美和さんの作品 土筆摘み夫はどこまで行ったやら

 今年は、極端に花粉の飛散が多いのだという。
私は子供の頃から花粉症だった。後に判明するのだが、その頃花粉症という病名は無かった。春になると洟が出て、目がかゆくなる。目をこするから目はいつも腫れあがる。母には汚い手でこするからと叱られ、ホウ酸のぬるま湯で、目を洗っていた。5月の連休の頃になると、すっきりと目の大きい少女に戻って、活気を取り戻したものだ。うっとうしい季節と、さわやかな季節を感じながら、この春66歳になる。
 今は花粉の季節、うっとうしい季節である。夫も、いつの間にか花粉症の仲間入りをし、顔中がかゆいと言いながら、蕗の薹や土筆を追って川土手などを散歩する。夫の摘んできた土筆の袴を向き合ってとりながら、いつもの春を楽しんでいる。大病をした夫婦の命には限りがあり、自分が若いというおごった気持ちもない。これは、紛れもないじじばばの季節、心豊かに生きたいものだ。
とんぼつりきょうはどこまでいったやら(加賀の千代女)の句である。
 千代女は、子供を亡くした後この句を作ったと記憶している。
 幼い子を亡くした母の句であるが、突き抜けたすがしさを感じる。自分たちが60半ばまで生きて、千代女ほどの悲しみを味わうこともなく、幸せなものだったと言える。最晩年のこれからの日々、大切に生きたいものだ。    (2005.3.)

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