Knight




彼は戦いが終わってもベルンに戻ることは無かった。

“凶星は、ベルンの地より来るだろう・・・”

大賢者の最後の予言を聞いた時、祖国に帰る気持ちは消え失せてしまった。

軍事大国・ベルンが狙うであろう国として真っ先に浮かんだのはエトルリア。

変えられない運命なら自分ひとりの生命でもエトルリアに住む一人の人間でも守
れたら、と思った。

いや……エトルリア、と言うよりその地で生活する彼女を守りたい、と思っていた。


……別れの朝。
時が流れて逃亡兵でしかない自分のことが思い出の存在になるよう、という願い
あの日、祖国を信念の元に裏切った自分を“騎士”に戻る為、たった一度だけ強
く抱き締めた。

「必ず迎えに行くから」
なんて、叶えられるはずのない嘘をついて。
暖かい“光”の中で生きる彼女を“陰”に引き込まない為の、嘘。
そして“陰”の中で生き、守ることの誓い。

最後に残るのは笑顔・ぬくもり・涙……そして

「待っています」

掠れた声で呟いたすべてがヒースの心に3年経った今も残っていた。

ヒースを取り巻く環境も、世界の情勢も変わった。
あの戦いを知る仲間の現状も戦いの中で再会した隊長の噂も聞かなくなり、
ヒースと行動を共にする仲間は竜の翼を持つものばかりでは無くなった。

いつしか彼も「ベルンの逃亡兵」という呼び名で呼ぶ者は無くなり
その信念から「エトルリアの自由騎士」と呼ばれ、賛同者が集まり……
エトルリアの“騎士”となった彼のすべてのことが変わっていった。

なのに……彼女のことだけは忘れようにも忘れられなくなっていた。


全てが変わったのはある日のこと。

懐かしい顔が突然ヒースの前に現れた。
彼は彼女の誕生日パーティを狙って襲撃を目論む賊の存在を伝えると
また疾風のように去って行った。

あの日の全ての想いを後悔に変えるのには充分だった。

しかし……

“まだ終わっちゃいない”

そう、まだ全てが終わったわけではない。

未来は変えられる、いや変えてみせる。

……変えなければ。

その想いと共に竜と彼に賛同する“騎士団”は戦いに向かった。

…………しかし彼はもう“騎士”ではない。

ひとりの女性に恋をしたただの男。


<fin>

 



ミディアさんのコメント

初めまして、「ヒープリ好きさんに50の質問」の作者・ミディアです。
どうしてもあのEDに納得がいかずに質問を作った後に書いたものです。
ヒープリ再会シーン、その一って感じです。
ちなみにヒースの支援会話状態はプリシラA、ラガルトBって感じですね。