20 Years After

 

 

 

ベルン王ゼフィールの死によって、エレブ大陸を揺るがす戦争は終わりを迎えた。

「かんぱ〜い!!

エトルリアの辺境の小さな村の居酒屋で、世界の平和を祝し、村の大人たちが宴を開き、
大いに盛り上がっていた。今までの苦しみから解放されたのだ、当然といえば当然の盛り上がりようだった。
しかし、一人浮かない顔をしている男がそこにいた。

「なんだよ、ヒースの旦那、もっと飲みなよ!!

ヒースの握っているジョッキには、ビールがあふれるくらいに注がれていた。一口も飲んでいないようだ。

「今日は全部ただだぞ?」

「ああ…そうだな…」

ヒースは席を立ち、店を出ようとした。

「どこ行くんだよ?」

「ちょっと…外へ…」

ヒースは店を出た。

「なんだ…平和になったってのになんであんな顔…?」

それを見届けた酒屋の主人が、不満げな顔をして言った。  

 

空は雲ひとつ無かった。平和にふさわしい、快晴。
ヒースの心は、今にも雨が降りそうな、曇り。

「喜べるわけ無いだろ…」

ヒースは、村の真ん中に立っている大きな木の根元に座った。
そして、子供のようにひざを抱え、空をボーっと眺めた。

「あなた…」

後ろから女性の声が聞こえた。
彼の妻の声だ。心配して、来てくれたのだろう。

「プリシラか…」
「みんな、心配していましたよ…」

プリシラはヒースの隣に座った。

「戻れよ…」
「いいえ…あなたが戻るまで戻りません」

戻れるわけが無い。ヒースは顔を背けた。

「あなたが、彼らに混じって喜べるわけが無いのは…わかっています」

村の者で、ヒースがベルンの人間だったこと、ヒースがどんな気持ちでいるかを知る者はいない。
ただ一人を除いて。

「…あなたは…一度はベルンに忠誠を誓った騎士だもの…」

一度は忠誠を誓った人物の死を、それが世界の平和に結びついているとは言え、喜べるわけが無い。
プリシラは、それをわかっていた。
ヒースの心に、雨が降った。

「ああ…もう…こんな歳になって泣くなんて…」

ヒースは涙がこぼれないように、必死で涙をぬぐった。ぬぐってもぬぐっても。涙は止まらない。
泣いて、死んだ人間がよみがえるわけが無い。

「…う…」

しかし、彼には泣くことしかできなかった。

「…うあぁ…ううっ…」

プリシラはヒースを自分の胸まで寄せ、抱きしめた。
今のプリシラには、これしかできないと思ったからだ。

「…ゼ…フィール…王…子…あんな優しかった…のに…どうして…戦争なんか…」

 

 

「ヒースの旦那!!

暫くすると、二人は居酒屋に戻った。
いつもなら酔いつぶれている若者や女性がいてもおかしくないのに、
ヒースが出てった時と大して変わりは無かった。

「大丈夫か?具合悪かったのか?俺の息が臭かったのか?」

主人が駆け寄って、心配そうに言った。

「心配掛けさせてしまって申し訳ありません…それに…せっかく宴なのに場を盛り下げてしまって」

「ああ…まあ…」

ヒースは、何となく盛り上がれない主人のジョッキにビールを注いだ。

「さ、どうぞ飲んで盛り上げてください」

「…そう…だな!!ヒースの旦那が元気になったんだ!!飲むぞ!!

場が再び盛り上がった。それをみて、ヒースは一安心した。

「さ、プリシラも飲もうか」

「ええ…」

ヒースは無理して元気そうに振舞っているのではないかと、プリシラはいまだに心配そうな顔をしていた。

「もう、大丈夫だっていったろ?いつまでもうじうじしていたって…時は戻らないんだからさ…」

「そうね…」

二人はもとの席に座り、お互いのジョッキにビールを注いだ。そして、小さく乾杯をし、飲んだ。

「…プリシラがいて…良かった」

「え?」

「あの時…後押しが無かったら…プリシラを迎えに行かなければ、俺は独りで泣いていたかも知れなかったからさ…」

 

END

 

*甲斐さんのコメント*

小説でははじめまして。甲斐秀麗です。
ヒープリハッピーエンド前提の
20年後(封印の剣後)のお話です!
ヒープリハッピーエンド前提の20年後(封印の剣後)のお話です!!
ヒープリハッピーエンド前提n(すみません、うるさいですね)
「烈火のベルン陣が万が一20年後も生きてたらどうなんだろうねぇ…」と思って書いたお話ですが、「どうせ書くなら…」ということでヒープリハッピーエンドz(すみません、しつこいですね)
オチが微妙ですみません…