能装束 紅萌葱地山道菊桐文片身替唐織


この能装束は、毛利輝元が豊臣秀吉から与えられたものと伝えられている。身丈145.0cm、裄61.0cm、袷(あわせ)仕立である。紅と萌葱(もえぎ)染めの三枚綾地を、山形を横に連ねた(稲妻形の)地文様として織り、片身は紅色を多く出し、片身は萌葱色を多くして、片身替(かたみがわり)としている。上文として菊文と桐文をすえ、菊文は紅・白・藍・萌葱・紫・鉄色にかえて変化をもたせ、桐文もまたひとつの文のうちに白・紅・董(すみれ)・縹(はなだ)と部分的に色を変えている。幾何的な稲妻の曲折は奔放な流れを感じさせ、規則的な菊桐文の配置は奔放さをおさえる役割をはたしている。黄色の多用と山形によって、この唐織には個性の強い性格の女性をあらわそうとする意図がうかがえる。裏には紅平絹をもちい、後身裾隅に黒印がある。
唐織とは本来は、中国から渡来した綾織物の総称であったが、やがて経(たて)に生糸を用い、地緯糸(じよこいと)を三枚綾に織り込み、その間に各種の絵緯糸(えぬきいと)を刺繍のように浮かせて花鳥・菱花などの文様をあらわした絹織物のことをさすようになったという。唐織で作った能装束は、主として女役が表着に用いる小袖形の詰袖の装束であるが、男役であっても、若い公達などの衣装に用いることがある。能装束の中ではもっとも華麗なものであるが、この唐織は、なかでも桃山時代の華麗な唐織の姿を現在によく留めた逸品である。