◆菜香亭と秋田フキ

 現菜香亭の庭のひと隅に秋田フキの数株がある。これは移築以前の八坂神社近くにあった旧亭時代、150畳大広間の東側に沿った庭に菜香亭と縁つづきだった秋田の旧家から移植されたもので、茎の長さが2メートル、葉の幅は1メートルに及び山口ではめずらしく、大広間に来席した人たちの目を楽しませていたが現在地に移動後秋田フキも移植された。
 秋田フキは大型のフキとしては全国的に知られており、北海道、東北の秋田、岩手に自生する寒冷地特有型で、葉柄の空洞も大きく砂糖漬などに加工され明治15年頃から土産として知られてきた。
 江戸中期の「和漢三才図絵」に「津軽のフキは肥大にして茎のまわり四、五寸、葉の経三尺余もあり以て傘に代えて雨を防ぐのが南方の人これを信ぜす」とあり、明治初期から秋田の仁井田地方を中心として盛んに栽培されるようになり、有名な秋田音頭「秋田の国では雨が降っても傘などいらぬ」の一節まであるほど。
 フキは他の野菜にくらべて野生種だけにきわめて少ない。地下茎による繁殖を生とする自然派である。
 秋田フキ以外のフキ主産地は愛知、京都、奈良、岡山、香川、徳島、埼玉、群馬などだが山口県は栽培が少ないらしい。
 フキは栽培の歴史がもっとも古く、利用範囲も広く長い。フキはキク科の多年草で、アスパラガスと同様に地下茎を伸ばして育つのだが繁殖力は旺盛という。
 ところで、菜香亭の秋田フキは料理に使用されたのではなく、あくまで観賞用として庭に
育成されてきたし、これからも伝承的に秋田フキを見守りたい。
 
     蕗のとう足もとにひとつ    山頭火


(掲載)