!」

「Pさん、Pさんッ!点滴確保ッ」の30分後。
「おろ、センセ」
「おうおう、気が付いたか。やっと帰ってきたな」

「帰ってきたっちゃ、ワシ何処かへ行っとったか?」
「ちょっとだけ、あっちへ。んでも無事に、お帰り」
「んじゃ、ただいま」

「しかし、エかったー。戻ってきて。あのまま・・・」ナースB。
「ナンか、腕が痛いような」
「あ、スマン。ワシ抓った」

「人がワカランからって、酷いことするモンじゃ」
「お陰で、戻ってこられたんじゃから。堪忍してエね」
「抓られると、帰って来られるんか?」

 飛んだ意識が抓られて帰ってきたTIA(一時的に脳の血流が低下する)の、朝。

第742話 戻評価(へたじゃ)

「センセ、ヘタ」
「いきなりそう言われてもなー。得意なモンは2つ、下手なモンは数えたことない」
「んなに、ヘタが多いんか」

「他人を褒めたり、自分を貶すとかもヘタ(語尾上げで)」
「んじゃ、得意なんは?」
「そら自分を褒める、他人のあらを探す(語尾上げで)」

「性格悪いのー」
「んなに褒めちゃ、イカン」
「センセは、ヘタじゃ。その証拠に、あたしがまだ生きとる」

「んじゃ、上手になったら?」
「あたしを、コロッと」
「無茶言ったら、イカン。ヘタでエエ」

「ところで、センセ。孫は居るか?」
「男2人、女2人。上の娘と下の娘に、それぞれ男女1人ずつ」
「上手じゃのー。んでも、センセの子に男は居らんか。やっぱ、ヘタじゃ」

 上手いヘタに、別々な評価がある朝。
「Pさん、Pさんッ!点滴確保ッ」の30分後。
「おろ、センセ」

「おうおう、気が付いたか。やっと帰ってきたな」
「帰ってきたっちゃ、ワシ何処かへ行っとったか?」
「ちょっとだけ、あっちへ。んでも、無事お帰り」

「んじゃ、ただいま」
「しかし、エかったー。戻ってきて。あのまま・・・」ナースB。
「ナンか、腕が痛いような」

「あ、スマン。ワシ抓ったけど、ヘタじゃったか?」
「人がワカランからって、酷いことするモンじゃ」
「お陰で、戻ってこられたんじゃから。ヘタでも、堪忍してエね」

「ヘタに抓られると、帰って来られるんか?」
「下手か上手いかは、別。戻る戻らんで、評価して欲しいのー」

 TIA(一時的に脳の血流が低下する)の、朝。

第741話 上手返う(ししょう)

 漫才や落語を聞いていると、ボケに突っ込みがテンポ良いとすっきりする。
昨今の芸人で1発か2発で消えるのは、無駄に大きな声で不必要なオーバーアクション。
話芸で聞かせる小気味よい芸人は減ったが、逆に素人なのに思わず手を叩くことがある。

「どんな?」
「ハア、女?へ、女じゃないんか」

「イヤイヤ、具合はどんな?」
「ハア、旦那?へ、旦那じゃないんか」

「んじゃから、如何ですか?」
「イカは嫌いじゃが、タコは好きじゃ。センセも、じゃろ?」

「あのね」
「ハア、屋根?」

「看護婦さーん、ヘルプミー」
「ハア、屁がプー。実が出た?」

「あのね、Pさん。センセが、具合どうかって?」
「耳が、遠いだけじゃ」

 返し上手のPさんを師匠と呼びたくなった外来の、朝。

第740話 医者は3回繰り返す

「こんちはア。Wさん、往診やでエ。来たよー」
「あらセンセ、いらっしゃい」
「おろ、今日の人口密度。いつもの5倍じゃん」

「近所の皆さんですわ」
「あ、センセがMIHIセンセ。お初です、Wさんがお世話になってます」
「あ、どうも。んじゃ、Wさんは先ずいろいろチェックじゃ。酸素飽和度は・・・」

「あ、それ。あたしもK病院でして貰ったことある、96じゃった」
「んーと、Wさんは94と。OK、OK、OKじゃ。上等の3倍」
「あたしも、Qセンセに言われた。大丈夫じゃって、3回続けて。かえって不安」

「プッ。そのセンセもMIHIセンセも、体型は同じ?」ナースS。
「そう言えば、ぽっちゃりタイプ(語尾上げで)。んで、ナニ聞いても、大丈夫3回」
「MIHIセンセも。OKを3回とか、エエでを3回とか、まあまあを3回とか言う」

「センセらって、癖なんじゃろうか。3回繰り返すのが」
「んなアホなこと、無いやろ」
「もしかして、そうかも。あたしなんか、MIHIセンセにアホじゃッ!って3回」

「それは、ホンマのアホやから。んでなかったら、もしかしてアホかもオーを1回じゃ」
「あー、酷い。ネッ、皆さんが証人ですよ。パワハラの」
「最近、あたし耳が遠くなって。よー聞こえん」

「流石、7年来のダチはちゃうねー。分かっとるなー。OK、OK、OK」
「センセらの口癖じゃね、3回繰り返すのは」
「Wさん、ちゃんと聞こえとるやん」不満のナースS。

帰りの車の中、「んじゃ、撤収ウー」
「撤収ーは、3回仰らないんですウ?」
「ナンか、気疲れしたわ。疲れたーなら、3回言っちゃうけど」

もしかして、医者は3回繰り返すのが口癖かも知れない。
大学院の時にオーベン(指導医)の、電話の叫び。
「MIHIッ、病棟へ直ぐに来いッ。直ぐ、直ぐやッ!」

 これも「医者は3回繰り返す」だった、午後。

第739話CT意識(はっきり)

「見っけ。センセ、当直ですよね」
「あ、ワシは誰?ここは何処?帰ってエエ?」
「ダメッ。施設Rと施設Qで1人ずつ。意識レベルが、下がってるんですけどオ」

「仮面の厚化粧を落として、いないないバアすりゃあんた、チビルほど驚いて覚醒やろ」
「なーんだ、そんな良い方法が・・・無いッ」
「まずはRと」

 で赴くQ3階。
「ハイ、完璧脱水症ね。点滴イ。んで、移動」で、R2階は35689室。
「飯は?未だ。んで、水分摂取は1日1000ml。4回に分けて。んで、この皮膚ね」

「たっぷり水分ですけどオ」
「細胞内に溜まる前に、シッコでオシマイ。小匙に、丼で水入れるようなモンじゃね」
「意味分かりませんけどオ」

「1000mlを7回でも8回でもエエから、小分けで時間差じゃないと溜まらんやろ」
「おシッコは出てますけど」
「汗用の水分の蓄えが足りん、熱出る。インディアンウソつかない、ハオッ」

「ナニがハオッですか、んで点滴ですね」
「意識レベルが落ちて3時間かア。点滴が終わる頃に、また診に来るわ」の90分後。
「おろ?眠り姫状態じゃね。昨日までは元気でご飯食べてて、今朝はだんだんボーッ。
 あのさ、この患者さん転んだりベッドから落ちたりしてない?1ヶ月以内で」

「ハイ。月1で、ずり落ちる程度が殆どです。たんこぶ作ったことは、ありません」
「ハイ、CTで紹介。慢性硬膜下血腫の疑いなワケ」

 ところが、返事を見て驚く「異常なし」。
CTやらMRIやら撮りまくる溢れる刺激?やっと点滴が効いてきた?
「よー寝た。トンネルに頭を突っ込んで、検査してもろうたら目が覚めた。さ、帰る」と。

 CT撮影で意識はっきりバナナ3本平らげる顛末、臨床は奥が深い。

第738話 3年5年15年我慢(しんぽなし)

「センセ、お久しぶりです」
「おう、元気じゃった?前に一緒で仕事して、1年で辞めたんかいね?」
「ハイ、ここで頑張ってます」

「ま、3年辛抱出来たら5年は持つし。5年持ったら、15年。んで、3年辛抱や」
「もうここで、6年です」
「ほうか、ほうか。んなら、あと9年は持つな。ワシは、あと5年医者したら」

「漫才師?」
「はーい、メタボ・ストレッチのMちゃんでーす。みたいな」
「センセって。ゼンゼン、進歩してないっすね」

「まともに突っ込み入れられるヤツ、居らんのよ。病院で、ナニを勉強してるんやら」
「センセは、病院にナニ勉強してるんっすか?」
「我慢、辛抱、忍耐かな?」
「全部、赤点っすね」

 3年5年15年我慢でも突っ込みに進歩が見られそうにない、午後。

第737話 六文(わんこいん)

「センセ、顔が小さくなった?」
「確かに、こう言う業界じゃと付き合う範囲が狭いから。顔はあんまし広くない」
「んじゃなくて、頭全体が縮んだんやろか?」

「頭蓋骨って、痩せるんやろか?頭蓋骨粗鬆症(語尾上げで)」」
「脳味噌粗相症(語尾上げで)」
「死海に投げ込まれた、梅干し風(語尾上げで)」

「確かに、ダイエットしてマックス時より20Kgは減って。当時のポロは、XL。
 禁酒後、L。臨機応変、LかM。それを思うと、縮んだかも」
「骨があるからワカランけど、脳味噌って縮むんですウ」

「あんたの脳味噌、縮んでるねー。ハゲシク」
「センセ、背もダイエットで縮んだ?いま、何センチ?」
「公称163cm、自称189cm」

「それ聞いて、こっちの心が縮む。んでも、あたし161cm。センセより高く見えん?」
「散髪した分、割引目にオネガイ」
「元が少ないんじゃから、散髪なんて誤差範囲っしょ」

「テンパーじゃったんが、加齢先細り。何か知らんが、細ーく伸びてテンパー無し」
「センセの寿命も、先細り。三途の川の渡し船代金も、無し。あれって、おいくら?」
「あ、6文ね。真田の旗印ね」
「ホエー、6文ってほぼワンコインっすかー。センセのお小遣いなみっすね」

 小銭入れの6文でナースGを対岸へ渡したい、午後。

第736話 不器用な6番目の指

「センセッ。ナンか忘れてません?ナンかッ」
「あんたの名前は・・・アナコンダ?みたいな」
「コラコラッ、んじゃのーて。13時15分と言えば」

「丑三つ時じゃなくてエ、首がニュルうーっと伸びて行灯の油舐める時間じゃ無くてエ」
「やれるモンなら。んじゃのーて気切カニューラ交換ッしょ。13:15で指定したッしょ」
「忘れた。何時、誰が、何処で、ナニを、ナンで。これをMIHIセンセの5W1Hと呼ぶぞ」

「ハイハイ、医者ってエエですよねー。忘れたの一言で、ばっくれればエエんじゃから」
「んで、ナニ?」
「今、言いました。カニューラッ」

「あ。そっちね」
「どっちも、こっちも。することは1つッ」
「んじゃ、プラ手。Lね。手の大きさは、Mじゃけど」

「ハイハイ、指が情けないLLなんですよねー。んで、間を取ってサイズがL」
「おろ?指が入らんっちゅーか。1本増えたみたいな」
「んじゃ余分な1本、はさみで切っちゃいましょ。そうしましょ、それが良いワ」

「んじゃ、余分な1本をチョッキン・・・んなワケねーべ」
「あららー、中指の所に人差し指が。失礼ながら、センセの指はアホでございますか」
「ウウウ・・・泣いてやるウー、祟ってやるウー、月夜の晩ばっかじゃないぞー」

「あとは、ヨロピクねー」
 マスク・ビニールエプロン・5本指用ののプラ手を、ゴミ用レジ袋に押し込んで消える。
「ナンか気分がすぐれんなー、おろ?」ラウンド中に覗く、ワイワイ作業中の食堂。

「夏祭り用の、ヨーヨー作ってんですウ」
「50mlの注射器じゃイカンやろ、赤ちゃん用のヨーヨーか?」
「赤ちゃんって、ヨーヨーできますかね?」

「やらせてみんと、ワカラン、ワカラン」
「やらせなくても分かりますッ」
「んじゃ、えいッ。あららー、ビッチャじゃ。しかも、丸虫サイズのヨーヨー」

「あ、センセ。ナニしてんですウ−」
「他のセンセの患者さんも、カニューラ交換したいでしょ?」
「んなことより、こっちが大事。ヨーヨーが膨らまんし、横から水が。指が足りん・・・」

「あたしより不器用かも。指の数は関係ない(語尾上げで)。
 MIHIセンセ、6番目の指も不器用っしょ。ヨーヨー、ゼンゼン作れんなんて」
「ヘッ、6番目の指?」

 馬鹿にされた6番目の指が泣いている、午後。

第735話 八差ろ(いろいろ)

 末広がりとか言って、8という数字は具合が良いようです。
「んじゃ、血圧でも測ってみる?」
「家で測ってきたけど」
「まあそう言わんと。巷じゃ、ところ変われば血圧変わるって言うやん」

「その標語は・・・」
「標語なんて、エエモンじゃないけど」
「んじゃ、どうぞ。煮るなり焼くなり、あたしを女房にするなり」

「スマン、そういう趣味は・・・」
「んじゃ、あたしはタイプじゃないと。あたしも、嵐の二宮君がタイプじゃ」
「あ、彼ね。ワシよりちょっとだけ、細身で面長でイケメンね」

「センセのちょっとは、象とありんこの差?」
「上手いッ、キツク返すなー」
「んで、血圧は?」

「あ、146と68じゃね」
「あららー、8も上がった。何で上がる8?」
「そら、ワシを見て緊張(語尾上げで)」

「んな馬鹿な。センセ見て緊張するんは、ゴキブリぐらいじゃろ」
「んで、脈は64」
「あららー、8も減った。何で減る8?」

「そらワシを見て、アホくさくなった(語尾上げで)」
「んな馬鹿な。センセは、見んでもアホくさいが」
「んじゃ、熱でも測ってみる?起きたときより、8度下がってるかも」

「何で下がる?8度」
「んじゃ、上がる?80度」
「あたしゃ、煮えとるんか?焼けとるんか?」
「煮ても焼いても、食えんじゃろ」

 8の差には色々ある、午前。

第734話 複写引張る(やったことある)

「Pさん、風邪?花粉症?ヒゲ?」
「ナンであたしがヒゲですかッ!こう見えても女性ですよッ」
「顔よりでかいマスクを外してみん?、どう見えてもババ悪魔」

「確かに神秘性から言えば、悪女かもね。フッフッフ」
「んじゃ。あんたのタラコを、ゴキが失神するほど舐めた?」
「失神したのは、あたしじゃなくて?」

「あんたが失神するなら、ゴキは即死?」
「んで、センセ。ナニしてんです?」
「コピーがとろいから、じっと待ってんの」

「コピーもジジイですから、センセと一緒」
「そう言われると、なんか愛おしくなってきた。ナデナデ」
「お急ぎでしたら、出てくる紙を引っ張ればエエんじゃないんですか?」

「コピーとかファックスを、出る方から引っ張れば早く済むと思ってないよね?」
「まさか、ダメなんですか?」
「そらあんた。コーモンから出かかってるウ*チを、引っ張るのとはワケが違う」

「あー、そうなんだ」
「んでも、出てくる方を押さえると。速度が落ちて、紙の節約になるデ」
「そうでしょうねー、今度」

「Pちゃん、騙されたらイカンよー。有り得んから」横からナースK。
「分かってるわよ、やったことあるモン」

 Pさんを尊敬した、朝。

第733話 蚊名前(きになる)

「ホエ、もう蚊取り線香みたいなアロマ」
「ハイ、結構いますよ」
「ウソやろ、まだ5月やで。蚊じゃのーて、あんたの飛蚊症ちゃう?」

「結構大きいですよ」
「んじゃ、飛ブタ症やろ」
「ありえネー」

「おっ、よー知っとるやん。紳士の国。讃岐もそう言うことになってるけど、あ知らん!
 んでフライングピッグっちゃ”あり得ネー”っつー意味。あ、知らんかった!」
「タブン蚊と思いますよ、血イ吸うから」

「超ミニドラキュラとか?」
「んなはずネーでしょ」
「あ、お静かにしましょう」

「あらま、素直な。気持ち悪いわー」
「そのまま、そのままあと1分。ステイッ」
「ワンコじゃないんだから、んで何故?」

「あ、もうエエよ。動いて」
「意味わかりませんけど。あっ、蚊。ネ、居るでしょ。あそこにヨロヨロ飛んでる。
 んでも、ナンか変な飛び方ア」

「そらそうや。あんたの左耳横毛ぼくろ横2mmの血イ吸って、毒が回ったんやろ。
 そのうち・・・あ、やっぱなー。悶絶死、ナムう」
「んじゃ、血イ吸い終わるまで黙って見ていたワケですね。早く教えてくださいよ」

「そうやった、早く蚊に教えてやったら寿命を縮めなくてもエかったのに。
 かわいそうな、パトリシアか権蔵?あの世から、呪ってね。ワシじゃない方を」
「意味わかりませんけど。ナンで知ってるんです、ミョーな蚊の名前」

 ナースの血を吸った蚊の名前が気になる、夜勤。

第732話 3秒治癒く(はなくそでもきく)

「センセ、Pさん。お腹が痛いような、張るようなって。んで、お薬欲しいって」
「あんたら、何でもかんでも薬飲めばエエと思っとるやろ」
「んだって、Pさんが。んじゃ、センセの顔で治して下さいよ」

「ワシの顔使えば、大抵のビョーキは。んーと」
「悪化するか、悶絶死みたいな」
「そこまで言うか、んじゃちょっとだけな」

 5分後、ステーション再登場のMIHIセンセ。
「んで、ナニにされます?お薬」
「要らん、治った。パーペキの3秒ね」

「うっそー、さすがカリスマ詐欺師イー」
「あのな、知らん人が聞いたら本気にするやろ」
「知ってる人なら、だからどうした!」

「ハイハイ。あー、やっぱねーじゃろ」
「自分のこと、分かってんじゃん。んで、ホントにイ。治った?どうやって」
「ハイ、このハイパーエクストラ・アンド・ゴールデン・スンゲーハンドで。
 タッチ1発、3秒治癒だあね」

「んで。真夜中にお腹がどうか有ったら、センセを呼ぶ?」
「んにゃ、呼ばない。この薬包紙に包んだ秘薬、これ1錠。ちゃんと言うてある。
 1生に3度しか使えん秘薬で、味わって飲むと逆にイスンゲー事になるって言うた」

「ハア?そんな薬、有りましたア。んじゃ、あたしも1錠」
「エエけど、あんたはこっち」
「違うんですか?これとそっちは」

「秘薬であることには変わりないけど、あんたは死にそうになった時だけじゃ」
「そ、そんなに効くんですか?かなり怖いけど、大事に取っておきます」
「3秒で効くウ」

「さ、3秒」
「欠点は、ウンチがスンゲー事にズルズル出る。んでも、区別がつかんやろ。
 死にかけたらコーモン緩んで来るし、薬のセイなんだかワカランし。意識も・・・」

「要りませんッ!」
「残念やなー、秘薬。ネーブル・セサミ、略してネブセサ錠っつーんじゃけど」
「ネーブルって、ヘソ?セサミっちゃ、ゴマ?あ、ヘソのゴマじゃないですかッ!」
 
 ナースRなら死んでも秘薬1錠飲めば3秒で蘇るゾ!の、午後。

第731話1切20出(けーたい)

「あ、センセ。ケータイ」
「エエんでちゅ、外来でちゅ」
「ちゅーちゅー。間抜けなネズミじゃあるまいし、出ればエエのに」

「あ、キレた。ざまあ見ろってんだ」
「切れてる電話に向かって、強気発言」
「繋がってて、これ言うたら蹴りが入るやろ」

「ヘエー、意外に弱気」
「長いものにはぐるぐる巻かれ、強きにスリゴマ、弱きにバラのムチ」
「ナンだかなー。どう言う人生、送ってきたのやら」

「あ、またケータイ。あ、ワン切り」
「フンッ、嫌味なやっちゃ」
「ナニ、それって」

「こう言うワン切りは、340病棟B師長じゃっ」
「ナンでワン切り」
「あとで、病棟へおいで!って言ってんの。これ」

「んじゃ、何時出るんです。ケータイ。あ、また。急いでるんじゃ?」
「急ぎかどうかは…んじゃ、あと1回で…あ、切れた。今、出ようと思ってたのにイ」
「ナンで、今出る」

「ワン切りには20出なんよ、んで今19で切れた。ウー、気分悪りいー。
 出かけたくしゃみを止められたような、すかし屁出そうと思って音が出たような気分」
「センセはケータイ要らん、置き電話で十分。ケータイは、オモチャじゃ無いッ」

 ケータイがオモチャならとっくに捨ててる、朝。

第730話 韻踏ぱー(らっぱー)

「ちょ、ちょっとな」
「コラッ!まだまだ、撤収は早いッ」
「あの、シッ・・・」

「んだから、新しいカルテが」
「んで、シッ・・・」
「ナンで、聞き分けが無いかなー」

両手を開いて仁王立ち、逆さ「太」字のナースY。
「あのさ、漏らしてエエ?」
「ナニを漏らす・・・あ、そうならそうと」

「んだからア、遠慮がちに言ってんじゃん」
「んもー、お早くお帰りを」

すっきりして帰れば、外科外来から聞こえる「ンアー」。
「あれ、ナニ?」
「熱出して、シッコが赤いって。受診」と思うと、ストーカー風外科医Gセンセの顔。

「センセ、これって肺炎無いですよね。レントゲン」
「無いんじゃないですか、やっぱ。んでも、胸の音聞いてもエエですウ?」
「あ、よろしく」

「んでセンセ。皮膚つまんで、先ず脱水症・・・と。んで聴診と腹部はOKと。
 やっぱ、脱水症と出血性膀胱炎とちゃいますかア」
「脱水ねー」

「あー、つまんだら。センセも、脱水症みたいな」
「飲んでますよー、水分」
「ジジイになって、水を蓄える細胞が減った(語尾上げで)。細胞内液減少、老化現象」

「ゲンショウで、踏んだんですね。韻」
「病的現症、ゲンナマじゃないぜ現生。やっぱ、ラッパーですから。韻を踏んで」
「ラッパ飲み、ラッパー(語尾上げで)」突っ込むナースKに。
「あんた傲慢、旦那不満でガキ肥満。イエーイ。ラップって、楽勝っ」の私。

 ラッパー医師は韻を踏むのが楽勝の、午前。

第729話 1日1(ぼつぼつ)

「やっぱセンセも、1日1ですか?」
「快食快便、1日1回。すっきりウンチ」
「あたしは週1、んじゃのーて。1」

「禁酒してっから、ノンアルビール。奥さんと半分こで、0.5(語尾上げで)」
「あたしは大瓶1本、んじゃのーて。1」
「孫は出来がエエから、お叱り回数1も無いで」

「あたしんチは、数限りなく怒りまくり。んじゃのーて、1」
「放屁は、好き勝手。あくびとゲップは、その場次第。歯磨き3回」
「そこは同じ。んじゃのーて、1」

「1日濃硫酸5合瓶1?」
「のどが焼けるッ!愛してるって言わせる回数、1日1?」
「あのな、ワシはイタリアンでもアメリカンでも無いから」

「ホエー、そうなんだ。その点、エサやる度に愛してるって言わせたい」
「おちおち飯も食えんやん、旦那」
「だ、旦那!戯けたこと!ゴンちゃん。ワンちゃん。猫なで声で、愛してるって」

「ミョーな薬、ミョーな洗脳?犬が猫なで声っちゃ、凄くない(語尾上げで)」
「歳かなー、17歳。オムツもしてるし」
「17歳で、オムツしてても悪くはないけど」

「人間で言えば、何歳じゃろ?雑種じゃし」
「犬が愛してるって、幻聴かッ!」
「あたしには聞こえるんじゃけどなー、愛してるって」
「”うざったい”を、1日数限りなくやろッ!」

 英語文献読破1日1をぼつぼつの、午後。

第728話 1日1(ぼつぼつ)

「やっぱセンセも、1日1ですか?」
「快食快便、1日1回。すっきりウンチ」
「あたしは週1、んじゃのーて。1」

「禁酒してっから、ノンアルビール。奥さんと半分こで、0.5(語尾上げで)」
「あたしは大瓶1本、んじゃのーて。1」
「孫は出来がエエから、お叱り回数1も無いで」

「あたしんチは、数限りなく怒りまくり。んじゃのーて、1」
「放屁は、好き勝手。あくびとゲップは、その場次第。歯磨き3回」
「そこは同じ。んじゃのーて、1」

「1日濃硫酸5合瓶、1?」
「のどが焼けるッ!愛してるって言わせる回数、1日1?」
「あのな、ワシはイタリアンでもアメリカンでも無いから」

「ホエー、そうなんだ。その点、エサやる度に愛してるって言わせたい」
「おちおち飯も食えんやん、旦那」
「だ、旦那!違いますよ、ゴンちゃん。かすれた声で、吠えるように愛してるって」

「ミョーな薬、ミョーな信心、ミョーな洗脳?吠えるっちゃ、凄くない(語尾上げで)」
「歳かなー、17歳。オムツもしてるし」
「17歳で、オムツしてても悪くはないけど」
「人間で言えば、何歳じゃろ?雑種じゃし」

「ワンころかいッ!犬が愛してる何て言うかッ!幻聴かッ!」
「あたしには聞こえるんじゃけどなー、愛してるって」
「”うざったい”を、1日数限りなくやろッ!」

 英語文献読破1日1をぼつぼつの、午後。

第727話 人一度死(はかない)

「センセ。イケメンは諦め、貯金に専念する事に」
「あらら−。んじゃ、ブランドバック三昧は?」
「あ。きっぱり、さっぱり」

「そらそうや、豆大福を30個詰められる、トート1個、余裕充分。棺桶スペース」
「うー、そんな先まで話を引っ張らなくても」
「んでも、経済評論家は言うとるよ。将軍様みたいにデノミ作戦で、闇蓄財はパーや」

「んでも、日本じゃ将軍は徳川まででしょッ」
「んでも、ヤバイ政治家が国債破綻で。貯金凍結しとる間に、デノミ(語尾上げで)」
「と。どうなる、どうなる?」

「\1万が\100に切り替えて、お札刷りまくって。交換できるのは\100万まで。
 100均は1均。お札は、トイレットペーパー」
「そんなん使ったら、お尻痛いでしょッ。死んでも死にきれんわ」

「人間は1回しか死なないから。007は2度死ぬ。あんた殺しても、死なない。大丈夫」
「ゼンゼン、大丈夫じゃないッ!」
「葉隠れが、言うとる。人はいずれ1度は死ぬもの。病死、切り死、切腹、縛り首など」

「ちょ、ちょっと。ナンで、切腹や縛り首ッ」
「色んな罪状で」
「ちょ、ちょっと。色んなって?あたしが、何したってんですかッ!」

「お黙りで、聞いてね。細かいこと言わんでエエから」
「細かくないでしょッ、ゼンゼン」
「んで。葉隠れじゃ、見苦しく死ぬのは無念じゃ!と」

「エエですッ、あたし見苦しく死んでやるッ」
「生きてる時と同じくらい?」
「こ、殺して差し上げましょうか?2度、3度」

 人間も短命セミも死ぬのは一度の儚い、午後。

第726話 治療は気持ち良くなくちゃ

「センセ、腰痛にはホットパックで決まりですよ」
「豚肉ショウガ焼き駅弁を、下から暖めるみたいなモンがか?」
「騙されたと思って、体験体験」

「ホンマに騙してんとちゃうか?アヤシイ」
「センセ騙すなら、もっときついヤツで騙します。ホットパックぐらいじゃ」
「お手柔らかにね」

 リハ室の片隅のベッド、けっこう暖かいモンの上に横たわると気持ちが良い。
「これ、エエやんか。家にも欲しいくらいやで」
「そうでしょ、そうでしょ。患者さんは、桃源郷ホットパックって」

「さもありなん、フンフン。んで、何分?あ、15分。んじゃ、スペッシャルでオネガイ」
「スペッシャルで、特別に20分にしますね」
「オマケとかサービスてんこ盛り、23分でオネガイします」

 カーテンを通してリハビリをされている患者さんの会話を聞きながら、探偵小説。
「ハア、ハア。足が上手く動かんのが、ちょっとだけ。痛たた」
「頑張って、終わったあとの快感が待ってるからね」

 背中の心地よい暖かさを感じながら、ウトウトしかけると。
「ハアーッ、疲れたけど。右足先が上がるようになったから、嬉しいわ。気持ちが良いわ。
 最初の頃はあちこち痛くて、こんなんはイヤじゃったけどね」

「イヤよイヤよも好きの内って、言うじゃろ」
「Qさんは、要らんこと言わずにリハビリッ」
「ほいほい。んじゃけど、ワシの血圧の薬。飲んで気持ち良くなったら、忘れんのに」

 確かに治療の基本は、気持ち良くなけりゃ!。
短編を3作読んで気づけば、25分の気持ち良い治療になっていた。

「センセ。腰痛バンドでなにやってんですウ、メタボ腹暖めても脂身は溶けませんよ」
「ヘッ、これでエエんとちゃうの?」
「ハイハイ。高さはこの辺りで、結構きつめにしないと」

「あららー、この方がきつめだけど気持ちエエな」
「でしょ、でしょ。気持ち良いのが、ホントの治療ですよねー」
「確かに実感するねー、気持ち良い治療。お世話になります、勉強になりますウ」

 背中に残った暖かさを感じつつ治療と気持ち良さの関係を考える、午後。

第725話 痩身礼拝(ふへーっ)

「あららー、とうとう怪しいナルト?」
「うどんの具?ぐるぐる巻き」
「んじゃなかった、オカルト」

「ルトしか合ってないじゃん」
「みんなが天井に両手を挙げて、フィーとか言ってんじゃん」
「センセには、そう見えるワケだ」

「雨乞いをするイボガエルの、ラインダンスみたいな」
「そんなミョーなモン、誰に見せるんですかッ!」
「前足をあげて、フイーフイー言うてんじゃん。さっきから」

「フィーじゃなくて、フヘーッですけど。しかも前足じゃなくて、前手ですけど」
「一斉に産気づいたイカの感じ。若さで産気あり得ん婦長さん以外は。あ、Rさんも」
「ヤダ。あたしは若い方に入れて下さい、ギリギリのギリ産気で」

「ギリって言われりゃ、清水寺からぶっ飛んじゃいますか。
 ギリの窓際じゃなくて、土俵際の徳俵みたいな瀬戸際俵」
「おっとどすこい、ですね」

「んで、みんなでナニしてんの。猿知恵がつくお祈り?」
「センセもやったら、これを1日5回やると1ヶ月で5Kg体重が減るんですって」
「バンザイしてフヘーッ5回で、月5Kg減量ってか」

「TVでそう言ってましたけどオ」
「んじゃ1日メチャメチャやったら、月25Kg計算で3ヶ月。あんた、3Kgしか残らん?」
「バカ言わないで下さいよ、2ヶ月で残りが33Kgですッ」

「んじゃ、いまの体重は・・・」
「キャー、止めてエー。もう1回フヘーッやって、検温に行こうっと」
「あんた、ワシより体重が・・・キャー、そんなにイ」

「着痩せするタイプですウ、キャー」
「フヘーッで、1ヶ月に5gの間違いやろ?出たゲップとオナラで」

 この痩身礼拝が1週間以上続かなかった、病棟。

第724話 心も体もさぶい

「さぶいねー、ウー」
「センセもですか、あたしは心も体も」ヘラヘラナースP。
「センセ、Pさん痩せたと思いません?最近の、あたしみたいに」ため息ナースN。

「悪いモン、患ったか?」
「違いますよ、ショウガ汁ダイエット」
「ショウガ汁雑巾で背脂を擦ると、ドロドロ溶けるとか?」

「ナンでドロドロ溶けるウ、飲むんですッ」
「雑巾汁?やっぱ、ありゃ不味いやろ」
「そんなモン、飲んだことあるんですか。センセは」

「想像じゃけど、美味くは無かろう。やってみん?」
「みない、ゼッタイ」
「そう言えばムンクの叫びみたいに、頬げっそりデブって下腹くっきりプックリ」

「なんか言い方ヘンッ」
「んで、センセの腰は?」
「痛てエんだな、これが。幸い、人がエエから快方傾向(語尾上げで)」

「んじゃあたしが。電気椅子、じゃなかった車いすで回診付きましょうか?」
「嬉しいねー、Pさん。全身げっそり、脳みそほっそり。ケツも腰も軽いねー」
「嬉しくないような、イヤになちゃうような」

「細かいことは、気にしなくてエエの」
「それって、細かいことですウ」
「細かすぎて、心もメタボの体もさぶくなるやろ?」

「いえ。ナンか頭に来て、カッカしますけどオ」
「背脂の周辺は、ホントはさぶいんじゃから。気の迷いやろ?」

 最低気温が久々の3度で心も体もさぶい真冬の、午後。

第723話 激写のブツブツ

「うーん、エエねー。治療が良いッ!」
 バシャッ
「イヤイヤ、参ったね−。素晴らしい」
 バシャッ

「コラコラ、ナニをブツブツ。たかが写真を撮るだけで」
「ま、あんたらにもお褒めの言葉のお裾分けをしたろか?」
「良いのよ、放っておきなさい。そのうち自慢話になるんだから、どーせ」

「あ、そ。んじゃ、続きイっと。ナンでかねー、こんなに凄いワシ」
「もーイヤッ。MIHIセンセの自画自賛の嵐を聞きながらじゃ、カルテ書けないわ。
 オカシイやら、アホらしいやら、ムカつくやら、蹴り入れたいやら」

「んでもPさん、元気になったやろ?飯もバクバク食うて」
「確かに、そうですけどオ。ナンか、自分だけで治したみたいなのが気に入らないワ」
「ワシだけじゃないで、薬もあるし食事療法もある」

「ナニかを忘れちゃいませんかーっと」
「ベッドとか、水道とか、んーと・・・」
「Zさん、その辺で止めといた方がエエよ。いまMIHIセンセは、オチを考えてんだから」

「そうですねー。あんまり面白いオチにされたら、あっちこっちで直ぐ言いふらすから。
 でも、聞いてみたい誘惑に駆られるわア。ゼッタイ面白いオチがあるはずウ」
「コラコラ。あんまりハードルをあげてもらうと、シャッター押す手がプルプル震える」

「あらまっ。ブタ並みに、脳みそ使うと前足が震えるんですって」
「ブヒッ、激写に集中できん。今日は、このくらいにしておいたろかッ。撤収じゃ」
「あの手がつかえるか、今度は」

 対抗上さらに次の上手を考える、午後。

第722話 逆幸す(かおす)

「コラコラ、センセ。ナンでセンセのカルテだけが、カートに逆に入ってるんですッ」
「逆って言われてもなー、誰が決めたん。これが逆」
「他のセンセのカルテは、みーんなフツーに入ってるでしょッ」

「あ、イカン。これだけ逆じゃ、直そ」
「それがフツーですッ、要らんことしなくて宜しいッ」

「んだからア。ワシのがフツーで、他のセンセがオカシイから逆とか?
 そう言う風に、素直に考えられんかなー。顔をひっくり返して、読めばア。フツーに」
「センセのド田舎じゃ、みんなと反対のことをフツーって言うんですウ」

「そういう言い方もある」
「有りませんッ!」
「んじゃ、Tさんがノリカ似って言うのは逆の真やろ?」

「逆にイ。それはそれで真っ当な考えと、良きに計らえ」
「それが逆って言う考えは?」
「逆にイ。キョンキョン似でも、ちいとも差し支え有りませんけどオ」

「ワシ、全身が差し支えそうな感じイ。んで胸焼けしそう、みたいな」
「ナンでも焼けて下さいまし、んであれ・・・あれ、あれですよ。あれ」
「息子の通信簿が、アヒルだらけのこと?」

「2ばっかじゃありません、3も1つや2つは。1・・・あ、メチャメチャ頑張ろうネ」
「ま、まさか10点満点とか?」
「バカ言わないで下さい。100・・・じゃなく、5点満点です。タブン。最近は、3段階」

「数が少ない方が評価が高かい、2位より1位。意外な逆のハッピー」
「そう言う逆なら、すこぶる逆にハッピー」
「モノは考えようなら、それはそれで逆にハッピー」

 逆の幸せがカオスになった、午後。

第721話 1+2=3ッ(じゃないッ)

「センセ、Pさんの検査。T検査は1回陰性ですよね」
「あと2回、あと2回ッ」
「んで、C検査は陰性でしょ」

「そうやなー、陽性じゃったら話は早かったのにイ」
「んで、ご相談」
「C検査は1回でエエで」

「んじゃのーて、T検査。あと1回でエエんじゃ?」
「ナンで?」
「Tの1回とCの1回足すと2回。3回検査したいんしょ?んで、T検査あと1回で都合3回」

「あのな、CとTの検査は。ふんどし…患者さんのことやな。それは同じでも。
 土俵が違うんや、勝負を3回したことにはナランやろ。たとえて言えば…。
 ケツ相撲1勝おもろい顔2勝で。あんたは、おもろい顔で3勝したことにはならんワケ」

「勝ちたくないですけどオ。んで、1+2=3じゃないんですね…」
「しかもC検査は、ジイジやバアバは偽陰性が出やすい。偽陰性を分かりやすく言えば…。
 んー、あんたには難しいなー。ワシ、相撲のことよーワカランで例えとるから」

「相撲じゃ無くても、エエんですけど」
「乗りかかった相撲じゃから、しつこいけど。そうや!ふんどしが解けたのが先か」
「ふんどしが解けたら、負けでしょ?」

「そうや、んで髪が薄くてちょんまげが外れたんが先か」
「ちょんまげが結えん様になったら、お相撲さんできないんでしょ?」
「んで、コンマ3秒でふんどしとちょんまげが外れて。さあ判定、どうする?」

「ビミョーで、どっちが勝ったかよーワカランみたいな」
「そうやろー、勝負がつかんから取り直しやろ?んじゃから、T検査はあと1回」
「センセ、Pさんの病気ナンでしたっけ?」

 2つの検査結果合わせ技で1+2=3じゃないッ、午後。

第719話顔赤理由(さけぎれ)

「センセ、顔が赤いけど?マスクもしてるし、やっとブタインフル?」
「フィー、あぢぢ。外来にやたら咳をしてる患者さんが居たモンで。
 ウエットティシュ3枚重ねじゃったら、苦しくて死にそう。ウー」

「そのままお隠れになれば、エかったのに。ウエットティシュ、追加13枚」
「これ以上重ねたら、窒息しそうやで」
「それが目的イ」

「Qちゃんは優しいね−、そこまでワシの健康に気遣ってくれて。嬉しさ100倍。
 3代遡ってお祈りしたろな。あ、そこまで遡るとノブタじゃったか」
「んじゃ、2代遡ったらいったい何?」

「まあ、魑魅魍魎っつーか。天網恢々、ふとお漏らし。みたいな」
「ワケワカランッ!まさか、酔っぱらってんじゃ?」
「思い起こせば6月6日、酒を断って幾千年。数えられんほど星が降り、マル虫が逝った」

「計算が合わんッ、意味ワカランッ」
「ワシも、よーワカランッ」
「んで、ナンで顔が赤かったんでしたっけ?」

「もしかして、ウエットティシュが含んだアルコールで?」
「んじゃ、やっぱアル中と変わらんじゃないですか」
「やっぱ、そう言うこと?」

「ハイ、そう言うこと」
「なーんや。んじゃ、そこのお女中。熱燗2,3本オネガイね・・・じゃ、ねーべ」
「ホント、素面でそこまでやるんだから。酔ったらどうなるんですの?」

「そらあんた、シャキーンとするで」
「やっぱアルの中じゃネ」
「なーんや、やっぱねー。そうだと・・・思うなッ」

 アルコールがすっかりキレても顔が赤い、午後。

第718話ヘンなこと言うた?

「おろ?今日のBGMは渋いねー、カントリーじゃん。ダニボーイねエ。
 オウ、ダニーボーイっと。ザパイプス・ア・コオリーンだねエ。
 イヤイヤ、切なくて心にググッと来て。泣けて来ちゃうねー、ウウウ・・・」

「センセでも、そんなセンチなことを言うんだ」
「ワシはこう見えても、40年前から町内会じゃセンチマン」
「小うるさいジジイマンっしょ、クッ」

「オバカ言わないでね、ちょっと老けて見えるキムタクって」
「何処の、北村タクノシンっすか?」
「キムタクと言えば、あのキムタクしか無いやろ?」

「イケメンのキムタクは、まだ生まれてないから・・・。分かった、あれあれ。
 猪八戒似の韓流妖怪スター、キムチ・タクアン。フンフン」

「んじゃこれ、指示したから」後頭部に響く声。
「あ、お早うございまーす」振り向いて。
「クッ、クッ。お早うございます」カルテを置いて消える院長センセ。

「何時から、院長センセ居たん?」
「ずーっと前から」
「ワシ、ヘンなこと言わんかったやろな?」
「クッ、クッ。変なこと以外、言ってませんよ。口は災いの門、開きっぱなし」」

「後頭部に、目が1つ欲しいねー」
「んな絶壁に目じゃ、滑り落ちますッ。院長センセ、廊下で爆笑ですッ」
「これ以上、勤務評価が上がったらどうする?」

 災いは口で始まる病棟の、午後。

第717話 拾不明定義(ひろうの)

「あのさ、これ拾ったんで持って来たけど要る?」
「今日退院のDさんの書類やないですか、何処に?」
「病棟」

「廊下ですか?」
「惜しい、もうちょっと広いところ」
「んじゃ、女性用トイレ?」

「何でワシが女性用トイレ?ワシは、危ないキムタクかッ!」
「危ない猪八戒」
「それはそれで、説得力はあるけどな」

「んで、何処?」
「ステーションの、机の上」
「それは落ちてるとは言わんでしょ。置いてあるとか、忘れてるとか。
 はたまた、センセに持って行かそうとしたとか」

「なーる、んじゃワシはパシリか?」
「そう言うことになるんじゃないかと」
「スマン、ワシは居らんかったことにしチくれ。ええい。こんなモン、ゴミ箱やッ」

「コラッ!ダメですよ、必要書類なんだから」
「あー、こんなところにあったア。探してたんだから」
「MIHIセンセが、病棟の机の上で拾ったって」

「コラコラ、それは拾ったとは・・・いくらモノは言いようったって。ねエ」
「そうじゃろ、ワシもそうMIHIセンセに言うたのに。あくまでも拾ったって、言い張る」
「”捨てる”の五段活用を知らんやろ。捨てる、捨てれば、捨ててエエ、以下同文」

「ピキ、ピキッ。それから、介助する時に邪魔になるんで背中へ廻してる名札。
 拾ったって、引っ張らないで下さいねッ!もう3回もやられてんだから。パワハラ」
「そーっと引っ張っても?このように笑顔で引っ張っても?」

「グ、グエッ。笑顔は、関係無いッ!喉に食い込むッ!逝っちゃうッ!止めッ!」
「うー。ワシ、オカメの写真を拾いそうな予感。引っ張る誘惑ウ」
「名札に、これは落とし物じゃありませんって書いておこうっと」
「大丈夫イ。ワシ時々外人になって、日本語が読めなくなるから」

 「拾う」の定義が急に分からなくなる、午後。

第716話 研究話題(ひまです)

「おっかしいなー、Pセンセ。来んな−、3時半に会いたいって言うから待ってんのに」
「そらイケマセン、来るなら早く来いって電話された方が」
「あんた言ってくれる?ワシ、よー言わんから」

「あらら、いつになく弱気な。似合わないイー、カバがブタの皮かぶってるウー」
「ワシって、気が弱いやろ?」
「ゼンゼン」

「あー、もう30分過ぎたー」
「まあ、どうせヒマだし。センセ、そっちの引き出しに鉛筆と消しゴム」
「食う?」

「んなワケねーでしょがッ、あたしは忙しいから。仕事、仕事につかうんですッ」
「ふーん。ワシ、ヒマだから。自分で取ったら」
「センセ、顎に手を当ててめん玉だけキョロキョロ。不審人物みたいですわよ」

「ふーん」
「センセって、ホントにヒマなんですね。看護研究させてあげましょか?
 臨床研究って、センセ好きじゃないですか。」

「要らん。ふぁー、まだかいな。来んなー、Pセンセ。ふぁー」
「時間を間違えてるとか?センセか、二人が」
「ナンでワシだけ、間違えた両方に入っとるんや。どっちかにしてくれん」

「センセは、ホントにヒマですからア」
「ふぁーあ、やっぱねー。ワシってヒマなんだ」

 研究の話題で自分がヒマだと気づいた、午後。

第715話言文句(ためる)

 風花がチラチラ舞う窓の外、「うー、プルッじゃねー」でステーション。
「ここは、何時から倉庫?さしあたり、Gちゃんは倉庫番のオヤジか」
「ピーッピッピー。コラコラ、メタボジジイは倉庫へ侵入しないようにッ」

「段ボール4つ、Dちゃん夜逃げ?」
「あたしの全財産は、段ボール4つには納まりませんッ」
「確かに、どてらと丹前・・・は、身につけてるけどオ。なんて、言えねエ言えねエ」

「あ、MIHIセンセ。あたし、なんか言おうと思ってたんですけどオ」
「ワシも婦長さんに、ナンか言われたかったんよ。ブラピ似より、キムタク似?」
「どっちもゼッタイ言いませんッ!しかし、ナンだったかなー」

「いま何時?ここは何処?貴方はタコ?はたまた、イカ?あたしはキムタク似?」
「んーと、んーと。んもう、思い出せなくなっちゃったワ。ヘンなこと言うから」
「どうせろくな事じゃないから、丸ーく忘れなさい。丸ーく」

「言いたいこと言わないでためると、体に良くないから」
「確かに、1年も便秘したらたまるやろなー。婦長さんの腹みたいに」
「便秘っちゃーんーと・・・。んーと。んーと」

「ためるナー。それとも、もしかして実が水戸様から出かかってるとか?」
「出てませんッ!それにお腹にたまってんのは、センセに言いたい文句だけですッ。」

 言いたい文句をためる、午後。

第714話 無進歩い(かんじい)

「行きまーす。わあかく、明るい。イェーッ。歌声にイ、イェーイ。みたいなカンジイ」
「あらら、何時からあの歌にイェーイなんて合いの手?あれでホンマに歌えるか?」
「若い人は知りませんからね−、古い歌」

「昔は、歌声喫茶なんてのが。大学の周辺に、何軒かあって」
「そうそう、マスターがアコーデオン。ロシアの服着てますウ、みたいな」
「んで、歌詞別冊をめくりながら。ハイッなんて言われて、歌い出すワケよねー」

「懐かしいわア、あら?」
「婦長さん、この話についてこれるのはワシらだけや」
「はアー、老兵は去るのみですねー」

「そこのセンセ、しみじみしてないッ。ヨードパスタじゃ白色壊死はダメでしょ?」
「オバカを言わないでネ、ヨードと陰イオンを足すと活性酸素みたいなカンジイ。
 んだから、酸化作用が出て来て。自分の細胞も、ばい菌もやられちゃって」

「んでも、パスタぐらいの濃度で3%(語尾上げ)。細胞に影響ありますウ、みたいな」
「理論的にはあるやろ、みたいな」
「理論と実際は大違いみたいなカンジイと、思ったりして」

「その根拠は?聞きたいカンジイ」
「絶句のカンジイ」
「調べちゃうねの、カンジイ」

 その5分後、
「Pちゃん、分かったで。ヨードは0.1%あったら、ばい菌も組織もぶちこわすらしいで。
 んじゃから。何たらスパゲッティじゃなかった、ナンたらヨードパスタは3%じゃから。
 白色壊死だろうが、ばい菌だろうが。あんたのひね曲がった性格だろうが。バッサリ」

「フーン、そうなんだ。カンジイでモノを言っちゃいけないんだ」
「しかし、Pちゃんには鍛えられるワ。ホント、ヘッヘ」
「イエイエ、あたしこそセンセに鍛えられるカンジイ。ヘッヘ」

 カンジイでは進歩がないのがよく分かった午後、のカンジイ。

第713話 妄想会話て(といれにて)

「しかしナンじゃね−、色黒いねー。日焼けか?」
「地黒や、ワシらの親戚。皆、真っ黒」

「そんなにウロウロ、暑くないんか?」
「こう見えても働きモンで、汗はあんまり出ん」

「そこには食うモン無いやろ?」
「探してみんと、ワカラン」

「しかし、ワシらと比べると不気味なスタイルやん?」
「フンッ、大きなお世話。ウッセ、難癖」

「あんたら、トイレは?」
「したくなったら、その場で」

「恥ずかしくないん?」
「親戚も全部そうじゃし、親もそうしなさいって」

「ホエーじゃね。あーすっきりした。んじゃ、達者でお気張りやす」
「手エ、ちゃんと洗ってペーパータオルで隅々まで拭き取るんよ」

 ほんの2分間、トイレのタイルで彷徨く眼前体長3mmアリンコ。
いきなり目に入ったアリンコと妄想会話をしたトイレの、朝。

第712話 甲羅功う(としのこう)

「ここをもう少し、皮膚をこっちへ引っ張ってあげるとね・・・」
「そうそう、そこそこ。ちょいと引っ張って貰えると、白色壊死部分がデブリしやすい」
「こうですね、ちょいとは」

「オロッ、えらく皺の多い手が伸びたと思ったら」
「んまっ、失礼な。白鳥のような手に、なんてことを仰ってくれちゃって」
「褥瘡のデブリは、あうんの呼吸が大事。白鳥の手って、ババ鳥の手羽先?」

「長くやってますから、処置者が3秒先にどう動くか?分からなくっちゃネ、Pちゃん」
「あ、ハイ。勉強になりますウ」
「そうそう、年の功より亀の甲って言うやろ?」

「逆でしょッ」
「スマン、痒いコーモンに手が届くみたいな」
「そんなところに、届きませんッ!」

「んじゃ、痒いインキンに・・・」
「どっちも届きませんッ!」
「んじゃ、んじゃ・・・」

「もっと良いとこはナインですか?」
「ワシのエエとこと言えば、キムタク似イ?あ、ブラピでも」
「私が悪うございました、聞き方がフツーじゃなかったです」

「異常な聞き方って、最近なら小栗君似みたいな?そっちでも、ゼンゼン問題ない」
「旬様を汚さないで下さい、オネガイですから」
「歳の割に好みが若いやんか」

「顔の皺より、年の功ですから」
「それを言うなら、背中の甲羅より年の功やろ」
「あたしゃ、亀ですかッ。1万年生きますかッ!」
「それは、はた迷惑ッ!」と同時にデブリも終了。

 Zさんの褥瘡は良い傾向の、午後。

第711話 不酒飲生活ふ(すろーらいふ)

「センセ。まさか、まさか痩せたなんてこと無いっすよね。影が薄くなった?」
「だれが、ハゲが薄くなったじゃ。確かに、フサフサじゃないけど」

「次の3択から選んで下さい。1、ひらい食いして腹をこわした。
 2、猫いらずと下剤を間違えた。さて、どれ?」
「2択しかないけど・・・んじゃ2ッ。じゃなくて、禁酒ダイエット」

「やっぱそうだったんですか、病棟の猫いらずがやたら減ると思ったら」
「じゃかあしいッ!艱難辛苦を乗り越えて、やって来ました禁酒5ヶ月」
「それでは歌っていただきましょう、禁酒だよおとっつあん。みたいな」

「はアーっと、エンヤコラ・グビッ。んじゃなくて」
「センセ、聞いて。2日間だけ、2Lミネラルウオーター6本飲むと。激やせ。
 しかも筋トレ続けてるから、腹筋割れて。この美貌、この美白、この好感度」

「あんた、日本語ヘン。横に3段、くっきり割れたやろ?水中毒で」
「それは、Pちゃんしょッ」
「あー、酷ーい。そらQちゃんは独身だから、余り物も口に捨てずにゴミ箱でしょ?
 つい勿体ないから、口を可愛がっちゃうのよねー。妻帯者は、ウウ・・・」

「んで、今まで晩酌していたのに。何故か飲めなくなって、自然禁酒。
 3万円、浮けば購入ルイボトン・バッグ1ヶ」
「肝臓と化粧下は、既にボロボロ」
「大きなお世話、ちょっとだけ当たり」

 飲み助は「人が一生で飲める酒量は誰も同じ」と言うが、当たらずといえども遠からず。
私にとって気まぐれとも言える禁酒で、多少浮いた飲み代とダイエットで減った皮下脂肪。
この気まぐれは、今のところ悪さをしていないのが有り難い。

 孫をだっこしている手に伝わってくる心拍数は、私よりずっと速い。
殆どの生き物の寿命も喜びも悲しみも酒量も(?)、それぞれの持ち分があって。
個々に独自のリズムを刻みながら、一生を過ごして果てるとか。

 人間だけは個々のリズムを必要以上に速めて、不自然に勝手なことをするらしい。
誰もが刻んでいる心臓の不整脈も、ただの気まぐれにしては時に悪さをする。
これをある程度は押さえることが出来ても、流れに逆らって自由にはならない自然の理。

 禁酒を機にスローライフで行こうと思った、午後。

第710話 虐待聞取(ごちゅうい)

「フムフム、挨拶は大きな声で出来てるか?そらあんた、耳をつんざくくらい。
 そう言う場合は、丸の上じゃから二重丸か花丸と。地味に、花丸ウ」
「コラコラ、勝手に選択枝を作らないッ」

「ガキじゃ有るまいし、何処のアホがこんなアンケート。あ、あるある。
 虐められていると感じたことは・・・毎秒じゃから、これも花丸っと」
「んだからー、オカシイでしょッ。感じたのは患者さんで、センセじゃないッ」

「ホレホレ。ワシ、たった今あんたに虐待されてない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、されてない(語尾下げで)」
「物は言いよう、されるは取りようか?んじゃ、アンケートなんて意味無いッ」

「直ぐそう言う風に、キレて文句を言うって項目有りません?」
「無いけど、MIHIセンセは病院で虐められて毎夜枕を濡らしている・・・なら」
「口に締まりがないから、よだれダラダラで枕を濡らすんだ。きっちゃなー」

「そう言うのは、虐待にはならんの?ナースWの言葉として、アンケートに書く?」
「ダメですッ、それはゼッタイ虐待にあたります」
「んで、このアンケートを採って何に使うんや?」

「そらセンセ、今後の患者さんの待遇改善に活かすんでしょ?」
「ちょっとでエエから、MIHIセンセの待遇改善に活かせん?」
「意味のないことに、活かせませんッ」

「んでもこれって、アンケートのミスを起こす3大要因ゼンブ揃っとるわ」
「ナンですか、それ」
「質問を間違えた、質問をする相手を間違えた、ウソを答えた。これって、有名やで」

「誰がそんなこと言うたんですウ?経済学者とか心理学者とか?」
「ヘッ。これを知らないあんたは、ただのブタってのも。その人が言うたけど」
「そんなショーもないこと言うんは、MIHIセンセしかいないでしょッ」

 虐待アンケートには御注意!の、午後。

第709話 理由不出会議け(さぼるわけ)

<チリリリ>
「あい、医局」
「あら、センセ。医局でした?会議に出てないから、超ラッキー。
 てっきりお隠れになったかと、大喜びしてたのに。残念だわ、すこぶる。
 明日、事務長にこのことチクっておきますね。有ること無いこと、織り交ぜて」

「あろ?今日はあのクダラン会議でしたっけ!279年ぶりに、勉強しすぎちゃってネ。
 脳みそがオーバーヒートして、ドロドロのスカスカ。すっかり会議をぶっ飛ばしたナ」
「ドロドロスカスカの勉強って、ナンです?」

「統計なんですけど、やればやるほどカオス。他人の統計アラは、直ぐ見つけるし」
「最悪のパターンは、相変わらずじゃないですか」
「ボクは、最悪じゃないけど」

「益々、イカンでしょッ。自覚が、ゼンゼンないのが」
「ちょっぴりだけなら、自画自賛も」
「それなら3700万害あって0.2利なしじゃないですか、サイテー」

「そんなに誉められると・・・」
「センセの日本語ヘン。短足メタボ胴長、コテコテの日本人でしょ?」
「大見と詫間のハーフ。あ、香川の田舎ね」

「えらくマイナーすぎて、ワケワカランけどオ。センセはあっち系だったとは」
「あっちじゃなくて、こっちですけどオ」両方の小指が立つMIHIセンセ。
「どっちでもエエです、とにかく会議をサボったワケですからッ」

「早く言えば、そう言うこと」
「遅くても、同じですッ!」

 会議をサボるにはワシなりのワケがある、午後。

第708話 疑医師暇る(もりさがる)

「センセ、休みすぎでしょッ」
「んだって、月に半日2回の代休と。今年1年間で2日目、馬車馬有給休暇」
「ナンか、しょっちゅう休んでるみたいな」

「そんなにワシって、影が薄い?」
「イエ、影でも濃厚。現物は濃すぎて、気分が悪い」
「確かに、オムツも変えんし。食事介助もせんからなー、医者はヒマっちゃヒマ。
 たかが病棟スタッフの根性入れ替え作業じゃ、忙しくもないし」

「センセの日本語ヘン」
「確かにワシに言わせりゃ宇宙一の臨床研究もする、学会発表もたまに。
 ミョーな論文も、毎年1つは書くわなー。やっぱ、ヒマなんじゃろか?」

「そこまでやるのは、ヒマな証拠しょッ」
「研究も、学会発表も、論文もやっつけるわな。評価は、聞くだけ野暮じゃけど。
 ここのスタッフ、ナニがそんなに忙しいんやろ?」

「確かに学会発表はみんなで何とか。論文、無理は当然として」
「ワシがキムタク似なのは、当然として」
「どさくさに紛れて、バカ言わない」

「入院サマリーだって、ビジュアル的になかなかのモンを作るヒマがあるし。
 自慢じゃないけど、出来は右に出るヤツは居らんで。左なら、2,3人居る」
「しっかり、自慢してんじゃん」

「ワシに自慢せえって言われりゃ、ちょっと思いつくだけでも3万」
「そんなバカ話を聞いてるヒマは、ありませんッ!」
「んじゃ、やっぱワシはヒマなんじゃろうか?よーワカラン」
「どうでもエエでしょ、そんなこと。ファーア、ヒマって伝染するんだ!」

 医者はヒマか?を疑うと盛り下がる、午後。

第707話 難日本語ん(ありえん)

「フンフンフン、ブタのフン。フンフンフン、マル虫のフンっと」
「あらセンセ、ご機嫌で」
「ハイハイ、絶好調ウー」

「こないだなんか、鼻歌でカルテ書いていたら。あー、MIHIセンセかと思ったーなんて。
 夜勤の相方Wちゃんが言うんですよ、これって酷くない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、大喜びイ(語尾下げで)。1000年の栄誉オ」

「それを言うなら、末代までの恥でしょッ」
「歓喜のあまり、あんたの旦那はタコ踊り」
「んだって、真夜中ですよ。夜勤にMIHIセンセが居たら、ストーカーでしょ。あたしの」

「スマンが、よりによってアリンコが輪になった丸ラインダンスみたいな」
「どう言うこと?」
「蟻と円で、有り得んってことでオネガイします」

「キャー、コテコテのジジイギャクう」
「キャー、時間じゃ。クダラン会議イ」
「センセ、ホントに会議がクダランって思ってんですか?」

「事前資料配付無し、展望無し。ディベート合戦無し、噛みつき無し」
「それってフツーでしょ?」
「会議で血イ見なきゃ、何処で見るんや。血イを」

「そんなことしたら、アカンでしょ。3回会議で、出血多量に死者続出。坊主丸儲け」
「んじゃ、牧師さんは儲からんでエエんか?それでイエスさんやダビデさんは?」
「んじゃ、坊主と牧師その他大勢丸儲けに変えてもエエですよ」

「んじゃイタコや呪い師とか占い師の立場は、どうしてくれるんやッ!」
「んもー、アリンコのラ丸インダンスですッ!」
「あんた、日本語の使い方がヘン」

 有り得ない日本語の難しさの、午後。

第706話 外出大口包布い(おでかけしなさい)

「センセ。この間、押してたでしょ」
「な、何でワシが朝赤龍と押し相撲してたのを知ってるんや?」
「グイグイ押されて・・・んじゃなくて、車」

「な、何でワシが牛車を?」
「干支、体型、グータラ模様。何処を取っても、牛っしょ」
「確かに、モー仰るとおり」

「んで、Rスーパーで。奥様の後ろをカートをのそのそ押してたでしょ?昨日の11時頃」
「ナンで分かったんや、顔より大きなマスクしてたのに」
「いくらマスクが大きくても、メタボ体型はその数百倍判別可能」

「んでも、丁度ワシらが行った時は、ひょっとことオカメのお面かぶった2人組しか」
「オカシイですね−。センセを見間違うなら、アリンコをカバの区別がつかんでしょッ」
「意味ワカランッ!」

「その2人組って、子供を連れてませんでした?異常に可愛い子」
「子供じゃないけど。異常に可哀想なミニブタみたいなんを、檻に入れて運んでた。
 サーカスか見せ物でも出して、笑いが取れる前座みたいな?」

「ま、まさか。そのカートに乗ったミニブタって、串団子の絵が入ったTシャツの?」
「んじゃ違うな、串刺しのハンバーガーじゃったから」
「んじゃ、違う・・・かも。ま、まさかPちゃん家族!」

「んでも、あの化粧はどうみても・・・オカメのお面」
「その近くに、美白足長のうら若き熟女が1名?みたいな」
「完熟のおばはんが1名?みたいな」

「ウウウ・・・。今度から、買い物は新製品の化粧よりマスクみたいな」
「どうせなら、風呂敷マスク。みたいな」
「蹴りを入れたい、みたいな」

 お出かけは最大マスクでね!の、午後。

第705話 準備季節た(ぼちぼちさんた)

「あら、センセ。ウロキョロ、自分が今何処に居るか分からないとか?」
「私は誰、ここは何処。あんたのお面はナニ?」
「コラコラ、調子に乗るんじゃないッ!んで、何かお探しですか?」

「ナンでもない」
「センセのナンでもないは、メチャメチャ怪しくない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、怪しくない(語尾下げで)」言いつつ消える。

「んーと、これが端っこじゃないワナ」
「ナニ探してんですウ、天井見上げて。あー、分かったイルミネーションでしょ?」
「コンセントに刺すトコは、何処やろ?」

「未だ11月の初旬ですよ、早すぎるッ」
「目出度いモンは、せっかちに。腐ったモンは、あんたに」
「X(クリスマスのエックス)ですね。それって」

「ヨシキのジャパンとちゃう」
「赤い服着て、顔真っ赤。ひげを生やしてんでしょ」
「酔っぱらって、カンカンに怒ってる赤鬼。んじゃなくて、縁起モンでしょ。12月の」

「倉庫にちゃんと取ってありますよ、センセ用が」
「でもあれって、ケツのところに5cm大の穴が。それと、上着もボタンが1ヶ無い」
「ちょうどお似合い、ゴミためから蘇ったサンタと言う設定にすれば。みんな納得」

「ワシだけ不満」
「みんなの笑いもの」
「バッちゃんのアイドル」

「分かりました、センセのポケットマネーで新品を買いましょ」
「ちょいと派手目で、よろしかったでしょうかア。ぼつぼつ準備の季節やなー」
「フツーのジミーなサンタでよろしい。センセいつも、主役より目立ちすぎイ」

「誰もがあっと驚くような、バニーのサンタとか?ワシも大変よ、準備せなアカン」
「バニーは、ゼッタイにダメですッ。あたしの役を取らないでッ」
「んじゃ、しゃーない。バニーは譲るわ。んじゃ、ナンにすればあっと驚くやろ?」

 ぼちぼちサンタ準備季節の、午後。

第704話 じらされる季節

「キャー、Tさん。カワイイ、真っ赤なTシャツ」
「そ、そうかの」
「それって、この間お孫さんが着てなかった?」

「そうじゃったかいの、忘れた。孫っちゃ誰の、どの?へッ!昨日、来た」
「ナンでもいいけど、赤が似合うワ」
「そ、そうかの」

「とうとう来月に迫ったねー、赤いんが」タイミング良く参入する私。
「ボーナス貰っても、センセんとこ赤字?純金のトランクスを集める趣味?」
「んじゃなくてエ、赤いエエモンがあるでしょ。師走と言えば?」

「年賀状、おせち料理。お年玉、んで赤い・・・ナンだっけ」
「そのちょっと前は?」
「なんだ、紅葉の赤じゃったんですね」

「前過ぎるッ」
「分かったア、自信あるウ」
「それそれ、言っちゃって。どんどん、バリバリ」

「大掃除イ」
「あのさ12月に赤が出て来んと、ナンか物足りなくない(語尾上げで)」
「センセはも少し背が欲しいとか、忍耐が欲しいとか、徘徊しないで欲しいとか?」

「そうじゃなくてエ。んじゃ先ずは、天井から攻めるか」
「お掃除していただきましょうね。しかし、天井までチェックするか。小姑みたいに」
「掃除なんかどうでもエエ、光りもの」

「ヘッ、天井にイカの刺身でもぶら下げますか?」
「あー、ワシ気分が悪リい。ピカピカ」
「はーあ、ラメですね−。ライトが当たると、ピカピカ」

「場末のキャバレーみたいな・・・ちゃうちゃう、電飾ッ!サンタッ!」
「だから素直に、サンタさせて下さい。オネガイしますの一言で、済むのに」
「良いんよ、たまにはMIHIセンセをじらさなきゃ。いつもの3倍返しヨ」

 サンタスケジュール真っ白でじらされる、季節。

第703話 二文字解説(せくはら)

「痛くしないでね、苦手なんだからア」
「だいじょーび。あんたは千枚通しをグリグリやっても、なーんも感じんやろ。
 ハイそこで思いっきり刺すッ!一億玉砕イー、突撃イ。突け突けエ、みたいな」

「キャー止めて下さいよ、手が震えるっしょッ。クッ、クッ」針刺すナース。
「言いたいこと言うのも、今のうち」針刺されるナース。
「しかしナンやネー、毎年健診。もしかして、SM派?」

「他人の採血はけっこう好きなのに、自分はイヤですモンねー。針を刺されるの」
「Zちゃん、あんまり血イが返って来んね」
「そうなんよ。あたし、血イが足りんの」

「タニシとキタキツネが噂しとった、ナースZは知恵が足りんって」
「知恵じゃなくて、足りないのは血ッ!貧血ッ」
「給料前4週間じゃモンなー。可哀想に、デヘッ。要らんモン買うから、大笑いさ」

「それはキンケツッ!」
「ナイナイ尽くしじゃねー。知恵もネエ、金もネエ、有るのは背脂ボヨヨンみたいな」
「そう言う意味じゃ、ドングリの背比べだわ。あたしら、ハア」

「ナンの背比べって?」
「あら、センセ。全身茶系、クヌギのドングリ」
「それを言うなら、狸のフグリ」

「やですよ、そこまでオセイジを言うと祟りが」
「お、オセイジ!んじゃナニか。ワシがキムタク似じゃ、ご先祖が盲腸になるか?」
「ワケワカランッ!んで、フグリって?」

「んだから、狸のキン・・・。言えねー」
「んだから、キンの後は」
「キンに続く文字を想像して379万字以内で述べよ」

 ドンとフ。二文字の違いを解説すればセクハラになる、午後。

第702話 婆好菌(たいぷA)

「センセ。熱発2名、近所の方で受診したいって。電話です」
「ラジャッ。到着したら、直ぐに奥の院へケモノ道でお通ししてね」
「いつから、発熱専用診察室が奥の院に?」

「たった今からネ。んで、職員通路は、ケモノ道と言う事でオネガイ」
「勝手にミョーな名前を付けないで下さい。それに、あたしら獣ですかッ」
「君たちは風流とか、優雅とか、野壺とか。余裕がないあんたは、猛獣」

「3つ目のツボが、よーワカランですけどオ」
「コエのツボと言えば、ピロリ菌の元じゃねーの?って。あ、知らない」
「あたしピロリちゃんが、胃の中に2,3匹居るかもオ」

「因果は巡る食物連鎖。口から入りケツから出たモンを溜める、誰が名付けたか野壺」
「センセ。野壺はどうでもエエから、診察ね」
「ラジャッ」

 鼻の穴奥へ綿棒突っ込みグリグリで、「ウッウー」を2回聞く。
「ハイ、おばあちゃんはA型でした。んがお嫁さんは陰性、んで38度で二人ともお薬ね」
「センセ。インフルっちゃ、ばあさん好みか?あたしだけ出たけど、若い嫁は出ん」

「ばあちゃん、べっぴんさんやから。ウイルスAのタイプなんじゃ」
「ウヘッ、センセはお上手じゃ。ワシワシ詐欺師も、センセなら騙せるで」
「おかあさん、そこまで言っちゃ」

「気にセンでエエ、ワシ自信あるし。んじゃ、今度はインフルのワクチンネ」
「一回なったら、もうならんって」
「今日のはAじゃけど、新型かフツーかワカランし」
「そう言うもんかの?んでも、注射代高いで」

「しかしナンじゃねー、世の中オカシイねー。ワクチンは足らんし、高いし。
 高速道路をただにして、ガソリンまき散らかして空気汚して。フェリー会社潰して。
 排気ガスで、温度上げて何が環境対策。ケッ、笑わせるよねー。カッカッだよねー。
 CO2増やす金があったら、国民全員にインフルワクチン無料が先でしょッ。
 コンクリより人なんて、大嘘。ネッ、そうでしょ?責任者出てこいッ!みたいな」

「センセ。コーフンして、マスクがずれとる。メガネが、息で曇っとる」
「あ、どうも。んじゃ、お大事に」
「ミョーなAちゃら言うバイキンに、好かれたもんじゃ」

「センセは、そのミョーなモンにも好かれんし」送り出すナースG。
「フンッ、あんたに好かれるよりましじゃ」

 鼻息荒くインフルでもないのに顔が火照る、朝。

第701話 余裕じゃね

「あ、センセ。回診ですか、ウップ。あー、気分悪いイー」
「Zさん、元気か?」
「元気じゃったら、こんなとこに居ないしょ」

「確かに。ワシも、給料出んかったらこんなとこには居らん」
「ウップ、うー。ちょっとさっきから気持ち悪いんよ。
 あら、今日のセンセのズボン。素敵な色に柄やね、シャツはピンクじゃし

「気持ちが悪いのに、余裕じゃね」
「胃の手術してから1年、ずーっとじゃから。慣れっこの余裕じゃね」
「注射しようか?」

「もちっと、我慢して。死にそうになったら、オネガイします」
「余裕有るんだ。んじゃ、ワシ往診に行ってくるから。帰ったら、も一回顔見に来るわ」
「その頃には、余裕で治っとるやろ」を聞いて訪問診療。

「Fさーん、往診やでエ。元気イ?」
「フン」
「今日はインフルの注射するでエ、痛いでエ」
「フン」

「ナンか、余裕じゃねー。んじゃ、行くよー。痛いよー」
「ウッ」
「んじゃ、血圧測ろうねー」

「これ、痛くないか?」
「あららー、血圧計。230まで加圧」
「余裕じゃねー、何処まで上がるか楽しみじゃねー。今朝は、薬を飲んでないんじゃ」

 今日は185だった根拠不明余裕血圧の、朝。

第700話フルーツなら

「あのさ、*委員会って情報ゼンゼンないじゃん。全員、会議で寝てんじゃネーの」
「失礼な!センセに情報流さないだけエ」
「んじゃなにか、ワシのことはどーでもエエってか?」

「そういう言い方もある」
「他の言い方があったら、3万125文字以内で簡潔に述べよ」
「知らせれば、あーだこーだ。言いたいこと、大音量。 結果、キレまくり。
 無視されてんのが分かんない、自分が見えない、あたしのエエとこ見えない」

「んじゃなにか、ワシもあんたもラフランスなヤツってーことか?」
「やだ、いくらパリジェンヌ風だからって。誉めすぎイ、も一度言ってもエエっすよ」
「あんたの家、鏡が無いやろ?」

「歪んで見える鏡なら、全身用の大きいのが3ヶ」
「手鏡じゃ、鼻の穴しか映らんしなー」
「毛の生えた泣きぼくろも、ちゃんと見えますよ。楕円形の」

「ちょ、ちょっと待ってオネーさん。あんたのお笑い毛ホクロは・・・」
「そんなことより、何処がどうおフランスなんでしたっけ?」
「いつ誰が、おフランスって言うた?どの口で」

「やなこと言われると、ひょっとこみたいに尖っちゃうヤツで」
「ちょっとだけ換えてくれん?キムタクとウリ2つのって」
「ちょっとじゃないでしょッ!」

「些細なことは良いとして」
「大問題でしょッ」
「おじゃなくて、ラやで」

「んじゃ、ラフランスう?そんなにあたしはフルーティ?」
「あんたもワシも、古手」
「フルーティと、古手ですね。座布団1枚」
「ラフランスだけに、ヨウナシ。座布団もう1枚」

 フルーツならあたしはラフランスの、午後。

第699話不出名理由れ(わしはだれ)

「センセ、あたしヘンなんじゃ。センセもヘンじゃけど」
「んじゃ、一緒や。おあいこ」
「それがな、センセの顔も分かるし。ここがどこかも分かるし、これ息子の嫁の母親」

「そんだけ分かったら、言うことないやん」
「それが、名前が出んのや」
「そんなん、ワシしょっちゅうやで。この看護婦さんの名前は、んーと」

「Qさん大丈夫。MIHIセンセより、ずーっとまし。ここで黙ってると、酷いことになるわよ」
「そうそう。ワシなんかこの看護婦さんのあだ名しか思い出せんモンなー。んーと」
「ハイ。そう来るでしょ、終わりッ。んで、このセンセの名前は?」割って入るナースD。

「それが、顔は分かるし・・・」
「キムタク似ってのも分かるやろ?ブラピ似って言い換えても、ワシは差し支えないが」
「そこはワカランけど」
「んじゃ、フツーじゃないですかア」余計なことを言うナースD。

「ちょ、ちょっと待ってね。診察するから。んーと・・・手の指の動きもエエ、足もエエ。
 んで、瞳孔も左右は同じ。あ、眩しい。懐中電気に素早く反応と。頭を打って無い。
 傷もないし血イも出ていないし、首の後ろも固くはない。頭痛も吐き気もないと。
 おろ?皮膚摘んだら、ちょびっと立っちゃうやん。お茶飲んでる?メシ食った?」

「オシッコが増えるとソソウするから、お茶は控えて。そしたらボーッとして来て。
 食欲はなくなるし、ナンもしとうなくなって。2、3日、寝てばっかじゃった。
 んで朝起きたら、熱っぽいし。そこへ、この人が尋ねてきたわけ。んで名前が出ん。」

「ハイ、3,4日入院ね。点滴するから、泊まっていってね。独り暮らしじゃ危ない」
「そんなモンかの」
「そんなモンじゃ。明後日して、ワシの名前を思い出したら家へ帰ってエエよ」

 2日後、病室に入りかけたMIHIセンセを見て。
「あらま、MIHIセンセ。こんなところで、何してんです?」
「Qさん、ワシの名前分かるか?」

「センセ、惚けたこと言うちゃイケン。忘れるわけ無かろう」
「んじゃ、明日もういっぺん顔を見て退院じゃね」
「しかし、あたしナンでここにいるんじゃろ?ワシは誰じゃ?」

 名前が出ないワケは「ワシは誰?」の、午後。

第698話 地味な朝

「へえ、今日は地味じゃない?」出がけに先ずジャブ1発。
「グレンチェックのパンツに、薄いブルーのBDシャツ。ソックスはパンツと同系色」
「サラリーマン風ね、半袖じゃなかったら」言われて出勤。

 病院の玄関を入った途端に、ナースR。
「あれまあ、今日はお葬式イ?」
「真っ赤なポロにでも、着替える?ナムう」

 そのまま外来に突入し、1番バッターのQさんから。
「あれまあ、見違えたワ。センセが霞んで見えるで」
「ジミーって呼んでね、キムタク似を付けてくれてもゼンゼン気にしない」

「気にしますよねー、Pさん」割り込むナースY。
「なんか大人びた感じじゃね、いつもより」
「それを言うなら、ジジイびた感じでしょッ!」

「ハイハイ。なんでん言うてつかあさい、ませませ」
「センセ、クロマニヨンの雑食系?」またまたY参戦。
「ワシ、明日から赤系の服だけ着てこようっと」

「脳みそと同じ、お目出度とうございますウ。みたいな」
「ハイハイ。いつもの倍、回っていまーす。おめでとうございまーす。みたいな」
「ホント、センセは飽きんわ」

 地味に誉められた朝。

第696話 ヒマは誰?

「おーい。ヘルプう」
3495号室ナースコール、ピンポンと同時にインターフォンから声を掛ける。
「どうしましたア?」のナースD。

「Vさんの気管カニューレを交換しようぜエ。一番ヒマな人、カモなベイベ」
「そんなヒマな人は、ここにはおりませんッ」
「いるやろ、一人。オフェリア、婦長を呼べ!脳みそ筋肉。お仕事お仕事」

 小走りの靴音が接近して。
「あたしは、ヒマじゃありませんッ」
「ヒマだから来れたんじゃん。忙しいのは、口だけやろ?」

「おバカなことを言わないで下さいませ、ませ。ふんとにもー」
「まだ大丈夫やな、手順を忘れてないみたいな」
「当たり前でしょッ!センセより、20個も若いんだから」

「んじゃ、あんたは25歳?んじゃ、んじゃ。若年性ニンチ」
「止まれエ。どういう計算してるんです、合わないでしょ。んなら、センセは45歳?」
「ワシって老けてみられるタチ。45歳には見えんやろ、ソンよなー」

「とうとう来てますね」
「人のこと心配するヒマがあったら、自分のことね。ソックスに穴1ヶ、見っけ」
「あらまー」

「指突っ込んだろか?ヒマじゃから」
「ヒマなセンセに付き合うほど、ヒマじゃありませんッ!」
「ホントは、どっちがヒマなんじゃろ」
「んなの・・・」

 婦長さんとMIHIセンセとどっちがヒマか悩む、午後。

第695話 痩せる部分

「センセ。デブった?」
「ハア?ナゼ故に、3gも激やせしたか知りたい?」
「そんなん、センセがオナラ3発の前後と変わらんでしょッ」

「ワシの屁は1回1gかッ、実が出たら1回7gは・・・」
「実は出さないで下さいッ」
「じつを言うと、ワシ禁酒してから4Kg減ったんよ。高校3年生の時みたいに」

「ブタ歴45年とは、おいたわしや」
「そう言って誉めてくれるのはあんただけや、スマンのー」
「誉めてませんッ!4Kg減ったのは、ほとんど脳みそだったりして」

「アホ言え、頭蓋骨が男で700g前後やで。ほんで、成人の脳みそは1200-1400g。
 んじゃ、ワシの頭は3Kg超か?脳無しブタは、テビチが美味い」
「ワケワカランッ!」

「んでも、4Kgゼンブ脳みそが減ったら、中身無しのカラカラ。骨だけや」
「やっぱ、そうじゃったんですか。脳無し人間」
「3本注射か、入院か?あ、患者さんに迷惑だから放し飼いでエエ?」

「んでも10年、センセは確かに脂が減った」
「んでもねー。サスペンダーの張りとウエストの感じは、カワランカワラン」
「いま減ってんのは、内臓脂肪。いまからやで、皮下脂肪がクイクイ減るのは」
「脳みそがすっかり減ったら、次に減るのは脂肪しかないですモンねー。確かに」

「横に割れてる腹筋、鍛えなきゃ」
「その割れは、3段メタボ腹のスキマッ」
「そのスキマなら、かなり痩せたような気がするんじゃけど」

 痩せる部分を分解すれば何処がどう痩せようと、物は考えよう。

第694話 本偽物間め(さかいめ)

「センセ。インフルエンザワクチン、痛いですよね−」
「タンスの角に小指引っかけたよりは、ましじゃろ」
「確かに。しかも1回で\3000ですもんねー、お高い」

「あんたがダンナのへそくりちょろまかして買った、ブトンのバックより?」
「20回以上打てますモンね−。ブじゃなくてヴィですけど」
「本物かッ?」

「質流れでも、ゴミ捨て場にあったんでもありません。母から貰ったんです」
「それって、本物かッ!」
「タブン、生まれた瞬間は見てないけど。気がついたらずーっと側にいるから母っしょ」

「んじゃなくて、バッグが」
「知らん間に、あたしのタンスに入っていたから」
「あんたの母親は、ウソをゼッタイつかないんか?」

「しょっちゅう・・・あ!」
「その点、インフルワクチンは本物らしい」
「あたしだけ効かなかったりして、美白ひ弱じゃから。抵抗力も弱々しくて」

「あんたのワシに対する抵抗は婦長3万人分じゃから、ワクチンなんかイランイラン。
 あんたがウイルスを食い殺すんは、ゾウがアリンコ踏みつぶすより簡単やで」
「ゾウと言うよりも、小ブタでオネガイします」

「効かなかったワクチンは本物かッ!ってことよ。打った中身が、マヨネーズとか?」
「それって、すごーく痛いっしょねー」
「確かに痛かろうなー、打ったこと無いけど。試す?あ、イヤ」

「センセは、本物の医者ですかッ!」
「それがなー、時々ワシって詐欺師やないかと・・・。んじゃなくて、キムタクかと」
「大丈夫、本物のオヤジ医者ですッ!詐欺師との境目がワカランけど」

 本物と偽物の境界が分かりづらい、昨今の午後。

第693話 足は1本で十分

「おろ?まさかのまさかで、とうとう逝っちまったか」
「フンッ、またじゃーくさいヤツ。寝たふりしたろ」
「息もしとらんし、シッポも死んどる。ホンマに死んどるんやろか?」

「フンッ、うるさいやっちゃなー。黙って寝かせてくれん」
「まあ、ジジイじゃし。足腰弱っとたモンな−。何時逝ってもオカシクはないけど」
「フンッ、とっととラウンドしておいで」

「\100ショップで買ったアロマ線香、4,5本鼻の穴に突っ込んだろかしら」
「コ、コラッ。まさか本気じゃ?」
「一気に火を付けたら、ボーボー臭いやろなー」

「そんな、犬でもせんことをするか!人畜生とは、MIHIセンセのことかもオ。
 分かりました、よー分かりました。起きればエエんでしょ、起きれば」
「なんや、逝ってたんとちゃうんか。ツマラン、ほれビスケ」
 茶ラブ犬「哲」の居なくなった小屋の前で立ち止まり、ヤツとの会話を思い出す。

 ラウンドの午後、出くわすジッちゃま一人。
「おろ?ご機嫌じゃん、Gさん」
「そらあんた、まだまだ若いからのー」

「んで、幾つになったんね?」
「ただの93歳じゃ」
「そら若い、若すぎるウ」

「まあの。手術したから、足は1本しかないけどな」
「足の8本も10本も、ゼンゼン関係ないで。1本で充分」
「8本や10本って言われてもなー。イカやタコじゃ有るまいし」

「そのうち新しい足が生えてくるかも知れん、ウニューッて。カッ、カッ。んじゃまた」
「ところで、今のは誰じゃったかいのー」
「あれはワシのセンセじゃ」

「まさか、医者じゃあるまいで」
「ひゃ、ひゃっくしょいー。また誰かが、ワシのことを誉めとる」
 大きなクシャミ1つ、廊下に響き渡った。

 足1本でも元気なGさんの、午後。

第692話 トイレのペーパータオルを更新するには

 2度目のトイレで、「ウヒャッ」。
目隠しカーテンの裏から、ジッちゃまの断末魔の嗄れ悲鳴。
当直明けに使った時、シャワー・マックスパワーを戻すのを忘れてた。

 さぞかしジッちゃまの水戸様も驚いたらしく、2分経ってもウヒャウヒャが止まらない。
「ウッウー」を聞いて、シャワーを静かにさせる方法をご存じない様子にちょいと悩む。
突然カーテンめくって「あ、それは。ここをこうやって」じゃ、出るモノも引っ込むし。

 悩みつつ手を洗って、ペーパータオルが無いのに気づきステーション。
「あのさ、男性用トイレのペーパータオルが無いけど。そのくらい気をつけてね」
「コラコラ、こう見えてもあたしは女。男じゃありません」

「あららー、そうなんだ。女性用トイレが混み合ってる時は、変身するんやろ。
 浪速のおばちゃん風、今日だけ男オとか言いながら男性用に、スッピンがに股突撃」
「あたしは、ペコちゃんのお面。んじゃなく、美白淑女はオゲレツはいたしません」

「んじゃ、あんたの場合やるんじゃ」
「まあ、10回に1回くらいは・・・」
「ところで、あんたをベテランと見込んで教えて欲しいんだけど」

「まあ、お珍しい。ベテランじゃ、過小評価だわ。言うなら、カリスマ(語尾上げで)」
「ナンデンよかと」
「何故ゆえ、いきなり九州ジジイ」

「ニューハーフは、そう言うシチュエーションの場合どのような行動に移るんやろ?」
「ちょっちょ、するってーと何ですか。あたしは、ニューハーフのカリスマ?」
「そら、カリスマのニューハーフでもエエけど」

「どっちも同じッ!」
「そらあんた、ゼンゼンちゃうで。トイレのハナコ先輩に聞いてみん?」
「そっち方面のトイレ先輩はおりませんッ!ハイハイ、よーく分かりました。
 遠回しに言わなくても。トイレのペーパータオル、追加すれば良いんでしょッ!」

 男性トイレのペーパータオルが整備されていた、午後。

第691話 会議前回診う(さぼるほうほう)

「おろ?何かいつもと違う雰囲気イ。ここは何処、私は私。そう言うあんたは、芋の蔓」
「センセの会議は、15分後。場所はここですけど、シッシッ。会議中うッ!」

「やたらクダラン会議ばっか。困るんだよねー、実際なー。死闘が無い、実も無い。
 事前資料無い、丁々発止の討論がない、流血騒動無い、展望無いの、ナイナイ尽くし。
 やってもヤランでも結果は同じ、時間の無駄。死体なら腐って、骨だけになっとる」

「じゃあ、続けます。あ、MIHIセンセはお引き取り下さい」
「クダラン会議の時みたいに寝てるから、気にしないでね。ゼンゼン構わん、ボクは」
「イエ、私らが気になります。死体だと嬉しいMIHIセンセが、目エ開けてると」

「そんな小さいこと言ってると、会議の何たるかがどっかへ行っちゃうですよ。
 ワシが聞いたら消化器振り回して暴れるようなことを、相談してるんじゃないよね?」
「まさか、それ程ヒマじゃ」

「外来まで徘徊して、シッコでもしてくるか」
「シッコでもなんでも、いっそお隠れに」
「何か、その言葉ってトゲがない(語尾上げで)。239本もトゲトゲが」言いつつ撤収。

「はアー、すっきりしたア。おろ?まだ7分も。施設回診で、会議をサボるとどうなる?
 どうもならなん、誰も文句を言わん、ワシが居ないと紛糾がない。んじゃ、徘徊っと」
「あら、センセ。定期じゃない回診ですか?ナゼ故に」

「あ、今日はただの徘徊。しかし何だねエ。世の中、分からんことが多いねー。
 何がクダランで、何がクダルかってのが」

「何クダランこと言ってんですか?ミョーなモンでもひらい食い?」
「価値観の問題?世界平和の問題?犬猿の仲はホントかの問題?んで、今日も回診よ」
「またまた何クダランこと言ってんですか、とっとと徘徊回診なさいませ」

 会議前回診は会議をサボル都合の良い方法の、午後。

第690話 濃度聞る(もりあがる)

「うっひょー、さぶー。MIHIセンセいらっしゃいますかア」
「キムタク似のデブなら、約3名」
「キムタク似じゃない、デブ1名でエエんですけどオ」

「そんなヤツは居らん、居らん。んでも、かすってるブラピ似なら」
「見ッけ!うひゃうひゃ、これだけエアコン効かせて。その上、扇風機ビュービュー」
「秋だね−、ぐっと冷え込んできたね−。たき火でもする、ここで芋でも焼く?」

「バカ言わないで下さい、それじゃ放火じゃないですか」
「そう言う言い方も、出来ないことはない」
「真っ赤っかの、火事ですッ!」

「んで、電気あんか持ってきた?」
「やっぱ!鳥肌が立ってるじゃないですか!」
「それを言うなら、もち肌とか美白肌が立ってると言う?」

「言いません、ゼンゼン。あんまりサブイんで、何しに来たか忘れたりして」
「んじゃ、出直しておいで。その間に脱走しちゃうから」
「んー、何だっけなー」撤収しかけて。

「あ、そうだ。血中濃度のオーダーが要るでしょ?」
「何が悲しくて、あんたのアルコール濃度を測定するんや?ニコチンか?」
「ボクじゃありませんッ!」

「あ、ワシはあんたと違って禁酒禁煙。品行方正、神と仏の次みたいな」
「貧乏神とか喉仏の次っしょ」
「んで誰の、何の血中濃度?」

「Pさんの、けいれん予防の薬」
「なんやツマラン、思い出したやないか。それよか、あんたにウイスキー20cc注射して。
 全力疾走100m後のアルコール血中濃度の研究、してみん?」

「ウイスキーは、オールドパーでオネガイします。しかも奢ってダブル」
「贅沢なやっちゃなー、国産だるま(オールド)で我慢してね」
「んじゃ、我慢して。注射より口からクイッとは?あ、ダメ。今回は、見逃して下さい。
 んじゃ、そう言うことで撤収しまーす・・・んじゃなくて、血中濃度」
 
「あのさ、あんたの脳みその濃さ調べた方がエエんちゃう?」
「センセの、腹黒さ濃度も」

 色んな濃度で盛り上がった午後。

第689話 希頼医局電話る(いえにある)

「あのさ、今日の午後限定なんじゃけど。ケータイの話」
「どうせ、医者捜索の電話は7回までで締めきりとか?」
「んじゃなくて、今日だけ医局に電話してくれんね」

「あれだけ医局の捜索電話をするなーって言ってたのに、怪しい」
「ゼンゼン、怪しくない(語尾下げで)。なんか急に、医局の電話が愛おしくなってナ」
「すんごく、メチャクチャ怪しいですこと。ゼッタイ裏があるでしょッ」

「裏表のない、すっきりくっきりのボクですから。ゆめゆめ疑う事なかれ−」
「んで、センセ。何か太短い首が、すっきりちょびっと見えますけど。
 何か、足らんような気がしません?」

「ゼンゼン、皆目。あ、昨日の晩に行灯の油を舐める時に50cm延びたかもオ」
「バカ言わないで下さい。はっきり言えばいいでしょッ、どっかにケータイ忘れたって」
「そういう言い方もある」

「そういう言い方しかないッ!」
「んじゃそう言うことで、アロハあー。ずーっと医局にいるから、オネガイねー」
「ホント、素直じゃないんだから」

 医局に引きこもって、勉強三昧・コーヒー三昧。
「この間MIHIセンセが医局の電話で医者捜索するなって吠えてから、静かだったのに。
 今日はやたら電話がかかりますね−。しかも、MIHIセンセばっか。何でやろ?」

「どうしてですかね−、気分転換にタマにはエエでしょ」
「まあ、電話嫌いだったMIHIセンセがそう言うんなら」
「今日の午後限定でしょ、きっと」

 昼食で着替えた時に自宅のテーブルの上にケータイ置いた、午後。

第688話 主張爺違い(あいでんてぃてい)

「おろ?今日は診察日だっけ、Mさん」敬礼しながら迎える診察室。
「そうやって、ファーマーをからかうモンやないで。のう、Gちゃん」
「からかってませんよ、ゼンゼン。んで、ファーマーねー」

「ドクター、あっちはどうよ?」
「あっちって、どっち?こっちはあっち、私は誰?みたいな。んじゃ、血圧」
「Mさんは、シモネタ専門ですモンねー。年中、困っちゃうわ」外来ナースG。

「なにがシモネタ、あんたのあっちのほうは嫌いじゃなかろ?」
「コラコラ、血圧測ってんだから。シイーじゃ・・・あー、やっぱ高い。もう一回」
「ほえ、170。上等、上等。これくらいじゃ死なん」

「待った、黙って。深呼吸3回して、もう一回」
「ドクターが言うんなら、もう一回だけ。ウーン、ウーン」
「あらら、180。さっきより上がったわ。んでもKさん、何で顔が赤いんね?」

「プハー。やっぱ息止めて気張ったら、血圧っちゃ上がるモンじゃな」
「ハイ血圧、もう3回」
「そんなに息は止められん、2回にしておくれ」

「Kさん見てると、MIHIセンセの将来を見るような」
「ちょ、ちょっと待ってくれん。ワシの何処がどう、Kさんに似てるんじゃッ!」
「どこもかしこも、ゼーンブ」

「Kさん。明日から、ワシと一緒に心を入れ替えようや」
「ファーマーとドクターは、一緒やない。ワシはワシじゃ、センセとは違うッ」
「ワシも、そうあって欲しい」

 息子2人東大の90歳越えアイデンティテイは違うなーの、朝。

第687話 婆再入院る(ちいさくなる)

「センセ。入院させておくれ」
「ダメえ。Kさん、すっごい元気やん」
「んでも、来週になったらビョーキになりそうじゃから」

「んじゃ、来週。診察して決めようや、入院」
「どーしてもアカンか」
「今日は、どーしてもアカンやろ。こんだけ元気じゃ」

 その会話の1週間後、お世話するお嫁さんがササッと診察室に現れて。。
「センセ。婆さま、足腰が弱ってきて。そうでなくても口が立つ上に、3倍うるさい。
 自分で車いすが使えんようになったんじゃけど、どうにかならんじゃろうか?」

「あの口の3倍っちゃ、選挙カーなみじゃん」
「選挙演説はせいぜい2週間で終わるけど、あれは死ぬまでじゃ」
「車いすが使えんようになったら、入院してリハビリって言うとったから。言おう」

「センセ。秋は何でも美味いのー、好きなモンが食える」
「んで、食っちゃ寝じゃなかろうな?」
「ヘッ、そらセンセ。歳も歳じゃし、すること無いし。足腰、弱るワナ」

「んじゃ、また入院してリハビリしようや」
「ダメ。メシが不味くなったら、入院しよ」
「ダメえ。Kさん、嫁さんを顎で使いまくって。なーんもせんのやろ?んで足腰弱って」

「顎じゃなんじゃ、使こうちょらん。使うんは口じゃ」
「その口がイケン、そっちも治して帰るか?」
「こら、ダメダメ。死ぬまで治らん」

 Kさんの後ろで手を合わせるお嫁さんに、目で合図を送って取りあえず撤収して貰って。
翌日車いすで渋々入院となったKさん、入院する度に一回り小さくなる再入院。

第687話 婆再入院る(ちいさくなる)

「センセ。入院させておくれ」
「ダメえ。Kさん、すっごい元気やん」
「んでも、来週になったらビョーキになりそうじゃから」

「んじゃ、来週。診察して決めようや、入院」
「どーしてもアカンか」
「今日は、どーしてもアカンやろ。こんだけ元気じゃ」

 その会話の1週間後、お世話するお嫁さんがササッと診察室に現れて。。
「センセ。婆さま、足腰が弱ってきて。そうでなくても口が立つ上に、3倍うるさい。
 自分で車いすが使えんようになったんじゃけど、どうにかならんじゃろうか?」

「あの口の3倍っちゃ、選挙カーなみじゃん」
「選挙演説はせいぜい2週間で終わるけど、あれは死ぬまでじゃ」
「車いすが使えんようになったら、入院してリハビリって言うとったから。言おう」

「センセ。秋は何でも美味いのー、好きなモンが食える」
「んで、食っちゃ寝じゃなかろうな?」
「ヘッ、そらセンセ。歳も歳じゃし、すること無いし。足腰、弱るワナ」

「んじゃ、また入院してリハビリしようや」
「ダメ。メシが不味くなったら、入院しよ」
「ダメえ。Kさん、嫁さんを顎で使いまくって。なーんもせんのやろ?んで足腰弱って」

「顎じゃなんじゃ、使こうちょらん。使うんは口じゃ」
「その口がイケン、そっちも治して帰るか?」
「こら、ダメダメ。死ぬまで治らん」

 Kさんの後ろで手を合わせるお嫁さんに、目で合図を送って取りあえず撤収して貰って。
翌日車いすで渋々入院となったKさん、入院する度に一回り小さくなる再入院。

第686話 電話嫌いの法則

「いない時に限ってかかってくる、医局の医者探し院内電話」は、MIHIの法則。
「ハイ、医局う。な、なにイ。あんたワシの勉強の邪魔をする気か?誰も居らんッ!」
「タマに勉強してると、偉そうに。フンッ。ガチャッ、ツーツー」

 こんな会話が6年間続けられ、とうとうキレて管理職会議で吠えまして。
「ワシらが持たされてるのは、オモチャのケータイじゃネーんだから。
 医者を探しまくる時は、院内電話は止めてケータイだけにしなさいよ。勉強の邪魔ッ」

「センセぐらいになっても、まだ勉強するんですか?」
「灰になるまで勉強でしょう、流石の私でも。んで、邪魔すんな!ってこと」

「んじゃ。時々スイッチ入れていないMIHIセンセは?」
「音信不通と言うことで、オネガイします」
「分かりました。院内電話で捜索して、スイッチ入れろッ!だけ言います」

「分かってんじゃん、それでよろしい」
「ホント、センセは電話嫌いですね−」
「1日7回ボールペンの先っちょで突っついて、可愛がってるけど」

「壊れるから止めて下さい」
「壊れたら、超ラッキーでしょ」
「んじゃ、センセだけ糸電話にしましょか?」

「んじゃ今度は、ケータイにバズーカ3発お見舞いしたりして」
「分かりましたッ、ケータイにしますッ!」
「そんなにキレなくてもエエのに」

 それから2日後、医局の院内電話は壊れたかのようにモノを言わなくなった。
「勉強に飽きた時に限って、1度も鳴らない院内電話」も、MIHIの法則。

第685話 無自信言回(みたいな)

「センセ。この間貰ったお薬、よー効いたわ」
「原始人に近いほど、薬が良く効くらしい。ネズミのヒゲも、シーラカンスの干物も」
「んじゃ、あたしはネアンデルタール人ですかッ!」

「そんなエエもんとはちゃうッ!類人猿やろ」
「んでも、よー効いたわ。麻薬みたいな」
「Sさん、麻薬を使ったことがあるんね?」

「またまた、冗談でしょ。善良美白のナースが麻薬なんて、みたいな」
「それって。妄想みたいな、せん妄みたいな」
「日によって変化して、悪いときもあるしエくない時も」

「んじゃ、年中エくない。みたいな。んじゃ、血管性と言うよりも、アルツ?みたいな。
 最近は誰でも”みたいな”を気安く使うようになったネー、みたいな」
「はっきり言えばいいのに、ちょっとハゲシク誤魔化すゾみたいな」

「言いたいことをぼかしてんのか、呆けてんのか?どっちやろ。みたいな」
「もう、”みたいな”使うの止めません?みたいな」
「あんたもしつこい、みたいな」

「曖昧なモンばかりになってきて、自信のなさの現れですかねー。みたいな」
「はっきり言えば、キレたって言われるし」
「そらはっきり言って、キレたって言われるのはMIHIセンセだけエ」

 ミョーな展開になってきたゾ!、みたいな。

第684話 ケンカの理由

「センセ。昨日は息子とケンカしたんよ、んもー腹が立つったらありゃしない。
 あの子はあたしが早く死んだ方がエエって思ってるに違いない」
「そんなこと思う子は居らんでしょ、ジョーダンにでもそんなこと言ったらアカンよ」

「センセは、ご長男ですか?」
「一応、弟より先に生まれたから。姉も居らんし」
「長男が親の面倒を見るのは、当たり前でしょ?」

「最近はそうでもないかも知れんね。面倒見られる人が見れば、エエんじゃないの?」
「そうはイカンと思うの。んじゃから、息子とケンカしたんよ」
「あと100年も生きられんのやから、ケンカせんほうがエエよ」

「イイヤ、先が短いから言いたいこと言わんと成仏出来ん」
「せっかくお見舞いに来たのに。来る度にケンカしたんじゃ、来たくなくなるじゃろ?」
「下の息子が来ればエエ」

「そしたら、下の息子さんとケンカする?」
「そうそう、あの息子は滅多に来ないのが腹が立つんじゃ」
「んじゃ、しゃーないから。ワシが聞き役でエエ?」

「それじゃあ、どう腹を立ててエエかワカラン」
「ワカランかったら、腹を立てんことよ」
「センセと話してると、立った腹も寝てしまうわ」

 長男に言わせれば、弟というものは兄の後ろに隠れて要領良く世の中を渡って行くと。
弟が見舞いに来た話を1度も聞いたことがないのだが、その理由は知らない。
1度のケンカで懲りた?と思いつつラウンドを進めるMIHIセンセは、1003号室。

「センセ。あたし昨日ケンカしたんよ、看護婦さんと」
「なんでまた?」
「薬が効かないから変えてって言ったら、看護婦さんがMIHIセンセを信じなさいって」

「ワシのことは、あんまり信用せん方がエエかも」
「そうじゃろ、んじゃから・・・あら?」
「一応は、無い知恵絞ってお薬は考えてるつもり。必要なモンだけ出しとるけど」

「んでも、言い方が気に入らん。MIHIセンセが信用出来んのかって、あたしに言うから」
「んじゃから。あんなヤツは信用出来んって、言うたらエかったのに」
「んー、何かようワカランようになってきたわ。あたし何に腹を立てたんじゃろ?
 んで、何でケンカしたんじゃろ?」

 どう怒って良いのか分からなくなったり、ケンカのワケが分からんこともあるらしい。

第683話 給料明細ん(めにはいらん)

「センセ。お給料です」
「ってもなー、紙切れじゃモンなー。山羊でも喜ばんで。昔はエかった、現金給付」
「確かに、お給料を貰ったって。実感しましたモンねー」事務のオネーさん。

「そうよ。事務のオネーさんが、言うんよ。センセ、今月のお手当ですなんてな」
「オニーさんだと。フッフッフ、これは内密に。なかなかワルじゃのーとか」オニーさん。
「そうそう。小銭まで入っていて、ずっしり重くて¥100が9枚だったり」オネーさん。

「忘れもしない某病院、ボーナスと給料日が同じ日。ケツに入れて回診したら、あんた。
 ケツが重いこと、快感だこと、コーフンのルツボだこと」
「んでしょうねー、やっぱ」

「家に帰るまでが大変で、後ろから着いてくるヤツは全員が強盗に思えたりして」
「んでしょうねー、そう思うのはセンセだけですけど」
「ケツのポッケを上から両手で押さえて歩くと、切れ痔大出血のオヤジみたいで」

「んでしょうねー、やっぱセンセだけ」
「んで、家に帰ったら言いたいワケよ。頭が高い、これが目に入らぬかア。なんて」
「そこまでやるのも、センセだけ」

「んでもなー、この紙切れじゃろ。これじゃ、アホみたいやで」
「1度やってみられたら、エエでしょッ?」
「これが目に入らぬかアって言ったら、そんなモン目に入れたら痛いだけ!なんてな」

「確かに冷静ですねー、センセと違って奥様は」
「遊び心っちゅーか潤い言うもんが、大切と思わんか」
「度を過ぎれば、如何なモノかと」

 目には入れられない給料明細書の、午後。

第682話 足音る(がらがみえる)

「あー。やっぱし、MIHIセンセじゃった。足音って人柄が出るんだわ」
「ある時はつっかけペタペタ、はたまたスニーカーならスーイスイ。
 草履ならピシャピシャ。その実体は、下駄のキタロウッ!」

「あー、やだ。早出とMIHIセンセの早朝迷惑回診が、ガッチンコするなんて。
 あー、やだ。気分悪リいわ、急に仕事したくなくなった。帰ろ」
「あー、やだ。仕事嫌いを人のセイにして、サボろうなんて。あー、やだ」

「しかしセンセのつっかけ、どうしてペタペタ言うん?」
「ベルトを緩めて履くと、チョー楽なんよ。すると、こういう音がするワケ」
「やっぱ、足までメタボ?」

「まあな、そんなに誉められるとご先祖も照れるなー」
「誉めてませんッ」
「今度から、泥棒か忍者みたいに歩こ。後ろからそーっと忍び寄って。
 ウワワッとか言ってあんたを脅かして、チビらせたるんじゃ」

「悪趣味な」
「脅かす相手があんたやと、悪趣味なワケ?」
「ワケワカランッ!」

「ところで、この間の土曜日。Pスーパに行かなかった?3匹で」
「ハイ、3人ですけど。確かに行きましたわ」
「あれって、あんたの趣味か?珍しい服着て」

「一応、ブランド品できっちり。あたしの人柄そのもの。ヤダ、ブランド人」
「さぞや、名のあるもんじゃろなー」
「海外制覇のユニクロですから」

「あんたが、牛柄じゃったよな?」
「ちょ、ちょっと待ってください。あれはヒョウ柄」
「んじゃ、旦那は縞模様のカバ柄じゃったよな?」

「キリン柄ですッ」
「息子は、これまた珍しい紐付き豚まん柄」
「ウウ、風船柄ですッ!家族全員いろんな柄で、丑の刻参りしちゃいますッ」

 柄を見せる足音の、午後。

第681話 排出境目年齢い(やるきのもんだい)

「ネエネエ、Pちゃん。今度、コンサートに行くやん」
「あたし楽しみイー」
「んでも、あそこの会場。女子トイレが少ないのよねー」

「そうなんよ、休憩時間15分でトイレの入り口パニック」
「だからって、休憩時間寸前に会場出たくないしイ」
「一番盛り上がりが凄いとこだもんねー、あれ外したくないしイ」

「んで、幕開けが凝ってるっしょ。あれも外すわけには・・・」
「どうすりゃエエんじゃッ!みたいな」
「いっそオマルか、ドーニョーか?はたまた、オムツ」

「かなー。あれとあれを外したら、高いお金払ってトイレに行くようなモン」
「んでも、さあ。オバちゃんなんか、今日だけ男オ。今だけ男オって。
 平気で、男子トイレ。座る方は、殆ど空いてるし」
「立ってすれば、エエやん」

「じょ、女性は・・・」
「バッちゃんで、田んぼのあぜ道で立ってしてるやん」
「んじゃ、あたしは今日だけ男で」

「んじゃ、Sさんは立ってする練習(語尾上げで)。Pちゃんは、逆立ち(語尾上げで)」
「しかし、歳は取りたくないわア。あたし未だ恥じらいあるしイ」
「ま、そのうち追いついて。オムツだしイ」

「まあねー、段々歳は取るし。感性が鈍くなって、臨機応変トイレ使用やね」
「今日は男と、立ってする境目って。何歳くらいなんじゃろ?」
「まあ、婦長さんと主任さんが。その境目(語尾上げで)」

「んでも、二人の歳の差って5歳っしょ」
「やる気とトレーニング次第やね」
「やる気の問題じゃありませんッ!

 やる気がなくなったら次は寝て排出年齢の、午後。

第680話 有無口仮面れ(てんねんはれ)

 恒例保育園健診は、メチャクチャ猛暑日。
ラウンドを済ませ快適医局で体温を下げて、廊下へ出れば1度上昇体温。
保育園との間は炎天下。ふらつきながら、総婦長と歩く。

「溶けるウー」
「脂身が溶けて、丁度良いでしょ」
「ワシ、行き倒れになるかも」

「こんがり焼いて貰って、最大ダイエットじゃございませんか」
「ウウウ・・・嬉しいような」
「ボケの花を一本、手向けましょう」

「あの、帰ってエエ?」
「ダメに決まってるっしょ、ハイハイ。暑いんだから、黙って前進ッ」
「あーい」で、5分後はキャーキャー黄色い声の真ん中。

 昨年、心臓の穴の音がしていたお嬢も背中に傷と共に消えて。13名終了。
診察するたびに握手とハイタッチを繰り返せば、手のひらのニチャニチャ加速。

「あ、マスクするの忘れてた」
「センセがマスクしたら、怪しすぎて泣くでしょ。子供達が」
「んじゃ、帰ろうっと。んじゃねー」振る手に向けて、全員がハイタッチ要求。

「はひー、んじゃお別れハイタッチね。まるで、どさ回りの若衆役者じゃねー」
「バカ衆役者っしょ」
 今年は1人も泣く子が居なかったのは、マスクをしなかったお陰?と思いつつラウンド。

「しかし、ナンじゃね−。O県帰りのソフトボールチーム、お土産がインフルとは」
「マスク、着用励行ですモンねー」
「あぢぢじゃねー、顔が蒸すねー」

「ふぃー、アチチ。化粧は取れるし。あ、リップつけなきゃ」
 マスクを顎方向へずらして、リップをグリグリ塗りたくるナースB。
「ホンマやなー、顔が蒸されて腫れまくりやん。唇タラコが、フランクフルトやん」

「これは、天然ですッ」
「天然の、蒸し上がった豚まんフェイス(語尾上げで)」
「ウウウ・・・。呪ってやる」

 マスクをしてもしなくても天然腫れは変わらない、午後。
注;「マスクを日本語で?」をネットで検索すれば「仮面」???。ハア、口の仮面?

第679話 草葉効治療の?(はーぶでええの?)

「は、ハーブう」
「はい、ナンか合ったらって。6種類。瓶詰め」
「んでも、同室者が3人。インフルやで。最後の砦の、Kさん。熱ないけど、そのうち」

「病院に連れて行くって言ったら、4番の瓶。1日3回、1回31ml。お寺の住職さん」
「31mlとは細かいなー。んでも・・・。インフルに効くんか、その仏法ハーブ」
「ナンか、そう言う言い方すると。スンゲー怪しい、ハーブ」

「怪しさも中ぐらいなり、オラがインフル。ハーブでエエんか、ええのんか?」
「んでも、ナンか腐ってるような。異臭漂う感じイ」
「ショック療法やろか、飲むと下痢ピー。毒素を出し切って、治しちゃうみたいな」

「どれも、蓋開けたら。3m離れてても、ウッ。みたいな」
「強力やなー、効きそうやなー、あんたに飲ませたいなー」
「やですよ」

「毒素が出きって、真人間になる(語尾上げで)」
「どーしても、あたしに飲ませたいんですね」
「あい、どーしても」

「んじゃ、ホントにハーブでエエんですねッ!Kさん」
「エエわけねーべ。ここは何処、あたしは誰、あんたは猪八戒」
「もうハーブが効いてんちゃいますウ、飲む前から」
「効くウー、効き過ぎるウー。仏法ハーブうー」

 結局KさんはインフルBでタミフルだった、朝。

第678話 午後院内独し(かげ・すーなし)

「雪の降る夜は、淋しいペチカ。ペチカ消えたら、ウウウ・・・」
「聞くだけで、暑苦しいッ!ただ今、猛暑っしょッ」
「んで、何時も来ない健診。ナンで3人」

「あ、Kセンセ体調不良」
「インフルとちゃうか?鼻の穴、グリグリした?」
「自分じゃ出来んでしょ」

「ワシって、自分で出来る人。ニャン」
「センセって、異常な人。ドM、ガルッ」
「なんなら、あんたらが押さえつけて。ワシがグリグリ?」

「センセは、ドM+ドSなんですね」
「統計的に平均すると、フツーの人だワン」
「んで、Kセンセ。病休。んで、院長センセ出張。んで、Fセンセ夏休み。ニャン」

「もしかして、ワシ。午後は陰の殿?ウフッ。こ、コラッ。誰が、ハゲ殿。ガルッ」
「うっせ、独り突っ込み。思ってても、言えないニャン」
「んじゃ、緊急会議や。就業規則変更」

「ハア?どう変更?」
「本日より、MIHIセンセをスーか殿とお呼びッ!っつーの」
「スーシェフと陰の殿を足したわけですね、ちょこざいな。フンッ」

 スーも陰も無い孤独な、午後。

第677話 脈は12

「しかし、この人ってどんな人生を歩んできたんじゃろ?ハアー、せんないナー」
「この間から具合がずーっと悪くて、お薬もあんまり効かないし」
「Rセンセも、苦労してましたモンねー」

「そうやろなー。胸水はたっぷり溜まってるし、心臓も腫れてるし」
「若い時から糖尿があって、仕事が忙しくてずーっと独身で。
 食事療法も薬も、ちゃんと行ってなかったみたいですよ」

「とうとう息が止まったけど、脈は35。んで、ご家族は?」
「お兄さんと二人暮らしだそうで、こっちへ向かってます」
「こら、間にあわんかもしれんなー。瞳孔も開きかけてるし」

「糖尿で失明して、足も切断して。この2,3年、寝たきりだったんですって」
「おろッ!ワシと4つ違いかア。せんないナー、ハアー。延命は拒否じゃったよな?」
「ハイ、本人もお兄さんも」

「息が止まって30分経つけど、脈が段々減って12から変わらんねー。
 きっと、お兄さん待ってるんだねー。ハアー、せんないネー」
「センセと違って、仏様みたいな方で。いつも、有り難うしか仰らなくて」

「確かに、ワシは言わん」
「センセと違って、キレないし。神様の生まれ変わりみたいな方」
「神様は死なんから、生まれ変わりはヘンやで」

「人の揚げ足もとらないし。研究大会で、きつい質問はしないわ。きっと」
「確かにワシは、突っ込み質問が多い」
「センセと違って、早朝迷惑回診もしないし」

「あのさ。なんかワシに文句があるんなら、遠回しに言わずに」
「直球で言ってるつもりですけど」
「脈12から10分以上変わらんな−。ハア、せんないナー」

「あ、お兄さんが来られました」
「あ、止まった。間に合ったかも?」
「ハア、せんないなー」

 モニターは1本の線になって、スイッチが切られた時に呟いたナースZ。
「MIHIセンセの存在自体が、せんないワー。ハア」

注;「せんない」とは、「寂しいような悲しいような、何とも言えない暗い気持ち(多分)。

第676話 盛り上がる血イ

「センセ。血イを絞れるだけ絞って、献血しようかと思うんじゃけど」
「なんでまた?Rさんはそうでなくても糖尿があって、そんで腎臓が弱って。
 おかげで、貧血が来とるんやから。貰うことはあっても、あげることは無かろ」

「んでも、TVで血イが足らんって。息子が手術するんで、血イをもろうたから。
 お返しをせんとイカンじゃろ」
「そこまで律儀にならんでもエエよ、95歳ジャし」
「んじゃ。退院の時に、センセに世話になったお礼にあげよ」

「ダメダメ、そうでなくても血の気が多いんだから。MIHIセンセは。
 その上に血イを増やしたら、ビービー鼻血を垂れ流すか。
 あっちこっちへパワハラしまくり、はた迷惑火花が散る」

「要らんか。まあ、そらあたしも余ってるワケじゃないからノー」
「そうそう。Rさんの血イは、大事に貯金しとき」を残して消えるナースT。
「んじゃ、そうしようかい」
「そらそ」を言い残してMIHIセンセも移動。
 
「おお、Dさん元気イ?ちょっと診察しようや」
「エエけど、その前にこれ」
 不自由じゃない方の左手を差し出す目的は、いつもの握手。

「ハロー、MIHIですう。モーニン、よろしくウ。これでエエ?」
「診察してもエエで。しかしセンセ、力仕事は無理やねー。あんな、ポヤポヤの手じゃ」
「ワシ、聴診器より重いモン持ったことがないしイ。足は長いけど、体はデブなんよ。
 町内会じゃ、キムタク似とかブラピ兄とか騒がれて困るんよ。実際」

「意味ワカランッ!」カーテン越しにぶっ飛んでくる声。
「またあんたかッ!しまいに血イ見るど」
「どんどんお出し遊ばせ。10Lほど。センセは貧血になって、丁度良いでしょ」

 血イの話で盛り上がった、午後。

第675話 時間差(たいむらぐ)

「センセ。Yさんのケイキサレート、効いてませんねー。ゼンゼンモニターのT波が高い」
「そらあんた、さっきから始めたばっかやろ?あんた、ゼンゼンの使い方ヘン」
「ハイ、3時間前からですけどオ。ゼンゼン」

「今度ゼンゼン使ったら、ゼンゼン暴れるで」
「なんじゃ、センセのゼンゼンもヘン。んで昨日やったGI療法も、効かなくて」
「んだからあ、GIはあんたのダンナのへそくりみたいなモンで」
「ワケワカランッ!」

「本に挟んだダンナの1万円が、タンスに移動するだけで。家の中じゃ、増えてナインよ。
 1万円の移動に時間がかかるわけよ、何処へ隠そうかなーってな。だから直ぐには効かない。
 ダンナが泣きついたら、渋々1万円出すやろ?GIを止めたら、カリウムが戻るみたいな。
 一時的に蓄えてあったカリウムが、細胞から出て来るわけ。ダンナの1万円みたいに」

「まあ、ピンハネしてダンナには5千円ね。直ぐに出しますけど、カリウムも直ぐ?」
「そんなに早く効くはずネーベ、何でもそうじゃけど時間差ってのがあってな」
「バレーボールの攻撃みたいな?んで、カリウムが下がらないのは何故?」

「んじゃからア、ところてんを押し出すみたいに速攻じゃないんよ。
 メシ食えば、さっき食うたモンが肛門から押し出されるのとはワケが違うんよ。
 寸胴のあんたじゃあんめーし」

「そう言いえばこの間センセが言ってましたよね、今日のCRPは2,3日前のCRPじゃって」
「そうそう、時間差があるんよな。外人はタイムラグって言うらしいで。生意気に」
「別に生意気とは思いませんけど、ピンと来んみたいな」

「あんたでも分かるように言うと、風呂の屁じゃね」
「どう言うこと?分かりません、ゼンゼン」
「風呂に入ると腸が暖まって動き出すやろ、グジュグジュ言うて」

「そうそう、オナラのつもりが下手すると実なんかが・・・」
「しまりの無いのは入り口と出口か?あんたの口とコーモン、緩みっぱなしイみたいな」
「んで、風呂のオナラとタイムラグの関係は?」

「ボワッと出した屁がバブルになって目の前に上がってきて弾けるやろ?」
「確かに、くっさーいのが」
「ブリッから、くっさーまでに4,5秒有るわな。それがタイムラグ」

「だからケイキサレートを注腸すると、カリウムが下がるのに時間がかかるんだ!」
「ワシ、頭が割れそうで屁が出るかもオ」
「医局で出して下さいませ。ここで出すと、直にくっさーですから」

 頭が割れるのと放屁の差はタイムラグと言うんだろか?の、午後。

第674話 死んどる?

「センセ。うちの主人、この間は脱水症でお世話になったでしょ?」
「皮膚がカサカサ、腕の皮膚を摘んだら屏風みたいに立っちゃって」
「あの時は元気がないから、とうとうかな?なんて思ったワケ」

「もうちょっと放って置いたら、危なかったかも」
「センセんとこへ電話した時は、死んどるかと思ったんよ」
「エかったやんか、逝ってなくて」

「あれから、喋れば文句バッカでうるさいし。黙ってりゃ気になるし。どうすりゃ?」
「文句が言える内が花じゃろ、黙って聞いてあげてよ」
「晩ご飯食べて、風呂に入れば。暇なモンで、寝るまでうるさい」

「生きてる証拠やろ?」
「夜中に目が覚めて、隣を見たら。センセ、息をしとらんのよ。あらまーと思って。
 声をかけたら、目が覚めて。うるさいから寝られんって、文句言う。これ、どう?」

「声をかけずに、じっと見てたらエエやん」
「昨日なんか、息をしてないから手でも合わせて見てたんよ。そしたら、プハーッって。
 大きな息して、またスースー。今日から、足で蹴るかつねっちゃおうかと」

「朝起きたら、あちこっちにアザが出来てたりして」
「朝起きたら死んどるのより、ましじゃろ?」
「そらそうじゃけど、程度ちゅーモンがあるで」

 午前最後の外来を終えて、ラウンド前のあんパンとコーヒー。
欠片をモグモグやりながら、18号室のGさんのベッド横に立つ。
「あらセンセ。よー来なすった、まあお座り」

「それよか、診察してもエエ?」
「エエけど。あたし、明日死んでどるかも知れん」
「そら、世の中何が起こるかワカランしなー」

「んで、センセ。あたし、ペースメーカーを入れてもろうたんじゃけど。
 あたしゃ、死ねんのやろか。電池がある間、ずーっと?」
「大丈夫、電池があってもモーターが壊れたら動かんやろ。ちゃんと死ねるで」

「んじゃ、やっぱ明日の朝死んどるかも?」
「そんなに急がんでも、人間は1回だけは死ぬんよ。2度3度はないから、安心し」
「んじゃ、安心して死ねるわ」

 ”死ぬ”は病院会話の頻繁キーワードだけど、長く生きてる人はカラッとしたモンだ。

第673話 漬け物石は邪魔ッ

 ラウンド2のステーション。
「コラコラ。カルテ積み上げて、その上ジワーッと前に押し出して陣地広げて」
「邪魔じゃった?」

「邪魔じゃないわけ無いっしょッ!カルテは、1冊ずつ出して書けばいいのに」
「そう言う気分じゃないの、ぜーんぶ出して書きたいッ。ボクって、そーゆー人」
「無視、無視。あ、Pさん。トイレから帰って来られて、センセをお待ちですよ」

「さっき行ったら部屋にいなかったから、リハビリかと。んじゃ行ってこ」
「とっととお行き遊ばせ、フントに邪魔なんだから」で、Pさんの部屋侵入と診察。
「センセ、診察は終わったんですか?んじゃ、邪魔ッ」

「旦那さんの悪口とか、息子の嫁の恥ずかしい失敗。あんなこんなを、聞きたいね」
「もうなーんも残ってません。今からリハビリの準備なんだから、センセ邪魔ッ!」
「しゃーない、カルテの続きでも」

「センセ。Pさんに、邪魔って言われてましたね」
「あんたは、ワシのストーカーか?」
「ゴジャゴジャ言わずに、カルテを書いたら消えるッ。邪魔、無駄、ゴミッ」

「こんなボクでも、何かに役に立つやろ?」
「台風とか竜巻とかの時は、病院の重しぐらいには・・・」
「ワシって、漬け物石程度か?」

「最近は漬け物石使わんで、スプリングみたいなの・・・」
「んじゃナニか、ワシって漬け物石以下かッ!」
「漬け物石にも及ばない(語尾上げで)」

 漬け物石程度の評価を目指したい、午後。

第672話 大往生糖尿夢い(まんじゅうくいたい)

「センセ、息子が死んだんじゃ」
「ヘッ。昨日の午後お見舞いに来てた、あの?」
「そうじゃ、あんなに元気じゃったのに?」

「何時知ったの?」
「ついさっき、目が覚めたら分かった」
「意味が分からんけど・・・」

「センセ。Nさん、さっきまでお休みだったから」
「もしかして、夢とちゃいますかア?」
「ヘッ、ありゃ夢か。えかったア、息子が私より先に死んでもろうたら困る」

「そらワシも、Nさんが死んだら困る。当分死ねんなー、Nさん」
「あたしも90じゃし、良い夢でも見てる間にコロッと逝きたいねー」
「そう言うのを、大往生って言うんじゃろか?」

「大往生が出来る夢っちゃ、どんなんじゃろか?」
「そら、Nさん。畳の上で、渋いお茶をいただいて。紅白饅頭でも食う夢、見ながら?」
「私、糖尿じゃけど」

「そこまで来たら、糖尿なんてどうでもエエ。行っちゃってエエよ、どんどん。
 夢の中じゃから、なんぼ食うても血糖は上がらんで」
「そんなエエ夢なら、何度でも見たいね−」

「往生前じゃから、1回ぽっきりでオネガイね」
「よー、考えとこ」
「あと4,5年、ゆっくり考えてネ」

 ステーションに戻ってカルテを書いていると、心電図モニターがピ、ピッピッ。
時々乱れるのに気がついて見上げれば、洞調律(フツーの心拍)の合間に2,3個。
期外収縮(予定外の心拍)の軌跡が、規則正しい波形の間で流れて行く。

 心臓弁膜症に伴う心不全の末期だけに、どんな不整脈が出ても不思議ではない。
期外収縮が、低下したFさんの意識の中で見る夢の心地よさを妨げなければ良いが。

第671話 ”えこ”やねー

 入道雲から鱗雲に変わり、赤とんぼの群れが流れを作る昼下がりはラウンド2。

「イヤイヤ、あぢぢじゃねー」
「センセだけでしょッ。秋も間近だっちゅーのに、デコチンに汗かいてんのは」
「あ。やっぱそうやろ、エアコン切れてるウ」

「そらそうでしょ、エコですよ。エコ」
「エコっちゃ、体に悪くない(語尾上げで)。汗かいて、無駄なエネルギー使うし」
「悪くない(語尾下げで)、ゼンゼン。センセは特に、汗をかいた方が良いんですッ」

「ワシだけ、必死で仕事してるみたいやん。君イ、ワシを見習うようにイ」
「そんなダラダラしたら、給料泥棒って言われるでしょッ」
「エコで体壊すより、エエやろ?」

「エコで体壊しませんッ!」
「えこやねー」
 聴診器を外したMIHIセンセの耳に、カーテン越しに届いたQさんの声。

「ほれ、聞いた?ワシの方がエコってよ」
「そう言う意味じゃありません」
「どういう意味よ?」

「みんなに仰ってますから」
「えこやねー」
「ホレホレ、エコって。完璧の母、絶壁の犯人やねー」

「ナンですか、それ?」
「岸壁の母って、昔の歌をパクったオヤジギャグが流行ったんよ。学生時代。
 徹夜麻雀の夜明け前に使うと、ミョーに可笑しくて。全員腹抱えて、バタバタ倒れる」

「絶壁の犯人は、サスペンスの王道。謎解きをしている間、誰もゼンゼン動かなくて。
 視聴者が納得する頃に、タイミング良く到着しますねー。サイレンならしたパトカー。
 しかも必要ないのに手錠までかけて、サイレン鳴らして帰るんですよね。それ基本。
 主人公はその後どうやって帰ったんだろ?なんて気になったりして。その絶壁?」

「解説が長いッ」
「えこやねー」
「おろ?D君が入ってきた途端に、またエコって」

「Qさんは、人を見たら孫と思って。しょっちゅう、エエコ(良い子)やねーって」
 暫く見ていると、介助をしているB君にも「ええこやねー」言いまくり。
 Qさんに背中を見せたMIHIセンセにも、「ええこやねー」の、午後。

第671話 ”えこ”やねー

 入道雲から鱗雲に変わり、赤とんぼの群れが流れを作る昼下がりはラウンド2。

「イヤイヤ、あぢぢじゃねー」
「センセだけでしょッ。秋も間近だっちゅーのに、デコチンに汗かいてんのは」
「あ。やっぱそうやろ、エアコン切れてるウ」

「そらそうでしょ、エコですよ。エコ」
「エコっちゃ、体に悪くない(語尾上げで)。汗かいて、無駄なエネルギー使うし」
「悪くない(語尾下げで)、ゼンゼン。センセは特に、汗をかいた方が良いんですッ」

「ワシだけ、必死で仕事してるみたいやん。君イ、ワシを見習うようにイ」
「そんなダラダラしたら、給料泥棒って言われるでしょッ」
「エコで体壊すより、エエやろ?」

「エコで体壊しませんッ!」
「えこやねー」
 聴診器を外したMIHIセンセの耳に、カーテン越しに届いたQさんの声。

「ほれ、聞いた?ワシの方がエコってよ」
「そう言う意味じゃありません」
「どういう意味よ?」

「みんなに仰ってますから」
「えこやねー」
「ホレホレ、エコって。完璧の母、絶壁の犯人やねー」

「ナンですか、それ?」
「岸壁の母って、昔の歌をパクったオヤジギャグが流行ったんよ。学生時代。
 徹夜麻雀の夜明け前に使うと、ミョーに可笑しくて。全員腹抱えて、バタバタ倒れる」

「絶壁の犯人は、サスペンスの王道。謎解きをしている間、誰もゼンゼン動かなくて。
 視聴者が納得する頃に、タイミング良く到着しますねー。サイレンならしたパトカー。
 しかも必要ないのに手錠までかけて、サイレン鳴らして帰るんですよね。それ基本。
 主人公はその後どうやって帰ったんだろ?なんて気になったりして。その絶壁?」

「解説が長いッ」
「えこやねー」
「おろ?D君が入ってきた途端に、またエコって」

「Qさんは、人を見たら孫と思って。しょっちゅう、エエコ(良い子)やねーって」
 暫く見ていると、介助をしているB君にも「ええこやねー」言いまくり。
 Qさんに背中を見せたMIHIセンセにも、「ええこやねー」の、午後。

第670話 真夏のハグ

 午後のラウンド2も、汗をかきかき。
「あぢぢじゃねー、ったく」
「あらセンセ、赤とんぼが飛び始めてるしイ。入道雲が、変わったっしょ?」

「それじゃナニか、赤とんぼが飛びまくって入道雲が千切れたら氷河期でも来るんか?」
「んなこと言うのは、センセだけでしょッ」
「しかし、頼みもセンのにナンでこんなに暑いんやろ。ワシがデブだからかッ!」

「そらあたしも暑いですよ、メタボだから」介護士R。
「そうでも無いやんか」(明らかなリップサービス)
「んなホント!サッカーの試合で、息子が初ゴール。ハグしようとしたら言うんですよ」

「お母さん許して、殺さないで!ってか?」
「んじゃなくて、暑苦しいからハグはちょっと・・・だと」

「確かに、あんたもワシも夏のハグはちょっとナ。息子に言うたり。
 宿題せんじゃったら、ハグ3回やでエって。夏でも凍る。 ビビリまくり、チビルで」
「それ程酷いハグですか、あたしのは」

「ダンナが仕事から帰ってきたら、ハグしてみ。失神するんちゃうか?」
「それは言える。酒飲んだ時にハグしちゃう?って言って、お小遣い巻き上げよか?」
「DV以上、SM以下。家庭内パワハラ。DPっちゅーやつ?それともFP、FV?VTR?CM?DM?」

「ローマ字バッカで、ワケワカランようになってきたワ」
「ワシも、ワケワカランようになってきたから。施設のラウンドしたろ」で、移動。
「あー、センセえー」

 入り口で19年お付き合いのWバッちゃま、いきなりMIHIセンセにハグ。
「ちょ、ちょっと待ってね。ここ暑いから、中へ入ろ」
「イエ、あたしはここで」を無視して、エアコンの吹き出し口付近に移動。
「センセは、ここが丁度エエ具合じゃろけど。うー、さぶい。もう、あっち行こ」

 真夏のハグはエアコン吹き出し口前に限る、午後。

第669話 テキストはサスペンス

「お世話になりますウ−。あ、センセ。お勉強ですか?」
「脳みそが足りんから、ちょいと鍛えようと思って」
「ん、またまた。このッ、勉強好きッ!みたいな」

「んで、Pは出してるよ。御新規3例」
「ん、またまた。そう言う、小さな心臓に良くないことを言っちゃイヤですよ。
 Pはうちのライバル会社ので、Zでオネガイしときますね」

「あれー、そうだったっけ。Pとばっかり思い込んで、ヘッヘッヘのガッハッハ」
「しかし、センセ。その分厚いテキストは、そんなに面白いんですか?」
「腹を抱えて笑うほどじゃないけど、まっそこそこ」

「後ろからそっと見てたら、読んだらしばし天井を見上げて。その後でニターって」
「あんた、何時からワシのストーカーしてたの?」
「ちょちょっと待って下さい、それ程趣味は・・・。あのニターはどうして、何故?」

「あれはね、医学的な内容をワシの頭の中でグチャグチャにして」
「牛みたいに反芻したりして、んモーみたいな」
「そうそう、その後でサスペンス仕立てに作り替えるんよ」

「何たら言う映画みたいなヤツですね、TVの」
「おろ?あんたも見てんの?ドクターモノの洋画」
「ハイ、あれ結構マニアックで。ワカラン単語が、しょっちゅう出て来て」

「そうなんよ、ワシも時々。んで、フツーのサスペンスに飽きて鞍替えしたワケ。
 最初の15分で最終診断を当てるのって、生半可な知識じゃ出来んで。
 時々、強引な展開で。それッてちょっと、オカシイんでないかいみたいな」

「それとセンセの、医学書でニターにどう結びつくんですウ?」
「例えば、コーモンが痛いと訴える患者さんの最終診断は髄膜炎とか」
「支離滅裂ですねー、それって」

「んじゃんじゃ。右足の小指が急に痛くなったら、巡り巡って頭部外傷とか」
「それって、画鋲を踏んづけたところに棚から花瓶が落ちてきたんじゃ?」
「あんた、その患者だったか!」

「そのくらい想像つきますよ、センセだから」
「もうちょっと読み込まないとイケンな−」
「せいぜいお気張りヤスう」

 テキストをサスペンスにして学習に励む集中力持続時間15分が限界の、午後。

第668話 アインシュタインのジョーシキ

「センセ。来週あたり風邪をひきそうじゃから、今日は風邪薬を貰っとこうか」
「Rさん。明日便秘して、明後日下痢するような気がするから。
 今のうちに下剤と下痢止めを出しとこうか?言われて。両方飲んだら、オカシイやろ」

「確かにそう言われると、腹の中がどうしてエエかワカランような気がしてきたわ」
「んじゃ、風邪をひいたらおいでませ」
「いつになくジョーシキ的な回答でツマランわ、オチがない」ナースWの突っ込み。

「あのな、ワシは外来で漫才や落語をやっとるんとは違うんよ」
「結構ツカミとかオチを考えてるクセにイ。んじゃ、Mさあーん。どうぞオ」
「センセ、入院させておくれ」

「いきなりナンやの?見た目は元気そうやんか」
「この夏休みに、息子ら夫婦と孫4人が来るって。自分の口の世話だけで精一杯なのに」
「エエやないか、飯を食わせて孫と遊んだら」

「バカ言わんこと、孫って大人じゃから。小遣いせびって、美味いモノ食わせろって」
「まあ、バッちゃんの意地を見せてやりイ。ポーンと100万ずつやってみイよ」
「1ヶ月経ったら、あたしのミイラが出来るわ。そんなヒジョーシキなこと出来ん」

「息子夫婦と孫達に、家の大掃除をして貰ったらエエ。二度と来なくなるかも」
「それもエエな、ついでに墓掃除もしてもらお。そん時、あたしが入る分空けて貰って。
 冥土へ行く準備をしてる間、別荘に入院させてもろうて」

「いっそ、交番で暴れて色んなもん壊して塀の中の別荘に入るってのは?」
「バカ言わんこと。そうまでするくらいなら、ここで暴れて入院させて貰うわ」
「そのくらい元気じゃったら、孫のお世話してネ。んじゃ、Kさあーん」

「センセ。本気で女房と喧嘩したら、後がだるい。血イ採って、肝臓の検査しておくれ」
「どらどら、んー。肝臓も腫れてないし、白目もドドメ色で、ちいとも黄色くない。
 それでも、血イ採って検査して欲しい?」

「センセ、ナニ言ってんですか。検査するのが、ジョーシキでしょッ」のナースW。
「おバカ言わないでくれん。なんでワシが、夫婦げんかの後始末せなアカンのやッ!」
「こないだうちの夫婦喧嘩で、投げた茶碗が主人のおデコに命中しちゃって3針縫って。
 一人前に頭が痛いって言うから、CTまで撮っちゃって」

「そんなジョーシキ的なモン投げんと、出刃包丁とか毒を塗ったヤリを投げなさい。
 CTなんかせんで済んだのに。それが、極フツーの夫婦喧嘩のジョーシキやろ?」
「それでフツーなんですかア、それがジョーシキい?」

「アインシュタイン曰く、常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションらしいで。
 投げるなら出刃包丁かヤリがジョーシキらしい。投げるモンに偏見を持ったらイカン。
 ワシはヒジョーシキじゃから、せんけど」

 偏見と常識について深ーく考えた、朝。

第667話 柄と夏のお手前

「あぢー、ワシって死ぬかもオ。往診止めようやアの人」
「ダメですッ!こんなセンセでも、患者さんもご家族も待ってんだから」
「どう言うこと?こんなセンセっつーのが、気になるけど」

「細かいことは気にせずに、デコチンの汗を拭いたら出発進行オ」
「あんた、元気やネー。どっか壊れてるんちゃう?」
「お陰様で。壊れてんのは脳みそだけって、言いたいんしょッ」

「スマンけど、大きい声と口数を抑えてくれん。吐く息まで熱い」
「あたしはゴジラですか?」
「ゴジラの方が、イボイボが可愛いけど・・・」

「フンッ。いつもは4軒ですけど、今日は3人ショートステイ中で。1軒だけですッ」
「明日から毎日、ショートステイして貰うとか?」
「それを、ギョーカイでは入所と申します。在宅支援とは申しません」

「こんちわア、宅急便兼訪問診療でエす」段ボール箱4個半を2人で担いで侵入。
「経管栄養の高カロリーバッグ、お持ちしましたー」
「あー、センセ。いつもスイマセンねー」

「あ、どうも。んじゃ失礼しまーす。Mさん1ヶ月ぶりじゃけど、元気じゃった?」
「グフ」神経難病でものが言えず、意識ははっきりしてるから直ぐ反応がある。
「あ、元気じゃったワケね。んじゃ、診察ね」

 診察が始まるといつもは奥様が側でじっとご覧になってるのに、直ぐに見えなくなって。
「今日は、ここ1軒だけ。クーラーにちょっと当たって、汗を引かせて貰ってエエ?」
「グフ」

「あんまり早く帰ると、看護婦さんの暇つぶしにワシ虐められるんよ。
 ワシって、気イ弱いし、体もこんなに痩せてひ弱だし。ハアーなんよ」
「何言ってんですか。Mさん、ジョーダンですよ。分かってると思うけど、念のため」

 診察が終わってカルテを書き込んだ頃に、静々お盆を持って登場。
「いつもナンにもありませんが、たまにはこんなのもよろしいかと」
「あらまー。お饅頭に抹茶とは風流な」

「普段殆ど会話がないので、自分のために気分転換に入れましたから。
 昔は、主人と良くいただきました。主人は好きなんですよ、抹茶が」
「んじゃ、寒天に抹茶を溶かしてゼリーを作ってみたら?」
「グフ」

 暫く雑談をして、「んじゃ、そろそろ撤収します」
「あら、そうですか。もうちょっとゆっくり」
「んじゃ、結構なお点前でした」

「何年ぶりかね−、抹茶なんて」
「私は週一かな?」
「婦長さんは、ガラにもなく風流なんだ」

「どんなガラですか?」
「モモンガ柄とか、タヌキ柄とか、ガラガラヘビ柄みたいな」

 柄で悩みつつ夏のお手前も風流だね!の、訪問診療車内。

第667話 魔物に魔物

「センセ、ナンか心配事でもあるんですか?」
「愁いを含んだ顔しとる?町内会じゃ、哀愁のハンフリー・ボガード(語尾上げで)」
「呼ばれん、呼ばれん。憂い溢れると言うより、情け無さ溢れる8語尾上げで)」

「歳じゃしなー」
「あら還暦でしょ、まだまだ若い若い。シッコ垂れ小僧でしょッ」
「人間なら、シッコ垂れ流してエエんは70代の後半じゃもんなー。あと500年」

「ヘッ、んじゃ。センセってやっぱ猪八戒とか、野ブタの化け損ない?」
「誰がキムタク似じゃッ!あー、不安、心配」
「キムタクの文字、1個も入って無いっしょッ!んで、ナニが心配」

「それは、通勤途中で出会う相棒犬」
「なんですか、相棒犬って」
「犬にはあるけど、あんたには無い息する権利。心配してんの、相棒犬の行く末」

「他に心配することがないんですか、んじゃあたしの事は心配せんの?」
「安心出来るところを探すのに、3万年はかかるでから」
「昨日の夜から心配。あたしのここに魔物が居る?センセは見えるんでしょ、魔物」

「オバカを言わない」
「当直室だけですか、魔物が見えるのは」
「座敷童は魔物じゃネエーぞ。可愛い少年剣士」

「んじゃあたしにも。可愛い美少女剣士が、ぽっちゃりお腹に下宿?」
「そんなエエもんじゃったら、出して見せろッ。メタボ腹は、見せなくて良いから」
「あ、センセ。凄いんですよGさん、筋肉鍛えて割れそう。横に三段」突っ込む介護士Z。

「腹がぱっくり割れて、ゾンビが出てくるとか?」
「ワケワカランッ!」
「魔物に魔物は、住み込まんやろ」
「ハア?魔物・・・あ!」

 ナースGが魔物の正体に気づいた、午後。

第665話 違うッ

「キャー、この間のお祭りの時の写真ですかア。あ、これって娘さん?」
「どらどら。あ、そうよ」
「そっくりじゃないですかア、婦長さんと」

「ゼンゼン似てないでしょ?」
「婦長さんが若い頃、こんな感じじゃ?」

「ゼンゼン違うでしょッ、あたしに似れば顔立ちも良いし。
 ダンナに似たばっかしに、ウウだわ。第一、もて方が違うわ」
「そう言うのを、年寄りの妄想」

「センセと同じ歳ですッ!妄想世代ッ」
「今日は、脳みその回転がオカシイ」
「わざとっしょ」
 違うッ、本気じゃッ!は言えねー言えねー。

「違うッ」が多い、午後。

第664話 最後ッ屁と行動経済学

「コラッ、あたしはゴキですかッ!」
「ふぁ?」
「んだから、ナゼ故にゴキシュッをあたしに向かって!」

「回診も終わったし、カルテも書いたし。指示も出しまくって、来月分の定期処方も。
 はアあ、ヒマ。何処かに、楽しい仕事は無いかア。根性の悪い婦長はイネがー、シュッ」
「コラコラッ。センセは、ナマハゲかッ!」

「おふざけナースには、ゴキシュッ3発」
「この病棟でふざけてんのは、センセぐらいでしょッ」
「あのさ。行動経済学で言うところの、利得追求と損失回避の件ナンじゃけど」

「ワケワカランッ!」
「同じくらいの得をするのと、損をしたくないのと比べる時にな。
 どっちか言えば、損をしたくない方が余計に気になるってーの。
 こんなこと言うたんは、何処ぞのノーベル賞飴もろうたセンセらしいで」

「んだから、それとあたしに向かってゴキシュッとどのような関係?」
「あんたレベルまでズコーンと下げて、説明するとやねー」
「ハイハイ、靴の裏まで下げてエエですよ」

「あんたに絶賛されたいか、あんたにゴキシュッしたいかを比べるワケよ」
「その比較する意味が、ワカランッ」

「そらゴキシュッの方が気になるやろ?イタチの最後ッ屁みたいな。
 な、行動経済学って奥が深いよなー。イタチの最後ッ屁やもんなー」

 最後ッ屁と行動経済学との関連を思う、午後。

第663話 イカンぞ!博士

「センセ、裏口から入って行かんじゃったか?昨日の朝」
「8時過ぎなら、多分ワシや」
「あれはイカン、センセはワシの孫の先輩じゃったよな」

「確かお孫さんは今年卒業じゃから、30年以上な」
「そうじゃろ。じゃから、あれはイカンぞ!」
「やっぱ正門から堂々と?」

「イヤ。あれで堂々は、イカンじゃろ?」
「そうかなー。確かに夏の人気モン(語尾上げで)」
「人気は別として。センセは、博士じゃろ?」

「まあ一応、名刺に書いてるわな。あ、ワシの博士号は甲なんよ。
 あ、甲乙はどっちでもエエ!んでもそこんとこ、押さえて欲しかったなー」
「甲でも丙でも、ナンでもエエが。博士があれじゃ、イカンぞ!」

「んじゃ、腹引っ込めて。胸張って、堂々と玄関から入ったらエエわけね?」
「入り方が問題じゃ」
「まさか、歩幅前進で?突撃イーとか言いながら?」

「そんなことしたら、患者が逃げるで」
「んで、歩幅前進で追うワケね」
「それなら、転がった方が速い」

「んじゃ、何がイカンの?」
「小学生の昆虫採集じゃ有るまいし、博士が泣く」
「濁点付ければ、笑うかも知れん。バカセなんてネ」

「わしゃ、クラクラしてきた。ビョーキになりそうじゃ、また明日来る」
どうやら私のバミューダパンツのクールビズが、気に入らないようで。

 いっそのこと夏定番の金太郎で出勤したろかしら?、と思った午前。

第662話 孫の効き目

「センセ。Pさんのご家族が、いつお会い出来るかって?」
「もし今日の午前中なら、エニータイム・ヨア・ウエルカム」
「んじゃ、そう言うことでご返事しておきますねー」

「ラジャッ!」の1時間後、訪問を知らせるお電話。
「センセ、Pさんのお孫さんもご一緒ですよ。凄い可愛いー」
「ラジャッ、孫が見たいッ!直ぐすっ飛んで行くかんね」の3分後。

「あどうも、MIHIですウ。これがお孫さんですね」
「ハイ。我が家では、初孫になります」
「あ、そうなりますか」

 今までなら、そのまま病状説明に突入するのだが最近は違う。
「Pさん。喜んだでしょう、さぞかし」
「分かってるんだか、どうなんだか」

「そら分かってますよ、ゼッタイ。ジジイには、食前食後に孫でしょ?」
「私には難しすぎて、意味がよー分かりませんけど」
「ちょっと哲学的でしたア?形而上学的なんですよねー、孫って」

 MIHIセンセは勝手なことを言いつつ、自分の孫とパーツ毎にチェック比較の3分間。
「ワシに似て、なんでうちの孫は可愛いんだろ!」なんてジジバカを飲み込んで。
「イヤー、赤ん坊は可愛いですねー」

「MIHIセンセも、初孫だったですよねー。やっと人並みに、ジジイですモンねー」
 カーテンの陰から、ナースDの声がかかる。
「へえー。センセ、オヤジより若く見える」

 みえみえのオセジに、ちょい喜んでいると。
「そうなんですよ。脳みその皺が少なくて、直ぐキレる人って若く見えるんですって」
 再びカーテンの陰から、ナースDが要らんことを追加する。

「そんなことは、グフフッ」
「無いと思うでしょうけど、有るんですねー」3度目の正直ナースD。
「ジッサイ、そうかも知れんなー」しみじみ。

「孫が産まれたらジジイに徹して、部屋の隅っこで大人しくしてりゃエエのに。
 孫が産まれた効き目が、ゼンゼンない」
「ワシを大人しくさせるために、孫が産まれるワケ?」

「多少は、効き目があるッしょ」
「そらあんたの、夜勤明けの化粧と同じや。効き目で言うなら、オカメのお面が」
「孫に嫌われるんだ、そーゆージジイは」

 孫の効き目って何?と思った、午前。

第661話 今は亡き茶ラブ犬哲に贈る;モーソーのこと

「あぢー。哲っちゃん、死んどるかアー」
「ナンか、朦朧として。生きてるんだか、あの世に渡りかけてるんだか。ワフう−」
「コラッ。誰が良しって言うたかッ!ヘッ、ワシが?そうだっけ。何時、何処で」

「ワフッ、ナンじゃこのビスケ。フニャーっとして、歯にまとわりついて。
 食感と言い、ネチャ具合と言い、上あごにべっとり具合と良い。夏向きじゃないワフ。
 もしかして、あたしのこと弄んでる?ヘッ、そう言うのヒガイモーソーって言うんだ」
 
「凄いこと知っとるやないか。モーソー言うても、タケノコが食うヤツじゃないで」
「遠吠え通信教育で、先週習ったばっか。そのあと雷ゴロピカで、直ぐ忘れた」
「もしかして、ワシと同じ教科書を使ってるんかも」

「おろ?遠吠えが。もしかして、ワシの悪口を言ってるんとちゃいますかア。ワウッ。
 それとも、ワシに関する有ること無いこと。情報垂れ流してるんちゃいますかア
 そら確かにこの間、クシャミと同時にちょっとだけチビったけど」

「チビったのは、加齢締まり不調粗相やろ」
 あれを知ってるのは、権之助だけやから。言いふらすとしたら、あいつしか居らん。
 今度会ったら、とっちめるかんね。ほとぼりが冷めるまで、面かぶって歩こ。ワフッ」

「そう言うのを、関係妄想って言うんや。期末試験に出すッ!」
「そうそう、犬格障害ってナニ?その中でも、妄想性犬格って。宿題ナンよ」
「それはやね、対犬関係が冷淡でよそよそしく。親密になると支配欲求が出て来て。
 とうとう、焼き餅を焼くようになるのを言うらしい。と、メルクマニュワンに」

「んじゃ、もう1つ。自己愛犬格って、ナニ?」
「誇大な優越感を抱き、他の犬が自分に敬意を払うことを期待するワケ。
 その対犬関係は、賞賛されたいという欲求によって特徴付けられるらしい」

「それって。まるっとMIHIセンセ、すっかりMIHIセンセ」
「んー。そう言う人も、13人に18人は居る」
「計算が合わんッ!それって、何モーソー?」

 モーソーがモーソーを呼ぶ、午後。

第660話 5分の平和

「そらワカラン。最近は、ナニをしてんだかワカランもんなー」
「そうですねー、ポークかと思ったら鳥だったり。ミョーな内臓だったり」
「肉まんに段ボールは、ホントじゃったんかいね?あ、ヤラセ」

 お隣の工事現場を窓から眺めながら、昼休み寸前の外来婦長さんと会話。
「あれって、耐震偽装とかしとらんやろなー?」
「そら分かりませんよ、お年寄りが押したらぐらっと来たりして」

「段ボールの家じゃないっちゅーの。張り紙に”気安く壁を押さないように”とか?」
「”ドアは音を立てずに閉めましょう”とか?」
「それなら、”トイレで屁をするときは3発までにしてね”とか?」

 ますますクダラン会話で時は流れ、11:55。
「じゃあ。”ムキコンしてました、申し訳ありません”とか」
「何ですそれ?根性有るムキムキマンですウ?」

「古いコンクリを剥いて、新しいヤツに混ぜ込んで貼り付けるんやけど」
「じゃあ。”25年前からムキセンもしてました、スイマセンでした”とか」
「センって、鉄線かア。厳しいのう、そこまでやるかッちゅー感じやね」

「イヤイヤ、困ったモンですねー」
「ホントにホントに、大丈夫なんやろな。付いたあだ名が、偽装苑とか偽装園とか?」
 窓の下を通り過ぎるヘルメットのオニーさん、窓を見上げてコホン1発。

「まさか、聞いとったんやないやろな?ワシらの話。案外、現場で壁を押してたりして」
「んで、ぐらっと来て倒れたりして。キャハハ」
「あ、昼休みじゃアー。あんパン囓って、回診じゃアー」

 5分で盛り上がる外来は平和。

第659話 ナンでも自分で

「あー、エかった。おろ?センセが止めてくれたんか」
「一応さ、車いすの背中に押さないでって書いてあるから。押す気はなかったけど」
「そうなんですわ、せっかく頑張って自分で車いすを動かしてるのに押されるとねー」

「んでも、今のは押したんとはちゃうやろ?」
「坂も緩やかじゃったら、自分で上がれるけど。今日は手が滑って、あらーとか思って。
 焦ったら直ぐに止まったんで、驚いた驚いた」
「ナンでも自分でやるのもエエけど、危なそうなら声をかけてもエエかも知れんなー」

 隣の施設の住人が病院の売店に来る時は、ちょっと違った環境に戸惑うことがあり。
時折見かけるこういった光景に、目配りをしなくちゃならないなと思いつつラウンド。

「Pさん、ちょっと待ってエね」
「もう待てん、ナンでも自分で出来るッ」
「あーらら、やっぱそうなっちゃってエ」

「命中しとろうが?」
「左右に的が外れて、床がオシッコでビシャビシャやん」
「おっかしいなー、尿瓶のど真ん中に命中したと思ったのに」

「ナンでも自分でするのも良いけど、ちょっと待って貰ってエかったかも」
「最初は命中したけど、始まった途端に手がプルプル震えたんがイカンじゃったか」
「老いては子に従えって言うけど、何でもナースに従えって言うワケじゃないんよ」

「そらそうじゃ、ナースに従ってばっか居たらロクなことがないかもオ」
「コラコラ、カーテンの向うで要らんことを言うのはMIHIセンセじゃね」ナース突っ込む。
「おお、センセか。センセじゃったら、ナンでも自分のことは自分で出来ようが?」

「そらそ、ワシってナンでも出来るスーパーマンって。ワンニャン町内会じゃ有名やで。
 注射は看護婦さんに指示するし。薬は印刷機に書かせるし、会議じゃ皆を黙らせるし」
「そらセンセ、他人にバッかやらせてないかい?」

「自分のことは自分でするし、やる気せん時や出来んことは人にやらせるだけ」
「MIHIセンセは、人にやらせるのが多くない(語尾上げで)」鋭いナースの突っ込み。

 自分をわきまえることの難しさを実感した、午後。

第658話 回診の沈黙

「おっはよー。あじいねー、汗かくねー」
「・・・」
「元気イ?ウンウン、皮膚の乾燥もまあまあ。胸の音も良いねー、じゃあ次Pさん」

「もうじきお盆だね−、その前に梅雨明けか。しかしPさん、肌の色つやがエエよー」
「・・・」
「お腹を押さえても痛くないね?やっぱね、表情変わらんモンねー。んじゃ、Rさんね」

「おろ?目やにが着いてるね、拭いちゃおうかね。泣くようなことが有った?あ、無い」
「・・・」
「この間、70歳くらいの人。あれはご主人ね?イケメンじゃねー。んじゃ、また」

「Sさん、おっはよ!元気じゃろ、顔色エエで」
「・・・」
「こないだの糖尿の検査、すんごくエかったから。安心してエエよ、んーでBさんは」

「胸がちょっとはだけて、寒くない?エアコンが効いてるから、肌布団を掛けようねー」
「・・・」
「皮膚良ーし、胸の音良ーし、足の腫れ無ーし。絶好調じゃね。さて隣の部屋か」

「おお、Dさん。もう栄養注入終わって、お茶してるわけね」
「・・・」
「そうそう、この間お孫さんが来とったね。あ、ひ孫さんか。可愛いね−。
 ワシにも孫が産まれたんよ、メチャメチャ可愛いんよねー。実際。んじゃ、Gさん」

「来週の金曜日に、ここを退院してZ(老人施設)に行くらしいで。寂しくなるね−」
「・・・。ヒクッ」
「えー、ナニ?Gさんも寂しいんかね?またどっかで会おうね」
 40人中1/3の患者さんがこんな具合で、患者さんの沈黙の中を回診が進む。

 看取ることがあると、霊安室で患者さんと二人きりで最後の回診。
「お疲れさんじゃったねー。もう痛いことも苦しいこともないから、安心してエエよ」
「・・・」(返事をされても困るけど)
「んじゃ、先に行って待っててね。もう暫く、こっちで仕事をしてから行くから」

 回診の沈黙は1人せいぜい5分だが、こんな時はちょっとだけ長くなる。

第657話 お似合いジジイ(亡き茶ラブラドール哲を思い出しながら)

「おろ?お手せんでエエんね。ワシがジジイと思って、気を使ってんね、ワフッ」
「哲ちゃんも年取ったなー、お手したら3本足じゃまともに立っておられんやんか」

「そうなんよ、お手してると足がプルプルしてよろけるんよ。ヘッ、人間でもあるんね。
 ナニナニ、パーキンソニズムって。こういう時にショック療法でチョコとか。3,4個?
 毒が毒を制するって言うやろ?あ、ダメ。んじゃ、せいぜい哲ジジイに気を使ってネ」
「んじゃ、良しッと」

「しかしナンだね−、介護保険。今朝の遠吠えニュースで言ってたけど、酷いモンだねー。
 年寄りに気を使ってないねー。一次判定ソフトを、初めに経費節約ありきで改悪して。
 勝手にいじくり廻した?んで、怒って介護審査委員を辞めたよね。MIHIセンセ」

「そうなんよ、端から文句が出るのが分かってって動いたんだからタチが悪りイやね」
「まあ、現場を知らんヤツがいじくり廻すとろくなことがないね。誰でも歳を取るしイ。
 歳を取って異常に元気になったら、オカシイやろ。ワフーう」

「医学部の学生と研修医だけじゃなくて、厚生労働省に入った役人は必須じゃね。
 半年間でエエから、施設実習でお年寄りのお世話をして欲しいモンだね。
 ワシらのスタッフみたいに、笑顔でオムツを替えてみろってんだ。ワシ自信ないけど」

「ヤダねー。あー、ヤダ。MIHIセンセは、研修医とか医学生さんの実習とかで言うよね。
 人生の大先輩にどうやって恩返しするか?よーく考えて、この経験を心に刻んでねって。
 言い得てミョー、言わなきゃワカランってとこじゃね」

「しかし、哲も年取ったね−。ヨボヨボじゃん」
「還暦迎えたMIHIセンセだけには、言われたくないね」
「まあ、お互い。ジジイ同士で労りながら、気を使おうや」

「盆と正月は、チョコがエエ。ワフッ。んじゃ、ラウンドへ行っておいで。ワシ、寝る」
「んじゃねー。哲、ホレ見てみて。スイスイ、あらよッと」
ヨロつきながら小屋へ撤収する哲に、しつこくスキップしてみせるMIHIセンセ。

 MIHIジジイには、哲ジジイがお似合いかも?の午後。

第656話 脱水ジッちゃんにバッちゃん愛

「センセ、主人が言うんです。長い間世話になったな、って」
「そらまた、ご丁寧な」
「そうじゃなくて、身の回りのモノを整理してどんどん捨てるんですよ」

「整理整頓が好きな、几帳面な性格じゃねー」
「そうじゃなくて、もう先がないから要らんって。ウウ・・・」
「どらどら。おろ、この皮膚は・・・脱水症じゃね−。完全に」

「シッコが近くなるから、お茶も水も飲まんって。ウウ・・・」
「暑くなってきて、汗をかいて水分取らなきゃイカン。ミイラになるデ」
「もう半分なってます。ウウ・・・」

「点滴せねば。最近、エライって言わんかった?」
「昨日から、エライエライって。あたしが口に含ませた時しか、飲んでくれないんで」
「愛は足りてるけど、水分が足らんから。ハイ、入院ね。退院したら3倍優しくしてね」

「じゃあ、Qさーん」
「センセ。主人がハンストなんです」
「痔民党が後期高齢者って言ったのが気に入らんとか?酒を増やせとか?」

「センセじゃないんだから」
「あ、ワシって初孫誕生記念禁酒中。んで、ナニ?」
「デイケアに行かないって、ご飯も食べんしお茶も飲まんし」

「根性有るなー、98にもなって」
「今日で2日目なんですけど、口も聞いてくれないし。眠そうで、ボーッとしてるし」
「ちょ、ちょっと待ってね。ホントに眠いんじゃろか?」

「ハイ。なんも飲んでないから、シッコもしないからオムツも変えんでエエし。楽じゃ」
「ちょ、ちょっと待ってね。奥さんに隠れて、ナンか食べたり飲んだりしてないよね?
 トイレも、自分で歩いて行ってないよね?」

「そらセンセ、23年寝たきりに近いから。出来るモンなら、して欲しいくらいだわ。
 ベッドまで食べ物を持って行っても、手も付けんし。挙げ句に、あたしのこと娘だと」
「そらQさん、完全に脱水症じゃ。せん妄まででとるから、ハイ入院。連れておいで」

「ホントにそうなんですウ、甘えてんじゃ?」
「甘え過ぎ以上じゃ、そら。最初はハンストじゃったかも知れんが、いまは立派な脱水症。
 このままじゃミイラやで、今は奥さんの溢れる愛よりたっぷり溢れるシッコがエエ」

「イヤですよ愛なんて、とっくの昔にどっかへ行っちゃったワ」
特にお年寄りは水分を蓄える細胞の数が減って、直ぐ脱水。
連れあいの愛も良いけど、その前に水分が良い。

第655話 なんかハイ

「センセ、Uさんなんですけどオ」
「小走りして、トイレへ行ったとか?ま、まさかキンちゃん走りでは?」
「んなわけ無いでしょッ!骨折した足を手術して、まだ2週間目ですよ」

「ワカランぞ、真夜中に・・・」
「ハイハイ、スッピンのあたしを見たら驚いて全速力ダッシュするってんでしょッ」
「いくらワシでも、そこまで酷いことは・・・。言ってもエエ?」

「ダメですッ!」
「んで、ナニをして欲しいんか?出来ないことと、したくないことがあるけど」
 何でも言いなさい。言い訳2,3見繕っとくから」

「やっぱ、したくないんじゃ!」
「分かれば、良いでおじゃる。スンゲ、分かるウ。ハゲシク、キャッホー」
「んで、センセ。ナンで今朝は、いつになくハイ?」

「睡眠不足で、抑えが効かないワケ」
「抑えが効かんのは、今に始まったワケじゃ。ホント。当直室は、寝られん。睡眠不足」
「そうなんよ、座敷童君が3人時間差で来るもんなー。婦長さんとこに来た?茶髪B君」

「そう言う趣味はありませんけど、来月の勤務表を作ってたら眠れなくて」
「どっかの教授が医者を派遣するのに、名前を書いた飛行機を飛ばして。
 一番遠くへ飛んだヤツから順に、赴任先を振り分けたらしいで。楽しかろうなー」

「意味ワカラン、解読不能」
「ふぁーあ、眠気覚ましにいっちょキレたろかしら」
「ダメですよ、仕事の邪魔したら」

「んじゃ、患者さん達に元気づけに廻っちゃおうかな?今朝も元気だ、病院食美味い。
 どうにかせんかいッ、味薄いッ。たまには霜降り牛肉、出さんんかいッ!なんてな」
「それもダメッ!今、朝食後の休憩中ッ。ゼッタイ、ダメダメッ。蹴り入れるぞッ!」

 帰宅前の当直明け婦長さんがやたらハイになる、午前。

第654話 エエところ

「センセ、風邪ひいた」
「声がいつもと違うな」
「センセ、耳がエエなア」

「足が長いって言われても、照れるなア」
「ファ、あたしゃそんなこと言うたかいな?」
「うん、キムタク似って」

「そうじゃったか、そこまで言うたか。とうとう、酷い物忘れじゃ。イカン、ウウウ」
「Kさん、Kさん。MIHIセンセに騙されちゃイケンよ、んなアホなこと言ってないから」
「ところで、あたしゃ足が痛いし。腕も痛いし、肩も痛いし。目も霞む」

「Kさん、エエところを言うた方が簡単かも?」
「んじゃ、エエ所はんーと・・・。何処じゃろ、顔と性格と」
「KさんもとうとうMIHIセンセのが伝染したらしい、ヤな所バッか似てきて」

「ほんで、こないだの検査結果は?」
「あ、あれね。んーと、ちょっとだけ血糖が高くて。肝臓もちょこっと弱ってて。
 腎臓はそれなりに年相応で、貧血もちょぼちょぼ。オシッコに蛋白がチョロッと」

「センセ、センセ。エエところを言った方が簡単なんじゃ?」
「結果は、まあちょいと弱って年相応かな?」
「んじゃ、あたしの元気なところはナインか?」

 後ろに立ってるお嫁さんが、自分の口に指を当て「ここだけ達者」みたいな苦笑い。
「Kさん、喋られるうちは元気じゃ」
「あたしが五月蠅いのは、棺桶に入るまでじゃ。その先は静かになるじゃろ」

「そらそう。お墓にはいっても五月蠅い人は、口の形をしたお墓にして貰うかね?」
「ついでにスイッチ入れたら、あたしの声が聞こえるのもエエな」
「近所迷惑じゃろ、それって」

「何処かエエ所に、墓を建ててもらわにゃイケン」
「Kさん、もう少し長生きして貰らわにゃ。なかなかエエところが、見つからん」
「あんまり長生きしたら、はた迷惑じゃろ。エエところで、爺さんの所へ行かねば」
 Kさんにとって「エエところ」は、1箇所じゃ無いらしい。

 外来を終え医局でまったりしようと企んで、帰りかけて発見する壁ボード。
「おもろいモン貼り付けてあるやんか、どこぞのお尋ねモンか?」
「あー、酷い。Wちゃんの作品ですッ」

「ダーツの的に使うワケね。それとも、丑の刻参り?」
「あー、酷い。貼ってた写真が傷んできたんで、似顔絵に変えたけど、結構エエっしょ」
「もしかして、これワシか?何か恨みでも有るんか?」

「恨みなら7万4千、ご用意出来ますけど」
「イラストレーターの血が騒ぐなー、描きたいなー、オネガイしたいなー」

 似顔絵準備で雑用増やして反省する、午後。

第653話 入院と退院の決定権

 入院と来れば、その形は色々あるがいつかは退院しなくてはならない。
お年寄りの場合は入院日は勿論であるが、退院日の決定権は殆どない。

「センセ。Pさんなんですけどオ、帰りたいって」
「ワシの担当じゃないしイ、今日はお休みで。主治医のセンセもいないしイ」
「顔だけでも、見せてあげてもらえませんか?センセの顔で、我慢しますから」

「目を見つめて。帰っちゃイヤーん、なんて言えばエエわけ?熱烈視線で」
「センセがそれ言ったら、みんな帰っちゃでしょッ!ミョーな要らんこと、ダメッ!
 ものは言いよう、医者は使いようって。ご先祖さんだって、言ってるっしょッ!」

「あんたのご先祖って、オラウータンの?」
「私の場合は、卑弥呼でしょ。美白、ほっそり面長の」
「どっか途中で、突然変異したか?無い物ねだりの妄想か?」

「まんまですッ!そんなことどっちでも良いから、Pさん、Pさん」
「ラジャッ!」で病棟へ行けば、何やら話し声が聞こえる。
 ステーションの椅子に座ってるPさんを、取り囲んだスタッフは腕組み。

「もうこんな所にゃ居れん、帰るッ!」
「んでも、息子さん東京やろ?今から来て貰っても、真夜中じゃけど」
「ワシ一人で帰るッ、タクシー呼んでおくれ。ウウ、腹も足も痛いけど。熱もあるけど」

 住み慣れた環境から隔離されて始める入院生活は、お年寄りにとって異国生活に近い。
骨折して手術を受けやっと歩ける程度でも、自分一人で何とか出来ると思いたいようで。
リハビリの意味が理解出来ない(実感として感じたくない?)ことが多い。

 家族が近くにいて毎日お見舞いがあり、そのうち退院の可能性があっても。
ちょと油断するとお見舞いの回数が減って、3ヶ月もすると帰る場所が無くなってしまう。
その頃には患者さんは帰る気が失せ始め、入院生活の中で楽しみを見出す努力が始まる。

 女性患者さんだと、それぞれがお気に入りのイケメン若者を決めて。
写真を飾るやら、そのスタッフが休みだとミョーな言い訳してリハビリを休んだり。
いつまで経っても女性というのは色気があるんだなと思いつつ、リハのお誘いに参加。

「ワシがオネガイしても、リハビリ休む?」
「センセはどうでもエエ、関係ない」
「分子構造はカワランと思うけど、何処が違うんやろ・・・」

 イケメンスタッフにムラムラと競争心が湧く、午後。

第652話 似てんじゃん

「ウゲッ。Kさん、何すんのオ」
「名前を忘れたから、背中に廻った名札を見ようと引っ張っただけじゃ」
「札のヒモが喉に食い込んで、死ぬかと思った」

「名札引っ張ったら、首がついてきた」
「そらそうでしょッ、名札は首にぶら下げてんだから」
「名札だけでエエのに」

「そうは行きませんッ!それじゃまるで、MIHIセンセじゃないですかッ」
「やっぱMIHIセンセもそうするか、似とるのー」
「危ないところは双子みたいな、兄弟みたいな、うり二つみたいな」

「まあまあ、兄ちゃんここに座ったら」待ちくたびれた私。
「じゃ。弟に診察して貰おうかの。ホレ、ワシのシャツをたくし上げにゃ。看護婦さん」
「んで、と。フンフン、心臓の音はエエ、肺の音もエエ。絶好調じゃねー、Kさん」

「ここへ来ると、エエんじゃ。P病院はイカン、ワシあそこのRセンセに大文句言うた。
 ワシがむかし衛生兵だったのを知らんで、ゴジャゴジャぬかすから言うたんよ。
 孫も医者じゃッ!って。んで、年に1回くらい聴診器当ててもバチ当たらんってな」

「それって関係ないやろしイ、孫が何人医者も」
「まあそうじゃけど、思わず言ったワケ。んでも、ここはエエ。最高じゃ」
「そう言うのって、あちこちで使ってるとちゃうの?」

「臨機応変って知っとるか?内股膏薬でもエエけど。右に着いたり、左に・・・」
「コウモリ状態とも言える」
「似てんじゃんとも言える、Kさんそろそろ撤収じゃね。んじゃ、お次のZさーん」

 外来主任の参入で、加速がついた外来。

第651話 毛虫vs注射

「フンフンフンッ、タコの糞っと」
「ご機嫌じゃないですか、いつになく困惑。昨日の7倍、ハタ迷惑」
「まあね、絶好調でスマンね。ウー、痒イーい」

「あらま、その手」
「何処から指か腕か、ワカランってか?それとも豚足と区別がつかんってか?」
「それはそれで言い得てミョーですけど、その赤いの」

「あ、これね。まあ、アルマジロ肌のあんたには縁がないけど」
「誰が、アラ真っ白肌ですか。確かに美白で、みんなに申し訳ないほど美しすぎて」
「妄想はそのくらいにしてネ。これって、庭作業中にタブン毛虫」

「良かったじゃないですか、毛虫だけでも気に入ってもらって」
「気に入って刺してくれたわけね。んでも、痒イー」
「ピンク針で痒いところをブチブチ刺したら、痒いのはぶっ飛びますけど」

「ぶっ飛んだんと入れ替わりに、イテーのが来るやろ。ソートー」
「そう言う人も居る」
「それしかないッ!」

「ブルー針なら、ゼンゼン痛くないでしょ。あたしはいっこうに構いませんけど」
「構いたいのはワシの方じゃッ!」
「まあまあ、堅いこと言わずに」

「ユルユルで結構ッ!注射、大ッ嫌い」
「でもセンセ、何事もやって見なきゃワカランでしょ。案外、痛くなかったりして。
 高々4、5回刺すだけですから、あたしは気にしません」

「ワシは気にするッ」
「そんなことを気にしたら、刺した毛虫に笑われますわよ」
「笑う毛虫を、見せてみろッ。フンッ!」

「ワキをコチョコチョしたら、ブフッとか言って毛虫が笑ったりして」
「うー、気分悪りイ。ラウンドでもして、気を紛らわして来ようっと」

 ポリポリしつつ病棟を徘徊する、午後。

第650話 キャーやだ

「コラコラ、何処へ行く?」
「ちょっとそこまで、お花を摘みに」
「まだ8人、外来が」

「もう限界じゃッ!」
「8人済ませてから、野の花でもブタの鼻でも摘んでくればよろしいでしょッ」
「間に合わん」

「直ぐに、花は枯れません」
「んじゃなくて、オシッコ。ゼッタイ着いてくるなよ」
「キャーやだ。誰が、何が悲しくて、お金貰ってもイヤ」

「んじゃ、5分ね」でチビらずに済んで8人目のRさん。
「Rさん、どうぞオ。あら、奥様だけ?」
「ハイ。血液検査の結果だけ、あたしが聞きに」

「んじゃ先ず、説明。タンパク質から見ると、栄養はマアマア」
「あらやだ、ろくなモン食べてないのに。あの人、何処かでひらい食いでも?
 センセ、どうにかなりませんか?栄養不良に」

「ムリムリ。んで、肝臓は正常」
「あらやだ、あたしは脂肪肝なのに」

「奥さんは良いモン食べすぎ。んでご主人の腎臓はちょっと弱ってるけど、年相応かな」
「あらやだ、あたしより良いかも?あたしの主治医のセンセは、塩分を控えろって」

「貧血無し、オシッコ綺麗。ほぼ満点じゃ」
「きゃーやだ。じゃあ、あと1年は持つんですウ?」
「1年と言わんやろ」

「キャーやだ。亭主が隠し持ったへそくりと貯金、あたしは埋蔵金って呼んでんですけど。
 亭主がいなくなったら、家中引っかき回して探しまくるのだけが楽しみで。
 1年も待てない、半年が限度だわ。嬉しいような、悲しいような、悔しいような」

 診察室から見えなくなった奥様、MIHIセンセが一言。
「あそこまで言うと、キャーやだ状態じゃね」が聞こえたかどうだか。

第649話 どっちを誉める

「ヘ、ひゃっくしょいっと。あのさ、風邪薬が欲しいんだけど。ワシ財布持ってないんよ。
 借金してもエエやろか?出世払いとかでもエエ?」
「センセが出世するのに5万年はかかるから、アカンですわ」

「んじゃあ。プチ出世払いと、出世プチ払いのどっちがエエ?」
「どっちもダメ」
「んじゃ。ワシがこのままラウンドしたら、風邪が蔓延しても知らんぞ。
 パンデミックMIHIセンセは、凄いんだかんな」を残してラウンドへ。

「あーPちゃんも、Dちゃんも。カットしたんだ」ワイワイ。
「とうとう首をギロチンでカットか?」私の突っ込み。
「ヘアですよ、ナニ言ってんですか」

「美容師さんが、可愛く仕上がりましたよーって」
「そらそうやろ。カットして、どんどん見苦しくなりましたけどオなんて。
 あ・・・けっこう言うかもオ」
「んで、センセはどっち?」

「どっちって、蹴りを入れたい方か?」
「なんでカットして蹴りを入れられるんですか、お金払って」
「金を貰ったら、カツアゲやで」

「とにかく、どっちですか。センセのお気に入りは?」
「気に入るか?って言われてもなー。それなら、どっちが気に障る?に質問を変えるか」
「んじゃあ、質問を変えて。どっちがタイプう?」

「そんなん罰ゲームやで。イヤ、拷問か折檻にしとこ」
「見た目で、どっちがタイプか聞くだけでですかア」
「そう言う質問は、ポチのウンチと権之助のウンチじゃどっちが臭いか?みたいなモン」

「そう言われると。ダックス犬の背比べ、アリンコの歩幅比べみたいな」
「もう結構ですッ!んじゃあ、この褥瘡の写真。どっちが上手く撮れてますウ?」
「オバカでも写せるデジカメを、ここまでハゲシク使いこなせないなんて」

「こっちの方が良いと思いません?あたしが撮影したんですけど」
「こっちはピンぼけ、そっちはイランあんたが邪魔して暗い」
「んじゃあ、それは?」

「こ、これはUFOか?凄いやないか、何処で撮影したんか」
「患者さんの腰ですけどオ、病棟の3万37号室」
「とうとうここまでUFOが攻めてきたか、地球防衛軍を呼べ」

「センセ、もしかしてバカにしてるっしょ」
「サッシが良いのは、良い察し。被写界深度って知ってるか?」
「深い海の底まで行くヤツでしょ。そんなんジョーシキ」

「それ非ジョーシキ。被写体がくっきり撮影可能な距離みたいなもんなんよ。
 それを外すと、段々画像がボケるワケ。あんたの将来を見るような」
「でもセンセが撮影したヤツは、褥瘡の底までくっきり」

「レンズがちゃいます。カメラ本体もな」
「なーんだ。足の長さと脳みそは、撮影の出来に関係ないんだ。やっぱねー。
 写真の出来って、腕よりカメラの出来っしょ?」

 どっちかと言えば、MIHIセンセ本体を誉めて貰いたかった午後。

第647話 主任の似顔絵

「あのさ、ちょっと聞くんじゃけど。夜勤明けの眠気覚まし用に、貼ってあるわけね」
「居眠り運転の守り札みたいなモン、貼ってませんよ」
「あれよあれ、気味悪りい絵」

 MIHIセンセが指さす方を見た、ナースR。
「あれって、誰か分かりません?」
「んー、先ずは。鼻が低いから東洋人じゃね。眼が細いから北方系と」

「じれったいわア。センセ、見たことあるでしょ」
「ホラー映画とか、怪談もので?北国の、風邪ひき鼻垂らし雪女?」
「んじゃなくて、身近に」

「幽霊の知り合いは、3人しか居らんで」
「3人もいるんですかッ!」
「座敷童君、ABCの3人。真夜中に、当直室に遊びに来るけど」

「座敷童って幽霊ですか?」
「知らん。今度来たら、聞いとくわ、あんたら幽霊族か?って」
「主任ですよ、主任さん」

「あららー、ちょっと見えないと思ったら。とうとう別世界へ?ナムう」
「コラコラ、勝手に殺さないッ!」
「じゃあ、魔除けになった主任さん?」

「勝手に魔除けにしないッ!」
「ダーツの?」
「的でもないッ!」

「んじゃ、ナニよ?」
「似顔絵でしょッ、あたしが描いた」
「あんた、主任さんに恨みでも?ま、まさか殺意の丑の刻参り用?」

「止めて下さいよ、ミョーなこというのは」
「しゃーないなー。とうとう出番か、カリスマ似顔絵師の」
 取りあえず写真を調達せねばと思った、MIHI画伯。

 こう言う時は事務に侵入するに限るから、「あのさ、B主任さんの写真あるやろ?」。
「そらあります、名札用に」
「そのファイル貰えん?」

「ダメですよ、B主任さんにはご主人が」
「画伯としての仕事じゃから、余計な心配せんでエエ。ダーツの的にもせんし」
「画伯ねエ、じゃあ」でいただいたファイルを元に、描き散らして婦長さんにご披露。

「んー、ちょっと可愛すぎない(語尾上げで)」
「んでも、あれよりか似とらん?」
「まあまあですね」の評価を得て、壁に2枚貼られたイラストを見比べる私。

第646話サービス

「ちょっとヒマやねー、あと3000人は外来受付OKやけど」
「そう言う妄想は、お止め下さいませ」
「んじゃ、門のところで呼び込みでもしちゃう?らっしゃい、今なら笑い放題。
 注射は2割引、血イの検査は大出血の3割引イ。みたいな」

「お馬鹿なことを言わないで。Pさーん、どうぞオ」
「おお、Pさん。元気イ」
「元気じゃったら、こんなとこ来んやろ」

「確かに、死にそうだったら歩いちゃ来られん」
「ワシはもう95じゃから、死にそうになったら焼き場に行くわ。手っ取り早く」
「そこまでいわれると、線香でも1本。ここで、火イ付けようか?」

「そこまでサービスせんでエエ、病院が線香臭いのはイカン」
「遠慮センでエエのに。んじゃ、診察しよか」
「ワシ、他の医者にも通っとるんじゃけど。5軒、グルグル」

「2週間に1回。5軒廻るだけで、エエ運動になるやろ。それが元気の秘結か?」
「聴診器当ててくれるの、MIHIセンセだけじゃ。でも、ちゃんと聞いとるんかノ?」
「まあ、ワシの場合。診察はサービスのうちじゃから」

「確かに、散髪屋でも刈った後マッサージしてくれるしノ」
「ワシんとこは、血イ抜いたりレントゲン浴びせたり。色んなオマケもつくで」
「そっちはサービスじゃないんか?」

「ダメダメ、あっちは材料費がかかるから。んでも、ワシの診察は材料費無しイ」
「MIHIセンセがデコチンに汗かいて、ちょっと腹が減るくらいじゃモンなー」
「それには材料費がいるで」

「それは、センセの給料から出しゃエエ」
「んじゃOKっすよ。Pさん、お薬出しとくね」

「今日は10日分でエエ。時々忘れて、余っとるから。他のとこは、これ通じん。
 なんぼ余っとる言うとんのに。ハンコ押したみたいに、きっちり1ヶ月分くれる。
 H総合病院の整形は、診察10秒薬3ヶ月分じゃ」

「ワシは、サービスで10日分にしとくかんね」
「それもサービスのうちか、やっぱしノ」

 Pさん、ミョーなところで納得して撤収する朝。

第645話 ボクのと違うなー

「センセ。Pさんって、僧帽弁閉鎖不全症ですよね?ザーザー言ってるもん」
「聴診器を使って心音を聞いたことは評価するけど、ボクのと違うなー」
「その台詞、気に入らないけど。じゃあ、ナニ?」

「大動脈弁狭窄症なんだよなー、Pさんは」
「そっかア、あっちか」
「しかし、ナースとして心音を聞こうと言う姿勢が素晴らしい。あとは根性も直せば」

「”も”じゃないでしょッ。”を”でしょッ。多少ひん曲がっってんのは、根性だけエ」
「ボクのと違うなー、直すところが1つしかないと思ってるところが」
「まあ良いですわ、心音を教えて貰ったお礼に太っ腹で許しましょう」

「じゃあ、そう言うことで。メタボ腹を腹抱えて笑って。拙僧は先を急ぐ故、ナムう」
「ナニ言ってんですか、煩悩まみれのクセに。単純明快ッ」
「ワルになれない、ボクなんよ」

「ところで、センセ。*曜日の9時頃って、ナニしてます?」
「まあグータラしながら、グータラしてるな。んでもって、グータラ」
「グータラ以外には?」

「読書しながら、TV眺めてグータラ」
「やっぱ、ねー。センセそのTV、こんな台詞出るっしょ?オレと違うなー、みたいな」

「検死官ッ!、R刑事は自殺と断定してますッ。つーと言うんよ、オレと違うなーって。
 脳天に出刃が刺さって、荒縄で首締められて。アーモンドの臭うけど、毒容器がない。
 これで自殺って断定するんなら、オレのと違うなー。そう言うヤツ」

「段々アホらしくなってきましたわ」
「そこは、ボクと一緒やなー」

 違ったり同じだったりの、午後。

第644話 想像覚醒ぱ(ちゅうとはんぱ)

 スキップでラウンドしつつ、通りかかるステーション前。
「あ、MIHIセンセえー。しばしお待ちをー」
「ま、待て。先を急ぐウ」

「コラコラ、待てエー。おろ?何処何処。あー見っけ」
「コラあ、止まってもうたやないか。何でトイレまで、追ってくるかなア」
「キャー、ヤダ。ここって、トイレじゃないですかッ」

「何がキャーや。シッシッ、あっち行け。シッシッ」
「あー、危なかった。手は洗ったんでしょうね」のステーション。
「ワシの方が危ないわ。あんた、ああ言うの趣味か?」

「ハイ、電信柱の陰からじとーっと・・・んじゃなくて。喘息のTさんですけどオ」
「Tさんて?た行で似たような名前なら、高天原さんか?それとも天津飯さんか?」
「そんな患者さん、いらっしゃいませんッ!」

「Tさんは、何時からワシが担当に?」
「あ、違ってましたア。ヤダあ。でも主治医が出張で、ちょうど良かった」
「丁度良くないッ!ここは何処、あんた猪八戒?」

「ナニ言ってんですか、あたしはノリカ」
「死んだフリしよ。次の会議も、冬眠じゃ」
「センセだけでしょ、会議で寝てんのは」

「そらそう。あんな生産性の無いモン、時給の無駄遣い」
「ハイハイ」
「Pセンセは麻酔銃撃を打ち込まれたカバみたいに、大口開けて・・・あ!死んでた?」

「さっき歩いていたから、寝てたんでしょッ」
「Gセンセは、時々アーモンド臭がして。全身硬直してるからなー、凄いわあの技。
 もしかして、青酸カリ・ドロップ舐めてるんかも知れん」

「それって、絶命やん」
「麻酔中みたいな、絶命みたいな。凄ーく、中途半端な会議イ」
「どんな会議ですかッ!」

「眠気覚ましに、ワシがいきなり大声出して。テーブルひっくり返すヤツ」
「そんな中途半端なことしないで、バズーカ2,3発か。地雷原っぱで、モグラ叩きか」

 想像しただけで目が覚めてきた、中途半端な午後。

第643話 夏の寒がりA君

「センセ、風邪薬をオネガイ出来ません?」
「今、オネガイされたくない気分」
「じゃあ何時なら?」

「3年後には、多少気分が変わって」
「とっとと、おいで下さいッ!」
「ふあーい」で処方箋を書く。

「んで、何でそう言う気分なんですウ」
「今日は暑いし湿気は多いし、誰も居ない医局はシロクマ君プルプル鳥肌温度」
「まさか、それで扇風機とか?」

「ワシのストーカーか?扇風機の風が腕に当たって、チクチク痛冷えや」
「センセは、温度に関しては分かりやすいから」
「あー、なんか体が温まってきた。脳みそが、鈍ってきた感じイ」

「ウソでしょ、もともと全身が鈍ってるクセに」
「低温度環境で頭脳労働やね、やっぱ」
「あ、今夜も座敷童が来るんでしょ?3人も」

「イヤ、当直室もエアコン付けて寝るから。寒がりのAとCは来んね」
「センセ、3人それぞれ顔が違うんですか?」
「殆ど同じやけど、ホクロが違う」

「どう違うんですウ?」
「先ずは、数じゃね。A君は1個。ところがB君は大違い」
「ちょっと待ったア。300個とかじゃ?」

「イエイエ、3個」
「あらまっ、フツーの返し」
「C君が、期待通り3万8千637」

「やっぱ来るものが来たって感じイ、それじゃあ顔はホクロだらけ」
「そういう言い方もある」
「それしかないッ!」

「んでも、位置も違うんやで」
「マジックでホクロの位置を変えて、3回来るとか?」
「んなーるほど、そう言う手があったか!来たら、ワイヤ・ブラシで擦ったろ」
「そんなことしたら、だーれも来なくなりますよ」

「それも寂しいし、でも3人来るとうるさいし。今夜は、エアコン23度設定で行こ」
「じゃあ、B君だけですね」
「しょうゆーこと!」

 座敷童君が認知され始めた翌朝、思い出せば入眠前に温度設定25度のせいか。
遊びに来たのは、真夜中1:30登場の寒がり座敷童A君じゃった。

第642話 こわばるワケ

「ねえ、ねえ。無理せんことよ、何かあったら直ぐ言ってね」
体調を崩して復帰したナースに気を使っている婦長さん。
「ハイ、大丈夫です」

「あのー、ワシってウエストが小さくナランのやけど。休んでエエやろか?」
「ウエストは努力あるのみ。ダイエット無しでは、どうにもなりませんッ!休まないッ」
「ふあーい、もうちょっと優しく言って欲しいね」

「優しく言ったら、調子に乗ってつけ上がるでしょッ。んなことより、あたし。あのー」
「歳なら73才」
「既に、あたしは定年ですかッ」

「んじゃ、ナニよ」
「リウマチとかじゃないでしょうか?両手がこわばって腫れて、節々が痛いしイ」
「リウマチって、あのか弱くて控えめな人がなるビョーキ?」

「ヘッ、そうなんだ。じゃあ、ゼッタイあたしリウマチにして下さい」
「んじゃから。リウマチじゃなくて、農作業による関節疲労」
「それもあるけど、ホレ浮腫んで」

「浮腫むと言うよりも、脂が充満して腫れてる感じイ」
「はっきり言って下さいよ。MIHIセンセと同じメタボって」
「ワシと一緒にして貰いたくないね、んで手を握って」

「何で好きでもないセンセの手を、握るんですか」
「じゃなくて、グーしてみて」
「指の皮膚を摘んで・・・あ、摘めるわ。摘めなくて、関節痛があって女性と来れば。
 さて、ここでクエスチョン。取りあえず、ナニを考えるでしょうか?」

「肥満ッ!」いきなり参入するメタボナースC。
「ちょ、ちょっと。1番にそれは如何なモノかと」
「じゃあ、2番で肥満」

「PSSでしょ、まずは膠原病の」
「んで次が、肥満?」
「あんたに言われたくないわ、肥満肥満って」

 肥満の話で和やかに顔がこわばる、ナースC。

第641話 せっかち

「モーニン、相変わらずの立派な背脂ッ!」
ポンと叩いた肩のナースが振り向けば、グッと睨んでる。
「あ、スイマセン。あんた誰?」

「あー、センセ。Hさんと間違えたんでしょ?」の介護士R。
「そうなんよ、髪型も着色も。体型も、ウリ3つみたいな」
「新人のZです、お早うございます。MIHIセンセですね」

「やっぱ分かるワケね、キムタク似ならワシって」
「イエ、けしてそのような。拓也様に失礼なことは、ジョーダンでもいたしません」
「それって、ワシにはちょいとダメージか」

「Hさんから聞いてます、MIHIセンセのこと」
「ブラピとウリ5つとか?」
「ゼンゼン、皆目。うりゼロ」

「じゃあ、ナニよ?早く言って欲しいモンだね−」
「ここはじっくり攻めましょか?」
「ワシって、せっかちだから。誉められるのは素早く、悪口雑言は後回しが好きッ!」

「そう言うのって、せっかちとは関係ないような・・・」
「ムカデが100本の足を必死で動かして汗バッかかいて、進むのはスローみたいな」
「せっかちのことはどうでもエエから、ワシの評価は?」

「せっかちで人の話を聞かずに、自分のことバッか言うセンセだって」
「それだけで、ゼンブ?」
「イエ、あと300ほど。みっちり」
「忘れなさい、全て。貴方の脳みそ、真っ白ツルンツルンに」を残して、せっかちに撤収。

 口汚しにケースに入れたチョコブロックは、気温の上昇と共に形を留めなくなりそうで。
持ち帰る時に出くわしたのが、茶ラブの哲っちゃん1匹お留守番。

「哲、早うおいで。さっさとおいで」
「んもー、そんなにせかさんでもエエでしょッ!せっかちなんだからもー。ワフーう」
「おばちゃん居らんやろ、チャンスや」

「あー。チョ、チョコやんか。ワウワウウウウ・・・。ったく、泣けてくるねエ。
 確かに犬には毒って言うけど、ジギタリスだって多けりゃ毒でちょっとは薬。
 あたしの場合はチョコは多けりゃエネルギー、ちょっとは不満。ワフッ」

「んーと、とろけだしてセロファンが剥けないやんか」手元モゾモゾMIHIセンセ。
「早う早う、おばちゃんが帰ってきたみたい。セロファンごと行っちゃっても、エエよ」
「あ、今日はア。お仕事帰りですかア」

「あらまッ、哲。何か美味しいモノをいただいて、いつもスイマセンね−」
「ウックン、飲んじゃった。味わうヒマなかったア、ワフーう」
「んじゃ、哲。また明日なッ、ワシってサクサク忙しいんじゃ。
 ナンか、コーモン緩んできたけど。やっぱチョコ毒(語尾上げで)」

 チョコ入りケースを後ろにせっかち隠す、帰り道。

第640話 申送聞で(むだやで)

 何時聞いても無駄話としか思えない、毎朝全員集合申し送り大会。
「そんなん関係ないやん、能率悪りいし。おばちゃんのいどばた会議じゃあるまいし。
 野良猫でももっとましなこと話してるんとちゃうか?猫語知らんけど」と言いたくなる。

 3つ申し送るのに脱線が多いから、20もあるとやたら盛り上がってなかなか終わらない。
「あのさ、この学生さんは無駄話は聞かんでエエやろ。ベッドサイドに行かせたら?」
「あ、まだ居たの」

「まだ居たかは、ねーんでネエか」
「こういう看護婦さんにナランようにネ」
「ハイ、そうします。失礼しまーす」

「素直だねー、初々しいねー。その点、あーヤダヤダ」
「ちょ、ちょっとセンセ。ナニの、何処がヤダなんですか?」
「その申し送る真っ赤な口紅がヤダ。必要以上に盛り上がって、耳障りなデカ声がヤダ」

「朝っぱらから、文句言い放題のセンセがヤダ」
「ところで、あの能率の悪い申し送りはどうにかナランもんかね?」
「どうにかって?」

「いちいち名前を挙げて、異常なしって言うんなら。異常の人だけ、30文字以内で言うて。
 後は、この人達以外は異常なしッ!で済むやろ。夜中にナースコールを何回押したとか。
 だれそれが布団かぶってお菓子食べてたとか。無駄に、耳の筋肉を鍛えとるか?
 あんたらの脳みそ、筋肉か?」

「しゃーないわ、反省して明日から変えるウ?ムカつくウ、脳みそで殴っちゃろかしら」
「そうそう、サルでもゲジゲジでもする反省。どんどん行っちゃって、行っちゃって」
「それじゃナンですか、あたしらゲジゲジ以下ですかッ!」
「それを言っちゃあ、ゲジゲジが泣くやろ。彼らにだって、プライドはあるモンなー」

 岩やら槍やらが飛んできそうな、ラウンドを終えた朝。

第63話 あたしの傷

「あらまー、センセ。その腕の傷、先週から2つ増えてません?」
「ワシのこと、そんなに気にしくれて。不快に嬉しいけど、惚れちゃ嫌ッ!」
「悪いジョーダン、お止し遊ばせ。目の前に出されりゃ、イヤでも目に付く腕の傷」

「まあ、そんな些細なことはエエとして。この傷を語ると3年はかかるけど、聞く?
 あ、ゼッタイ聞きたくない。結構笑えるけどなー」
「じゃあ、仕方がないから。ホンのサワリだけ、歌で言ったらサビみたいな」

「まあ、簡単に言ったら。デイリで名誉の負傷」
「デイリって、通帳とかの?」
「そら出し入れ。似てるけど、血イ見るところがゼンゼン違うやろ」

「あたしんチなんか、出し入れで主人と血イ見ますわよ。3日に1回くらいですけど。
 何に使ったら、貯金残高がこうなるのッ!、キーッとか言って」
「旦那は苦労が耐えんなー、ウウ。可哀想、あんたに出会ったのが身の不運。運の尽き」

「んで、相手は?デイリの。野良猫とか野良ブタとか?」
「トラちゃん組のヤツらに・・・じゃなくて。強いて言えば、庭のバラ組かな?」
「もしかして、薔薇のトゲ?」

「そう言う言い方もある」
「それしかないッ!」
「簡単に言えば、バラの間の雑草を引っこ抜く時のデイリなんよ」

「デイリじゃないでしょッ。どーせなかなか抜けなくて、思いっきり引っ張ったら。
 突然抜けた雑草に勢いづいて、両腕をトゲでケガしたり。すっころんだり。
 タブン膝の辺りをすりむくか、あざでも作って」

「あんたはワシのストーカーかッ!電柱の蔭からすっかり見たな?
 見回した時は、ジッちゃん1人しか気付かなかったけど。あれって、あんたの変装?」
「そんな悪趣味な。引っこ抜いた雑草はウッギャーとか言って、放り投げたでしょ?」

「やっぱあのジッちゃんは、あんたの変装か?」
「デコチンの汗と一緒に、雑草1本ポーンと空へ舞い上がったとか?」」
「やっぱ、ストーカーか?怖いイー」

「そんなことはどうでも良いから、仕事ッ!」
 とうとう我慢が出来なくなった婦長さんにイエローカードを出され、向かうラウンド。

 週末の庭作業で作った腕の傷3つ、理由のパターン変えなきゃと思う午後。

第638話 自作千社札

「ワウッ、そこを通りかかるのはMIHIセンセ。茶ラブの哲っちゃんに、何か無い?
 ほれ、哲っちゃんの前を通りましたよ−。これツマランもんですが・・・なんてワウ」
「ナニ言うてんの、通った証にデコピンでもしたろか?」

「それを言うと、バチなんかがあたるわけね。もともとMIHIセンセは罰当たり。
 信心深いオヤジなら、お寺さんとかお参りをして。来たよーって、貼るヤツ。
 んーと、そう!千社札。クッキーかキャンデー。チョコ千社札なんか大歓迎、ワフッ」

 先日、ホタル見物の時間調整で手に入れたシール製作用紙。
自分の似顔絵と所属に名前を書き込んで、A4サイズで1シート44枚の千社札が完成。
とうとうデビューとなった今夜の講演会、シールを貼るのが今夜のメインみたいな。

 20分も早く着いて、トイレへ行けば先輩座長のOセンセ。
「あ、しぇんぱいイー」
「おろ、MIHIセンセ。えろう遠いところへ」
「いえね。医局にビラが貼ってあって、Oセンセが座長らしいと」
「頼まれると断れないタチだから」

「とうとうドサ周りを始めた?ってんで、ちょっと冷やかしに」
「ふんとにモー」
「んじゃ、後ほど」で受付。

「あ、センセ。良お忙しいのにおいでいただきまして、どーせヒマでしょ」担当MRさん。
「どうもー、何処にマーキングすりゃエエんかいね?」
「犬の散歩じゃないんですから、ここここ。この辺りに、オネガイ出来れば」

「ここね、こっちじゃ?それともあっちは?」
「あっちは、別の宴会ですッ!」
「講演会より宴会の方が好きなんじゃけどオ」

「オネガイしますッ、こっちですッ」
「じゃあ、ハイッと」
「あらら、笑えるセンセの似顔絵と名前。何ですウ、コレ?」

「講演会に来たよッ!って言う、マーキングの札やね。人呼んで、千社札」
「ここはお寺じゃないんですけどオ、まっ良いか」
 聞きに来た方々は既にホールに吸い込まれて、静寂の限りを尽くす入り口。

「私、MR歴25年ですけど。こんなん初めて。ちょっとみんな、コレ見てコレ」
ざわつく受付を尻目にドアを開ければ、既に講演は1/3進んで。
これで30分早く消えたら、1時間もかけて何しに来たんだか?

 自作千社札デビューすれば、いつでも脱走の出口付近。

第637話 ちょっとオネガイだけ

「センセ。ちょっとだけオネガイがあるんですけど、個人的に」
「スマン。金と恋愛は、わしゃ苦手」
「そんな大事なこと、センセにオネガイするはず無いでしょッ!」

「じゃあ、何よ?」
「この心電図のこの波は、Pですか。それとも」
「心電図のゴミとか、気の持ちよう心の乱れでもないけど。Uでもないから、やっぱP」

「んじゃあ・・・んーと」と、ちょいとマニアックな話に及んで。
「なんか、頭が痛くなって来ましたわ」
「なんかワシも、酒が飲みたくなりましたわ。ノンアルコールの」

「センセ。こっちもちょっとオネガイがあるんですけど」
「んだから、お金はアカンって」
「センセ、ビンボーのフリしてません?」

「ワシ、財布持つことあんまり無いモンなー。缶コーヒーも魔法で、ゴロリン」
「それって犯罪じゃ?」
「ジョーダンやがね。ワシが使える魔法は、ジッちゃんとバッちゃん相手だけエ」

「それって魔法じゃなくて、天然の詐欺?」
「イエイエ、愛の魔法使いと呼んでね」
「悪魔の魔法使いでしょッ!」

「ほんで、オネガイ?」
「サインを」
「ローンの肩代わりのサインはアカン。タヌキか狐か、小銭持ってる親戚に頼んでね。
 拙者先を急ぐゆえ。そう言うことで、さらばじゃ」

「お達者でエー。あ、指示簿に点滴の記入。ただそれだけなのにイ」
「なんやそんなことかいな、ほれ点滴1万3765本っと。軽い軽い。
 あんたのケツか、ダチョウの羽毛布団。ついでに、1万の前に3付け足すか」

「コラコラ、ミョーな指示・・・あ、3日間ですね。んならそうと」
「まあ男は愛嬌、女は背脂って言うやろ?」
「そんなこと言うんは、センセだけですッ!」

 タブンちょとだけ叱られた、午後。

第636話 お節介

「経管栄養の注入速度速いんちゃうか?ワシが全部、真っ当に直しておいたけど」
「お節介なことで。調節のロール圧と管の抵抗が変わるから、調整しようと思ってたのに。
 相変わらずの、早朝迷惑回診ッ。先が短いから、1日をたっぷり使いたいワケね?」

 病棟の廊下が賑わい出す頃に、医局へ戻り。
冷え切ったコーヒーは苦さが一段と増すな!と、呟きながら身繕い。
カップに残っていた、コーヒー啜ると外来が始まる。

「センセ。これ、癌じゃろ?私、死ぬかも知れん」
「Zさん、これは脂の塊じゃ。これじゃあ、スマンが死ねん」
「それと、腰が痛いんで湿布とローション。たっぷりな」

「分かった、3年分出しとこ」
「嫁に担いで貰うから、10年分でもエエで」
「湿布が無くなる前に、んーと。計算したら、100才を超えるやんか」
「イラン計算せんでエエ、余計なお節介じゃ、余ったら息子に回す」

「んじゃ、色んなモン出しとくから。お大事にイっと」
「ババは、早よう消えろってことじゃな」
 当分大丈夫なZさんを送り出して、ラウンドへ。

「あー、またア。ナンでプリンターのスイッチを切るかなアー」
「ナンでパソコンのスイッチが入ってないのに、プリンタのスイッチONかなー」
「その後は、マータイさんにチクっちゃうぞ!でしょ?」

「あのさア、心臓病になったデブは長生きするって(注)。知ってた?あ、知らない」
「んじゃあたしは短命だわ、美白・ほっそり・目鼻筋すっきりだもの。はアー」
「あんたんち。昨日の晩飯は、ギョウザやろ?」

「キャー、ストーカー」
「キャー、ニンニクの臭い。わしゃ吸血鬼とちゃうで、ハイ団扇でバサバサ」
「大きなお世話、小さなお節介」
 お節介の多い朝。

(注)C.J.Lavie博士の「肥満パラドックス」。
「肥満は心疾患リスクおよび死亡リスクを大幅に増大させるが、
高血圧、冠動脈の閉塞、末梢動脈障害をいったん発症すると、
肥満の患者は痩せた患者よりも経過が良好である(米国心臓病学会誌5月26日号)。
 肥満の心疾患患者に、減量させる必要はないというのではない。
肥満の人は疲労感や呼吸困難などの症状のために早期に医師の診察を受け、
疾患を早期治療ができる?また、体重のある人ほど疾患と闘うエネルギーの
蓄えが大きい?さらに、肥満の人はそもそも肥満でなければ心疾患を
発症しなかったはずだが、やせた人が心疾患に罹患するのは別の理由が
あるため重症になる可能性が高い?−−−ホンマかいな!

第635話 ストレスの指標

「お疲れ様でーす。あ、疲れるっちゃ。ねえねえ、昨日のTV見たア?」
「見た見た、出刃包丁をヘソの辺りにブスッと来て。グリグリするヤツでしょ?
 キャー、痛かろうねー。あそこまでグリグリすると疲れる」

「あんたどんな番組見てんの。まさか、ダンナで実行しようと思って?」
「キャー。手始めに、寝てる間に爪楊枝でメタボ腹突っついちゃおうかしら。
 楽しみが増えたわ、グフッ」

「んじゃなくて、ストレスや疲労が溜まると唾液に増えるんて」
「臭いが?」
「じゃなくて、ヘルペスウイルス。だから疲れが溜まると、口の周りに出るんて」

「臭いやつが?」
「臭い話題から離れてくれん、ヘルペスよ」
「臭いヘルペスねッ!」

「あんたのくっさい口が、どうしたんね?」カルテを書き終えた私参入。
「ストレスで臭い。じゃなくてヘルペスが、どどーんと増えるんですって。唾液に」
「んじゃ、牛は大変やろな−。しょっちゅう涎ダラダラ、ヘルペスたらし放題」

「牛って、ストレスあるんですか?」
「牛だって、あるやろ。隣のPちゃん昨日の朝から見えんけど、今度はワシか?
 MIHIセンセに食われる前に、生ビール死ぬほど飲みたいねー。モーウ、みたいな」

「センセは、牛語が話せるんですか?みたいな」
「何処の病棟へ行くとワシのストレスがスンゲー増えるか、研究せなアカンなー。
 ラウンドしてステーション出る前と後で、唾液検査やね。ヘルペスの」

「あたし達の病棟、ゼッタイ1位!を目指しますわ。んで、1位になったら金一封とか?」
「ハイハイ。そうやってワシを虐めてストレスかければ、エエ気分やろなー。
 あんたらなんか、ヘルペスがグングン減って菌交代現象。脳みそに、白癬菌ブリブリ」

「ストレスのはけ口がどんだけか?、脳みその白癬菌量が指標になる!みたいな」
「やっぱここのストレスが一番やね、比べる必要ないワ」を残して撤収する朝。

第634話 「んなア」

 30m先、廊下の曲がり角から現れた白く丸い物体。
何処からどう見ても、退職半年ぶりに見るブー1号。
「おおう、元気じゃったか!おろ、もしかしてぽっちゃり痩せた?」

「キャーヤダ、あたしって着痩せするタイプう?」
「服のセイね、なーる。確かに、UFO模様に目を取られて。メタボを見落とすかもオ」
「このワンピース、水玉模様ですッ!」

「あらまッ。丸が、横に引っ張られてるだけか」
「センセも、横に引っ張られて縦に縮んだ?」
「まあ、そういう言い方もある」
「んなア」を聞きつつ、ラウンドへ向かう。

「モーニン」でステーションに侵入すると私を見ずに。
「お疲れ様ですッ」
「お疲れ様でーす」

「でーす」の大合唱に。
「あんたら、です族か?」

「あのさ、お疲れ様って会う度に言われると。10万馬力の9割、放電しそうな気になる。
 それって、どうにかナランの?」
「どうにかって。ヘソとコンセントを針金で繋ぎましょうか?充電みたいな」

「そら充電じゃなくて、感電や」
「たった1文字しか違わないでしょッ!」
「んなア」を残して、病室へ。

「あらま、Gさん。元気か?」
「元気やないで、入院してもう1ヶ月じゃ。ボツボツ帰ろか」
「まあ、そう言わず。2,3年ゆっくりして行きなさいよ」
「んなア」とGさんに言わせて、部屋移動。

 「んなア」の多い、朝。

第633話 医師の足し算と引き算

「センセ。ホントにPさんのお薬あれで良いんですか、ホントのホントにイ?」
「お女中、Pさんに何を所望じゃ?」
「あたし疲れていませんけどオ」

「そら消耗じゃッ!メタボ減量と鼻を高くするんと、曲がった根性真っ直ぐにする以外ッ。
 何が欲しいんか?って聞いてんの」
「あたしに足りないモノと言えば、んーと・・・。ダンナと子供への期待かなー」

「んで、Pさんの薬じゃけど。あれでエエんよ」
「前の病院で13種類飲んでた薬が、MIHIセンセにかかるとたった3種類とは」
「あと3日もしたら絶好調で、小走りスキップかもよ」

「残ったお薬は?」
「ゴミい」
「捨てるんですか、ホントに」

「勿体ないと思ったら、死ぬ気であんた一気飲みする?」
「んなおバカな」

「最近、薬を足し算しか出来ん医者が多いじゃろ?ワシなんか、足す引く縦横無尽。
 かけたり割るのも出来るけど、あんたの歳と体重をかけてみる?」

「そんなモンかけてどうするんですか、割っちゃって下さい。すっぱりと」
「あ、そんでPさん。200キロカロリー足してね、栄養」
「そうそう、Pさん。薬が減ったら、お腹が減るって言ってましたモンねー」

「寝る前に、焼酎ロックか缶ビール1本か。お銚子1合ほど足してあげてもエエけど。
 ツマミは焙ったイカでエエーっと。雨雨フレフレ、もっと飲めエかア」
「ダメですッ!雨も降らなくて結構ッ」

「Pさん、すっごく喜ぶかも知れんで。涙ザザ降りで」
「それで喜ぶのは、センセだけですッ!」
「こう見えても、禁酒暦すなわちアルコールから身を引いて5年オーバー」

「あたしは、アルコール暦に身を押して?*年」
「婦長さーん。ナースK、スンゲーさば読んでますよー。ヤシ(インチキ)なんだア」

 *年に18を足すべきとハゲシク思う、午後。

第632話 ボク疲れてスキップ

「あのさ、実習の学生さんが来るといつも思うんよ」
「あたしも思いますウ。あの頃あたしも初々しく、可憐で汚れを知らぬドクダミの花」
「嗚呼、それが。汚れちまったボケの花?」

「んで、センセは何を思うわけ?」
「彼女らに出会うと、チャンとした日本語で挨拶が出来るのに。ナンで突然?って」
「突然あらセンセ、おひさアー。お見限りイ、つねっちゃうワよとか」

「田舎の場末のバーでも、そこまで胡散臭くないやろ」
「んじゃ、ナニ?」
「あんたらは、お早うにも今日は!にも。メクラ判を押すみたいに、お疲れ様アー」

「確かに、言いますね」
「言っちゃうね。仕事をする前に、朝っぱらから疲れてどうするんジャッ!なんてな」
「確かに生活に疲れてるしイ、MIHIセンセはキレやすいしイ、あたし体重減らないしイ」

「ワシらは、お疲れ様アなんて言わんで。いつから、ナースは疲れ始めるんやろ?」
「いつからって言われても・・・」
「引率の先生に聞いたら、そう言う挨拶は教えていませんってよ」

「当たり前でしょッ。挨拶はお疲れ様アって言いましょうとかは、教科書に無いモンね」
「誰が教えるんね?もっとエエこと教えなきゃ。MIHIセンセはキムタク似とか」
「悪い冗談はお止め遊ばせ。カバに蹴られるか、野ブタの前足で引っ掻かれますわヨ」

「そう言う例えって、どの教科書に載ってるん?」
「載ってるわけ無いでしょッ。MIHIセンセに鍛えられたたまものですッ!」
「そこまで鍛えたつもりはないけど、メタボ腹三段から四段へ昇格じゃ」

 撤収する足は疲れスキップが限界の、午後。

第631話 いつもの

 姿も色も不気味で、あまり一般的に好まれないカラス。
エサを咥えて地上を移動するのを見た時は、思わず笑ってしまう。
さも嬉しそうに「うひょ、カア。こんなん見っけたモンね−」と言わんばかりに。
足を斜に構えてピョンピョンとスキップするのは、いつもの癖のようだ。

 そんなことを思いながら、当直明け早朝迷惑回診はスキップすいすい。
「あら、センセ。ご機嫌よう、すいすいスキップ。んが、短パンじゃない」

「朝晩は冷えるから、オヤジにはこたえるんよ。膝上30cmでハサミ入れて。
 チャックをチャーっと、着脱自由みたいな」
「それでこそ、いつものMIHIセンセ。んでも、聴診器の位置が違う」」

「そうなんよ、いつもは首に掛けて。時々管を持って、先っちょをクルクル振り回す」
「そうそう、ジジイのカーボーイみたいな」
「この間、某医学部元教授センセのエッセイであったんよ。石川センセってんだけど。
 現役時代に聴診器はポケットに入れるモンだと、教室員に厳しく指導したらしい」

「ナンで?」
「聴診器は、ネクタイでも首輪飾りでもなくて。仕事に使うモノだっちゅーワケ。
 まあ聴診器は、神聖なモノって言いたいんかも」
「そう言う意味じゃ、オヤジカーボーイなんて論外ですわね。いくらいつもの癖でも」

「いつも履いていた靴を買い換えた途端に、膝や腰が痛くなるってことあるやろ?」
「確かに慣れって恐いですわ」
「慣れって言えば、あんたを6年も見てくると。見慣れて、案外良いかもと思っちゃう。
 じゃなくて、オモロイかも。正面から鼻の奥が見えて、でかいホクロ3ヶに毛が2本」

「あら、ヤダ。あたし主人が1匹、子供が3人おりますから。惚れちゃイヤですよ」
「主人と子供の数え方も、いつもと同じやねー」
「あたしに対する重要度と将来性の違いでしょうか?ささ、いつものオムツ変え!」

 7時をまわる頃になると、朝食準備で賑わい出すのもいつもの通り。

第630話 ある時は当直医

「あららー。それはまた、意外な展開。驚くファッション」
「ナニがや?何処をどう見ても、足長胴短。裕次郎と呼んでエエんよ」
「裕次郎って、隣の家のダックスフントの?」

「キリンみたいなダックスフントが居ったら、噛みつくで。ガルル」
「狂犬病の予防注射、したほうがエエんちゃいますかア」
「ガルッ。んで、ナニよ?」

「あ、Pさんなんですけどオ。昨日点滴して貰ったら、余計に足が腫れて」
「んで・・・あ、胃癌で転移しまくり。可哀想ね−。んで、アルブミンが2.3じゃねー。
 血管内は脱水気味、周りは水で溢れてるんちゃうか。脈速いやろ?」

「ハイ。昨日は75だったのが、今日は90」
「スマン。ワシこの患者さん、よー治さん。でもちょっとだけ、利尿剤を使っちゃう?
 本気で治そうと思ったら、アルブミンをボンボン注射して利尿剤やけどなー」
「じゃあ、そういたしましょう」

「そう言うのガイドラインにはないんよ、お上がやったらアカンって」
「そうなんですか、困りましたわ」
「出来るだけ栄養価の高いモン食べて貰うしか無いかも。その点あんたはエエよなー」

「ナニがどうエエんですか?」
「頼みもせんのにしっかり蓄え、3年メシ食わんでもエエみたいな」
「センセにだけは、それを言われたくございませんワ」

「センセ、当直婦長からお電話です」に救われて。
「ヘ、ラジャッ」で施設入所者の診察に赴くと、目をつり上げるスタッフ。
当直医が彷徨くのは滅多にないから、スタッフと初対面のが多いせいかそれとも?

「あのー、どちら様で」
「あのさ、診ろって言われて来たんじゃけど」
「捕まえた百本足のバッタとか、単眼のトンボとか?」

「ちょっと目には昆虫採集のオヤジに見えるけど、ある時は怪しいイラストレーター。
 はたまたある時は謎の中国人、んで・・・ある時は当直医」
「あ、センセ。こっちこっち」

 MIHIセンセの声を聞いて部屋から飛び出す当直婦長。
「ヘッ、センセですかッ!私はまた・・・」
「皆まで言うでない、何処のキムタク似のオヤジかと?」

「ゼンゼン。タクヤ様とは、蛇とウナギ。イエ、下痢と便秘」
「大して変わらんやんか、ワシ時々医者やってます」
「んで、短パンですか?」

「あのね、こだわりの短パンって言ってね。VANの紺短パンに、Jプレスのベルト。
 細かい赤白チェックのBDシャツはブルックス、青春の白福助ソックス。ナイキAirmax。
 パンツとTシャツはユニクロで、お安く揃えてみましたけど」

「そんなことより、ハイハイ診察」
10分ほど診察をして点滴指示し、医局にこもればビルエバンス廻しまくり。
「やっぱ、ジャズはエエなー」、夏の人気者は呟く。

第629話取るの、抜かないの

 我々の業界も様変わりして、取らなきゃ気になる足裏米粒の博士号。
専門医とか認定医時代は、取っても大して変わり映えしないけど気になる靴中の小石。
どちらも取ったところで、いずれも名札に付けたアップリケ程度?
その中間がカサブタ、無理に取らなくても良いような。でも取ってみたい。
取った方が安心なのは、色形がヘンなホクロと相場が決まっているようで。

「ねえねえ、あんた取ってよ。抜いてエね」
「キャー、あたしが取るのオ。抜くのオ」
「キャー、痛くしないでね」

「コラコラ、ヘソ毛を抜くぐらいで騒ぐんじゃネーの」
「んなんじゃ、ありませんッ!」
「待て待て、ケツ毛なら見えないところで抜きっこしてね」

「それでもありませんッ!」
「あとは鼻毛、耳毛、メタボ3段腹毛。んーと、他の毛は・・・」
「全部違いますッ、センセは毛以外に考えられないんですか?」

「んじゃ、ナニよ。ヒゲ?」
「職員健診の採血ですウ」
「血イ取るくらいで、ごじゃごじゃ言わないッ!」

「じゃあ順番に取りますか」
「あたしの血イ、けっこう黒いんよ」
「血イの色は、性格とか根性とかを表すって言うやろ。血液占いみたいな」

「それって、血イの色とは・・・」
「あ、ホント。真っ黒!」
「やっぱなー、あんたの腹の色と同じやで」

「でもこの間MIHIセンセの採血した時も、真っ黒だったような」
「あ、あれはちゃう。濃いのよ、血イが。愛情も、細かい気遣いも、グッと濃いワケ。
 腹ん中は真っ白、雪みたいに純白だっつーの?ハイハイ、じゃあ次の方。
 前足じゃなかった、手を出してネ。取った血イの色で私が占ってしんぜよう」

「MIHIセンセの見てるとこで血イ取るのは、止めッ!調子に乗ってナニ言うかワカラン」
さっきまでの騒ぎをかき消すように、静寂が戻ったステーション。

第628話 ラポール

「あ、センセ。Rさんなんですけどオ」
「ワシの患者さんとちゃうで」
「んなこと分かってますけどオ、主治医が留守で。胸がヘンでエ、診察して欲しいって」

「聴診とは言わず、腹部触診も。全身くまなく舐めるように1時間、たっぷり」
「それより、していただきたいのはハグですわねー。ハグが似合うのは先生しか居ない」
「ハグまで到達するには、もうちょっと愛を育まないと。ラポールが足らんな」

「やっぱそうですよね−、ポンコでもそうじゃから。あ、ポンコって犬ですけど」
「この間、みんなに写真を見せびらかしとった。鼻ぺちゃ色黒のヤツやろ?」
「あれはうちの子です、人間ですッ。ウウ・・・、母親似って良く言われるのに。ウウ」

「あー、分かった。その隣のシッポが生えた。あいつが息子じゃ無かったんか、犬か」
「当たり前ですッ!そっちですッ!」
「あれはあれで、姿形は論外じゃけど。愛嬌だけはあんた似」

「言われて嬉しいような、ムカツクような」
「んで、そのポンコにハグすると暴れるワケやろ?」
「ハイ、絞め殺されるかと思って。んじゃなくてエ、ドローンとうっとり」

「そらあんた、失神しとるんちゃうか。あんたのスッピンが、目の前に飛び出せば」
「愛よりスッピンが勝ちますか、やはり。ラポールとはほど遠い?」
「ラポールは成立せんなー、37年は命を縮めるかもオ」

「ラポールって?」黙ってナースPの会話を聞いていたブー2号参入。
「相互信頼愛はラポール、指ぱっちんならポール牧」
「ワケワカランッ!」
 往年のギャグも、団塊の世代までしか通じなくなって撤収する午後。

 10年以上昔の話だが、ほぼ盲目の日舞師匠ジッちゃまはハグをするとお決まりは。
何を忘れても私の股間に手を伸ばそうとするから、離れるタイミングが難しい。
「あら、どなたでしょう。あらら、男性ですね。んー、どなただったでしょうかア」
ポッチャリ型の体型はMIHIセンセしか居ないから、既にこの時点で気がついてるのに。
惚けてるフリをしてモゾモゾし出すと、この時に幽体離脱しないと酷い目に合う。
これも患者さんと医者のラポールなのかと思えば、むげに出来ないが些か遠慮したい。

 MIHIセンセは年上(それもかなり)の患者さんや家族から、親近感を持たれるようで。
心配事の相談が患者さんなら、ベッドに腰掛けてのんびり対応することが多いのだが。
10分も話し込んでいると、気づけばお年寄りの手がMIHIセンセの手の甲をスリスリ。
話し終わって離れる前に、「じゃあ、これでエエかね?」と同時に手をギュッと握る。
この最後のギュッが良いらしく、「あたしも、それをして貰おうかしら」のお隣さん。
ドサマワリの旅役者風に、全ての客(患者さん)に愛想を振りまくのもラポールかも?

 医師と患者の間には深い溝があり、それを乗り越えた時にラポールが生まれる。

<ラポール>
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
 ラポールとは臨床心理学の用語で、セラピストとクライエントとの間の心的状態。
もとは、オーストリアの精神科医フランツ・アントン・メスメルが「動物磁気」に
感応したクライエントとの間に生じた関係を表現するために用いた語である。
その後セラピストとクライエントの間に、相互を信頼し合い、安心して自由に
振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態を表す語として用いられる
ようになった。

第617話 ボウタイのアイデンティティ

「おろ?センセ、髪切ったみたいな。毛が引っ込んだ、みたいな」
「んなおバカなことを、毛が引っ込んだら頭蓋骨が痒いやろ」
「ワケワカランッ!でも、昨日はウランちゃんみたいに毛があっち向いてホイじゃった」

「ウン。午後は代休だったんで、ちょいと切って貰ったワケよ」
「んでも、昨日は散髪屋さんの定休日でしょ。全国的に」
「少なくとも1箇所は、仕事をしてるんよ。1人頭、¥1000で」

「そんなとこへ行ってんですか」
「そんなとこって、どんなとこや?髪を刈らないときは、首を刈るとか?」
「危なくて、行けないじゃないですか。知らないで行ったら、帰りは首がないとか?」

「そう言う評判もある」
「ナイ、ナイッ!確かに、センセの頭なら庭の剪定ばさみで刈っても大して・・・」
「ワシの頭は、紅カナメの植え込みかッ!でも、どうせ直ぐ伸びるから。関係ないやろ」

「オヤジの頭なんて、誰も注目しませんモンね−」
「見られていると思ってるのは、自意識過剰なアホだけや」
「そう言えば。センセ、週末には福岡に?コンサートとか」

「そうなんよ、ボウタイが最近手に入れたヤツで。紫の地に、白の刺繍が凝ってんのや」
「もしかして、猪八戒がゴロゴロしてるとか」
「ギク、あんた何で知っとるん?」

「うっそー、三蔵法師も?やっぱチャイナ服用とか?」
「世界で一番ブタのグッズが多いのは、イギリスだけど。知ってた?
 あ、そんなことはどうでもエエ。んでな、羽が付いた空飛ぶブタの刺繍なワケ」

「何で、ブタが空を飛ぶんですか?」
「慣用句に、「Pigs might fly.」ってのがあって。そんなことありえないよ、みたいな」
「あり得ないっちゃー、この辺りでセンセ以外でボウタイしてる人居る?何で?」

「アイデンティティやな、簡単に言うと」
「アイディアなんとかって、やる前からネタがバレバレのマジシャンとか?
 いつ突っ込んで良いか分からなくなって、ボケまくる売れない漫才師みたいな?」

 アイデンテティって何だっけ?ワケワカラン、午後。

第626話 ダメじゃ

「やっぱダメじゃ」
「そうですかア、少々お待ち下さいねー」
「Mさん、どうぞオ」

「あ、センセ。やっぱダメじゃ」
「ナニがね?元気そうやんか」
「元気じゃけど、血圧計がダメじゃ」

「この間買ったばっかやろ、電池が入ってないとか?」
「この間、血圧が下がりすぎたから薬を止めたよな?」
「だって、弱い薬でも110じゃモン。要らんじゃろ?」

「家で測ったら150もあるんじゃ。女房と喧嘩の前でな」
「喧嘩の後は、ぐいぐい上がったやろ?」
「220まで一気じゃね、わしゃ女房にコロされるな」

「んなオーバーな。仲良く手を繋いで、にこにこ笑ったら下がるやろ」
「そんなことしたら、500くらい行くかも知れんなー」
「んじゃ、血圧行ってみるか・・・あらら、152。やっぱ、薬と夫婦円満やね」

「やっぱダメか。センセの顔を見たら、血圧が下がると思ったけど」
「そら無理やろ。ワシの顔見て血圧が下がったら、高血圧治療写真集を出さんとイケン。
 キムタク写真集より売れたら、どうしよ」

「安かったら、ワシ買うで」
「あたしは、ダーツの的用に買おうかしら。五寸釘とか、槍を投げたりして」
「あたしは、スンゲー悲しい時に笑えるように1冊」

「じゃあ、あたしはトイレットペーパーが切れた時用に」
「あんたのコーモンに、黄魔術で呪いをかけたるウ。黒やないで、ウ*チだけに」
「やっぱ、センセの写真じゃダメじゃ。薬を出しておくれ」

「ハイ、これで午前の外来は終了お疲れ様でーす。大してお疲れもないけど」
「MIHIジイジを労ってもらわんと、ダメじゃん」
「センセ労るなんて無駄、自分を労って腹一杯スイーツね」

 メタボ三段腹ばっか労ったらダメじゃんッ!と言いたい、朝。

愛625話 飲薬餓鬼も(いつまでもこども)

「センセ、SOS」
「とうとう沈没するか、泥舟に乗ったブー2号。弱り目に、オデキ3万個みたいな」
「ナニ言ってんですか、Zさんですよ。Zさん」

「Zさんが泥舟?いつの間に、そんなモン作ったんやろ」
「泥舟はお忘れ下さいませ。んじゃなくて、薬を飲まないって」
「そら困ったなー。鬼より恐い婦長さんが脅してもダメか?わしならチビルけど」

「良いんですね、横にいる婦長さんにチクっても」
「見逃しチくれー。んで、薬が?」
「センセが来ないと、飲まないって。薬」

「しゃーないなー、今日だけやで。酒なら毎日・・・んでも禁酒中」
「とにかく。とっとと、おいで下さいませ」
「ラジャッ」で、すっ飛んで行くと。

「イヤじゃ、飲まん」
「あ、Zさん。ナンで薬が嫌なんね?」
「イラン薬バッかり飲ませよって、苦いし」

「んでもー、飲まんと元気にナランで。たった3粒でもイヤ?」
「イヤじゃないけど、薬剤師さんが来たら飲むかも知れん」
「んじゃ、呼んでみるけど」

「じゃあ電話しに行ってきましょう、あたしが」の1分後に登場。
「ちょうどステーションに居たみたい。ラッキーじゃん」
「Zさんどうしました?あ、薬を飲みたくない」

「可愛い薬剤師さんが来たら、飲むかも?ってことになって」
「わしゃ、そんなこと言ってない。女房が来たら飲むって」
「ああた、あたしはここに」
 私、看護師、薬剤師の人垣から顔を出す奥様。

「あ、居ったか。んじゃ、自分で飲む」
「子供じゃあるまいし。良いんですよ、こんな人放っておいて。明日は来ませんから」
「分かった。飲むから、明日も来てくれ」

 男は幾つになってもガキだなと思った、午後。

第624話 こう見えても申し送り

「では、申し送り始めまーす。Wさん、血圧は128と70。Tさんの脈82異常なし。
 Bさんはオムツ7回変えました。Mさんは。あ、9876号の方ですが。排尿痛があります。
 それからAさんは、明日耳鼻科受診です。Fさんは・・・」

「しかしあんたら凄いなー。ワシ、こう見えても記憶力悪い方じゃから」
「どう見ても、そう見えますけど。記憶力とスタイルと根性と
 メチャメチャ、何処を取っても金太郎飴みたいに悪いでしょッ」

「ハイハイ。申しお送りを、どんどん続けてね」
「Pさん、異常なし。Rさんお変わりなし。Zさんは・・・。特に変わりません。
 んで、Gさんはお変わりなく。Dさんも、同じく変わりません」

「あのさ、結局はツーか。詰まるところ、殆ど変わりないってことやろ?」
「そうですけど、何処が気に入らないんですか?」
「じゃったら、異常の人だけ言うて。あとはお変わりありませんって、それで済むやろ。
 何をゴジャゴジャ、無駄な時間を削りなさい。ついでにあんたの・・・も」

「コラコラ、ついでにナンですか?はっきり仰いませ」
「言うと怒るやろ?」
「あたしが怒るようなことを、MIHIセンセは言いたいワケですか?」

「そう言うワケですけど。こう見えても、遠慮がちな性格なので」
「どう見たら、MIHIセンセが遠慮してるように見えるんですかッ!」
「右斜め59度から、両目をつぶって」

「無視して申し送り続けまーす。何処まで行ったか、ワカランようになってしもうて」
「ワシも何処まで聞いたか、ワカラン。こう見えても、注意力散漫なんじゃけど」
「センセは、お聞きにならなくて結構です」

「あー、分かった。ワシに聞かれるとまずい事を言うんじゃ。
 あー、ヤダなー。人が信じられんなー、あーヤダ」
「あたしの方は、今まで通りMIHIセンセが信じられんかもオ」
「信じるモノは救われるぞよ、般若腹出たメタボ体」を言い残して、撤収する朝。

第623話 噛みたくなる腕

「MIHIセンセ、いらっしゃいますかア−」
「1人しか、イネーよ」
「2人もいたら、はた迷惑ですッ!あーみっけ。ナンという格好を」

「医局の椅子にふんぞり返ってるワシが、八頭身の人魚に見えるか?」
「日向ぼっこしすぎて、死にそうなトドかセイウチなら見えないことも・・・」
「確かに。ここで生ビールなんかウウウグ行っちゃうと、2,3回は生き返る」

「絶命されても結構ですけど・・・。あ、それも良いけど。Pさんナンですけどオ」
「けどが、やたら多いですけどオ。ニューハーフに変身を遂げたとか?」
「んなアホな。お世話が大変なんですウ」

「ものも言いにくいし、半身麻痺があって。褥瘡が出来ないように、オネガイね」
「そう言う意味じゃなくて、大変なんですウ」
「もしかして、とうとう来るものが来たか。悪魔が来たりて笛を吹く、ピイーとか。
 それ以外なら、スッピンのあんたを見て失神するとか?それ、すんごくフツー」

「意味ワカランッ!」
「言ってるワシは、よー分かるッ!」
「蹴りを3発入れさせていただいて、よろしかったでしょうか」

「んじゃ、ナニがどうした?誰が踊った?」
「踊りませんッ!噛もうとするんです、お世話をしているとあたしの腕を」
「それは何かの勘違いじゃ、それしかないで」

「ナニと勘違いですか?まさか、ボンレスハムとか?」
「そこまでワシは言いたくても言えん。せいぜい、豚足」
「大して変わりませんッ!」

「バカ言え。調理の仕方も、味も違う」
「そう言う問題ではありませんッ!」
「そらそうよね、あんた囓っても美味くないやろ?」

「それに時々つねったり、引っ掻いたり」
「ナニが気に入らんのやろ?あんたの言動を見てると、ワシも時々囓りたくなる」
「そんなにあたしは、美味しそうですか?」

「イヤ。歯形で、お馬鹿って刻みたくなるような・・・」
「ハイハイ、あたしがバカでした。Pさんと似たような、MIHIセンセと相談したのが」
「噛みたくなるには、ワケがあるんちゃうか?その辺りをよーく考えてね」

 自分の腕を噛んだらほんのりしょっぱいナと思った、午後。

第622話 ただのモン

「センセ、福岡でコンサートだったんですって?」
「ほとばしる感性とあふれ出る気品を研ぎ澄ますためには、ワシは生。
 言うとくけど、ビールとちゃうよ。ジョッキでウグウグは禁酒中。
 CDとかレコードもエエけど、生を聴かないと鋭さが。こう、ググッと磨けんワケ」

「よー分からんけど、ググッと来るモンですか?」
「ググッとな」
「んで、やはり奥様と。逃げられんように」

「白のBDシャツにボトムはグレンチェックパンツ、紫色のボウタイで決めて」
「ただの色モンじゃん」
「違うんだよなー。うちわ、扇風機・・・んじゃなくて」

「ハイハイ、センスでしょッ。ナンでこう手間がかかるかなー」
「誉めて育ててもらうと、グイグイーンっと伸びるタイプなんだかんね」
「伸びなくてよろしいッ!ただのうざい、メタボモンじゃん」

「あ、ワシあんたらと遊んでるヒマ無かったんじゃ」
「あらお珍しい、ヒマじゃないんですか?あ、レントゲン写真をサマリー用に撮影。
 しかも大きなカメラで。あたし達なら、手のひらに載るヤツで良いのにねー」

「こだわりと言うか、凝り性と言うか、キムタク似と言うか、ブラピ似と言うか」
「持ってんでしょうねー、そう言うやたらにでかいカメラを。他にも」
「んーと、こんなんが4台かなー。交換レンズは7,8本」

「ただの道楽モンじゃん」
「そうとも言う」
「そうとしか言いようがないッ!」

 1枚のレントゲン写真を撮影し終わるまでに、構図をあれこれ考えエンジョイしまくり。
結局はソフトでトリミングが出来たから、30分を無駄にしたただのヒマモンじゃった。

第621話 心配は蜜の味

「センセ、Pさんが心配してるんですけどオ」
「朝、回診した時はメチャメチャ元気でじゃったけどなー。ナンでやろ?」
「前立腺がどうのこうのって」

「ちょちょっ、あんたPさんは女やろ。何故、男しかない前立腺?」
「お兄さんが前立腺の癌じゃったから、妹のあたしは卵巣が心配って」
「んじゃナニか、ワシがビール飲むとあんたが酔っぱらって腹踊り?」

「ワケワカランッ!」
「あんたの方が、ワケワカランッ!」
「エコーかレントゲンは要りませんか?心配をぶっ飛ばすために」

「ワシ、そう言うあんたをぶっ飛ばしたい気分」
「んじゃあ、エエんですね。検査しなくても」
「ワシ、ちょっと話を聞いてくるわ」

 聞いてみると、とっかかりはPさんの隣のWさんで。
リハビリ中にPさん担当理学療法士Jに一言、「Pさん胸が切ないって言うとった」。
「そらイカン、Pさんに言うとこ。主治医のセンセにナンか検査して貰いって」

 Jから話を聞いたPさんは、担当ナースに聞くんですね。
「なんか、検査せんでエエんか?この間血液検査をして貰ったけど、異常なしじゃった。
 どっかに異常はないモンかのー、まあ見つかってもどうするわけでもないけどノ」

「じゃあ、検査の意味が無いやん。無駄なことは、止めよや」
「そうしようや」
 で一件落着してステーション侵入した途端。

「センセ、Pさんが検査して欲しいって、仰ってたでしょ。ナニします?」
「要らん」
「はあ?ナニが要らんですか」

「Pさんの検査と、あんたのお節介」
「それと、センセのひねくれた根性」
「コラコラ、そこの二人。仕事仕事」婦長さんのレッドカードで収束。

 時としてヒマを持て余したお年寄りは、他人の心配事は大好きだし大げさにしたがる。
他人の心配はたっぷり甘い蜜の味、しばしばスタッフが振り回される。

第620話 血イの占い

 ラウンドを終えてお勉強をする場合、何をするかを決めるのはテーブルゲーム。
マウスを使って1ゲームでおよそ30秒、エイヤッと開始してスコアを見る。
ハイレベルであれば統計などの込み入った内容、低レベルなら内科書や日本語の文献。
臨床研究のプロットや英文文献は、中間レベルスコアが出た時と決めている。

 当直明けにやると、間違いなく低レベルのスコアで熟睡していないことが分かる。
占いよりは脳みその回転具合が判断出来て、ミョーな占いよりは当たるので重宝している。
私の場合だけかも知れないが、ナースの突っ込みにボケの返しのキレがすこぶる悪い。
ABO式の血液占いは家庭の医学本みたいなクダラン占いだけど、取っ付きやすさで定番?

「ねえねえ、あんたA型でしょ?気をつけなさいよオ」
「ナンで?」
「Aはねえ・・・(ここで覚えたばかりの知識を披露する)」

「んじゃ、何か。Rhとかmn式を組み合わせたヤツはないんか?オカシイやろ」
横から突っ込む私に、

「確かにプラスのmはああだこうだがあっても、エエんちゃいまかすねー」
「それに免疫をいじくる手術や薬で、血液型反応が変わることもあるのに。
 そんなん、医学サスペンスじゃジョーシキなんよね。ホンマかどうか知らんけど」

「サスペンスまで出しますか」
「んで、センセは?」
「ワシはつるしならB体。こないだのスーツはあつらえだから、キムタク型」

「んじゃなくて、血イ」
「鼻は時々ジュルッ、水戸様からはピタッと何も赤いモンは出ん」
「んじゃなくて、型」

「Bじゃけど、よろしかったでしょうか」
「キャー、ヤダ。スーツも血液も全身Bって、デブでキレやすくて。我が儘で、メタボ腹。
 その上めがねをかけて、春の終わりには短パンになっちゃうんでしょ?」

「コラコラ、そのまんまワシやないかア」
「やっぱ、血液型占いは当たるわねー」
「あんたの将来、占ってみる?」

「占いを信じて、今の主人と結婚したんですウ」
「んで?」
「それがハズレ、星占いがイケンじゃったかも。あれが血液占いなら、今頃はヨン様と」。

「血イの占いなんて、そんなの関係ねいッ!」ブツブツの午後。

第619話 ヒャッブヒはとんフル

「へ、ヒャック。ブッ」
「誰や、口から放屁したんは?」
「ナニ言ってんですか、可愛いクシャミでしょッ」

「もしかして、海外旅行帰り?」
「ハイ。四国へ」
「あそこは日本じゃ、海外は九州」

「九州は橋もトンネルもあるから、国内。四国は橋しかないから、海外」
「なんか、よー分からんなア−。じゃあ、北海道は?」
「津軽海峡冬景色、連絡船が無くなったから。国内」

「ワケワカランッ!ハイハイ。あんたが大将、ワシがシャクライ君似」
「ワケワカランッ!ハイハイ。あたしは神、センセは奴隷」

「ツマランことはさて置いて。もしかして、今流行の?」
「ファッションリーダーと、お呼びになってね」
「んじゃなくて。ブヒフルとか、とんフルやないんか?そのクシャミ」

「讃岐の豚小屋ドサマワリツアーと、オプションでモーちゃん写メ交換会が感染源?」
「讃岐のブーちゃんもモーちゃんも、訛ってなかったやろ?ワシみたいに標準語」
「センセが標準語なら、北京語は関西訛りしょ」

「ワケワカランッ!ワシって、キムフルとかブラフルかも知れん。似てるから」
「似てないから、チョフルでしょ。ヒャックショい」
「ヘッ、ヒャックチョッ。あ、猪八戒か」

 インフルもどきワケワカランクシャミが横行する、午後。

愛618話 逆にイ

「センセ。Kさんの胃瘻なんですけどオ」
「酒好きの人やから言うて、熱燗キューッと注入とかは。いくら何でもまずかろ」
「センセの場合は、キューッと首締めますネ。逆にイ、Kさんは逆流するんです」

「そらイカン。んでも、つい最近ボタンを変えてもろうたバッかやん。R病院で」
「そうですけどオ、さっきなんか胆汁みたいな」
「逆にイ、それって胃より下で通過障害おこしてるんちゃうか?」

「その逆の使い方ヘンですけど、じゃあどういう事?」
「逆じゃなく、イレウスみたいな。外科紹介するって、醤油ーこと」
「逆じゃなく、R病院へ転院ですね」
「醤油ーこと」で、紹介状を書いて転院手続きに入るとラウンドへ。

「おろ?また、あんたか!」
「キャー。もしかして、センセはあたしのストーカー?キャー」
「お馬鹿言わないでね、あんたがワシの先々に出没する。言ってみりゃ逆ストーカー」

「逆にイ、偶然を装ったあたしのプチ隠れファンみたいな」
「逆にイ、みんな逆の使い方がヘン。堂々とずーっと隠れていたい、みたいな」
「照れるな、照れるな」
「逆の逆にイ、照れてません」

 やたら「逆」が出まくった午前をこなし、午後のラウンド2。
「センセ。Dさんですけどオ、酸素飽和度が低くてもえらくなかったり。
 逆に酸素飽和度がマアマアでも、エライって仰ったり。なんでですウ?」

「Dさんは、連合弁膜症の末期でな。3年前から比べると、心臓の大きさが4割増し」
「貧血もあるし、心不全で末梢循環が悪いから酸素飽和度はあまりあてにならんのよ」
「MIHIセンセみたいに、あてにならないんですね。んで、その連合軍ってどんな?」

「ワシらの学生時代に、学生運動家で連合紫軍なんちゅうのが居たなアー。んじゃなくて。
 心臓出口の弁がググッと閉めて、血イ押し出すにはかなり頑張らんとアカンし。
 大部屋と小部屋の間のドアの具合が悪くて、逆流するんよ。分かるかなー。
 簡単に言うと、あんたが旦那の小遣いをケチって減らすやろ?」

「子供の塾通いが増えたんで。あたしの分は増やして、旦那の分は減らしましたけど」
「な、な。そうやろ。出る方はしっかり渋って、出そうとした分を逆流させて溜め放題。
 ところが、そうは問屋が卸さないローン地獄。貯金力は弱々、財力不全の末期」

「なんか、凄ーく分かりやすいっつーか。腹が立つほど、当たってるというか」
「そうやろ、そうやろ。これならあんたにも、よー分かるみたいな。流石やね、ワシ」

 連合弁膜症末期の分かりやすい説明が出来て、自画自賛。

第615話 長生きして欲しいワケ

 桜吹雪のおかげで風が吹く度に、地面のピンクの水玉模様をあっという間に変えて。
茶ラブの哲っちゃんの小屋にも訪問するから、桜の香りには慣れっこになっているようで。
辺りの空気は初夏の様相を呈し、上昇した気温は哲っちゃんの思考回路を停止させる。

「ホレ、ナニ考えてんだか。ボーッとしないで、お手。ハイ、お代わりッ」
今日のおやつはチェリーキャンデーだけに、地面のピンクの水玉に溶け込んで。
「良しッ」に、おろ?これは花びらと、んーでこれは。あ、花びら。
混乱の昼下がりも、ヤツが黄泉の国へ行っちゃって思い出ポロポロ。

 大粒の雨のように降り注ぐ桜の花びらの中を、よたよた突き進む往診車。
「ふぁーあ、だれるね−。往診止めよか?」
「いま出発したバッかでしょッ」で、なんとか最後の4軒目に到達する。

「Cさん、来たでー。元気にしとるかア」
「生きとるがな、まあお入り」
「おお相変わらず肉付きのエエことで、今日みたいな日は暑かろう」

「メタボのセンセにだけは、言われとうないわ。ガハハ」
「お互いに、夏は苦手やモンなー」
「梅雨と夏は、要らん。あ、そんなことどうでもエエ。あたしゃ長生きしそうやで」

「ナンで?糖尿はイケンし、反省もせんし。増えるのは血糖と体重、口の悪さ」
「ガハハ、そこまで言うか。んでもな、ナンでも美味しいんじゃ。じゃから長生きする」
「弱ってるのは足腰、ますます元気は口だけやもんなー。口が悪いと長生きするやろ」

「憎まれっ子、何とかってな」
「子じゃなくて、憎まれババや」
「30年前に見てもろうた手相で、80まで大丈夫って」
「あと5年か、ギリギリやなー。んでメシが美味いからあと10年じゃ、嫁迷惑やろ?」

「生きてる間は、小遣い欲しさに孫が寄ってくるから。小出しにしてやるんよ。
 小学校へ上がったら、\1000じゃイカン。奥の手を出して、結果2枚取りよる」
「知恵がついたワケよ。そのうちポケットにしまって、まだ貰ろうてないとか言われて」

「そやから、あたしゃ新聞を読んでボケ防止しとるんや。でもこんな話が出来るんはなー。
 センセだけやで、実際のとこ。長生きして、センセに儲けてもらわんとな」
「そらそうじゃ、それに孫の小遣いが減ったら可哀想じゃモンなー」

「あたしが長生きするのは、孫とセンセのためか?」
「それでも、長生き出来りゃエエじゃろ」
「んでも墓の中から小遣いはやれん、墓に往診してもろうて線香代じゃのオ」

 次に来る時までに、もっとまともな長生きの理由を考えてこようと思った帰り道。

第614話 先延ばしのワケ

「あ、センセ。飲んでますウ?」
「キューッとね。連日連夜、太鼓叩いて笛ピイーヒャララ。ノンアルを、ウグウグ」
「センセが好きってRさんが言われてましたけど、センセの何処がそんなに・・・」

「まあ、ワシってマニアックかもー。マニア垂涎の的っつーか。
 垂涎って、涎やで垂らすんは。シモの締まりが悪くて垂らすんとは・・・あ、知ってる」
「今度センセと楽しく飲まなイカンって、言ってらっしゃいましたよ」

「するってーとナニか、逆立ちして足でお酌でもしてくれるんやろか?」
「あの歳じゃちょっと・・・。センセが腹踊りしながら、ヘソでお燗を付ける方が」
「今度当直の夜に、練習しよかな?」

「時間を指定していただいて、よろしかったでしょうか?」
「指定しなくてよろしいッ」
「あたしがRさんの奥さんをお世話していると、いつも言われるんですよ。
 センセと飲むのが楽しみなんじゃけど、何時にしようかって」

「おお、こんちわ。元気かの?」
 ステーション前を通りかかったRさんに向かって声をかける。
「元気じゃないで、弱ってきた」
 杖をつく手を止めて、弱々しい笑顔を見せる。

「じゃあ、今度ゼッタイ飲まなきゃイケンなー」
「そうじゃな、生きて居ったらな」
 杖でもよたよた歩きを再開して、入院中の奥さんの部屋へ向かう。

「噂をすれば・・・、ですねー」
「そうじゃねー」
「でも、飲もうって言う話はずいぶん前から聞きますけど。何時になったら?」

「当分先の話やね」
「ナンでそうなるんです?センセ、暇だから。いつでも飲めるでしょ」
「じゃあ、花見で一杯キューッとか?」

「そうそう、それそれ。Rさんも満足でしょう。きっと」
「Rさんって、肝臓転移した癌じゃからなー。歳じゃし、それほど持つとは思えんけど。
 もし飲んだら。Rさん、次の日に死ぬんじゃないかと思うんよ。
 飲むのを先延ばしすると、死ぬのも先延ばし出来そうな気がしてな」

「じゃあ、ばあちゃんのために飲むのを先延ばしして下さいね」
「あと10年か?」
「10年でも100年でも」

 気を使ったナースZの言葉に笑えない、午後。

第613話 算数は得意

「センセ、前立腺が大きいんですか?」
「そらもうあんた、スイカなみのが2ヶ。鎮座してるけど、よろしかったかア?」
「どんなパンツをはいてるんですかッ!」

「前はゾウさん、後ろはお茶目な猪八戒の刺繍が入ったヤツ」
「だから、あたしは聞くのがイヤだって言ったのにイ。今晩、悪夢だわ」
「じゃあそう言うことで、夢でお会いしましょう。んで、ナンで前立腺?」

「センセのオシッコの回数が多いから、みんなが聞けってあたしに言うモンで」
「あ、あれね。どんより濁った外来の空気で息が詰まるから、深呼吸しに」
「トイレの空気の方がまだましだって、仰っちゃうわけですか?」

「そのように、仰っちゃうワケ」
「んじゃ、次のKさーん。どうぞオ」
「あ、センセ。息子から電話があってな」

「まあまあ。駆けつけ3杯、入ってきて血圧って言うやろ」
「まだあたしゃナンも飲んでないけど、薬は飲んだが3粒じゃ」
「んで、電話がどしたんね?」

「そうそう。んで、ばあさん生きとるか?って言うから。言うてやったんよ。
 じゃあこの電話に出てるのは、バケモンかッ!って」
「やっとるなー、そのイキじゃ」

「んで、寒くないかって聞くから。あたしのMIHIセンセなんか、直に短パンやぞって」
「ワシは関係ないやろ、今度は出演させないでね」
「んで、今が寒いと思うほど惚けちゃ居らんって言うてやった」

「息子さん、扇風機を送ってきたりして」
「そこまでイヤミな子じゃないで」
「あ、そうじゃ。この間の検査、ゼンゼン異常なしじゃった」

「じゃあ、あと100年はいけるな」
「Kさんがあと100年も生きられちゃ、息子もワシも持たんで。薬を1つ減らそ」
「ヘッ、とうとう1つになってしもうて。エエんか?隣のばあさんは10個は飲んどる」

「10個も飲んだら、体を壊す。ヘッ、朝がそれで昼が6個に晩が7個!薬が喧嘩しとる」
「んでも、*病院のセンセが飲めって。まあ3ヶ月に1つは増えるな。半分捨てるけど。
 最近は紙の袋じゃなくて、スーパーの袋みたいのにパンパンに薬じゃ。
 晩ご飯用にだけでも、スーパーであれほどは買わん」

「ワシは算数得意じゃから、特に引き算が。そのセンセは、足し算が得意なんじゃ」
「そう言うモンか?」
「そう言うモンじゃ」
「あたしゃそろばんが得意じゃけど」

 ワケワカラン算数の話で、午前の外来は終了。

第612話 重症度

「あら、センセ。さっきから、捜索の院内電話が鳴りっぱなしですわよ」
「人気モンは辛いなー、ヘッヘ」
「どうせケータイのスイッチが入ってないか、着信拒否しまくりか」

「ふぁーあ、ラウンドして来よっと」
ステーションを出るなり上着のポケットに手を突っ込み、「あらら、無いじゃん」。
他人の幸せと細かいことと同じでケータイは無視する体質だから、のーんびり回診。

「センセ、ナニか忘れてません?」
「あんたの歳は58歳、飼ってる猫の名前はブーちゃん。あ、ゲーちゃんだっけ?」
「歳は39歳、飼ってるのは犬ですッ!」

「じゃあ、ナニよ?歳、さば読みまくりイ。ホントは59歳イ」
「あそこの棚の上で、さっきからピロピロ騒ぐのはナニ?」
「あ、あれがイモに見えるなら。あんた、脳みそ検査した方がエエで」

「センセのケータイですッ!忘れ物ッ」
「あそこが気に入ってるって言うから、置いてんじゃん」
「それじゃナンですか。ケータイが、あたしここが良いわって言うんですか?」

「こいつニューハーフだから、ここに置いておくんなましイって言うの。小指立てて」
「よくもまあ、それだけぬけぬけと」
「ぬけぬけ言わせていただきましたが、ホゲホゲとも言う」

「ゼンゼン言わないッ」
「もう棚をエンジョイしたか?おお、そうかそうか。おばはんにサヨナラのご挨拶は?」
「ったくもー。センセ、デジカメは置いてるんですね」

「それは置いてない、忘れただけエ」
「なんか最近、し忘れたことを忘れるような気がしません?」
「そらあんただけ。ワシなんか、覚えとかなアカンことを忘れる程度。あんたより軽症」

 置き忘れと置いたことを記憶する忘れの重症度差がワカラン、午後。

第611話 外す

「Pさん、元気かア?」
「元気じゃったら、ここには居らん」
「おお、Dさんも元気かア?」

「おろ、何時からワシの担当になったかの?MIHIセンセは」
「勢いとか、ちょっとしたご挨拶とか。まあ、んなモンで声をかけただけエ」
「ありがとナ。センセだけじゃ、担当でもないのに挨拶するんは。大声を外せば」
「地声が大きいから、外せんなー」

 スイスイ回診して、ステーション。
「あー、丁度良いところへ」
「じゃあ、そう言うことで。さらばじゃお女中」

「これこれ、少々お待ちを!お聞きしたいことがあるんですウ」
「ワシはメタボじゃけど、着太りするタイプじゃから。ウエストはこう見えて50cm」
「どう見たら、それ50cm。100を外したんじゃ?」

「40cmしか外してないッ!」
「それより、これなんですけどオ。USBメモリを買ったんですよ」
「4GBも、いったい何を入れるんよ?こんなに大きなモンに」

「見た目は小さいけど、そんなに大きいんですか?」
「畳み10畳分ぐらいあるわな、布団なら大人3人分かな?」
「ワカランモンですね−」

「Sちゃん、MIHIセンセは話1%で聞かないと」
「んで、プロテクトとかパスワードとか説明書にごじゃごじゃ。これ無視っしょ?」
「内容によっては個人情報保護が、多少は関わってくると思うけど・・・」

「パスワード設定を外すと、どうなるんですウ?」
「あんたのパンツのゴムが、切れかかってるみたいな感じイ」
「その心は?」

「放っておくと、突然危ないことになる」
「気持ちはよーく分かるけど、何だかねーの気分」
「Sさん、リハビリから患者の呼び出しよ。ご案内してね」

「ちょっとこのままでと」でステーションから消えること10分。
「さてと。あらら、いつの間にかファイルが増えてる。んで、タイトルがアホ!?
 ナンじゃこりゃ。MIHIセンセやね、こんなイタズラをするんは」

「そう言えば、何かしとったわ。んで、なんて書いてある?」
「プロテクトしないで持ち歩くと、ウエストサイズ発表されるかも?なんて。
 恥かく前にパスワード設定するんじゃ!持ち歩くんは、院内だけにせなアカンって」

「MIHIセンセにしては、お手柔らかじゃったわね。大して被害もないし。
 プロテクトを外したら、結果どうなるかが分かりやすいし。んでも、ねー。
 プロテクトせんでも。皆知ってるわよ、あんたのウエストサイズ」
 
 渡り廊下で大ヘックショイの、午後。

第610話 被言体質

 休日当直がスタートした途端に、電話が鳴る。
「センセ、いつも外来に来られてるDさんからお電話なんですけど」
「夫婦げんかのグチは、明日聞くからって」

「あ、そうじゃなくて。お腹の具合が悪いそうで。MIHIセンセが当直って申し上げたら。
 じゃあ、かまわんから繋げって。MIHIセンセなら言いやすいって」
「エエよ」

「センセ、ワシ3日もウンチが出んで。凄く気分が悪いんじゃが」いきなり。
「じゃあ、浣腸しよか?」
「そうじゃのー、んじゃけど、センセがするんか?」

「イヤ。ワシじゃのーて、べっぴんの看護婦さんが」
「それならしてもらおう、いまから行くから。センセで良かったで、頼みやすくて」
「ごじゃごじゃ言わずに、おいで下さい」

 Dさんが浣腸してもらって、すっきりしたのを確かめてラウンド。
「あ、センセ。そこの、ノリ取って」「あいよッ」
「あー、そこにあったんだ。センセ、ハサミ、ハサミ」「あいよッ」
「コラコラ。そこのメタボ腹、引っ込めて」「あいよッ・・・ちょ、ちょっと!」

「ナニか不審な点でも?」
「不審というか、最後が気になるキムタク似のワシ」
「ゼンゼン気にしなくて良い、皆目キムタク似てないセンセ」

「ナンか気になるんだけどオ、他にも医者が居るのにナンでワシに?」
「まあ体質でしょ、ホント。同級生だからだけじゃなくて、言いやすい体質だから」
「するってーと、ナニか。あんたら全員、ワシに言いやすいワケね」

「ある意味も、そういう言い方もある」
「意味も言い方も、それしかないッ!」
「んで。ナンでセンセが勝手に作った処方箋は、ササクレしたり控えとサイズが違う?」

「まあ、センスかなー、三口で言うと」
「あと二口は何処へ行ったんですかア?」
「言いたくないッ!」

「意味ワカランッ!処方箋までひねくれモン」
「しかしセンセ、ナースにそこまで言われて。エエんですか?」介護士S君。
「真夜中に頭に蝋燭2本立てて、ブタ人形に浣腸ぶち込んでやるかんな」

「便秘だから、丁度良いかもオ」
「センセ、それでエエんですか?」
「ワシって色んなこと言われやすい、キムタク似体質じゃから。ブラピ体質とも言う」

「キモタク体質か、ブラブ体質でしょ?」
「ナンか違うような、意味ワカランような」
「キモイがたくさんで、キモタク。ブラブラひま三昧、文句は一人前ブーブーでブラブ」

「ワシって、そこまで誉められる体質なんだ!」
「ワケワカランッ!」

 言われやすい体質は改善せねばなるまいと思った、休日当直。

第609話 スイッチっちゃ、切るモン

「あーらら、センセ。あたし達は春なのに、もう夏ですか?」
「季節先取りのスイッチが入ったワケよ、キムタク似としては」
「猪八戒似としては、既に夏と」

「1万歩譲って、ブラピ似は暑がりなんよ」
「譲らなくて結構ですッ!まともなスイッチを入れるか、ミョーなスイッチを切るか」
 返す言葉もなく、ラウンドへ。

「コラコラ、どうしてスイッチを切るかなー。1時間経ったら、ヒマになるんだから。
 それから、プリンター使おうと思ったのにイ」
「じゃあ、1時間後にスイッチを入れなさい。あんたの脳みそじゃあるまいし。
 無駄な電流を、垂れ流してんじゃないッ!」

「じゃあナンですか、あたしの脳みそは無駄な電流がダラダラと?」
「そう、ダラダラと。花粉症で風邪をひいたラクダの鼻水みたいに」
「花粉症のラクダを、見たことがあるんですかッ!」

「じゃあ、聞くけど。ラクダが花粉症になったら、カバが入れ歯をするんか?」
「ワケワカランッ!」
「電気の無駄はイカンで、あんたの背脂も無駄じゃけど。んで、どっちが背中?」

「婦長さーん。MIHIセンセ、パワハラぶちかましてまっせー」
「あ、悪かった。こっちが背中ね」
「ゼンゼン前ですッ!」

「おろ?パソコンの横にこんな紙切れ。んーと、このパソコンに何かが起こったら・・・。
 な、ナニい。暇なMIHIセンセを呼べ。それでも治せなかったら、**電気へ電話」
「スイッチを切るバッかじゃ、能無しでしょ。たまには使わんと、ウジや蚊がわきます」

「うん。時々耳からプーンって、2,3匹飛び立ったりして。あんたはハエか?」
「ハイ、ぶんぶん4,5匹」
「コラコラ、そこの二人。無駄なスイッチは切って、お仕事お仕事」

 婦長さんのイエローカードで静寂を取り戻す、ステーション。

第608話 鬼心とバトル

「センセ、相談があるんじゃけど」
「あ、ワシに?言っとくけど、娘2人に奥さん1人。嫁は要らんから、見合は要らん」
「トウが立ったオヤジと見合いしようなんて、そんな物好きはオランじゃろ」

「んじゃ、金?ワシの1ヶ月の小遣い¥3000万じゃから、大して融資は出来ん」
「そこまで見栄を張らんでも、桁が違うじゃろ。家を建てるわけじゃないし」
「んじゃ、ナニよ?キムタクとブラピ、どっちに似てるって言えばワシが喜ぶとか?」

「そんなクダランことじゃなくて、帰りとうないんじゃけど」
「んだって、ずいぶん元気になったやないの。3日間点滴したら」
「1週間でエエって言うたんも知っとる。んでも、どーしても帰らなイケンか?」

「えろう歯切れが悪いけど、嫁さんと何かあったか?」
「おろろー、えらく鋭いのー。息子夫婦が、饅頭とか甘いモンを食べさせてくれんのよ」
「そらそうじゃろ、糖尿じゃモン。Bさんのために、心を鬼にして」

「心を鬼にして、机の上に饅頭を5個も置くか?ワシ以外、誰もオランで留守じゃのに。
 甘納豆を皿にこんもり、ワシの見えるところへ放っておくか?留守番がワシやのに」
「訓練とちゃいますか、それか愛の試練。Bさんのために、心を鬼にして」

「それに果物も出してくれんようになったんじゃ、この間から」
「そらそう、Bさんの腎臓が弱ってきて、カリウムっちゅー成分が上がってきたんよ。
 んで、生野菜とか果物はアカンのよ。Bさんのために、心を鬼にしてるワケよ」

「もう88じゃで。食べたいモン食べられれば、いつ死んでもエエと思っとる。
 こんなばあさんに気遣い無用、心は仏さんでエエ。鬼は要らん」
「じゃあ、年末の誕生日は盛大にケーキ丸ごと行っちゃうゾ!みたいな」

「そらそ。ケーキいただくまで、死ねんなー」
「じゃあ、再来年の誕生日はケーキに饅頭3個トッピングか?」
「こら、当分死ねんわな。困ったー、んでも帰りたくないー、悩むウー」

 Bバッちゃんのバトルは、当分続くらしい。

第607話 医師虐待マニュアル

「センセ、つかぬ事をお聞きしますが」
「お聞きされちゃいますよ。ワシが、落とし穴に落としたいヤツとか?」
「ちょっと恐いけど、聞きたい・・・んじゃなくて。今日、当直でしょ?」

「その点に関しては、個人情報言いたくない条例で」
「あたしは当直じゃありませんけど」
「あ、じゃああ。ワシ、今日だけは当直です」

「意味ワカランッ!ところで、センセは看護婦に酷いですか?」
「酷くないとも、酷いとも。個人情報・・・」
「今夜の夜勤が、新人なんですけど・・・」

「あ、大丈夫。新人には全力で優しいから」
「古手にも、その優しさを分けて・・・」
「分けたくないッ!更にハゲシク、スンゲー過酷に」

「ダメですよ、スタッフ虐待は」
「そんなことが出来る医者は・・・ワシは外して、誰?」
「Pセンセはマジメだから、キレないし。Rセンセも、Qセンセも、Zセンセも」

「残ったのは、ワシだけやないかッ!」
「そういう言い方もある」
「それしかないッ!」

「おろ、センセ。暴れん坊放尿でもされましたか?」
「な、なんでや?」
「5分前と、ズボンも靴も違うから」

「気分転換ってやつよ、キムタク似としては」
「あたしの許し無く、キムタク様に勝手に似ないでくださいませ」
「違うんよねー。団扇と言うか、扇風機というか。んーと、んーと」

「言いたいのはセンスでしょッ、ホントに疲れるわ。合わせるの」
「んで、虐待防止委員会は誰が委員長になったんね?」
「あ、それ。あたしでーす。いま、マニュアル作りしてますウ」

「ワシも独断で、虐待防止委員会を作ったんよ」
「2つもイランでしょ」
「日本初。イヤ、世界初かもオ」

「あたし達のは、看護介護スタッフのための虐待防止マニュアルですけど」
「それだけじゃ、片手落ちやろ?」
「んじゃ、どんな?」

「看護介護スタッフ専用の医師に対する虐待防止マニュアルは、何処にあるんや」
「何処って、端から有りませんよ。んな、無駄なモン」
「それじゃあ、凄ーく?超?寂しかろ」

「凄ーくでも、超でもありません。ゼンゼン寂しくないッ!無くて嬉しいッ」
「MIHIセンセ虐待マニュアルを作ろっと、ついでにMIHIセンセ撃退マニュアルとか?」
「そうそう、それしかない。エエぞ、エエぞ」割って入ったナースマンK君。

 有象無象が意気投合して色んな虐待関係マニュアルが出来そうな、午後。

第606話 病棟で賺(すか)す(1)

「賺す」にはいくつか使い方があるらしい。
<機嫌をとって、こちらの言うことを聞き入れるようにさせる>

「んだからア、止めて下さいよ。ああ言うの」
「ナニがどうした?どうする?どうしろ?どうしない?」
「病棟に入ってきて、ステーションの前を通ったでしょ」

「んじゃ、ナニか。ほふく前進で、ラウンドしろってか!」
「んなアホなこと言いませんよ、んでも試しに?んじゃのーて、指ッ!鼻ッ!」
「ウインナのような指、丸っとして脂ぎった可愛いお鼻ちゃん」

「事もあろうに、好き勝手。言いたい放題、雨あられ」
「何処が美形、何処が美肌、何処が、んーと…」
「ハイハイ。形じゃ無くて、使い方ッ!」

「指は、キーボード打つ時プチ・タッチタイピング。鼻は、春ズルズル。
 多少ナン有りで使ってますけど、よろしかったでしょうかア」
「ステーションのガラス越しに、センセ。ナニしました?」

「記憶に無いけど、人差し指突っ込んでベロ出したくらいしか覚えてない」
「それだけ覚えていたら、十分ですッ!」
「あ、あれはロシア…イヤ、ドイツ…イヤイヤ、ネアンデルタールの褒め仕草」

「なんでそんなこと、センセが知ってるんですウ。もしかして、ネアンデルタール人?
 んで、その褒め仕草の意味は?」
「イヤイヤ、アンタはスリムじゃねー。素麺を縦に食べてんじゃろ、みたいな」

「ま、そう言われると悪い気はしないけど。よく言われるのが、7.5頭身ねッて」
「まだまだ、13頭身やろ」
「それ程背も無いし、足も長くは」

「逆にイ、頭がスンゲー小さくて。脳味噌5gみたいな頭蓋骨、結果13頭身みたいな」
「んじゃナンですか。あたしは、微脳だっつーワケですね」
「有るだけ良いッ!ちょっと褒めすぎ?んじゃ、明日採血ね。これだけ褒めちゃ嫌とは」

 必要以上にすかしてしまった、午後。

病棟で賺(すか)す(2)
「賺す」にはいくつか使い方があるらしい。
<言いくるめて、騙す>

「モーニン」
「あ。おは、ざいまーす。いつもと格好が違うけど、センセでしたんですね」
「あ、一応センセやってます」

「町で出会ったら、センセはワカランです。もし挨拶せんじゃったら、スイマセンね」
「イヤイヤ、貴方も。マスクとキャップで目しか見えんから」
「あ、チューボーはこれじゃ無いと」

「ですよねー、スッピンじゃねー」
「あ、そう言う意味じゃ無くて」
「どの様な意味で?」

「ま、確かに。お化粧してたら、食べ物に臭いがつくかも」
「湿気と温度が高いから、汗かいて。ビッチャビチャ、ボッタボタ。
 結果、味噌汁の塩気はたっぷり8g。塩辛いのなんのって」

「センセほど汗かきじゃないから、5gでオネガイします」
「んじゃ、間を取って7.8gになりましたけど」
「ビミョーな塩加減ですね、マニアックう」

「ま、貴方はカリスマ・チューボー師っつーことですね」
「ナンか、凄く嬉しいような、もしかして褒められてないような」
「イヤイヤ、べたべた褒めですよー。んーもー、最高ッ!」

 町で出会った時に目出し帽でもちゃんと挨拶できそうな、午後。

病棟で賺(すか)す(3)
「賺す」にはいくつか使い方があるらしい。
<相手をその気にさせる>

「Pさん、モーニン。回診やでー、来たでー」
「あ、センセ。ざいまーす」
「いつもながら、簡潔明瞭手抜きのご挨拶。痛み入りまする」

「センセこそ、メタボ腹が2cm引っ込んで。足取り軽く、今のはスキップじゃ?」
「ムーン・スキップ・キンちゃん走りって、知ってる?あ、知らん」
「いま体を拭いてるんですけど、空いてる部分を診察されます?」

「んじゃ、M君が足を拭いてる時にワシは胸とお腹行っちゃうかんね」
「3分17秒で上半身行っちゃいますから」
「んじゃ、M君が胸拭いてる時にワシが背中を聴診するかんね」

「センセ、それっておかしくない(語尾上げで)」
「ゼンゼン、皆目おかしくない(語尾下げで)」
「だってエー」

「ただのアフリカンジョークよ、君があんまりかっこいいから。つい」
「またまたアー」
「皆まで言うな、分かってるって。へその栗、隠し場所」

「はあ?ナンで??」
「それも、南米ジョークさ。あんたが、あんまりスタイルがエエから」
「またまたアー」

「Pさん綺麗になったね、石けんの良い香り。おろ?右小指の爪の中、ゴミが」
「あー、気がつきませんで。流石、インネンフリークMIHIセンセ」
「またまたアー、そんなに誉めちゃ。イヤよイヤよも、OKのウチ」

「OKッ!ニューイヤー牧場なんてネ。ワイハ・ジョークで、ご返杯っと」
「左の耳の後ろなんか、綺麗にしちゃうと絶好調ウー。みたいな。
 ワシがそんな細かいことに気づくのも、イケメンあんたがなせる技」
「またまたアー。ドライシャンプーですかね−、あとは」

 ハイになってすかしまくった、朝。

第605話 桜吹雪の訪問診療

「おろろ、センセッ。聞き及びます所、3月から半袖とか」ナースK。
「見せられるだけで寒気がするわ。センセはヌーディスト?サディスト?」介護士U。
「こんな可愛い、なんたらディストが居るかッ!居ったら見せてみい」

「ハイハイ。鏡、鏡」
「さてと、おアホを相手にしてないで行ってこ」
「あ、今日はお花見ですか?車で、S婦長さんと」

「別名、春の訪問診療と言う」
「エエですねー、満開で」
「おアホ言わないで。酒無し、美人の酌無し、幕の内弁当無し。ナイナイづくし」

「ごじゃごじゃ言わずに、とっとと行ってらっしゃいませ」
「ふぁーい」
 中古往診カーはプルプル・エンジン音、よたよた桜並木に沿う土手を走る。

「あららー、花見してるじゃん。ちょっとだけ、混じったらダメ?」
「ダーメ」
「酒飲みてエー。あ、ダメね。禁酒しとるし」

「後ろに積んだ経管栄養バッグが、生ビールじゃったらなー。ウウ、喉が鳴るなー」
「なんなら、1本。グイッと行っちゃいますか?」

「そんなモン、行っちゃいません」
「喉が渇いたなー、ここでビールクイクイ行ったら天国やろなー。禁酒中じゃけど」
「川の水でも飲んだらどうです?なんか泡立ってるし」

「ここの川の水飲んで、天国へ行けるか?」
「センセなら、地獄に行けますわよ」
「帰ろ、帰って酒飲も」

「まだ1軒も行ってないのに?ガソリン代も、あたしの日当も稼いでないのに?」
「なんか、婦長さんに事務長さんが乗り移った?」
「止めて下さいよ、冗談でも」

「もしかしてこれ運転してんのは、婦長さんの皮をかぶった事務長さんだったりして」
「キャー、止めてエ」
「キャー、やっぱ酒飲みてエー。桜吹雪イ、キャー」

 黄色い声やテナーの声(ボクです)キャーキャーの、訪問診療車。

第604話 新人の季節

 新年度とともに、大学医局じゃない限り医者以外のスタッフ・ローテーション。
婦長や主任クラスでも例外なく移動し、移動時期に緊張していないのは医者だけ。

「あんた、こんなとこでナニしてんの?」
「あ、センセ。今日から、新人でーす」
「しんじんとは、新しいジンベイザメか?」

「スイスイ泳いで、センセのお尻をカプッ。臭っさー、みたいな」
「あんた、ちょっと見ない間に腕上げたなー」
「あれだけセンセに鍛えられたら、腕も足もグイグイ上がります」

「んで。あれ、誰?」
「あれは、ホントの新人」
「やっぱねー、中古の新人とエライ違いじゃ。初々しいね−、若さが触れてるね−。
 一応ワシのこと、紹介する気になるやろ」

「仕事に差し支えちゃいけないから、紹介だけなら」
「酒を注げとか、肩をもめとか。逆立ちで、腹踊りしなさいってんじゃねーんだから。
 フツーに、紹介してね。賞賛の嵐吹きまくりで、オネガイします」

「フツー以外はありませんッ!んで、こちらが卒業したばかりのGさんです」
「お早うございます、よろしくお願いします。Gですウ」
「そうなんよ。1ヶ月もすると、出勤したバッかなのにお疲れ様アー。なんてな」

「ハイ、朝は疲れていません」
「あれはアカンよ。朝から疲れてるヤツは、夜勤か盗人。とっても気をつけるように」
「ハイ、とっても気をつけます」

「エエなー、爽やかだなー。んで3年もすると、んなアホなっ!突っ込むようになる」
「ハイ、突っ込みます」
「イヤ。無理に突っ込まなくてエエ。突っ込みなら、この主任さんに教わりなさい」

「ハイ、教わります」
「エエなー、素直で。どっかの主任とは大違い、ブタのしっぽと糸みみず」
「Gさん、このセンセの話はゼーンブその1%で聞きなさいね」

「1%ですか!」
「3%でもエエよ、関係ないけど今日は4月1日じゃし。しかし、新人教育も大変だ」
「このセンセは、4月1日だけじゃなく。年中フールだから、心して」

「ハイ、心します」
「あのね、そこまで素直じゃなくても・・・」
 年中フールって英語でオールイヤー・フール?なんて悩む、午後。


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