弁別特徴(その3)


  [ヤコブソンの弁別特徴](後編)

7)集約性-拡散性
 集約性は、音響面からはフォルマントが分散せずに一定範囲に集中すること、拡散性はその逆として定義される。調音面からは、声道における狭めの前方の共鳴腔の容積が、後方のそれに対して大きいのが集約性、小さいのが拡散性とされている。
 一見別々の素性を強引に一つの素性の対立にまとめてしまい、数少ない素性で普遍的記述を行おうとするのが、ヤコブソンの理論の特徴であり、難点でもある。

8)低音調性-高音調性
 音響面から、スペクトル(周波数分布)が下(比較的低い周波数)に集まるものを低音調、上(高)も集まるものを高音調性とする。調音的には、口腔での閉鎖・狭窄が端の方にあれば低音調、中央寄りであれば高音調となる。

9)変音調性-常音調性
 音響的にはフォルマントの下降として、調音的には唇のまるめと狭め、または咽頭化(咽頭壁への舌根の接近による狭め)として定義される。

10)嬰音調性-常音調性
 音響的には、フォルマントの上昇として、調音的には、(硬)口蓋化として定義される。

11)緊張性-弛緩性
 調音的には、緊張性音素の方が弛緩性音素より明確かつ強い圧力をもって調音され、声道が中性位置からはずれる度合いが大きく、その持続も長いとされる。音響的には、音の定常部分の持続が長く、スペクトル上の共鳴部分の境界が明確であることとされるが、この音響的定義には無理がある。

12)鼻音性-口音性
 音響的には、特徴的なフォルマントの出現の有無と、それに伴うほかのフォルマントの減衰の有無として、調音的には、軟口蓋が下がって鼻腔が共鳴器として利用されるか否か、として定義される素性で、母音にも子音にも適用される。



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