◆菜香亭とフキノトウ

 フキノトウはキク科の多年草であり、早春を迎えると若い芽の薄いみどりの穂先が目立つようになり、食べると少し苦味はあるが季節的な香りをたのしむ山菜である。
 現在の菜香亭の北庭の一角に移植された若い秋田ブキの芽が出てきた。
 移築以前、八坂神社近くにあった旧菜香亭の150畳敷大広間に面した庭一面は茎長2メートルを超える大型秋田ブキが葉を一面にひろげており春から夏にかけて訪問客達をおどろかせていた。
 昔から春の料理には苦味を盛れということばもある。春は冬の間から夏の暑さに対抗する体力維持の季節である。その点で苦味を持つフキノトウは塩分や脂肪を緩和するので、生のままか天ぷらにするのが最高でありミソ汁にそのまま刻んで散らすのも良い。
 ことしの2月、東京バベル出版社から、往年の植物学の泰斗牧野富太郎博士の大正時代の名著「植物記」正・続2巻が復刊された。
 その一節に日本植物の誇り秋田ブキ≠ェある。
=2百年前にも寺島良安の和漢三才図会に「奥州津軽産の秋田ブキは肥大にしてクキの周囲四、五寸。葉の広さ三、四尺。傘にして雨を防ぐ」とありさらに「秋田ブキは東北から北海道にかけて生ずるが、なお北上して樺太にも産する。このフキは南から北へ行くほど大きくなる。秋田ではその太い葉柄を砂糖漬の菓子として売つており、またフキ摺りと呼び葉面を布地又は絹地に刷っている」と書かれている。

     草の戸に春は来にけりふきのとう   一茶

 この句には草深い雪国でフキノトウの芽ばえを喜ぶ心にあふれている。
 信州ではフキボコと呼ぶ。


(平成27年3月31日発行第36号掲載)