距離

 



「この町でいいのかしら……」
見覚えのある姿だ、と思った瞬間ヒースは若き軍師の名前を大声で呼んでいた。
「リア殿!?お久しぶりです!」と。

「ヒース様!お久しぶりです」
それはあの戦いからニ・三年は過ぎたある日のことだった。
「リア殿はどうしてこちらへ?確かフェレに戻ったのでは……」
「ええ、今回は父の仕事の付き合いでこちらの方に寄ったので伺ったのです」
その言葉で納得した。
彼女は元々貴族の出身でこのエトルリアに勉強留学していた、と言っていたこと
がある。

「そして、貴方にお会いする為でもあります」
「俺に?」
「ヒース殿、プリシラ様には……お会いになっていらっしゃらないのですか?」
プリシラ。その名前にヒースの笑顔が固まる。
しかし、リアは見抜いていたのか静かにその表情を見つめている。
「…………リア殿、俺は……」
「ベルンの逃亡兵です、彼女とは釣り合いません、と言いたいのでしょう」
「はい……」
彼女は話の展開を読んでいたように懐から汚れた紙を取り出す。
「ヴァイダ様からの、お手紙です……」
「!隊長…………」
リアから渡されたそれは手紙というよりも走り書きに近いものだった。
「隊長……」
そして、破れかけた紙と変色した血が短い言葉のもっと奥のものを教えていた。

「ヴァイダ様は、ベルンと同じぐらいヒース殿のことを気に掛けていらっしゃいました」
最期までずっと、と言いにくそうにリアが呟いた。
「隊長……」
泣きそうになるのをぐっと堪えるが、やはり耐えられず幾粒もの涙が零れ落ちる。
「私はこれからカルレオン伯爵の方に呼ばれております。
あなたが、プリシラ様の幸せを本気で望むなら…………
……そして、ヴァイダ様の思いに応えるつもりなら行きましょう」
「リ、リア殿…………」
これはヴァイダ様の気持ちです、と言いにくそうにしながらも確かにそう言った。
ここまで言う人だったか?と驚いているとリアは畳み掛けるように叫ぶように言う。

「あなたは、騎士でしょう!?
国こそ追われたけれどそのこころは騎士そのものだと思っています、
ならば本気で守りたいものはその命をかけて守りなさい!
それとも何ですか?ここの人々の生活・生命は守れて一番大切な人の笑顔を守れなくて
騎士だと言えるの!?」
その言葉にハッとなる。
その言葉は……戦いが終わり、別れの時に確か言った言葉。

彼女とのやり取りを知るヴァイダ隊長は呆れたように俺に言った
「ヒース、女一人を幸せに出来ずに騎士って言えるのかい?
あたしの部下ではないよ」
「た、隊長……」
的を得ていて何もいえない俺に隊長はいつものように颯爽とアンブリエルに乗ると
「ヒース、あんたは幸せになりな」と笑って去って行った……。

「リア殿……俺は…………」
行きましょう、と真っすぐに若き軍師を見つめた瞬間、彼女が満面の笑みを見せた。
「行きましょう、ヒース様!!」


「リア」
その声に振り返った女性がひとつの戦いで伝説となった軍師、と知る者は何人居
るだろう?
「どうした?」
「何でもないわ」
女性は戦いで知り合った戦士と結ばれた。
貴族の身分を捨て、静かに暮らしている日々を送っている。

リアの視線の先には幼い子供を片手に抱きかかえた新緑色の髪の青年と
ようやく歩けるようになった子供の手を引き穏やかな笑みを浮かべる赤い髪の女
性の姿。
それを見てあの時、自分がしたことは間違いでなかったことを確信しふっと笑み
を浮かべた。
「さて、行きましょうか」
夫の腕に手を回し一度だけ振り返ると幸せに、とリアは呟くと4人に背中を向けた。

fin.


*ミディアさんのコメント*

自分の描くヒープリED「ヴァイダ隊長の後押しで結ばれる」
……戦いで使わなかった(失礼な)けど、かなりカッコいい隊長です。
ヒースって親しい人間の後押しが無ければ動かなそう……。
リアはプリシラと同い年ぐらいのオリジナル軍師です。